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2015年10月31日土曜日

「パンプキン詐欺」にご用心!-平成のいまハロウィーンは完全に日本に定着した(2015年10月31日)


ことしもハロウィーンがやってきた。というよりも、ことしのハロウィーンの勢いはすごい。もはや押しとどめることができない流れのようだ。

ハロウィーンはもともと欧州の先住民族であるケルト人の農耕儀礼として始まったものが新天地のアメリカで発展し、それがさらに欧州に逆輸入されて世界的な大発展の過程にあるわけだが、日本におけるハロウィーンは、そもそもアメリカからの輸入文化である。

日本のハロウィーンも、すでに日本の年中行事の一つとして急速に定着しつつあるといってもいいかもしれない。

「なぜ1000億円市場になれた?独自の進化を遂げた日本式ハロウィンの実態|データで読み解くニッポン|ダイヤモンド・オンライン(2015年10月31日)という記事にこういうくだりがある。「日本記念日協会はハロウィンの市場規模は1220億円に上ると推計を発表した。同協会は、2011年の推計市場規模を560億円と発表しており、これをなぞるならわずか4年で市場は2倍以上に拡大したことになる」。

4年間で2倍である!この勢いがどこまで続くかわからないが、右肩上がりで増大していくことは間違いないだろう。クリスマスとバレンタイン、そしてハロウィーン。クリスマスが戦前の日本で導入され戦後に定着したものであれば、バレンタインは戦後日本のものであり、ハロウィーンは戦後というよりも平成になってからのものだ、といえる。


平成という時代のパラレルな現象である詐欺事件とハロウィーン

平成という時代は、オレオレ詐欺をはじめとする、さまざまな詐欺事件が横行するようになった時代でもある。とくに平成20年代になってからのここ数年は、その勢いにさらに拍車がかかっている。

そういった詐欺のなかに「還付金詐欺」というものがある。還付金(かんぷきん)の支払いにかこつけて詐欺行為が行われるわけだが、テレビでの注意喚起を画面を見ないで音声だけ聞いていると、どうしても「パンプキン詐欺」と聞こえてしまう(笑)

そう思う人は必ずしも少なくないようで、「パンプキン詐欺」でネット検索したら、いくらでもでてくるので安心(?)したりもするのだが・・・。

ハロウィーンといえば、オレンジ色のかぼちゃ(=パンプキン)のお化けが主役といってもいい。この時期は、日本全体がパンプキンだらけといっていいような状態だ。ハロウィーンで地域を盛り上げようという商店街もある。いわゆる町おこしの重要なアイテムになっているのだ。

アメリカでは子どもたちが「トリック・オア・トリート」(Trick or treat)といって家々を訪問してはお菓子をねだるのが習慣だ。「お菓子をくれなきゃ、イタズラしちゃうぞ!」という意味だ。

そう、ハロウィンにはそもそもトリック(=詐欺)が含まれている。だから「パンプキン詐欺」というのは、けっしておかしな話ではない。まあ、牽強付会(けんきょうふかい)というか、こじつけに近い話ではあるが(笑)

だが、詐欺事件の横行とハロウィーンの定着はパラレルな関係にある。因果関係はまったくないとしても、ビッグデータ的にみれば相関関係はあるのではないか? ともに時代を代表する現象であることは否定できまい。


なぜ日本人はハロウィーンを受け入れるようなったのだろうか?

では、なぜ日本人はハロウィーンを受け入れるようなったのだろうか?

そのひとつには「仮装」があると思われる。ハロウィーンの仮装は、日本がその震源地であるコスプレ文化とシンクロしあっているというべきだろう。

年間をつうじて楽しめるコスプレと期間限定のハロウィーンの仮装との違いは存在するが、コスプレ愛好家とハロウィーンで仮装する人たちは精神構造的には似たものが共有しているというべきかもしれない。仮装というコスチューム・プレイによって、ほんとうの自分という個性を消しつつ、じつは間接的に個性を主張するという素直ならざる方法論である。

この意味においては、日本では一部を除いては定着していないヴェネツィア型のカーニバル(=謝肉祭)の仮面による仮装があげられる。これは秘密クラブなどでは年間をつうじて行われているものだが、わたし自身は参加したことはないので、その実態については知らない。映画『アイズ・ワイド・シャット』に描かれている世界がそれである。セレブ感が強いだけに、一般的な普及は考えにくいかもしれない。

ハロウィーンはキリスト教色がほとんどないという点も大きいのではないか? 

クリスマスもまた、もともとはキリスト教とは関係のない農事暦にもっとづいた年中行事であったが、キリスト生誕日としての色彩が強いことは否定できない。だから、クリスマスは嫌いだというに発言にはいまでも日本人おあいだで一定の支持がある。

その点、ケルト人の民俗に由来するハロウィーンには、キリスト教の影響はない。農事暦のなかでもっとも重要な秋祭りである。日本の秋祭りとおなじ意味合いをもつ。

いまからちょうど4年前の2011年10月31日のことだが、このブログに ケルト起源のハロウィーン-いずれはクリスマスのように完全に 「日本化」 していくのだろうか? という記事を書いた。

その記事のなかの末尾でこんなことを書いているので、ちょっと長いが再録しておこう。

日本でもお盆やお正月は、最近でこそ形骸化しつつあるとはいえ、まだまだ伝統行事としての性格が強く保たれています。伝統行事と時期が重なる祭については、外国から伝来した新たな祭も、旧来のものにとって変わるのは簡単ではないようです。 この時期の祭礼であるお神楽などとは、完全に棲み分けがされていますが、もしかすると、もともと農耕儀礼であったハロウィーンが神社の祭礼と融合していくなんてことになるかもしれません。 貪欲に外来文化を取り入れてきた日本人が将来どのような取捨選択をするのか、たいへん興味深いものがあります。

この文章を書いてから4年たつが、状況は急速に進展した。というよりも急速に変化する途上にあるというべきだろうか。

そのうち神社の秋祭りにハロウィーンのお化けかぼちゃが登場することだろう。いや、わたしが知らないだけで、すでに登場している神社もあるかもしれない。日本でも巨大なオレンジ色のパンプキンの栽培は普及しつつあるのだから。というより、かぼちゃ自体がカンボジア経由で日本に渡来した作物ではないか!

伝統なんて、じつは創られたものであり、それは言い換えれば誰かが発端になって作り変えてしまうものだ。とくに無意識レベルで融通無碍(ゆづうむげ)な日本人にとっては、抵抗感はそれほど大きくないだろうだろう。あとは「あらたな伝統」の拡散プロセスが、どうスピードアップするだけの問題だ。

この4年間で市場規模が2倍に拡大した日本のハロウィーン。4年後の2019年(=平成31年)のハロウィーンはどうなっているか、おおいに楽しみである。





<ブログ内関連記事>

ケルト起源のハロウィーン-いずれはクリスマスのように完全に 「日本化」 していくのだろうか?(2011年10月31日)

5月1日は メーデー(May Day)
・・メーデーもまたケルトの民俗

バレンタイン・デーに本の贈り物 『大正十五年のバレンタイン-日本でチョコレートをつくった V.F.モロゾフ物語-』(川又一英、PHP、1984)
・・バレンタインのチョコレートは、日本のチョコレート製造会社メリー・カムパニーが戦後に始めたもの

「創られた伝統」

「恵方巻き」なんて、関西出身なのにウチではやったことがない!-「創られた伝統」についての考察-
・・英国の歴史家ホブズボームの『創られた伝統』(invented tradition)を援用して考察してみる

書評 『日本をダメにしたB層の研究』(適菜収、講談社+α文庫、2015)-徹底した「近代」批判の書は俯瞰的に左右両極を叩く
・・この著者にかかればハロウィーンなどB層の最たるものであろうが、「伝統」を伝統というだけで「伝統」の中身について論じていないのが致命的ではある。「伝統」軽視よりも規範意識の喪失のほうが日本人が劣化する原因であろう


平成時代と詐欺の高度化

「振り込め詐欺」はなぜなくならないのか?-ルポライター鈴木大介氏の『老人喰い』(ちくま新書、2015)と『奪取-「振り込め詐欺」10年史-』(宝島SUGOI文庫、2015)




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2015年10月30日金曜日

スワンがゆく-日本人にとって白鳥とは?


一昨日(2015年10月28日)のことだが、東京の日比谷から神保町まで歩いた。最短距離は皇居のお堀端の東側の右サイドの通行となる。

首都東京を代表する新生・東京駅の駅舎や、日本を代表する金融街の摩天楼を右目に見ながら歩いていくと、皇居を過ぎたあたりのお堀で白鳥が2羽すいすいと泳いで移動してくるのが目に入った。

おお、もう白鳥が飛来しているのか!! まだ10月末なのに。

純白の白鳥は、ほんとうに美しい。きわだって美しい。さまざまな渡り鳥が飛来してくる日本だが、そのなかでも白鳥は頂点に立つ存在だ。

白鳥は、『古事記』のヤマトタケル以来、日本人には親しい存在だ。いわゆる「白鳥伝説」である。ヤマトタケルは大和に戻る途上で無念の死を迎えるが、辞世の歌を詠んだあと、死後その魂は白鳥となって大和に向けて飛んでゆく。じつに美しい神話ではないか!

だが、現代に生きる日本人は、白鳥はなんだか西欧的な印象さえあわせもつ。日本人は、近代になってから西欧文明と接触するようになったわけだが、ロシアバレエの「白鳥の湖」などの芸術作品を受け入れてから、白鳥はなんだか西欧的な印象さえもつようになった。その延長線上に『白鳥麗子』という少女マンガのキャラクターが生み出される。

日本に住んでいると、当たり前のように思っていることだが、世界的にみれば必ずしもそうではない。当たり前のように白鳥を目にすることのできる環境に生きてきたことは、大いに感謝すべきことだろう。

白鳥は、ほんとうに美しい。じつに美しい。






<ブログ内関連記事>

バレエ関係の文庫本を3冊紹介-『バレエ漬け』、『ユカリューシャ』、『闘うバレエ』 ・・日本のバレエはまずロシアから、その後フランスから

バイエルン国王ルードヴィヒ2世がもっとも好んだオペラ 『ローエングリン』(バイエルン国立歌劇場日本公演)にいってきた-だが、現代風の演出は・・・
・・ルートヴィヒは自らを「白鳥の騎士」ローエングリンになぞらえていた

船橋大神宮で「酉の市」・・商売繁盛!を祈願 (2009年12月の酉の日)
・・「酉の市」の背後にあるヤマトタケルの白鳥伝説。辞世の歌はまさにスワンソング(白鳥の歌)

書評 『オーラの素顔 美輪明宏のいきかた』(豊田正義、講談社、2008)-「芸能界」と「霊能界」、そして法華経
・・ヤマトタケルがクマソタケルを討つ際に「女装」したという神話が日本にはある




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2015年10月29日木曜日

映画『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(ドイツ、2015年)をみてきた(2015年10月28日)ー 失敗に終わったヒトラー暗殺を単独で計画し実行した実在のドイツ人青年を描いたヒューマンドラマ


映画 『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(ドイツ、2015年)をみてきた(2015年10月28日)。東京・日比谷のTOHOシネマズシャンテにて。

ヒトラー暗殺を単独で計画し実行した、実在のドイツ人青年ゲオルグ・エルザーを描いたヒューマンドラマである。

だが残念ながら、ヒトラー爆殺そのものは失敗に終わった。時限爆弾に設定した時間の13分前にヒトラーは演説を切り上げ、会場を後にしていたからだ。それが日本公開タイトルの「13分の誤算」という意味だ。原題は ELSER(エルザー) とじつにそっけない。

こんな人物がいたのかという驚き、未遂に終わったとはいえヒトラー暗殺計画を背後関係なくすべて単独で実行した者がいたのだという驚きでいっぱいである。

暗殺未遂事件はじっさいに1939年11月8日にあったものだが、その後ながく世に知られないままだったという。実行犯であるゲオルグ・エルザー(36)は警察に逮捕されたのち、1945年5月のドイツ敗戦を目前にして、ひそかに獄中で処刑されていたのだが、証拠隠滅のため処刑命令書が直後に廃棄されたためである。

「13分の誤算」の代償はきわめて大きなものについたことは、主人公にとってだけでなく、映画を見る者にとっても、まさに痛恨としかいいようがないだろう。国防軍将校たちによるヴァルキューレ作戦(1944年)などのヒトラー暗殺計画がみな失敗に終わった結果、結局は破局まで突き進んでしまったからである。


主人公のエルザーはドイツ南西部ヴュルテンベルク州の田舎町に生まれ育った家具職人。機械いじりが巧みで、アコーディオン演奏も得意だった彼は、ごくごくフツーの青年であった。

だが、彼は「自分のアタマで考え、自分で行動する」人間であった。ナチス支配の強化によって、世の中から自由が失われ行く状況のなか、このままでは大変なことになってしまう先見性と危機感が彼を突き動かすことになる。時限爆弾を仕掛けてヒトラーを暗殺するという決意に至り、綿密な計画のもとに実行したのである。

国家社会主義ドイツ労働者党(=ナチス)が単独過半数を握るまで、対極的位置ににあって激しく対立していたドイツ共産党のシンパではあったが党員でなかったエルザー。暗殺計画にはいっさいの背後関係はなく、恋人も含めて親しい者にもいっさい漏らさず、完全に単独犯として実行する。

戦前の左翼ドイツ青年エルザーの存在で想起するのは、戦後日本の単独暗殺者であった山口二矢(やまぐち・おとや)という17歳の遅れてきた右翼少年のことである。ともに自分ひとりで思いつめた末に暗殺を決行した単独犯であったが、後者の日本人単独暗殺犯は、巻き添えの犠牲者なし当時の社会党党首を相対で刺殺したのであった。

左翼の家具職人は時限爆弾での暗殺を計画し実行する。そして失敗に終わった暗殺計画の結果、ヒトラーとは無関係の一般市民が8人も爆弾の道連れとして犠牲者としてしまう。はたして大義さえあれば殺人は許されるといえるのだろうか? 主人公エルザーには良心の呵責はなかったのだるか? 主人公への全面的な共感をためらうものがここにあると感じるのは、わたしだけではないのではないだろうか。

事実関係には忠実に、ただし主人公の私生活にかんしては脚色があると断り書きが映画の末尾にでてくるが、主人公の心の奥底にあったものは、本当はいったいなんであったのだろうか。映画を見終わったあとも考え続けてしまう。

独裁者の暗殺が成功して体制の転覆に成功すると、暗殺者は新体制において英雄として賞賛されることになる。だが失敗した暗殺者は、テロリストの汚名を着せられることになる。これが世の中の評価というものだ。

はたしてドイツ青年エルザーは英雄であったのかテロリストであったのか、この映画をみても評価はきわめて難しい。ヒューマンドラマとしては見応えのある映画ではあることは間違いないのだが・・・。







<関連サイト>

映画 『ヒトラー暗殺、13分の誤算』  公式サイト 

ヒトラー暗殺をいち早く企てた男の正体とは? 『ヒトラー暗殺、13分の誤算』の衝撃 (日経トレンディネット、2015年10月16日)

ELSER Trailer German Deutsch [2015] (ドイツ語版トレーラー YouTube)





<ブログ内関連記事>

映画 『バーダー・マインホフ-理想の果てに-』(ドイツ、2008年)を見て考えたこと ・・ナチス時代を全否定した戦後ドイツが生み出した鬼子が極左テロ集団

沢木耕太郎の傑作ノンフィクション 『テロルの決算』 と 『危機の宰相』 で「1960年」という転換点を読む
・・遅れてきた右翼少年によるテロをともなった「政治の季節」は1960年に終わり、以後の日本は「高度成長」路線を突っ走る

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JFK暗殺の日(1963年11月22日)から50年後に思う

書評 『ヒトラーの秘密図書館』(ティモシー・ライバック、赤根洋子訳、文藝春秋、2010)-「独学者」ヒトラーの「多読術」

書評 『ヒトラーのウィーン』(中島義道、新潮社、2012)-独裁者ヒトラーにとっての「ウィーン愛憎」

フォルクスワーゲンとヒトラー、そしてポルシェの関係



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2015年10月28日水曜日

欧州に向かう難民は「エクソダス」だという認識をもつ必要がある-TIME誌の特集(2015年10月19日号)を読む


ひさびさに TIME誌の印刷版を購入して読んだ。なぜなら欧州の難民問題が総力をあげて特集されているからだ。

正式なタイトルは、 Special Report  EXODUS : The Epic Migration To Europe & What Lies Ahead (特集エクソダス: 欧州への大規模人口移動とその先にあるもの)2015年10月19日付け号である。

欧州の難民問題はエクソダス(EXODUS) であるという認識である。エクソダスとはギリシア語で大脱出という意味だ。旧約聖書の『出エジプト記』のことでもある。

今回の100万人規模を越える難民発生は勢いが止まらず、ロシアのポグロムや、ナチスドイツの迫害でユダヤ難民が大量発生した第二次世界大戦以後では最大規模のものとなっている。ちなみに、日本で『栄光への脱出』(1960年)として公開されたポール・ニューマン主演のイスラエル建国を描いた映画は、原題は EXODUS という。

(ユダヤ系のポール・ニューマン主演の『栄光への脱出』)

シリア難民問題のようなテーマについては、日本のジャーナリズムではカバー不可能だろう。たとえ問題の深刻さの認識を理解できたとしても、地理的に遠く、語学力がフルに必要とされる分野で大規模な取材を行うことはコスト的に割が合わないからだ。需要サイドの日本語読者の関心を引くかという問題でもある。

EXODUS という見出しを全面に出しているのは、英国を代表する The Economist も同様だ。現在、シリア難民の多くがドイツを目指しており、ドイツもまた受け入れを表明しているとはいえ、難民問題が欧州全体の問題であるという認識があるためだろう。英米を代表するメディアがともにエクソダスという認識をもっていることは興味深い。


欧州の難民問題にかんしては、英国も含めた欧州は歴史的な経緯を含めて「当事者」であるが、大西洋をはさんで対岸にある米国はかならずしも直接の当事者とはいえない。

だが、難民を含めた移民問題にかんしては、大規模に移民を受け入れ、それが活力を生み出してきた「先進国」としての認識が米国にはある。そういう視点から書かれたのが TIME誌の特集記事である。

中東からのシリア難民は陸伝いにトルコまできて、密航船でトルコから対岸のギリシアに渡り、バルカン半島を北上して陸路でドイツを目指す。アフリカ難民もまた密航船で地中海を渡るが、最短距離のシチリアから入って、イタリアから北上する。

TIME でも The Economist でもそうだが、表紙に使用された写真をみればわかるとおり、関心はもっぱらシリア難民に向かっている。第二次大戦時のユダヤ難民を読者に想起させることを意図しているようだ。

難民認定されたら、シリア難民を労働力不足解消策として活用することを期待している関係者も少なくないようだ。なぜなら、シリア難民は比較的教育程度も高く、スマホを使いこなしている者が少なくないからだ。受け入れコストはかかるが、それに見合った(?)ベネフィットがあると見ているのかもしれない。そういえば、亡きスティーブ・ジョブスの実の父親はシリア系の米国移民であった。

これに対してアフリカ難民にかんしては、難民を乗せた密航船が沈没するとニュースにはなっても、シリア難民ほど大きなニュースにはならない。しかも、単独で脱出してきた未成年者が多く、十分な教育を受ける機会がなかった者が多い。一方的なコスト増加要因になるのではないかと懸念があるようだ。

TMIE誌の特集は、密航ビジネスの実態なども含めた難民問題の現地レポートも読ませるが、全体的にドイツを模範としてみる視線があるような印象を受ける。ユダヤ人虐殺を行ったナチスドイツの轍はぜったに踏まないという決意が生み出した理想主義はすばらしいものがある。だが、ユーロ危機と同様に、そのドイツの姿勢がEU内で不協和音を生み出していることに注意する必要がある。

その意味では、特集のなかにある 「Gゼロ」論のイアン・ブレマー(Ian Bremmer)氏の論文が重要だ。Europe Divided. The migrant crisis tests the limits of E.U.cooperation (分断される欧州:難民危機はEUの協力関係の限界をテストする)は、難民問題をめぐって対立するEU加盟国間の対立が、欧州統合に冷戦崩壊後かってなかった危機的状況をもたらしていると結論している。国境線をなくして移動の自由を確保するという理念そのものが問われているからだ。

そもそも移民受け入れにかんしては、欧州の先進国のあいだでも一枚岩でないことは、内藤正典氏による『ヨーロッパとイスラーム-共生は可能か-』(岩波新書、2004)など読めばわかることだ。いまはウェルカム一色のシリア難民受け入れだが、じっさいに移住先で定着するというフェーズに入っていくと、さまざまな軋轢(あつれき)が生まれてくることだろう。

難民問題は、日本も無関係ではない。人口減少と労働力不足が顕在化している現在、問題解決の手段の一つとして日本も難民受け入れを検討すべきなのではないかと思うのだが・・・。

冷戦崩壊後の秩序崩壊で大量に発生した難民問題の解決を、国連難民高等弁務官として新緑下のが日本人の緒方貞子氏であったことを忘れるべきではない。



PS TIME の印刷版を読むのはひさびさだが、文字がえらく小さくて読みにくいのには閉口した。スマホやタブレットであればスワイプして文字を拡大できるし、PCでも文字サイズは自分で設定できるのだが、印刷版ではそれができないのだ。記事の中身とは直接関係ないが、正直な感想として付記しておく。

PS2 シリア難民のなかにテロリストが紛れこんでいたことが、ついに2015年11月13日(金)にパリで起きた同時多発テロによる無差別殺人という悪夢となってしまった。この事件が、シリア難民の受け入れにいかなる影響を及ぼすか、日本人としても注視しなくてはなるまい。(2015年11月20日 記す)。

PS3 ドイツのケルンで2015年の年末に発生した女性をターゲットにした500件近い暴行と窃盗事件の容疑者の大半が、難民申請を行っていた北アフリカと中近東出身であり、しかも計画的な犯罪行為であったことが、ドイツ国内で難民受け入れに対する反発を引き起こし始めている。この事件がメルケル首相の理想主義に過ぎる政策への逆風となっているのは、当然といえば当然といえよう。理想はつねに現実によって裏切られるものだ。しかし、だからといって難民受け入れそのものに NO というのは短絡的に過ぎるのではないか。冷静な議論が必要だろう。(2016年1月11日 記す)

上記の事件にかんしては、下記の The Economist の記事を参照。中近東の「男」の常識は、欧州では通用しないということだ。まさに正論である。
Migrant men and European women To absorb newcomers peacefully, Europe must insist they respect values such as tolerance and sexual equality (The Economist,  Jan 16th 2016)






<ブログ内関連記事>

『移住・移民の世界地図』(ラッセル・キング、竹沢尚一郎・稲葉奈々子・高畑幸共訳、丸善出版、2011)で、グローバルな「人口移動」を空間的に把握する


ユダヤ難民

書評 『諜報の天才 杉原千畝』(白石仁章、新潮選書、2011)-インテリジェンス・オフィサーとしての杉原千畝は同盟国ドイツからも危険視されていた! ・・ユダヤ難民

書評 『命のビザを繋いだ男-小辻節三とユダヤ難民-』(山田純大、NHK出版、2013)-忘れられた日本人がいまここに蘇える
・・ユダヤ難民

書評 『命のビザを繋いだ男-小辻節三とユダヤ難民-』(山田純大、NHK出版、2013)-忘れられた日本人がいまここに蘇える
・・ユダヤ難民

映画 『ハンナ・アーレント』(ドイツ他、2012年)を見て考えたこと-ひさびさに岩波ホールで映画を見た
・・ナチスドイツによるユダヤ難民とイスラエル建国

『パリのモスク-ユダヤ人を助けたイスラム教徒-』(文と絵=ルエル+デセイ、池田真理訳、彩流社、2010)で、「ひとりの人間のいのちを救うならば、それは全人類を救ったのと同じ」という教えをかみしめよう
・・ユダヤ難民


シリアなどのレバント(=東地中海)

書評 『新月の夜も十字架は輝く-中東のキリスト教徒-』(菅瀬晶子、NIHUプログラムイスラーム地域研究=監修、山川出版社、2010)


その他の難民問題

ハンガリー難民であった、スイスのフランス語作家アゴタ・クリストフのこと
・・1956年のハンガリー革命(=ハンガリー動乱)で亡命を余儀なくされた難民

書評 『香港バリケード-若者はなぜ立ち上がったのか-』(遠藤誉、深尾葉子・安冨歩、明石書房、2015)-79日間の「雨傘革命」は東アジア情勢に決定的な影響を及ぼしつづける
・・「難民的メンタリティ」をもっている香港第一世代との違い

ボリウッド映画 『ミルカ』(インド、2013年)を見てきた-独立後のインド現代史を体現する実在のトップアスリートを主人公にした喜怒哀楽てんこ盛りの感動大作
・・「シク教徒の多いパンジャーブ地方は、インドとパキスタンの国境地帯にあり、現在のパキスタンにあったミルカの一族は立ち退きを拒否して戦うことを選択したために皆殺しにされ、生き残ったミルカとその姉は難民となってインド側に命からがら逃れることになったのである。自分の目の前で家族が惨殺されるという残酷な体験がトラウマとなり、ときにフラッシュバック現象となってミルカの人生を苦しめつづけることになる。」

(2015年11月11日 情報追加)





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2015年10月26日月曜日

書評『日本をダメにしたB層の研究』(適菜収、講談社+α文庫、2015)ー 徹底した「近代」批判の書は俯瞰的に左右両極を叩く


『日本をダメにしたB層の研究』(適菜収、講談社+α文庫、2015)は、徹底した「近代」批判の書である。2102年に出版された単行本が文庫化されたのを機会に読んでみた。

ゲーテとニーチェという18世紀から19世紀にかけて生きた二人のドイツ人が残した文章を使って、劣化しつづける日本の現状をこれでもかと執拗に叩く。近代啓蒙主義の申し子ともいうべき左派(・・リベラル派を含む)だけでなく、保守を偽装する(!)右派もぶった切る姿勢がじつに痛快だ。

この本の面白さは、毒をもった面白さである。そしてその毒は、ストレートに効く毒だ。当たり前のことを当たり前と言い切ること。これは「王様は裸だ」と叫んだ子どもにはできても、空気を読むことに慣れきった日本人にはできない芸当だ。いまや子どもたちですら空気を読むことを強いられるのが劣化する日本の現状である。

「B層」(ビーそう)とは、著者の造語ではない。郵政改革にかんして、小泉政権(当時)の主な支持基盤として想定されたターゲット層のことだ。「具体的なことはよくわからないが小泉純一郎のキャラクターを支持する層」である。内閣府から広報宣伝戦略を受注した広告会社の有限会社スリードが「郵政民営化・合意形成コミュニケーション戦略(案) 」において定義した(・・リンク先に原本のコピーがアップされている)。

いまから10年前の2005年に発表されたレポートだが、マーケティング戦略を政治に応用した内容である。縦軸を EQ も含んだ IQ軸、横軸を「構造改革」の是非として4象限のマトリックスで分類したものだ(下図参照)。ある意味では教科書的でオーソドックスなポートフォリオ分析手法による分類である。



「A層」: エコノミストを始めとして、基本的に民営化の必要性は感じているが、これまで、特に道路公団民営化の結末からの類推上、結果について悲観的な観測を持っており、批判的立場を形成している。「IQ」が比較的高く、構造改革に肯定的。構成財界勝ち組企業、大学教授、マスメディア(テレビ)、都市部ホワイトカラーなど
●「B層」: 郵政の現状サービスへの満足度が極めて高いため、道路などへの公共事業批判ほどたやすく支持は得られない。郵政民営化への支持を取り付けるために、より深いレベルでの合意形成が不可欠。マスコミ報道に流されやすく「IQ」が比較的低い、構造改革に中立的ないし肯定的。構成主婦層、若年層、シルバー(高齢者)層など。具体的なことは分からないが小泉総理のキャラクター・内閣閣僚を支持する。
「C層」: 構造改革抵抗守旧派。「IQ」が比較的高く、構造改革に否定的。
「D層」: 「名無し層」「命名無し層」と呼ばれることも多い。「IQ」が比較的低く、構造改革に否定的。構成既に失業などの痛みにより、構造改革に恐怖を覚えている層

マーケティング戦略が戦略である以上、ターゲット層をあぶりだして明確な戦略を想定することが求められるわけだが、このレポートが発表されてから10年後の2015年から振り返ると、じつによくできた分類だと思うのである。

ただし著者はマーケティングを行いたいわけではない。あくまでもこの枠組みを使って、劣化する大衆社会日本の現状をあぶりだすことを行うのである。だからこそ、縦軸のIQ軸をそのままにして、横軸を「近代的価値」を是とするか非としたマトリックスに簡略化している(下図参照)。





「B層」とは、近代的価値に肯定的だが、IQがそれほど高いわけではない層のことになる。著者のいう近代的価値には、グローバリズム、普遍主義、改革・革新・革命などが含まれる。

著者自身の表現を引用しておこう。

深部を読み取れば「近代的諸価値を肯定するのか、警戒するのか」と読み替えることもできる。そうすると、B層は《近代的諸価値を妄信するバカ》《改革バカ》ということになります。
平等主義や民主主義、普遍的人権などを信じ込んでいる人たちですね。
重要な点は、B層が単なる無知ではないことです。
彼らは、新聞を丹念に読み、テレビニュースを熱心に見る。そして自分たちが合理的で理性的であることに深く満足している。
その一方で、歴史によって培われてきた 《良識》 《日常生活のしきたり》 《中間の知》 《教養》 を軽視するので、近代イデオロギーに容易に接合されてしまう
なにを変えるのかは別として、《改革》 《変革》 《革新》 《革命》 《維新》といったキーワードに根無し草のように流されていく。彼らは、権威を嫌う一方で権威に弱い。テレビや新聞の報道、政治家や大学教授の言葉を鵜呑みにし、踊らされ、騙されたと憤慨し、その後も永遠に騙され続ける存在がB層です。(文庫版 P.58~59)

徹底した近代批判である。近代が生み出した「大衆」という存在。かれらは前近代社会の無知な「民衆」ではない。もちろん、「大衆」=「B層」ではないが、近代が生み出した近代的価値を無意識のうちに内在化し、自覚症状をまったくもたない人たちのことであるといっていいだろう。

上掲のマトリックスでは、A層からD層にいたるまで同じ大きさの円で表現されているが、これはあくまでも質的な概念を可視化したものであって、量的な観点からみれば、あきらかに「B層」がボリュームゾーンであることは間違いない。大衆の大衆たるゆえんである。多数派を占める「大衆」こそB層と重なるのである。だからポピュリズム(=大衆迎合)政治がものを言うのである。


著者が「近代的価値」を無意識に体現する人たちとして、なにを具体的に叩いているかは「目次」を見てみればいいだろう。とくにポピュリズム志向の政治家を徹底的に叩いているほか、文化人や評論家なども俎上にあげられている。ただし、著者の趣味嗜好にもとづく批判もあり、かならずしも同意しがたいものもあるが、あらかた著者の批判にはうなづけるものがある。

未来に理想のユートピアを想定する左派も、過去に理想のノスタルジーを想定する右派も、ともに現実主義とは遠い存在だ。著者による「偽装保守」という表現は、じつに巧みなものだ。保守は、よりよい世界の実現を目指しながらも、確実に一歩一歩前進する姿勢のことであり、現実主義と言い換えてもいいだろう。維新や革命とは正反対の立ち居地にある。「偽装保守」とは「偏狭な復古主義者」としての右派のことであるが、そのなかにはきわめて悪質なデマゴーグもいる。

著者の立ち居地は、一方の極に立って他方の極を叩くというものではなく、俯瞰的な立場から両極をともに叩くという姿勢だ。そのため、批判対象である「B層」からは上から目線の物言いだという批判が出てくるのであろう。

ゲーテやニーチェに仮託して語るという著者の姿勢は、たしかに両者ともに知的巨人であるから上から目線となるのは仕方がないかもしれない。だが、基本的には過去から現在を照射するという視線であることに注意しておきたい。時の試練を経て生き残った思想は、現代人が思っている以上に強靭である。とくにこの二大巨人は近代のなかで格闘した人たちだ。

それが古典というものがもつ意味でありパワーである。古典を読み込んでそれを現実解釈の武器とすること、それがただしい教養の活用法である。

著者が本文で言及しているゲーテとニーチェ以外の思想家たちの著作は、参考文献として一括して紹介されているので、強靭な精神と思索力を身につけたい人は、チャレンジしてみるのがいいのではないかと思う。さしあたっては、著者自身のデビュー作ともいうべきニーチェの名著の新訳 『キリスト教は邪教です! 現代語訳『アンチクリスト』(講談社+α新書、2005)が読みやすくて面白いと思う。

古典的名著を読むことは、自分で考え、自分で行動するために必要な基礎的能力が鍛えられるはずだ。


 

目 次 
 
B層用語辞典
文庫版はじめに 参加したがる時代
第1章 B層とはなにか?
 知らないことは言わないほうがいい
 偽史はこうしてつくられる
 モーニング娘。と価値の混乱
 小林秀雄と<コスパバカ>
 B層とはなにか?
 B層は単なる無知ではない

 B層は陰謀論が好き
 
 大衆とB層との違い

 反原発デモと坂本龍一
 <参加>の気分が重要
 神奈川県を独立国にする?
 現代人の未来信仰
第2章 今の世の中はなぜくだらないのか?
 B層が行列する店
 氾濫するB層鮨屋
 デブブームは不健康ブーム
 エリック・クラプトンのビジネスに学ぶ
 口パクを擁護する
 自由になれない理由
 B層を利用する英会話ビジネス
 <国際人>など存在しない
 数学を悪用しない
 保守を偽装する人
 大学教授の学力崩壊
 人権派が政治をダメにする
 人権思想はテロの根源
第3章 今の政治家はなぜダメなのか?
 安倍晋三が進める国の解体
 大衆社会のパッケージ
 民主党の三年間とはなんだったのか?
 小沢一郎の正体
 土井たか子と小沢の売国活動
 ポピュリズムはなぜ暴走したのか
 ファミコン世代が国を滅ぼす
 橋下徹というデマゴーグ
 或阿呆の一生
 卑劣な人間のパフォーマンス
 亡国の船中八策
 平気で嘘をつく人たち
 伝統文化を破壊する人々
 悪人は悪人顔をしている
第4章 素人は口を出すな!
 国民は成熟しない
 誰もが参加したがる時代
 全体主義のロジック
 オーウェルと言葉の破壊
 民主主義はキリスト教カルト
 「民意は悪魔の声である」
おわりに 新しいものはたいてい「嘘」
参考文献
解説(中川淳一郎)

著者プロフィール

適菜 収(てきな・おさむ)
1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。早稲田大学で西洋文学を学び、ニーチェを専攻。卒業後、出版社勤務を経て現職。著書に、ニーチェの代表作「アンチクリスト」を現代語にした「キリスト教は邪教です!」(講談社+α新書)「はじめてのニーチェ」(飛鳥新社)「ゲーテに学ぶ賢者の知恵」(だいわ文庫)「ゲーテの警告 日本を滅ぼす『B層』の正体」(講談社+α新書)「ニーチェの警鐘 日本を滅ぼす『B層』の害毒」(講談社+α新書)「世界一退屈な授業」(星海社新書)などがある。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)



<関連サイト>

「B層」=比較的IQの低い、騙されやすい人間たち、の特徴を細かく解説しながら、多くのB層に支持された民主党がかくも無様に崩壊した理由、そしてまた懲りもせず橋下徹こそ日本国首相にもっともふさわしいという今日の世論調査の結果に現れるB層の「勘違い」の害毒
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33886

2012年10月26日(金) 『日本をダメにしたB層の研究』著者:適菜収 なぜ日本人は「参加」したがるのか? 【前篇】

広告会社の有限会社スリードが「郵政民営化・合意形成コミュニケーション戦略(案) 」(原本コピー)


<ブログ内関連記事>

踊らされる「B層」

書評 『普通の家族がいちばん怖い-崩壊するお正月、暴走するクリスマス-』(岩村暢子、新潮文庫、2010 単行本初版 2007)-これが国際競争力を失い大きく劣化しつつある日本人がつくられている舞台裏だ
・・食生活に端的に現れる「B層」性

書評 『外食の裏側を見抜く-プロの全スキル、教えます。』(河岸宏和、東洋経済新報社、2014)-「食の安全」の盲点となりがちな「外食チェーン店」を含めて考えなくては画竜点睛を欠く
・・食にみる「B層」の実態は外食チェーン店。コスパ(=コストパフォーマンス)のみを重視する客は自分が食べているものが価値なきものであることに無自覚

「恵方巻き」なんて、関西出身なのにウチではやったことがない!-「創られた伝統」についての考察-
・・踊らされるのは「B層」。マーケティングの餌食となっている

書評 『夢、死ね!-若者を殺す「自己実現」という嘘-』(中川淳一郎、星海社新書、2014)-「夢」とか「自己実現」などという空疎なコトバをクチにするのはやめることだ
・・いかに「B層」がマーケティング対象として食い物にされているか


近代啓蒙主義のなれの果て

書評 『革新幻想の戦後史』(竹内洋、中央公論新社、2011)-教育社会学者が「自分史」として語る「革新幻想」時代の「戦後日本」論
・・近代啓蒙主義の申し子である左派リベラル知識人たちが戦後日本に撒き散らした害悪を総括

「ユートピア」は挫折する運命にある-「未来」に魅力なく、「過去」も美化できない時代を生きるということ
・・左も右もすでに終わっている存在

「精神の空洞化」をすでに予言していた三島由紀夫について、つれづれなる私の個人的な感想
・・もはや三島由紀夫の予言などはるかに取り越してしまっているのか?


ゲーテという存在

銀杏と書いて「イチョウ」と読むか、「ギンナン」と読むか-強烈な匂いで知る日本の秋の風物詩

ルカ・パチョーリ、ゲーテ、与謝野鉄幹に共通するものとは?-共通するコンセプトを「見えざるつながり」として抽出する

「ルドルフ・シュタイナー展 天使の国」(ワタリウム美術館)にいってきた(2014年4月10日)-「黒板絵」と「建築」に表現された「思考するアート」
・・ゲーテとニーチェの二人から大いにインスパイアされたのがルドルフ・シュタイナーというドイツの思想家であることはあまり知られていない

(2015年11月14日 情報追加)




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2015年10月25日日曜日

ドイツが官民一体で強力に推進する「インダストリー4.0」という「第4次産業革命」は、ビジネスパーソンだけでなく消費者としてのあり方にも変化をもたらす


2015年に入ってから、いい意味でも悪い意味でも、ドイツの存在感がさらに巨大化しつつある。

政治経済的にはユーロ問題をめぐっての債務国ギリシアとの確執、そしてシリア難民の欧州流入問題など、次から次へと発生する国際問題。そのいずれにおいても中心にあるのはドイツの存在である。中欧の大国ドイツは、経済面での欧州の中心であるだけでなく、いまや政治面でも欧州の中心にあるのだ。

2011年3月11日の東日本大震災が福島で原発問題を引き起こした際、ドイツ人のパニックぶりと日本に対する不当なまでの誹謗中傷に違和感と不快感を抱いて以来、個人的にドイツへの違和感が深まる一方であったが、2015年にはフランスを代表する知識人の一人であるエマニュエル・トッド氏の『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる-日本人への警告-』(文春新書、2015)が日本でベストセラー化するなど、大国化するドイツへの違和感は日本でも増加中である。

だが、人口問題を中心に考察する人類学者のトッド氏の議論に欠けているのは、経済大国ドイツの基盤にある製造業大国ドイツについての考察だ。専門外のことであるから無理もないが、ビジネスパーソンにとっては物足りない想いを抱くのは当然である。経済大国ドイツの基盤は日本と同様にものづくりの製造業にある

ここ数年のドイツ製造業の動きで無視できないのが、いわゆる「インダストリー4.0」である。製造業こそがドイツの存在基盤と考えるドイツ産業界とドイツ政府がタッグを組んで官民一体で強力に推進している運動のことである。

「インダストリー4.0」は、18世紀英国ではじまった「産業革命」(インダストリアル・レボルーション)の流れのなかに製造業の未来を位置づけたものだ。まずは蒸気機関による第1次産業革命、20世紀初頭には電気エネルギーよる第2次産業革命、そして20世紀後半のコンピューターによる自動化の第3次産業革命を経て、第4次産業革命である「インダストリー4.0」に至る。


(インダストリー4.0は第4次産業革命 Wikipediaより)


「インダストリー4.0」のキーワードは、IoT(アイオーティ)である。IoT とは Internet of Things の略で、日本では「モノのインターネット」と呼ばれている。モノどうしをインターネットでつなぐという発想だ。むずかしくいえば「ユビキタス・コンピューティング」のことである。「遍在するコンピュータ」。

製造業においては、この IoT によって自社工場内だけでなく、異なる企業の工場すらインターネットでつなぐことによって、人間を介在させることなしに機械どうしがリアルタイムで「会話」し、製造にかんしてきわめて柔軟な対応を可能とする。その結果、顧客ごとに異なるニーズへの対応が可能となる。多品種少量生産は、まだ生産者側の発想であったが、「インダストリー4.0」時代は「個」客化への動きへの対応が、「考える工場」化によってほぼ完全に達成されることにある。

『まるわかりインダストリー4.0 第4次産業革命』(日経ビジネス、日経BPムック、2015)によれば、製造業大国ドイツの危機感が「インダストリー4.0」推進の根底にある、という。

ものづくりにおいては、日本を中心としたアジア勢力に押され、インターネットにかんしては米国に太刀打ちできないというい追い詰められ感。さらに人口減少のなか、生産性を向上し付加価値が高い製品を開発し続けていかなければ製造業立国として生き残れないという危機感が、「モノのインターネット」による製造業革命という、きわめて野心的な構想へとドイツ産業界を向かわせることになったのである、と。


(出典: 『まるわかりインダストリー4.0 第4次産業革命』(日経ビジネス)

「インダストリー4.0」の本質は「モノのインターネット」にあるわけだが、実現するためには企業や産業を超えて規格の統一が必要になってくる。EUの製造業の中心はドイツだが、そのドイツが規格づくりでリードすれば、それがそのまま欧州規格となり、さらには世界を制覇できるという発想なのである。聞き捨てにはできないではないか!

ドイツ産業を支えているのは、ニッチ市場に特化して世界シェアを占める無名のミッテルシュタンミッテルシュタント(Mittelstand:中規模企業)だが、シーメンスやボッシュなどの製造業の大企業やドイツを代表するソフトウェア企業SAPが推進する「インダストリー4.0」の問題意識を当事者として共有する動きが広がっているという。まさにドイツ産業をあげてのうねりとなりつつある

『まるわかりインダストリー4.0 第4次産業革命』はさすがに、ビジネス関係での圧倒的な取材力をもつ日経ビジネスによるものだけに、官民一体で推進するドイツ以とは異なり、民間企業中心にグループ化を進めている米国の動きや、3Dプリンターが象徴的である製造業そのものの大変化の動きをカバーしている。

「モノのインターネット」の本質を、industrial internet だと喝破する GE のイメルト会長や、 3Dプリンターによる製造の本質が additive manufacturing であることなど教えられうことも多い。とくに米国を代表する企業で教科書的存在である GE の変化対応については読ませる内容である。「インダストリー4.0」に本腰を入れている GE が、変化対応を全社員に徹底させるために、企業理念を従来の「GEバリュー」(GE Values)から「GEビリーフス」(Belifs)に変えたことなど、きわめて重要な内容だ。

ドイツの取り組みと米国の取り組みはまさに対極にあることがわかる。ドイツは産業界をあげて政府との官民一体であるのに対し、米国はあくまでも民間主導の企業グループ化による仲間づくりでの合従連衡。産業界においても、ドイツと米国はライバル関係にあることは言うまでもない。

ドイツ型と米国型のどちらに軍配があがるか、高みの見物とはいかないのが日本の立場だが、日本の対応は危機感の認識と覚悟に求められることとなろう(*注を参照)。

製造業にかかわりのない人にとっては関心のない話かもしれないが、「インダストリー4.0」の動きは、ビジネスパーソンやワーカーだけでなく、消費者としてのあり方にも変化をもたらすものである。

その意味で、とくに一般読者こそ概要だけでも知っておく必要があると思う次第だ。「インダストリー4.0」にかんしては、さまざまな読み方と捉え方が可能だろう。


(*注) 「第四次産業革命」で米独が連合(『選択』2016年6月号)によれば、米国のオバマ大統領はドイツのハノーファーで開催されたハイテク産業見本市の CeBit に出席し、ドイツのメルケル首相とともに「大西洋を横断した製造業連携を強化しよう」とうたいあげた、とある。 ドイツか米国かではなく、ドイツと米国は手を握ったのである。国際規格の主導権はドイツと米国によって握られたことになる。日本の製造業にとっては激震である。(2016年7月20日 記す)





『まるわかりインダストリー4.0 第4次産業革命』(日経BPムック、2015) 目次

【プロローグ】 ゼロから分かる「第4次産業革命」
 中核企業3社が語る これがインダストリー4.0だ
 トヨタ生産方式とはここが違う

【Chapter 01】インダストリー4.O徹底リポート 日本を脅かす第4次産業革命 
 〔PART 1〕 「日本抜き」の産業革命が始まる
 〔PART 2〕 革命の火蓋切ったドイツの焦りと決意
 〔PART 3〕 インドが仕掛ける下克上
 〔PART 4〕 GEの独走を許すな モノ作りの頭脳争奪戦
 〔PART 5〕 トヨタが“下請け”になる日
 〔PART 6〕 馬車のままでは置き去りにされる
 ≪INTERVIEW≫「製造業の覇権は渡さない」 ローランド・ベルガー氏 独ローランド・ベルガー名誉会長兼創業者

【Chapter 02】インダストリー4.0が変えるモノ作りの未来 GEの破壊カ 
 〔INTRO〕 共闘する2人の巨人 全産業を変革する
 〔PART 1〕 製造業を激変させる3つの切り札
 〔PART 2〕 人こそ変革の原動力 企業哲学まで刷新
 〔PART 3〕 日本企業にも好機 GEを使い倒せ
 ≪INTERVIEW≫ 「パンチを繰り出し続ける」 ジェフ・イメルト氏 米GE会長兼CEO 

【Chapter 03】「4.0」時代を支える新技術 3D生産革命 クルマもスマホも印刷できる 
 〔PART 1〕 米国発、「印刷」革命
 〔PART 2〕 モノ作りの常識を変える3つの「P」
 〔PART 3〕 全てに好機と危機
 ≪INTERVIEW≫ 「デジタルが全てを壊す」 ピエール・ナンテルム氏 米アクセンチュア会長兼CEO

【Chapter 04】「4.0」がつくる新しい社会 変わる「仕事」「教育」「モノ」
 人と機械の関係 「4.0」時代、働き方はどう変わる?
   米国先進事例 人材育成や企業組織にも変革の波 標準化の新潮流
 「4.0」時代に重要な「標準化」での勝利
 CESリポート IoT時代の新型家電 自動車
 CESで具体化した インテルVSクアルコムの新たな戦い

【Chapter 05】「4.0」の深謀遠慮 先進国ドイツの真意はここにある 
 ドイツが「第4の産業革命」を官民一体で進めるワケ
 「第4の産業革命宣言」から見えてくる「パラダイムチェンジ」の姿
 インダストリー4.0がもたらす光と影
 「機動力」を武器にした競争力強化を急げ


PS あらたに「インダストリー4.0は第4次産業革命」という図を挿入しておいた。これでより理解が深まることだろう。(2023年8月9日 記す)

PS2 ロシアが仕掛けた「ウクライナ戦争」(2022年2月~)によって、低価格で安定供給されてきたロシア産ガスの供給が止まった。ロシア産ガスに依存してきたドイツ産業の陰りが見えている。今後のドイツ産業の行方については注視していく必要がある。(2023年8月9日 記す)



<関連サイト>

インダストリー4.0 実現戦略 プラットフォーム・インダストリー4.0 調査報告 Umsetzungsstrategie Industrie 4.0 Ergebnisbericht der Plattform Industrie 4.0 (翻訳版) (JETRO、2015年10月、Pdfファイル版)

「第四次産業革命」で米独が連合(『選択』2016年6月号)
・・オバマ大統領はドイツのハノーファーで開催されたハイテク産業見本市の CeBit に出席し、メルケル首相とともに「大西洋を横断した製造業連携を強化しよう」とうたいあげた。 ドイツか米国かではなく、ドイツと米国は手を握ったのである。日本の製造業にとっては激震である
 
(2016年6月21日 情報追加)






<ブログ内関連記事>

ドイツ関連

書評 『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる-日本人への警告-』(エマニュエル・トッド、堀茂樹訳、文春新書、2015)-歴史人口学者が大胆な表現と切り口で欧州情勢を斬る

『ユーロ破綻-そしてドイツだけが残った-』(竹森俊平、日経プレミアシリーズ、2012)-ユーロ存続か崩壊か? すべてはドイツにかかっている
・・「いい意味でも悪い意味でも、いまやドイツは欧州の中核にある。ドイツがいかなる行動をとるかによってユーロの運命は決まるのである」

ドイツを「欧州の病人」から「欧州の優等生」に変身させた「シュレーダー改革」-「改革」は「成果」がでるまでに時間がかかる

書評 『あっぱれ技術大国ドイツ』(熊谷徹=絵と文、新潮文庫、2011) -「技術大国」ドイツの秘密を解き明かす好著

書評 『自動車と私-カール・ベンツ自伝-』(カール ベンツ、藤川芳朗訳、草思社文庫、2013 単行本初版 2005)-人類史に根本的な変革を引き起こしたイノベーターの自伝


ものづくり・製造業関連

TIME誌の特集記事 「メイド・イン・USA」(2013年4月11日)-アメリカでは製造業が復活してきた

書評 『日本式モノづくりの敗戦-なぜ米中企業に勝てなくなったのか-』(野口悠紀雄、東洋経済新報社、2012)-産業転換期の日本が今後どう生きていくべきかについて考えるために

書評 『製造業が日本を滅ぼす-貿易赤字時代を生き抜く経済学-』(野口悠紀雄、ダイヤモンド社、2012)-円高とエネルギーコスト上昇がつづくかぎり製造業がとるべき方向は明らかだ

書評 『ものつくり敗戦-「匠の呪縛」が日本を衰退させる-』(木村英紀、日経プレミアシリーズ、2009)-日本の未来を真剣に考えているすべての人に一読をすすめたい「冷静な診断書」。問題は製造業だけではない!

書評 『グローバル製造業の未来-ビジネスの未来②-』(カジ・グリジニック/コンラッド・ウィンクラー/ジェフリー・ロスフェダー、ブーズ・アンド・カンパニー訳、日本経済新聞出版社、2009)-欧米の製造業は製造機能を新興国の製造業に依託して協調する方向へ


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2015年10月24日土曜日

フォルクスワーゲンとヒトラー、そしてポルシェの関係

(フォルクスワーゲン社の本社工場 筆者撮影)

物事というものは、その発端や出発点において、あらかたその先の方向性が決定されるものだ。その点にかんしては、人間も会社も似たようなものがある。

2015年9月に、ディーゼル排ガス規制で消費者を欺いていたことがアメリカのNGOの調査によって明らかになり、世界中で大問題となっているドイツを代表する世界的自動車メーカーのフォルクスワーゲン社だが、そもそもの創業の出発点が「戦前ドイツ」のナチス時代の国策にあったことは、「常識」としてもっておいたほうがいい。

失業対策として実行された公共事業の一つが、現在でもドイツが誇る高速道路アウトバーンの建設。そしてヒトラーによる「大衆車」構想がフォルクスワーゲン低価格で高性能の乗用車の提供によって国民による支持を確実なものとし、かつ需要創出を狙った政策だ。

フォルクスワーゲン(Volkswagen)は日本では「国民車」と訳されるが、「民衆車」とか「大衆車」といったほうが本来の意味に近い。ドイツ語の Volk(フォルク) は、英語の folk(フォーク)に該当するコトバだ。フランス革命以後の概念である Nation(=国民)とは似ているが「民族」というニュアンスが強い。Volkswagen であって Nationalwagen ではない。

そしてヒトラーからじきじきに要請があって、「大衆車」の開発に取り組んだのが天才エンジニアのフェルディナント・ポルシェ。実際には試作どまりで量産には至らなかったものの、スポーツカーの代名詞のようなポルシェの創業者一族が、なぜ現在でもフォルクスワーゲン社の大株主の一つであるのかは、そういうところに理由があるわけだ。

(シュトゥットガルトのポルシェ博物館のプレート 筆者撮影)

これらの重要な「事実」は、なぜか日本のマスコミ報道では言及されることがきわめて少ない。歴史にかんする不勉強によるものか、あるいはほかに理由があるのかもしれないが、じつに不思議なことだ。

日本を代表する製造業で、世界最大の自動車メーカーのトヨタもまた、国防上の理由から国産車開発を推進したい帝国陸軍の要請で軍用車の開発に着手したことが、自動車生産への取り組みの第一歩だったのである。フォルクスワーゲンは国策によって生まれたとはいえ、軍用車の開発は行っていない。

「戦前・戦中」と「戦後」では、いっけん歴史は「断絶」しているように見えながらも、じつは一貫して「連続」しているのは、日本でもドイツでも変わりないのである。

さらにいえば、「事実」にかんする事項については、その「事実」の評価が肯定であろうが否定であろうが関係ない。「事実」と「解釈」は区分することが重要だ。わたし自身、フォルクスワーゲンはコンパクトカーとしては好印象をもっている。

(アタマの引き出しはチカラになる!)

作家・武田知弘氏による『ヒトラーの経済政策-世界恐慌からの奇跡的な復興-』(祥伝社新書、2009)『ナチスの発明』(彩図社、2011)は、上記のような「事実」が満載の本だ。

後者の第2章「ナチスが目指したユートピア」にフォルクスワーゲンの話があるが、それ以外にも日本人にとって「常識」となっていない話が多い。「事実」関係にかんする「雑学」な知識を「常識」にするためにはお奨めの本といえよう。

冒頭にアップした写真は、ドイツ北部のヴォルフスブルク(Wolfsburg)にあるフォルクスワーゲン(VW)の本社工場。ヴォルフスブルクはまさにフォルクスワーゲンの「企業城下町」である。
 
残念ながら工場内部に入ったことはないが、数年前にベルリンとハノーファーの中間にあるヴォルフスブルク駅に停車中の急行列車 ICE の社内から、運河をはさんで撮影したものだ。

心なし、VW のロゴが泣いているような気がしないでもない。



『ヒトラーの経済政策』 目次  

序章 ケインズも絶賛したヒトラーの経済政策とは
第1章 600万人の失業問題を解消
第2章 労働者の英雄
第3章 ヒトラーは経済の本質を知っていた
第4章 天才財政家シャハトの錬金術
第5章 ヒトラーの誤算




『ナチスの発明』 目次  

第1章 世界を変えたナチスの発明
第2章 ナチスがめざしたユートピア
第3章 だれがナチスを作ったのか?
第4章 夢の残骸




<関連サイト>

『オサムイズム-"小さな巨人"スズキの経営-』(中西孝樹、日本経済新聞出版社、2015年)「第1章 岐路に立つスズキ」から

・・日本の自動車メーカーのスズキから見た提携先のフォルクスワーゲン社の実態が明らかにされる。2009年の提携開始後、信頼を裏切って敵対的買収によって乗っ取りを図ったフォルクスワーゲン社に対抗するための国際仲裁裁判におけるスズキの4年間の苦闘の記録。

スズキの大誤算、「VWとの提携」を求めた理由(日経BIZゲート、2015年12月17日)

スズキと提携後、手のひらを返したVW(日経BIZゲート、2016年1月7日)

スズキの恐怖「VWによる敵対買収」 (日経BIZゲート、2016年1月14日)

スズキの強運、宿敵の失脚を経てVWに逆転勝訴 (日経BIZゲート、2016年1月21日)
・・「ピエヒがVWのCEOに就任したのが1993年。任期を理由に監査役会会長に昇格したのが2002年。通して22年間にわたり、VWの独裁者ともいえるリーダーに君臨した、カリスマ経営者であった。 (・・中略・・) 任期2年を残し、ピエヒがVWの経営を突然去るという事態は、誰の想定にもなかった。 ピエヒが去ったことで、VWは合理主義に基づくヴィンターコルンが経営を主導し、透明性の高い監査役会会長が監視するという体制に変わっていこうとしたのである。 スズキにとって、この政変は非常に重要な意味を持つものだ。」

(2016年1月15日 項目新設)
(2016年1月24日 情報追加)


PS 『ナチズムの時代(世界史リブレット)』(山本秀行、山川出版社、1998)は、「ナチズムの時代」を「大衆消費社会の幕開け」として描いている。表紙に使用されているのはフォルクスワーゲンの広告。あの時代の空気がよく理解できる。(2016年2月29日 記す)




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書評 『自動車と私-カール・ベンツ自伝-』(カール ベンツ、藤川芳朗訳、草思社文庫、2013 単行本初版 2005)-人類史に根本的な変革を引き起こしたイノベーターの自伝

「ポルシェのトラクター」 を見たことがありますか?

書評 『あっぱれ技術大国ドイツ』(熊谷徹=絵と文、新潮文庫、2011) -「技術大国」ドイツの秘密を解き明かす好著

書評 『ヒトラーの秘密図書館』(ティモシー・ライバック、赤根洋子訳、文藝春秋、2010)-「独学者」ヒトラーの「多読術」

ベルリンの壁崩壊から20年-ドイツにとってこの20年は何であったのか?

映画 『バーダー・マインホフ-理想の果てに-』(ドイツ、2008年)を見て考えたこと

書評 『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる-日本人への警告-』(エマニュエル・トッド、堀茂樹訳、文春新書、2015)-歴史人口学者が大胆な表現と切り口で欧州情勢を斬る
・・近年のドイツは、なにかおかしなことになっている

「ログブック」をつける-「事実」と「感想」を区分する努力が日本人には必要だ
・・「戦前・戦中」と「戦後」を区分して考えたいのは人の性(さが)。だが、事実と解釈は区分して考えないと道を誤る

「是々非々」(ぜぜひひ)という態度は是(ぜ)か非(ひ)か?-「それとこれとは別問題だ」という冷静な態度をもつ「勇気」が必要だ

『王道楽土の戦争』(吉田司、NHKブックス、2005)二部作で、「戦前・戦中」と「戦後」を連続したものと捉える
・・敗戦国は「断絶史観」で捉えたいという欲望があるが、それは正しいものの見方ではない

皇紀2670年の「紀元節」に、暦(カレンダー)について考えてみる
・・「「紀元」(=はじまり)という意識と発想である。それは正統性の根拠として言明されることが多い。元外交官の法学者・色摩力夫(しかま・りきを)がよく使っていた「出生の秘密」(status nascens)というライプニッツのコトバがあるように、その紀元に何をもってくるか、その紀元の本質が何であるか、によってその後の「歴史」はすべて決定されてくるのである。色摩力夫は自衛隊の「出生の秘密」が自衛隊という軍事組織の性格を規定している、という文脈でこのコトバを使用している。」

(2015年11月13日 情報追加)


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