映画『ナワリヌイ』(2022年、米国)を日本公開初日に見てきた。
米国のCNNとHBOの共同製作によるドキュメンタリー映画。原題は、Navalny といたってシンプルなものだ。98分。
アレクセイ・ナワリヌイ氏は、ロシアの反体制派の弁護士でプーチンの「天敵」。2021年に拘束され、いまなお収監されたままだ。最近、さらに厳しい監獄に移送されたというニュースがあった。
「反プーチン」の政治活動のため10年間収監されていたのは、元オリガルヒのミハイール・ホドルコフスキー氏であったが、かれがロンドンに亡命したあとは、この人がプーチン体制に対する抵抗のシンボルとなっている。
正直いって、以前はナワリヌイ氏には、それほど関心はなかった。状況が変化したのは、世界中を震撼させた、2021年のシベリアでの毒殺未遂事件以降のことである。
このドキュメンタリー映画もまた、毒殺未遂事件以降のナワリヌイ氏を密着取材したものだ。ナワリヌイ氏自身の母語はロシア語だが、英語でしゃべるシーンもある。
西シベリアのノヴォシビールスク発モスクワ行きの機中で、あやうく死ぬところだったがナワリヌイ氏。途中のオムスクで緊急着陸したことで、奇跡的に一命を取り留めた。
関係者の懸命の努力の甲斐あって、ドイツに移送して専門病院での治療が可能となった。ロシアにとどめ置かれたままだったなら、病院で死亡していた可能性は高い。 化学兵器ノビチョクによる毒殺未遂であったこともわからないままだったことだろう。
このドキュメンタリー映画のハイライトは、英国の民間調査機関ベリングキャットの協力で、突き止めた毒殺犯人たちを追い詰めるシーンだ。
偽名をつかって犯行当事者の証言を引き出したのは、ナワリヌイ氏本人。この一部始終がビデオで撮影されているのだが、ナワリヌイ氏の演技力には脱帽だ。
その後、ナワリヌイ氏は配偶者とともに、ドイツからロシアに機帰国するのだが、案の定、空港で警察に拘束される。
このシーンを見ていて、はからずもマルコス時代のフィリピンで、反体制派ベニグノ・アキーノ上院議員が亡命先の米国から帰国した際に空港で射殺されたことを思い出した。 大物の反体制派が帰国するのは、文字通り命がけなのである。
ナワリヌイ氏は拘束されたが、殺害されることはなかった。もはや殺害はできないほど有名になっているのである。体制側としても、ナワリヌイ氏が「殉教者」になってしまうのは不都合なのだ。 「生かさぬよう、殺さぬよう」といった扱いなのだろう。
毒殺未遂事件以降の一連のできごとはニュースになって報道されているのだが、その間のほぼすべてが関係者によってビデオ撮影されており、その映像を見ると、やはり事実のもつ迫力を感じざるを得ないのである。
ナワリヌイ氏が解放されるのは、いつの日のことかまったくわからない。おそらく、そう遠くない将来にプーチン氏が退任しても、いわゆる強権体制そのものが解体する可能性は低い。 したがって、ナワリヌイ氏の早期の解放は期待できない。
ロシアに残っている反体制派は、かならずしも量的に多いとはいえない。しかも、そういう傾向をもった知識階層の若者たちの多くが出国している。
とはいえ、米英を中心とした西側自由主義諸国にとっては「反体制」のシンボルとしての意味がありつづけるだろう。それにしても、恐ろしい国だな、プーチン体制のロシアはと思わざるをえない。
あまり期待しないで見に行ったのだが、見る価値のある映画であった。ウクライナ戦争のまっただ中での時期の公開になったのは、意図的なものかどうかわからない。だが、間違いなく大きな意味をもつことであろう。
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PS ナワリヌイ氏の死(2024年2月17日)
報道によれば、ロシアの極北の刑務所に収監されていたナワリヌイ氏が死亡したという。2024年2月16日のことだという。享年47歳。
死因は不明となっているが、事実上の抹殺といっていいのではないか? 前日まで元気だったというのだから。ナワリヌイ氏は、すでに毒殺未遂事件を体験していることは周知のとおりだ。
このドキュメンタリー映画では、あえて危険を冒してロシアに帰国し、空港で拘束されるシーンで終わっている。最初から覚悟の行為であったと思うが、それにしてもナワリヌイ氏の死は残念だ。この場を借りて哀悼の意を表します。合掌
昨年(2023年)の夏には反乱を起こしたプリゴジンは、その後に抹殺された。そして今回はナワリヌイ氏の死亡。ロシアに未来がないことは、さらにハッキリしたことになる。
そもそもロシアという国はそういう国であるといってしまえばそれだけだが、「プーチン体制」によって私物化されたロシア。変化が訪れる日は来るのだろうか?
(2024年2月17日 記す)
<関連サイト>
Navalny (film)
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