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2019年3月21日木曜日

『奇想の系譜展 ― 江戸絵画ミラクルワールド』(東京都立美術館・上野)に行ってきた(2019年3月21日)―「奇想」の絵師たちの作品がここに大集結!



奇想の系譜展-江戸絵画ミラクルワールド-』(東京都立美術館・上野に行ってきた(2019年3月21日)。『新・北斎展』と対の美術展で、セットのチケットをネットで購入したまま、なかなか行く暇がなかった。会期が4月7日と迫ってきているので休日を利用して行くことにしたのだ。 

「奇想の系譜展-江戸絵画ミラクルワールド」という、このタイトルそのものがそそるではないか! 美術史家の辻惟雄が発掘し、紹介してきた江戸の奇想画の集大成である。個々のアーチストの展示はすくなからず開催されているが、まとまった形での贅沢な美術展は滅多にない。 

本日(3月21日)は春分の日で祝日ということもあって、想定外に(?)朝からすごい人だった。

個人的には、来館者が少ない方がゆっくり鑑賞できるのでありがたいのだが、こういう美術展の入場者が多いということはいいことだ。

日本人の趣味も、やっと江戸時代中期以降の成熟さを取り戻しつつあるということになるから。「近代」通過後の日本人による日本再発見。 「後近代」は「前近代」の江戸に通ず。 




それぞれの短評による紹介が、またキャッチフレーズ的で見る人の気持ちをそそるのだ。 


「幻想の博物誌 伊藤若冲」(いとう・じゃくちゅう)
「醒めたグロテスク 曽我蕭白」(そが・しょうはく)
「京のエンターテイナー 長沢芦雪」(ながさわ・ろせつ)
「執念のドラマ 岩佐又兵衛」(いわさ・またべえ)
「狩野派きっての知性派 狩野山雪」(かのう・さんせつ)
「奇想の起爆剤 白隠慧鶴」(はくいん・けいかく)
「江戸琳派の鬼才 鈴木其一」(すずき・きいつ)
「幕末浮世絵七変化 歌川国芳」(うたがわ・くによし)


ただし、この並べ方は時系列ではない。それなりの考えあってのことだろう。それは、実際に足を運んでみてのお楽しみということだろう。

 浮世絵師の歌川国芳以外は、浮世絵版画の作品ではないので、サイズの関係からいって鑑賞しやすいのも特徴だ。フェルメールの絵画もそうだが、サイズが小さい浮世絵は美術館での鑑賞には難がある。

江戸時代初期の岩佐又兵衛は、まだ肉筆浮世絵の時代であり、出展されているのは彩色の絵巻物だ。春画ではないので念のため。 

それにしても、インパクトがあったのは、入場するといきなり目に飛び込んでくる伊藤若冲の「象と鯨図屏風」。六曲一双の屏風。墨の濃淡だけで表現したものだが、右手の白像と左手黒鯨のコントラストが鮮やか。北陸の旧家に伝わったもので、2008年夏に存在が知られたばかりなのだそうだ。


(伊藤若冲の「象と鯨屏風図」 実際はでかい!)


このほか、有名な「虎図」(こちらは彩色 マグネットあり)は米国のプライス・コレクション所蔵のものであり、日本にあったら間違いなく国宝級の作品だろう。プライス氏ならずとも、あらためて伊藤若冲には心を奪われるのだ。 

インパクトの大きさといえば、臨済宗僧侶の白隠巨大な両目を開いた「達磨図」は、実物を見るに限る。とにかくでかいのだ、サイズが。実物のもつ圧倒的な存在感。濃い容貌のインド人。このほか「布袋図」には、渦巻きによって動きと時間が表現されており、マンガっぽい表情には、思わずニヤリとさせられるおかしみがある。座禅や禅問答はすこし脇に置いて、作品そのものを 大いに楽しみたいのが白隠。


(白隠の達磨図 サイズは身長なみででかい!)


歌川国芳は、「みかけハこハゐが とんだいゝ人だ」などの奇想画などのアルチンボルド風の奇想画が面白いだけでなく、作品のほぼすべてが浮世絵版画が中心なので、インパクトという点ではサイズの関係で劣っているのだが、今回は浅草寺に奉納された額絵の「一ツ家」と成田山に奉納された「火消千組の図」が展示されており、こういう作品を目線の高さで、しかも間近で見ることができるのはじつによい。 とくに後者は、一人一人の火消しのディテールに注目したい。

このほか、長沢芦雪の子犬がかわいい「白像黒牛図屏風」は、伊藤若冲の「象と鯨図屏風」に匹敵するが、黒牛の横に描かれた子犬がかわいいのだ。構図はおなじでも、アクセントをつけて視線をいったんはずす効果がある。これは若冲との違いだ。そして、「降雪狗児図」の子犬もかわいい。これがほんとに江戸時代の作品?と思いたくなる。 


(長沢芦雪の「降雪狗児図」 こちらはこじんまり)


奇想といえば、なんといっても曽我蕭白だろう。だが、今回はワン・ノブ・ゼムの扱いなのが、ちょっと残念。題材を現代の日本人にはあまりなじみのない中国の説話にとっているだけでなく、ちょっとぶっ飛び過ぎているので、曽我蕭白がポピュラリティを得るまでには、さすがに現代日本でもまだ時間がかかるのではないかな、という気もする。 

まあ、いろいろと書いてみたが、ぐだぐだ言わずに「奇想」を楽しむ美術展だといっていいだろう。童心に返って楽しむのが、ただしい見方なのかな、と。 




なお、マグネット3点を購入(写真)。右から白隠の「達磨図」、若冲の「虎図」、芦雪の「白象黒牛図屏風」の一部。今回の美術展では、マグネットは充実している。


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■西洋の「奇想の系譜」

『ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで』(東京・渋谷 Bunkamuraミュージアム)にいってきた(2017年8月16日)-ベルギー美術の500年を通観し知的好奇心を刺激する美術展

「アルチンボルド展」(国立西洋美術館・上野)にいってきた(2017年7月7日)-16世紀「マニエリスム」の時代を知的探検する

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2017年8月20日日曜日

『ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで』(東京・渋谷 Bunkamuraミュージアム)にいってきた(2017年8月16日)― ベルギー美術の500年を通観し知的好奇心を刺激する美術展



美術展 『ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで』にいってきた(2017年8月4日)。東京・渋谷の Bunkamura にて。

Bunkamura の美術館はテーマ性の強い美術展をよく開催しているが、今回の美術展はベルギーにおいては現代にまで続く「奇想」の系譜を16世紀のヒエロニムス・ボスからたどってみるという、知的好奇心を大いに刺激してくれる内容だ。

大学時代に河村錠一郎教授の「美術史」の授業を受講して以来、ヒエロニムス・ボスも、ベルギー象徴派も大好きなわたしにとって、これは絶対にいかなくてはならない美術展なのだ。

まずは、美術展の主催者によるイントロダクションをそのまま引用させていただくこととしよう。短い文章に凝縮された内容の解説は、そのままベルギー美術史入門になっている。

500年の美術の旅-古今のスター作家が勢揃い現在のベルギーとその周辺地域では、中世末期からの写実主義の伝統の上に、空想でしかありえない事物を視覚化した絵画が発展しました。しかし18世紀、自然科学の発達と啓蒙思想がヨーロッパを席巻するなか、不可解なものは解明されてゆき、心の闇に光が当てられるようになります。
かつての幻想美術の伝統が引き継がれるのは、産業革命後の19世紀、人間疎外、逃避願望を背景とした象徴主義においてでした。画家たちは夢や無意識の世界にも価値を見出し、今日もこの地域の芸術に強い個性と独自性を与えつづけています。
本展では、この地域において幻想的な世界を作り出した一連の流れを、ボス派やブリューゲルなどの15・16世紀のフランドル絵画に始まり、象徴派のクノップフ、アンソール、シュルレアリストのマグリット、デルヴォー、そして現代のヤン・ファーブルまで、総勢30名の作家によるおよそ500年にわたる「奇想」ともいえる系譜を、約120点の国内外の優れたコレクションでたどります。

3つのパートにわかれた構成になっている。


Ⅰ. 15~17世紀のフランドル美術Ⅱ. 19世紀末から20世紀初頭のベルギー象徴派、表現主義Ⅲ. 20世紀のシュルレアリスムから現代まで


ⅡとⅢは連続しているが、ⅠとⅡのあいだはすこし時間があいているのは、上記の解説文のとおりだ。「奇想」は19世紀以降、ふたたび蘇ったのである。

以下、つれづれに感想を記しておく。あくまでも独断と偏見に満ちた個人的な感想だ。

(上掲の「トゥヌグダルスの幻視」の図解 作品リストより)


「聖アントニウスの誘惑」というテーマ

「聖アントニウスの誘惑」というモチーフが、何度もでてくるが、よほどフランドルでは気に入られたテーマのようだ。

奇妙キテレツな怪物たちが、瞑想修行をする隠修士の聖アントニウスに次から次へと襲いかかってくるというモチーフだ。聖アントニウスは、紀元3世紀から4世紀にかけての人物。エジプトに生まれ、砂漠で修道生活を送った修道士の元祖的存在。

瞑想しているとさまざまな妄念になやされるが、その妄念が実体化すると怪物となる。怪物たちを写実的に描写したのはヒエロニムス・ボス以来のものもである。
  
現代人からみれば、むしろ「かわいい」(?)という感じさえしなくもないのだが、16世紀当時の人びとはどう感じたのだろうか? もはや中世人のようなとらえ方ではないだろう。

フランスの文豪フローベールに『聖アントワーヌの誘惑』という作品がある。19世紀にこのモチーフが蘇ったのはそういう背景もあるのだろか。ちなみに、おなじくフローベールの『三つの話』(トロワ・コント)の一篇は「サロメ」である。こちらはオスカー・ワイルドとビアズリーに影響している。さらには映画『愛の嵐』(ナイト・ポーター)にもサロメが所望した生首のモチーフが登場する。

ヒエロニムス・ボスの作品はあらためてよく眺めてみると、シンガポールのハウパー・ヴィラ(=タイガーバーム・ガーデン)を想起させるものがある。その心は何かというと、怪物たちがみなキッチュだということだ。

ハウパーヴィラに展開された想像力は、前近代の世界が近代と接触した際に生まれたものだ。21世紀の現在からみると、レトロキッチュ(?)ともいうべきか。

16世紀の西欧人と、20世紀の華人の想像力の奇妙な近似性を感じてしまうのはわたしだけだろうか。


■隣接するプロテスタント国オランダとの違い

フランドル地方はフラマン語地帯で、フラマン語は言語的にはオランダ語に近い。

だが、宗教改革後にプロテスタント圏となった低地のネーデルラント(=オランダ王国)に対して、フランドル地方はカトリック圏にとどまった。オランドとフランドルとの違いは、プロテスタントとカトリックの違いでもある。

装飾を徹底的に排除した簡素をたっとぶプロテスタントに対して、過剰なまでの装飾を強調したカトリック圏のバロック美術。後者に、「奇想」の系譜が温存されたのは、ある意味では当然かもしれない。

今回の美術展にはバロック画家のルーベンスの作品も展示されており、「奇想」がカトリック圏ならではのものであることもわかる。生活世界を描いたフェルメール作品を生み出したオランダには、イマジネーションを刺激する「奇想」は発生する余地がないのかもしれない。

現在のベルギーは、フラマン系とフランス系という異なる二民族が人工的に結合して誕生した王国だ。1830年のことである。おなじカトリック圏ということで合体したのだが、現在に至るまで人工国家とての性格は消えてなくならない。ゲルマン系のフラマン語とラテン系のフランス語の違いは、言語だけでなく文化にも及ぶ。

21世紀にはテロの温床にもなっているベルギーは、政治的には不安定だが、文化面では先進的である。二つの異なる文化圏が隣り合わせに存在するベルギーは、異種混合のメリットもあるのだろうか。


「ベルギー象徴派」とシュールレアリスム

ベルギー象徴派は、英国のラファエル前派とならんで、わたしのお気に入りである。じっさい前者は後者の影響を受けているようだ。

今回も、ベルギー象徴派を代表するロップス、クノップフ、デルヴィルの作品が数点づつ展示されているのはうれしいことだ。いずれも「世紀末」にふさわしい作品の数々である。

ベルギーのシュールレアリスムには、デルヴォーやマグリットがある。デルヴォーは古典的な静謐な背景に裸女と骸骨といったイメージの作風、マグリットはコラージュ風の作品で有名である。

今回の美術展には、マグリットの代表作である「大家族」が展示されているのはうれしい。海辺で大きな鳩の画像が描かれている作品だ。


■「奇想の系譜」の楽しみ方

「奇想」と「幻想」は、厳密にいえば異なるカテゴリーなのだが、この両者はときに交錯しあい、不思議な雰囲気を生み出している。

「奇想」はどちらかというとアタマの産物でありアタマで楽しむ要素が強い。「幻想」は基本的にココロに訴求する要素が強い。

だが、「奇想」と「幻想」はかならずしも厳密に区分できるものでもない。アタマから生まれた産物をココロで楽しむ、そん雰囲気に浸る。そういう楽しみ方であって、なんら問題はないだろう。

「奇想の系譜」は美術史のテーマであるように見えながら、そう堅苦しい思いをする必要はない。要は、自分の好みの作品を見つけて、ひそかに悦に入れば、それでいい






PS 2017年9月に講談社学術文庫から『「快楽の園」』を読む-ヒエロニムス・ボスの図像学-』(神原正明)が出版された。ヒエロニムス・ボスが描いたアレゴリカルな世界の解読に資するところがあろう。(2017年9月24日 記す)




<ブログ内関連記事>

■「奇想の系譜」と「幻想絵画」

「アルチンボルド展」(国立西洋美術館・上野)にいってきた(2017年7月7日)-16世紀「マニエリスム」の時代を知的探検する

「チューリヒ美術館展-印象派からシュルレアリスムまで-」(国立新美術館)にいってきた(2014年11月26日)-チューリヒ美術館は、もっている!

「幻想耽美-現在進行形のジャパニーズエロチシズム-」(Bunkamura ギャラリー)に行ってきた(2015年6月18日)-現代日本の耽美派アーティストたちの作品を楽しむ

米倉斉加年画伯の死を悼む-角川文庫から1980年代に出版された夢野久作作品群の装画コレクションより


■「美食大国」としてのベルギー

『ベルギービール大全』(三輪一記 / 石黒謙吾、アートン、2006) を眺めて知る、ベルギービールの多様で豊穣な世界

書評 『ターゲット-ゴディバはなぜ売上2倍を5年間で達成したのか?-』(ジェローム・シュシャン、高橋書店、2016)-日本との出会い、弓道からの学びをビジネスに活かしてきたフランス人社長が語る




■華人世界の「奇想の系譜」

書評 『HELL <地獄の歩き方> タイランド編』 (都築響一、洋泉社、2010)-極彩色によるタイの「地獄庭園」めぐり写真集

華人世界シンガポールの「ハウ・パー・ヴィラ」にも登場する孫悟空-2016年の干支はサル ③

(ハウパーヴィラにはこんなモチーフの展示物が多数 筆者撮影)



ベルギーとは異なる道を歩んだオランダ

「フェルメールからのラブレター展」にいってみた(東京・渋谷 Bunkamuraミュージアム)-17世紀オランダは世界経済の一つの中心となり文字を書くのが流行だった

上野公園でフェルメールの「はしご」-東京都立美術館と国立西洋美術館で開催中の美術展の目玉は「真珠の●飾りの少女」二点

「ルーヴル美術館展 日常を描く-風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄-」(国立新美術館)に行ってきた(2015年5月6日)-展示の目玉はフェルメールの「天文学者」


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2017年5月21日日曜日

「特別展 雪村 ― 奇想の誕生」(東京藝術大学大学美術館) にいってきた(2017年5月18日)― なるほど、ここから「奇想」が始まったのか!



「特別展 雪村-奇想の誕生-」(東京藝術大学大学美術館) にいってきた(2017年5月18日)。なるほど、ここから「奇想」が始まったのかという納得の得られる企画展だ。

企画展のチラシには「ゆきむら」ではなく、「せっそん」です。というコピーがある。雪村(せっそん)といっても、たしかになじみはない。

水墨画といえば、雪舟(せっしゅう)というのは日本美術史を知らなくても、日本史レベルの常識だが、雪舟が亡くなった頃に生まれたのが雪村だ。

雪村は、雪村周継ともいう。「コトバンク」記載の情報によれば、以下のようにある。

室町後期・安土桃山時代の画僧。常陸生。周継は諱、別号に如圭・鶴船老人等。田村平蔵と称する。佐竹氏の一族で武家を継がず禅僧となる。周文・雪舟の画風を慕い、のち独自の特色を発揮して一家を成す。最も山水に長じ、花鳥・人物も能くした。生歿年不詳。

生没年は、wikipedia情報によれば、永正元年(1504年)? 生まれで、天正17年(1589年)頃没、とある。雪舟が、応永27年(1420年)年生まれで、永正3年8月8日(諸説あり)(1506年)なので、この両者には直接の接触はない。関東で生涯を送った雪村に対し、雪舟は西日本で活躍していた。

「奇想」といえば、ここ数年で日本でも再評価の著しい曽我蕭白(そが・しょうはく)が想起されるが、雪村はその先駆者ともいうべき存在なのだ。

雪村の全盛期の作品をみれば、それはすぐにでも納得できることだ。

まずは、「呂洞賓図」龍のアタマの上に立って上空を見上げる仙人の容貌がマンガ的としかいいようがない。長いひげが風になびき、ぎょろ目で上を見上げている。説明書きを読むと、壺のなかからでてきた子どもの龍を、上空から親(?)の龍が見ているのだそうだ。


「呂洞賓図」(16世紀)


つぎに、「琴高仙人・群仙図」。水中から巨大な鯉とおぼしき大魚の背中に乗って浮上してきた仙人を、左右から複数の仙人たちが眺めている構図。


「琴高仙人・群仙図」(16世紀)


いずれの仙人の表情も面白いのだが、鯉の背中にに乗っている仙人が、なんだか暴れ馬か大型バイクを乗りこなしているかのような印象を受ける。常識的にありえない構図だが、なんだかリアルな感じもして、その落差が妙に面白い。鯉の背中に乗る仙人の顔がやけに真剣なのだ(笑) 


「琴高仙人・群仙図」の中心部の拡大


つぎに、「鍾馗図」。鍾馗(しょうき)じたいは、現代の日本でも比較的知られているだろうが、虎退治をしているのではなく、虎をあやしながら、右前方の敵をにらみつけている構図なのだそうだ。日本にはいない虎を描いた絵師は多いが、この虎もなんだか大きなネコのようであるのがおかしい。


「鍾馗図」(16世紀)


「特別展」のサイトには、以下のような全体説明がある。


戦国時代、東国で活躍した画僧、雪村周継(せっそん・しゅうけい)。武将の子として生まれながら出家して画業に専心した雪村は、故郷の茨城や福島、神奈川など東国各地を遍歴しました。その生涯は未だ謎に包まれていますが、ひときわ革新的で、また人間味あふれる温かな水墨画を描き続けた、ということだけは確かです。
 この展覧会は、雪村の主要作品約100件と関連作品約30件で構成される最大規模の回顧展です。伊藤若冲、歌川国芳など「奇想」と呼ばれる絵師たちの「先駆け=元祖」とも位置づけられる、今まさに注目すべき画家、雪村。雪村の「奇想」はどのようにして生まれたのか、その全貌に迫ります。


先に、18世紀の江戸時代中期の曽我蕭白(そが・しょうはく)の名を引き合いに出したが、「奇想」の系譜からいえば、さらにおなじく18世紀の伊藤若冲(いとう・じゃくちゅう)や19世紀の江戸時代後期に生きた歌川国芳(うたがわ・くによし)も名をあげるべきなのだ。

さらには、意外なことだが、尾形光琳なども雪村を意識していたのだという。

琳派の代表絵師である尾形光琳は、雪村を思慕し、模写や雪村を意識した作品を数多く残しました。近世には狩野派、近代では狩野芳崖、橋本雅邦らが雪村を研究します。本展は、雪村に影響を受けた後世の絵師の作品の数々もご覧いただきます。

雪村の作品は、16世紀の画家のものとしては例外的に現存しているものが多いのだという。

また、「電力王」「電力の鬼」と呼ばれた松永安左エ門(1875~1971)「マネジメントの父」ピーター・F・ドラッカー(1909~2005)も雪村に魅せられ作品を所蔵するなど、現代に至るまで多くの知識人たちを魅了してやみません。

『ドラッカー・コレクション 珠玉の水墨画- 「マネジメントの父」が愛した日本の美-』(千葉市美術館) のポスターには、「ドラッカー・コレクション」から雪村の 月夜独釣図」が使用されている。

なるほど、見る人は見ていたのだな、と思わされるのだ。

東京での展示はもう終わってしまうが、巡回展として滋賀県の MIHO MUSEUM で公開される。今回の東京での展示も、いくかいかないか迷ったすえに結局いくことにしたのだが、それはまったくもって正解だった。

日本がほこるマンガやアニメの原点として、平安時代の鳥羽僧正の「鳥獣戯画」が語られることが多いが、室町時代に中国の水墨画や禅画が日本流にローカライズされて発生してきた「奇想」というテーマ

「奇想」の系譜は、日本人ならかならずフォローしておきたいものであると思うし、まあそういうむずかしい話は別にして、こんな奇妙きてれつで面白おかしい作品を見ないのはもったいないと思うのである。


画像をクリック!



<関連サイト>
「特別展 雪村-奇想の誕生-」(東京藝術大学大学美術館)

【巡回予定】
会場: MIHO MUSEUM (滋賀県)
会期: 2017年8月1日(火)~9月3日(日)




<ブログ内関連記事>

・・出品の目玉の一つが曽我蕭白の「雲龍図」(1763年)という屏風絵

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2012年4月30日月曜日

「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」(千葉市美術館)にいってきた(2012年4月28日)



千葉市立美術館開催されている 「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」 にいってきた。一昨日(4月28日)のことである。


江戸時代中期の18世紀、曾我蕭白(そが・しょうはく)を中心に、京都で活躍した画家たちの企画展覧である。墨絵をベースに展示。復古と新奇のせめぎあい、奇想画が面白い。

千葉市立美術館の公式サイトによれば、今回の美術展の概要は以下のとおり。 http://www.ccma-net.jp/exhibition_end/2012/0410/0410.html

会場: 千葉市立美術館
会期  2012年4月10日(火)~ 5月20日(日)
主催: 千葉市美術館 読売新聞社 美術館連絡協議会
協賛: ライオン、清水建設、大日本印刷、損保ジャパン 日本テレビ放送

18世紀の京都を彩った個性的な画家たち 蕭白、応挙、若冲、大雅、蕪村……江戸時代中期、西洋や中国の文化を取り入れる動きが美術にも波及し、特に京都では個性的な画家が多く活躍しました。曾我蕭白(1730~1781)もその一人です。蕭白は京都の商家に生まれ、父を早くに亡くして画業で身を立てました。室町時代の画家曾我蛇足に私淑して曾我姓を名乗ります。盛んに出版されるようになった版本の画譜を活用し、室町水墨画に学んだ復古的な作品を多く残しました。巧みな技術に裏付けられた独特の作品世界は現代人をも魅了します。

蕭白が伊勢地方(現在の三重県)で制作した作品は今も三重県内に多く伝わっています。今回の展覧会では修復を終えた、斎宮の旧家永島家伝来の障壁画(全44面、重要文化財、三重県立美術館所蔵)を中心に蕭白の画業を振り返ります。
また、蕭白前史として、蕭白が師事したと思われる高田敬輔や、京都で活躍した大西酔月ら復古的な画風の画家を紹介します。円山応挙、伊藤若冲、池大雅、与謝蕪村らの作品も展示し、蕭白のいた江戸時代中期の京都画壇の豊かさを併せてご覧いただきます。首都圏では1998年以来久々の蕭白展となります。
※会期中に大幅な展示替えがあります。
※全ての作品をご覧いただく場合、4/10~4/30と5/8~5/20の両期間に1回ずつご来場ください。

曾我蕭白(そが・しょうはく)というと、異端、奇才、エキセントリックという形容詞がただちに浮かんでくるが、今回の展示では必ずしもそういう門切り型の形容詞ではひとくくりにできない蕭白を知ることができるというべきだろうか。




じつは、曾我蕭白の作品をまとめて見るのは今回が初めてなのだが、正直なところ、かなり地味だな、というのがその感想だ。なぜならベースが墨絵なので、モノトーンの絵画の展示が、えんえんとつづくわけである。

『無頼の画家 曾我蕭白(とんぼの本)』(狩野博幸/横尾忠則、新潮社、2009)という極彩色のカラーページのビジュアル本をすでに眺めていたので、今回の展示作品を見て、これが蕭白(?)という意外な印象を受けた。

蕭白を紹介した本では、細部を拡大して強調しているので、そのイメージが焼き付いているのだが、実際は墨絵のなかでは一部に過ぎないことも多く、かならずしもつよい違和感を感じる作品ではない。ただし、近づいてよく見ると、やはりエキセントリックな描き方がされていることがわかるといった感じだ。現代マンガの源流に位置づけてもいいのだろう。

寒山拾得(かんざん・じっとく)をテーマにした絵が何点も展示されている。森鴎外の口語体小説にも取り上げられている寒山拾得だが、この隠者二人組はむかしから禅画のテーマとして取り上げられてきた。蕭白もまた、手を変え品を変え、何度も何度も繰り返し描いている。それだけ需要があったということだろう。見るからにむさ苦しい描き方は蕭白ならではだろうか。

今回の展示には、洋犬を描いた一点があった。18世紀にすでに上方に洋犬が伝来していたのである。デフォルメによってエキセントリックな画風をなしていた蕭白だが、洋犬はデフォルメしなくても素材自体が異色なイメージをかもし出す。

ミュージアムショップで、『奇想の系譜-又兵衛~国芳-』 『奇想の図譜-からくり・若冲・かざり-』の二冊の文庫を買う。ともに、美術史家・辻惟雄によるもので、ちくま学芸文庫である。とくに、『奇想の系譜』は、伊藤若冲や曾我蕭白ブームをつくりだすキッカケとなった本で、1970年に初版がでたものである。



『奇想の系譜』の文庫版の表紙は、ボストン美術館所蔵の曾我蕭白筆「雲龍図襖」。ほとんどマンガのようなタッチである。曾我蕭白が在世当時から明治時代のはじめまで人気があったらしいのもなるほどと思われる。

岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳という、近世絵画史において長く傍系とされてきた画家たちを扱ったこの本によって、かれらが現代において日の当たる存在となった名著とのことだ。

今回はじめて読んでみて、これらの画家たちを個別にしか考えていなかったわたしのアタマのなかに、ようやく「奇想の系譜」というものができあがった思いがしている。機会があれば、ぜひ一読をおすすめしたい。





この美術展は巡回展である。千葉のあとは、蕭白ゆかりの地である三重県立美術館(津市)で開催される。


「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」(千葉市美術館)
会期 2012年4月10日(火)~ 5月20日(日)

「開館30周年記念 蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」
2012年6月2日(土)―7月8日(日)






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