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2024年3月7日木曜日

書評『松下幸之助の死生観 ― 成功の根源を探る』(川上恒雄、PHP研究所、2024)― 「使命感」の根底にあった宗教的な「死生観」 




2024年2月に出版されたばかりの『松下幸之助の死生観 ー 成功の根源を探る』(川上恒雄、PHP研究所、2024を読了。 著者は、PHP理念経営研究センターの首席研究員。

PHPは、松下幸之助が敗戦後の1946年に創設したシンクタンクである。「PHP」とは、「Peace and Happiness through Prosperity」(=繁栄によって平和と幸福を)の頭文字をとったものだ。「物心両面の繁栄により、平和と幸福を実現していく」という松下幸之助の理念が託されている。

松下幸之助の「経営理念」には、さまざまな宗教の影響があったことはよく知られている。

使命を自覚した「命知元年」(1932年)のきっかけが天理教本部の見学であったことは、比較的知られていることだろう。天理教の「現世肯定」という理念に共感するものもあったようだ。 

だが、使命感の根底には松下幸之助自身の「死生観」があり、だからこそさまざまな宗教が説く教えを耳で聴いて、自分自身の考えを確立していったのであろう、というのが著者の見解だ。 

本書で重点的に取り上げられているのは、「生長の家」と「真言宗」である。前者は「第3章 宗教的背景を探るー「生長の家」のケースを手がかりに」で、後者は「第4章 死生観はどのようにして涵養されたか」で取り上げられている。 

その「死生観」は、長生きはできないであろうと覚悟していたほど病弱であった、そんな幸之助自身の実存に起因するものであったことが、「第2章 不健康またけっこう ー 病と幸之助」を読むと実感される。 

特効薬のなかった時代に肺尖カタル(=結核の初期症状)に苦しみ、26歳までに両親やきょうだいがみな死んでいるだけでなく、本人も最後まで完治することがなかったようだ。

さらに、経営者という精神的な重圧から、生涯にわたって不眠症に悩まされていたことなど、睡眠薬を手放せない人生であった。 

そんな松下幸之助は「物心一如」を理念として打ち出していた。先にもみたように、PHPの理念に結実したものである。松下幸之助の影響を受けていた稲盛和夫の「物心両面の幸福」と似ている。

だが、両者の霊魂感には違いがあるようだ。おなじく米国発の「ニューソート」(New Thohght)系の「生長の家」の影響を受けているものの、稲盛和夫は個別の「魂」を前提にしている。「仕事をつうじて魂を磨け」というフレーズにそれが表現されている。 

ところが、松下幸之助は、人間は生きているあいだは個別の存在だが、死ねば個別性はなくなると考えていた。 

「生命力」は「宇宙の根源の力」から分かれでて個別の人間として生まれ、そしてまた「宇宙の根源」に帰っていく。つまり、一からでて一に帰るのである。霊魂は不滅だが、霊魂の個別性は否定する。 

これは「一にして多」であり、「多であり一」という、日本の伝統的な宗教観念であり、学校教育を受けなかった松下幸之助にとって、納得のいく考えだったのではないだろうかという著者の指摘には納得がいく。 

そしてこれは、真言宗が前提とする『華厳経』の考え方にも近い。だからこそ、2年間にわたって生活を共にし、生涯にわたって影響を受けつづけて真言宗の僧侶・加藤大観の存在に注目するべきなのだろう。高野山との関係もそうであり、そもそも幸之助の出生地である和歌山は真言宗が強い地帯である。 

帯にもあるように、本書を読んだことで、「素直な心」「自然の理法」「生成発展」という松下幸之助の哲学の根本は、その「宗教的な死生観」を知ることで大いに納得のいくものとなった。 

現在にいたるまで、松下幸之助の著作が根強く読み継がれているのは、日本人が一般に抱いている死生観と共通するものがあるからなのだろう。

経営論をはるかに超えた、みずからの経験をベースにした「生き方」を説いたものだからなのだ。 

その意味では、すでに現世の人ではないとはいえ、松下幸之助は稲盛和夫とともに、今後も長く日本人の心のなかに生き続けることになろう。


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目 次
イントロダクション 
第1章 「運命」を生かす ー 人知を超えた「理法」の存在 
第2章 「不健康またけっこう」ー 病と幸之助 
第3章 宗教的背景を探る ー「生長の家」のケースを手がかりに 
第4章 死生観はどのようにして涵養されたか 
第5章 「期待される人間像」議論への参画 
補論 幸之助の「商道」が生み出された時代背景 
あとがき
 
著者プロフィール
川上恒雄(かわかみ・つねお)
1991年一橋大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。1997年同社退社後、南山大学宗教文化研究所研究員、京都大学経営管理大学院京セラ経営哲学寄附講座非常勤助教などを経て、2008年PHP研究所入社。2019年より同社PHP理念経営研究センター首席研究員。ランカスター大学宗教学博士(Ph.D)。エセックス大学社会学修士(M.A.)。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)



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・・イノベーションが生まれるメカニズムを企業人が『華厳経』的に解釈してみる試み。「創出」のキーワードは「直観」と「自他未分離」、仏教的にいえば「無分別」となる。ブッダの悟りを表現した『華厳経』の表現「海印三昧、一時炳現」は、同時にいっさいの事象があきらかになることを意味している。

・・鈴木大拙や西田幾多郎が哲学や思想の分野で行ったことは、「一即多、多即一」の『華厳経』的な大乗仏教の日本的展開がベースにある

(2024年3月11日 情報追加)


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2020年8月7日金曜日

書評『感染症は存在しない』(岩田健太郎、集英社インターナショナル新書、2020)― 病気は「モノ」ではない。「コト」である!



 先月のことだが、『感染症は存在しない』(岩田健太郎、集英社インターナショナル新書、2020)を読んだ。

著者の岩田健太郎氏は、神戸大学医学研究科感染症内科教授。というよりも、新型コロナの感染者が大量発生したクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号がらみで有名になった、目立ちたがり屋でお騒がせ医師といったイメージが強く印象に残っている人。

個人的には、正直いってあまりいいイメージをもっていなかったのだが、挑発的なタイトルのこの本を読んでみて、言っていることはまともだなと感じた次第。感染症と病気の本質についての認識を改めることを意図して書かれたものだ。

もともとは、『感染症は実在しない-構造構成的感染症学』(北大路書房、2008)として出版されたものの新書版再刊。 専門出版社から出ていた本だ。「構造構成的感染学」と副題にあるが、こういう小難しいことは読む際に忘れても構わない。

「感染症は存在しない」というのはどういうことか?

著者が言いたいのは、「感染症」は「現象」として「認識」されて初めて感染症となる、ということだ。つまり認識されない限り感染症ではないということ。感染症を病気と言い換えてもおなじこと。

病気だと思うから病気なのであって、病気だと思わなければ病気ではないのである。つまり、病気であるという「認識」は、あくまでも「主観的」なものであり、著者の表現をつかえば「関心相関的」なものとなる。腰痛もちなら、この意味はよくわかるのではないかな? 自分は腰痛に苦しんでいるという認識をもっているのだが、いくら医師の診断を受けても原因が「見える化」されないというもどかしさ。

「実在」と「現象」など、やや小難しい哲学用語がつかわれているが、日本語の日常語で言い換えれば「モノ」と「コト」となる。感染症や病気は、あくまでも「モノ」ではなく、「コト」なのである。

「モノ」ではなく「コト」である以上、特定の病原菌やウイルスだけが病気の原因ではないこと、つまり原因と結果は一対一対応というには限界があるだけでなく、そもそも無理な話であることもわかる。




実際、今回の新型コロナウイルスでも、新型コロナウイルス感染症が既往症を悪化させて重症化させるケースが多いことでも、それはわかる。著名人でいえば、志村けんさんはタバコ吸い過ぎで肺をやられていたこと、岡江久美子さんは乳がんの治療で免疫力が低下していたのである。新型コロナウイルスそのものが唯一の死因ではない。ウイルスは、あくまでもトリガーになったに過ぎないのである。

著者自身はつかっていないが、特定の病原菌やウイルスに原因を求める「要素還元主義」の誤りを主張しているのだろうと私は受け止めた。全体を見ることなく、部分のみを見ることに起因する誤りである。

漢方の話も出てくるが、漢方の思想とは、「全体」の関連のなかで「部分」である病気を考えるというものだ。著者の立ち位置は、基本的に西洋医学だが、東洋医学にも目配りを欠かさないというものであるようだ。岩田氏は、現在では漢方専門医を取得して漢方外来もやっているという。

医者は、それぞれの専門分野での専門家ということになっているが、専門家の言うことは人ぞれぞれで大幅に見解が異なっている。これは、医師であるコメンテーター諸氏のTV番組での発言を見聞きしていると実感されるものだ。専門家だから、一義的に正しいというわけではない

この本は読んでいて、なるほどと思って面白かった。いっけん挑発的なタイトルだが、言っていることはきわめて真っ当であり、むしろ本来そうあるべき考え方といっていいであろう。医療関係以外(たとえば経営関連)でも応用可能な考え方だと思いながら読んでいた。

だが、岩田氏の著書の評価と、岩田氏の専門家としての評価はイコールではない。医療専門家としての評価は、あくまでも治療実績そのもので判断したいと思う。その点についてはよく知らないので、ここでは保留しておきます。






目 次 
第1章 感染症は実在するか 
第2章 病院の検査は完璧か 
第3章 感染症という現象 
第4章 なぜ治療するのか 
第5章 新型インフルエンザも実在しない 
第6章 他の感染症も実施しない 
第7章 メタボ、がん…感染症じゃない病気も実在しない 
第8章 関心相関的に考える 
第9章 科学的に、本当に科学的に考えてみる 
第10章 医者は総じて恣意的な存在 
第11章 価値交換としての医療の価値 
第12章 病気という現象を見据えて、しなやかに生きていくために




著者プロフィール 
岩田健太郎(いわた・けんたろう) 

医師。神戸大学医学研究科感染症内科教授。1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学)卒業。沖縄県立中部病院研修医、セントルークス・ルーズベルト病院内科研修医を経て、ベス・イスラエル・メディカルセンター感染症フェローとなる。2003年に中国へ渡り北京インターナショナルSOSクリニックで勤務。2004年、帰国。2008年より神戸大学。著書多数。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)





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「ホリスティック」に考える-「医学」のアナロジーで「全体」を観る視点を身につける

医療ドラマ 『チーム・バチスタ 3-アリアドネの糸-』 のテーマは Ai (=画像診断による死因究明)。「医学情報」の意味について異分野の人間が学んだこと

Παθηματα, Μαθηματα (パテマータ・マテマータ)-人は手痛い失敗経験をつうじて初めて学ぶ

書評 『面接法』(熊倉伸宏、新興医学出版社、2002)-臨床精神医学関係者以外も読んで得るものがきわめて大きい "思想のある実用書"

ヘルメスの杖にからまる二匹の蛇-知恵の象徴としての蛇は西洋世界に生き続けている


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2013年2月1日金曜日

書評『医者に殺されない47の心得 ー 医療と薬を遠ざけて、元気に、長生きする方法』(近藤 誠、アスコム、2012)ー つまるところ自分が好きなように生きるのがいちばんいいということだ


『患者よ、がんと闘うな』などの著書で有名な近藤誠医師による最新刊が 『医者に殺されない47の心得-医療と薬を遠ざけて、元気に、長生きする方法』(アスコム、2012)です。アマゾンその他のネット書店では在庫切れになっているくらい売れているようですね。

近藤誠氏の名前は知ってましたが、身内にガン患者のいないわたしには関係なかろうということで著書を手にとったことはありませんでしたが、今回読んでみる気になったのはタイトルが刺激的であるだけでなく、詳細なインタビュー記事をオンラインマガジンで読んだからです。

「百害あって一利なしの人間ドック、健診はおやめなさい-医学界の“異端児”が警告する日本の問題点」(JBPress 2013年1月19日)。日本の医療界が患者本位ではないことに異議を唱え、実践の場で戦い続けた近藤医師の肉声を聞くことのでできる好記事です。長いが読む価値のあるインタビュー記事だと思います。

近藤誠氏の肩書は慶應義塾大学医学部放射線科講師ですが、これは人生のある時期に教授への出世の道よりも、患者本位の医療をすすめるための決断をした結果のためのようです。

「患者本位」の発想ができない日本の医療界。いじめでマスコミの話題になっている教育委員会と似たものを感じるのは、わたしだけだろうか。教師のことだけを考えて、生徒の視点がまったく欠けている教育界と同様、医者のことだけが視野にあって患者の視点をまったく欠いた医療界

顧客の立場で考えるということは、ビジネスであれば事業成立のための必要要件なのですが、医療界や教育界は「常識」の通用しない世界であるとしか思われません。もちろん、すべてがそうだとは言いませんし、ビジネス界もまた、理想とは遠い状態ではあることは反省すべきでしょう。

わたしは、会社やめてからはまったく「人間ドック」には行ってませんが、どうやらそれは正解であるようです。そもそも、ほとんど医者にはいかない人間ですが、それでいいのだ、ということが本書でああらに確認されました。精密検査で問題が発見されたことによって精神的なストレスが発生して病気が悪化するのであれば本末転倒としか言いようがありません。

健康診断の際のレントゲン撮影での検査被ばくも無視できないという。原発事故の際も許容量が国際的にみて高い水準に設定されていることが指摘されていましたが、原発推進政策と医療検査もじつは連動しているようなのです。検査被ばくでガンになるのは御免こうむりたいものですね。

また、既得権益を守るために、新しい治療法を拒否する医者が少なくないことが指摘されています。「医は仁術」とは程遠い現実であります。

すべてを「自然治癒力」にゆだねるのは不可能だとしても、最低でもセカンドオピニオンを集めないと危険だなと、あらためて思う次第です。当たり前といえば当たり前なのですが。

むかしにくらべるとだいぶ変わってはきましたが、まだまだ医者と患者とでは、いわゆる「情報の非対称性」の存在のため、患者の立場が弱いのが現実ですね。患者が医者を選ぶ時代になってきて、状況は変わりつつありますが、まだまだという気もします。

つまるところ、自分が好きなように生きるのがいちばんいいということでしょう。自分の命なのですから、生死にかんしてはわがままであることも大事です。そのためには、つよい意思とただしい情報をもつことが大事なことを、あらてめて感じさせてくれます。

自分のアタマで考え、自分で行動する。これはよく生き、よく死ぬために不可欠なマインドセット(心構え)であるのです。


 

目 次

第60回 菊池寛賞受賞の弁
第1章 どんなときに病院に行くべきか
第2章 患者よ、病気と闘うな
第3章 検診・治療の真っ赤なウソ
第4章 100歳まで元気に生きる「食」の心得
第5章 100歳まで元気に生きる「暮らし」の心得
第6章 死が恐くなくなる老い方
近藤誠のリビングウィル


著者プロフィール

近藤誠(こんどう まこと)
1948年生まれ。1973年、慶應義塾大学医学部卒業。同年、同大学医学部放射線科入局。1979~80年、米国へ留学。1983年より同大学医学部放射線科講師。がんの放射線治療を専門とし、乳房温存療法のパイオニアとして知られる。患者本位の治療を実現するために、医療の情報公開を積極的にすすめる。著書に『患者よ、がんと闘うな』、『がん放置療法のすすめ』(ともに文藝春秋)ほか多数。乳房温存療法のパイオニアとして、抗がん剤の毒性、拡大手術の危険性など、がん治療における先駆的な意見を一般の人にもわかりやすく発表し、啓蒙を続けてきた功績をたたえられ、2012年 「第60回 菊池寛賞」を受賞。



<関連サイト>

「百害あって一利なしの人間ドック、健診はおやめなさい-医学界の“異端児”が警告する日本の問題点」(JBPress 2013年1月19日)

CTの被曝量をごぞんじでしょうか? 日本の国民皆保険の弱点は「自由放任主義」 (室井一辰(医療経済ジャーナリスト)、日経ビジネスオンライン、2014年8月8日)
・・「海外では、CT検査の増加とともにガンが増えるという事実が明確になってきている」

『絶対に受けたくない無駄な医療(室井一辰、日経BP社、2014)もおすすめ。CT検査による被曝についても警告している (2014年8月8日 記す)。




<ブログ内関連記事>

医療ドラマ 『チーム・バチスタ 3-アリアドネの糸-』 のテーマは Ai (=画像診断による死因究明)。「医学情報」の意味について異分野の人間が学んだこと

バンコクのアラブ人街-メディカル・ツーリズムにかんする一視点

ヘルメスの杖にからまる二匹の蛇-知恵の象徴としての蛇は西洋世界に生き続けている

書評 『治癒神イエスの誕生』(山形孝夫、ちくま学芸文庫、2010 単行本初版 1981)

書評 『面接法』(熊倉伸宏、新興医学出版社、2002)-臨床精神医学関係者以外も読んで得るものがきわめて大きい "思想のある実用書"

国民健康保険と健康増進法による健康診査 (2009年7月)

Memento mori (メメント・モリ)と Carpe diem (カルペー・ディエム)-「3-11」から 49日目に記す

成田山新勝寺「断食参籠(さんろう)修行」(三泊四日)体験記 (総目次)

口内炎-いつになったら「卒業」できるのか?

"歯医者"復活戦?




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