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2022年6月11日土曜日

書評『アメリカはいつも夢見ている-はた迷惑だけど自由な「夢の国」が教えてくれること』(渡辺由佳里、KKベストセラーズ、2022)-依然としてアメリカにはポジティブな側面もある

 

アメリカ人と結婚して1995年から30年以上、東海岸のボストン近郊に暮らしてきた著者によるエッセイ集。

ネット媒体の雑誌に掲載した文章に加筆修正したものを1冊にしたものだが、なんといっても分量が多くて本も重い。ぜんぶ読むのに2日かかった。 

アメリカというと、問題が山のようにあって、さまざまな分野でネガティブなイメージで語られることが多い今日この頃だが(というよりも、いつものことか?)、かならずしもそれだけがアメリカではない。 

ポジティブな側面も少なからずあることを、さまざまな側面を切り取って描いた48編の文章からなっている。それぞれが読み切りの文章だが、テーマとしては5つに編集されている。 

第1章 人を幸せにするささやかな冒険
第2章 幸せを呼ぶ仕事とお金の発想転換
第3章 「知る」ことで自分が変わる恋愛のルール
第4章 いまさら質問しにくい#MeTooムーブメントの実際
第5章 せちがらい世の中で楽しく生きるコツ

年間200冊の洋書を読んで、レビューを書くこともやっている人だけあって、単なる印象記とはまったく異なる深みがある。メディアで話題になっていること、なにげない出来事などを題材に、生活視点で自分を語り、アメリカを語る。そんな文章だ。 

ジャンルとしてはなにに分類されるのだろうか。人生ものエッセイというべきか、生き方の本というべきか。ポジティブな側面を描いたとはいっても、もちろん「ポジティブ・シンキング」教の人たちのような押しつけがましさはない。 

日本生まれの日本人が、日本語で表現した文章だから、自分がそのなかにいるアメリカ社会を観察する視点は、あくまでも複眼的で、しかもやや距離をおいたものだ。その絶妙な距離感が読んでいて心地よい。 

人生体験をつうじて、60歳を過ぎた著者はストア派的な境地に落ち着いているような印象を受けた。自分をめぐる世界でなにが起きようが、それがたとえネガティブなものであろうと、すべては心の持ち方次第ということ。これは大事なマインドセットだ。 

その意味では、やはり「生き方の本」ということになるのだろうな、と。かつてその社会のなかで過ごし、幅広く旅した経験をもつわたしは、大いに共感しながら読んだ。
 



著者プロフィール
渡辺由佳里(わたなべ・ゆかり)
エッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家。助産師、日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、1995年よりアメリカ在住。ニューズウィーク日本版に「ベストセラーからアメリカを読む」、ほかに cakes、FINDERS などでアメリカの文化や政治経済に関するエッセイを長期にわたり連載している。また自身でブログ「洋書ファンクラブ」を主幹。年間200冊以上読破する洋書の中からこれはというものを読者に向けて発信し、多くの出版関係者が選書の参考にするほど高い評価を得ている。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。書籍と翻訳で多くの作品がある。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


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