かつては「原始仏教」とよばれることもあったが、近年はすっかり「初期仏教」という呼び方が定着している。端的にいったらブッダその人の教えである。
そんな「初期仏教」の教えこそ、逆説的だが現代人が抱える悩みにダイレクトに応えてくれるのだ。
ブッダは「人生は苦」であるという認識をベースに思考し、「苦から脱出」をテーマに実践活動をつづけた人だ。
「苦」はかつては「生老病死」という四字熟語で表現されてきたが、科学にも造詣の深い仏教学者の佐々木氏は、「生老病死」に「インターネット」を加えるべきだという。すなわち「生老病死インターネット」である。
「カルマ」は日本語では「業」(ごう)と表現されてきた。自分の過去の言動がすべてダイレクトに、あるいは時間差をおいて間接的に影響を及ぼしてくることをさしている。これは善悪には関係ない。
因果関係の「因果」とは仏教要語である。「原因と結果」の略である。結果にはすべて原因があるということだ。自分の言行が「原因」となって、知らず知らずのうちに 「結果」として現れてくるのだ。
ブッダの時代は、基本的に自分の言動が現在に及ぼす影響について語っていたが、ネット社会では自分の言動だけでなく、その賞賛や批判もふくめた他者の言動も、そしてあらゆる無意識の言動も「記録」されてしまう恐ろしさがある。それが著者のいう「ネットカルマ」の本質だ。
人間どうしがつながったSNS の世界では、批判の対象となる人だけでなく、批判した人もまた批判にさらされ、自殺や殺人に追い込まれる悲劇が後を絶たない。
インターネットを介してつながっているのは、SNSでつながっている人間どうしだけでない。機械どうしも IoT によってつながっている。生成AI の時代はなおさら加速することであろう。誤った言動、悪意に満ちた言動も「学習」され、悪しき結果を生み出す原因となる。
われわれはすでに「管理社会」を生きているのである。管理の網の目のなかに織り込まれているのである。それは、絶対的な善悪の判定者が不在の、著者がいう「邪悪なバーチャル世界」である。じつに息の詰まる状況ではないか。
こんな状況だからこそ、「初期仏教」の教えが意味をもつのである。ヒントになるのである。もちろん、ブッダが生きた時代はいまから2500年も前であるが、基本はおなじだ。これを21世紀用にバージョンアップするのである。
基本は「自己」による意思と行動である。「自力」である。自分の心持ちがすべてを決める。 その方法論が、本書『ネットカルマ』には、わかりやすい口調で説かれている。まったくそのとおりだな、と思うブッダの言葉も精選されて収録されている。
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目 次
はじめに ネットカルマとはなにか
第1章 現代社会が生んだ新しい苦 仏教はストレスと闘うために生まれた
仏教前夜――古代インドでは何が「苦」だったか
ブッダの考えた業と因果
ブッダは「生きることは苦しみだ」と気づいた
「ニュートラル」に生きるとは
善の仏教的二重構造
善のインスタント化
日本的業の世界
現代社会に現れた新しい「業」と「苦」
技術には良いも悪いもない
インターネットと業
あらゆる場面が刻々と記録されていく
業の世界に神はいない
より悪質な業
いびつな因果システム
すべての人間が「歴史上の人物」になる?
忘れてもらえない恐ろしさ
世代を超えてしまう業
くり返し降りかかる業の報い
ネットに縛られた苦しみの世界を抜け出すために
第2章 ネットカルマに対抗するために
善と悪の基準は何か
ネットの中にある善悪の二重構造
ネットの価値観から離れるために
すべて建前で生きる
ネット上のサンガ
自分自身の価値観を築く
第3章 ネットカルマが襲いかかってきたら
子どもたちに負の側面を教える
「ばれないだろう」はすでに古い考え
ネット業の報いを受けている人たちをどう受け止めるか
生老病死インターネット
ネットで苦しむ人たちへの言葉
世界観の転換
共感者がいるという確信
同じ境遇の人との連携
新たな世界を作っていこうという意志
第4章 ブッダの言葉に学ぶ
時代を超えて普遍的な価値を持つ言葉
ブッダの言葉
ダンマパダ 160、103、50、252、158、165、379
スッタニパータ 第3-657、451、第1-148、第4-973
サンユッタニカーヤ 第3篇第1章-8
ダンマパダ 240、117-118、5、273
スッタニパータ 第1-142
ダンマパダ 316-317
真の賢人の言葉
あとがき
著者プロフィール
佐々木閑(ささき・しずか)
1956年、福井県生まれ。花園大学文学部仏教学科教授。京都大学工学部工業化学科および、文学部哲学科仏教学専攻卒業。同大大学院文学研究科博士課程満期退学。カリフォルニア大学大学院留学を経て、現職。文学博士。専門は仏教哲学、古代インド仏教学、仏教史。日本印度学仏教学会賞、鈴木学術財団特別賞受賞。著書多数。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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