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2019年1月6日日曜日

書評『本音化するヨーロッパ ― 裏切られた統合の理想』(三好範英、幻冬舎新書、2018)― いまヨーロッパで進行中の状況を理解するヒント



昨年(2018年)の11月から始まり、年を越してもいまなお完全に終息することなくつづいているフランスの「黄色いベスト」運動。デモが暴動になり、マクロン政権を揺さぶっているが、私はこの動きは、「転落した中間層」による「中央集権国家の一握りのエリート」への「反乱」だと捉えている。

フランスを扱った本ではないが、いまヨーロッパで進行中の状況を理解するヒントになる本がある。それは、『本音化するヨーロッパ 裏切られた統合の理想』(三好範英、幻冬舎新書、2018)という本だ。

著者は読売新聞の解説委員。難民問題とユーロ問題という、外在的な危機と内在的な危機の両面から問題を捉えようとしたアプローチだ。そのため、できるだけ「現場」に近い一般人のホンネをすくい上げようと試みている。

外在的な危機とは、「難民問題」と「ロシア」。内在的な危機とは、「ユーロ問題」から発生したヨーロッパ域内の分裂状況。著者の専門のドイツを中心に、ことしの9月にギリシア、バルト三国の取材を行っている。

帯のコピーがすべてを表現しているといえよう。「エリートの建前は、もう聞き飽きた」、「溜まり続ける怒りのマグマ」。つまりホンネが噴出している、ということだ。

もともとエリートと一般人が乖離しているのがヨーロッパだが、危機が深まるにつれて、一般人のエリートへの怒りが「ポピュリズム」という形で表面化しつつある。そう考えれば、フランスの状況は、その端的な表れと見るべきだろう。「ポピュリズム」という表現にネガティブなものだけを見るのはやめたほうがいい。

誰だって生活が脅かされたら、理念よりも現実のほうが大事だと思うのは当然だろう。マズローの欲求段階説を持ち出すまでもなく、本能的な防衛反応といっていい。経済的な余裕がなくなれば、精神的な余裕もなくなる。

どの国も余裕がないのだ。みな「●●ファースト」だと内心では思っているのではないか? その意味では、ヨーロッパの状況は、けっして対岸の火事ではないはずだ。日本人は、自分の身の上に読み替えてみたらいい。


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目 次
序章 過ぎ去らない危機 
第Ⅰ部 難民とロシア 二つの最前線 
 第1章 レスボス島のEU旗 
 第2章 泥濘のリトアニア 軍演習場へ 
第Ⅱ部 右傾化と分断 内在化する脅威 
 第1章 難民受け入れの現場から 
 第2章 ポピュリズムの実相 
 第3章 ユーロが生む貧困と格差 
 第4章 漂流するヨーロッパ 
あとがき


著者プロフィール 
三好範英(みよし・のりひで) 
1959年、東京都生まれ。東京大学教養学部相関社会科学分科卒。1982年、読売新聞入社。1990~93年、バンコク、プノンペン特派員。1997~2001年、2006~08年、2009~13年、ベルリン特派員。現在、編集委員。著書に『特派員報告カンボジアPKO 地域紛争解決と国連』『戦後の「タブー」を清算するドイツ』(ともに亜紀書房)、『蘇る「国家」と「歴史」 ポスト冷戦20年の欧州』(芙蓉書房出版)、『メルケルと右傾化するドイツ』(光文社新書)。『ドイツリスク 「夢見る政治」が引き起こす混乱』(光文社新書)で第25回山本七平賞特別賞を受賞。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


<ブログ内関連記事>

書評 『ドイツリスク-「夢見る政治」が引き起こす混乱-』(三好範英、光文社新書、2015)-ドイツの国民性であるロマン派的傾向がもたらす問題を日本人の視点で深堀りする

JBPress連載コラム第41回目は、「デモと暴動の国、露わになったフランスの本質-国を動かすのは「一握りのエリート」」(2018年12月18日)

中流社会が崩壊に向かい格差社会が進行している現代ドイツの状況を知る3冊-『そしてドイツは理想を失った』『メルケルと右傾化するドイツ』『ドイツ帝国の正体ーユーロ圏最悪の格差社会-』

書評 『ビジネスパーソンのための世界情勢を読み解く10の視点-ベルリンの壁からメキシコの壁へ-』(森千春、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2017)-「冷戦後」の世界情勢を「現場」で読み抜いてきた国際報道記者の視点

書評 『ブーメラン-欧州から恐慌が返ってくる-』(マイケル・ルイス、東江一紀訳、文藝春秋社、2012)-欧州「メルトダウン・ツアー」で知る「欧州比較国民性論」とその教訓


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2017年12月7日木曜日

映画『希望のかなた』(2016年、フィンランド)を見てきた(2017年12月4日)ー「難民」の身に立場を置いて考えることを見る者に促す良質な映画

(渋谷のユーロスペース 筆者撮影)


フィンランド映画 『希望のかなた』(2016年、アキ・カウリスマキ監督)を見てきた(2017年12月4日)。「難民」の身に立場を置いて考えてみることを促すきわめて良質な映画だ。

アキ・カウリスマキは、フィンランドを代表する映画監督であるだけでなく、世界的な映画監督だ。その作品の多くは日本でも公開されている。フィンランドは人口550万人と「小国」だが、世界的に活躍する人物は少なくない。

カウリスマキ監督の作品を初めて見たのは、『レニングラード・カウボーイズ・ゴ・アメリカ』(1989年)である。

レニングラード・カウボーイズとは、超長いリーゼントに、先のとんがった長いブーツを履いた、ペンギンのような奇妙きてれつな出で立ちのフィンランドのロックバンドだが、日本公開されたのは1990年である。あたしが見たのは、米国から帰国後のことだったと思う。

この映画は、映画の登場人物であるレニングラード・カウボーイズそのものが興味の対象であり、監督のことはアタマのなかにはなかったようだ。日本の缶酎ハイのCMにも起用されており、レニングラード・カウボーイズが記憶のなかにある人も少なくないだろう。

その後みた映画が何か正確に覚えてないが、北欧フィンランドを舞台にしたシリアスな人生ドラマであったような記憶がある。『レニングラード・カウボーイズ・ゴ・アメリカ』のようなコミカルな作品とは真逆の印象があるが、シリアスとコミカルは両方ともカウリスマキ監督が好きなスタイルなのだろう。




■まさか自分が「難民」になるとは・・・

さて、 『希望のかなた』(2016年)だが、この映画は冒頭にも書いたように、「難民」の身に立場を置いて考えてみることを促すきわめて良質な映画だ。なぜなら、作中で登場人物がt語るように、「まさか自分が難民になるとは夢にも思わなかった」からだ(・・ただし、セリフは正確な再現ではない)。

主人公はシリア難民。シリア内戦に巻き込まれて空爆のため自宅が破壊され、婚約者も家族を失ってしまう。ボスにカネを借りて、難民業者の手引きで脱出することにする。

シリアから陸路でトルコ、さらにギリシアを経て、陸路でハンガリーに来たが、そこで唯一人の身内となっていた妹とはぐれてしまう。ハンガリーの右派政権が、難民の入国を阻止するために鉄条網を設置して強制排除に踏み切ったからだ。

その後、主人公はさらに移動を続け、警察に追われて貨物船に逃げ込む。その船がフィンランドに寄港したので上陸、フィンランドが自由な国であると聞いていたので、そこで難民申請を行う。だが
なぜか申請は却下され、強制送還が決定してしまう。

だが、主人公は収容施設から逃亡、右翼のゴロツキたちに暴行を加えられそうになるなど辛酸をなめるが、ふとしたことから、レストランのオーナーと出会って、働きながらかくまってもらうことになる。「難民」に対する態度は人によって異なるのだ。

そういうシチュエーションの映画であるためか、セリフの多くは英語である。主人公が難民友達としゃべるときはアラビア語、フィンランド側の登場人物たちはフィンランド語をしゃべる。

基本的にシリアスなテーマを扱った人生ドラマの映画だが、最初から最後までシリアスというわけではない。コミカルタッチのシーンも多い。主人公が働くことになったレストランだが、新たにオーナーとなったフィンランド人は、経営を軌道に乗せるため様々なアイデアを実行する。そのなかには、なぜか日本のスシを扱うレストランにしてみたりというシーンもある。ただし、日本人の視点から見ると、違和感がなきにしもあらずだが・・・。

難民となった主人公、難民をめぐる人間模様。人によって難民に対する態度はさまざまだが、この映画は、「もし自分が難民になったら?」という、ふだんは考えることもないテーマを見る人に考えさせる効果がある。


■日本人にとって「難民」を考えるヒントとは?

映画を見たあとに想起したのは、日本人が「難民」になったケースが過去にもあったということだ。

それは、敗戦後の満洲からの「引き揚げ」かもしれない。約500万人(!)の日本人が引き揚げ者として命からがら脱出して逃避行を実行したのだ。

もちろん、難民となった引き揚げ者は日本人であり、命からがら逃げた先は母国の日本であった。だからといって、すべてがウェルカムだったというわけではない。日本本土じたいが空爆による大被害を受けて敗戦後の苦境のなかにあり、難民=引き揚げ者を受け入れる余地にはきわめて乏しかったのである。引き揚げ者の受け入れが、さらなる困難を引き受けることであったからだ。

引き揚げ者の記録には、戦後空前の大ベストセラーとなった『流れる星は生きている』(1949年初版)がある。

1945年(昭和20)8月9日、ソ連軍の参戦によって満洲から脱出を余儀なくされた引き揚げ者のなかには、作家・新田次郎の妻であった藤原ていもいた。子どもをつれての満洲から朝鮮半島を経て日本にたどりつくまでの逃避行を描いた手記である。現在でも中公文庫のロングセラーである。

一方、引き揚げ者の受け入れ先となった側にもノンフィクション作品がある。『水子の譜(うた)-ドキュメント引揚孤児と女たち-』(上坪隆 、現代教養文庫、1993)である。評論家の佐高信氏がセレクトしたノンフィクション作品の一つである。

いま手元に本がないので、初版の年月日がわからないが(*注)、満洲や朝鮮半島からの引き揚げ者が上陸した博多港には、親を失った子どもたちや、逃避行のなかで暴行を受けて妊娠した女性たちもいたのである。知られざるというよりも、忘却されていた事実を掘り起こした良質なノンフィクション作品である。

(*注)その後、本がでてきたので調べたら、1979年初版と判明した(2017年12月11日 記す)


こういった満洲や朝鮮半島からの「難民」=「引き揚げ者」の記録や映画を読んだり見たりすると、世界各国で発生している「難民問題」も、日本人自身が当事者となることがあり得ないことではないことが理解されるだろう。

ここに書いたのはひとつのヒントに過ぎないが、フィンランド映画 『希望のかなた』(2016年、アキ・カウリスマキ監督)を見て、難民問題は自分とはまったく関係ない問題とは思わないことが必要だ。

要は、イマジネーションと共感の問題なのである。





<関連サイト>

映画 『希望のかなた』(公式サイト)








<ブログ内関連記事>

祝!フィンランド独立から100周年!(2017年12月6日)-JBPress連載第14回目のタイトルは、「サンタとムーミンの国に学ぶ「小国」の生き残り術-独立100周年!人口550万人のフィンランドが日本より豊かな理由

フィンランドのいまを 『エクセレント フィンランド シス』で知る-「小国」フィンランドは日本のモデルとなりうるか?

欧州に向かう難民は「エクソダス」だという認識をもつ必要がある-TIME誌の特集(2015年10月19日号)を読む

『移住・移民の世界地図』(ラッセル・キング、竹沢尚一郎・稲葉奈々子・高畑幸共訳、丸善出版、2011)で、グローバルな「人口移動」を空間的に把握する

書評 『命のビザを繋いだ男-小辻節三とユダヤ難民-』(山田純大、NHK出版、2013)-忘れられた日本人がいまここに蘇える


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2015年12月29日火曜日

映画『消えた声が、その名を呼ぶ』(2014年、独仏伊露・カナダ・ポーランド・トルコ)をみてきた(2015年12月27日)-トルコ人監督が100年前のアルメニア人虐殺をテーマに描いたこの映画は、形を変えていまなお発生し続ける悲劇へと目を向けさせる



映画 『消えた声が、その名を呼ぶ』(2014年、独仏伊露・カナダ・ポーランド・トルコ)を、東京・有楽町の角川シネマでみてきた(2015年12月27日)。100年前にトルコでおきたアルメニア人虐殺をテーマに、トルコ人映画監督が描いたヒューマンドラマだ。

いまからちょうど100年前の1915年、当時のオスマントルコ帝国の東部で、アルメニア人たちが平和に暮らしているコミュニティから物語は始まる。アルメニア人はキリスト教徒であるが、寛容の精神に貫かれたオスマン帝国においては、マジョリティのムスリムと長年にわたって平和共存してきたのだった。

豊かではないが、とくに変哲もない幸せな生活を送っていた主人公一家であったが、それは突然破られてしまう。1915年は第一次世界大戦が始まってから2年目にあたる年、ドイツ側についたトルコは英国と戦争状態にあったのだ。無慈悲にも憲兵たちに連れ去られ強制労働に従事させられる主人公、残された家族と無慈悲にも引き離されてしまうしまう。主人公の長いオディッセイはその日から始まった。

『消えた声が、その名を呼ぶ』という日本公開版のタイトルは、文字通り「声を消された」主人公の心の叫びを表現したものだ。英語タイトルはシンプルに "CUT"(カット)。ポスターにはアルメニア語の書体を模したタイトルが描かれている。


英語タイトルの Cut とは「切断」という意味だ。主人公を含めたアルメニア人の男たちは強制労働を強いられたあげく、ある日突然のこと、のどを掻き切られて処刑される。あたかも羊の息の根を一瞬にして止めるときにような遊牧民らしいやりかただ。自称「イスラーム国」の処刑のやり方もまた同じである。

のどを掻き切られて処刑されたアルメニア人の男たちだが、幸運なことに主人公だけは死を免れる。処刑執行人のトルコ人に慈悲の心があっため息の根を止められなかったのだ。主人公は生き延びることはできたが、しかし気管を切断されたため声を失ってしまう。それが日本語タイトルの「消えた声」の意味である。

「声を消された」主人公は、その後さまざまな幸運に助けられながらも砂漠を西へと横断し、東地中海はシリアのアレッポに落ち着くことになる。大戦終了後、離散した家族を求めてレバノン、そして大西洋の対岸のキューバ、北米のフロリダ、米国北西部のミネアポリス、さらにはノースダコタまで、生きる支えとなっていた双子の娘たちを探すオディッセイとして、長い長い漂流の旅が続けられる。携帯電話やスマホが普及している2015年現在では想像もつかない状態のなかで、である。

「実話にもとづく」という表示がなされていなかったので、おそらく主人公を中心とした物語はフィクションだろう。だが、その物語の背後にある「消された声」は無数にあったはずなのだ。消された声、奪われた声 を主人公である若い父親に象徴させているのであろう。




「アルメニア人虐殺」において、アルメニア側からは150万人が殺されたと主張する。「虐殺」した側とされるトルコでは6万人弱だと主張する。正確なところはわからない。いずれが正しいのかもわからない。「消えた声」の詳細はわからないまま葬りされれてしまっている。だからこそ、意訳ともいうべき日本語タイトルは、映画のメッセージをダイレクトに伝えているといえるのだ。

事件が発生した1915年という年に驚かなくてはならない。「アルメニア人虐殺」のわずか20年後にナチスドイツによる「ユダヤ人虐殺」が開始されているのである。「ユダヤ人虐殺」は、けっして「消された声」ではないが、「アルメニア人虐殺」はそれ自体が多くの人々の意識に上ることすらない。

第一次世界大戦はオスマントルコ帝国の崩壊をもたらしたが、帝国末期の混乱状況においてオスマン帝国の特色であった「寛容の精神」は失われ、不寛容の嵐が吹き荒れたのである。オスマン帝国崩壊後、支配下にあったアラブ民族もアルメニア民族も独立を果たすことになる。アラブ民族独立のために奔走したのがアラビアのロレンスであった。

この映画の前半を見ていて、いままさに進行中の自称「イスラーム国」による住民の蹂躙(じゅうりん)を想起してしまうのは、のどを掻き切る処刑シーンだけではない。英仏による帝国分割の密約にもとづいて建設されたイラク解体後の自称「イスラーム国」の支配が、ふたたび同じ問題を生み出しているからだ。

自分たちの意思にかかわりなく占領され、自由を奪われた住民たちの苦難、そのなかから、からくも難民として脱出することのできた人々のことが重ねあわされるからだ。

島国・日本に生きていると体感しにくいが、規模の大小はあれ、このような惨事がたびたび起きてきた。ユーラシア大陸でも、南北アメリカ陸でも、アフリカ大陸でも。そして犠牲になるのはいつも一般人である。大多数は「声なき人々」である。

この映画は、けっして100年前の過去を描いたものではない。虐殺した側を糾弾する内容でもない。その後の100年間に起きた、そしていまこの現在も世界各地で起きている人道上の悲劇に目を向けさせるための映画なのだ。





<関連サイト>

映画『消えた声が、その名を呼ぶ』 公式サイト

映画『消えた声が、その名を呼ぶ』 トレーラー(YouTube)
・・日本語字幕あり


僕が「アルメニア人大虐殺」を題材にした理由 ファティ・アキン監督が語るタブーへの挑戦(壬生智裕 :映画ライター、東洋経済オンライン、2016年1月9日)
・・「この映画を作ったことで、特にファシスト系の人から死の宣告を受けて、脅されることもあった。でもそんなことをされると逆にアドレナリンが放出されてくるんだ。それは最高のドラッグみたいなもんだよね。(・・中略・・) ある種のパブリックエネミー(社会の敵)になってしまったんだよね。彼らは本気で僕を殺そうとは思っていないんだろうけども、少なくとも気軽にトルコに行けなくなったという事実が僕にはある。」(ファティ・アキン)

(2016年1月10日 情報追加)

「渋沢栄一は国の恩人」 アルメニア難民支えた知られざる歴史」(NHK首都圏ナビ 2021年10月6日)
・・「今年7月、東京オリンピックの開会式に出席するため訪日中だったアルメニアのアルメン サルキシャン大統領は東京都北区を訪れ、渋沢栄一のひ孫、渋沢雅英さん(96)にメダルを手渡しました。いまから100年前、渋沢がアルメニア難民に差しのべた支援に対する感謝の念を表すためです。「日本資本主義の父」渋沢栄一が晩年に尽力した人道支援、国際貢献についてお伝えします」

(2022年4月20日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

■アルメニア人と中近東のキリスト教徒

ブランデーで有名なアルメニアはコーカサスのキリスト教国-「2014年ソチ冬季オリンピック」を機会に知っておこう!

書評 『新月の夜も十字架は輝く-中東のキリスト教徒-』(菅瀬晶子、NIHUプログラムイスラーム地域研究=監修、山川出版社、2010) ・・中東においては、イスラームよりも、おなじ一神教のキリスト教のほうが歴史がはるかに長い!


■虐殺と難民発生

欧州に向かう難民は「エクソダス」だという認識をもつ必要がある-TIME誌の特集(2015年10月19日号)を読む
・・シリア難民は虐殺を逃れてきた人々だ

映画 『アクト・オブ・キリング』(デンマーク・ノルウェー・英国、2012)をみてきた(2014年4月)-インドネシア現代史の暗部「9・30事件」を「加害者」の側から描くという方法論がもたらした成果に注目!
・・1965年のインドネシアでは100万人以上が虐殺された

ボリウッド映画 『ミルカ』(インド、2013年)を見てきた-独立後のインド現代史を体現する実在のトップアスリートを主人公にした喜怒哀楽てんこ盛りの感動大作
・・インド独立後にパキスタンとの国境地帯で起きた大虐殺

ハンガリー難民であった、スイスのフランス語作家アゴタ・クリストフのこと
・・1956年のハンガリー革命後、難民となってスイスに定住したハンガリー人作家

『移住・移民の世界地図』(ラッセル・キング、竹沢尚一郎・稲葉奈々子・高畑幸共訳、丸善出版、2011)で、グローバルな「人口移動」を空間的に把握する


■自称「イスラーム国」 

書評 『イスラム国-テロリストが国家をつくる時-』(ロレッタ・ナポリオーニ、村井章子訳、文藝春秋、2015)-キーワードは「近代国家」志向と組織の「近代性」にある

「イスラーム国」登場の意味について考えるために-2015年1月に出版された日本人の池内恵氏とイタリア人のナポリオーニ氏の著作を読む


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2015年10月28日水曜日

欧州に向かう難民は「エクソダス」だという認識をもつ必要がある 1― TIME誌の特集(2015年10月19日号)を読む



ひさびさに TIME誌の印刷版を購入して読んだ。なぜなら欧州の難民問題が総力をあげて特集されているからだ。

正式なタイトルは、 Special Report  EXODUS : The Epic Migration To Europe & What Lies Ahead (特集エクソダス: 欧州への大規模人口移動とその先にあるもの)。2015年10月19日付け号である。

欧州の難民問題はエクソダス(EXODUS) であるという認識である。エクソダスとはギリシア語で大脱出という意味だ。旧約聖書の『出エジプト記』のことでもある。

今回の100万人規模を越える難民発生は勢いが止まらず、ロシアのポグロムや、ナチスドイツの迫害でユダヤ難民が大量発生した第二次世界大戦以後では最大規模のものとなっている。ちなみに、日本で『栄光への脱出』(1960年)として公開されたポール・ニューマン主演のイスラエル建国を描いた映画は、原題は EXODUS という。


(ユダヤ系のポール・ニューマン主演の『栄光への脱出』)


シリア難民問題のようなテーマについては、日本のジャーナリズムではカバー不可能だろう。たとえ問題の深刻さの認識を理解できたとしても、地理的に遠く、語学力がフルに必要とされる分野で大規模な取材を行うことはコスト的に割が合わないからだ。需要サイドの日本語読者の関心を引くかという問題でもある。

EXODUS という見出しを全面に出しているのは、英国を代表する The Economist も同様だ。現在、シリア難民の多くがドイツを目指しており、ドイツもまた受け入れを表明しているとはいえ、難民問題が欧州全体の問題であるという認識があるためだろう。英米を代表するメディアがともにエクソダスという認識をもっていることは興味深い。




欧州の難民問題にかんしては、英国も含めた欧州は歴史的な経緯を含めて「当事者」であるが、大西洋をはさんで対岸にある米国はかならずしも直接の当事者とはいえない。

だが、難民を含めた移民問題にかんしては、大規模に移民を受け入れ、それが活力を生み出してきた「先進国」としての認識が米国にはある。そういう視点から書かれたのが TIME誌の特集記事である。

中東からのシリア難民は陸伝いにトルコまできて、密航船でトルコから対岸のギリシアに渡り、バルカン半島を北上して陸路でドイツを目指す。アフリカ難民もまた密航船で地中海を渡るが、最短距離のシチリアから入って、イタリアから北上する。

TIME でも The Economist でもそうだが、表紙に使用された写真をみればわかるとおり、関心はもっぱらシリア難民に向かっている。第二次大戦時のユダヤ難民を読者に想起させることを意図しているようだ。

難民認定されたら、シリア難民を労働力不足解消策として活用することを期待している関係者も少なくないようだ。なぜなら、シリア難民は比較的教育程度も高く、スマホを使いこなしている者が少なくないからだ。受け入れコストはかかるが、それに見合った(?)ベネフィットがあると見ているのかもしれない。そういえば、亡きスティーブ・ジョブスの実の父親はシリア系の米国移民であった。

これに対してアフリカ難民にかんしては、難民を乗せた密航船が沈没するとニュースにはなっても、シリア難民ほど大きなニュースにはならない。しかも、単独で脱出してきた未成年者が多く、十分な教育を受ける機会がなかった者が多い。一方的なコスト増加要因になるのではないかと懸念があるようだ。

TMIE誌の特集は、密航ビジネスの実態なども含めた難民問題の現地レポートも読ませるが、全体的にドイツを模範としてみる視線があるような印象を受ける。ユダヤ人虐殺を行ったナチスドイツの轍はぜったに踏まないという決意が生み出した理想主義はすばらしいものがある。だが、ユーロ危機と同様に、そのドイツの姿勢がEU内で不協和音を生み出していることに注意する必要がある。

その意味では、特集のなかにある 「Gゼロ」論のイアン・ブレマー(Ian Bremmer)氏の論文が重要だ。Europe Divided. The migrant crisis tests the limits of E.U.cooperation (分断される欧州:難民危機はEUの協力関係の限界をテストする)は、難民問題をめぐって対立するEU加盟国間の対立が、欧州統合に冷戦崩壊後かってなかった危機的状況をもたらしていると結論している。国境線をなくして移動の自由を確保するという理念そのものが問われているからだ。

そもそも移民受け入れにかんしては、欧州の先進国のあいだでも一枚岩でないことは、内藤正典氏による『ヨーロッパとイスラーム-共生は可能か-』(岩波新書、2004)など読めばわかることだ。いまはウェルカム一色のシリア難民受け入れだが、じっさいに移住先で定着するというフェーズに入っていくと、さまざまな軋轢(あつれき)が生まれてくることだろう。

難民問題は、日本も無関係ではない。人口減少と労働力不足が顕在化している現在、問題解決の手段の一つとして日本も難民受け入れを検討すべきなのではないかと思うのだが・・・。

冷戦崩壊後の秩序崩壊で大量に発生した難民問題の解決を、国連難民高等弁務官として新緑下のが日本人の緒方貞子氏であったことを忘れるべきではない。



PS TIME の印刷版を読むのはひさびさだが、文字がえらく小さくて読みにくいのには閉口した。スマホやタブレットであればスワイプして文字を拡大できるし、PCでも文字サイズは自分で設定できるのだが、印刷版ではそれができないのだ。記事の中身とは直接関係ないが、正直な感想として付記しておく。

PS2 シリア難民のなかにテロリストが紛れこんでいたことが、ついに2015年11月13日(金)にパリで起きた同時多発テロによる無差別殺人という悪夢となってしまった。この事件が、シリア難民の受け入れにいかなる影響を及ぼすか、日本人としても注視しなくてはなるまい。(2015年11月20日 記す)。

PS3 ドイツのケルンで2015年の年末に発生した女性をターゲットにした500件近い暴行と窃盗事件の容疑者の大半が、難民申請を行っていた北アフリカと中近東出身であり、しかも計画的な犯罪行為であったことが、ドイツ国内で難民受け入れに対する反発を引き起こし始めている。この事件がメルケル首相の理想主義に過ぎる政策への逆風となっているのは、当然といえば当然といえよう。理想はつねに現実によって裏切られるものだ。しかし、だからといって難民受け入れそのものに NO というのは短絡的に過ぎるのではないか。冷静な議論が必要だろう。(2016年1月11日 記す)

上記の事件にかんしては、下記の The Economist の記事を参照。中近東の「男」の常識は、欧州では通用しないということだ。まさに正論である。
Migrant men and European women To absorb newcomers peacefully, Europe must insist they respect values such as tolerance and sexual equality (The Economist,  Jan 16th 2016)





<ブログ内関連記事>

『移住・移民の世界地図』(ラッセル・キング、竹沢尚一郎・稲葉奈々子・高畑幸共訳、丸善出版、2011)で、グローバルな「人口移動」を空間的に把握する


■ユダヤ難民

書評 『諜報の天才 杉原千畝』(白石仁章、新潮選書、2011)-インテリジェンス・オフィサーとしての杉原千畝は同盟国ドイツからも危険視されていた! ・・ユダヤ難民

書評 『命のビザを繋いだ男-小辻節三とユダヤ難民-』(山田純大、NHK出版、2013)-忘れられた日本人がいまここに蘇える
・・ユダヤ難民

書評 『命のビザを繋いだ男-小辻節三とユダヤ難民-』(山田純大、NHK出版、2013)-忘れられた日本人がいまここに蘇える
・・ユダヤ難民

映画 『ハンナ・アーレント』(ドイツ他、2012年)を見て考えたこと-ひさびさに岩波ホールで映画を見た
・・ナチスドイツによるユダヤ難民とイスラエル建国

『パリのモスク-ユダヤ人を助けたイスラム教徒-』(文と絵=ルエル+デセイ、池田真理訳、彩流社、2010)で、「ひとりの人間のいのちを救うならば、それは全人類を救ったのと同じ」という教えをかみしめよう
・・ユダヤ難民


■シリアなどのレバント(=東地中海)

書評 『新月の夜も十字架は輝く-中東のキリスト教徒-』(菅瀬晶子、NIHUプログラムイスラーム地域研究=監修、山川出版社、2010)


■その他の難民問題

ハンガリー難民であった、スイスのフランス語作家アゴタ・クリストフのこと
・・1956年のハンガリー革命(=ハンガリー動乱)で亡命を余儀なくされた難民

書評 『香港バリケード-若者はなぜ立ち上がったのか-』(遠藤誉、深尾葉子・安冨歩、明石書房、2015)-79日間の「雨傘革命」は東アジア情勢に決定的な影響を及ぼしつづける
・・「難民的メンタリティ」をもっている香港第一世代との違い

ボリウッド映画 『ミルカ』(インド、2013年)を見てきた-独立後のインド現代史を体現する実在のトップアスリートを主人公にした喜怒哀楽てんこ盛りの感動大作
・・「シク教徒の多いパンジャーブ地方は、インドとパキスタンの国境地帯にあり、現在のパキスタンにあったミルカの一族は立ち退きを拒否して戦うことを選択したために皆殺しにされ、生き残ったミルカとその姉は難民となってインド側に命からがら逃れることになったのである。自分の目の前で家族が惨殺されるという残酷な体験がトラウマとなり、ときにフラッシュバック現象となってミルカの人生を苦しめつづけることになる。」

(2015年11月11日 情報追加)


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