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2018年2月26日月曜日

司馬遼太郎の『翔ぶが如く』を「半分読了」(中間報告)


司馬遼太郎の『翔ぶが如く』を第5巻まで読了。読み出してから約1ヶ月弱、現在のところ半分まで読了して、さらに面白い内容だと思いながら、第6巻を読み続けている。

その理由の一つは、読者であるわたしが、すでに年齢的には中年を過ぎているからかもしれない。暴発寸前の不平士族たちのような「突き上げる側」ではもはやなく、逆に「突き上げられる側」にいるためだろうか? 

本日(2018年2月26日)は、1936年の二二六事件から82年になるが、クーデターを主導した青年将校たちもそうであるように「突き上げる側」の心情も理解できるが、なんとか暴発を防ごうとしている政府中枢の大久保利通の立場もよく理解できるからだ。

文庫本で全10巻。約1ヶ月で半分読み終えたが、ペースが遅いのか早いのか? 同時並行で何冊もまったく異なる内容の本を読んでいるので『翔ぶが如く』だけに専念するわけにはいかないのだ。

読んでいるうちにもう少し関連分野を深掘りしてみたくなったりする。その結果、違う本に手をだしてしまったりもする。

だが、今回は不退転の決意で最後の第10巻まで読み切るつもりだ。できればあと1ヶ月で!





<ブログ内関連記事>

司馬遼太郎の歴史小説 『翔ぶが如く』 は傑作だ!





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2015年5月24日日曜日

書評『香港バリケード ― 若者はなぜ立ち上がったのか』(遠藤誉/深尾葉子/安冨歩、明石書房、2015)― 79日間の「雨傘革命」は東アジア情勢に決定的な影響を及ぼしつづける



タイトルの「香港バリケード」とは、昨年(2014年)に世界的な衝撃を与えた香港の「雨傘革命」のことを指している。学生の呼びかけで2014年9月22日にはじまったデモに、香港市民が自発的に(!)参加して79日間(!)つづいた巨大な運動のことだ。

香港トップの行政長官を選ぶ「普通選挙」が実施されないことに怒りと危機感を感じた学生たちが立ちあがったのである。1997年の香港返還に際して中国共産党が世界に公約した「一国二制度」のもとに真の民主主義があるのか、と。

「雨傘革命」(Umbrella Revolution)とは、米英メディアによる命名が定着したものだ。警察が使用した催涙弾や胡椒水などに対抗するため、非暴力で無抵抗(!)の学生たちにが雨傘で防戦したことからだという。授業ボイコットから始まった運動は、広場や幹線道路を占拠するにいたる。

日本人であるわたしは、香港人たちによる自由と民主を求める運動に心情的に共感するだけでない。現実的な意味において、この「雨傘革命」が真に民主的な中国への道を切り開くことにつながるのではないかと期待しながら、台湾で続いていた「ひまわり学生運動」(=太陽花學運)とともに、断続的に推移を見守ってきた。

「雨傘革命」も「ひまわり学運」も、ともに学生が中心となって、それぞれの政府を批判するデモである。共通するのは、自由と民主主義を抑圧する中国共産党に対する嫌悪感と危機感がある。民意をかならずしも反映しない一党独裁の体制への恐怖といってもいいだろう。香港も台湾も、中国共産党による大陸支配から逃れてきた人々が多いだけでなく、大陸中国で使用される簡体字ではなく、繁体字を使用している点にも共通点がある。

かつて返還後の香港と中国の関係について、いまは亡き台湾出身の投資家で経済評論家の邱永漢氏は、「香港の中国化」ではなく、「中国が香港化」するとポジティブな予言をした。香港返還が実現した1997年当時のことである。

経済とビジネスという側面についてのみ見れば、たしかにその通りとなった。鄧小平の「改革開放」路線後の中国は、いまや米国についでGDPで世界第2位の「大国」に成長している。「社会主義資本市場」という歪んだ体制が拝金主義を生みだしたという負の側面をともなったものであるが。

「中国が香港化」したことにより、中国にとって資本主義世界へのゲートウェイであった香港の存在意義が相対的に低下してしまったのである。中国共産党は、GDPで世界第2位の経済力によるチャイナマネーによって香港経済の生殺与奪を握りつつある状況である。政治という側面について見れば、「香港の中国化」が進行しているのである。台湾もまたその危機にある。

ここで想起しておくべきことは、日本人の一般的な認識では「香港返還」とされているが、中国共産党は「香港回収」としていることである。「返還」だと主体は植民地支配をつづけてきた英国にあるが、「回収」だと主体は中国共産党にある。富裕層を中心にした香港市民が、危険を感じて英国や英連邦のカナダやオーストラリアに「移民」していったのはある意味では当然の結果であった。

だが、金銭的に余裕のない人たちは香港にとどまることを選択した。かれらの多くが「一国二制度」における普通選挙の実施を信じていたが、その期待が裏切られたのである。英国と中国のあいだの交渉で決まった「一国二制度」(One Nation Two System Policy)で保証された「50年」が、かなりいい加減な数字であったことは、よもや香港市民も思いもしなかったことだろう。

英国の植民地であった香港は、中国共産党による支配を嫌って難民として逃れてきた人が多い。いわば「難民的メンタリティ-」の持ち主である。

「雨傘革命」の中心になった学生たちは、「難民」的メンタリティーの第一世代と異なり、そこで生まれ育ち、そこで生きていく「香港新世代」である。華人でありながら、アイデンティティの源泉は香港にある。自分たちの運命に直接的にかかわってくるからこそ、運動に立ち上がったのである。

「雨傘革命」は、途中から「オキュパイ・ウォールストリート」系の別勢力の合流によって性格が変容していき、その結果、香港市民の支持を失って収束する。香港経済そのものを機能不全にしたのでは、一般市民の生活が成り立たなくなってしまうからだ。

日本からみれば香港も台湾もともに「対岸」であるが、けっして「対岸の火事」とみなしてはいけない。台湾だけでなく、香港もまた日本の運命にも大きな影響を及ぼす存在である。

「国家資本主義」によって、カネのチカラで自由と民主主義を抑圧する一党独裁体制の中国への抵抗である、香港と台湾の運動がもつ衝撃的な意味を日本人はきちんと受け止めなくてはならない。


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目 次

序章 雨傘革命を解剖する-香港新世代のメンタリティ(遠藤誉)
第Ⅰ部 バリケードはなぜ出現したのか(遠藤誉)
 第1章 「鉄の女」サッチャーと「鋼の男」 小平の一騎打ち-イギリス植民地から中国返還へ
  1 アヘンを使って香港を奪ったイギリス
  2 新中国の誕生とイギリスの対中政策
  3 米中が接近するならイギリスも-一国二制度を準備した中国
  4 中英共同声明-地にひれ伏した美しい金髪
 第2章 香港特別行政区基本法に潜む爆薬-成立過程とからくり
  1 香港特別行政区基本法起草委員会
  2 香港人という塊の「正体」は何か?
  3 基本法はいかなる爆薬を含んでいるのか?
  4 2003年、基本法第23条-爆発した50万人抗議デモ
 第3章 チャイナ・マネーからオキュパイ論台頭まで-反愛国教育勝利の中で何が起きたのか?
  1 CEPAと「9プラス2」汎珠江デルタ大開発-チャイナ・マネーが「民心」を買う
  2 愛国論争と愛国教育導入への抗議デモ
  3 チャイナ・マネーが買った選挙委員会と長官選挙
  4 用意されていたオキュパイ論
 第4章 雨傘革命がつきつけたもの
  1 立ち上がった学生たち-デモの時系列
  2 市民がついていかなかった、もう一つの理由-チャイナ・マネーが民主を買う
  3 中国中央はどう対処したのか?
  4 世界金融界のセンターを狙う中国
  5 アジア情勢を揺さぶる新世代の本土化意識-新しいメンタリティ
  6 ジミー・ライの根性と意地
 ◆コラム 自由のないところに国際金融中心地はできない(安冨歩)
第ⅡI部 バリケードの中で人々は何を考えたのか
 第5章 香港が香港であり続けるために-香港と日本人のハーフが見た雨傘革命(伯川星矢)
  香港の未来に不安を感じている若者たち
  新旧両世代間の葛藤
  誰のためにある香港?
  若者たちの声を聞く
  私にとっての雨傘革命
第6章 最前線に立った66歳の起業家と17歳の学生(刈部謙一)
 ジミー・ライ インタビュー
 黄之峰(ジョシュア・ウォン) インタビュー
第7章 香港のゲバラに会いに行く(安冨歩)
第8章 It was not a dream-占拠79日を支えた想い(深尾葉子)
 20年目の香港へ
 返還後の香港に生まれた新たな生きざま
 運動で得たもの、失ったもの
終章 雨傘世代-バリケードは崩壊しない(遠藤誉)
あとがき 深尾葉子/遠藤誉

著者プロフィール

遠藤誉(えんどう・ほまれ)
1
941 年中国吉林省長春市生まれ。1953 年帰国。東京福祉大学国際交流センター長。筑波大学名誉教授。理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『チャイナ・セブン 〈紅い皇帝〉習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(以上、朝日新聞出版)、『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』(WAC)、『ネット大国中国-言論をめぐる攻防-』(岩波新書)、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』(日経BP 社)など多数。


深尾葉子(ふかお・ようこ)
1963 年大阪府生まれ。大阪外国語大学中国語専攻卒業。大阪市立大学大学院前期修了。大阪大学大学院経済学研究科准教授。修士(文学)。主な編著に『現代中国の底流』(行路社)、『満洲の成立』(名古屋大学出版会)、『黄土高原・緑を紡ぎだす人々』(風響社)、著書に『黄土高原の村――音・空間・社会』(古今書院)、『魂の脱植民地化とは何か』(青灯社)、『日本の男を喰い尽くすタガメ女の正体』『日本の社会を埋め尽くすカエル男の末路』(以上、講談社α新書)、翻訳書に『蝕まれた大地』(行路社)など。

安冨 歩(やすとみ・あゆむ)
1963 年大阪府生まれ。京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。東京大学東洋文化研究所教授。博士(経済学)。主な著書に『原発危機と「東大話法」』『幻影からの脱出』『ジャパン・イズ・バック』(以上、明石書店)、『もう「東大話法」にはだまされない』(講談社α新書)、『生きる技法』『合理的な神秘主義』(以上、青灯社)、『ドラッカーと論語』(東洋経済新報社)、『生きるための論語』(ちくま新書)、『経済学の船出』(NTT 出版)、『生きるための経済学』(NHK ブックス)、『「満洲国」の金融』『貨幣の複雑性』(以上、創文社)など多数。


<関連サイト>

中国問題研究家 遠藤誉が斬る (連載 2013年10月2日から現在) 

近刊!『香港バリケード――若者はなぜ立ち上がったのか』 (共著者の一人である安冨歩氏のブログ掲載の記事

香港選挙制度改革案否決 香港の前途は 雨傘革命の勝利、北京支配の限界、更なる混沌へ  (福島香織、2015年6月24日)

アリババが香港英字紙買収-馬雲(ジャック・マー)と習近平の絶妙な関係(遠藤誉、「中国問題研究家・遠藤誉が斬る」Yahoo!ニューズ、2015年12月13日)

書店関係者の失踪で高まる香港自治権への不安 (The Economist、2016年1月15日)

ドキュメンタリーWAVE 「“傘兵”はどこへゆくのか~新党ブームに揺れる香港~」(BS1 2016年5月29日放送)
・・「今、香港で新政党の立ち上げブームが起きている。その中心になっているのは「傘兵」と呼ばれる30万の若者たち。一昨年、民主的な選挙制度を求めて路上を占拠し、政治に目覚めた人たちだ。彼らは、独立のために暴力も辞さない過激な「本土派」と、対話で民主主義を実現するという「民主派」の二つのグループに分かれ、9月の選挙に向けて議論が沸騰している。30万の若者たちはどんな選択をしていくのか。」

天安門から27年、香港「独立派」乱立の意味 6月4日、混乱の追悼集会で考える香港の今と未来 (福島香織、日経ビジネスオンライン、2016年6月8日)

水原希子とレオン・ダイはなぜ謝罪したのか?:垣間見えた「文革の亡霊」 (野嶋剛、フォーサイト、2016年7月22日)
・・「台湾や香港の人びとが中国に対する根源的な信頼感を失いつつある流れと軌を一にするものであり、こうした騒動が起きるたびに、かえって台湾の人々を心情的な部分での「台湾独立」へますます傾かせるのである」

香港議会、「独立派議員誕生」が意味するもの (日経ビジネスオンライン、 2016年9月7日)

香港の「反中独立派」が中国を揺さぶり始めた 香港議会選挙で反中勢力が6議席を獲得 (美根 慶樹、東洋経済オンライン、2016年9月12日)

(2015年6月24、12月15日、2016年1月15日、5月29日、6月8日、7月27日、9月7日・12日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

遠藤誉氏の著作から

書評 『チャイナ・ギャップ-噛み合わない日中の歯車-』(遠藤誉、朝日新聞社出版、2013)-中国近現代史のなかに日中関係、米中関係を位置づけると見えてくるものとは?
・・権力を利用して蓄財したカネをマネーロンダリングしたチャイナマネーが、アングロサクソン諸国をうるおしているという実態、しょせん英米アングロサクソンの手のひらの上で踊らされているに過ぎない中国共産党の深層が明るみに出た事件

書評 『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』(遠藤誉、WAC、2013)-中国と中国共産党を熟知しているからこそ書ける中国の外交戦略の原理原則

中国に依存する香港経済

書評 『ボルドー・バブル崩壊-高騰する「液体資産」の行方-』 (山本明彦、講談社+α新書、2009)-ボルドー・ワインにみる世界経済のいま 
・・「第4章 香港・中国は「ワインの覇者を目指す」であった。 2008年8月にスピリッツを除くワインや酒類の関税を一気にゼロにした香港は、「アジアのワイン首都」を目指しているという。すでに3年前の東京に追い付いているというから、この勢いは無視できないものがある。 香港は地理的には、シンガポール、上海、北京、東京など主要な消費地の中心に位置しており、物流網も完備、金融システムも安定しており、中国本土へのゲイトウェイである香港から関税ゼロでワインが再輸出されるからだ。 中国はワイン消費だけでなく、ワイン生産国としても大きな将来性があるというレポートがでているらしい。 まさに中国おそるべし、である。」


「一党独裁」を支えるチャイナマネー 

書評 『自由市場の終焉-国家資本主義とどう闘うか-』(イアン・ブレマー、有賀裕子訳、日本経済新聞出版社、2011)-権威主義政治体制維持のため市場を利用する国家資本主義の実態
・・一党独裁の中国は典型的な「国家資本主義」


中国民主化

天安門事件(1989年)から20年か・・

「天安門事件」から25年(2014年6月4日)-天安門は「見る」ものではなく、そこに「立つ」べきものだ


圧政に対して闘う市民

ミュージカル映画 『レ・ミゼラブル』を観てきた(2013年2月9日)-ミュージカル映画は映画館で観るに限る! ・・バリケードを構築して闘った市民たち

韓国現代史の転換点になった「光州事件」から33年-韓国映画 『光州 5・18』(2007年)を DVD でみて考えたこと(2013年5月18日) 

書評 『バンコク燃ゆ-タックシンと「タイ式」民主主義-』(柴田直治、めこん、2010)-「タイ式」民主主義の機能不全と今後の行方

『動員の革命』(津田大介)と 『中東民衆の真実』(田原 牧)で、SNS とリアル世界の「つながり」を考える


台湾人のための台湾

映画 『KANO 1931海の向こうの甲子園』(台湾、2014年)を見てきた-台湾人による台湾人のためのスポ根もの青春映画は日本人も感動させる 

書評 『新・台湾の主張』(李登輝、PHP新書、2015)-台湾と日本は運命共同体である!

(2015年10月25日、2016年7月21日 情報追加)


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2015年5月10日日曜日

書評 『チャイナ・セブン ― <紅い皇帝>習近平』(遠藤誉、朝日新聞出版社、2014)― "第2の毛沢東" 習近平の「最後の戦い」を内在的に理解する



「チャイナ・セブン」とは、中国共産党の最高意志決定機関である中共中央政治局常務委員のメンバー7人をさしている。本書の著者・遠藤誉氏による表現である。

もともとは「チャイナ・ナイン」だったが、習近平体制になってから2人減らし「チャイナ・セブン」となった。「反日」を前面に打ち出し、みずからのカリスマのなさを糊塗しようとした江沢民が増員して9人にしたものを、ふたたび7人に戻したのである。「チャイナ・セブン」は集団指導体制であり、かならず多数決で結論がでるよう奇数になっていることには変わりはない。

「チャイナ・セブン」による意志決定は集団指導体制によるものだが、実質的に現在の習近平体制において権力集中が進んでいるように見える。さまざまなバックグラウンドをもつメンバーによって構成されているとはいえ、それぞれが習近平に近い考えの持ち主であるためだ。個別の議案にかんしては意見が一致しないことがあっても、基本政策に異論はない

その習近平の基本政策とは、中国共産党による支配を守り抜くために、経済成長を維持しながらも腐敗を撲滅するというものである。経済成長は中国共産党が支持される唯一のレゾンデートル(=存在理由)であり、同時に腐敗が撲滅されない限り国民の不平等感は体制批判に発展しかねないからだ。

鄧小平の「改革開放」路線によって中国は、いまや米国についでGDPで世界第2位の「大国」に成長したが、「社会主義資本市場」という歪んだ体制は拝金主義を生みだし、民意をかならずしも反映しない一党独裁の体制への不満が日に日に増大している。社会のすみずみに跋扈(ばっこ)する汚職官僚に対する国民の怒りは暴動に発展することもありすさまじものがある。

鄧小平が打ち出した「先富論」は、経済成長によって先に豊かなった地域が、貧しい地域に移転してくことによって最終的にはみな豊かになるという理論であった。経済学でいう「トリクルダウン論」だが、現在明らかになったことは、先に豊かになった地域や人がさらに豊かになる一方、経済発展の遅れた地域は依然として貧しいだけでなく、国全体の経済発展の犠牲になっているという事実である。

「先富論」が前面に打ち出された結果、鄧小平のもう一つ重要な政策方針がかき消されてしまったのである。それは「共富論」である。経済学でいう所得移転、富の再分配のことであるが、「共富論」のほうは胡錦濤時代にも実現できず、習近平時代にバトンタッチされているが、いまだ実現にはほど遠い。

だからこそ、習近平は「虎も蠅も同時に叩く!」というスローガンのもとに腐敗撲滅に邁進しているのである。腐敗官僚が搾取した富を回収して、国民に再分配を図ろうとしているのである。

虎は高級官僚をさしており、蠅は日本語でいえば雑魚(ざこ)となろう。「虎も蠅も同時に叩く!」という表現だが、方法論としては、無数に存在する蠅叩きからはじめて腐敗情報を集積しながら、本丸である高級官僚まで摘発するというものだ。腐敗の温床である国有企業がらみの鉄道利権や石油利権など、つぎつぎと解体に着手するという実績をすでにあげている。つぎのターゲットは江沢民の長男がかかわる通信利権のようだ。

なぜ習近平は、腐敗撲滅という過激な政策を実行できるのか? これは習近平という人物を丁寧にたどることによって明らかになる。本書の醍醐味はまさにそこにある。「<紅い皇帝>への道」という副題のついた「第1章 延安の誓い」「第2章 雌伏のとき」「第3章 中央へ昇る」を読むと、手に取るように納得するのである。

毛澤東ともに革命戦争を戦った世代の二代目である「紅二代」(・・日本では誤解されているが「太子党」は蔑称である)であるにもかかわらず、習近平は農村に「下放」(かほう)されることになる。革命の功労者であるのにかかわらず、父親が逮捕され16年間も牢獄生活を強いられたためである。習近平の苦労は並大抵のものではない。

注目すべきことは、習近平が「下放」先として、あえて延安をみずから選んだという点だ。延安と聞いてピンとくれば、もうその時点で習近平という存在が瞬間に理解されるハズである。延安とは、中国国民党に追われた中国共産党が、「長征」とう美名のもとに行った逃避行の末にたどり着いた中国内陸部の土地のことである。中国共産党を率いた毛澤東と密接な連想を想起させる象徴的な地なのである。

習近平体制の初期の最大の事件は、 『チャイナ・ジャッジ-毛沢東になれなかった男-』(遠藤 誉、朝日新聞出版社、2012) で全面的に取り上げられている「薄熙来事件」である。「チャイナ・ナイン」入りを狙っていた薄熙来は、毛澤東のイメージを最大限につかって「大衆路線」を演出しようとしたのだが、最終的には逮捕され、その野望は挫折した。

この薄熙来もまた「紅二代」であるが、習近平と比べたら、毛澤東イメージにかんしては比較しようもない。習近平はポーズとして毛澤東イメージをつかっているのではなく、毛澤東精神の体現者といっても言い過ぎではないのである。「紅い皇帝」としては毛澤東以上かもしれないという著者の指摘には耳を傾ける必要があろう。

だが、「毛澤沢東以上の毛澤東」である習近平は、同時に「最後の毛澤東」でもある。革命第二世代としての「紅二代」が最高権力者となるのは世代的に習近平が最後であり、習近平時代に腐敗撲滅が実現できなければ、その後の体制に期待することは難しい。

腐敗撲滅に成功するかが、中国共産党が生き延びることができるかどうかのカギなのである。中国共産党=中華人民共和国である以上、中国共産党が崩壊するとき、中国もまた国家として崩壊することになる。

そういう瀬戸際にあるのが習近平体制なのである。日本からみると「反日」をはじめとする対外的な強硬路線ばかりが目につくが、国内情勢をみれば想像を絶する戦いを強いられている状態であることがわかる。まさに「内憂外患」ともいうべき状態が、いまの中国である。

「内在的理解」による習近平とその体制解読の本書は、中国情勢のみならず国際情勢理解のためにぜひ一読しておきたい。




目 次

序章 中国の苦悩-チャイナ・セブンの顔ぶれ
第1章 延安の誓い-<紅い皇帝>への道
 1. 父・習仲クンの逮捕
 2. 「私は延安の人」-「大衆路線」の原点
 3. 「皇帝」への道-その分岐点
第2章 雌伏のとき-<紅い皇帝>への道
 1. 河北省正定県での活躍
 2. 17年間もいた福建省
第3章 中央へ昇る-<紅い皇帝>への道
 1. 浙江省書記 
 2. 上海市書記
   江沢民はなぜ上海市書記にまでなれたのか
第4章 李克強と五人の男たち
 1. 李克強-「国字顔」の男
 2. 残り5人の男たち(=党内序列ナンバー3~7)
第5章 次期・次次期チャイナ・セブン候補
第6章 <紅い皇帝>は13億人をどこへ導くのか?
 1. 胡錦濤ができなかったこと-「先富」から「共富」へ
 2. 国有企業改革
 3. 国家新型城鎮化計画
 4. 外交戦略
終章 香港デモの真相-金か、人間の尊厳か


著者プロフィール

遠藤誉(えんどう・ほまれ)
1941 年中国吉林省長春市生まれ。1953 年帰国。東京福祉大学国際交流センター長。筑波大学名誉教授。理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『チャイナ・セブン 〈紅い皇帝〉習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(以上、朝日新聞出版)、『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』(WAC)、『ネット大国中国-言論をめぐる攻防-』(岩波新書)、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』(日経BP 社)など多数。


<関連サイト>

中国問題研究家 遠藤誉が斬る (連載 2013年10月2日から現在) 



<ブログ内関連記事>

遠藤誉氏の著作

書評 『チャイナ・ギャップ-噛み合わない日中の歯車-』(遠藤誉、朝日新聞社出版、2013)-中国近現代史のなかに日中関係、米中関係を位置づけると見えてくるものとは?

書評 『チャイナ・ジャッジ-毛沢東になれなかった男-』(遠藤 誉、朝日新聞出版社、2012)-集団指導体制の中国共産党指導部の判断基準は何であるか?



現代中国

書評 『習近平-共産中国最弱の帝王-』(矢板明夫、文藝春秋社、2012)-「共産中国最弱の帝王」とは何を意味しているのか?

書評 『中国外交の大失敗-来るべき「第二ラウンド」に日本は備えよ-』(中西輝政、PHP新書、2015)-日本が東アジア世界で生き残るためには嫌中でも媚中でもない冷徹なリアリズムが必要だ
書評 『語られざる中国の結末』(宮家邦彦、PHP新書、2013)-実務家出身の論客が考え抜いた悲観論でも希望的観測でもない複眼的な「ものの見方」
・・「中国崩壊」をシミュレーションする

書評 『中国台頭の終焉』(津上俊哉、日経プレミアムシリーズ、2013)-中国における企業経営のリアリティを熟知しているエコノミストによるきわめてまっとうな論 ・・国内の社会問題を解決できない中国に未来はあるか?

「稲盛哲学」 は 「拝金社会主義中国」を変えることができるか?

(2015年5月15日、17日 情報追加)


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2010年7月24日土曜日

書評『明治維新 1858 ー 1881』(坂野潤治/大野健一、講談社現代新書、2010)― 近代日本史だけでなく、発展途上国問題に関心のある人もぜひ何度も読み返したい本




近代日本史だけでなく、発展途上国問題に関心のある人もぜひ何度も読み返したい本

 『明治維新 1858ー1881』。実にシンプルなタイトルである。サブタイトルがないので、注目されることもなく埋もれてしまうのではないかと心配だ。

 しかし、内容はきわめてすばらしい。何よりも明治維新をみる視点が斬新である。内容的には埋もれるどころか、ロングセラーになりうる本だといえよう。

 本書は日本人のためだけに書かれたものではない、ということも重要だ。英語版に先行して、この日本語版が出版されたという。

 明治維新はもちろん日本人自身の歴史ではあるが、日本語使用者にしか理解できない日本史特有の歴史用語を、開発経済学の用語で言い換えることによって、国際比較という観点からみた明治維新を記述することが可能となった。

 開発経済学の立場からみた「明治維新モデル」が、果たしてアジア・アフリカの発展途上国にとって、いったいどこまで参考になるのか、あるいは参考にはならないのかという問題意識のもとに始められた、日本近代政治史の重鎮との共同研究の成果である。

 最新の研究成果を縦横に駆使して、非常に明晰な文体で書かれた政治経済史である。

 本書の構成を紹介しておこう。

第一部「明治維新の柔構造」
 明治維新というモデル、柔構造の多重性、明治維新の指導者たち、政策と政局のダイナミズム

第二部 改革諸藩を比較する
 越前藩の柔構造、土佐藩の柔構造、長州藩の柔構造、西南戦争と柔構造、薩摩藩改革派の多様性と団結、 薩摩武士の同志的結合、柔構造の近現代

第三部 江戸社会-飛躍への準備
 日本社会の累積的発展、近代化の前提条件、幕末期の政治競争とナショナリズム


 本書のキーワードは「柔構造」である。柔構造というと、私はかつて一世を風靡したエコノミスト竹内宏の『柔構造の日本経済』を思い出すが、幕末の「改革諸藩」を「改革諸藩」たらしめた特徴が、この柔構造の組織体であったという指摘は非常に示唆に富んでいる。

 変革の行動単位であった改革諸藩においては、かつて強調されてきたような下級武士による革命というよりも、財政改革によって実現した強い経済力に裏打ちされた、軍事力をともなう「藩」を行動主体として、機を見るに敏な藩主と、実力本位で登用された下級武士たちとの連携プレイがうまく機能していたことが強調されている。

 プレイヤーたちそれぞれの、状況の急変に応じて、悪くいえばいい加減、よくいえば融通無碍(ゆうづうむげ)な行動による、諸藩の離合集散や合従連衡(がっしょうれんこう)を繰り返しながらも、大きな政治改革を破綻させることなく、最後まで遂行させる原動力になった。

 著者たちによれば、これは日本近現代史においては以後みられぬことだけに、驚嘆すべき歴史的事象なのである。これが著者たちのいう「柔構造」である。

 とくに、変革の主体であった政治エリートたちの人物に焦点をあてており、彼らのあいだで交わされた書簡の内容を見ることで、いかなる情報共有が行われていたかの記述は興味深い。とくに「基本的価値観を共有した多様な意見の柔構造」であった薩摩藩の事例がきわめて興味深い。

 明治維新を可能にした経済的、知的インフラ要素についての本書の記述を読むと、この時点において、植民地となることなく、日本人が自らの手で政治変革を実行しえたことは、世界史的な意義をもつ出来事であったことが十分に理解されるのである。

 中国でも、朝鮮(韓国)でも、明治維新のインパクトがいかに大きなものであったかは、東洋史家の岡田英弘などが以前から指摘しているとおりである。毛澤東だけでなく、鄧小平もつねに明治維新を意識していたのである。

 現代でも、アジア・アフリカの発展途上国では、「明治維新」は十分にモデルたり得るだろう。ただし、モデルとしての普遍性、特殊性について十分に分析したうえでの検証が必要だろう。

 最近の新書本では珍しい、読み応えのある一冊である。

 近代日本史に関心のある人だけでなく、発展途上国問題に関心のある人もぜひ一読、いや再読、三読したいものである。


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<初出情報>

■bk1書評「近代日本史だけでなく、発展途上国問題に関心のある人もぜひ何度も読み返したい本」投稿掲載(2010年6月28日)
■amazon書評「近代日本史だけでなく、発展途上国問題に関心のある人もぜひ何度も読み返したい本」投稿掲載(2010年6月28日)

*再録にあたって字句の一部を修正した。



■著者プロフィール

 

 坂野潤治(ばんの・じゅんじ)
1937年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。文学修士。東京大学社会科学研究所教授、千葉大学法経学部教授を経て、東京大学名誉教授。専門は日本近代政治史。主な著書に、『近代日本の国家構想 一八七一 ~ 一九三六』(岩波書店、吉野作造賞)、『日本憲政史』(東京大学出版会、角川源義賞)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)

大野健一(おおの・けんいち)
1957年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、スタンフォード大学にて Ph.D(経済学)取得。現在、政策研究大学院大学教授。専門は開発経済学、産業政策論。主な著書に、『国際通貨体制と経済安定』(東洋経済新報社、毎日新聞社エコノミスト賞)、『市場移行戦略―新経済体制の創造と日本の知的支援』(有斐閣、アジア・太平洋賞特別賞)、『途上国のグローバリゼーション』(東洋経済新報社、大佛次郎論壇賞・サントリー学芸賞)がある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


PS 読みやすくするために改行を増やした。 (2014年9月10日 記す)。




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(2014年9月10日 情報追加)


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