ドイツ映画の『Uボート』(1981年)のディレクターズカット版(1996年)と、アメリカ映画の『原子力船浮上せず』(1977年)をDVDで2本続けて見た。
ずいぶん前だが、冷戦時代の米ソ対立を潜水艦の世界を舞台に描いた、トム・クランシー原作でショーン・コネリー主演の『レッド・オクトーバーを追え』は見ているが、上記2本は見たことがなかったからだ。見たいと思いながらも、ずいぶん月日がたってしまった。
『Uボート』は、ドイツが第一次世界大戦から実戦投入した潜水艦だ。Uボートとは、ドイツ語の Unterseeboot の略。Untersee とは、英語でいえば under the sea のことである。水面下を航海するボートということになる。
「通商破壊作戦」で多大な成果をあげて、「7つの海」を支配していた英国を中心とする連合国を震え上がらせた存在であった。「無差別潜水艦作戦」の宣言によって、図らずも米国の参戦を招いて、結果的にドイツの敗戦につながったことは「意図せざる結果」の実例として数えることができるだろう。あまりにも強すぎるドイツが、かえってドイツ敗戦をもたらした皮肉。
映画『Uボート』は、舞台背景は第二次世界大戦末期、ドイツの敗色が濃くなりつつあった時代、占領地フランス北部の軍港から出航したUボートの最期までが描かれる長編映画である。
ディレクターズカット版の『Uボート』は209分ときわめて長い。3時間以上もある。正直いってくたびれた。見るのに体力を要する。だが、後半の1/3の、攻撃によって海底に沈没したU96潜水艦が自力で浮上を試みるシーンは、重苦しくて精神的圧迫感を受けながらも、手に汗握る思いがした。予想外のラストシーンには、さすがヨーロッパ映画だな、という感慨をもつ。予定調和でハッピーエンドが常道のハリウッド映画にはありえない結論だ。
『Uボート』で印象的ななのは、艦長はじめ士官クラスが、ときおり英語を交えてしゃべっている点である。潜水艦内で「遥かなティペラリー」(It's a Long Way to Tipperary)を合唱するシーンもあった。交戦国の英国で、第一次世界大戦で流行した歌謡曲である。いったん航海が始まれば、完全に艦長が支配する世界となる潜水艦においては、ヒトラーに迎合する姿勢がいっさい見られないのである。
『原子力船浮上せず』(原題は Gray Lady Down)は、日本語タイトルどおり、大型船との接触事故でノルウェー沖の大西洋の海底に沈没した潜水艦が、紆余曲折を経ながら救助される救出作戦とを描いた作品だ。退役間近で最後の航海となった艦長のリーダーシップと、部下の犠牲に直面して苦悩する内面を描いたものでもある。こちらも重苦しくて精神的圧迫感を受けながらも、手に汗握る思いで最後の最後まで引きつけられた。
第二次世界大戦で猛威を振るったドイツ海軍のUボートはディーゼルエンジン、1970年代のアメリカ海軍は原子力エンジン。1970年代の米国の原子力潜水艦(・・これは、まさに米ソ冷戦時代)と比べると、1940年代のディーゼルエンジンのUボートがなんと牧歌的なことか、という印象を受ける。
映像を見ていると、基本性能だけでなく。居住性の違いも歴然としている。Uボートの居住性の悪さは、かなり印象的だ。バラストを海水だけでなく、隊員の移動でおこなっている。
この2つの映画に共通するのは、「沈没した潜水艦」が浮上するというテーマだ。ジブラルタル海峡の強行突破作戦に失敗し、連合軍の攻撃で沈没してしまった『Uボート』では、自力での再浮上に成功し、大型船との衝突で海底に沈没した『原子力潜水艦浮上せず』では救出作戦によってかろうじて隊員が脱出できる設定になっている。
「沈没した潜水艦」は、文字通り「鉄の棺桶」状態。浮上できなれば全員死ぬことになる。兵と下士官 だけでなく士官クラスにも、パニックで精神に変調を来してしまう者がでてくるのも当然だろう。
結局のところ、乗組員の命が助かるかどうかは艦長のリーダーシップ次第なのだということなのだ。沈着冷静な態度に徹し、弱音は絶対に部下の前では吐かない、弱気な態度は絶対に部下の前では見せない。弱気は不安を呼び起こすからだ。
潜水艦映画とは、つまるところ「リーダーシップの教科書」なのだな、と。
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