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2021年5月1日土曜日

書評『ロシアの愛国主義 ー プーチンが進める国民統合(サピエンティア52)』(西山美久、法政大学出版局、2018)ー なぜ「対独戦勝記念日」(毎年5月9日)がいまなおロシアで大きな意味をもつのか?

(カバーは「独ソ戦勝記念日」のパレード) 

『ロシア愛国主義-プーチンが進める国民統合』(西山美久、法政大学出版局、2018)を読了。1985年生まれの新進気鋭のロシア研究者による、博士論文をもとにした研究書である。 

多民族で多宗教のロシアを統治するのは、並大抵のことではない。比較的に同質性の高い島国の日本人の想像の範囲を大きく超えている。 

かつて「民族の牢獄」とよばれていたソ連であるが、「民族」を超えた「ソ連」というメタレベルのフレームワーク(枠組み)をもっていたため、「民族」も「宗教」も前面に出ることはなかった。つまるところ、「民族問題」はなんとかコントロールされていたのである。 

だが、ソ連崩壊によって「民族問題」が噴出、バルト三国をはじめ中央アジア諸国が分離独立した後のロシアは、ソ連時代より縮小したとはいえ、依然として多民族国家であり多宗教国家であることに変わりはない。周辺地域ではどうしても遠心力が働きがちである。ユーゴスラビア解体のような最悪の事態は避けなくてはならない。 

こんな状態のロシアをバラバラにさせずに「国民統合」を維持するためには、「国家」と「国民」を前面に打ち出す必要がある。ロシアにおいては、けっして排外主義的な「民族」主義が前面に出てはいけないのだ。この点は誤解がなされがちなので強調しておく必要がある。 

そこでエリツィン政権末期に浮上してきたのが「愛国主義」であり、そのためのさまざまなシンボル操作であった。国旗と国歌はその最たるものである。

「愛国主義」はプーチン政権のもとで全面的に展開されることになる。ロシア国歌は、エリツィン時代のグリンカ作曲のものから、 プーチン時代には歌詞を変更したうえでソ連時代の曲に戻している。

国旗や国歌は、「国民統合」の求心力をつくりだすためのシンボルとしてあげられるが、もっとも重要なものは毎年5月9日に行われる「対独戦勝記念日」というイベントにまつわるものであろう。 


第2次世界大戦の地獄の「独ソ戦」を戦い抜くためにスターリンが打ち出したのは、「大祖国戦争」というスローガンであった。このスローガンのもとにソ連全土で総動員がかけられ、
多大な犠牲者を出しながらも、最終的に侵略者であるナチスドイツを打ち負かした。

戦勝を祝う軍事パレードをともなうこの「対独戦勝記念日」は、スターリン時代のソ連で誕生し、その後スターリン色が薄れながらもソ連時代に定着した。「対独戦勝記念日」は、ソ連崩壊後も「民族」や「宗教」を超えた連帯感をロシア全体で生み出す重要な行事となっているのである。 

(本書カバーより 戦勝記念日のバナーに描かれた「聖ゲオルギー勲章」)

ロシアとドイツは歴史的にみても、切っても切り離せない密接な関係にあるが、たとえそうであっても「対独戦勝記念日」はロシアで重視されているのであり、その意味にについて知ることが重要なのだ。 

プーチン政権は、このソ連時代の遺産をフルに活用しているのだが、けっして上からの政策ではないというのが著者の主張だ。 独ソ戦の退役軍人とその家族を中心とした下からの突き上げが地方政府を動かし、ひいては連邦政府を動かす要因になっていることを実証している。 

このほか官製の青年組織である「ナーシ」の盛衰など、さまざまな事象を見ていくことで、現代ロシアの「愛国主義」の実態がいかなるものか、いかに「国民統合」のために機能してきたかが分析されている。 

「愛国主義」などというと、敬遠したくなる人も少なくないだろう。だが、少数民族を抱えているものの、国家と民族がほぼ一致している日本のような国は世界的にみてきわめて例外なのである。ロシアを考えるにあたって、留意しなければならないポイントがそこにある。 

いかに「国民統合」を図っていくか、その課題解決のための「愛国主義」は現代ロシアを考えるために重要な事象なのである。音楽や映画など、現代ロシアにおける「愛国主義」を支える大衆文化状況についての言及があれば、さらに内容豊富なものとなったことであろう。

 


目 次
序章 国家の崩壊と構築
第1章 プーチン政権の思惑
第2章 連邦構成主体の取り組み
第3章 戦勝記念のダイナミズム
第4章 民族共和国の動向-タタルスタンと連邦中央
第5章 青年層の台頭と政策の転換
第6章 官製青年組織の設立
第7章 ナーシの再編
終章 ロシアの愛国主義
初出一覧
あとがき
参考文献・索引


著者プロフィール
西山美久(にしやま・よしひさ)
1985年長崎県生まれ。九州大学大学院比較社会文化学府博士後期課程単位修得退学。博士(比較社会文化,九州大学,2016年)。サンクトペテルブルグ国立大学留学、日本学術振興会特別研究員(DC2)、筑紫女学園大学、北九州市立大学、長崎県立大学の非常勤講師を務める。


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2021年4月30日金曜日

書評『プーチンの思考 ― 「強いロシア」への選択』(佐藤親賢、岩波書店、2012)― 鋭い考察と深い洞察ゆえに2021年現在でも読むに値する内容

 


日本語のプーチン関連書では「参考文献」としてあげられることに多い本なので、2012年出版とやや古い感がなきにしもあらずだが、読んでみることにした。 

通読してみての感想は、2021年時点で読んでも基本的に内容的には古くなっていない、というものだった。なぜなら、全編にわたって鋭い考察と深い洞察に充ち満ちているからだ。 

先に米国の現代ロシア研究者たちによる『プーチンの世界』が決定版だと書いたが、謎に満ちた指導者プーチンにかんしては、さまざまな角度やアプローチによって分析する必要があることは言うまでもない。

本書の著者は、出版時点で共同通信記者。ロシア滞在歴10年。2003年12月から2007年2月までモスクワ支局勤務、その後1年半後の2008年9月からは支局長として、リアルタイムでプーチンの動向を現地で見てきた点に特徴がある。 

この期間は、プーチン大統領の最初の任期の8年と、その後4年間のメドヴェージェフ大統領のもとでプーチン首相という「タンデム」(*二頭立て馬車のこと)という変則的な形での政権運営期間にあたっている。 

なぜ2012年にプーチンがふたたび大統領に戻ることを決意したのか、この考察が本書のキモといっていいだろう。 

2000年から2008年までのプーチンが、ソ連崩壊後に大混乱に陥った祖国ロシアを正常軌道に戻した役割を果たしたとすれば、2012年以降のプーチンは「強いロシア」の維持と発展をミッションとしているからだ。 

2021年現在から振り返ると、プーチンの大統領復帰は「既定路線」であったかのように思いがちだが、かならずしもそうではなかったのである。 

プーチン路線の継承者として前面にでてきたメドヴェージェフだが、知らず知らずのうちに両者の違いが表面化してきたのである。

これは、安部政権の継承者として登場した現在の菅(スガ)首相の動向をみていると納得されることだろう。ポジションについてしまえば、人間は知らず知らずのうちにポジションにあわせて変化していくものである。 

東欧の「カラー革命」に端を発した2008年のグルジア(=ジョージア)侵攻2011年の「アラブの春」が引き起こしたリビア爆撃とカダフィ政権崩壊での対応が、プーチンの大統領復帰の決め手となったようだ。 

著者はあとがきで次のように記している。 


言論や報道の自由よりも秩序と安定を優先する手法には共感できなかったが、2012年3月の大統領選で当選を決めた後の勝利宣言で思わず涙を見せたプーチンを見て、「この人がロシアの最高指導者として背負っている責任は普通の人には計り知れないほど重いのだ」と気付き、胸を突かれる思いをした。この時あらためて感じた「プーチンは何のために大統領に復帰するのか、何をしようとしているのか」という疑問が、本書執筆の直接の動機になった。 (*太字ゴチックは引用した私によるもの)


世界最大の領土をもち、多民族・多宗教国家のロシア。日本人の想像をはるかに超えた難題を抱えたロシアの国家運営を行うには、ある種の使命感がなければ、とてもその最高指導者の責務など果たすことはできないことは確かなことだ。 

2012年に大統領に復帰して以降、現在に至るまでその職にとどまっているプーチンだが、マッチョぶりを示していながらもすでに68歳であり、やや衰えが見えてきたような気がしないでもない。かつてのようなキレが感じられないのだ。ソ連崩壊後に生まれた世代との、価値観にかんする世代間ギャップも拡大している。 

実質的な終身大統領の道を歩みつつあるが、「余人をもって代えがたし」という属人的な支配体制は、ロシアが抱えている腐敗構造、官僚主義、行政依存といった悪弊は改革されることなく温存することにつながっている。改革を先送りしてきたツケが回ってきている。もはや、改革の時期は逸してしまったようだ。 

プーチン体制の今後についてどうなるか、2012年時点の考察と2021年時点の考察とでは、当然のことながら異なるものとなるが、プーチンの基本的な思考パターンについて知ることは、考察のためにきわめて重要な基礎となる。 

指導者の基本的な思考パターンというものは、状況に応じて微調整があってたとしても、外部環境が変化によって変わることはあまりないからだ。 




目 次 
はじめに 
第1章 大統領復帰の誤算-プーチン苦戦の背景
第2章 「WHO IS PUTIN?」再考
第3章 「垂直権力機構」の限界
第4章 タンデムの成果と欠陥
第5章 プーチン復帰後の外交と国防
第6章 「プーチン後」への動き
おわりに-古いロシア、新しいロシア
主な参考文献 

著者プロフィール
佐藤親賢(さとう・ちかまさ)
1964年埼玉県生まれ。東京都立大学法学部卒業。1987年共同通信社入社。1996~97年モスクワ大学留学。東京本社社会部、外信部を経て2002~03年プノンペン支局長。03年12月~07年2月モスクワ支局員。08年9月からモスクワ支局長。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)

 


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2021年4月29日木曜日

書評『プーチンの世界-「皇帝」になった工作員』(フィオナ・ヒル/クリフォード・ガディ、畔蒜泰助監修、濱野大道/千葉敏生訳、新潮社、2016)-これぞプーチン分析の定番の基本書

 

友人のロシア経済専門家から読むように強く薦められてから3年。単なるレファンレンス書としてしておこうかと思ってもいたが、腰を据えて読むことにしたのである。

小さな活字の二段組みで500ページ超の単行本は、日本語訳でも読むのに骨が折れる。だが、その骨折りに値する内容だと確信できた。 

(原書2015年改訂増補版)

原題は、Mr. Putin: Operative in the Kremlin (Geopolitics in the 21st Century) by Fiona Hill and Clifford G Gaddy, 2015。日本語訳は、原本2012年の改訂増補版(2015年)の翻訳。 


■なぜ米国人による本書が基本書となるのか?

読む前まで、なぜ「プーチン分析の決定版」がロシア人によるものではなく、米国人研究者によるものか?という疑問を抱いていた。 

だが、読み進めていくうちにわかってきたのは、好き嫌いや良い悪いといった価値観ではなく、忖度なしで虚心坦懐に事実ベースで分析する姿勢こそ重要だということだ。この目的からいえば、ロシア人によるものにはバイアスが多すぎるということになるのであろう。

著者の2人は、民主党系のシンクタンクであるブルッキングス研究所(The Brookings Institution)に在籍する現代ロシアを専門とする研究者である。実像を把握しにくいプーチンのような人物には、インテリジェンス的な分析が最適のアプローチであることがわかる。 

断片的な情報や状況証拠から全体像を再現する手法は、ビジネスパーソンとしても大いに見習うべきものがある。 


■プーチンは「6つのペルソナ」 が複合した複雑な人物

さて、著者たちは、プーチンを複雑な人物であるという前提で分析を行う。

プーチンが表舞台に登場してから最初の大統領の任期を終えた2008年までをベースに要素分析を行っている。分析の切り口として「6つのペルソナ」を抽出し、この6つのペルソナ複合してできあがっている人物だとする。 

① 国家主義者 
② 歴史家 
③ サバイバリスト(=サバイバルを至上命題とする人物) 
④ アウトサイダー 
⑤ 自由経済主義者 
⑥ ケースオフィサー(=諜報員) 

いっけん相矛盾しながらも、これらの要素が生身の人間のなかで融合し、ときに応じてその一部が前面に出てくる。そう理解すると、プーチンを把握できるようになるのだ、と。 

なによりも主権国家としてのロシアのサバイバルがミッションのため、たとえ民権を制限しても国家の存続が優先されるべきだとする「国家主義者」であり。

そしてまた本人も、サバイバルを至上命題とする「サバイバリスト」である。「サバイバリスト」は、結果として生き残った「サバイバー」とは異なる概念だ。

多民族・多宗教国家のロシアはとかく遠心力が働きがちであり、「国民統合」を図るために、使える事例を恣意的にロシア史のなかから引っ張り出してくる「歴史家」である。かなりの読書家であり、とくに歴史関係の本をよく読んでいるらしいとのことだ。

モスクワに対してサンクトペテルブルク出身であり、KGBでも主流ではなく傍流、その他さまざまな意味でインサイダーでありながらも距離を置く「アウトサイダー」であった。

KGB将校としての「ケースオフィサー」としての職業訓練が第二の天性となっており、国内外で工作員として情報を引き出し、思うように人を動かす術を身につけている。相手の弱みを握って脅すという手法である。そのためなによりも情報を重視する。

共産党護持のためのKGB出身であっったが、ソ連崩壊を招いたのは共産主義にもとづく非効率的な経済運営であったとして、社会主義的計画経済は全否定する「自由主義経済主義者」である。この点はきわめて重要だろう。

これらの要素分析を踏まえて一言でまとめれば、目的達成のためには手段にはこだわない「現実主義者」だということになろう。イデオロギーで動く人間ではない。


■「自由経済主義者」としてのプーチンの基盤 

本書の記述で興味深いのは、情報機関KGBがソ連のなかではもっとも経済を重視した組織であったということだ。これが「自由経済主義者」としてのプーチンの基盤にある。 

のちにソ連共産党書記長となったアンドロポフが KGB長官時代に改革路線を実行1975年に「プーチンの世代」の人間が採用されたこと、レニングラード大学法学部卒業のプーチンKGB 職員時代採用後の1984年にKGBの教育機関「赤旗大学」の1年コースに参加、米国の経営学書『Strategic Planning and Policy』(1978年)のロシア語訳をつうじて「戦略思考」を学んでいると推測されることである(*)。 

(*)同書の日本語訳はない。タイトルをあえて訳せば『戦略計画と政策』となる。「計画経済」における「計画」と、自由主義経済における「戦略計画」の違いに留意。同書のロシア語訳は著者である William R. King と David I. Cleland 両氏に無断で行われたものと考えられる。なお、プーチンの博士論文でも無断引用されているようだ。


また、東ドイツのドレスデン駐在(1985~1990年)にベルリンの壁崩壊を経験し、末期状態のソ連に帰国したプーチンは、ペレストロイカ時代のソ連を知らないのである。この事実はきわめて重要だ。 

さらに、工作員としてドイツ語に堪能なプーチンだが、英語での直接コミュニケーションはできないという。この事実もまた重要だ。プーチンの直接的な西欧認識は英語と英米人を介したものではなく、ドイツ語とドイツ人を介してのものだということになる。 

ドイツから帰国後、KGB職員のままサンクトペテルブルク副市長として担当していたのは、外資誘致の許認可事業であった。こうしたキャリアをつうじて経済通となったのである。 


■「株式会社ロシアのCEO」として国家を統治するスタイル 

そんなプーチンが2000年に大統領に就任してから確立したのが、「株式会社ロシアのCEO」として国家を統治するスタイルである。この切り口がそのネーミングも含めて、ビジネスパーソンである私には興味深い。 

「主権国家」としてのロシアの生き残りとミッションとし、そのため「戦略」として主要産業のエネルギー産業(石油とガス)をコントロールして財政安定を実現する。

多民族国家で他宗教国家としてのロシアの国家統一を維持するため、「愛国主義」を求心力として活用し国民統合に注力する。 

そのために能力が高く、かつ忠誠心が高い少数の人物を信頼して任せる。その他の分野でも、少数のお気に入りの人間を信頼して任せ、要所要所を管理してグリップするスタイルである。 


(本書の中文版 英語版や日本語版とのイメージの違いが興味深い)

もちろん状況の変化に応じて、プーチン自身が前面に出て手動操作的に「戦術」面での微調整を行う国民の前に直接姿を現し、さまざまなパフォーマンスを行い対話するパフォーマンスを重視するのもそのためだ。これは企業経営のスタイルとよく似ている。 

いったん主要なポジションについた人間は、よほどのことがない限り、簡単にクビを切ったりはしない。逆にいえば、簡単に足抜けできない仕組みでもある。

きわめて属人性の強い仕組みであり、エリート層は利益を共有する運命共同体となる。 IMFショックの頃はやった表現をつかえば「クローニー・キャピタリズム」ともいうことになろう。

この仕組みで国家を運営することは、効率的で効果的だが、属人性が強いので制度的な脆弱性が存在する。いわゆる「余人をもって代えがたい」状況は、癒着を生み出す原因となるだけでなく、経営トップになにかあった場合は大きなリスク要因ともなりうる。 

企業経営においては株主によるチェックというガバナンスが働くが、大統領選挙という機会しかステークホールダーである国民によるチェックが働かない現在のロシアの制度には、欠陥があることは言うまでもない。 国家の運営は、企業の経営とはイコールではないのだ。もちろん、制度としての民主主義のない中国共産党よはマシであるが。

はたして、この仕組みがいつまで維持できるのか? もし維持できなくなったときプーチンは、そしてロシアはどうなるのか? ・・


500ページ超の内容を一言で要約するのはきわめて難しいが、急がば回れである。きわめて有用な内容が満載の書籍である。 現代ロシアの現在と行く末に関心のある人には、読むことを推奨したい。 


PS 共著者の1人のフィオナ・ヒル氏について

英国生まれで現在は米国籍。現代ロシア研究が専門で歴史学で博士号を取得、本書の出版後、米国家安全保障会議(NSC)元上級部長(ロシア・欧州担当)であった。

(プーチンの右隣が著者の1人であるフィオーナ・ヒル博士)

2019年には、トランプ前大統領の弾劾調査にかんして、米国議会で証人喚問に応じている。 いわゆる「リベラル・ホーク」として、プーチンのロシアには批判的だ。




目 次 

日本語版に寄せて フィオナ・ヒル/クリフォード・ガディ
第Ⅰ部 工作員、現わる 
 第1章 プーチンとは何者なのか? 
 第2章 ボリス・エリツィンと動乱時代 
 第3章 国家主義者 
 第4章 歴史家
 第5章 サバイバリスト
 第6章 アウトサイダー
 第7章 自由経済主義者
 第8章 ケース・オフィサー
 第9章 システム 
 補記 プーチンと博士号 
第Ⅱ部 工作員、始動
 第1章 ステークホルダーたちの反乱
 第2章 プーチンの世界
 第3章 プーチンの「アメリカ教育」
 第4章 ロシア、復活
 第5章 国外の工作員
 エピローグ 工作員の活動は続く 
謝辞
解説-『戦略家プーチンとどう向き合うか』(
ウラージミル・プーチン関連年表
注釈(抜粋)*詳細版なものは下記サイトにあるhttps://www.shinchosha.co.jp/images_v2/free_details/book/507011/Mr_Putin.pdf
参考文献・写真提供
索引


<関連サイト>



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・・「1960年にレニングラード音楽院(ソ連崩壊後の現在はサンクトペテルブルク音楽院)に留学していた17歳からの3年間の記録(・・中略・・)実際のソ連の現実はといえば、欠乏していたのは自由だけでなく、また物資も慢性的に欠乏していた。あこがれが実現したレニングラードの留学生活であったが、なかなか大変であったようだ」 
⇒ 前橋汀子氏は、1952年生まれで、レニングラードで育ったプーチンと同時代体験している。前橋氏のほうが9歳年上ということになる

・・この本の内容は『プーチンの世界』に多く負っている

・・ソ連(ロシア)と張り合ってきた英国情報部MI6


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2021年4月20日火曜日

書評『プーチンとロシア革命 ー 百年の蹉跌』(遠藤良介、河出書房新社、2018)ー「上からの改革」は機能不全。プーチンは「ロシア革命」の再来を恐れている

(カバーに並ぶのはプーチンとスターリン) 


 
「帯の裏」には「ロシア革命は終わっていない」という1行のフレーズが掲載されている(*上掲の写真を参照)。このフレーズが刺さるのだ。

「未完のロシア革命」などというと、革命推進の立場に立つ運動家の主張に聞こえかねないが、立場がどうであれ「ロシア革命は終わっていない」という問題提起というか歴史観は、現代ロシアが抱える諸問題の根底になにがあるか示唆してやむことがない。 

「ロシア革命」は、「二月革命」と「十月革命」という1917年に二度にわたる革命のことだが、ロシア革命から100年にあたる2017年には、現在のプーチン率いるロシア政府は、なんの総括も行わなかったのである! この事実に注目する必要がある。 

プーチンは、「ロシア革命」の再来に恐怖を感じているのだ。プーチンは「二月革命」は評価していても、のちの共産党となったボリシェヴィキによる「十月革命」には否定的であるという。 

ソ連時代には KGB将校であったにもかかわらず、共産主義を肯定しているわけではないのである。つまり「プーチンのロシア」とは「共産主義なきソ連」である。強権による権威主義体制であるが、共産主義を志向しているのではない。 


■プーチンが賞賛しているのは帝政ロシア末期の宰相ストルイピン

プーチンは、帝政末期の政治家ストルイピンを賞賛しているという。ストルイピンは、「血の日曜日」事件を発生させた「日露戦争」(1905年)後に実行された「ストルイピン改革」として名前を残している。

(ピョートル・ストルイピン 1862~1911 Wikipediaより)


ストルイピンは宰相として「農奴解放」などさまざまな「社会改革」を実行したが、ストルイピンは過激派によって暗殺され、残念ながら改革は不徹底なものに終わってしまった。 

「ロシア革命」は、ストルイピン改革が不徹底なものであったから引き起こされたのである。 


■プーチンが評価しているのはレーニンではなくスターリン

しかも、「十月革命」を主導した「ボリシェヴィキ」(多数派)はじつはロシアを幅広く代表した「多数派」ではなく、急進的な変革を求めた中央の少数の革命エリートによって断行されたクーデターがその本質である。 

だから、プーチンはレーニンを評価していないのである。むしろスターリンを高く評価しているのは、スターリンがきわめて多大な犠牲を出しながらも「独ソ戦」(いわゆる「大祖国戦争」)で勝利を導いたからだ。この点はきわめて重要だ。だから、5月9日の対独戦勝記念日がなによりも重要なイベントなのである。

ストルイピンとスターリン、この2人に共通するものは何かを考えてみたいものだ。 

「ロシア革命」は、急進的な変革を求めた中央の少数のエリートによるものであった。現在の「民主化運動」もまた、欧米の指示を受けた中央の少数のエリートのものであることは否定できない。 

地方で暮らす大多数のロシア人が、ソ連崩壊後の大混乱と苦境は思い出したくもない、なによりも安定を願っていることは、米国人ジャーナリストによる『プーチンの国-ある地方都市に暮らす人々の記録』(アン・ギャレルズ)に描かれているとおりだ。  

自由は制限しながらも安定を与えてきたプーチンの人気が高いのはある意味では当然なのだが、かといってまったく問題がないわけではない。 

結果として「ロシア革命」(1907年)を招くことになった「ストルイピン改革」と同様(・・あるいはそれ以下かもしれない)、改革を先送りしたツケが回ってきており、もはや「上からの改革」は機能不全となっているのだ。

「痛みを伴う改革」など、もはや不可能な状態にあるわけだ。 このような状態において、プーチンが、民主化運動家に異常なまでに神経質であるのは、当然といえば当然なのである。 

プーチンは、あるいはその後継者は強権的な手法でこの状態を乗り切れるのか、あるいは、ふたたび100年前とおなじように「中央の少数のエリート」主導の「革命」となるのか

「民主主義」が定着しなかったロシアの将来は不安定となりそうだ。 


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目 次 
前書き 「革命」は終わっていない
プロローグ 蘇る独裁者の亡霊
Ⅰ 攻防…改革か革命か 
 第1章 プーチンが敬愛する首相
 第2章 日露戦争と革命運動
Ⅱ 怒涛の1917年
 第3章 レーニンとライバルたち
 第4章 帝政崩壊からの急展開
Ⅲ 革命が生んだ矛盾
 第5章 潰えた希望、流血へ
 第6章 内戦と干渉、ハイブリッド戦の源流
 第7章 無秩序への鉄槌
Ⅳ 血塗られた独裁者
 第8章 大粛清の嵐
 第9章 少数民族の命運
 第10章 スターリンの戦争と日本
 第11章 北朝鮮擁護の原点
Ⅴ ソ連の根深き病巣
 第12章 みせかけの安定
 第13章 プーチンの悲哀
エピローグ 変わらぬ専制の国


著者プロフィール
遠藤良介(えんどう・りょうすけ)
1973年、愛媛県生まれ。東京外国語大学外国語学部ロシア東欧語学科卒。同大学院地域文化研究科博士前期課程修了(国際学修士)。1999年、産経新聞入社。横浜総局、盛岡支局、東京本社編集局整理部、外信部を経て2006年12月からモスクワ支局。2014年10月から同支局長。2018年10月から外信部編集委員兼論説委員。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


PS 新聞記者が書いた本から抜けない新聞文体 

著者は、モスクワ駐在11年の産経新聞記者。その集大成が本書であり、産経新聞の長期連載をもとにまとめたものだという。 

重要な論点を含んだ内容だが、単行本化にあたって再編集が十分に行われていないために、新聞文体が抜けきってないのが残念であった。

新聞と単行本は、異なるメディアであることに、もっと留意すべきではないだろうか? それとも、新聞記者には無理な相談なのだろうか?


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