映画『マルコムX』(1993年、米国)をDVDではじめて視聴した(2022年7月10日)。201分と長いが、鮮烈な印象と、深い感動を与えてくれる映画だ。
製作と公開は1992年なので、なんと30年目にしてはじめてということになる。公開されたことは知っていたが、見る機会を失したまま、あっという間に30年もたってしまったのだ。 この伝記映画はもっと早く見ておいたほうが良かったかもしれないと強く思った。
マルコムXは、米国の黒人解放運動の指導者。日本ではキング牧師ほど知名度は高くないが、きわめて重要な人物だ。おそらく、この映画の公開で多くの日本人はマルコムXについて知ることになったのだろう。
監督のスパイク・リーや主演のデンゼル・ワシントンだけでなく、登場人物はほとんどが黒人である。黒人の、黒人による、黒人のための映画だが、もちろんそんな狭い了見の作品ではない。
なんといっても、主演のデンゼル・ワシントンがあまりにもカッコいい。長身でハンサムだったマルコムXによく似ているだけでなく、すばらしい演技に引き込まれしまう。ほんとうにすばらしい演技としかいいようがない。
将来は弁護士になりたいと少年時代に語っていたマルコム・リトルは、成績優秀でアタマがよかったが、黒人であるがゆえにその道を進むことはできなかった。
ワルの世界に入ってのし上がろうとするマルコム。麻薬吸引、違法ナンバー賭博、窃盗犯と犯罪を重ねていったすえに逮捕され投獄される。窃盗罪だけなら2年程度のところ、黒人なのに白人女性と関係したという罪で8年も獄中生活を送ることになった。
獄中でおなじ黒人の受刑者によってイスラーム団体「ネーション・オブ・イスラム」の教えに触れ、それに感化されていくうちに、劇的な「宗教的回心」を経て真人間に更生するのである。
獄中生活をはさんでの、前半生と後半生の逆転ぶりも、目を見張るものがある。アッシジのフランチェスコもそうであったが、宗教指導者にとっては回心は重要な要素なのであろう。
刑期を終えて釈放されてからは、そのブラック・ムスリム運動のイスラーム教団「ネーション・オブ・イスラム」のスポークスマンとして、信者の獲得に大いにたぐいまれな力量を発揮、教団のナンバー2にまでのし上がる。
持ち前のアタマの良さと、獄中で独学で身につけた知識をフルに活用したスピーチは、立て板に水のような、たたみかけるような、アジ演説のような熱のこもったものだ。全身全霊のスピーチから発するオーラは、カリスマ的とすらいうべきものであった。
(Malcolm X's Legendary Speech: "The Ballot or the Bullet" YouTube)
だが、急速にのしあがったマルコムXに対する嫉妬や、尊敬してきた教団の教主の不品行にの幻滅したため、「ネーション・オブ・イスラム」を離脱し、導師としてみずから別の教団を立つあげることになる。 スンニー派に改宗もしている。
それを機会にはじめて米国を離れ、メッカ巡礼でイスラームの真の教えに開眼、「第2の回心」ともいうべき宗教的覚醒を体験、兄弟愛(ブラザーフッド)の実践へと向かっていった。黒人の解放から視野を広げて、神の下での平等な兄弟愛を説く宗教家に脱皮していったのである。
ところが、元いた教団との軋轢は激化し、執拗な脅迫と度重なる暴力のすえ、最期は39歳で凶弾に斃れることになる。集会に潜り込んでいた黒人3人によって銃弾を打ちこまれて暗殺された。享年39。あまりにも早い死であった。
マルコムXは信者たちとは距離をつくりたくないという理由で、セキュリティ強化の進言を受けても断った。だが、それが命取りとなったのである。 おなじ黒人によって暗殺されたのである。 だが、共産主義との関係を疑われFBIの監視下にあったのも事実であり、その死の真相はいまだ完全に明らかにされていない。
マルコムXの暗殺は、キング牧師はに先立つこと4年前のことだ。それは JFK がダラスで暗殺された翌年の1965年のことであった。1960年代のアメリカは暗殺の時代でもあった。
それにしても、映画とはいえ暗殺シーンを目撃するのは、気持ちのいいものではない。
ただ、救いといえるのは、マルコムXは暗殺によって言論を封殺されたものの、現在に至るまでその主張と生き様が、ひとびとに慕われ続けていることだ。
マルコムXというと、キング牧師とは違って、過激な主張と暴力もいとわない姿勢にやや違和感を抱いていたのだが、この映画を見て、晩年のかれが思想的に人間的にも、広い視野のもとに成長する過程にあったことを知った。もし暗殺されることなく生き続けていたら、と。
もっと早く見ておいたほうが良かったかもしれないと思ったのは、そんなマルコムXの晩年について知ることができたこともある。
PS マルコムXについて知ったのは・・
マルコムXについてはじめて知ったのは、いつのことだったか定かではないが、神田神保町の古本市で白黒の表紙の『マルコムX自伝』という日本語の翻訳書を棚のなかにみつけて手にとってみたときのことだったと記憶している。その本は買わなかったが、強い印象として自分のなかに残ったのである。キング牧師と違って、教科書に登場する人物ではない。それが高校時代だったのか、社会人になったからのことだったかは、わからない
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