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2022年7月25日月曜日

ジェームズ・M・バーダマン氏の「ディープサウスもの」を読む ― 南部出身のアメリカ人の視点で書かれたアメリカ南部



「アメリカ南部」関連の本をまとめて読んだ。あらためて南部テネシー州出身のエルヴィス・プレスリーについて、幅広いコンテクストで考えてみたいと思ったからだ。 

ジェームズ・M・バーダマンという人がいる。早稲田大学で教鞭をとられていたようだが、南部のなかでも「深南部」とよばれる「ディープサウス」のテネシー州に生まれ育った人だ。

名字のつづりは Vadaman だから、ほんとうはヴァーダマンとすべきなのだろう。だが、本人がバーダマンで通しているので、この表記に従うことにする。




その人の本を5冊まとめて読んだ。 読んだ順番では以下のようになる。 


『ふたつのアメリカ史ー南部から見た真実のアメリカ 改訂版』(ジェームズ・M・バーダマン、東京書籍、2003) 
『アメリカ南部ー大国の内なる異境』(ジェームズ・M・バーダマン、森本豊富訳、講談社現代新書、1995) 
『ロックを生んだアメリカ南部ールーツ・ミュージックの文化的背景』(ジェームズ・M・バーダマン/村田薫、NHKブックス、2006) 
『ミシシッピ=アメリカを生んだ大河』(ジェームズ・M・バーダマン、井出野浩貴訳、講談社選書メチエ、2005) 
『わが心のディープサウス』(ジェームズ・M・バーダマン=文、スティーブ・ガードナー=写真、森本豊富訳、河出書房新社、2004) 

出版された際に購入したものの読んでなかった本や、あらたに取り寄せて読んだ本もある。どうやら、現在ではいずれも品切れのようだ。 すばらしい内容の本ばかりなので(・・ただし、似たテーマなのでそれぞれ重複はある)、残念なことだ。


■南部の視点に立ったオルタナティブ・ヒストリー

このななかから、これはとくにすばらしいという本を2冊ピックアップしておこう。 





どうしても西海岸も東海岸も含めて「北部」の視点でみがちだが、19世紀半ばの「南北戦争」(The Civil War:内戦)で「敗者」となった「南部」の視点で見ると、異なるアメリカが浮かび上がってくるのを知ることになる。 

日本人は、ヤンキー(yankee)とは、北部人のことであることを、しっかりとアタマに刻み込んでおかねばならない。 

アメリカで「負け組」となったのは、先住民だけでなく南部もまたそうだったのである。その南部において、さらに苦難の道を強いられたのが黒人であることは言うまでもない。 

長きにわたって発展から取り残されてきた南部だが、1929年の「大恐慌」後の「ニューディール政策」がキッカケになって、発展の道を進んでいくことになる。現在では、南部への人口移動も起こっており、ずいぶん状況は変化しつつある。 

大東亜戦争によって「敗者」となった日本と、なんだか似ているような気がしないでもない。そんな「敗者」の視点から南部を見る必要もあると思う。


目 次
序 
1 <植民地アメリカ>への道 
2 ふたつの国家
3 南北戦争
4 新しい南部
5 アメリカの「平等」
6 現在の南部・北部
7 南部人と北部人
註 参考文献  あとがき


■アメリカ音楽の大半は南部から生まれた





ルイジアナ州ニューオーリンズ生まれのジャズ
、おなじくミシシッピ川流域のデルタ地帯から生まれた黒人音楽のR&B(=リズム&ブルース)教会音楽のゴスペル(・・黒人教会のものだけでなく、白人教会のゴスペルもある)、そしてアパラチア山脈から生まれた白人音楽のカントリー。 

R&Bとゴスペルに起源をもつのがロックンロールだ。エルヴィス・プレスリーは、まさに豊穣な黒人音楽の土壌との接点から生まれてきたのである。 

シカゴを舞台にしたコメディ映画で音楽映画でもある『ブルーズ・ブラザーズ』(1980年)は、まさにそのコンピレーションといってもいい。シカゴが黒人音楽の一つの中心であることの意味も、わかってくる。

シカゴは、ミシシッピ川の上流域に近い大都市だ。この点にかんしては『ミシシッピ=アメリカを生んだ大河』を読むとよくわかる。20世紀前半の黒人の南部から北部への大移動(=グレート・マイグレーション)は、ミシシッピ川を北上するのルートであった。

このように、アメリカ音楽のルーツが、ほぼディープサウスやアパラチア山脈に集中していることが説得力をもって記述されている。


目 次 
プロローグ すべてはふたりのキングから生まれた
第1章 黒人音楽はエルヴィスの中に焦点を結んだ
第2章 ブルースマンの悲痛な叫び ー ミシシッピー・デルタの混淆から
第3章 都市をゆりかごに生まれたジャズ ー ニューオリンズの坩堝から
第4章 ゴスペル 魂の高揚 ー 信仰と教会、そしてアフリカの匂い
第5章 カントリーの故郷はどこか ー オールドアメリカへの郷愁
エピローグ 都市という荒野で歌うディラン
参考文献一覧   参考CD、DVD選   
あとがき


今回とりあげた2冊は、とくにすばらしい内容なので、ぜひ文庫版などの形で復刊すべきだろう。日本人のアメリカ認識を大いに拡大してくれることになるはずだ。 

わたし自身は、西海岸のカリフォルニア州北部と東海岸のニューヨーク州で暮らしたことはあるが、南部とくにディープサウスは、ニューオーリンズやアトランタなど、旅行や出張などの機会に訪れたに過ぎない。

ちなみに映画『JFK』は、舞台がニューオーリンズであることは先日はじめて知った。 ニューオーリンズは、ハリケーン・カトリーナ(2005年)で壊滅的打撃を受けたことは記憶にあたらしい。どこまで復興したのだろうか・・・。 


***

PS 2022年のミシシッピ川は、洪水どころか干上がってしまっているらしい。水位が大幅に下がって、沈没船が姿を見せたりしていると報道されている。世界中で水不足が懸念されている事態だが、こんなことは想像もされなかったことだ。(2022年11月13日 記す)



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2022年7月1日金曜日

映画『エルヴィス』(2022年、米国)を日本公開初日に見てきた(2022年7月1日)― エルヴィスは、アメリカそのものだったのだ!

 

映画『エルヴィス』(2022年、米国)を日本公開初日に見てきた。159分がまったく長く感じられなかった。エルヴィスは最高だ!  

それにしても、主演を演じたオースティン・バトラーは、よくここまでエルヴィスを演じきったと思う。ほとんどエルヴィスが憑依したかのようであった。 

それにもまして、マネジャーのカーネル・パーカーを演じたトム・ハンクスの演技もすごい。ほとんど主役を食いかねないほどの怪演としかいいようがない。 

エルヴィスを見いだしたのは興行師としてのパーカーであり、まさにパーカーなくしてエルヴィスなし。エルヴィスなくしてパーカーなしというほどであり、その愛憎に満ちた関係こそ、この映画の中心テーマである。 


南部テネシー州の田舎町でプアホワイトの家庭に生まれ、黒人居住区で黒人たちのなかで育ち、その音楽環境のまっただ中で育ったエルヴィス。この映画は、エルヴィスの音楽的ルーツがどこにあるのか、余すことなく描き切っている。

R&B(=リズム&ブルース)と黒人教会のゴスペルである。この映画を見るまで知らなかったのだが、エルヴィス初期の代表作 Hound Dog もまた、黒人音楽そのものであった。
 
1950年代は、第2次世界大戦に勝利した米国にとっては「黄金時代」であった。だが、南部では、セグレゲーション(=人種隔離政策)が行われていた。よりによって白人が黒人音楽を演じるなどもってのほかと見なされていた時代だった。 




だからこそ、1955年のデビューが衝撃的であったのだ。モノクロでしか残っていない実写フィルムではなく、この経緯をカラーで再現したからこそ、その意味がいやがおうでもダイレクトに伝わってくるのだ。 


■音楽映画であり伝記映画である

基本的に伝記映画なので、時系列にそって展開していく。

前半のハイライトが、衝撃的なデビューから徴兵による兵役までだとすれば、復員後のミュージカル映画の俳優時代を経て、歌手としての原点に戻った1968年のカムバック以降の日々が後半のハイライトになる。

それにしてもカムバック曲の If I Can Dream には泣かされた。 全身全霊で歌うエルヴィス。曲だけでなく、その歌詞の意味するところこそ重要なのだ。1968年という年が、米国社会においていかなる意味をもっていたかを考えてみたらいい。 


(Elvis Presley - If I Can Dream ('68 Comeback Special)


ただし、学生運動が中心となった欧州や日本の1968年とやや違うのは、米国ではキング牧師やロバート・ケネディの暗殺事件が続くなど、人種問題とベトナム戦争がもたらした精神的病理現象が社会全体に充満しつつあったことにある。

個人的には、1973年のハワイからの全世界衛星生中継(・・これはわたしは小学校4年のときのこと。リアルタイムでTVで見ている。つまり当時は日本の小学生でもエルヴィスの存在を知っていたわけだ。それほどのスーパースターだったのである!)を中心に据えて欲しかったが、そこはさらりと扱われるだけなのはちょっと残念。


(Elvis Presley - Aloha From Hawaii, Live in Honolulu, 1973 (Full Concert) 71分)


ワールドツアーでの欧州と日本公演の夢が叶えられなかったエルヴィスだが、その代償として行われたのがハワイ公演なのであった。

スーパースターとして頂点を極めたが、だからこそ抱え続けた内面の孤独。42歳で亡くなったかれだが、それでも、もはや立って歌えなくなってからの、1977年の最後の最後のステージでの熱唱(・・これはエルヴィス本人だ)には、また心打たれるものがある。


(Elvis Presley Unchained Melody + Indianapolis Airport TRIBUTE 1977)


まさに、全身全霊で歌いきり、生き切った人生だからだ。 

書き出せばきりがないが、エルヴィスのファンならもちろん、かならずしもそうではなくても、音楽映画として大いに楽しめるはずだ。 




なるほど、エルヴィスの曲は、いまに至るまでアメリカ人を癒やしつづけているのだ、と。いや、アメリカ人だけでなく、全世界で愛されされ続けている。 映画の最後で、字幕監修が湯川れい子氏であることを知って、大いに納得した。 





<関連サイト>

・・エルヴィスはワールドツアーで日本に来たかった。映画では、なぜその夢が叶えられなかったかについて、その理由の一端が明らかにされる。そのかわりとして行われたのが、1973年のハワイからの世界衛星生中継だった


<ブログ内関連記事>




・・I have a dream で有名な黒人解放運動の指導者キング牧師は1963年にエルヴィスの故郷メンフィスで暗殺。エルヴィスは、公式にキング牧師に哀悼の意を示すことはできなかった。1968年カムバック曲  If I Can Dream を想起せよ!




・・映画『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)への解説


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2017年8月18日金曜日

追悼 エルヴィス逝って40年(2017年8月16日)-「ゴスペルを愛してやまなかったエルヴィスの内奥を本当に理解しない限り、エルヴィスをありのまま愛することはできない・・・・」



1977年8月16日に42歳(!)で亡くなったエルヴィス・プレスリー。本日8月18日には葬儀が行われた。 早いものでもう40年!

生きていれば82歳(!)ということになる。どうも想像しにくいことだ。だが、エルヴィスが生まれたのは1935年、日本の年号でいえばなんと昭和10年だ。自分の父親の世代なんだなあ。若くして亡くなった人は、そのイメージのまま永遠に生き続ける。

ハワイから「衛星生中継」(!)で全世界に中継されたエルヴィスの公演は、小学校の頃、リアルタイムでTVで見ている世代。同じクラスの生徒もほとんどが見ていたほど、当時は大人のあいだで話題になったようだ。1973年のことである。

(ELVIS Aloha rom Hawaii via SATELLITE 1973 CDジャケット マイコレクションより)

だからそれ以来のファンだ、というわけではないが、少年時代のそんな思い出もエルヴィス好きになった背景があるかもしれない。

つい最近だが、こんな本が出版されていたことを知った。『エルヴィスの真実-ゴスペルを愛したプレスリー-』(ジョー・モスケイオ、いのちのことば社、2016)。原本は2007年の出版。 日本語版はキリスト教系の出版社。

著者は、バックコーラスを担当したゴスペルグループのジ・インペリアルズのメンバー。エルヴィスはコンサートが終わると友人たちを集めて、ひたすらゴスペルを歌いまくったという。著者もまたそんなエルヴィスの友人の一人でもあった。

「ゴスペルを愛してやまなかったエルヴィスの内奥を本当に理解しない限り、エルヴィスをありのまま愛することはできない・・・・。すべてはこの一事に尽きるのです」。これが著者による本書の結語だ。

そして帯には、「はじめて語られた「エルヴィスの真実」です。ゴスペルが彼の音楽の背骨であり、歌に込められた愛だったのです」(湯川れい子)とある。さすがに湯川れい子氏である。その通りだと実感する。エルヴィスのゴスペル・アルバム『心のふるさと』のライナーノーツを見たら、1973年の時点ですでに同様のことが記されている。

わたしはひそかに「歌う伝道師エルヴィス」なんてフレーズをつくったりもしている。もちろん、それはあくまでも比喩的表現だが、もともとはゴスペル歌手になりたかったというほど、エルヴィスはゴスペルと賛美歌に入れ込み、熱心な信仰をもっていたキリスト教徒であったことは、もっと広く知られるべきことだと思う。


(エルヴィスのゴスペル・アルバム マイコレクションより)


エルヴィス大好きだが、とりたててゴスペル好きではないし、キリスト教徒ではないわたしも、エルヴィスが歌うゴスペルCDは何枚ももっている。この本を読んで、エルヴィスの理解がさらにすこし進んだような気がする。

南部のバイブルベルトに生まれ育ち、黒人音楽と白人音楽を一身において融合したという、音楽の分野でエルヴィスがアメリカ文化でやり遂げたことの理解もまた。いまトランプ政権のもとで南部の白人至上主義者と反対派との衝突が激化しているが、エルヴィスが生きていたらどんなに悲しむことだろうか・・・。

そんなことをいろいろ考えさせてくれるのがエルヴィス生涯であり、それを伝えてくれたは著者のおかげである。翻訳だが文章はなめらかで読みやすい。ぜひおすすめしたい。


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<関連サイト>

「没後40年」のエルビス・プレスリー、全英チャートで1位に(Forbes Japan、2017年8月16日)
・・「プレスリーは英国の音楽ファンたちに愛されており、いくつかのアルバムはアメリカよりも高いチャート順位を獲得していた。しかし、プレスリーがイギリスを訪れたのは1回のみで、飛行機の乗り換えでわずかな時間滞在しただけだった。」 日本も同様。



<ブログ内関連記事>

書評 『反知性主義-アメリカが生んだ「熱病」の正体-』(森本あんり、新潮選書、2015)-アメリカを健全たらしめている精神の根幹に「反・知性主義」がある
・・アメリカ的キリスト教を知るには格好のテキストでもある

書評 『アメリカ精神の源-「神のもとにあるこの国」-』(ハロラン芙美子、中公新書、1998)-アメリカ人の精神の内部を探求したフィールドワークの記録

Tommorrow is another day (あしたはあしたの風が吹く)
・・『風と共に去りぬ』の名セリフ

書評 『追跡・アメリカの思想家たち』(会田弘継、新潮選書、2008)-アメリカの知られざる「政治思想家」たち
・・アメリカ南部は「コンサーバティブ・エリア」

映画 『最後のマイ・ウェイ』(2011年、フランス)をみてきた-いまここによみがえるフランスの国民歌手クロード・フランソワ
・・シナトラだけでなく、エルヴィスも歌った「マイ・ウェイ」は、もともとフレンチポップスであった


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