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2024年1月31日水曜日

書評『アカデミアを離れてみたら ― 博士、道なき道をゆく』(岩波書店編集部、岩波書店、2021)― キャリアと人生を「リセット」した若手理系研究者たちの自分史が読ませる

 
 

博士号を取得したあと、研究者としてのキャリアと人生をリセットして、さまざまな道に進むことになった若手理系研究者たち、とくに理学部を中心とした21人の人生半ばの自分史だ。 

たまたまその存在を知った本だが、電車での移動中の読書に持ち込んで読んでいたら、ひとりひとり異なる具体的なライフストーリーが面白いので、ついつい熱中して読んでしまった。 

キャリアチェンジについて語られることも多い今日この頃だが、学部はもとより、修士から博士課程までいってからの転身はきわめて壁が厚い。いわゆる「つぶし」が効きにくくなるからだ。 

精神的な壁を超えるというか、キャリアと人生をリセットするためにはマインドセットの切り替えが必要であり、転身を妨げているさまざまなメンタルブロックを解除して、「実社会」に向けて一気に踏み込む必要がある。 

登場する21人のほとんどは、1980年前後生まれの若手研究者。ここで「研究者」と書いたのは、アカデミズムの場を離れても、程度の違いはあれ「研究」そのものは不可能ではないことを、21人の事例が示しているからだ。 

わたしの場合は、基本的に子どもの頃から「勉強」は嫌いだが「研究」は大好きなので、 「研究」はいまでも自分なりに続けている。論文は書かないが一般書という形で世の中に貢献することにしている。

高校3年になる前に理系から文転し、大学4年になる前には研究者の道には見切りをつけて修士課程には進学せず、学部卒業後はさっさとビジネスパーソンになってしまった人間だが、それでもアカデミズムへの未練や、未練を断ち切ることの意味については十分わかっているつもりだ。

知識社会化がすすみ、科学技術立国が叫ばれている割には、理系研究者への処遇に大きな問題がある現在の日本。そんな状況である以上、自分の道は自分でみつけなくてはならない。

自分の能力と適性をできるだけ早い段階で自覚し、アカデミズムの研究者とは違うオルタナティブな選択もあることを知ることは、これから研究者への道を進む若者には必要不可欠となる。 

そして、そんな若手の「研究者」たちを活かすためにも、公的機関だけでなく、民間企業はさらに門戸を開いて、キャリアチェンジの手助けをするべきだとつよく思う。最初から応用を目的とした工学以外の理系分野でも、活躍する場はたくさんあるのだ。 

経営者や人事管理関係者も読むべき本だ。若手研究者たちが日々どんなとで悩み、苦闘しているかを知る必要がある。理系人材の採用と活用は、ダイバーシティ&インクルージョンのテーマでもあるからだ。 


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目 次
はじめに 
1 企業につとめる 
2 組織にとらわれずに生きる 
3 教育・研究をささえる 
4 組織をおこす 
5 「越境」をかさねて 
あとがきー博士号取得者の苦難と希望


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2014年4月29日火曜日

「昭和の働く女性-夢と希望と困難と-」(昭和館・東京九段下)は、見る価値ある企画展-「昭和」に限定されているのがちょっと残念だが・・


本日(4月29日)は「昭和の日」で国民の休日。もともとは先帝陛下(=昭和天皇)の「天皇誕生日」として休日でありました。

わたくしも「昭和時代・後期」に生まれ育ったので、「昭和時代」はリアルタイムで体験しております。

とはいっても自分が生まれる前の「昭和時代・前期」は親や教師の話を聞いただけで実体験をもっているわけではありません。いまいちリアリティをもっておりません。「平成時代」も26年目なので、平成生まれの若い世代ならなおさらでありましょう。

先日、ようやく東京・九段の「昭和館」にいってみました。近くにいく用事があったので立ち寄った次第です。 

「昭和時代」、とくに「戦前」と「戦中」そして「戦後復興期」が常設展示の中心です。入場料は300円。平日でしたのでかなりすいてました。


たまたま、同時に開催されていたのが昭和館特別企画展の「昭和の働く女性 夢と希望と困難と」(入場無料)。会期は、2014年3月15日~5月11日)。これはたいへんよい企画展でした。

「戦前」と「戦中」そして「戦後復興期」が展示の中心になるのは昭和館の常設展示と同じですが、戦時下の「総動員体制」のもとで女性の社会進出が促進されたことがよく理解できる内容になっています。

徴兵制のもと男が出征して不在となった労働現場に、代替労働力として女性が活用されたことによって、社会進出が進展したというわけですね。男子が大量に戦死し、男女比率が極端に隔たってしまった戦後ソ連も同じ状況でありました。

その後、戦後の「高度成長期」に「専業主婦」という形態が一般化したことは最近では一般的な知識になってきたと思いますが、基本的に日本女性は有史以来、一貫して働いてきたわけです。

戦争によってファッションなどライフスタイル変革が中断してしまったのは残念ですが、ワーク(労働)にかんしては戦時中の総動員体制のもとでかえって女性の社会進出が進展したということは記憶しておくべきことだと思います。

組織人事からビジネスキャリアを開始し、しかも「男女雇用機会均等法」施行一年前にその研究を命じられたということもある「均等法世代」のわたくしにとっては、大いに関心のある内容の企画展でありました。

「戦時中」の勤労動員については常設展もあわせて見るとよいでしょう。勤労動員で旋盤の前で働く女学生の写真はけっこうインパクトありますね。常設展で勤労奉仕の女学生たちの写真をみると、なんと工作機械や溶接作業までそこまでやっていたのかというオドロキも!

「昭和の働く女性-夢と希望と困難と-」(昭和館・東京九段下)-「昭和」に限定されているのがちょっと残念ですが、ぜひ見ておく価値のある企画展です。会期は、2014年3月15日から5月11日まで。




<企画展概要>

特別企画展 「夢と希望と困難と~昭和の働く女性~」
開催期間:  3月15日(土)~5月11日(日)まで
 ※月曜日休館(4月28日(月)、5月5日(月)は開館)、5月6日(火)は 開館、5月7日(水)は休館
時間: 10:00~5:30(入館は5:00まで)
場所:  昭和館3階(東京都千代田区九段南1-6-1)
地下鉄「九段下」駅4番出口から徒歩1分
入場料 : 無料(常設展示室は有料)





<参考>

『モダンガール論』(斎藤美奈子、文春文庫、2003)の単行本初版(2000年)は、副題に「女の子には出世の道が二つある」とあった。

立派な職業人になることと、立派な家庭人になること。職業的な達成(労働市場で自分を高く売ること)と家庭的な幸福(結婚市場で自分を高く売ること)は、女性の場合、どっちも「出世」なのである。したがって、女の子はいつも「二つの出世の道」の間で揺れてきた(単行本 P.8)

なお、『モダンガール論』(斎藤美奈子)でも指摘されているが、「良妻賢母」は前近代のものではないのだ。あくまでも「近代イデオロギー」の産物だということには注意しておく必要がある。「良妻賢母主義」を国是とすべしと提唱したのは、伊藤博文内閣で初代文部大臣となった森有礼である(1885年)。






<関連サイト>

フォトレポート 来館者から「戦中、戦後の女性の力強さを感じることができた」との声も。「夢と希望と困難と~昭和の働く女性~」特別企画展開催中。(厚生労働省)

昭和館 公式サイト


<ブログ内関連記事>

日本が「近代化」に邁進した明治時代初期、アメリカで教育を受けた元祖「帰国子女」たちが日本帰国後に体験した苦悩と苦闘-津田梅子と大山捨松について

NHKの連続テレビ小説 『カーネーション』が面白い-商売のなんたるかを終えてくれる番組だ

『聡明な女は料理がうまい』(桐島洋子、文春文庫、1990 単行本初版 1976) は、明確な思想をもった実用書だ


「移動図書館」-これもまたぜひ後世に遺したい戦後日本の「昭和遺産」だ!

電気をつかわないシンプルな機械(マシン)は美しい-手動式ポンプをひさびさに発見して思うこと

これがバキュームカーだ!-下水道が整備される以前の「昭和遺産」である

書評 『村から工場へ-東南アジア女性の近代化経験-』(平井京之介、NTT出版、2011)-タイ北部の工業団地でのフィールドワークの記録が面白い





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2013年9月22日日曜日

書評『仕事マンガ! ― 52作品から学ぶキャリアデザイン』(梅崎 修、ナカニシヤ出版、2011)― 映画や小説ではなくなぜ「仕事マンガ」にヒントがあるのか?



仕事マンガは面白い。なぜなら、わたし自身がいまでも働いている一人の人間だからだ。しかも専門が組織変革なので、仕事やキャリアにかかわる内容であれば、なおさら面白く感じる。

だがなぜ、映画やドラマ、小説よりもマンガのほうが、こと仕事やキャリアというテーマでは面白く感じるのか?

映画やTVドラマは、どうしてもキャラの立った主人公とドラマチックな盛り上がりがなければ成り立たない。とくにTVドラマは初回で視聴率がとれないとそのままずるずると低迷し、最悪の場合は打ち切りという事態だってありうる。なによりも製作費が小説やマンガとはケタ違いに違うからだ。

もちろん、マンガや小説だって最初の「つかみ」は重要だ。この点は映画やドラマと変わりはない。

だが、マンガがその他のジャンルに対して優位性をもっているのは、登場人物たちの内面をさまざまな形で表現する技術が確立していることにあるのではないか。

五感ということにかんしては動画や音声の入る映画やTVドラマのほうがうえである。だが、映画やTVドラマは、どうしても演じる俳優という生身の人間に印象が左右されてしまう点がある。だから原作者や製作者の意図を100%再現できているかどうかはべつの問題だ。

小説の場合は、文字だけなので読む側にイマジネーションが要求される。マンガの場合は文字にくわえて絵で表情や内面まで表現できるから、媒体的には小説と映画やTVドラマの中間に位置するものだろう。

この本の著者は、こと仕事マンガにかんしては、一般的な理解とはべつのところに優位性があるのではないかとしている。

ビジネス映画やビジネス小説と比べると、仕事マンガでは普通の人の普通の日常が描かれることが多い。これはマンガという表現形式の結果というよりも、歴代のマンガ家たちが積み上げてきた蓄積なのである。マンガという表現を選んだ表現者たちの関心が日常に近いところにあるのだと思う。(P.169)

たしかに『仕事マンガ! ―  52作品から学ぶキャリアデザイン』(梅崎 修、ナカニシヤ出版、2011)の著者もいうように、マンガのほうがより日常生活に近い等身大の世界を描く傾向がつよい。少年漫画誌、青年漫画誌、レディースコミックというマーケティングのセグメンテーションにもとづく媒体の区分があるので、それぞれの年齢層や性差におうじた日常生活の描き分けも可能である。

マンガ家自身の体験も描きこみやすいだけでなく、TVドラマもそうだが、綿密な取材のうえで作品をつくっているので読んでいてリアリティがあることも無視できない。

わたし自身のことについて語ると、小説をほとんど読まないが、マンガは読む人間である。小説は読んでも歴史小説くらいしか読まない。活字で読むのはノンフィクションが中心だ。

かつてサラリーマンであった頃には企業小説というジャンルを読んだ時期もあったが、いまではまったく読まなくなってしまった。日本的で、昭和的で、うっとおしいというのがその理由かもしれない。

だがマンガはいまでも面白い。とくに仕事マンガは面白い。



■著者の着眼点は「キャリアデザイン」と「自律」

この本の著者は、労働経済学と人事労務管理論を専攻する経済学者である。

マンガ好きではあるのは当然として、マンガを素材にして働くということの意味やキャリアについてのヒントになることを見出したいという思いで読み込んでいるようだ。

著者は、仕事マンガをつうじて、登場人物たちの仕事経験を感じ取り、自分の仕事人生を自分でデザインするためのヒントをつかむべきだと言う。自律とは教え込まれるものではなく、自分でつかみとるものだからだ。教育ではなく、主体的な学びに属する領域なのである。

この本に取り上げられたマンガは2007年から2008年にかけて連載され出版されたものが中心だが、この時期は2000年初頭から「キャリア教育」が大学を中心に急速に拡まってきた時期にあたる。その功罪について著者が考えてきたことが作品のセレクトに反映している。

「キャリア構築は自分で行う」という価値観。働き方にかんするこの価値観が定着しはじめたのは、「就職氷河期世代」(1993~2005)、いわゆる「ロストジェネレーション」(ロスジェネ)たちの世代からである。この事情については、書評 『仕事漂流-就職氷河期世代の「働き方」-』(稲泉 連、文春文庫、2013 初版単行本 2010)-「キャリア構築は自分で行うという価値観」への転換期の若者たちを描いた中身の濃いノンフィクション を読まれたい。

日頃から大学生と接している著者は、 『キャリア教育のウソ』(児美川孝一郎、ちくまプリマー新書、2013)の著者と問題意識を共有しているように思われる。つまり、大学や高校における短期間の集合教育としての「キャリア教育」ではキャリアデザインも自律も身につかないということだ。これは企業におけるインターンシップも同様である。

キャリア教育やインターンシップよりもアルバイト体験のほうが意味があるという著者の意見にわたしも賛成だ。そのことは、アルバイトをちょっと長めの「インターンシップ期間」と捉えてみよう という記事に書いておる。

キャリアデザインとはキャリアを自分で構築するという思想であり、その思想にもとづいたマイドセットとスキルのことである。

そのためのヒントは、仕事マンガの等身大の主人公や登場人物たちの言動から感じ取るのがよいのではないかというのが著者の問題意識。

20歳代から30歳代にかけて、誰から言われるわけでもなく、じっさいにそうしてきたわたしもまったく同感だ。そういう人は多いのではないだろうか。



■取り上げられた作品について

仕事マンガを読む試みはすでに 『サラリーマン漫画の戦後史』(真実一郎、洋泉社新書y、2010)が行っている。この本は、サラリーマンというキーワードで歴史的推移をトレースしたもので、一貫性のあるたいへん面白い本である。

『仕事マンガ!』については、雑誌連載の文章をまとめたものなので、作品ごとの取り上げ方は5ページ程度でひじょうに短い。しかも全体の歴史的流れのなかに作品を位置づけるという描き方ではなく、テーマごとに作品を分類した描き方なので、人事管理をめぐる根本的な変化のなかに位置づけて読むには、上記の『サラリーマン漫画の戦後史』とあわせて読むべきだろう。

読んでない作品がたくさんあるが(・・というよりもマンガはあまりも出版点数が多すぎてとてもフォローしきれないし、個人的な好みではない作品も多々ある)、とくに女性を主人公にした仕事マンガは読む必要があるという著者の意見には大いに賛成だ。

というのも、女性にもキャリアデザインが必要とされている現在であるが、市場外労働とされる家事もふくめた、いっけんキャリアとは無縁のような仕事のなかにこそ、仕事のもつ本質的な意味があることに気がつかせてくれるからだ。営業アシスタントなど一般職の女性たちの仕事もまたそうである。

本書に取り上げられたマンガは52作品、TVドラマ化された原作などメジャーなものもあるが、レトロな名作も含めてマイナーな作品も多く取り上げられている。

作品のセレクトには著者の趣味も反映しているのだろうが、個人ガイドであるのだからそれは問題ない。読者は取捨選択して、このガイドから読んでみたい作品をさらにセレクトすればよい。

キャリア・デザインと自律的人材の意味について考えてみたい人は、考える素材がどこにあるかをしるうえで見ておいて損はない。

仕事マンガにこそキャリアについて学ぶべきものは多いのだ。自己啓発書を読みまくるヒマがあったら仕事マンガを読んでいるほうがよっぽど役に立つ。

だが、いままさにキャリアデザインの渦中にあってもがき苦しんでいる若者たちと、すでに俯瞰的にものを見ることのできる立場にいる著者とでは、見えている現実と意識にはギャップがあっても当然かもしれない・・・


(画像をクリック!)



目 次

はじめに

第1章 自律はどのように学ぶのか
 1. 『たくなび』
 2. 『バンビーノ!』
 3. 『弁護士のくず』
 4. 『闇金ウシジマくん』
 5. 『ドラゴン桜』
 6. 『エンゼルバンク』
 7. 『最強伝説黒沢』
 8. 『賭博黙示録カイジ』
 9. 『まだ、生きてる…』
第2章 仕事の語りを聴く
 1. 『風子のいる店』
 2 『.ヘルプマン!』
 3. 『コンシェルジュ』
 4. 『どんまい!』
 5. 『大使閣下の料理人』
 6. 『あんどーなつ』
 7. 『キングスウヰーツ』
 8. 『営業の牧田です。』
 9. 『土星マンション』
第3章 職場ルールと個人のスキル
 1. 『編集王』
 2. 『CAとお呼びっ!』
 3. 『N's あおい』
 4. 『バーテンダー』
 5. 『リアル・クローズ、
 6. 『グッジョブ(Good Job)、
 7. 『現在官僚系もふ』
 8. 『医龍』
 9. 『ワーキングピュア』
第4章 ダメ、でもキャリア
 1. 『THE3名様』
 2. 『ギャンブルレーサー』
 3. 『僕の小規模な失敗』
 4. 『黄色い涙』
 5. 『バイトくん』
 6. 『ぼく、オタリーマン。』
 7. 『劇画・オバQ』
 8. 『お仕事しなさい !!』
 9. 『フジ三太郎』
第5章 普通から学び、普通に働く
 1. 『自虐の詩』
 2. 『極道めし』
 3. 『しんきらり』
 4. 『見晴らしガ丘にて』
 5. 『さんさん録』
 6. 『すーちゃん』
 7. 『OLはえらい』
 8. 『トーキョー無職日記』
第6章 社会の中のキャリアデザイン
 1. 『ボーイズ・オン・ザ・ラン』
 2. 『俺はまだ本気出してないだけ』
 3. 『三丁目の夕日』
 4. 『団地ともお』
 5. 『のたり松太郎』
 6. 『上京アフロ田中』
 7. 『るきさん』
 8. 『へうげもの』

本書で紹介したマンガ一覧
あとがき

著者プロフィール

梅崎 修(うめざき・おさむ)
1970年生まれ。大阪大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。法政大学キャリアデザイン学部准教授。専攻は、労働経済学、人事労務管理論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

<関連サイト>

澤本嘉光の「偉人×異人」対談(日経ビジネスオンライン 2013年3月~4月)
作家と編集者の「相性」が、軽く見られすぎてきた 佐渡島庸平さん×澤本嘉光さん 第1回
『宇宙兄弟』の秘密~「講演会」にヒットの芽あり 佐渡島庸平さん×澤本嘉光さん 第2回
我々はなぜマンガの人物に「リアル」を感じるのか 佐渡島庸平さん×澤本嘉光さん 第3回
このキャラを「コンビニのおにぎり」で説明せよ! 佐渡島庸平さん×澤本嘉光さん 第4回
・・CMプランナーの澤本氏が元講談社で現在独立してマンガ編集を行っている佐渡島氏に聞く対談


<ブログ内関連記事>

■仕事マンガ

働くということは人生にとってどういう意味を もつのか?-『働きマン』 ①~④(安野モヨコ、講談社、2004~2007)

『重版出来!①』(松田奈緒子、小学館、2013)は、面白くて読めば元気になるマンガだ!

マンガ 『闇金 ウシジマくん ① 』(真鍋昌平、小学館、2004)

マンガ 『俺はまだ本気出してないだけ ①②③』(青野春秋、小学館 IKKI COMICS、2007~)

『シブすぎ技術に男泣き!-ものづくり日本の技術者を追ったコミックエッセイ-』(見ル野栄司、中経出版、2010)-いやあ、それにしても実にシブいマンガだ!

書評 『サラリーマン漫画の戦後史』(真実一郎、洋泉社新書y、2010)-その時代のマンガに自己投影して読める、読者一人一人にとっての「自分史」

京都国際マンガミュージアムに初めていってみた(2012年11月2日)- 「ガイナックス流アニメ作法」という特別展示も面白い

書評 『ゼロ年代の想像力』(宇野常寛、ハヤカワ文庫、2010 単行本初版 2008)-「アフター1995」の世界を知るために
・・マンガもふくめた、2000年代以降のさまざまなサブカルチャーについて論じた気鋭の評論家のデビュー作


■経験から学ぶキャリア論

書評 『キャリア教育のウソ』(児美川孝一郎、ちくまプリマー新書、2013)-キャリアは自分のアタマで考えて自分でデザインしていくもの

書評 『仕事漂流-就職氷河期世代の「働き方」-』(稲泉 連、文春文庫、2013 初版単行本 2010)-「キャリア構築は自分で行うという価値観」への転換期の若者たちを描いた中身の濃いノンフィクション

書評 『キャリアポルノは人生の無駄だ』(谷本真由美(@May_Roma)、朝日新書、2013)-ドラッグとしての「自己啓発書」への依存症から脱するために

アルバイトをちょっと長めの「インターンシップ期間」と捉えてみよう

Παθηματα, Μαθηματα (パテマータ・マテマータ)-人は手痛い失敗経験をつうじて初めて学ぶ

月刊誌「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2010年5・6月合併号「ビジネスが激変する「労働の新世紀」 働き方が、変わる。」(SPECIAL FEATURE)を読む

(2014年2月12日 情報追加&項目整理)


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2013年5月11日土曜日

書評『なぜ日本の大学生は世界でいちばん勉強しないのか?』(辻 太一朗、東洋経済新報社、2013)ー「負のスパイラル」を断ち切るには?



「日本の大学生は勉強しない」という問題意識から出発した本である。日本の大学生を採用する企業の立場から本書を論評してみたい。

まず現状認識についてだが、著者は海外の大学生を引き合いに出して、日本の大学生は勉強していないと述べている。現象面についてはそのとおりだろう。

アメリカで勉強した経験があれば、日本の大学が甘すぎるように見えるのはその通りだ。ただし、これは前提がある。アメリカの一流大学に入るような人間は私立のプレップスクールなどで勉強してきているが、一般的にはハイスクール(=高校)卒業まであまり勉強してしていないので、大学に入学してから猛勉強が強いられるという構造がある。

日本とアメリカ以外の大学についてはわたし自身が体験したことがないので確かなことは言えないが、おそらく猛勉強している大学生のイメージには韓国の大学生があるのだろう。

韓国にかんしては、幸いなことに、『韓国のグローバル人材育成力-超競争社会の真実-』(岩渕秀樹、講談社現代新書、2013)という本があるので、それと比較検証してみることをすすめる。現象面だけ見ていれば、たしかに日本の大学生が勉強しなさすぎるのは否定できない。だが、日韓が置かれている環境があまりにも違うことを視野にいれなかれば比較したことにはならない。

つまり、著者が「日本の大学生が勉強しない」というのは、厳密な比較論ではなく印象論であるということだ。とはいえ、「日本の大学生が勉強しない」という印象は、多くの人がもっているのではないだろうか。

わたし自身も、その「印象」はもっている。かつてなら入社後に鍛え直すということもできたが、ホンネとしては大学時代に最低限の基礎的なことを終えておいてほしいと思う。その基礎のうえに「考えるチカラ」をつける教育を施してほしいものだ。

日本の大学教育をめぐっては、「負のスパイラル」ができあがって数十年たつという著者の指摘はそのとおりだ。イラスト1枚にすべてが表現されているが、日本では、大学生、大学教師、採用担当者のそれぞれの立場において部分最適化している結果、「勉強しない大学生」が量産され続けているのである。

この状況は「負のスパイラル」であり、終わりの見えない「無限ループ」といってもいいだろう。


(著者執筆の「東洋経済オンライン」記事から)


もちろん、「若いうちは勉強しなきゃダメだ」といった精神論をぶったところで大学生が勉強するようにはならないことは、「負のスパイラル」をみれば明らかだろう。

採用する側は、当然のことながら「考えるチカラ」を見ている。ますます複雑化する世の中で企業活動を遂行していくためには、既存の知識を組み合わせたり、自分で調べて考え抜くことが求められるからだ

だが、大学の成績があてにならないので、市販のSPIなどの検査をつかわざるをえない。その意味では教育産業が大学教育の補完的な役割を果たしているといえる。もしその状況が問題であるならば、国が「出口」基準を明確化して、全国共通の大学卒業資格試験でも実施するのも解決の方向の一つであろう。

だが、より本質的な問題は、本書の第3章のテーマであるが、考えるチカラはゼミではつけられているが、なぜ授業ではそれがなされていないのかということにある。(ただし、私大文系ではゼミに入れない学生もいることも忘れてはならない)。

カネと時間をかけた調査により、考えるチカラを養う授業が具体的に明らかにされた。一種の人気投票でもあるが、この調査結果だけでも読む価値はある。大学名と学部名、教師名まで明らかにされている。だが、現在はまだまだ個々の教師の力量次第で、組織的な取り組みがなさすぎることが問題であろう。

ゼミは考える場になっているが、「評価」がなされていないことが問題だという指摘には納得だ。そのためには絶対評価ではなく相対評価にしなくてはならない。絶対評価だと全員がAになる可能性があるが、相対評価ではAを取れる人数は比率によって限定される。

「考えるチカラ」は、学生と教師とのあいだに学問をめぐって真剣な関係が成り立つことが前提となる。対話とディスカッションである。「白熱教室」のサンデル教授はそれを大教室でも実行していることは実行不可能ではないことを示している。

わたし的にいえば、授業においても学生が「PDCAサイクル」を回すように仕向けることが必要だと考える。

P(Planというよりも Preparation 準備):学生に課されたアサインメント(課題)
D(Do): ゼミや授業における対話やディスカッション、論述レポート、試験
C(Check): 相対評価による成績評価
A(Action): つぎの課題に向けての教師による個別フィードバック

本書が扱っているのは基本的に日本の一流大学が中心である。海外の一流大学並みに勉強するようにするにはどうしたらいいか、とくに「考えるチカラ」をつけさせるためにはなにをすべきかについて扱っている。

企業と大学との意識ギャップはいまでもきわめて大きい。企業の立場に立ちながらも大学の世界も垣間見ているわたしには、断層といっていいほどのズレがあるように思われる。

しかし企業世界の変化のスピードはさらに早まっている。大学が企業の下請けになる必要はまったくないが、変化の風は体感してほしいものだと思う。

本書がそのキッカケになればいいと思う次第だ。





目 次

はじめに
第1章 日本の大学生は本当に「勉強しない」のか?
第2章 大学生・大学・企業 永続する「負のスパイラル」
第3章 「考える力」こそが日本を救う
第4章 「正のスパイラル」はこうして回す
おわりに
巻末資料 主要大学 授業ミシュラン

著者プロフィール

辻 太一朗(つじ・たいちろう)
1
959年生まれ。京都大学工学部卒業。(株)リクルートで全国採用責任者として活躍後、99年(株)アイジャストを創業。2006年(株)リンクアンドモチベーションと資本統合、同社取締役に就任。採用コンサルタントとして延べ数百社の企業を担当。数多くの大学で講演、面接トレーニングの実績ももつ。


<関連サイト>

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What if ~ ? から始まる論理的思考の「型」を身につけ、そして自分なりの「型」をつくること-『慧眼-問題を解決する思考-』(大前研一、ビジネスブレークスルー出版、2010)

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2013年3月25日月曜日

「聖週間 2013」(3月24日~30日)ー キリスト教世界は「復活祭」までの一週間を盛大に祝う




昨日(3月24日)から始まった「聖週間 2013」。キリスト教世界は「復活祭」(イースター)までの一週間を盛大に祝います。

「聖週間」とは、「パーム・サンデー」(Palm Sunday)から「復活祭」(イースター:Easter)前日までの週のことをいいます。「聖週間」というのはカトリック用語ですが、イエス・キリストがエルサレムで受けた受難を記憶するためプロテスタントでは「受難週」(Passion week)と呼ばれています。

キリスト教でも宗派によって日本語での名称が異なるのがややこしいですね。基本的に移動祝祭日ですが、これもまた宗派によって計算方法が異なるようです。

「復活祭」を wikipedia で調べてみると、「典礼暦における位置づけ」という小項目にはつぎのような説明が書かれています。

受難の月曜日、受難の火曜日、受難の水曜日、この週の木曜日から土曜日までは特に、聖木曜日(洗足木曜日)、聖金曜日(英語でGood Friday、受難日、受苦日)聖土曜日と呼ばれ、特別の儀式が行われる。・・(中略)・・カトリックでは「過越の三日間」として、人間にあがないをもたらしたキリストの受難と復活を主の過越の出来事として祝う。「過越の三日間」は主の晩さん(聖木曜日)の夕べのミサから、復活の主日の「晩の祈り」までとし、年間を通した典礼暦の最高頂である。中でも復活徹夜祭を最も重要な祭儀として祝い、この日に入信の秘跡(洗礼、堅信、聖体)を授けることが伝統的な習慣となっている。

この間、「十字架の道行」という練り歩きが行われます。十字架を自らかついで処刑場まで歩くキリストの受難を追体験するものです。キリストの生涯を描いた映画にはかならずでてくるシーンですね。

上掲の三枚つづきの写真は、メキシコ西部の町サン・クリストーバル・デ・ラス・カサスで行われた「受難劇」。1991年に同地を訪れた際に知り合った現地の人にいただいた写真をスキャンしました。

このときの訪問時期が1月だったので、じっさいに「十字架の道行」をみたわけではないのが残念でした。中米のグアテマラ国境にも近いこの町は、原住民のインディオ比率のきわめて高い地域ですが、スペインの統治時代に完全にカトリック化されています。

カトリック信者の多い中南米やフィリピンでは盛大に祝われる聖週間、スペイン語ではセマーナ・サンタ(semana santa)といいます。

「聖週間」の終わりは復活祭(イースター:Easter)。植物も息を吹き返す春ですね。復活祭とは、もともと春の祝祭なのです。キリスト教の祝祭は、そのうえに上書きされているわけです。

1992年の春にニューヨークで聖週間の受難劇の練り歩きに遭遇しました。ニューヨークにはイタリア移民も多く、またアイルランドの守護聖人の名を冠した大聖堂セント・パトリック・カテドラルがあるように、カトリック人口も少なくありません。
      
東南アジアでも、カトリック国のフィリピンでは「聖週間」は盛大に祝われます。世界の三大宗教の仏教、キリスト教、イスラームが入り乱れているのが東南アジア。キリスト教について知っておくこともまた重要ですね。

宗教について最低限でいいので知識をもつことは、たとえその宗教の信者ではなくても、とくに海外ビジネスに従事する人にとっては絶対に必要です。

なぜなら、ものの考え方というのは、とくにその人が信じている宗教などの価値観に大いに影響されるからです。せめて今週が「聖週間」であるということだけでもアタマのなかに入れておきましょう。


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・・イスラームを排除して「純化」したスペインは海外に・・・。南米植民地を獲得した・・・

・・イエズス会士たちは大西洋を渡って南米へ、あるいはインド洋をわたって戦国時代の日本に向かう

・・「私は何の先入観なしにこの『アバター』をみているうちに、これはロバート・デ・ニーロ主演の『ミッション』だな、と思った。監督が意識していたかどうかは知らない・・(中略)・・南米では、スペイン人植民者が宣教師と軍人と行動をともにしたのと同様、西欧文明の継承者である、米国においてはビジネスマンと科学者と軍人がセットで登場するが、宣教師の枠割りは科学者が代替している。」。アバターは、滅亡に追い込まれた原住民インディオのメタファーと考えるべきではないかと思われる。南米ミッションについて、やや詳しく書いておいた

・・キリスト教を異文化の日本に布教しようとした際に考案されたことは?

書評 『治癒神イエスの誕生』(山形孝夫、ちくま学芸文庫、2010 単行本初版 1981)


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