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2022年6月24日金曜日

書評『サイロ・エフェクト ー 高度専門化社会の罠』(ジリアン・テット、土方奈美訳、文藝春秋、2016)ー「インサイダー兼アウトサイダー」の視点で「人類学的思考」を活用して「サイロ」を壊せ!

 
先日(2022年6月2日)のことだが、ソニーの元CEOだった出井氏がお亡くなりになった。享年84。ご冥福をお祈りします。合掌 

20世紀末の1995年、華々しい登場とマスコミが絶賛したソニー改革。ネット時代を見据えたハードとソフトの融合、「カンパニー制」の採用は、当時のビジネス界では流行というべきものになった。 

ところが、ウォークマンで一世を風靡したソニーだが、新製品開発で iPod を送り出したアップルに敗退。ソニーの原点である「ものづくり精神」の破壊だという非難の集中砲火を浴び、約10年後の苦渋に満ちた退陣。 

出井氏にかんしては、まだまだ評価の定まらないところもあるが、同時代に生きたビジネスパーソンとして、いろいろ思うことは多い。 


日本人ビジネスパーソンにとって「サイロ」とは未知のことばと概念だった

2005年に出井氏が抜擢した後継者は、英国生まれで放送業界出身のストリンガー氏だった。日産のカルロス・ゴーン氏など、外国人経営者が脚光を浴びていた時代だ。 

そのストリンガー氏が就任時にマスコミ会見で語った のが、「サイロを壊せ」というフレーズだった。 

「サイロ」ってなに? リアルタイムでそのフレーズを耳にしたとき、正直いってその意味がわからなかった。北海道の牧場で飼料の穀物を貯蔵している金属製のタワーのこと??? 1992年まで米国にいたが、その時点では「サイロ」ということばを耳にしたことがなかったからだ。 

その後、「サイロ」(silo)というのは、悪しき専門分化のことで、日本語でいえば「タコツボ」のようなものだとわかったが、いまひとつ「サイロ」ということばのもつニュアンスがよく理解できなかった。 英語のビジネス雑誌で silo ということばを目にするようになったものの、日本語人にはいまひとつピンとこないのは仕方あるまい。

その後、『サイロ・エフェクト-高度専門化社会の罠』(文藝春秋、2016)という本が出版されていいることを知った。ストリンガー発言から10年後のことだが、ずいぶん時間がたってからだが、日本人ビジネスパーソンは、ふたたび「サイロ」ということばに出会ったわけだ。  

しかも、著者は金融ジャーナリストのジリアン・テット氏。長銀破綻を描いたノンフィクション『セイビング・ザ・サン』の著者の新著がそれであった。 



■『ANTHRO VISION(アンスロ・ビジョン)』とあわせて読むべき本

つい先頃、ジリアン・テット氏の最新刊の『ANTHRO VISION(アンスロ・ビジョン)-人類学的思考で視るビジネスと社会』(日本経済新聞出版社、2022)を読んだが、積ん読のまま気にはなっていた『サイロ・エフェクト』も読むことにした。読む順番としては逆になるのだが、まあそれは仕方ない。 

だが、『サイロ・エフェクト』を読み出して思ったのは、『ANTHRO VISION(アンスロ・ビジョン)』とセットで読むべき本であって、べつに読む順番はどっちが先でもかまわないというものだった。 

というのは、最新刊の『ANTHRO VISION(アンスロ・ビジョン)』は、著者のバックグラウンドである社会人類学をどうつかってビジネスと世界を解読するかという、いわば「応用人類学」ともいうべき内容の本で、さまざまな事例を取り上げながら応用可能な概念の解説も行っている。 

『サイロ・エフェクト』では、人類学的思考を用いて「サイロ」がもたらす問題とその解決の方向性に絞り込んで考察している。 つまり、『ANTHRO VISION(アンスロ・ビジョン)』では、『サイロ・エフェクト』で行った人類学的思考の有効性を踏まえたうえで、さまざまな事象の分析に人類学的思考が有用だとする内容になっているので、両者をあわせ読むことで、より理解が深まるわけなのだ。 


■「専門分化」のメリットとデメリット

専門分化は、現代社会において必要不可欠のものである。

しかしながら、組織内で部門が固定化することによって、部門どうしのコミュニケーションが阻害され、イノベーションの機会が失われてしまう。 これは、きわめて大きな弊害だ。

その最たる事例が、さきにみた出井氏時代のソニーであった。これは「第2章 ソニーのたこつぼ」で詳しく描かれている。退任後のストリンガー氏へのインタビューにもとづいた記述は、かれが就任時に発言した「サイロを壊せ」の真意がどこにあったのかを理解することを可能にしている。 

「サイロ」に起因する問題が失敗を招いたのはソニーだけではない。多かれ少なかれ、組織が大きくなるにつれて発生する問題だ。

組織は大きくなればなるほど、専門分化が進み、専門分化されたユニットどうしのコミュニケーションが阻害されていくようになる。 

自分が属している「サイロ」こそ世界となり、それ以外の「サイロ」が別世界となってしまう。おなじ組織に属していても、そうなってしまうのが怖いところである。いや、そのこと自体に気がつかなくなり、自覚症状がなくなることこそが恐ろしいのである。

「第3章 UBSはなぜ危機を理解できなかったのか?」で取り上げられた UBS はスイスの金融機関だが、長銀破綻の間際に提携先の長銀を食い散らかしたUBSもまた「盛者必衰」だったことを改めて見つめることは、わたしにとってはなかなか感慨深い。 

UBSのケースにおいて「サイロ」にこもった専門家たちには、「リーマンショック」の本質が見えていなかったのだ。 


ブルデューを社会学者ではなく人類学者として捉える斬新な視点

 『サイロ・エフェクト』を貫いているのは、フランスの「人類学者」ピエール・ブルデューの分析枠組みである。

「第1章 人類学はサイロをあぶりだす」でやや詳しく解説されている。 著者はこの章は飛ばしても問題ないとしているが、わたしにはこの章こそが重要だと思う。繰り返し読んだほうがいい。 

(ピエール・ブルデュー 1930~2002 Wikipediaより)

ブルデューは、一般的には「社会学者」として知られている(・・といっても、専門家とその周辺を除いては、まだまだ日本での知名度は高くないだろうが)。

そのブルデューを「人類学者」として位置づけ、初期のアルジェリア時代とフランスの地方でのフィールドワークで発揮された「人類学的思考」に重点をおいて捉えているのが興味深い。 

「見えないものを見る、語られていないことを知る」という「インサイダー兼アウトサイダー」の視点である。地方の農村出身で、もともと哲学専攻だったブルデューが獲得した視点こそ、人類学的思考そのものであったのだ。 

著者は、一貫して「人類学者ブルデュー」としており、わたし自身も認識をあらためる必要ながあるなと思っているところだ。おそらく「ブルデュー社会学」の信奉者たちの視野には入ってこないだろうが。 


「人類学的思考」とは「インサイダー兼アウトサイダー」の視点

社会が高度化すればするほど、求められる専門知識も高度化し、それに対応するために専門分化がさらに進んで「サイロ」化が進行しやすい。 まずは、その事態に自覚的になることが必要だ。

「人類学」そのものを学問として学ぶ必要はないが、「人類学的思考」を身につけることは重要だ。 言い換えれば「インサイダー兼アウトサイダー」の視点をもつことである。

そのためには、いわゆる「コンフォート・ゾーン」を飛び出して、いままでとは違う世界に飛び込んでみるのが手っ取り早い。転勤(国内外)や転職(同業他社、あるいはまったくことなる仕事)、学び直しなど、ビジネスパーソンにできること、やるべきことは多い。

そこで得た「気づき」は、無意識のうちにあらたなフィールドで「人類学的思考」を行った結果なのだ。自分の経験のなかで、俯瞰的な視点から「比較」を行うのである。 

ジリアン・テット氏の著書2冊を読んでいて思い出したのは、そういえば、ちょうど10年前におなじような趣旨のことを自分の著書に書いていたな、ということだ。 

『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』(こう書房、2012)がそれである。自分にとっては当たり前すぎて、かえって自覚してなかったということか。 

いずれにせよ、「インサイダーでありながらアウトサイダー的にものを見る」という思考のフレームワークは、きわめて重要だ。

ジリアン・テット氏もまた、本人が属している「フィナンシャル・タイムズ」とメディア業界についての考察を記している。 

「インサイダー兼アウトサイダー」であることは、「自分が属している組織」についてだけでなく、「組織に属している自分自身」をただしく認識するためのツールにもなるのである。 



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目 次
序章 ブルームバーグ市長の特命事項 
第1部 サイロ 
 第1章 人類学はサイロをあぶり出す
 第2章 ソニーのたこつぼ
 第3章 UBS はなぜ危機を理解できなかったのか?
 第4章 経済学者たちはなぜ間違えたのか?
第2部 サイロ・バスターズ
 第5章 殺人予報地図の作成(シカゴ市警の事例)
 第6章 フェイスブックがソニーにならなかった理由
 第7章 病院の専門を廃止する(クリーブランドクリニックの事例)
 第8章 サイロを利用して儲ける
結論
終章 点と点をつなげる 
謝辞 
ソースノート 


著者プロフィール
ジリアン・テット(Gillian Tett)
ケンブリッジ大学にてPh.D.取得(社会人類学専攻)。1993年から “フィナンシャル・タイムズ” 紙にて記者として活躍、ソ連崩壊時には中央アジア諸国を取材した。1997年から2003年まで同紙東京支局長。その後、英国に戻り同紙の名物コラム「LEXコラム」の副責任者。現在はFT紙アメリカ版の編集長であり、FT紙有数のコラムニストでもある。2007年には金融ジャーナリストの最高の栄誉「ウィンコット賞」を、2008年には「ブリティッシュ・ビジネス・ジャーナリスト・オブ・ジ・イヤー賞」を、また2009年には『愚者の黄金―大暴走を生んだ金融技術』で「フィナンシャル・ブック・オブ・ジ・イヤー賞」を、金融危機の報道でイギリス新聞協会の「ジャーナリスト・オブ・ジ・イヤー賞」を受賞している。そのほか、ベストセラーになった『サイロ・エフェクト』がある。(各種資料をもとに編集)。


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