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2015年6月6日土曜日

「フィリピン投資フォーラム」に参加してきた(2015年6月4日)― 人口1億人を突破したフィリピンの成長性と将来性は高い



「フィリピン投資フォーラム」に参加してきた(2015年6月4日)。日本からの直接投資の誘致を目的としたフォーラムである。今回のフォーラムには、国賓として来日したベニグノ・アキノ大統領と、その経済閣僚が参加している。

会場は、赤坂見附のホテルニューオータニ。主催は、日本貿易振興機構、日比経済委員会、国際機関日本アセアンセンタープログラム駐日フィリピン共和国大使館、一般財団法人フィリピン協会。後援は、外務省、経済産業省、日本商工会議所、中小企業基盤整備機構。主催者も後援者も、それぞれそうそうたる面々である。日本側の気合いも十分といえる。

参加申し込みは1,000人を超えていたというので、日本側のフィリピンの関心度合いの高さがうかがわれる。

今回この投資フォーラムに参加することにしたのは、なんといってもベニグノ・アキノ大統領をナマで見たかったからだ。アキノ大統領のリーダーシップのもとで政治的安定と経済成長が実現しているが、最近は、海洋進出を活発化させ、スプラトリー諸島で無法ぶりを発揮している中国海軍の動きに毅然とした態度で NO を突きつけていることでも知られている。

アキノ大統領は、独裁者と化していたマルコス大統領を「ピープル・パワー革命」という市民革命で倒した中心人物で、その後、大統領となったコラソン・アキノ氏の長男である。1960年生まれで現在54歳の独身。

ベニグノ・アキノ大統領は基調講演を行ったが、早口の英語によるスピーチは立て板に水のようで、きわめて迫力あるものだった。投資誘致にむけての熱意と気迫が十分に伝わってくるだけでなく、高い経済成長を背景にした強い自信がうかがわれた。


(基調講演を行うアキノ大統領 Channel Newsasia の映像よりキャプチャ)



このほか、経済閣僚によるプレゼンテーションが行われた。いずれも流暢な英語である。

●経済区庁(PEZA)長官 リリア  B.  デ リマ氏(経済学博士)による「フィリピン経済特区において拡大する投資機会」(Invest in the Philippines: A Look at Growing Investment Opportunities in Economic Zone)
●基地転換庁 アーネル・パシアノ D. カサノヴァ 長官・CEOによる「クラーク・グリーンシティ・プロジェクト」(Clark Green City Project)
●観光大臣 ラモン・ ヒメネス氏による「観光産業における投資機会」(It's More Fun to do Business in Philippines)


リリア・デ リマ博士にかんしては、いまから7年前にASEANセンター主催の投資ミッションで訪問した際に、少人数のミッション参加メンバーとお会いしている。マレーシアの経済大臣もそうであったが、フィリピンのデリマ長官も在任期間が長い女性である。政策の一貫性と継続性を担保する存在であるといえる。



■フィリピンに注目すべき理由

投資フォーラムの内容をすべて紹介はしないが、とくに印象に残ったのは以下の諸点である。

まずは、2014年に人口が1億人突破(!)したこと。日本や中国を筆頭に、タイも含めてアジア各国が「少子高齢化」問題に直面しはじめているなか、フィリピンは人口増加だけでなく、若年人口も多く、労働人口という点においては、いわゆる「人口ボーナス」を享受できる点は、きわめて大きなアドバンテージであるといえる。フィリピンは、アジアでもっとも高齢化が遅い国とされている。

そして、高い経済成長率である。2009年はリーマンショックのあおりを受けて1.15%と低下したが、2000年以降は4%台以上を維持しており、2013年には7.18%を記録している(・・2014年は6.10%)。高い成長を維持しつづけていることに注目すべきだろう。

日比経済委員会・代表世話人が、日産自動車株式会社 代表取締役副会長の志賀俊之氏であることも注目すべき点である。いったんはフィリピンから撤退した日産自動車だが、2013年にふたたび進出しているのである。豊富な労働人口は、IT分野やコールセンターなどのサービス分野だけではなく、製造業の分野でも有望であることを示している。

東南アジアでは、シンガポールやマレーシア、タイなどが、いわゆる「開発独裁」によって「産業近代化」を推進したことは「常識」である。フィリピンが経済停滞を長くつづけていたのは、シンガポールの建国の父で国父であったリー・クアンユー氏や、国民から敬愛されるタイのプミポン国王のような、「国民統合のシンボル」となるような求心力を欠いていたことも要因の一つであろう。

ことし(2015年)1月のローマ教皇フランシスコ一世による公式訪問がフィリピンで大歓迎されたことも記憶に新しいが、カトリックが人口の7割を占めるフィリピンでは、バチカンに匹敵する求心力はない。


(聖母マリア像 セブ島の国際空港にて筆者撮影)


さきにコファンコ財閥出身のアキノ大統領が許漸華という中国名をもつ華人系であるのにかかわらず、中国の国際法を無視した無法な海洋進出に毅然とした態度で NO を突きつけていることに言及したが、中国の脅威をフィリピン国民のナショナリズム喚起につなげているのは、意図的なものもあると考えていいだろう。この延長線上に、国民国家としてのフィリピンの成長があると考えるべきか。

近代日本がそうであったように、ナショナリズムによる国民の一体化が産業近代化への大きな推進力となることを十分に承知したうえで、共通の外敵を設定することによる求心力向上を狙って、中国に抗議するという姿勢をしめしているのではないかと推察しているが、いかがであろうか。



■アジア開発銀行(ADB)の本部が首都マニラにあることの意味

フォーラムでは言及されていなかったが重要な点を一つ追加しておこう。それは、アジア開発銀行(ADB)の本部がフィリピンの首都マニラにあることである。

いま中国主導のアジア・インフラ投資銀行(AIIB)との関係で注目をあびているアジア開発銀行(ADB)だが、世界銀行のアジア版として、1966年にアメリカと日本の主導で設立されたのがADBである。ベトナム戦争の最中であり、中国は毛沢東による「文化大革命」が始まった年である。

太平洋戦争の日米最大の激戦地がフィリピンであるが、ダグラス・マッカサーとその父アーサー・マッカーサーとも縁の深い、因縁の地がフィリピンなのである。

日本ともアメリカとも、きわめて密接な関係にあるのがフィリピンである。そのフィリピンの首都マニラにADBの本部が置かれていることのことのシンボリック意味について、よく考えておくべきだろう。冷戦構造のなか、米国の反共戦略の一環としての位置づけであった。

かつてアメリカの植民地であったフィリピンは、アメリカ企業のコールセンター産業が栄えていることでわかるように、「準英語圏」といってもいい存在である。製造業でも、マネージャーだけでなく、ワーカーと英語でコミュニケーションがとれる点は、フィリピンの大きなアドバンテージである。これは、タイやベトナムでは望んでもかなわない点だ。

2015年にはASEAN経済統合が実行されるが、とくに「人口ボーナス」という点からいって将来的なさらなる成長が期待されるフィリピンには、大いに注目する必要がある。


(画像をクリック!)



<関連サイト>

フィリピン投資委員会(BOI:Board of Investment)(英語)

2015年6月フィリピン投資フォーラム講演資料 (国際機関ASEANセンター)



<ブログ内関連記事>

フィリピン(Philippines)とポーランド(Poland)、この「2つのP」には2つ以上の共通点がある! (2010年)
・・カトリック人口が7割を超えるフィリピンだが、「カトリックは経済成長の阻害要因」というマックス・ウェーバー以来の一般常識は疑ってかかるべきだろう

修道院から始まった「近代化」-ココ・シャネルの「ファッション革命」の原点はシトー会修道院にあった
・・プロテスタンティズムと起業家精神との親和性を説いたマックス・ウェーバーの仮説には、そもそもほころびがある

書評 『国力とは何か-経済ナショナリズムの理論と政策-』(中野剛史、講談社現代新書、2011)-理路整然と「経済ナショナリズム」と「国家資本主義」の違いを説いた経済思想書
・・ネーション・ステート(=国民国家)とナショナリズムの重要性を肯定的に論ずる

書評 『ナショナリズム-名著でたどる日本思想入門-』(浅羽通明、ちくま文庫、2013 新書版初版 2004)-バランスのとれた「日本ナショナリズム」入門 ・・アジアのなかでいち早く近代化をなしとげた日本におけるナショナリズム

書評 『ヒンドゥー・ナショナリズム』(中島岳志、中公新書ラクレ、2002)-フィールドワークによる現代インドの「草の根ナショナリズム」調査の記録
・・現代インドにおけるナショナリズム

映画 『イメルダ』 をみる
・・フィリピン戦後史そのもののイメルダ・マルコス

ベトナムのカトリック教会
・・アジアのカトリック国はフィリピンだけではない。韓国とベトナムもまたそうである

書評 『ギリシャ危機の真実-ルポ「破綻」国家を行く-』(藤原章生、毎日新聞社、2010)
・・多島国ギリシアとフィリピンの共通性について言及

書評 『「海洋国家」日本の戦後史』(宮城大蔵、ちくま新書、2008)-「海洋国家」日本の復活をインドネシア中心に描いた戦後日本現代史
・・「市場としての中国」を失った敗戦国日本は、冷戦構造のなか、米国の反共戦略の一環として「市場としての東南アジア」での経済活動を許され、「戦後賠償」というひも付き援助によって、日本企業の東南アジア進出を後押ししてゆく。


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2013年2月14日木曜日

書評『中国台頭の終焉』(津上俊哉、日経プレミアムシリーズ、2013)-中国における企業経営のリアリティを熟知しているエコノミストによるきわめてまっとうな論


この本は中国人こそ読むべきではないかと思う。経済大国になるという、「根拠なき過剰な自信」を背景に尊大な振る舞いの目立つ現代中国だが、本書に書かれた事実を虚心坦懐に見つめれば考えも変わってくるのではないだろうか。

きわめて冷静でロジカルな議論を虚心坦懐に読めば、読者は著者の結論を受け入れることをためらうことはないだろう。

日本でも中国でも、一般人の認識として実感されるまでかなりのタイムラグがあるだろうが、認識が共有されるようになった暁には、双方ともに、大きな失望と不安(・・あるいはその逆の感想)が顕在化することとなることは間違いない。それも今後数年のあいだに起る可能性があるのだ。今後の見通しが根底から覆されることになりかねないからだ。

本書は、中国経済がかかえる問題を、短期・中期・長期で整理し、課題解決の可能性とその困難さについて書かれたものだ。報告書のように理路整然と書かれているので、まずは「目次」を見ておくと、本書の内容を直観的に把握できるだろう。

第1章 中国は5年前には中成長モードに入っていた
第2章 「4兆元投資」の後遺症(短期問題)
第3章 中期的な経済成長を阻むもの-「国家資本主義」と「国進民退」
第4章 新政権の課題 (1)-国家資本主義を再逆転
第5章 新政権の課題 (2)-成長の富を民に還元(還富于民)
第6章 民営経済の退潮-投資家の体験談
第7章 新政権の課題 (3)-都市・農村二元構造問題の解決
第8章 少子高齢化(長期問題)-「未富先老」
第9章 中国がGDPで米国を抜く日は来ない
第10章 東アジアの不透明な将来

2020年でも米国のGDPのせいぜい2/3止まり、一人当たりGDPでは遠く及ばないというのが著者の結論である。今後もせいぜい 5%成長がいいところだが、それさえ可能性に過ぎないというのは、思いきった発言というべきだろう。中国経済の成長による大国化は幻想として終わるであろうということだ。

なんといっても人口問題からみた将来の中国は驚くほかない。一人っ子政策批判がタブーの空気が醸成されている中国であるが、出生率はついに、なんと 1.18(!) となっているのである! 1.39 の日本や 1.22 の韓国より低い数値である! 1.15 ののシンガポールいよりは若干高いが・・。いわゆる黒孩子(ヘイハイズ)という非嫡出子を含めても、せいぜい総人口の 1~2割増しだろうし、北京や上海などの大都市部はなんと1.0 以下なのだ.。

開発経済学の分野ではすでに常識となっている「人口ボーナス」の議論によれば、中国は生産人口拡大という「人口ボーナス」を十分に享受できないまま終焉するだけでなく、「人口オーナス」という形の逆ギアが入るのもそう遠くないのである。

日本はいちはやく生産人口の減少により経済が減速しているが、それでも「人口ボーナス」をうまくい活用できたので先進国となることができた。しかし中国は、1人当たりGDPが先進国の水準に達する前に、生産年齢人口の急減と急速な少子高齢化を経験する国になるのである。

しかも、少子高齢化だけでなく、人口減少がはじまるのである。人口減少がはじまるともはや止めようがないのは日本人ならかなり以前から実感していることだが、中国も遠からずそれが顕在化するのだ。社会保障もほとんど整備されていない状況、中国は国力を維持していくのも難しくなる。

著者は、中国経済の最大の問題は官民格差であるとする。官に蓄積される富、分配の不公平がマクロ的な意味での大問題であるが、それをミクロの面でみれば国営企業が民間企業を圧迫している状態であり、外資系企業だけでなく中国の企業にとっても、自由な企業活動には適さない環境であることを意味している。

たしかに中国発の著名企業といえば、アリババやホワウェイ、ハイアールなど数社しか思い浮かばない。それ以外の大半はドメスティックな国営企業である。これは、米国や日本など資本主義国とのきわだった違いであり、東南アジアとも大いに異なるのである。

著者は経済産業省出身で北京で経済アタッシェも経験しているエコノミストだが、退官後に中国における企業経営のリアリティを熟知しているだけに説得力はきわめて高い。マクロだけでなく、ミクロの状況に通じているのは、並みのエコノミストは大きく異なるアドバンテージである。

「歴史のトラウマ=途上国意識」、「都市と農村の二元問題」、「官製資本主義の増殖」、「漢奸タブー」、「人口減少・超高齢化」など7つの壁に直面している中国でいま進行しているのは後退する民間活力であり、それは経済成長に慢心していた中国共産党の失策であったといえよう。

経済学の常識的理解があるビジネスパーソンなら十分に読みこなせる内容である。本書に書かれたインパクトをどう評価し、自分の活動に反映させていくかは読者の課題である。ぜひ読むことをすすめたい。





目 次

はじめに
第1章 中国は5年前には中成長モードに入っていた
第2章 「4兆元投資」の後遺症(短期問題)
第3章 中期的な経済成長を阻むもの-「国家資本主義」と「国進民退」
第4章 新政権の課題 (1)-国家資本主義を再逆転
第5章 新政権の課題 (2)-成長の富を民に還元(還富于民)
第6章 民営経済の退潮-投資家の体験談
第7章 新政権の課題 (3)-都市・農村二元構造問題の解決
第8章 少子高齢化(長期問題)-「未富先老」
第9章 中国がGDPで米国を抜く日は来ない
第10章 東アジアの不透明な将来
結び


著者プロフィール   

津上俊哉(つがみ・としや)
現代中国研究家、津上工作室代表。1957年生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省入省。中国日本大使館経済部参事官、通商政策局北東アジア課長、経済産業研究所上席研究員などを歴任後、東亜キャピタル株式会社社長を経て現職。著書に『中国台頭』(サントリー学芸賞受賞)等がある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



<関連サイト>

中国は先進国になれない The End of Chinese Growth 最大の強みだった豊富な労働力は過去のもの。巨大な成長マシンが一気に崩れる意外な理由とは(ニューズウィーク日本版 2012年01月05日)・・「真の豊かさを達成する前に人口が減り始める衝撃の大きさは、前例がないだけにはっきりとは分からない。だが、先進国の仲間入りも時間の問題と思われてきたアジアの超大国のイメージは、少なくとも下方修正する必要があるだろう」。

In China, an Unprecedented Demographic Problem Takes Shape(Analysis AUGUST 21, 2013  Stratfor)
・・中華人民共和国教育部の発表によれば、2012年には中国全土で 13,600 の小学校が廃校になったという。急速に人口減少が進行している実態

中国は「7%成長」公約を放棄せよ 迫り来るバランスシート危機 (津上俊哉、ダイヤモンドオンライン特別レポート、2014年2月28日)

上記の「特別レポート」の詳しい内容は著者の最新刊 『中国停滞の核心』( 津上俊哉、文春新書、2014)を参照。



目 次

序章 瀬戸際の中国経済
第1章 「7%成長」のまやかし
第2章 「三中全会」への期待と現実
第3章 これが三中全会決定の盲点だ
第4章 「中国経済崩壊」は本当か
第5章 「経路依存性」との闘い
第6章 危機が押し上げた指導者・習近平
第7章 米中から見た新たな世界-二冊の本を読んで
第8章 「ポスト・中国バブル」期の米中日関係
第9章 中国「防空識別圏」問題の出来
第10章 安倍総理の靖国参拝
第11章 中国「大国アイデンティティ」の向かう先
第12章 当面の日中関係に関する提案-尖閣問題に関する私的な提言


<関連サイト>

Urbanization and Demographics Could Skew China's Economic Rebalancing (Stratfor, Analysis SEPTEMBER 3, 2014)
・・都市化と少子高齢化という人口問題の観点から中国経済と政治についての展望を行うインテリジェンス記事



<ブログ内関連記事>

書評 『誰も語らなかったアジアの見えないリスク-痛い目に遭う前に読む本-』(越 純一郎=編著、日刊工業新聞、2012)-「アウェイ」でのビジネスはチャンスも大きいがリスクも高い

書評 『中国ビジネスの崩壊-未曾有のチャイナリスクに襲われる日本企業-』(青木直人、宝島社、2012)-はじめて海外進出する中堅中小企業は東南アジアを目指せ!

「脱・中国」に舵を切るときが来た!-『中国がなくても、日本経済はまったく心配ない!』(三橋貴明、ワック、2010)はすでに2年間に出版されている

書評 『中国の次のアジア(日経BPムック)』(日経ビジネス=編集、日経ビジネス、2012)-アジアの中心は東南アジア、南アジアへシフトしていく

書評 『中国は東アジアをどう変えるか-21世紀の新地域システム-』 (白石 隆 / ハウ・カロライン、中公新書、2012)-「アングロ・チャイニーズ」がスタンダードとなりつつあるという認識に注目!

書評 『中国バブル崩壊』(日本経済新聞社編、日経プレミアシリーズ、2015)-現在進行形の事象を整理するために有用な本

(2016年7月11日 情報追加)


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2012年10月18日木曜日

GRIPS特別講演会 「インドネシア経済の展望」(2012年10月11日)に参加してきた-2025年にGDP世界第12位を目標設定しているインドネシアは、内需中心の経済構造



一週間まえになるが、先週木曜日(2012年10月11日)、GRIPS(政策研究大学院大学)で開催された特別講演会 「インドネシア経済の展望」に参加してきた。

講演者は、アルミダ・アリシャバナ国務相(国家開発計画担当)・・インドネシア国家開発企画庁長官。ちょうど10月9日から14日まで、48年ぶりに日本で開催されたIMF世界銀行総会のため来日していた国務相によるプレゼンテーションであった。

開催概要は以下のとおり。

【開催概要】
■ 演題:  “Indonesian Economic Outlook”(インドネシア経済の展望)
■ 日時: 10月11日(木) 10:00~12:00(受付:09:30-)
■ 場所: 政策研究大学院大学 想海楼ホール
■ 言語: 英語(日本語同時通訳あり)
■ 講演者: アルミダ・アリシャバナ国家開発計画担当国務相/インドネシア国家開発企画庁長官
1960年西ジャワ州バンドン生まれ。インドネシア大経済学部卒。米国ノースウェスタン大で経済学修士、ワシントン大で経済学博士。国立パジャジャラン大学経済学部教授を務めた。専門は財政、経済開発、教育経済、マイクロ計量経済。アジア開発銀行や世界銀行、豪州国際開発局、国際協力銀行(JBIC)などでコンサルタントを経て、2009年より国務相(国家開発計画担当)及び国家開発計画庁(バペナス)長官を兼任。

なんといってもインドネシアの国家経済開発の責任者による特別講演である。しかも経済学博士号をアメリカで取得した人である。博士号取得者が大臣にはほとんどいない日本とは違って、アジアでは高学歴の専門家が多い。例外は、小泉政権時代の竹中大臣(当時)くらいか。

講演はスライドを多用したプレゼンテーション形式で、すべて英語で行われた。インドネシア語のクセのある英語だが、聞き取るのにそれほど困難はない。




講演の内容は、基本的にいま注目のまとであるインドネシア経済の現在を中心に、過去を振り替り、未来を展望するといったものである。

項目は大きくわけて以下の3つであった。

1. 良好なマクロ経済ファンダメンタルズ(Good Macro Economic Fundamentals)
2. インドネシアの長期開発計画 2005~2025年(Indonesia's Long-Term Development Plan)
3. 機会と将来課題(Opportunities and Future Challenges)

政策当事者の発言であるだけに慎重なものであったと思うが、それでも、GDP規模で現在7,000億USドル、一人当たりGDPで3,000USドルのインドネシア経済が、2025年には、それぞれ GDP 4~4.5兆USドル、一人当たりGDP 14,250~15,500USドルと、約6倍近くに拡大し、世界第12位(!)の経済規模になるという予測がなされていることには驚かされる。

また、2045年には、2025年規模のさらに4~5倍に経済が拡大し、GDP規模で世界第8位(!)の経済になるというのだからスゴイものだ。

さきの9月に発表されたマッキンゼー・レポートでは、2030年には世界第7位の経済になると予測していることと比べると、やや保守的な数字かもしれないが、それでも驚異的である。詳しくは、The archipelago economy: Unleashing Indonesia's potential(McKinsey Global Institute)を参照。




インドネシア経済躍進の秘密は、人口動態と内需中心の経済構造にあることが、この特別講演会でも指摘されていた。 現在 2.4億人の総人口は、2050年には3億人に増加すると予測されており、しかも労働人口が減少に転じるのはまだまだ先のことである。いわゆる「人口ボーナス」の恩恵を今後もうけるわけだ。

あまり細かい話はしないが、経済規模ではすでに世界第2位の中国が、依然として内需中心の経済ではないことを考えると、インドネシアのポテンシャルの意味も理解されようというものだ。

1997年のIMFショック以降、経済だけでなく政治的にも混乱に陥ったインドネシアだが、すでに政治的には安定し、成長軌道に入っていることは十分に認識すべきだろう。

製造業にとっての生産拠点としてだけでなく、巨大なポテンシャルをもった成長市場としてインドネシアを考える必要があるのだ。





<関連サイト>

アルミダ・アリシャバナインドネシア国務相・国家開発企画庁長官: 特別シンポジウム“Indonesian Economic Outlook”

The archipelago economy: Unleashing Indonesia's potential (McKinsey Global Institute)

インドネシアの人口 (見事なまでに右肩上がり)


<ブログ内関連記事>

書評 『インドネシア駐在3000日 (新版)』(坂井禧夫、連合出版、2012)-インドネシアといえばこの一冊。付録のインドネシア語のことわざ200も面白い

「インドネシア投資セミナー」(日本アセアンセンター主催 2012年2月20・21日 東京・名古屋)が開催されます





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2012年1月18日水曜日

書評『消費するアジア-新興国市場の可能性と不安-』(大泉啓一郎、中公新書、2011)-「新興国」を消費市場としてみる際には、国全体ではなく「メガ都市」と「メガリージョン」単位で見よ!

■新興国の経済をみるには国全体ではなく「メガ都市」と「メガリージョン」単位で見よ!

中国を含めたアジアの「新興国」が世界経済の牽引車となっていることは、ビジネス界だけでなく一般社会でも常識となってひさしい。

だが、生産基地としてではなく、消費市場としてアジアを考えるためには、「新興国」の経済を国全体のGDPという統計数字で見ていたのでは見誤ってしまうのではないか? これが著者の問題意識であり、本書の出発点である。

本書のキーワードは、「メガ都市」と「メガリージョン」である。

メガ都市とは、東アジアの中国でいえば上海のような大都市、メガリージョンとはその上海とその周辺に拡がる長江デルタ経済圏のことである。

タイに詳しい著者は、東南アジアではタイのバンコクとその周辺地域を取り上げてくわしく分析している。上海もバンコクも、いずれもすでに「脱工業化」のステージに入っているメガ都市である。

アジアの経済分析を専門とする著者が本書で取り入れたのは、都市社会学を専門とする米国の社会学者リチャード・フロリダの議論だ。

フロリダは、「クリエイティブ・クラス」という概念を打ち出して有名になった学者だが、衛星写真で捉えた夜間の光源の強さと広がりからメガリージョンを割り出した。

アジアでは、東京圏、大阪・名古屋圏、九州北部、広域札幌圏、ソウル・釜山、香港・深セン、上海、台北、広域北京圏、デリー・ラホール、シンガポール、バンコクの12地域あげている。これらはみな「途切れることなく明かりが灯っている地域」である。

基本的に経済地理学の観点からみた議論を展開しているので、本書ではまったく言及がないのだが、メガ都市とは世界文学である村上春樹の小説が翻訳版として読まれている都市であるという定義も可能だろう。

村上春樹が描く都市のライフスタイルは、まさに消費都市としてのメガ都市の風景と重なり合う。本書で考察された経済学的な見方とあわせ考えれば、消費市場としてのメガ都市について考えるヒントになるはずだ。

新興国におけるメガ都市は、いわば巨大な農村地帯という大海に浮かぶ孤島のような存在だ。その意味では、国としてのタイとメガ都市としてのバンコクの関係よりも、同じメガ都市であるバンコクとシンガポール、さらには香港や上海、そして東京や大阪といった関係のほうがリアリティをもつことになる。メガ都市どうしはお互いを意識し合い、競争する関係にある。

本書では、メガ都市とそれを取り囲む膨大な農村との関係、中進国化する新興国の政治問題までマクロな議論を行っているが、メガ都市がメガ都市として存在する都市国家シンガポールのような例外を除いては、いずれの新興国においても考慮のなかに入れておかねばならないことは言うまでもない。シンガポールですら、都市の貧困層問題は避けて通れない。

消費市場としてのメガ都市とメガリージョンを論ずる際には、まずは本書で指摘されておる経済的な状況を押さえておくことが、アジアでのビジネス戦略を考えるための基本的な前提となるだろう。ビジネスパーソン以外にも広く読むことを薦めたい一冊である。






目 次

はじめに
第1章 消費市場の拡大と高まる期待
1. 消費市場へと向かわせる二つの力学
2. アジアの消費市場をどう捉えるか
3. 消費市場はどう広がってゆくのか
第2章 メガ都市の台頭
1. 都市化するアジア
2. 過剰都市化からメガ都市へ
3. アジアの新しい発展メカニズム
第3章 浮上する新しい経済単位-メガリージョン化するアジア
1. 中国経済をどう捉えるか
2. 長江デルタ経済圏の形成
3. 拡大するメガリージョン
4. グローバル・シティへの道 
第4章 成長力は農村まで届くか  
1. 所得格差がどこに向かっているのか
2. 都市と農村の人口ボーナス格差
3. 地方・農村の持続的発展の課題
第5章 アジア新興国の政治不安  
1. 国内の南北問題
2. なぜタイは政治不安に陥ったのか
3. メガリージョン時代の政治学
第6章 アジアの持続的市場拡大の条件-新しい日本の立ち位置1. 激しさを増す資源獲得競争
2. アジア版「成長の限界」を超えて
3. アジアの未来市場としての日本
あとがき
参考文献
索引

著者プロフィール

大泉啓一郎(おおいずみ・けいいちろう)
1963(昭和38)年大阪府生まれ。1986年、京都府立大学農学部卒業、1988年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社、京都大学東南アジア研究センターを経て、1990年に三井銀総合研究所(現・株式会社日本総合研究所)入社。現在、調査部環太平洋戦略研究センター主任研究員。東京大学非常勤講師、法政大学非常勤講師。著書に『老いてゆくアジア』(中公新書、2007年、アジア経済研究所発展途上国研究奨励賞受賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<書評への付記>

著者による第一作『老いてゆくアジア-繁栄の構図が変わるとき-』(中公新書、2007)は、「人口ボーナス」という概念によって、少子高齢化が進展しているのは日本だけではないことを示してくれた本である。まさに、れわれの盲点をついて蒙を啓いてくれた本であったといえよう。

「人口ボーナス」とは、著者の表現を借りれば、「出生率の低下にともなう生産年齢人口(15~64歳)の人口比率の上昇が、労働投入量の増加と国内貯蓄率の上昇をもたらし、経済成長を促進するという考え方」(上掲書)、である。

つまり、若年人口が豊富にいると、労働集約型の組立製造業においては優位性を発揮するのであり、それが所得の向上と貯蓄率の向上につながるということだ。

これは、高度成長期の日本が体験したことであり、1980年代から90年代にかけての中国やタイが体験したことである。

だが、この「人口ボーナス」が享受できる期間が永遠に続くわけではなく、所得が向上するにつれて、出生率は低下し、労働力の供給が減少していくことになる。これもまた日本が先行して体験していることである。

中国やタイでも、経済成長にともなって、日本を後追いする形で「少子高齢化」が進展し始めると、若年人口が多いという「人口ボーナス」を享受できなくなってきたわけだ。

しかも、日本とくらべて社会保障の充実が進まないまま「高齢化」を迎えつつあることは、先行きの不安材料としてアジアの「中進国」には大きくのしかかっているのである。

しかし、大都市の吸引力が若年人口を引き寄せ、地方には高齢者が残されることをとってみても、大都市とそれ以外の地方農村との格差は歴然としている。同じ国にありながら、ほとんど違う世界を形成していることを直視しないといけないのだ、と。

これが著者にとっての最新作につながる問題意識となったわけだ。

というわけなので、書評では「消費市場としてのアジア」に焦点を絞った書き方をしているが、じつはそのれぞれの「新興国」は経済だけでなく、それに起因する社会的な矛盾も抱えており、これが政治問題化する可能性がつきまとうことを考慮に入れておかなくてはならないのである。

つまりは、所得の再分配にかかわるテーマなのだが、そのためにはより一層、メガ都市が発展してメガリージョンを強化していくことが重要なテーマであると同時に、社会基盤の強化も同時に進めなければならないことを意味する。

経済成長と社会的安定をどう両立させるかという大きなテーマを抱えながら、メガ都市間の競争がさらに激化していくという構図である。

一国の繁栄が永続しないのと同様に、メガ都市であっても繁栄が永続するとはいえないだろう。

メガ都市とメガリージョンでのビジネスを展開することにおいては、社会問題は直接的なイシューではないが、CSR(=コーポレート・ソーシャル・リスポンシビリティ:企業の社会的責任)は意識しておくことが重要であることは言うまでもない。

『老いてゆくアジア-繁栄の構図が変わるとき-』(中公新書、2007)、『消費するアジア-新興国市場の可能性と不安-』はともに経済分析の本なので、ビジネスやマネジメントに直接かかわるものではないが、読み方次第では、得るものが多いといえるだろう。





『老いてゆくアジア-繁栄の構図が変わるとき-』 目次
はじめに  少子高齢化の波/「まぼろしのアジア経済」を超えて
第1章 アジアで進む少子高齢化
1. 世界人口とアジア
2. アジアにおける出生率低下の背景
3. 高齢化地域としてのアジア
第2章 経済発展を支えた人口ボーナス
1. 「東アジアの奇跡」はなぜ生じたか
2. 人口ボーナスとは何か
3. アジア各国は人口ボーナスの効果を享受できたか
第3章 ポスト人口ボーナスの衝撃
1. 人口ボーナスから高齢化へ
2. 高齢化による成長要素の変化
3. 中国、ASEAN4の高成長の壁
4. ベビーブーム世代の生産性
5. ベトナムとインドの参入
第4章 アジアの高齢者を誰が養うのか
1. アジアの社会保障制度
2. 社会保障制度構築の課題
3. 開発途上国が直面する困難
第5章 地域福祉と東アジア共同体
1. 福祉国家から福祉社会へ
2. 日本の地域福祉の取り組みと教訓
3. 真の東アジア共同体形成に向けて
あとがき
参考文献
索引


<ブログ内関連記事>

タイのあれこれ 総目次 (1)~(26)+番外編

「メガ都市バンコク」では日本のスマホはまったく目にすることもない-これが「ガラパゴス化」の現状だ! (2012年1月)

書評 『村から工場へ-東南アジア女性の近代化経験-』(平井京之介、NTT出版、2011)-タイ北部の工業団地でのフィールドワークの記録が面白い
・・大都市はすでに「後近代」だが、タイでも農村部では現在も「近代化」が進行中

書評 『赤 vs 黄-タイのアイデンティティ・クライシス-』(ニック・ノスティック、めこん、2012)-分断されたタイの政治状況の臨場感ある現場取材記録
・・「黄色」=バンコク大都市部の支配層と都市中間層(前近代+後近代)と、「赤色」=東北部と北部の農民層(前近代+近代化まっただなか)の対立が反映されていると考えることも可能

「バンコク騒乱」から1周年(2011年5月19日)-書評 『イサーン-目撃したバンコク解放区-』(三留理男、毎日新聞社、2010)

書評 『バンコク燃ゆ-タックシンと「タイ式」民主主義-』(柴田直治、めこん、2010)-「タイ式」民主主義の機能不全と今後の行方

書評 『タイ-中進国の模索-』(末廣 昭、岩波新書、2009)
・・関連書もふくめて、ややくわしくタイの政治経済に言及

(2014年2月1日 情報追加と関連記事再編集)





(2012年7月3日発売の拙著です)








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2010年10月7日木曜日

フィリピン(Philippines)とポーランド(Poland)、この「2つのP」には2つ以上の共通点がある!




■「2つのP」の直接投資誘致セミナー

 昨日(2010年10月6日)、まったく偶然のことだが、イニシャルがともにPではじまる二つの国の投資セミナーに参加した。
 投資といっても株式投資(ポートフォリオ・インベストメント)ではない、事業投資をともなう海外直接投資(FDI:Foreign Direct Investment)のほうである。

 午前9時半からは、「投資セミナー:新生フィリピンへの招待」、午後2時からは、「ポーランド投資セミナー~ポーランドにおけるビジネス展開の可能性~」。前者は、赤坂見附のホテルニューオータニ、後者は、丸の内の東京商工会議所である。

 この「2つのP」で始まる国が、別に示し合わせて投資セミナーを開いたわけはあるまい。私も、とくに考えて参加したわけでもない。スケジュールの空きがあるので入れただけだ。
 しかし、この双方に三菱東京UFJ銀行がかかわっているので、もしかすると銀行内部では偶然の一致に気がついた人がいるやもしれぬ。それぞれ、マニラ支店長、ワルシャワ支店長がセミナーのために帰国しているから。


■経済好調な2つのP

 偶然かどうかはわからないが、この「2つのP」のアジアと欧州の国は、現在ともに経済が好調である。ポーランドは、2008年のリーマンショック以降の欧州では唯一の成長経済(!)、一方フィリピンは先日の大統領選でアキノ大統領が選出されて気分も一新されたばかり、2009年に落ち込んだ経済は、2010年には再び成長軌道に戻っている。

 フィリピンはこの手の投資セミナーは日本で何度も開催しているので慣れたものだが、ポーランドは日本での投資セミナーは初の試みであったようだ。フィリピンの投資セミナーでは、長官たちも流暢な英語でスピーチ。日本人出席者は日本語いて。

 ポーランドの投資セミナーでは、ポーランド語によるもので、いまどきにしては珍しく、同時通訳なしでその都度日本語訳する形であった。私は、耳にひっかっかりにくいなので同時通訳レシーバーがキライなので、ちょうどよかったし、またナマのポーランド語を聞ける機会になったのもよかった。もっとも、固有名詞やロシア語から類推できる単語しか聞き取れなかったが。

 ただ、正直いって、ポーランドの中高年はドイツ語はできるが、英語は・・という人も多いようだ。若い世代では英語はあたりまえになりつつあるようだが。
 これは米国の植民地であったフィリピンとの大きな違いである。


■もうひとつの共通性とは?

 経済好調の内容についてはまた後述するが、この「2つのP」には、さらに共通点があった。

「2つのPではじまる海外直接投資セミナーに参加していた。一つはアジアのP、すなわちフィリピン。もう一つは欧州のP、すなわちポーランド。ともに、最近好調の経済である。」

 こんな内容のツイート(tweet)をつぶやいたところ、イタリアはローマ在住の日本人の方から、レスポンスがあったのだが、その内容を読んでいて突然の「気づき」があったので、こんな返信を送った。

「そういえば、ふたつのPはともにカトリック国ですね。イタリア発の情報で、いま気がつきました。ありがとうございます! RT @・・・・ フィリピンは頑張ってほしいと思っていました。好調と聞いて安心しました。ポーランドの人は・・・」

 そう、フィリピンはアジア最大のカトリック大国、一方のポーランドも欧州有数のカトリック大国なのであったのだ。イタリアということで、突然(!)気がついたのだ。イタリアのローマといえば、まさにバチカンのお膝元。フィリピンはいうまでもなくアジア最大のカトリック国、ポーランドは先のローマ教皇ヨハネ・パウロ二世の出身国。
 景気が上向きなだけでなく、ともにカトリック国なのだ! おお、なんという偶然の一致。見えない糸でつながっている。

「ローマにはフィリピン移民の人々の教会も、ポーランドの人々のための教会も独立してあるんです・・」

 さらに、こんな返事もいただいた。「2つのP」の、非常に熱心なカトリック信者ぶりが現れている。

 イタリアがキッカケとなって、しかも媒介項となって突然気がついたのは、セレンディピティ、いやシンクロニシティ?? 一昨日から、バチカン銀行がらみの金融スキャンダル関連本を読み始めていたことも、潜在意識のなかで働いたのかもしれない・・・おお、脳機能というのは実に面白い、センス・オブ・ワンダー!


■「2つのP」を数字で比較してみる

 では、フィリピンとポーランドと比べてみようかなと思って、The Economosit Pocket World in Figures を開いて見ると、なんと英語アルファベット表記では、Philippines の次に Poland が来るではないか!!
 ああ、面白い。偶然の結果だが、不思議なことがあるものだ。

 さっそく、このともにPで始まる二つのカトリック国の概要を数字で見てみよう。データは2009年現在。

●面積はほぼ同じ・・フィリピン:30万k㎡、ポーランド:31.3万k㎡。
●人口は・・フィリピン:8,450万人、ポーランド:385万人。フィリピンはポーランドの22倍。
●GDPは・・フィリピン:US$118 billion、ポーランド:US$339 billion ポーランドはフィリピンの3倍。
●一人あたりGDPは・・フィリピン:US$1,390、ポーランド:US$8,800 ポーランドはフィリピンの6倍

 意外なことに面積はほぼ同じだ。
 だが、経済的にみれば、ポーランドは新興経済国だが、実質的には先進国並である。ちなみに日本の一人あたりGDPは、US$34,080 である。


■「カトリックは経済成長の阻害要因」という一般常識はほんとうか?

 カトリック人口については、フィリピンは全国民の 75%(・・キリスト教徒は全国民の90%、残りはムスリム)、ポーランドは全国民の 95%がカトリックで、しかもそのうちの75%が敬虔な信者であるという(・・Wikipedia記述より)。 
 この点にかんしては、フィリピンとポーランドは、それぞれアジアと欧州の双璧をなす。

 ご存じのとおり、カトリックでは避妊を禁止している。つまり産児制限を行ってはいけないのが原則であり、この原則をともに遵守しているのがフィリピンとポーランドである。

 つまり、この二カ国は人口増加傾向にあるのだ。フィリピンについては比較的よく知られていると思うが、実はポーランドは現在の欧州においては例外的な存在で、正確にいうと2000年以降は人口が漸減傾向にあるというももの、若年人口が多い。
 フィリピンの人口推移グラフは一貫した右肩あがり、ポーランドの人口推移グラフは、成長基調ではあるが、2000年をピークにゆるやかな減少傾向も。
 若年人口が多いと言うことは、労働人口が多いということであり、人口学でいう「人口ボーナス」という概念に該当する。つまり、若年人口が多いのはマイナス要因であるどころか、経済成長にとってはプラス要因であることは、日本の高度成長期を引き合いに出さなくても自明の理であろう。人口減少傾向にあり、しかも少子化の進行する日本は、この「2つのP」とは正反対のポジションにある。

 一般的な経済史の常識では、カトリックの国は起業家精神に乏しいとされているが、勤勉な労働力(!)が支える好調な経済という点において、この「2つのP」はともに有望株ということがいえる。
 マックス・ウェーバー流の常識はいったん捨てて、虚心坦懐に経済データを眺めたほうがいいという好事例であろうか。

 フィリピンとポーランドの経済データについて見ておこう。

●フィリピン:リーマンショックのあおりを受けて、2009年に 0.9% に低下した以外は高成長を続けている。2010年は 8.0%台の成長に回復している。

●ポーランド:2009年のポーランドは、前年度比 1.7%成長と、OECD 加盟国最高の成長率を叩き出している。2009年の第三四半期以降は 3.0%以上の成長を続けており、欧州各国が軒並み低成長に陥ってるなかでは例外的な存在になっている。


■ポーランドは内陸国家のイメージが強いが、海に面した海洋国家でもある

 さきにこのブログでは、同じ発展途上国の多島国として、ギリシアとフィリピンを比較してみたが、ポーランドとフィリピンを比較してみるのも面白いことがわかった。

 そういえば、ポーランド出身の船員が英国に帰化してジョゼフ・コンラッドと名乗り、『闇の奥』などの作品によって、現在では英文学の古典になっていることを思い出した。
 また、東欧革命の先駆けとなった「自主管理労組 連帯」(ソリダルノシチ)のワレサ議長は、グダンスク造船所の労働者であった(・・グダンスクはかつてドイツのダンツィヒ)。「連帯」が脚光を浴びていたのは、いまは昔、私の高校時代の話だが。
 ポーランドというとどうしても内陸国家のイメージが強いが、実はバルト海に面した海洋国家の性格ももっているわけだ。

 比較論というのは、イメージと固定観念だけで行うのはいかに危険なものなのかと、あらためて感じている次第。


<関連サイト>

フィリピン投資委員会(BOI:Board of Investment)(英語)

駐日ポーランド共和国大使館 貿易・投資促進部(日本語)

 ちなみに、海外投資誘致機関としてもっとも充実しているのは、アジアではタイ投資委員会(BOI:Board of Investment)、欧州ではチェコのチェコインベスト(CzechInvest)である。

タイ投資委員会(BOI)(日本語と英語)

チェコインベスト(CzechInvest)(日本語)

How Poland Became Europe's Most Dynamic Economy (By Stephan Faris  November 27, 2013 BloombergBusinessweek)
・・2013年現在でもポーランドの成長は著しい!


ポーランドの第2の黄金期:欧州の意外な星 (JBpress、2014年7月2日)
・・ The Economist の翻訳記事。「ポーランドは過去500年間で最高の25年を経験したところだが、その転換はまだ終わっていない」、と。



<ブログ内関連記事>

映画 『イメルダ』 をみる
・・フィリピン戦後史そのもののイメルダ・マルコス

ベトナムのカトリック教会
・・アジアのカトリック国はフィリピンだけではない。韓国とベトナムも。

書評 『ギリシャ危機の真実-ルポ「破綻」国家を行く-』(藤原章生、毎日新聞社、2010)
・・多島国ギリシアとフィリピンの共通性について言及

コンラッド『闇の奥』(Heart of Darkness)より、「仕事」について・・・そして「地獄の黙示録」、旧「ベルギー領コンゴ」(ザイール)
・・コンラッドの『闇の奥』

修道院から始まった「近代化」-ココ・シャネルの「ファッション革命」の原点はシトー会修道院にあった
・・プロテスタンティズムと起業家精神との親和性を説いたマックス・ウェーバーの仮説には、そもそもほころびがある

(2015年6月7日 情報追加)




(2012年7月3日発売の拙著です)










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