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2012年10月24日水曜日

書評 『空洞化のウソ-日本企業の「現地化」戦略-』(松島大輔、講談社現代新書、2012)-いわば「迂回ルート」による国富論。マクロ的にはただしい議論だが個別企業にとっては異なる対応が必要だ



日本国内の製造業の収縮と工場の海外移転は、今後さらに進むということを前提にしなくてはならない。おそらく、多くの人がこのような考えをもっていることと思う。

こういう前提にたつと、では国内雇用をどうするのかという議論が間違いなく起こってくるものだ。

工場の海外移転には断固反対し、国内雇用を死守せよという議論はさておき、たとえば経済学者の野口悠紀雄教授のように、日本経済の基本的な構造を変え、産業構造の基本を変え、新しい産業を育成することによってしか対応できないという論点もまた、じつは実効性に乏しいのではないかという感想を抱いている人も少なくないのではないだろうか。

改革というものは、内部にいるものがいくらがんばっても挫折することが多い。内側からの動きと外からの動きがうまく呼応してかみあったときに実現するものだ。

その意味では、本書の著者・松島大輔氏のような論点はひじょうに重要であることがわかる。帯にかかれた「国内で生き残るために新興アジアへ!」というコピーは、ややアジテーション的な響きがあるものの、あながち間違いではないことが、本書を通読すれば理解されることと思う。

日本の製造業が、東南アジア、とくにタイにおける産業集積を基盤に、さらにインドまで進出することによって、日本のつよみである「すりあわせ型ものづくり」を中心とした、新興アジア圏とでもいうべき広域な製造業地帯が実現していく。

日本企業は新興アジア圏に積極的にコミットすることによって、地域全体の繁栄に貢献し、そこで得た利益を日本国内に還元することによって日本そのものの経済的底上げも実現するという資金環流モデルである。

いわば「迂回ルート」による国富論といってもいいかもしれない。じっさい、日本はすでに貿易収支よりも在外資産からの資本収支のほうが上回っているストック経済の国である。そしてその在外資産の中心をなすのが、事業への投資である海外直接投資(FDI)の累積である。

東南アジアでビジネス活動に従事している立場からみれば、あまりにも楽観的なマクロの話という印象がなくもないが、すくなくとも野口悠紀雄教授が主張してきたような、日本国内でITや金融で高度サービス業を育成するという議論よりもはるかに現実的である、といっていいのではないかと思う。

本書における IT や金融の位置づけは、あくまでも製造業を側面支援するというものである。これは、敗戦後日本において経済を世界レベルにしたモデルであり、この成功をモデルを日本国内ではなく、まだまだ成長余力の大きい「新興アジア」全域で実行しようというわけだ。

「モジュール型」が中心の中国とは異なり、「すりあわせ型」が得意な日本企業のつよみを活かそうという戦略構想であり、その点からいっても実現性が高い。もっとも、「すりあわせ型」といっても、純粋な「すりあわせ型」はありえないので、「ハイブリッド型」というべきだろう。

製造業にとってはもちろん、サービス業にも「新興アジア」にチャンスがあるというのはその通りであり、わたしも異論はない。ただし、マクロ的にみれば「空洞化はウソ」であるが、ミクロの対応は千差万別だ。一般論と個別論は明確に区別する必要がある。

経済済産業省に本籍をもち、現在はタイ王国政府政策顧問として出向中というい著者の立ち位置はアタマのなかに入れておく必要がある。所属する機関の見解ではないという留保つきだとしても、その点は、割り引いて読むことが必要だろう。あくまでも「水先案内人」というアドバイザーであって、当事者として現地経営の現場で汗をかいている人ではないからだ。

しかも、「王道楽土」などという無邪気な表現には「あやうさ」を感じるのは、わたしだけではないかもしれない。かつて満洲開拓移民をあおったスローガンであることを想起するからだ。そこらへんは、ちょっと脇が甘いような印象を受ける。

とはいえ、新興アジアにはビジネスチャンスがまだまだある「ブルーオーシャン」であることは間違いない。この本は、チャンスについてのみ語った本なのである。

チャンスがあれば当然のことながらリスクがある。チャンスとリスクは裏腹の関係だ。リスクがあるからこそリターンがあるのだ。

だから、個別企業の立場からは、当然のことながらリスクは徹底的に洗い出したうえで、リスクを「想定内」にしたうえで成功への道をつかんでほしいと思う。

チャンスを活かしきれるかどうかは、あくまでも個別企業と一人一人のビジネスパーソンのマインドとアクションにかかっているからだ。






目 次

はじめに

第1章 「空洞化」を怯えてはいけない
 1 未来が空洞化するとき-「空洞化」はほんとうに起こっているのか?
 2 海外で稼いだお金は日本国内に還流しない?
 3 日本企業の海外進出が技術水準を低下させる?
 4 日本企業の海外進出で国内雇用は減る?
 5 「空洞化」論が招く未来の空洞化

第2章 「新興アジア」における「現地化」のススメ
 1 「新興アジア」で進行していること-日本経済との対比で
 2 「新興アジア」のほんとうの意味
 3 「新興アジア」各国の日本企業誘致合戦
 4 ルール作りゲーム-「賭金」としての日本企業
 5 日本企業の「新興アジア」における「現地化」の意義-モノ(企業)の「現地化」
 6 ひきこもる日本企業
 7 和僑のススメ-ヒトの「現地化」
 8 日本型「投資立国」-カネの「現地化」

第3章 「新興アジア」を活用した日本改造
 1 日本というシステムの課題
 2 「新興アジア」戦線で露呈する日本の課題
 3 「作れるもの」から「欲しいもの」へ
 4 「日本入ってる」で「新興アジア」をめざせ
 5 「新興アジア」が日本を変える
 6 日本に錦を飾る出世魚中小企業-下請構造からの卒業
 7 日本のアジア化とアジアの日本化

おわりに


著者プロフィール

松島大輔(まつしま・だいすけ)
1973年金沢市生まれ。東京大学経済学部卒業、ハーバード大学大学院修了(修士)。通商産業省入省後、2006年から4年近くインドに駐在し、インド経済の勃興と日本企業のインド進出を支援。DMIC構想やインドのチェンナイ、グジャラートの他、タイ、ミャンマーなどで数々のプロジェクトの立ち上げと推進を通じ、アジアにおける日本企業のビジネスを実地に見聞してきた。現在、タイ王国政府政策顧問として日本政府より国家経済社会開発委員会に出向(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<ブログ内関連記事>

『東南アジアを学ぼう「メコン圏」入門-』(柿崎一郎、ちくまプリマー新書、2011)で、メコン川流域5カ国のいまを陸路と水路を使って「虫の眼」でたどってみよう!
・・日本が推進する「東西回廊」と中国の南下ルートである「南北回廊」

書評 『戦いに終わりなし-最新アジアビジネス熱風録-』(江上 剛、文春文庫、2010)

東南アジア入門としての 『知らなくてもアジア-クイズで読む雑学・種本-』(アジアネットワーク、エヌエヌエー、2008)-「アジア」 とは 「東南アジア」 のことだ!

書評 『消費するアジア-新興国市場の可能性と不安-』(大泉啓一郎、中公新書、2011)-「新興国」を消費市場としてみる際には、国全体ではなく「メガ都市」と「メガリージョン」単位で見よ!

『ドキュメント アジアの道-物流最前線のヒト・モノ群像-』(エヌ・エヌ・エー ASEAN編集部編、エヌ・エヌ・エー、2008)で知る、アジアの物流現場の熱い息吹

書評 『中国は東アジアをどう変えるか-21世紀の新地域システム-』 (白石 隆 / ハウ・カロライン、中公新書、2012)-「アングロ・チャイニーズ」がスタンダードとなりつつあるという認識に注目!

書評 『ものつくり敗戦-「匠の呪縛」が日本を衰退させる-』(木村英紀、日経プレミアシリーズ、2009)

本の紹介 『シブすぎ技術に男泣き!-ものづくり日本の技術者を追ったコミックエッセイ-』(見ル野栄司、中経出版、2010)

書評 『中古家電からニッポンが見える Vietnam…China…Afganistan…Nigeria…Bolivia…』(小林 茂、亜紀書房、2010)

書評 『製造業が日本を滅ぼす-貿易赤字時代を生き抜く経済学-』(野口悠紀雄、ダイヤモンド社、2012)-円高とエネルギーコスト上昇がつづくかぎり製造業がとるべき方向は明らかだ




(2012年7月3日発売の拙著です)





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書評『製造業が日本を滅ぼす- 貿易赤字時代を生き抜く経済学』(野口悠紀雄、ダイヤモンド社、2012)-円高とエネルギーコスト上昇がつづくかぎり製造業がとるべき方向は明らかだ



「製造業が日本を滅ぼす」というのは、あまりにもセンセーショナルで売らんかなの印象がつよいが、これは出版社がつけたものであろう。

内容に即して、より正確にいえば以下のようになるだろう。

製造業そのものが悪いのではなく、製造業はビジネスモデルを変換して量産は円高でエネルギーコストの上昇が必至の日本国内ではなく、新興国とくにアジアで行うべき。

逆に、研究開発などの分野では円高メリットを利用して人材を海外から呼び寄せればいい。

日本のつよみは最終組立製品ではなく、製造機械や部品などの中間財である。B2C分野、つまりコンシューマー向けの最終製品では薄型テレビに端的にあらわれているように敗退が目立つが、B2Bの中間財(あるいは産業財)は低価格化の影響も受けにいだけでなく、日本企業に競争力があることは、一般人にはあまり知られていなくても、ビジネス関係者であれば「常識」である。

このように要約すれば、野口教授の論に異論をもつ人は、すくなくともビジネス関係者であれば、一般論としては少ないのではないかと思う。

全体的に、オンラインマガジンに連載された原稿をもとにしているので、単行本としてのまとまりに難がある。タイトルのセンセーショナルさとあいまって、まとまった読後感を残さないのであろう。

しかし、パーツごとの分析と提言の多くは、わたしは基本的に賛成である。

日本はすでに貿易収支よりも資本収支のほうが大きなストック経済。これについては、累積投資額としての在外ストックについて、細かくみてみたいものだ。どうしても年度別のフローの投資額が多い少ないという議論になりがちだが、資本ストックが生み出したリターンが日本国内に資本収支として環流してくるという視点が重要である。

円高は「円安」の構造調整なので今後も長くつづくという議論も、わたしは同感である。製造業は円高に加え、エネルギーコスト上昇を回避するため、生産コストの低いアジアに移転し、日本は円高メリットを利用して輸入すればいい。野口教授がいうように、エネルギーコストの安い地域で生産するメリットは大いに利用すべきである。

TPP がブロック経済であるとの指摘と、メリット・デメリットの指摘、および日本にとってのデメリットについての経済と政治の相克から描いた章は、示唆するものが大きい。アメリカの利益の代弁者のような印象を受ける野口悠紀雄氏だが、経済的な利益の観点から中国を締め出すようなかたちの TPP は良くないという論点が興味深い

たとえば、amazonレビューではボロクソに書かれてるが、大半は見当違いの批判であり一顧だにする必要もない。

ただし、野口悠紀雄教授の言うような、ITや金融分野の高度サービス業が、英語圏ではない日本で成立しうるのかは、わたしには判断しかねる。というよりも、いままでも実現していないので、今後もかなり困難なのではないかという気がしなくもない。

日本の現状から考えて、アメリカのようにグーグルやアマゾン、フェイスブックなどが誕生するとは考えにくい。雇用問題をどうするかについては現状分析はよいとしても、これといった解決策になっていないのは否定できない

そう思う人は、『空洞化のウソ-日本企業の「現地化」戦略-』(松島大輔、講談社現代新書、2012)を一緒に読んでみるといいだろう。






目 次

第1章 日本の輸出立国は大震災で終わった

 1 貿易赤字が定着する
 2 貿易赤字の定着は「ニューノーマル」
 3 貿易赤字の定着は通念の変更を迫る

第2章 日本の貿易構造は変化している
 1 自動車産業は「農業化」した
 2 日本の電機産業は生き残れるか?
 3 対中国輸出は日本経済を支えられるか?
 4 ドル建て価格を上げられれば、円高は問題でない

第3章 円高について通念を変えるべきとき
 1 円高は日本の国難なのか?
 2 円高の利益を冷静に評価する必要
 3 五時間で300億円超! FX投機で空前の利益
 4 貿易赤字になっても円安にはならない

第4章 電力問題に制約される日本経済
 1 電力供給は需要に対応できるか
 2 発電コストが上昇する
 3 電力問題で加速する海外移転
 4 電力会社は、地域独占と総括原価方式で支えられていた

第5章 縮原発は不可能ではない
 1 エネルギー計画の見直しは、電力需要の再検討から
 2. 経済成長率を見直せば、原発依存度は半減する
 3. 産業構造が変われば、電力需要は減る
 4. 環境基準と縮原発の同時達成は可能

第6章 製造業の事業モデルを変える
 1. 正念場を迎えている日本の製造業
 2. 成長モデルを全体として入れ替える
 3. 新しい製造業のモデルを構想する

第7章 海外移転で減少する国内雇用をどうするか
 1. 製造業の海外シフトが加速している
 2. 怒濤のようにアジアにシフトする自動車産業
 3. 製造業が国内にとどまっても、雇用は減少する
 4. 日本経済の活性化には、高生産性サービス業が不可欠

第8章 TPPで本当に議論すべきは何か?
 1. TPP は貿易自由化ではない
 2. TPP による輸出増加効果はわずか0.4%
 3. 中国の出方次第で、日本の製造業は大打撃を受ける
 4. TPP や FTA は、輸出振興策としては時代遅れ
 5.  世界に開かれた日本をめざせ

第9章 欧州ソブリン危機は日本に波及するか?
 1. 対照的なギリシャとアイルランド
 2. イタリア国債で問題が生じたのはなぜか?
 3. 欧州ソブリン危機は日本国債に波及しない
 4. 経常収支赤字でも国債消化に支障は生じない
 5. 日本国債のリスクは確実に高まっている

索引


著者プロフィール  

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。
〈主要著書〉
『情報の経済理論』(東洋経済新報社、1974年、日経経済図書文化賞)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社、1980年、サントリー学芸賞)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社、1992年、吉野作造賞)、『「超」整理法』(中公新書、1993年)、『日本を破滅から救うための経済学』(ダイヤモンド社、2010年)、『1940年体制(増補版)』(東洋経済新報社、2010年)、『実力大競争時代の「超」勉強法』(幻冬舎、2011年)、『大震災後の日本経済』(ダイヤモンド社、2011年)、『大震災からの出発』(東洋経済新報社、2011年)、『クラウド「超」仕事法』(講談社、2011年)、『消費増税では財政再建できない』(ダイヤモンド社、2012年)等多数。(出版社サイトから引用)。



<ブログ内関連記事>

「円安バブル崩壊」(2009年5月4日)
・・このブログでいちばん最初に投稿した記事で、野口悠紀雄の『世界経済危機-日本の罪と罰-』 ( ダイヤモンド社、2009)を踏まえた所感を述べている

書評 『ものつくり敗戦-「匠の呪縛」が日本を衰退させる-』(木村英紀、日経プレミアシリーズ、2009)

書評 『日本式モノづくりの敗戦-なぜ米中企業に勝てなくなったのか-』(野口悠紀雄、東洋経済新報社、2012)-産業転換期の日本が今後どう生きていくべきかについて考えるために

書評 『アップル帝国の正体』(五島直義・森川潤、文藝春秋社、2013)-アップルがつくりあげた最強のビジネスモデルの光と影を「末端」である日本から解明

本の紹介 『シブすぎ技術に男泣き!-ものづくり日本の技術者を追ったコミックエッセイ-』(見ル野栄司、中経出版、2010)

書評 『ゼロから学ぶ経済政策-日本を幸福にする経済政策のつくり方-』(飯田泰之、角川ONEテーマ21、2010)

(2014年8月18日 情報追加)


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(2020年5月28日発売の拙著です 画像をクリック!)

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