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2022年1月7日金曜日

書評『宇宙災害 ー 太陽と共に生きるということ』(片岡龍峰、化学同人DOJIN選書、2016)ー 太陽系の惑星に生きる地球人は、太陽の圧倒的影響を受ける「宇宙環境」に生きているのだ

 

『宇宙災害-太陽と共に生きるということ(DOJIN選書)』(片岡龍峰、化学同人、2016)を読んだ。1976年生まれの宇宙空間物理学の専門家が書いた教養書である。 

太陽系の惑星に生きる地球人は、太陽の圧倒的影響を受ける「宇宙環境」に生きているのだということを、つねに意識していなくてはならないと、あらためて考えさせられる。

「宇宙災害」とは、本書に付録としてつけられた「用語集」によれば、以下のようになる。

太陽フレア、太陽プロトン、コロナ質量放出といった宇宙環境の大きな変動が地球へ作用することで生じる、経済、社会、国家の安全に必要不可欠な電力、健康、交通などへの重大な悪影響のこと」である。 付け加えれば、通信途絶、衛星墜落、宇宙デブリ事故、隕石落下、オゾン層破壊、放射能被ばく、世界停電なども「宇宙災害」に含まれる。 

「あとがき」にも記されているが、米国はオバマ政権時代の2016年10月13日に大統領令で「宇宙災害」に取り組むことを表明している。その後、トランプ大統領時代には「宇宙軍」が創設されていることは記憶にあたらしい。 

著者の整理に従えば、宇宙から攻めてくるのが、宇宙塵、紫外線、宇宙線。地球サイドで受けて立つのが、地球の大気、地磁気、そして太陽風。地球は太陽系の惑星であり、そのメリットとデメリットの両面を考えなくてはならないのだ。 

この本は、「宇宙災害」のそれぞれについて解説したうえで、「宇宙天気予報」や「宇宙利用」について、著者の研究歴を踏まえて、豊富な図表とともに、マンガやSF映画の話題をたくさんからめて語っている。高校生が読むと、宇宙への意欲がかき立てられるだろう。もちろん元高校生も同様だ。 

最後の章では、文理融合の観点から、過去の「宇宙災害」について研究する方向を示していて興味深い。「3・11」後に活発してきた過去の大地震や大津波の研究だけでなく、オーロラなどについても藤原定家の日記の記述など、歴史学との共同研究が進展中なのだ。 

個人的には、もっと早く読んでおけばよかったなと思う。太陽黒点が観察されず、太陽活動が異常なまでに停滞していた17世紀の「マウンダー極小期」にかんする使える図表が掲載されていたからだ。拙著『世界史から読み解く「コロナ後」の現代』にぜひ引用したかったところだ。 

副題にある「太陽と共に生きるということ」を日々意識して生きるべきなのだ。

恒星の太陽は、惑星の地球に恵みをもたらしてくれる慈愛に満ちた存在だが、一方では災害をもたらす荒ぶる神という存在でもある。両義的な存在なのだ。

太陽と地球の関係は、太陽が消滅しない限り、続いていくのである。 


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目 次
はじめに 
第1章 宇宙災害
 通信途絶
 衛星墜落
 デブリ事故
 隕石落下
 オゾン層破壊
 放射線被ばく
 世界停電
第2章 大地から太陽系の果てまで
 第一の槍:宇宙塵
 第二の槍:紫外線
 第三の槍:宇宙線
 第一の盾:大気
 第二の盾:地磁気
 第三の盾:太陽風
 オーロラと三つの盾
 放射線帯の電子
 磁気嵐の陽子
 太陽の心拍
第3章 宇宙天気予報
 太陽に邪魔された実験
 宇宙天気予報の現場へ
 宇宙の寒冷前線と台風
 地下の水に守られた日本
 オーロラと日本の間に
 太陽の爆発に次ぐ爆発 パイロットの被ばく
 電子の集中豪雨
第4章 宇宙と生命
 動物と磁場
 マウンダー極小期と魔女狩り
 大量絶滅
 宇宙線雲仮説
 星雲の冬
第5章 宇宙利用
 宇宙就活
 スペースデブリの撃墜
 月面基地
 アポロの教訓
 テラフォーミング
  塵の悪魔
 伊達政宗の羅針盤
  将来の宇宙災害に向けて
 あとがき
 さらにくわしく知りたい人へ
用語集


著者プロフィール
片岡龍峰(かたおか・りゅうほう)
1976年、宮城県仙台市生まれ。 2004年、東北大学大学院理学研究科博士課程修了。博士(理学)。 情報通信研究機構、NASAゴダード宇宙飛行センター、名古屋大学太陽地球環境研究所で学振特別研究員、 理化学研究所基礎科学特別研究員、東京工業大学理学研究流動機構特任助教を経て、 現在、国立極地研究所准教授。 専門は、宇宙空間物理学。 2015年、文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞。 著書に『オーロラ! 』(岩波書店)がある。


<関連サイト>

・・奇しくもおなじことを考えていた投資家が、しかもおなじ日に「宇宙天気予報」の話を書いていたことを後から知った(2022年1月12日 記す)


(項目新設 2022年1月12日)


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2021年3月11日木曜日

書評『首都直下地震と南海トラフ』(鎌田浩毅、MdN新書、2021)ー 地球科学は歴史学とおなじ構造。過去をよく知ることが明日につながる

 

2011年の「3・11」から10年になった。津波と原発事故を引き起こした「東日本大震災」から10年である。 

自然界というものはよくできたもので、先月2月13日には「余震」(?)という形で警告を発してくれた。福島県沖の深海で発生したマグニチュード7.3の地震である。

けっして自分が健忘症というわけではないのだが、震源地から離れた関東地方でも比較的大きな揺れ(震度5弱)となったので、さすがに「覚醒」せざるを得なくなった。積み上げていた本の山が崩れて散乱したからだ。 

そんななか、久しぶりに地球科学の鎌田さんの新刊本を読んだ。『首都直下地震と南海トラフ』(鎌田浩毅、MdN新書、2021)である。タイトルに引かれたことは言うまでもない。  

「千年に一度」というほどの大規模な地震であった「3・11」以降、日本列島は「大地変動の時代」に突入したのである。海では「余震」、陸では「直下型地震」が誘発されるようになったのである。 

最初の3章までがタイトルとおりの地震にかんする話、そして第4章で富士山噴火を含めた火山噴火の話である。地震と噴火は地下で連動しているのだ。

地球の表面を覆うプレートがぶつかりあう日本列島に住んでいる限り、地震と火山は切っても切れない関係にある。「揺れる大地」に生きてきた宿命である。 

第5章から終章までは、タイトルとは直接関係ないが、地球科学(=地学)を中心にした科学全般の話。科学の効用と限界について、幅広い教養に支えられた啓蒙的な話と、日本列島に生きる人にとっての生き方についての話。 

たとえば、「地球温暖化」についても、地球科学の観点からすれば、現在は「寒冷化」に向かっていることは「常識」だとする。地質学者のかなり大勢は、そう考えているようだ。著者のいう「長尺の目」で、長いスパンでものを考えることも必要なのである。 

わが意を得たりと思ったのは、鎌田氏が「地球惑星システム」の形成には、生命の誕生や進化とおなじ「歴史科学」の構造があると指摘していること。地震や噴火も、過去の事例を研究することが何よりも重要なのもその一環だ。 

「地球史」もまた「進化」で語られてきたのである。誕生から現在まで46億年に及ぶ「地球史」という視点が重要なのだ。 

なるほど、自分もまた高校時代に「地学」が好きだったのはそのためだな、と大いに納得する。大学入試に際しては、理科は物理と地学で受験したくらいだ。 

そんな個人的な話はさておき、一般向けに書かれたことの本は、鎌田氏の「科学の伝道師」としてのコミュニケーション能力がフルに発揮されていていて読みやすい。女優の室井滋との対談も息があっている。 

学校教育で「地学」が軽視されているような印象をもっているが、「揺れる大地」の住民にとって「地学は常識」だとしたいものだ。


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目 次
序章 東日本大震災から10年、いつ来てもおかしくない大災害 
第1章 地震の活動期に入った日本列島 
第2章 首都直下地震という新しいリスク 
第3章 M9レベルになる「西日本大震災」と南海トラフ 
第4章 富士山噴火の可能性も高まった 
第5章 なぜ世界で自然災害が増えているのか 
第6章 「長尺の目」で世界を見る 
第7章 科学にできること、自分にしかできないこと 
第8章 地球や自然とどうつきあうか 
終章 私たちはどう生きるべきか 


著者プロフィール
鎌田浩毅(かまた・ひろき) 
1955年東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省(現・経済産業省)を経て、1997年より京都大学大学院人間・環境学研究科教授。理学博士。専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーション。京大の講義「地球科学入門」は毎年数百人を集める人気で教養科目1位の評価。火山研究のほか、科学をわかりやすく伝える「科学の伝道師」。1996年に日本地質学会論文賞受賞。『火山噴火』(岩波新書)、『富士山噴火と南海トラフ』『地学ノススメ』(いずれもブルーバックス)、『地球の歴史』(中公新書)、『京大人気講義 生き抜くための地震学』(ちくま新書)など著書多数。


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・・「読んでいてひじょうにうれしく思ったのは、知的自伝を語りながら、レヴィストロースの少年時代からの、地質学と考古学への深い関心が歴史学的思考の基礎にあることを知ったことだ。」


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2016年2月14日日曜日

書評『バイオスフィア実験生活 ー 史上最大の人工閉鎖生態系での2年間』(アビゲイル・アリング/マーク・ネルソン、平田明隆訳、講談社ブルーバックス、1996)-火星探査ミッションのシミューレーションでもあった2年間の記録


『バイオスフィア実験生活-史上最大の人工閉鎖生態系での2年間-』(アビゲイル・アリング/マーク・ネルソン、平田明隆訳、講談社ブルーバックス、1996)という本を読んでみた。

2016年2月現在公開中のハリウッド映画『オデッセイ』があまりにも面白かったので、この本の存在を思い出して書棚の奥から引っ張り出してきたというわけだ。有人宇宙探査船もまた「人工閉鎖生態系」である。無防備に酸素のない外部に出たら死んでしまう。

実験の正式名称は「バイオスフィア2」 (Biosphere 2) 。アメリカのアリゾナ州の砂漠に実験用施設として建設されたガラスの建築物のなか、「人工閉鎖生態系」が密閉されたのである。

「バイオスフィア」(biosphere)とは地球を意味している。日本語に直訳すれば「生命圏」となるのだろう。地球では、バクテリアから人間にいたるまで、あらゆる生命体が太陽光のもと、大気と水を循環させながら生命をつないできた。

人工的に設定された「バイオスフィア2」は、人類のこれからの生き方を探ることが目的である。宇宙空間で「閉鎖生態系」で人類が生存することが出来るのか検証し、その前提となる地球環境問題を人工的な環境で研究することであった。

海も山も平野を有し、動植物も含んだを人工的にドーム内に再現するという大掛かりな実験だ。生態系の一部として人間もそのなかに加わるのである。そのなかでは水も大気もリサイクルされ、原則として外部から取り入れられるのは太陽光のみである。


実験に参加したのは、アメリカを中心にヨーロッパ人も含めた男女8人の科学者。いったん「バイオスフィア2」内に入ったら2年間は出入りできないのである。その意味では宇宙探査船と同じである。じっさい、「バイオスフィア2」計画は、2年間の火星探査ミッションのシミュレーションという考えもあったらしい。その先にあるのはスペース・コロニーか。

 「バイオスフィア2」内で野菜や穀物を栽培し、自給自足の生活を送った2年間。動物性蛋白はたまには摂取したらしいが、限りなくベジタリアンな日々となっていたらしい。

二酸化炭素を光合成によって吸収させ、ドーム内で酸素を循環させるのであるが、じっさいには酸素が減少するという事態が発生している。酸素が炭酸カルシウムのかたちでコンクリートに吸収されてしまうためだとわかったのはこの実験の成果の一つだ。

外部との連絡はすべて電子メールなどの電子媒体で行ったという意味でも宇宙探査船と同じである。環境負荷を下げるためのペーパーレス化であり、1991年から行われたこの実験は、時代を先取りしたものだったといえよう。

すでに20年前の出版であり(・・購入してからも20年間読んでなかった)、実験じたいは1991年からまるまる2年間にわたって行われたものなので25年も前のものだ。だが、「バイオスフィア2」における実験は、その後は尻つぼみになってしまったようなので、この本は貴重な記録となっている。

日本語のタイトルは、物語的な体験記のような印象を与えるが、内容は項目別に2年間の実験内容とその結果をまとめたレポートのような構成である。講談社ブルーバックスの一冊というのにふさわしい。

残念ながら現在は日本語版は品切れだが、英語版 Life Under Glass: The Inside Story of Biosphere 2 は入手可能のようだ。なぜ日本ではあまり売れてないのか不明だ。面白い内容なのに・・・・。





目 次

日本語版へのまえがき
ガラスの家の中で生きる
序
謝辞

第1章 冒険への旅立ち
第2章 バイオスフィリアンの一日
第3章 バイオスフィア2の環境
第4章 自ら育てる
第5章 空腹とやりくり
第6章 二人のお医者さん
第7章 原野にて
第8章 テクノスフィア
第9章 動物ものがたり
第10章 三エーカーの "試験管"
第11章 電子ビジネス
第12章 余暇の楽しみかた
エピローグ

訳者のあとがき
さくいん


著者プロフィール

アビゲイル・アリング(Abigail Alling)
自ら創設した非営利団体「プラネタリサンゴ礁基金」会長。エール大学大学院修了。海洋生物や閉鎖生態系、特に世界中の海でのサンゴ礁の生態システムの研究に取り組んでいる。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)

マーク・ネルソン(Mark Nelson)
生態開発研究会社「エコテクニクス協会」会長。ダートマス大学で哲学を、アリゾナ大学で天然資源のリサイクル学を学ぶ。現在はフロリダ大学の環境工学部と湿地研究センターで学位論文に取り組んでいる。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)

翻訳者プロフィール
平田明隆
科学通信社「ジャスネット」代表。東京大学農学部大学院修了。読売新聞科学部、ニューヨーク特派員、本社編集委員を歴任。1995年退職後、マサチューセッツ工科大学科学ジャーナリズム科修了。ワシントン在住。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)






<ブログ内関連記事>

映画 『オデッセイ』(2015年、米国)を見てきた(2016年2月7日)-火星にたった一人取り残された主人公は「意思のチカラ」と「アタマの引き出し」でサバイバルする ・・「閉鎖空間」としての宇宙船

マンガ 『沈黙の艦隊』(かわぐちかいじ、講談社漫画文庫、1998) 全16巻 を一気読み ・・「閉鎖空間」としての潜水艦

「お籠もり」は何か新しいことを始める前には絶対に必要なプロセスだ-寒い冬にはアタマと魂にチャージ! 竹のしたには龍がいる!

梅棹忠夫の幻の名著 『世界の歴史 25 人類の未来』 (河出書房、未刊) の目次をみながら考える

惑星探査船 「はやぶさ」の帰還 Welcome Back, HAYABUSA !
・・ただしこの探査船は無人



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2012年1月8日日曜日

書評『梅棹忠夫の「人類の未来」― 暗黒の彼方の光明』(梅棹忠夫、小長谷有紀=編、勉誠出版、2012)― ETV特集を見た方も見逃した方もぜひ



■未完に終わった『人類の未来』。その構想を可能な限り再現し「あらたな未来」を考える■

河出書房から1970年に出版されるはずだった梅棹忠夫執筆予定の『世界の歴史 25人類の未来』。

しかし、国立民族学博物館の開設に奔走する超多忙状態のなか、残念ながら未完に終わってしまった幻の著作である。

『梅棹忠夫の「人類の未来」―  暗黒の彼方の光明』(梅棹忠夫、小長谷有紀=編、勉誠出版、2012)は、その構想を可能な限り再現しようとした試みである。

梅棹忠夫の手書きによる「目次」と、知的生産のツールであった「こざね」に書き記された発想メモが写真版で収録されており、『人類の未来』の構想プロセスを知ることができる。

また、1970年前後に行われた、SF作家の小松左京などのメンバーとの座談会の記録を読むことによって、『人類の未来』について考えていた知的土壌がどういうものであったかも知ることができる。

1970年の前後に、当時30歳代から40歳代の気鋭の論客たちが「未来」についてリアルタイムで語り合った対談や座談会を40年後の「未来」から読み直すというのは、なんだか不思議な感じもする。ある意味では、タイムカプセルに入れた手紙を40年後に掘り出して読むような感覚だろうか。

梅棹忠夫の未来予測が大筋ではほとんど当たっているのは、それが予言ではなく、論理的にそうなるのは当然だという思考の筋道をとっているからだ。それは、すべてを「地球レベル」というマクロの視点と、具体的な事物というミクロの視点で同時に見ているためだ。

その意味では、「地球時代を考える-SF化する科学文明-」という樋口敬二(名古屋大学水圏科学研究所教授)との1977年の対談と、「地球文明-2000年の座標-」という秋山喜久(関西電力株式会社会長)との2000年の対談が、2012年時点で読んでも、興味深い内容になっている。

『人類の未来』はもしかすると、あまりにも悲観的な話ばかりがつづくので、もし仮に1970年時点で出版されていたとしても、たんなる悲観論として片付けられてしまっていたかもしれない。

だが、それから40年以上たった時点では「すでに迎えた未来」として、現実的なものとなっていることは、多くの人が納得していることだろう。だからこそ、『人類の未来』をテーマにして昨年NHK・ETVで放送されたETV特集 「暗黒のかなたの光明-文明学者 梅棹忠夫がみた未来-」が大きな反響を呼んだのだろう。

「3-11」を経験した日本人は、日本と日本人が世界のなかでどう生きていくべきなのかについて、あらためて徹底的に、根本的に考えなくてはいけない状況に追い込まれている。

ETV特集「暗黒のかなたの光明」を見ていない人も、本書を読むことで、「これからやってくる未来」を考えて、何をなしていくべきかを考えていくための貴重なヒントを得ることができるかもしれない。

ぜひ目を通していただきたいと思う。




(画像をクリック!)


目 次

はじめに(小長谷有紀)
第一部  梅棹忠夫の残した「人類の未来」
『人類の未来』目次案とこざね
梅棹忠夫ののこした『人類の未来』(小長谷有紀)
第二部  梅棹忠夫の見つめていた未来
人間の未来を語る(1966年・・石田英一郎・今西錦司・梅棹忠夫)
どうなる・どうする-未来学誕生(1966年・・林雄二郎・小松左京・加藤秀俊・梅棹忠夫)
なぜ未来を考えるのか(1967年・・加藤秀俊・川添登・小松左京・林雄二郎・梅棹忠夫)
地球時代を考える-SF化する科学文明(1977年・・樋口敬二・梅棹忠夫)
地球文明-2000年の座標(2000年・・秋山喜久・梅棹忠夫
第三部  「人類の未来」に迫る 
まだ、間に合う-梅棹忠夫の達成を未来に延長する(毛利衛)
「貝食う会」の5人(1982年・・加藤秀俊)
梅棹忠夫の未来研究-教祖か予言者か祭司か?(中牧弘允)
「はかなさ」の感受性へ-梅棹忠夫の「人類の未来」論に即して(竹内整一)
科学で価値を語れるか-梅棹忠夫に見る人類の未来(佐倉統)
おわりに(小長谷有紀)


<書評への付記>

1970年前後というのは「未来学」がブームになっていた頃である。

その未来学をリードしたのが梅棹忠夫や小松左京といった人たちだが、同じメンバーが大阪万博の構想についても考え、それが国立民族学博物館として形あるものとして残った一方、書くことを約束していた『人類の未来』はついに書かれずじまいになってしまった。

編者のモンゴル学者・小長谷有紀氏は、梅棹忠夫は『人類の未来』をおそらく書けなかったというよりも、書くというモチベーションを失ってしまったのだろうと指摘している。一つの解釈として耳を傾けるべきである。

1970年の大阪万博が終わってからすぐ、1973年には石油ショックに見舞われた日本人からは楽観論は一気に消えてしまったが、「3-11」後の現在もそうだが、悲惨な未来がやってくるという悲観論はたしかに日本人の耳に入りやすい。梅棹忠夫は、自分が国民にむかって提示する議論がこういう俗流悲観論とみなされてしまうのがいやだったようだ。

未来予測やシナリオシンキングは、ビジョンや目標のような目的志向をもった「創り出す未来」とは根本的に異なるものだ。「そうなりたいもの」という人間の意志とはかかわりなく、「そうなってしまうもの」である。それが悲観的になりがちなのは致し方ない。

いまから考えると、「人類の未来」について考えるという発想じたいが、この時代の特有のものだったような気がしなくもない。1970年前後では、「未来学」というのは先進国のなかでも、英国とフランスと日本でしか見られなかった現象らしい。その当時の冷戦時代の大国であった米国もソ連も、未来を悲観するような「空気」は存在しなかったようなのだ。

座談会のなかで、未来について語る史観には、輪廻史観、終末史観、無限の進化史観しかないという指摘がでてくるが、1970年前後はいまだ「無限の進化史観」の代表である唯物史観が大勢であった時代だ。

いまやそのソ連も崩壊して20年、米国もまたアイデンティティ・クライシスを迎えつつあるように思われる。外敵を設定するだけでは済まされなくなってきている状況だ。

『世界の歴史 25人類の未来』は未完に終わってしまったが、本書に収録された「梅棹忠夫の未来研究-教祖か予言者か祭司か?」(中牧弘充)を読むと、梅棹忠夫の未来研究政府系のシンクタンクであるNIRA(総合研究開発機構)における政策研究に引き継がれたことがわかる。

願わくば、その流れが政府の政策研究としてはもちろん、国民一人一人の課題として、それぞれ取り組むマインドセットとなってゆくことである。

なお、『世界の歴史 25人類の未来』の目次については、梅棹忠夫の幻の名著 『世界の歴史 25 人類の未来』 (河出書房、未刊) の目次をみながら考える と題してこのブログで紹介しておいた。

『人類の未来』をテーマにして昨年NHK・ETVで放送されたETV特集 「暗黒のかなたの光明-文明学者 梅棹忠夫がみた未来-」についても触れているので、ご参照いただけると幸いである。



<ブログ内関連記事>

書評 『梅棹忠夫-知的先覚者の軌跡-』(特別展「ウメサオタダオ展」実行委員会=編集、小長谷有紀=責任編集、千里文化財団、2011)

書評 『梅棹忠夫 語る』(小山修三 聞き手、日経プレミアシリーズ、2010)

書評 『梅棹忠夫のことば wisdom for the future』(小長谷有紀=編、河出書房新社、2011)

書評 『梅棹忠夫-地球時代の知の巨人-(KAWADE夢ムック 文藝別冊)』(河出書房新社、2011)

書評 『梅棹忠夫-知的先覚者の軌跡-』(特別展「ウメサオタダオ展」実行委員会=編集、小長谷有紀=責任編集、千里文化財団、2011)

梅棹忠夫の幻の名著 『世界の歴史 25 人類の未来』 (河出書房、未刊) の目次をみながら考える

書評 『まだ夜は明けぬか』(梅棹忠夫、講談社文庫、1994)-「困難は克服するためにある」と説いた科学者の体験と観察の記録

書評 『ひらめきをのがさない! 梅棹忠夫、世界の歩き方』(小長谷有紀・佐藤吉文=編集、勉誠出版、2011)

『東南アジア紀行 上下』(梅棹忠夫、中公文庫、1979 単行本初版 1964) は、"移動図書館" 実行の成果!-梅棹式 "アタマの引き出し" の作り方の実践でもある

書評 『回想のモンゴル』(梅棹忠夫、中公文庫、2011 初版 1991)-ウメサオタダオの原点はモンゴルにあった!

梅棹忠夫の「日本語論」をよむ (1) -くもん選書からでた「日本語論三部作」(1987~88)は、『知的生産の技術』(1969)で黙殺されている第7章とあわせ読むべきだ

梅棹忠夫の「日本語論」をよむ (2) - 『日本語の将来-ローマ字表記で国際化を-』(NHKブックス、2004)

企画展「ウメサオタダオ展-未来を探検する知の道具-」(東京会場)にいってきた-日本科学未来館で 「地球時代の知の巨人」を身近に感じてみよう!


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2012年1月7日土曜日

企画展「ウメサオタダオ展ー未来を探検する知の道具」(東京会場)にいってきた(2012年1月7日) ー 日本科学未来館で 「地球時代の知の巨人」を身近に感じてみよう!




企画展「ウメサオタダオ展-未来を探検する知の道具-」(東京会場)にいってきた。会場は、お台場の日本科学未来館。

入館するとまず目に入ってくるのが常設展示の GEO-COSMOS(ジオ・コスモス) だ。天井からつるされている地球には、時々刻々と変化する様子がうつしさされている。



「地球時代の知の巨人」という称号もある梅棹忠夫にとって、人類について考えるには地球で考えなくてはならないということは、きわめて重要なコンセプトだ。だから、地球は梅棹忠夫の学問のキーワードでもある。日本科学未来館は、梅棹忠夫にはじつにふさわしい会場というべきだろう。

昨年2011年、3月から6月まで大阪・千里の国立民族学博物館(通称みんぱく)で開催された 特別展「ウメサオタダオ展」 の巡回展である。

ほんとうは大阪会場に行きたかったのだが、そうもいかない事情があったので、展示を見るのはあきらめて特別展の図録である 『梅棹忠夫-知的先覚者の軌跡』(千里文化財団、2011)を購入して我慢していたのだが、やはりじかに展示会場に足を運んでみるのにしくはない。これもまたフィールドワークである。

以下に、主催者の文章を引用しておこう。国立民族学博物館のい内容と同じなのか、若干は違うものがあるのか両者をみているわけではないのでわからないが、東京会場ではこういう展示内容であることを知ることができるだろう。

ウメサオタダオ展 -未来を探検する知の道具- 展示概要

梅棹忠夫氏は、理学博士でありながら、精力的なフィールドワークにより収集した膨大な資料を通して、また多様な分野の知識人との交流、対談を重ねて、独創的な視点から世界を読み解きました。情報整理法を解説しつつ、知的活動とは何かを論じた『知的生産の技術』はロングセラーとなっています。
本展では、『知的生産の技術』ができるまでのカードやメモのほか、国内外でのフィールドワークで用いたノート、スケッチ、日記などを展示。その膨大な知的生産の過程と成果を紹介します。また、東京会場では、梅棹氏の未完の書のタイトルでもあった『人類の未来』について、各界有識者のコメントを眺めながら、来館者一人ひとりが人類の未来について考え、メッセージを書き込むデジタルコンテンツを追加します。
「知の巨人」が今を読み解き、未来を探検した知の道具やその方法が、混迷の時代を生き抜く私たちの羅針盤になることを願っています。
本展では、梅棹氏の知的生産の過程と成果を紹介するほか、『人類の未来』について、各界有識者のコメントを眺めながら、来館者が人類の未来を考え、メッセージを書き込む展示物を体験できます。


職員の方にたずねたら、写真は撮影してかまわないということだったので、たくさん撮らせてもらった。

展示内容については「図録」をみればいいのだが、デジカメで撮影して、自分のパソコンで好きなときに好きなように展示物を見たいという欲求があるからだ。

「図録」ではなぜか取り上げられていなかった「カナモジ」やローマ字にかんする展示もあったのはうれしい(・・写真は京大の学生時代のもの)。この隣に「カナタイプライター」の本物も展示されている。



主催者からはまた、こんなメッセージもあるので紹介しておきたい。

【小中学生の保護者の皆様へ】
梅棹氏が実践された、対象物について調査する方法や自然を観察・記録する方法などは、小中学校の理科の学習でも応用できるものです。また、同氏が文章を書く際に用いた手法(トピックスをカードに書き出し、並べ、組み立てる)は、お子様の文章記述や思考力アップにも役立ちます。

まさにその通りだと思う。まずは理科から。そして社会へと進んでいくのが、子どもの知性の正しいのばし方だ。男の子だけでなく、女の子もそれがのぞましい。

本日(2012年1月7日)は三連休の初日だったが、お昼の時間帯にはあまり来客は多くなかった。

平日に社会科見学(?)の一環で小中学生が多く来場しているのだろうか、感想やコメントを「京大式カード」に記して掲示されているコーナーがあって、子どもたちの素直な感想を読むとなるほど(!)と思わされるものがあった。

そのなかにあったのが、「ウメサオ先せいは かいぞくだ」という感想文(写真参照)。



うーむ、これはすごい! まさに直観的な本質把握。

「かいぞく」とは海賊のことだろうが、「知の海賊」と考えれば、多くの分野で知的貢献を残した梅棹忠夫には、じつにふさわしいのではないだろうか。展示会場にあるのはお宝ばかりだし(笑)。

小難しい漢字なしの平明な文章。この文章じたいが、たいへんウメサオタダオ的でいい。


なんにもしらないのは、よいことだ。

あるきながら本をよみ、よみながらかんがえ、かんがえながらあるく。

「発見」というものは、たいていまったく突然にやってくるのである。

小学生でもよめばすぐにわかる文章。これらのフレーズは梅棹忠夫の実践型知性による思想と方法のエッセンスである。

企画展「ウメサオタダオ展 - 未来を探検する知の道具」は、2012年2月20日まで、日本科学未来館にて開催中。ぜひ一度は足を運んでみてほしい。

小難しい話はべつにして、自分自身が小中学生にもどって、「知を遊ぶ」体験をしてみてはいかがだろうか?


(「京大式カード」に入場スタンプを押してお土産にするのもよい)


<関連サイト>

企画展 ウメサオタダオ展-未来を探検する知の道具-(日本科学未来館)

ウメサオタダオ展 -未来を探検する知の道具- 展示概要(日本科学未来館)

シンボル展示 GEO-COSMOS(ジオ・コスモス)(日本科学未来館)

日本科学未来館のアクセス
■ 新交通ゆりかもめ(新橋駅~豊洲駅)
「船の科学館駅」下車、徒歩約5分
「テレコムセンター駅」下車、徒歩約4分
■ 東京臨海高速鉄道りんかい線(新木場駅~大崎駅)
「東京テレポート駅」下車、徒歩約15分
<ブログ内関連記事>

書評 『梅棹忠夫-知的先覚者の軌跡-』(特別展「ウメサオタダオ展」実行委員会=編集、小長谷有紀=責任編集、千里文化財団、2011)

書評 『梅棹忠夫 語る』(小山修三 聞き手、日経プレミアシリーズ、2010)

書評 『梅棹忠夫のことば wisdom for the future』(小長谷有紀=編、河出書房新社、2011)

書評 『梅棹忠夫-地球時代の知の巨人-(KAWADE夢ムック 文藝別冊)』(河出書房新社、2011)

書評 『梅棹忠夫-知的先覚者の軌跡-』(特別展「ウメサオタダオ展」実行委員会=編集、小長谷有紀=責任編集、千里文化財団、2011)

梅棹忠夫の幻の名著 『世界の歴史 25 人類の未来』 (河出書房、未刊) の目次をみながら考える

書評 『まだ夜は明けぬか』(梅棹忠夫、講談社文庫、1994)-「困難は克服するためにある」と説いた科学者の体験と観察の記録

『東南アジア紀行 上下』(梅棹忠夫、中公文庫、1979 単行本初版 1964) は、"移動図書館" 実行の成果!-梅棹式 "アタマの引き出し" の作り方の実践でもある

書評 『回想のモンゴル』(梅棹忠夫、中公文庫、2011 初版 1991)-ウメサオタダオの原点はモンゴルにあった!

梅棹忠夫の「日本語論」をよむ (1) -くもん選書からでた「日本語論三部作」(1987~88)は、『知的生産の技術』(1969)で黙殺されている第7章とあわせ読むべきだ


梅棹忠夫の「日本語論」をよむ (2) - 『日本語の将来-ローマ字表記で国際化を-』(NHKブックス、2004)


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