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2021年3月24日水曜日

書評『エマニュエル・トッドの思考地図』(大野舞訳、筑摩書房、2020)-「常識を逆なで」する「未来予測」を生み出すトッド氏の思考の秘密について本人が開示

 

フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏の本をまとめ読みした。いずれも日本側の企画編集による日本語オリジナル版で、つまりフランス語版は存在しない。 

この手の企画本はすでに何冊も刊行されているのだが、そのうち2冊をあげておこう。フランス在住の大野舞氏のインタビューにもとづいたもので、ともに2020年に出版されている。


ともに面白い内容だった。前者は、日本人読者が知りたいであろう、的確な「未来予測」を生み出すトッド氏の思考の秘密について本人が開示したもの、後者は現在の先進国が抱える問題を「反グローバリゼーション」の立場から述べた論争的な時事論集。
    
人口統計をもとに、自然科学者なアプローチで現状分析と未来予測を行うトッド氏の「常識を逆なでする主張」に対しては賛否両論があるだろうが、言いにくいことをずばり言ってのける勇気は賞賛すべきであろう。

どうやらトッド氏自身も、フランス語で出すより日本の読者向けに日本語で出す方が気が楽なようだ。 

本人がこれらの本のなかで吐露しているように、フランス人のエリート階層が聞きたくない話をするからだろう。「シャルリ・エブド事件」に際して書いた『シャルリとは誰か?』(文春新書、2016)は、フランス語の原本が出版された際にフランス国内でバッシングの嵐にさらされたらしい。  

1991年のソ連崩壊や、2016年の英国のEU離脱や米国大統領選でのトランプ氏の当選など、ことごとく「予見」し、的中させてきたため、日本では「予言者」扱いされているトッド氏だが、本国では好かれていない。



■トッド氏が日本で広く注目されるようになったのはここ5年の現象

日本では「予言者トッド」の話を聞きたがる人が少なくないようで、もっぱらその著作を出版してきた藤原書店だけでなく、文藝春秋や筑摩書房、朝日新聞社やPHPなどメジャーどころが「知の巨人」と持ち上げて食いつくようになってきた。

それが、ここ5年ほどの状況である。 




私はといえば、トッド氏の著作でいちばん最初に触れたのは、30年くらい前のことになる。『新ヨーロッパ大全』(石崎晴巳訳、藤原書店、1992)という単行本2冊本の専門書だ(上掲の画像)。東京駅八重洲口にある八重洲ブックセンターで、2冊同時に購入した記憶がある。

大学時代にはヨーロッパ中世史を専攻したが、いかんせん「近世」以降の西洋史につうじていなかったので、著者名ではなくタイトル名に吸引力を感じたためだ。

この本には大いに世話になってきた。世界史についての拙著2冊では、ともに「参考文献」としてあげている。

とくに最新刊の拙著『世界史から読み解く「コロナ後」の現代』(ディスカヴァー携書、2020)は、16世紀から18世紀までの「近世」(=初期近代)を扱っており、トッド氏の著書は大いに参考となった。関心のある人は参照していただきたい。 

トッド氏の著作によく親しむようになったのは、文春新書から出た『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』(2015年)以降のことである。この本は、前著『ビジネスパーソンのために近現代史の読み方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2017)の執筆の際に大いにインスパイアされた。 


■トッド氏の「思考方法」は「ファクト重視の経験主義」

トッド氏の日本語版の帯には、「現代最高の知性」や「欧州最大の知性」などの美辞麗句の宣伝コピーが並んでいる。

現在の日本ではそう呼ばれている人が何人もいるだけでなく、フランス本国では好かれていないことを考えれば、割り引いて考えたほうがいいと思うが、その一人であることは間違いないだろう。 

『エマニュエル・トッドの思考地図』を読むと、「予見」を導くトッド氏の方法論がわかるだけでなく、なんら奇をてらったものではないことがわかる。とはいえ、そっくりそのまま真似するのは容易ではないだろうが、その一部でも取り入れることは可能だ。なぜなら「予言」ではなく、「予見」のための方法論だからだ。




面白いのは、トッド氏が現代フランスの知識人であるのにかかわらず、英国のケンブリッジ大学で博士号を取得していること、読む本の95%は英語のもの(!)であること、デカルトに代表される「理念」を強調するフランスの哲学教育を嫌っていたこと、などなどの点だ。 

ファクト重視の経験主義という、アングロサクソン系の思考方法になじんでいるからこそ、統計データの分析をベースに、アナール派仕込みの歴史学の知見を踏まえた的確な未来予測を可能としているということがわかる。この点は、日本人は大いに学ぶべきことであろう。経済指標にくらべて、人口統計はウソをつきにくいからだ。 

トッド氏の未来予測がすべて正しいかどうかはさておき(…時間がたてば検証可能だ)、その方法論に注目してみる価値はある。その意味では『思考地図』のほうだけでなく、『大分断』にも「絶対値による会話分析法」というヒントが紹介されているので参照しているといいだろう。

内容がポジティブであろうがネガティブであろうが関係なく、そのフレーズが言及されることの数量(の多さ)で判断ができるという思考法のことだ。「人びとが口にすることとまったく反対の内容が、しばしば真実である」と言う考え方にもとづいたものだ。

現在すでに70歳となり、本人も「老人」と自称するトッド氏であるが、「不確実性」が支配する社会を分析し、未来を「予見」する、その鋭い知見には期待したいものである。


●『エマニュエル・トッドの思考地図』(大野舞訳、筑摩書房、2020)

目 次
日本の皆さんへ
序章 思考の出発点
1 入力-脳をデータバンク化せよ
2 対象-社会とは人間である
3 創造-着想は事実から生まれる
4 視点-ルーティンの外に出る
5 分析-現実をどう切り取るか
6 出力-書くことと話すこと
7 倫理-批判にどう対峙するか
8 未来-予測とは芸術的な行為である
ブックガイド

目 次 
はじめに
第1章 教育が格差をもたらした
第2章 「能力主義」という矛盾
第3章 教育の階層化と民主主義の崩壊
第4章 日本の課題と教育格差
第5章 グローバリゼーションの未来
第6章 ポスト民主主義に突入したヨーロッパ
第7章 アメリカ社会の変質と冷戦後の世界
訳者あとがき・解説
 
 

著者プロフィール
エマニュエル・トッド(Emmanuelle Todd)
1951年フランス生まれ。歴史人口学者。パリ政治学院修了、ケンブリッジ大学歴史学博士。家族制度や識字率、出生率などにもとづき、現代政治や国際社会を独自の視点から分析、ソ連崩壊やリーマン・ショック、イギリスのEU離脱などを予見したことで広く知られる。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)

日本語訳者プロフィール
大野舞(おおの・まい)
フランスのバカロレア(高校卒業国家資格)を取得後、慶應義塾大学総合政策学部入学。パリ政治学院への留学を経て同学部を卒業。一橋大学大学院社会学研究科を修了。日本の大手IT企業に勤めたのち、渡仏。パリの出版社でライセンスコーディネーターや通訳の仕事に携わる。その後、日仏のスタートアップ関連の仕事を経て、独立。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


<関連サイト>

エマニュエル・トッド (著)「エマニュエル・トッドの思考地図 (筑摩書房) 」- 著者にインタビュー / シード・プランニング【Seed Planning, Inc.】(YouTube 音声フランス語 日本語字幕つき 48分強)



・・「トッド: 私にとって科学的な手順とは、多くの事実を前に仮説を立てて、その仮説がすべての事実についても正しいかどうかを一つひとつ確認することです。ここで最も重要な作業は、ファクトの収集で仕事のほとんどを占めています。それが終わったら、理解しやすいシンプルなモデルに組み込むための整理をします。これが私の研究の方法です。
また、私はフランス人ですが、家系は一部英国系の伝統を受け継いでいますし、英ケンブリッジ大で研究もしました。こうして、英国の経験主義とフランスの合理主義の対立を、身をもって体験しました。
(・・中略・・)
ブレークは直感めいたアイデアのことです。15秒あればできるのですが、そこに到達するまでには、何年もの知識の蓄積が必要です。本を読み続け、執拗なまでにデータや情報を収集して自分の頭の中に図書館やデータバンクをつくる。でも、膨大な情報をインプットするだけではだめで、情報を完全に咀嚼して、意識から無意識まで時間をかけて落とし込んでいく。するとある日、別々の情報同士が手を携えて、新たなアイデアとして飛び出してきます。
ブレークのためには、もしかしたらちょっと道から外れてみるべきなのかもしれません。日常のルーティンから出る。映画を観に行ったり、子供と田舎に行ったり、あるいは恋をしたり・・・。要するに自分のテーマばかりに注力していてはいけないということです。
(・・中略・・)
一度、誤解から解放されれば、データを見るだけで物事が明快になり、作業が簡単に進められるようになります。研究というのは90%が掃除で、残りの10%が構築だと思います。私は自分に騙された自分を発見するのが大好きです。
(・・中略・・)
アイデアを得てそれをアウトプットするためには、自分に自信を持つこと、ポジティブなイメージを持って自分に何ができるか把握することが大事です。そして同時に、どこかにかならず自分を評価してくれる人がいると信じることです。」

エマニュエル・トッド氏、エリートが分断を解消せよ(日経ビジネスオンライン 2021年1月22日)
・・「中国はソ連と似たようなところがあり、全体主義的な傾向を持ち、西洋や先進諸国の経済の後追いをしています。後追いが終わって1番になったときに、刷新とか改革をするような文化がない。そうすると結局そこで崩壊してしまうと言える。例えば米国は内部がどんどん衰退しても常に刷新し革新をしていく。イノベーティブな精神があることでインターネットも生まれましたよね」(トッド)

(2021年3月31日 情報追加)


PS ところが、「知の巨人」トッド氏には大いに失望させられることになった、というオチ

・・「それにしても、トッド氏の「反米主義」の復活ぶりには、鼻しらむ思いで興ざめだな。すでに70歳を過ぎた「知の巨人」は、ふたたび強烈な「反米主義」に戻ってしまったようだ。 フランス知識人の悪弊が丸出しだな。 アングロサクソン好きを公言していたトッド氏だが、今回の動きで英国にも失望したと吐露している。知識人は、どうしてそうもナイーブなのかねえ。だから、学者や知識人は一般大衆からバカにされるのだよ(笑) 本書をつうじて強烈な「反米主義」が展開されているので、おそらく旧サヨク系の思考傾向をもつ日本人読者からは大歓迎されるだろう。米国の左翼知識人ノーアム・チョムスキーと同様に(笑)」

(2023年11月1日 追記)


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■トッド以外の「歴史人口学」





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2020年8月1日土曜日

書評 『日本経済予言の書-2020年代、不安な未来の読み解き方』(鈴木貴博、PHPビジネス新書、2020)-覚悟を決めながらも諦めないという相矛盾するマインドセットが、コロナ後に生きる日本人には求められている


「コロナ後を考える」といっても感染症そのものについてではない。経済についてだ。 

日本の場合は当然のことながら、世界全体を見回しても、たとえ感染爆発が進行しようが、圧倒的多数の人間は生き残るのである。 

だが問題は、パンデミックを生き残ったとしても、経済的に死んだのでは意味がない。失業率と自殺率にはかなり高い相関関係があるとされている。2020年以降の経済がどうなるのか、社会がどうなるのか想定内にしておく必要があるのだ。 

そんな観点から、『日本経済予言の書-2020年代、不安な未来の読み解き方』(鈴木貴博、PHPビジネス新書、2020年7月)という本を読んでみた。

基本的に、新型コロナウイルスによるパンデミックは、それ以前に進行していた諸問題が顕在化する契機となったというスタンスである。

コロナだから問題になったのではなく、コロナによって、もはや避けて通れない問題となったという意味だ。コロナによって問題の進行が加速する、という意味だ。 

目次を紹介しておこう。 

第1章 コロナショックでこれから何が起きるか 
第2章 なぜトヨタは衰退するのか 
第3章 気候災害の未来はどう予測されているのか 
第4章 アマゾンエフェクトが日本の流通を破壊する日 
第5章 確実に起きる人口問題の不確実な解決方法 
第6章 半グレ化する大企業とアイヒマン化する官僚たち 
第7章 日本崩壊を止めるには 

経済社会にかんするものと、ビジネスにかんするものが順不同になっているが、関心のある項目だけ読んでもいいだろう。

とはいえ、ビジネスの変化が経済の変化をもたらし、ひいては社会全体を変化させると捉えるべきであり、それぞれが密接な関係にあることは押さえておかねばならない。

基本的に、どう考えたって世の中は悪くなる、のである。これは避けられないことだ。とくに日本は自然災害大国であり、地球環境問題の影響をモロに受ける立場にある。人口も減少傾向にある。機械化・自動化だけでは対応不可能だ。移民受け入れは避けて通れない。 

だが、こういった事象は、この著者じゃなくても、ある程度までは誰もが考えることだろう。予測の手法に従って、ロジカルな推論を行えば、ある程度までおなじような結論がでてくるものだからだ。 

面白いと思ったのは、「第6章 半グレ化する大企業とアイヒマン化する官僚たち」だ。コンプライアンスを遵守する大企業は自社にとって都合の悪い面は外部化して中小企業に押しつけ、官邸支配下にある官僚は命令にのみ従う「アイヒマン」となっている、その弊害だ。この章だけでも読む意味はある。 

このほか、なかなか面白い分析と指摘がちりばめられているので、一読の価値のある本である。すべてに賛成するわけではないが、まあだいたいのところその通りだろうな、と。ただし、処方箋にかんしては異論も多かろう。 

間違いなくそうなるであろうという「予言」と、人間の意志によって変えることのできる「予言」の2つがある。前者はコントロール不能だが、後者はコントロール可能だ。そう考えて、覚悟を決めながらも諦めないという相矛盾するマインドセットが、コロナ後に生きる日本人には求められているのではないかと思う次第だ。 

いずれにせよ、すべてを想定内にして、事なかれ主義には陥らないことだ。主体的に動かなくては道は開けない。




PS 日本政府が酒の提供制限にこだわり、「1兆の損より10兆の損」を選ぶ謎
(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)

最後にざんげしておきます。5月末でコロナが収束して6月以降、日本経済は回復すると想定したわたしの未来予測は完全に外れました。政府や都がここまで狂ったように経済を止めに来るとはわたしは想定していませんでした。その点でまだまだわたしは未熟です。 

(2021年6月19日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

JBPressの連載コラム第74回は、「繰り返される中国とイタリアの悲劇的な濃厚接触-パンデミックはグローバリゼーションを終わらせるのか」(2020年3月24日)

書評 『ペスト大流行-ヨーロッパ中世の崩壊』(村上陽一郎、岩波新書、1983)-感染症爆発とトビバッタの大発生による食糧危機は同期する!?

書評 『ウイルスの意味論-生命の定義を超えた存在-』(山内一也、みすず書房、2018)-こういう時期だからこそウイルスについて知る

映画『コンテイジョン』(米国、2011)を見た-その先見性の高さに脱帽



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2018年4月7日土曜日

書評『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(新井紀子、東洋経済新報社、2018)ー 教育関係者、人材育成関係者は必読。読むことを強く薦めたい



 『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(新井紀子、東洋経済新報社、2018)を読んだ。新井氏の新刊を待ち望んでいたからだ。AIとは人工知能(Artificial Intelligence)の略だが、この本では「人工知能技術」に限定して使用されている。

この本は、とくに学校教育の関係者や企業の人材育成関係者は必読だ。つまらないビジネス書を読んでいるヒマがあったら、この本をじっくり読んだほうがはるかにためになると断言していいい。 



帯のオモテには「人工知能はすでにMARCH合格レベル」と書かれている。MARCHとは私大の頭文字を並べたものだ。 

これは著者が主幹となって実施してきた「東ロボ」(=ロボットは東大に合格するのか。)というAI技術関連のプロジェクト、「全国読解力調査」(RST)プロジェクトの結果を要約したものだ。つまりこのレベルの大学では、簡単にAIに代替されてしまうということ。悲観的な近未来像である。 

帯のウラ(写真)には、AIにまつわる神話と幻想をことごとく否定する文言が並んでいる。AIは神ではなく、人類を滅ぼすこともなく、シンギュラリティ(=人工知能が人間の脳を凌駕する特異点)も到来しない。 



なぜなら、コンピュータは文字通り計算機でありそれ以上のものではないこと、数学の言語である「論理」と「確率」と「統計」で表現できる事象以上のこと、すなわち「意味」は解析できないからだ。しかも、機械と生物は異なる存在だ。人間の脳は生物である。 

だが、これで安心してはいけない。逆にいえば、数学の言語で表現できることはAIが効率的に遂行してしまうのである。つまりAIに代替されてしまうということ。「意味」にかかわり、「推論」を必要とする分野以外は、機械のほうがはるかに人間に勝る。もはや大学卒業資格が職業生活において差異化の要素にはならないのである。 

「全国読解力調査」(RST)プロジェクトの結果こそ、真剣に受け止めるべき内容だ。つまり、中学卒業時点までに習得される「読解力」が、その後の人生を大きく分けるのである。 

「読解力」とは「国語力」と言い換えてもいいだろう。文章の「意味」が正確に理解できなければ「教科書」が読めないのであり、英語も数学も理解できないことを意味している。就職してからマニュアルや手順書も読んで理解できないのである。プログラムも組めないのである。 

日本語もできないのに、英語ができるはずがない、すべての基礎は日本語がきちんと理解できて使用できることだと、私は繰り返し主張してきたが、この認識は企業の人材育成現場だけではなく、教育現場でも危機意識が共有されてきたようだ。高度人材の育成もさることながら、底上げに注力しないと日本は完全にダメになる。 

その意味では、本書の主張は全面的に賛成であり、心強い援軍となる。ぜひ読むことを薦めたいのはそのためだ。 

著者の新井紀子氏は国立情報学研究所勤務の数学者。しかし単なる数学者ではなく、数学を広く社会に位置づけて考えることのできる人だ。数学のもつ特性と限界を心得ている人である。 

著者による問題提起は、真剣に受け止めて欲しいと思う。


(画像をクリック!)


目 次
  
はじめに-私の未来予想図 
第1章 MARCHに合格-AIはライバル 
 AIとシンギュラリティ 
 偏差値57.1 
 AI進化の歴史 
 YOLOの衝撃-画像認識の最先端 
 ワトソンの活躍 
 東ロボくんの戦略 
 AIが仕事を奪う
第2章 桜散る-シンギュラリティはSF 
 読解力と常識の壁-詰め込み教育の失敗 
 意味を理解しないAI 
 Siriは賢者か? 
 奇妙なピアノ曲 
 機械翻訳 
 シンギュラリティは到来しない
第3章 教科書が読めない-全国読解力調査 
 人間は「AIにできない仕事」ができるか? 
 数学ができないのか、問題文を理解していないのか?-大学生数学基本調査 
 全国2万5000人の基礎的読解力を調査 
 3人に1人が、簡単な文章が読めない 
 偏差値と読解力
第4章 最悪のシナリオ 
 AIに分断されるホワイトカラー 
 企業が消えていく 
 そして、AI世界恐慌がやってくる
おわりに


著者プロフィール
 

新井紀子(あらい・のりこ)
国立情報学研究所教授、同社会共有知研究センター長。一般社団法人「教育のための科学研究所」代表理事・所長。東京都出身。一橋大学法学部およびイリノイ大学数学科卒業、イリノイ大学5年一貫制大学院数学研究科単位取得退学(ABD)。東京工業大学より博士(理学)を取得。専門は数理論理学。2011年より人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクタを務める。2016年より読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発を主導(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

個性は主張する vo.19 国立情報学研究所情報社会相関研究系 教授 新井紀子氏
・・新井紀子氏のインタビュー記事が、一橋大学の広報誌HQに掲載されている。「数学が大の苦手だと思っていた。大学入試を終えたとき裏庭で数学の教科書をきれいさっぱり燃やしてしまった」とある。「数学ギライが数学の道に進むようになったキッカケは、松坂和夫先生との出会いでした。ようやく数学から解放されると喜んでいたのに、一橋大学では数学が必修。打ちのめされる思いでイヤイヤ出席した授業でしたが、松坂先生の講義は数学の神髄は「計算・答」を是とする学校数学に非ずとはっきり悟らせてくれたのです。そうだ数学には筋道というストーリーがあるんだと知ったときは、目の前がパッと開ける思いでした」


<ブログ内関連記事>

書評 『コンピュータが仕事を奪う』(新井紀子、日本経済新聞出版社、2010)-現代社会になぜ数学が不可欠かを説明してくれる本

書評 『2045年問題-コンピュータが人間を超える日-』(松田卓也、廣済堂新書、2013)-「特異点」を超えるとコンピュータの行く末を人間が予測できなくなる?

英語よりも日本語をキチンと教育してもらいたい!-「英語至上主義」と訣別し、人的資源の有効活用策を考えるべし


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2013年7月24日水曜日

書評『世界史の中の資本主義 ー エネルギー、食料、国家はどうなるか』(水野和夫+川島博之=編著、東洋経済新報社、2013)ー「常識」を疑い、異端とされている著者たちの発言に耳を傾けることが重要だ



「これから10年、大転換後の大局を読む」と帯のキャッチコピーにあるが、「10年後」までではなく、さらに数十年もつづくであろう「移行期の長い21世紀」について考えるための本である。

「100年デフレ」論者の水野和夫氏の主張を、エネルギーと食料という人間の経済にとっての制約条件であり、かつ人間の生存に不可欠なライフラインの二大分野を具体的に見ていくことで、ビジネスパーソンを中心にした読者も読めば素直にアタマに入ってくるような読みやすい本に仕上がっている。

エネルギーと食料の分野でいま進行しているのは「商品化」と「金融化」というキーワードで表現することができる。

商品化はコモディティ化といいかえてもいいが、これはもともと差別化が難しく大量にバルクで取引される原油取引市場や穀物取引市場においては常識となっていたものだが、こういった分野では季節ごとの需給変動や天変地異などの気候変動などに対応するため先物取引(フューチャーズ)が発達してきた。

2000年代以降は先進国におけるカネ余り現象のなか、アメリカを中心に「経済の金融化」が進展し、エネルギーや食料などの先物取引市場に実物取引のプレイヤーではない、機関投資家やファンドなどの金融プレイヤーたちが大量に参加するようになってきた。これが「金融化」である。

エネルギーや食料が「金融化」したことにより、実需とは関係なく相場が乱高下する事態が観察されるようになったのである。つまり価格変動は実体経済の動きとは関係なくなっているのである。

そもそも先物取引市場は、実需の変動リスクを最小にするために設計され開設されてきたものだが、いまでは実体経済の動きとは関係なく、金融取引として相場が操作されるようになっているのである。つまりガセネタもふくめた「情報」に過敏に反応する状態となっているのだ。

エネルギーはもちろん無限ではないが、そのときどきの経済状況とエネルギー価格、そして掘削テクノロジーによって不思議なことに埋蔵量は増大している。食料は一般人の常識とは異なり、1910年代の空中窒素固定法の発明による化学肥料というテクノロジーによって、むしろ過剰な状態が続いている。だからこそ食料価格が下落しがちなのであり、そのために先進国は補助金によって農家の所得補償を行わざるを得ないのである。

そもそも食料が過剰でなければ地球全体で人口が増加するはずがないという川島氏の主張には説得力がある。川島氏は本書では言及していないが、大飢饉が発生するのはディストリビューション(流通)の問題であるという経済厚生学のアマルティヤ・セン博士の主張はしっておくべきだろう。したがって、世界的には食料は過剰だが、飢饉や食料暴動が単発的かつ局地的に発生することは今後もありうる。

このようにエネルギーと食料について具体的に見てくことで、カネ余り現象のなか「経済の金融化」が進行し、行き場を失ったマネーがエネルギー市場や食料市場という商品市場で暴れ回っている現状が理解されるだけでなく、水野和夫氏の「100年デフレ」論が具体的な裏付けで強化されて、さらに説得力が増すものとなったといえよう。現在はつぎの時代に転換するための移行期なのだ。

しかし、これほど説得力のある水野理論が、なぜいまでも「異端」とされているのか? 

それは機関投資家やファンドマネージャーたちが、いわゆる「ポジショントーク」によって相場が自分たちに有利になるような情報操作しているからだろう。投資銀行のゴールドマン・サックスが打ち出した「BRICs」などその最たるものといっていいのではないか。マスコミもまたそれを煽って増幅している。

経済は「金融化」すればするほど、相場は「情報」に敏感に反応するようになる。たとえそれがつくられた恣意的なストーリーであっても、繰り返し耳にすることによって「常識」となってしまうのである。誰もが無知なビジネスパーソンと思われては恥ずかしい思いはしたくないだろう。それはある意味では、洗脳によるマインドコントロールといっていいかもしれない。

本書ではエネルギーと食料について大きく取り上げられている。共通するのは「過剰」というキーワードだ。

この過剰という現実が超長期的なデフレ状態をもたらし、さらには経済全体の停滞をもたらすのだが、本書では言及されていないのが労働力の過剰である。日本をはじめとする先進国では人口減少フェーズにあるが、省力化テクノロジーの発達によって労働力が過剰になっているのである。

労働力も供給過剰になれば、当然のことながら賃金水準は下がっていくことになる。だが、デフレ状態がつづくのであれば低所得でもそれなりの暮らしを送ることは可能となると考えてよいものかどうか・・・

こういった経済と社会をめぐる重要問題を考えるためにも、「常識」を疑い異端とされている著者たちの発言に耳を傾けることが重要だ。

これからどう生きていくか考えるためにも、ぜひ最初からすべて読んだうえで、自分のアタマで考えてほしいと思う。事実を事実として曇りなき眼で冷静に見ることほど難しいものはないのだから。





目 次

はじめに-世界史の中の資源バブル
第1章 【資本主義】-金融バブルが引き起こす世界史の大転換(水野和夫)
第2章 【エネルギー問題】-シェール革命が進むも原油価格の大暴落は起こらない(角和昌浩)
第3章 【食料問題】-これから世界は食料の「過剰な時代」へ突入する(川島正之)
第4章 【世界システム】-金融化した資本主義と第二の近代(山下範久)
終章 近代資本主義の終わりと次なる社会システムについて(水野和夫)
座談会 「長い二一世紀」において、資源、食料、資本主義はどこヘ向かうのか(水野和夫・角和昌浩・川島正之・山下範久) 


編著者プロフィール

水野 和夫(みずの・かずお)
日本大学国際関係学部教授 1953年生まれ。早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了。八千代証券(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)入社。金融市場調査部長、執行役員、理事・チーフエコノミストなどを務める。2010年9月三菱UFJモルガン・スタンレー証券を退社し、内閣府大臣官房審議官、内閣官房内閣審議官。2013年4月より日本大学国際関係学部教授。主な著書に『100年デフレ』(日本経済新聞社、2003年)、『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』(日本経済新聞社、2007年)、『超マクロ展望 世界経済の真実』(共著:集英社、2010年)、『資本主義という謎』(共著:NHK出版、2013年)がある。

川島 博之(かわしま・ひろゆき)

東京大学大学院農学生命科学研究科准教授 1953年生まれ。1977年東京水産大学卒業。1983年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得のうえ退学(工学博士)。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員などを経て、現在、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。主な著書に『世界の食料生産とバイオマスエネルギー』(東京大学出版会、2008年)、『「食糧危機」をあおってはいけない』(文藝春秋、2009年)、『「作りすぎ」が日本の農業をダメにする』(日本経済新聞出版、2011年)、『データで読み解く中国経済』(東洋経済新報社、2012年)

角和昌浩(かくわ・まさひろ)
昭和シェル石油チーフエコノミスト。1953年生まれ。東京大学法学部政治学科卒業。

山下範久(やました・のりひさ)
立命館大学国際関係学部教授。1971年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得、ニューヨーク大学ビンガムトン校社会学部大学院においてI.ウォーラースティンに師事。


<ブログ内関連記事>

書評 『終わりなき危機-君はグローバリゼーションの真実を見たか-』(水野和夫、日本経済新聞出版社、2011)-西欧主導の近代資本主義500年の歴史は終わり、「長い21世紀」を生き抜かねばならない

書評 『超マクロ展望-世界経済の真実』(水野和夫・萱野稔人、集英社新書、2010)-「近代資本主義」という既存の枠組みのなかで設計された金融経済政策はもはや思ったようには機能しない

「500年単位」で歴史を考える-『クアトロ・ラガッツィ』(若桑みどり)を読む

書評 『21世紀の歴史-未来の人類から見た世界-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2008)-12世紀からはじまった資本主義の歴史は終わるのか? 歴史を踏まえ未来から洞察する

書評 『国家債務危機-ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2011)-公的債務問題による欧州金融危機は対岸の火事ではない!

書評 『歴史入門』 (フェルナン・ブローデル、金塚貞文訳、中公文庫、2009)-「知の巨人」ブローデルが示した世界の読み方

「バークレー白熱教室」が面白い!-UCバークレーの物理学者による高校生にもわかるリベラルアーツ教育としてのエネルギー問題入門

書評 『日本は世界5位の農業大国-大噓だらけの食料自給率-』(浅川芳裕、講談社+α新書、2010)-顧客志向の「先進国型ビジネス」としての日本農業論

大飢饉はなぜ発生するのか?-「人間の安全保障」論を展開するアマルティヤ・セン博士はその理由を・・・

書評 『日本式モノづくりの敗戦-なぜ米中企業に勝てなくなったのか-』(野口悠紀雄、東洋経済新報社、2012)-産業転換期の日本が今後どう生きていくべきかについて考えるために

書評 『官報複合体-権力と一体化する新聞の大罪-』(牧野 洋、講談社、2012)-「官報複合体」とは読んで字の如く「官報」そのものだ!

書評 『「空気」と「世間」』(鴻上尚史、講談社現代新書、2009)-日本人を無意識のうちに支配する「見えざる2つのチカラ」。日本人は 「空気」 と 「世間」 にどう対応して生きるべきか?


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2012年1月8日日曜日

書評『梅棹忠夫の「人類の未来」― 暗黒の彼方の光明』(梅棹忠夫、小長谷有紀=編、勉誠出版、2012)― ETV特集を見た方も見逃した方もぜひ



■未完に終わった『人類の未来』。その構想を可能な限り再現し「あらたな未来」を考える■

河出書房から1970年に出版されるはずだった梅棹忠夫執筆予定の『世界の歴史 25人類の未来』。

しかし、国立民族学博物館の開設に奔走する超多忙状態のなか、残念ながら未完に終わってしまった幻の著作である。

『梅棹忠夫の「人類の未来」―  暗黒の彼方の光明』(梅棹忠夫、小長谷有紀=編、勉誠出版、2012)は、その構想を可能な限り再現しようとした試みである。

梅棹忠夫の手書きによる「目次」と、知的生産のツールであった「こざね」に書き記された発想メモが写真版で収録されており、『人類の未来』の構想プロセスを知ることができる。

また、1970年前後に行われた、SF作家の小松左京などのメンバーとの座談会の記録を読むことによって、『人類の未来』について考えていた知的土壌がどういうものであったかも知ることができる。

1970年の前後に、当時30歳代から40歳代の気鋭の論客たちが「未来」についてリアルタイムで語り合った対談や座談会を40年後の「未来」から読み直すというのは、なんだか不思議な感じもする。ある意味では、タイムカプセルに入れた手紙を40年後に掘り出して読むような感覚だろうか。

梅棹忠夫の未来予測が大筋ではほとんど当たっているのは、それが予言ではなく、論理的にそうなるのは当然だという思考の筋道をとっているからだ。それは、すべてを「地球レベル」というマクロの視点と、具体的な事物というミクロの視点で同時に見ているためだ。

その意味では、「地球時代を考える-SF化する科学文明-」という樋口敬二(名古屋大学水圏科学研究所教授)との1977年の対談と、「地球文明-2000年の座標-」という秋山喜久(関西電力株式会社会長)との2000年の対談が、2012年時点で読んでも、興味深い内容になっている。

『人類の未来』はもしかすると、あまりにも悲観的な話ばかりがつづくので、もし仮に1970年時点で出版されていたとしても、たんなる悲観論として片付けられてしまっていたかもしれない。

だが、それから40年以上たった時点では「すでに迎えた未来」として、現実的なものとなっていることは、多くの人が納得していることだろう。だからこそ、『人類の未来』をテーマにして昨年NHK・ETVで放送されたETV特集 「暗黒のかなたの光明-文明学者 梅棹忠夫がみた未来-」が大きな反響を呼んだのだろう。

「3-11」を経験した日本人は、日本と日本人が世界のなかでどう生きていくべきなのかについて、あらためて徹底的に、根本的に考えなくてはいけない状況に追い込まれている。

ETV特集「暗黒のかなたの光明」を見ていない人も、本書を読むことで、「これからやってくる未来」を考えて、何をなしていくべきかを考えていくための貴重なヒントを得ることができるかもしれない。

ぜひ目を通していただきたいと思う。




(画像をクリック!)


目 次

はじめに(小長谷有紀)
第一部  梅棹忠夫の残した「人類の未来」
『人類の未来』目次案とこざね
梅棹忠夫ののこした『人類の未来』(小長谷有紀)
第二部  梅棹忠夫の見つめていた未来
人間の未来を語る(1966年・・石田英一郎・今西錦司・梅棹忠夫)
どうなる・どうする-未来学誕生(1966年・・林雄二郎・小松左京・加藤秀俊・梅棹忠夫)
なぜ未来を考えるのか(1967年・・加藤秀俊・川添登・小松左京・林雄二郎・梅棹忠夫)
地球時代を考える-SF化する科学文明(1977年・・樋口敬二・梅棹忠夫)
地球文明-2000年の座標(2000年・・秋山喜久・梅棹忠夫
第三部  「人類の未来」に迫る 
まだ、間に合う-梅棹忠夫の達成を未来に延長する(毛利衛)
「貝食う会」の5人(1982年・・加藤秀俊)
梅棹忠夫の未来研究-教祖か予言者か祭司か?(中牧弘允)
「はかなさ」の感受性へ-梅棹忠夫の「人類の未来」論に即して(竹内整一)
科学で価値を語れるか-梅棹忠夫に見る人類の未来(佐倉統)
おわりに(小長谷有紀)


<書評への付記>

1970年前後というのは「未来学」がブームになっていた頃である。

その未来学をリードしたのが梅棹忠夫や小松左京といった人たちだが、同じメンバーが大阪万博の構想についても考え、それが国立民族学博物館として形あるものとして残った一方、書くことを約束していた『人類の未来』はついに書かれずじまいになってしまった。

編者のモンゴル学者・小長谷有紀氏は、梅棹忠夫は『人類の未来』をおそらく書けなかったというよりも、書くというモチベーションを失ってしまったのだろうと指摘している。一つの解釈として耳を傾けるべきである。

1970年の大阪万博が終わってからすぐ、1973年には石油ショックに見舞われた日本人からは楽観論は一気に消えてしまったが、「3-11」後の現在もそうだが、悲惨な未来がやってくるという悲観論はたしかに日本人の耳に入りやすい。梅棹忠夫は、自分が国民にむかって提示する議論がこういう俗流悲観論とみなされてしまうのがいやだったようだ。

未来予測やシナリオシンキングは、ビジョンや目標のような目的志向をもった「創り出す未来」とは根本的に異なるものだ。「そうなりたいもの」という人間の意志とはかかわりなく、「そうなってしまうもの」である。それが悲観的になりがちなのは致し方ない。

いまから考えると、「人類の未来」について考えるという発想じたいが、この時代の特有のものだったような気がしなくもない。1970年前後では、「未来学」というのは先進国のなかでも、英国とフランスと日本でしか見られなかった現象らしい。その当時の冷戦時代の大国であった米国もソ連も、未来を悲観するような「空気」は存在しなかったようなのだ。

座談会のなかで、未来について語る史観には、輪廻史観、終末史観、無限の進化史観しかないという指摘がでてくるが、1970年前後はいまだ「無限の進化史観」の代表である唯物史観が大勢であった時代だ。

いまやそのソ連も崩壊して20年、米国もまたアイデンティティ・クライシスを迎えつつあるように思われる。外敵を設定するだけでは済まされなくなってきている状況だ。

『世界の歴史 25人類の未来』は未完に終わってしまったが、本書に収録された「梅棹忠夫の未来研究-教祖か予言者か祭司か?」(中牧弘充)を読むと、梅棹忠夫の未来研究政府系のシンクタンクであるNIRA(総合研究開発機構)における政策研究に引き継がれたことがわかる。

願わくば、その流れが政府の政策研究としてはもちろん、国民一人一人の課題として、それぞれ取り組むマインドセットとなってゆくことである。

なお、『世界の歴史 25人類の未来』の目次については、梅棹忠夫の幻の名著 『世界の歴史 25 人類の未来』 (河出書房、未刊) の目次をみながら考える と題してこのブログで紹介しておいた。

『人類の未来』をテーマにして昨年NHK・ETVで放送されたETV特集 「暗黒のかなたの光明-文明学者 梅棹忠夫がみた未来-」についても触れているので、ご参照いただけると幸いである。



<ブログ内関連記事>

書評 『梅棹忠夫-知的先覚者の軌跡-』(特別展「ウメサオタダオ展」実行委員会=編集、小長谷有紀=責任編集、千里文化財団、2011)

書評 『梅棹忠夫 語る』(小山修三 聞き手、日経プレミアシリーズ、2010)

書評 『梅棹忠夫のことば wisdom for the future』(小長谷有紀=編、河出書房新社、2011)

書評 『梅棹忠夫-地球時代の知の巨人-(KAWADE夢ムック 文藝別冊)』(河出書房新社、2011)

書評 『梅棹忠夫-知的先覚者の軌跡-』(特別展「ウメサオタダオ展」実行委員会=編集、小長谷有紀=責任編集、千里文化財団、2011)

梅棹忠夫の幻の名著 『世界の歴史 25 人類の未来』 (河出書房、未刊) の目次をみながら考える

書評 『まだ夜は明けぬか』(梅棹忠夫、講談社文庫、1994)-「困難は克服するためにある」と説いた科学者の体験と観察の記録

書評 『ひらめきをのがさない! 梅棹忠夫、世界の歩き方』(小長谷有紀・佐藤吉文=編集、勉誠出版、2011)

『東南アジア紀行 上下』(梅棹忠夫、中公文庫、1979 単行本初版 1964) は、"移動図書館" 実行の成果!-梅棹式 "アタマの引き出し" の作り方の実践でもある

書評 『回想のモンゴル』(梅棹忠夫、中公文庫、2011 初版 1991)-ウメサオタダオの原点はモンゴルにあった!

梅棹忠夫の「日本語論」をよむ (1) -くもん選書からでた「日本語論三部作」(1987~88)は、『知的生産の技術』(1969)で黙殺されている第7章とあわせ読むべきだ

梅棹忠夫の「日本語論」をよむ (2) - 『日本語の将来-ローマ字表記で国際化を-』(NHKブックス、2004)

企画展「ウメサオタダオ展-未来を探検する知の道具-」(東京会場)にいってきた-日本科学未来館で 「地球時代の知の巨人」を身近に感じてみよう!


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