「アタマの引き出し」は「雑学」ときわめて近い・・日本マクドナルド創業者・藤田田(ふじた・でん)に学ぶものとは?

◆「アタマの引き出し」つくりは "掛け算" だ : 「引き出し」 = Σ 「仕事」 × 「遊び」
◆酒は飲んでも飲まれるな! 本は読んでも読まれるな!◆ 
◆一に体験、二に読書、その体験を書いてみる、しゃべってみる!◆
◆「好きこそものの上手なれ!」◆

<旅先や出張先で本を読む。人を読む、モノを読む、自然を読む>
トについてのブログ
●「内向きバンザイ!」-「この国」日本こそ、もっとよく知ろう!●

■■ 「むかし富士山八号目の山小屋で働いていた」全5回 ■■
 総目次はここをクリック!
■■ 「成田山新勝寺 断食参籠(さんろう)修行(三泊四日)体験記 」全7回 ■■ 
 総目次はここをクリック!
■■ 「庄内平野と出羽三山への旅」 全12回+α - 「山伏修行体験塾」(二泊三日)を中心に ■■
 総目次はここをクリック!


「個」と「組織」のよい関係が元気をつくる!

「個」と「組織」のよい関係が元気をつくる!
ビジネス寄りでマネジメント関連の記事はこちら。その他の活動報告も。最新投稿は画像をクリック!



ご意見・ご感想・ご質問 ken@kensatoken.com にどうぞ。
お手数ですが、コピー&ペーストでお願いします。

© 2009~2026 禁無断転載!



ラベル 通貨 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 通貨 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2014年4月12日土曜日

『エンデの遺言 ―「根源」からお金を問うこと』(河邑厚徳+グループ現代、NHK出版、2000)で、忘れられた経済思想家ゲゼルの思想と実践を知る-資本主義のオルタナティブ(4)



2008年のリーマンショックを機会に経済と金融についてあらためて考え直すことを断続的に行っているが、『エンデの遺言  ―「根源」からお金を問うこと』(河邑厚徳+グループ現代、NHK出版、2000)もその一環として2010年に購入したものだ。もともとNHK・BS1の番組として製作され、1999年5月に放送されたものだ。残念ながら番組を見ていない。

2000年の初版が、10年後の2010年にはなんと 19刷(!)になっているから、そうとう読まれたのであろう。その後2011年には講談社+α文庫から文庫化されている。文庫化されてから買えば良かったと思ったが後の祭りであった。

今回読んでみようと思ったのは、先日のことだが、たまたまリアル書店で 『ミヒャエル・エンデが教えてくれたこと-時間・お金・ファンタジー-』(池内 紀・子安美知子・小林エリカほか、新潮社、2013)という本を見つけてさっそく購入し、それ以来ついつい読みふけってしまったからだ。

エンデと「時間」の関係については、「時間どろぼうと ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた不思議な女の子の物語」という長い副題をもった『モモ』を読んで以来、ミヒャエル・エンデと「時間」はわかちがたい連想としてアタマのなかにある。いまからもう30年くらい前の話だ。

エンデと「おカネ」の関係については、ほとんど考えてこなかったのは正直なところだ。番組も見てなかったし、この本の存在そのものも出版から10年間も知らなかったからだ。1997年のアジア金融危機とIMFショックは「対岸の火事」(?)として詳しくウォッチしていたが、その後1998年の日本の金融危機においては自分自身が実質的な「当事者」としてその渦中にいたので、エンデどころではなかったこともあるだろう。

ようやく気がついたのは先に書いたように、2008年のリーマンショックで再び金融問題に目覚めてからだ。

エンデが亡くなったのは1995年なので、2008年のリーマンショックも、1997年のアジア金融危機も知らずに逝ったわけだが、本書のタイトルにあるようにNHKのの教養番組のディレクターである著者たちが、プレ取材としてテープに録音したエンデの語りが文字通り日本人にむけて遺した『エンデの遺言』なったらしい。その予言的な内容には、2014年のいま読んでも驚くばかりだ。

著者の河邑厚徳氏が中心になって製作したNHKスペシャル『チベット死者の書-仏典に秘められた死と転生-』(1993年)は、番組も見たし単行本も読んでいる。

本書には『チベット死者の書』にかんする言及はなったくないが、わたしは『エンデの遺言』とは通底するものがあると感じている。




エンデの「遺言」-マネー本来の「交換機能」を取り戻せ!

ドイツ以外ではエンデの作品がもっとも読まれているのは日本だという。夫人がエンデの日本語訳者であったこともあり、エンデ自身も日本には特別の思い入れがあったらしい。

エンデは、「個人の価値観から世界像まで、経済活動と結びつかないものはない。問題の根源はおカネにある」と言う。こういうテーマ設定は文学者や哲学者ならではのものである。エンデの場合は詩人としての直観というべきだろうか。

マネーの本質についての探求は、経済学者やビジネス関係が考えるのを避けてきた「禁断のテーマ」である。マネーを所与の前提として、それ以上突っ込んで深く考えない方が、実務家としては精神衛生に良いとされているからだ。ある種の技術主義であり操作主義という処世術である。

エンデの思考は一言で要約すれば、貨幣のもつ「交換機能」を阻害しているのが、貨幣を「商品化」するという発想である。マネー支配からどうやって現代人を解放すべきかという思索である。

「金本位制」のもとにおいては金(ゴールド)という裏付けがあるので無制限に貨幣を発行することはできなかったが、1971年のニクソンショック以降、紙幣としての貨幣は発行主体の信用のみを裏付けにするものとなり、商品化されたカネはマネーゲームとして、それ自体が投機の対象となる。その行き着くところは、実体経済から完全に乖離(かいり)したマネー経済の暴走とクラッシュの連続である。

マネーの無限増殖の根源に「利子」の存在があることは、「複利計算」の意味を理解していればすぐにわかることだ。「利子」が「複利」となることで利払いが指数関数的に増大することは電卓をたたいてみればすぐにわかるはずだ。

「利子」が「時間」と密接な関係にあることは、わたし自身は大学学部の卒論で考察していたが、本書で取り上げられている「忘れられた経済思想家シルビオ・ゲゼル」の生涯と思想、そしてゲゼルの経済思想を実践した第一次大戦後のドイツ語圏欧州の事例を知り、あらためて本質論を考察することの必要性をつよく感じている。


■エンデに大きな影響を与えた「忘れられた経済思想家ゲゼル」

本書によれば、エンデはドイツの経済学者シルビオ・ゲゼル(Silvio Gesell)の「自由貨幣の理論」と、ドイツの思想家ルドルフ・シュタイナー(Rudolf Steiner)の「老化するおカネ」の2つの経済思想に大きな影響を受けているという。

エンデがシュタイナーの熱心な読者であったことはよく知られていることだが、ゲゼルという経済思想家については、いまのいままでまったく知らなかった。

本書によれば、なんとケインズが『一般理論』のなかで、「未来の人々はマルクスよりもゲゼルの精神から多くを学ぶだろう」と評しているという(注)。ゲゼルについて知ることができたのは、本書の最大の収穫である。

シルビオ・ゲゼル(1862~1930)とルドルフ・シュタイナー(1861~1925)は一歳違いの同時代人で、両者のあいだには交流もあったらしいことが本書で指摘されている。

両者に共通するのは、第一次大戦敗戦後のドイツ語圏において、社会変革の担い手として実践活動に関与したことだが、なによりも基本的な発想に共通性がある。世の中に存在する物質はすべて劣化する運命にあるということだろう。食べ物はもちろん、それ以外のモノはすべて。もちろんマネーも含めて!

モノが劣化するのにマネーが劣化しないわけないだろうという発想は、まさに逆転の発想である。言われなければなかなか気がつかない発想である。

時間の経過によって劣化しないから、多くの人が金(ゴールド)にあこがれるわけだが、マネーもまた劣化しないと思い込んでいるからマネーに執着する気持ちが生まれる。もしマネーが劣化し、価値が減少していくのであれば、退蔵しておく意味はないということにある。腐ってしまう前に使ってしまわなくてはならない気持ちになるというわけだ。


(経済思想家ゲゼルと「スタンプ貨幣」 『エンデの遺言』第3章の扉)


ゲゼルの「自由貨幣の理論」から、「時間の経過とともに価値を減少させていく貨幣」というアイデアが生まれたらしい。マネーは劣化するのだから、人為的に減価させる仕組みを導入しなくてはならないという発想である。

その具体的なアイデアの一つが「スタンプ貨幣」であった(上掲の写真)。1週間ごとに一定額のスタンプを貼らないと紙幣が使用できないという条件を設定した紙幣(あるいは証書)のことだ。

「スタンプ貨幣」を入手した人は、早く手放してしまわなければスタンプ代支払いの分だけ価値が減少してしまうから、持っているだけで損してしまう。そういう気持ちを抱くことになるから、マネーの退蔵が防止され、マネーの流通が増えることになる。全体でみればマネーの回転数が高まるので経済が活性化され、失業者も減少することになるという発想だ。

これは「マイナス金利」という発想である。「時間」という概念を前提にしている点は「利子」の発想と同じであるが、時間の経過ととにマイナスの利子が課せられるという発想は、マネー退蔵に対する保有税という形のペナルティーと考えることもできる。仕組みとしてはひじょうに面白い。

じっさいに1929年の大恐慌直後のオーストリアのある町で導入され、経済が活性化され失業者が劇的に減少したという。「シュヴァーネンキルヘンの奇跡」である。だが成功したがゆえに、通貨発行権を究極の国家主権と考える国家からは危険視され、最終的にはつぶされてしまう

本書のなかでもある経済学者が述べているが、もしこの成功した「実験」が欧州全体に拡大していれば、失業者救済を旗印に勢力を急拡大したヒトラーのナチス党が政権掌握することはできなかった可能性も否定できない。

もちろん後付けの「イフ」ではあるが、アルゼンチンに渡って実業家として成功し、景気変動の激しいなかで破産もせず生き残ったゲゼルのアルゼンチンにおける実体験が、なかなか当時の欧州では共有されなかったのは、じつに残念なことである。


「有限性」を織り込んだ「代替貨幣」

現代日本でもごくフツーに使用されているクーポン券やバウチャーもまた、囲い込みが目的であるとはいえ一定の時間を経過すると価値を失う性格をもっている。

発行主体が一企業や一商店で使用目的が限定されており、記名者が商品やサービスを購入する際にしか使用できず、しかも譲渡可能ではないので狭義のマネーではないが、実質的にはマネーのような働きをしている。使用期限が限定されているマイレージポイントなども、また同様と考えていいだろう。

これらは時間の経過とともに段階的に減価していくという仕組みではないのでゲゼルの発想とは異なるが、「有限性」を意識的にビルトインして設計されたものである。

マネーの「額面価値」そのものは時間が経過しても不変である。じっさいはインフレによって目減り(=減価)することがあるので、「額面価値」(=名目価値 ノミナル・バリュー)と実質価値(リアル・バリュー)はかならずし差異が生じるのが常識である。

だが、限りなくゼロ金利に近い低金利が定着しデフレ状態が続いている先進国においては、額面価値と実質価値にほとんど差異がない。この状態においては、カネをつかわずにキャッシュとして退蔵することに痛みが伴わない。預金してもプラスの利子はつかないし、タンス預金として退蔵し続けても目減り(=減価)しないからだ。だから消費税増税などよほどのことでもない限り、誰も急いでカネを使おうとしないのだ。

日本を筆頭に、欧州でも米国でも、人為的にインフレ状態を作り出すことを目的にジャブジャブになるまでに資金供給しているにもかかわらず、いっこうに消費が喚起されないのはそのためだ。先進国内部には「資本主義にとってのフロンティア」がもはや存在しないため、投資も消費も喚起されるjことがないのである。

こういう状態で消費を喚起し、経済を活性化する仕組みとして「地域通貨」に着目することも必要だろう。経済成長を志向しないでサステイナブルな経済を回していく仕組みとしての「地域通貨」。これもまたゲゼルの発想の延長線上にある。


ドイツ発の経済思想が米国に移植され、1970年代以降に再びよみがえる

「地域通貨」(LETS : Local Exchange Trading System)についてはアメリカの「イサカ・アワー」(Ithaca Hour)という事例が面白い。コーネル大学が立地する大学町、ニューヨーク州イサカの事例である。

1960年代のヒッピー思想の延長線上にあるオルタナティブな経済思想とその実践である。ライフスタイルと価値観の変化も背景にある。

本書が出版された2000年時点では成功事例として完全に定着しているようだが、導入が開始された1991年のニューヨーク州の経済状況が惨憺たるものであったことは、その当時おなじくニューヨーク州トロイに住んでいたわたしには実感できることだ。大恐慌ほどではないが、経済不況はなにか新たな取り組みを開始するチャンスではある。

「イサカアワー」は、ゲゼルの「減価する貨幣」という発想を「地域通貨」として実践している事例だが、アメリカでは問題とはなっていないようだ。グローバルマネーとしての米ドルに対して、補完通貨(complementary currency)としての位置づけが当局からも認定されているからである。

「地域通貨」が国家が発行する通貨にとってかわることはないが、小規模であれ、「補完通貨」として機能するのであれば、地域経済の活性化をつうじてコミュニティの健全でサステイナブルな発展を支えることができる。これはすばらしいことだ。

米国の通貨の歴史を振り返れば、むかしから地域自立型だったという本書の指摘は新鮮な印象を受けた。移民がつくった国である米国は、それぞれのバックグランドごとにコミュニティが形成され、独自の通貨が使用されていたらしい。現在でもかたくなに移民当時のライフスタイルを守り続けるアーミッシュなども存在するのが米国である。

大恐慌後の1930年代米国では「緊急通貨」も導入されている。ドイツで生まれ実験が行われた「減価する貨幣」というゲゼルの経済思想にもとづくものだ。ケインズもそうだが、大恐慌期アメリカを代表する経済学者アーヴィング・フィッシャーの名前がゲゼルがらみで本書に登場するのも興味深い。

ドイツ語圏と同様に米国における試みもまた、社会主義的なニューディール政策によって否定された。戦後の国際金融制度再構築においてはあらたな覇権国となった米国の主張が採用され、ゲゼル的な発想は地下に潜ってしまう。

だが、「地域通貨」という形でゲゼル的なものが復活しつつある。スイスのヴィーア銀行(WIR Bank)という「交換リング」も興味深い。中小企業を中心にした参加者間のクローズドな決済クリアリングシステムのことである。最近、社会面の話題にもなった「ビットコイン」という「仮想通貨」もまた「補完通貨」としての性格をもつ。

本書の最後で中世ヨーロッパにおける「デマレージ」(demmurage)が取り上げられている。「貨幣改鋳」という支配者の恣意によって領民が被る不利益を、価値の永続性があると考えられたプロジェクトに振り向けたケースである。領主の意図とは異なる結果となったわけだが、中世の大聖堂建築にあたって、資金がどうやって調達されたかを考えることは意味あることだ。

「時間の経過とともに価値を減少させていく貨幣」というゲゼルの思想の先駆的形態が、「資本主義以前」にすでに大規模に実践されていることを知ると、「資本主義終焉後の経済」の一つの解答があることに気がつくのではないだろうか。

わたしは本書を出版から14年後(!)にはじめて読んだのであるが、得るとことはきわめて多かった。いまでも遅いことはないので、ぜひ一読を薦めたいとつよく思う次第だ。




(注) ケインズは『雇用、利子、お金の一般理論』(John Maynard Keynes, The General Theory of Employment, Interest and Money, 1936)のなかで経済思想かのゲゼルについて以下のように触れている。

ネット上に公開されている山形浩生氏による全訳(2011年)から、該当箇所を引用させていただく。(*太字ゴチックは引用者=さとう)。じっくりと読んでみるといいだろう。

なお、原文の該当箇所は以下を参照。⇒ http://www.marxists.org/reference/subject/economics/keynes/general-theory/ch23.htm 山形氏の訳文は、わかりやすいがかなりクセがある簡約版なので、ケインズの原文と照合して見た方がよいだろう。

Section VI

36. ここで不当に無視されている奇妙な予言者シルビオ・ゲゼル (1862-1930) に触れておく。かれの研究には深い洞察があって、単にそれを十分掘り下げられていないだけだ。自分も古典派思想に毒されていたときにはこいつがイカレポンチだと思っていて、その価値に気がついたのは最近だ。

37. ゲゼルはドイツの商人で、その後アルゼンチンに行って、そこの経済問題を見て理論を構築した。その後スイスに引退し、著作と実験農業に専念した。

38. その後、かれの信奉者は変なカルトになってる。でも、理論的にもアーヴィング・フィッシャーに評価されている

39. 崇拝者には変な予言者扱いされてるけれど、ゲゼル自身の著作は冷静で科学的だ。ちょっと社会正義方面の議論に熱がこもりすぎてはいるけど。一種の反マルクス的社会主義理論で、マルクスとちがって古典派理論を受け入れず、競争も否定しなかった。いずれマルクスより影響が大きくなるだろう。

40. ゲゼルは、利率と資本の限界効率をはっきり区別していて、実質資本の成長を左右するのは利率だと指摘。また利率は純粋に金融的な現象だということ、お金が奇妙なのは、富の保有手段として保管コストがないことで、その他の保管コストを持つ財がリターンをもたらすのは、お金の設定する基準のせいだ、というのを主張。

41. でもゲゼルの理論には大きな欠点がある。財のストックを貸して収益が得られるのは金利水準があるからだというのをゲゼルは示した。でも金利がマイナスになれないと述べただけで、なぜ金利がプラスなのか、というのを説明せずにすませているし、金利がなぜ生産資本からの収益に左右されないかも説明していない。かれは流動性選好という概念を思いつかなかったからだ。

42. かれの理論が学問的に無視されたのはこの欠点のせいだ。でも、現実的な提案はできた。実質資本の成長が金利のせいで抑えられていて、金利による制約をなくせばもっと資本は成長する、とゲゼルは考えた。このためには、一時的にゼロ金利でもいいだろう。そこでかれが思いついたのは、フィッシャー教授も絶賛の有効期限印紙式のお金だ。紙幣は毎月新しく印紙(郵便局で販売)を貼らないと価値を保てないことにするわけだ。その印紙代は、年率 5.2 パーセントくらいが提案されているけれど、まあこれはやってみないとわからない。

43. この発想はしっかりしているし、小規模なら実現可能だ。でもゲゼルの考えなかった問題がある。流動性プレミアムを持っているのはお金だけじゃない。だから印紙でお金の流動性をなくせば、別のものが使われるだけだ。外貨とか宝石とか貴金属とか、時には土地だって。

・・(中略)・・

56. 低消費の話としては、最近ではダグラス少佐の理論があるが、これはまともなものじゃない。でもマンデヴィルやマルサス、ゲゼル、ホブソンは、不十分とはいえ真実を見ようとした。古典派理論は、明瞭だけれど、まちがったものを見ているだけだ。

画像をクリック!




目 次

プロローグ 『エンデの遺言』-その深い衝撃-(内橋克人)
第1章 エンデが考えてきたこと
 1. 遺された1本のテープ
  問題の根源は「お金」にある
  内世界から外世界を変革する
  自明のことを自明にしない
  父の絵がかけられたエンデ家の居間で
 2. エンデが日本人に遺した言葉
  人類はこの惑星上で今後も生存できるか
  いま金融システムを問い直すとき
 3. お金への思索は『モモ』から始まっていた
  エンデの生涯を貫いたテーマ
  熱烈な支持を受けた『モモ』
  『モモ』にお金への問題意識が込められていた
  オンケンの「経済学者のための『モモ』」
第2章 エンデの蔵書から見た思索のあと
 1. ハンス=クリストフ・ビンズヴァンガー-利子が利子を生むお金の錬金術
  お金の錬金術
  未来を食いつぶすお金の正体
  エンデの遺稿「ビンの中の悪魔」
 2. マルグリット・ケネディ-現在のお金のシステムがもたらしたもの
  建築家が書いたお金の本
  1枚の金貨の2000年後の利子
  安定したお金のシステムとは
  死と貧困を生み出す貨幣システム
 3. ルドルフ・シュタイナー-エンデに大きなヒントを与えたもう一つの経済観
  座右にあったシュタイナー全集
  社会全体を問い直すシュタイナー思想
  ゲゼルとシュタイナーの "エージング・マネー"
    友愛による経済とは
  利子を自分で決める銀行
第3章 忘れられた思想家シルビオ・ゲゼル-老化するお金の理論とその実践の歩み
 1. 新たなミレニアムを前にして
  ケインズの予言
  ゲゼルの生い立ち
  ドイツ系アルゼンチン人として
  直耕の日々
  レゾート・ジュネヴィーの農民
  資本主義でも共産主義でもなく
  バイエルンへ
  圧殺されたゲゼルの闘い
  戦後のドイツで
  サンジェルマン伯爵の棺のごとく
 2. なぜお金は減価しなければならないか
  ロビンソン物語
  自由貨幣-減価するお金の仕組み
 3. よみがえる補完通貨の経済史
  FFF運動
  運動の発展
  補完通貨の実践
  シュヴァーネンキルヘンの奇跡
  ヴェルグルの実験
  地下世界へ、そして復活
第4章 貨幣の未来が始まった
 1. 米国の地域通貨イサカアワー(Ithaca Hour)
  イサカアワーの誕生
  イサカアワーを生み出した男
  おもちゃのお金
  イサカアワーの仕組み
  イサカの資源はイサカに
  コミュニティを地域通貨で構築する
  アメリカドルとの関係
  銀行とイサカアワー
  ライフスタイルと価値観の変化
  米国の通貨の歴史-昔から地域自立型だった
  1930年代米国の緊急通貨
  未来学者にお金の未来を聞く
  米国における地域通貨の広がり
  労働貨幣
  LETS(Local Exchange Trading System:地域通貨)の誕生
 2. ヨーロッパに広がる交換リング
  旧東ドイツで市民が失ったもの
  お金なき交換リングのシステム
  交換機能に特化した交換リングの単位
  交換リングの強み
  マイナスが結ぶ共同体意識
  デーマークの創設
  失業者の救済も
  リ・ヴィア2000の挑戦
 3. 銀行の国スイスで生まれたヴィア銀行(WIR Bank)
  シルビオ・ゲゼルから始まって60年
  ゲゼルの自由貨幣からの脱皮
  高度成長期の飛躍と試練の季節
  2つのマネーの平和共存
  ヴィアの「正しい使い方」
第5章 お金の常識を疑う
 お金-見えて見えないもの
 物々交換の不都合とお金の特権
 問題はお金の循環の停滞
 生活や実体経済に打撃を与えるお金
 金融システムの手品
 プラス利子のお金の仕組みがすべてではない
エピローグ 日本でも「お金」を問い直す気運高まる
 幻に終わった東京会議
 チロル山荘での小さな会議
 お金は新しい関係をつくりだす道具である
 芽吹きはじめた日本での地域通貨への動き
おわりに (河邑厚徳)


著者プロフィール

河邑厚徳(かわむら・あつのり)
1948年生まれ。映像ジャーナリスト。女子美術大学教授。71年、東京大学法学部卒業後、NHK入局。主に文化教養番組で芸術、歴史、宗教関係のドキュメンタリー担当。数々のドキュメンタリー番組を手がけ、内外の受賞多数。映画の脚本監督、プロデューサーを務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

ビデオ「エンデの遺言―根源からお金を問うこと」シナリオ要約

ゲゼル研究会

26億円を調達したビットコイン企業米サークルが目指す仮想通貨の「日常ツール化」 (日経ビジネスオンライン、2014年4月21日)
・・「1994年ごろにウェブが誕生して20年が経過したが、商取引のうちネット化されたのはまだ5%に過ぎない。同じように、ビットコイン普及には時間がかかる」  ⇒  現実的な見解に納得。「仮想通貨」も「地域通貨」と同様に基本的に「補完通貨」と捉えるべきである


<ブログ内関連記事>

「戦後ドイツ」とドイツ語圏におけるオルタナティブな思想

「生命と食」という切り口から、ルドルフ・シュタイナーについて考えてみる
・・ミヒャエル・エンデはシュタイナー思想の熱心な信奉者

ミヒャエル・エンデの『モモ』-現代人はキリスト教的な時間から逃れることができない!?

『ミヒャエル・エンデが教えてくれたこと-時間・お金・ファンタジー-』(池内 紀・子安美知子・小林エリカ、新潮社、2013)は、いったん手に取るとついつい読みふけってしまうエンデ入門

書評 『海賊党の思想-フリーダウンロードと液体民主主義-』(浜本隆志、白水社、2013)-なぜドイツで海賊党なのか?

「小国」スイスは「小国」日本のモデルとなりうるか?-スイスについて考えるために ・・「直接民主制」をとるスイス


時間と利子、マネー増殖の関係

書評 『緑の資本論』(中沢新一、ちくま学芸文庫、2009)-イスラーム経済思想の宗教的バックグラウンドに見いだした『緑の資本論』
・・一神教(ユダヤ教・キリスト教・イスラーム)の経済思想。無限増殖するカネを生み出す思考の根本がキリスト教にあること、商業志向のつよいイスラームがその対抗原理として存在すること
・・「時間は私有できない」、「カネはカネを生まない」というアリストテレスの思想トマス・アクィナスを経て、中世スコラ哲学では「時間は普遍的な存在なのでわたくししてはならない」とされていた。それを最終的に打ち壊したのはジャン・カルヴァンであることは、わたしは大学学部の卒論に書いている。そのことをブログ記事に書いておいた。日本人としては福田徳三や上田辰之助といった経済思想家の名前を想起してほしいところである

書評 『マネーの公理-スイスの銀行家に学ぶ儲けのルール-』(マックス・ギュンター、マックス・ギュンター、林 康史=監訳、石川由美子訳、日経BP社、2005)


通貨発行と国家主権、地域通貨(ローカル・カレンシー)

書評 『持たざる国への道-あの戦争と大日本帝国の破綻-』(松元 崇、中公文庫、2013)-誤算による日米開戦と国家破綻、そして明治維新以来の近代日本の連続性について「財政史」の観点から考察した好著

書評 『やっぱりドルは強い』(中北 徹、朝日新書、2013)-「アメリカの衰退」という俗論にまどわされないために、「決済通貨」「媒介通貨」「基軸通貨」「覇権通貨」としての米ドルに注目すべし

書評 『ユーロ破綻-そしてドイツだけが残った-』(竹森俊平、日経プレミアシリーズ、2012)-ユーロ存続か崩壊か? すべてはドイツにかかっている
・・皮肉なことに(?)、2014年現在、ドイツは欧州最強の経済となっている

書評 『国家債務危機-ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2011)-公的債務問題による欧州金融危機は対岸の火事ではない!

『ピコラエヴィッチ紙幣-日本人が発行したルーブル札の謎-』(熊谷敬太郎、ダイヤモンド社、2009)-ロシア革命後の「シベリア出兵」において発生した「尼港事件」に題材をとった経済小説
・・私企業である日本の中小商社が発行したシベリアで発行した通貨ピコラエヴィッチ。このローカル・カレンシー(=地域通貨)は、競争力をもった実質的な通貨であった


マネー暴走と資本主義の終焉への道

書評 『マネー資本主義-暴走から崩壊への真相-』(NHKスペシャル取材班、新潮文庫、2012 単行本初版 2009)-金融危機後に存在した「内省的な雰囲気」を伝える貴重なドキュメントの活字版

書評 『世紀の空売り-世界経済の破綻に賭けた男たち-』(マイケル・ルイス、東江一紀訳、文芸春秋社)-アメリカ金融業界の周辺部からリーマンショックに迫る人間ドラマ

CAPITALISM: A LOVE STORY ・・映画 『キャピタリズム マネーは踊る』

『資本主義崩壊の首謀者たち』(広瀬 隆、集英社新書、2009)という本の活用法について

「宗教と経済の関係」についての入門書でもある 『金融恐慌とユダヤ・キリスト教』(島田裕巳、文春新書、2009) を読む

書評 『終わりなき危機-君はグローバリゼーションの真実を見たか-』(水野和夫、日本経済新聞出版社、2011)-西欧主導の近代資本主義500年の歴史は終わり、「長い21世紀」を生き抜かねばならない

書評 『世界史の中の資本主義-エネルギー、食料、国家はどうなるか-』(水野和夫+川島博之=編著、東洋経済新報社、2013)-「常識」を疑い、異端とされている著者たちの発言に耳を傾けることが重要だ

書評 『超マクロ展望-世界経済の真実』(水野和夫・萱野稔人、集英社新書、2010)-「近代資本主義」という既存の枠組みのなかで設計された金融経済政策はもはや思ったようには機能しない

書評 『21世紀の歴史-未来の人類から見た世界-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2008)-12世紀からはじまった資本主義の歴史は終わるのか? 歴史を踏まえ未来から洞察する


資本主義のオルタナティブ

マイケル・ムーアの最新作 『キャピタリズム』をみて、資本主義に対するカトリック教会の態度について考える
・・「近代以前」のメインストリームであったカトリックの思想

書評 『フリー-<無料>からお金を生み出す新戦略-』(クリス・アンダーソン、小林弘人=監修・解説、高橋則明訳、日本放送出版協会、2009)
・・「フリー経済」とは「贈与経済」の一種である。「シェア」とともに広がりつつある


『Sufficiency Economy: A New Philosophy in the Global World』(足を知る経済)は資本主義のオルタナティブか?-資本主義のオルタナティブ (2) ・・「足るを知る経済」はタイのプーミポン国王ラーマ9世が主唱する仏教をベースにした経済思想

資本主義のオルタナティブ (3) -『完全なる証明-100万ドルを拒否した天才数学者-』(マーシャ・ガッセン、青木 薫訳、文藝春秋、2009) の主人公であるユダヤ系ロシア人数学者ペレリマン
・・「知識」と「知的探求」を資本主義のために使わないというきわめてつよい意志


(2025年1月24日発売の拙著です 画像をクリック!

(2023年11月25日発売の拙著です 画像をクリック!

(2022年12月23日発売の拙著です 画像をクリック!

(2022年6月24日発売の拙著です 画像をクリック!

(2021年11月19日発売の拙著です 画像をクリック!

(2021年10月22日発売の拙著です 画像をクリック!

 (2020年12月18日発売の拙著です 画像をクリック!

(2020年5月28日発売の拙著です 画像をクリック!

(2019年4月27日発売の拙著です 画像をクリック!

(2017年5月19日発売の拙著です 画像をクリック!

(2012年7月3日発売の拙著です 画像をクリック!


 



ケン・マネジメントのウェブサイトは

ご意見・ご感想・ご質問は  ken@kensatoken.com   にどうぞ。
お手数ですが、クリック&ペーストでお願いします。

禁無断転載!








end

2014年3月31日月曜日

書評『やっぱりドルは強い』(中北 徹、朝日新書、2013)ー「アメリカの衰退」という俗論にまどわされないために、「決済通貨」「媒介通貨」「基軸通貨」「覇権通貨」としての米ドルに注目すべし


「アメリカの衰退」が語られるようになってからどれだけたつのだろうか。おそらくその始まりは2001年の「9-11」からだろう。同時多発テロ事件である。

1941年の日本海軍による真珠湾攻撃はあくまでも太平洋上の離島であり、アメリカ本土が直接攻撃されたわけではなかった。その衝撃はアメリカ人のみならず、全世界に与えたのであった。

「9-11」を境に猛烈な反撃が開始されたわけだが、しかしその結果イラクやアフガニスタンで戦費の浪費と人命の損傷は著しく、その他地域、とくに東アジアにおける米軍のプレゼンスが低下し、ときを同じくして中国が急激に増大してきたことなど、軍事面に顕著に見られる「衰退」である。

さらに2008年のリーマンショックで中産階層(ミドルクラス)の崩壊がさらに加速し、アメリカ人の「内向き」志向もまた加速している。外交よりも内政、というわけである。この状況を反映してかオバマ大統領のもとにおいては国際的な軍事介入はめっきり減少してしまった。

だが、ほんとうにアメリカは「衰退」しているのだろうか? この「常識」は疑ってかかったほうがいいのではないだろうか。

こういった「疑問」に、「決済システム」という地味だが、きわめて大きな存在である「見えざるシステム」に着目したのが本書である。


「決済通貨」「媒介通貨」「基軸通貨」「覇権通貨」としての米ドル

本書で説明されていることは、帯に書かれているキャッチコピーに尽きる。

基軸通貨が強い本当の理由とは?すべての通貨はドルなしには取引できない。
金正日のマネーロンダリング失敗 
ドルに抑えこまれた戦前の日本
人民元⇒ドル⇒円のからくり
今後の通貨制度はどうなる
ドルの流れを理解すれば、すべての原因が明らかになる!

そう、米ドル(US Dollar)が国際貿易の決済制度においてもつ「基軸通貨」としての意味を知れば、米ドルが「覇権通貨」であることの意味もわかるはずだ。これがわかれば「覇権国」の意味も理解できるだろう。

「決済通貨」としての米ドルを「基軸通貨」としてもつ米国の最終兵器が「金融制裁」である。「軍事力」を行使しなくても「金融制裁」が大きな効果をもつ。

それは、アメリカが直接からんでいない第三国間の通貨取引も、必ず米ドルを媒介して行われているからだ。それが経済的合理性にかなっているからだ。これが「媒介通貨」としての機能であり、使用されればされるほどネットワーク効果が働いて、それ以外の選択肢がなくなっていく。だから、依然として圧倒的に米ドルが「決済通貨」として使用されているのである。


(「第2章 基軸通貨の本質」(P.59)より)

たとえ、アメリカ経済が「衰退」しているとしても、米ドルがもつ「基軸通貨」としての位置づけは別個の話なのである。

戦前の日本がアメリカの虎の尾を踏んで「金融制裁」によって経済的に窒息し、米ドルを媒介としない「円元パー」という円通貨圏をつくったものの運営に失敗し国民経済が窮乏化したこと。

北朝鮮がマカオにもつ中小銀行の口座をアメリカ政府によって凍結され、「金融制裁」によって締め上げられたこと、これらはみな「媒介通貨」としての米ドルという通貨をもつアメリカのパワーの源泉でもある。

前者の日本は 1930年代の話であるが、後者の北朝鮮の話は 2005年から2007年の話であり、つい最近のことなのだ。前者のケースにおいては最終的に全面戦争になったが、後者のケースにおいてはその気配すらない。北朝鮮による威勢のいい挑発的な言動は、実際面とはイコールではないのである。

アメリカがもつ「金融パワー」は、軍事力に頼らない圧倒的なパワーとして行使されているのだ。本書を読めば、「アメリカ衰退」という俗論にまどわされることもなくなるはずだ。

国際貿易や金融実務にかかわっている人であれば「常識」だと思うのだが、「はじめに」によれば高名な経済学者でも知らない人がいるらしい。ビジネス実務の世界と経済学研究者の世界との乖離(かいり)が顕著にあらわれた分野なのだろう。

本書は、これ以上ないほど懇切丁寧にわかりやすく解説してくれる良書である。ややくどいのが難点だがレクチャーと割り切るべきだろう。著者の説明に従って読み進めれば、国際経済の基本について理解も深まるはずだ。





目 次

はじめに
第1章 世界を震え上がらせるドルの威力
 1. すべての国際取引はドルが媒介する
 2. 北朝鮮・金正日総書記を苦しめた金融制裁
 3. 真珠湾攻撃も金融制裁が引き金だった
 [年表] 北朝鮮のマネーロンダリング問題にまつわる外航交渉
第2章 基軸通貨の本質
 1. クロスボーダー決済の仕組み
 2. 媒介通貨としての米ドルの役割
第3章 米国の「金融権力」の内実
 1. 決済と取引情報の関係
 2. スイスで進行中の「スケープゴート」劇
 3. 国際決済の仕組みとその問題点
 4. 決済リスクと中央銀行の役割)
第4章 基軸通貨国の特性
 1. アメリカの経常収支赤字とファイナンス
 2. IMFの「二枚舌」政策
 3. 基軸通貨国が持つ特権
 4. アメリカでは通貨危機は起きない)
第5章 基軸通貨制度の現状と将来
 1. 米ドルはいかに強いか
 2. ドルに対抗できる通貨はない
 3. 基軸通貨国の経営収支赤字は、本当に問題なのだろうか?
おわりに

著者プロフィール

中北 徹(なかきた・とおる)
1951年生まれ。経済学者。一橋大学経済学部卒業後、外務省に入省。ケンブリッジ大学経済学大学院修了後、東洋大学経済学部教授。専門は国際経済学、金融論。日本銀行アドバイザー、官邸の諮問機関であるアジア・ゲートウェイ戦略会議で座長代理を務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

北朝鮮制裁・デルタ銀行問題の謎 (田中 宇、2007年7月3日)

ビットコイン、最大の“ライバル”の実像「リップル」は仮想通貨の本命か (日経ビジネスオンライン、2014年4月22日)
・・グローバル化して世界中を自由に動くマネーというイメージが一般人のみならず経済人にもあるようだが、実際はマネーにも「国境」があることをうまく説明してくれているので引用しておこう。これが「現実」なのだ。

現在の決済プロトコルが「国ごとに異なっている」というのはどういう意味か。

ロング氏: 現在の国際間決済の業界構造を見ると、そこには(ACH=自動決済センターや国際的な送金情報網である「スイフト」、銀行、決済代行業者など)複数の異なるプレーヤーが関わり、多層構造ができあがっている。しかも、インフラに相当するクリアリング(清算)やセトルメント(決済)といった機能がグローバルレベルで統一されておらず、決済システムは事実上、国や地域ごとにクローズドになっている。

ウクライナ危機で反ドル政策を加速させたいロシア-あらかじめ準備されていた制裁対抗措置に見えるプーチン大統領のしたたかな狙い(JBPress、2014年5月20日)
・・「その後、4月末の制裁の拡大局面では、クレジットカードのビザとマスターカードが制裁対象のSMPバンクなど2行が発行するカードの決済を止める措置も含まれた。 ロシアの一介の商業銀行が国際的な資金決済ができないというのはにわかに信じがたいが、実は米国にはそれを可能にする金融権力を持っている。今回のウクライナに関する一連の騒動で、米国の弱体化が強調されるものの、特に国際金融の世界における米国の地位はいまだに堅牢なのだ。 具体的に言うと、現金を除くすべてのドル決済はニューヨーク連邦銀行が管理人となって在ニューヨークの銀行間で決済される仕組みとなっている」


国際緊急経済権限法(IEEPA)
・・「国際緊急経済権限法(若しくは、国際非常時経済権限法 International Emergency Economic Powers Act 略称 IEEPA)は、1977年10月28日より施行されたアメリカ合衆国の法律。合衆国法典第50編第35章§§1701-1707により規定されている。安全保障・外交政策・経済に対する異例かつ重大な脅威に対し、非常事態宣言後、金融制裁にて、その脅威に対処する。具体的には、攻撃を企む外国の組織もしくは外国人の資産没収(米国の司法権の対象となる資産)、外国為替取引・通貨及び有価証券の輸出入の規制・禁止などである」(wikipedia日本語版)。

・・ギリシアの経済学者で政治家のヤニス・ヴァルファキスは、中ロの政治指導者も資産はドルで保有しており、中国人民元が米ドルに取って代わろうとなどと考えるはずがないと指摘している。

(2023年10月4日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

書評 『持たざる国への道-あの戦争と大日本帝国の破綻-』(松元 崇、中公文庫、2013)-誤算による日米開戦と国家破綻、そして明治維新以来の近代日本の連続性について「財政史」の観点から考察した好著
・・戦前の日本がアメリカの虎の尾を踏んでアメリカの「金融制裁」によって経済的に窒息し、米ドルを媒介としない「円元パー」という円通貨圏をつくったものの運営に失敗し国民経済が窮乏化したこと、そしてこの延長線上に大東亜戦争開戦があったこと

書評 『朝鮮半島201Z年』(鈴置高史、日本経済新聞出版社、2010)-朝鮮半島問題とはつまるところ中国問題なのである!この近未来シミュレーション小説はファクトベースの「思考実験」

書評 『超・格差社会アメリカの真実』(小林由美、文春文庫、2009)-アメリカの本質を知りたいという人には、私はこの一冊をイチオシとして推薦したい ・・アメリカをビジネス、経済、金融からみる

書評 『100年予測-世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、早川書房、2009)-地政学で考える ・・地政学で考えれば当分のあいだ米国の優位は揺るがないだろう

書評 『イギリス近代史講義』(川北 稔、講談社現代新書、2010)-「世界システム論」と「生活史」を融合した、日本人のための大英帝国「興亡史」
・・「覇権通貨」は英国のポンドから米ドルにシフトしたが、英米アングロサクソンが国際金融の中心にあること自体に変化はない

書評 『ユーロ破綻-そしてドイツだけが残った-』(竹森俊平、日経プレミアシリーズ、2012)-ユーロ存続か崩壊か? すべてはドイツにかかっている ・・ユーロの迷走により、いまだ米ドルの「覇権通貨」としてのパワーが脅かされるには至っていないのが国際経済の現状

書評 『中国台頭の終焉』(津上俊哉、日経プレミアムシリーズ、2013)-中国における企業経営のリアリティを熟知しているエコノミストによるきわめてまっとうな論
・・この状態では中国の人民元が「覇権通貨」として米ドルに取って代わる日が来るとは考えにくい

『ピコラエヴィッチ紙幣-日本人が発行したルーブル札の謎-』(熊谷敬太郎、ダイヤモンド社、2009)-ロシア革命後の「シベリア出兵」において発生した「尼港事件」に題材をとった経済小説
・・私企業である日本の中小商社が発行した通貨ピコラエヴィッチ。通貨発行の本質もそのテーマの一つである経済小説

『エンデの遺言-「根源」からお金を問うこと-』(河邑厚徳+グループ現代、NHK出版、2000)で、忘れられた経済思想家ゲゼルの思想と実践を知る-資本主義のオルタナティブ(4)
・・「補完通貨」というオルタナティブなマネーである「地域通貨」の仕組みとその背後にある思想を知る

書評 『国際メディア情報戦』(高木 徹、講談社現代新書、2014)-「現代の総力戦」は「情報発信力」で自らの倫理的優位性を世界に納得させることにある ・・「国際メガメディア」という英米系の英語メディアが牛耳るグローバル世界

(2014年4月22日 情報追加)


(2023年11月25日発売の拙著です 画像をクリック!

(2022年12月23日発売の拙著です 画像をクリック!

(2022年6月24日発売の拙著です 画像をクリック!

(2021年11月19日発売の拙著です 画像をクリック!

(2021年10月22日発売の拙著です 画像をクリック!

 (2020年12月18日発売の拙著です 画像をクリック!

(2020年5月28日発売の拙著です 画像をクリック!

(2019年4月27日発売の拙著です 画像をクリック!

(2017年5月19日発売の拙著です 画像をクリック!

(2012年7月3日発売の拙著です 画像をクリック!


 



ケン・マネジメントのウェブサイトは

ご意見・ご感想・ご質問は  ken@kensatoken.com   にどうぞ。
お手数ですが、クリック&ペーストでお願いします。

禁無断転載!








end

2011年12月30日金曜日

『ピコラエヴィッチ紙幣 ー 日本人が発行したルーブル札の謎-』(熊谷敬太郎、ダイヤモンド社、2009)ー ロシア革命後の「シベリア出兵」において発生した「尼港事件」に題材をとった経済小説


ロシア革命後のシベリアで起こった「尼港事件」を題材に描いた経済フィクション

「尼港事件」といっても、おそらく日本人に大半にはピンとこないだろう。

尼港と書いて「にこう」と読むが、正確にいうとニコラエフスク・ナ・アムーレとなる。ロシア語で、アムール川沿岸のニコラエフスクという意味となる地名のことだ。

「尼港事件」とは、ニコラエスク・ナ・アムーレで日本人居留民と日本守備隊が全滅した事件のことだ。1919年(大正8年)年5月、ロシア革命の干渉戦争である「シベリア出兵」さなかに発生した悲劇のことである。

「シベリア出兵」は、日本近代史において「忘れられた戦争」となってしまっているのは、米国にとってのベトナム戦争やソ連にとってのアフガン戦争のように、得るもののない無益な戦争であったため、意図的に忘却された側面が強いためであろう。

「ロシア革命」は 1917年、第一次世界大戦のさなかであった。

日露戦争でロシア帝国を破った日本であったが、日露戦争後はロシアとは協調の方向で外交政策を進めていた。共産主義革命であったロシア革命に対しては、日本だけでなく米国もふくめた列強が干渉戦争を行うことになる。

そのなかでも地理的に近い日本が、ずば抜けて多い兵力を投入した干渉戦争に乗り出した。これを「シベリア出兵」という。


ピコラエヴィッチとは、ニコラエフスクで成功した起業家が発行した実質的な通貨

アムール川河口に立地するニコラエフスクに日本人が住み着くようになったのは、この小説にもあるように島田元二郎という起業家がそこにビジネスチャンスを見いだし、成功したからである。

そこが、鮭(サケ)と鱒(マス)漁で賑わっただけでなく、砂金などの鉱物資源も採集された集散地であったからだ。

ロシア革命の混乱のなか、ニコラエフスクで流通していたのはロシア政府の発行するルーブル札ではなく、島田元二郎の島田商会が発行していた通称ピコラエヴィッチという紙幣であった。

より正確にいうと、紙幣というよりも、商品との交換を前提にした商品券や小切手のようなものだったが、信用力のある実質的な通貨として流通し、地域経済を支えていたのであった。

ある意味では、このローカル・カレンシー(=地域通貨)は、競争力をもった実質的な通貨であったというわけだ。

通貨発行は究極の国家主権といわれるように、通貨発行の主体は、その通貨が支配的に流通する経済を牛耳ることができる。牛耳るつもりはなくても、自らのビジネスを好循環させるための有効なツールであったことはいうまでもないだろう。

中国共産党が最終的に制圧して人民元を流通させるのに成功するまで、中国大陸では日本の軍票も含めて、各種の通貨が入り乱れていたことは比較的よく知られていることだが、ロシア革命で混乱するシベリアでもそうだったことが、この小説で知ることができるのである。

通貨を制するものが、経済も政治も制することになるのである。これは歴史的な事実である。


極東ロシアのニコラエフスク・ナ・アムーレ(尼港)は、冬期には港が完全に凍結して封鎖都市になってしまう・・・


そもそもが、「忘れられた戦争」であり、ほぼ完全に忘却されている「尼港事件」だが、小説という形で取り上げた著者には敬意を表したいと思う。

「♫ 流れ流れて 落ち行く先は 北はシベリア、南はジャワよ~」というのは、「流浪の歌」という忘れられた流行歌の一節だが、大正時代までは南方のオランダ領東インド(・・現在のインドネシア)だけではなく、シベリアにも多くの民間人がチャンスを求めて渡っていたのである。

ニコラエスク・ナ・アムーレにも、長崎や天草の女性が多く渡航していたという。南方のボルネオについては、『サンダカン八番館』で有名になったが、シベリアにもまた「からゆきさん」たちが多くいたことは、『石光真清の手記』にも活写されている。

いまから考えると、なんでこんな北のはてまで日本人が仕事をももとめて渡航していたのかという気持ちにさせられるが、当時の日本人のたくましさだけでなく、当時の日本の救いようのない貧しさが根底にあったことは疑いえない。

わたしは、いまから12~3年前に仕事で極東ロシアにいったことがあるが、さすがにニコラエフスク・ナ・アムーレまではいっていない。

ハバロフスクとニコラエフスクのほぼ中間にあるコムソモリスク・ナ・アムーレまではいったことがあるが、それはコムソモリスクがソ連時代以来の工業都市だからである。ニコラエフスクは「尼港事件」で壊滅したあと衰退したままだという。

極東ロシアのニコラエスク・ナ・アムーレは冬期には港が完全に凍結するのである。だからこそ、ロシアは「不凍港」をもとめて、ウラジオストックを開港したのである。

ニコラエフスクはウラジオストックからさらに北方にある。緯度からいえば北樺太の先端に近い(・・上掲の地図を参照 本書に収録されているもの)。

「尼港事件」は、この冬期に凍結している時期に起こった惨劇なのである。日本人居留民と陸軍を中心とした守備隊の約700人がほぼ全滅しただけでなく、ロシア人や中国人、朝鮮人をふくめた住民 6,000人強が、4,000人近いパルチザン部隊(=遊撃隊=赤軍過激派)によって虐殺されているのだ。

下図は、『尼港事件の背景を探る』(佐藤誠治、文芸社、2011)に掲載されていたものだが、きわめて守備しにくい地形であることがわかる。周囲を包囲されて、日本守備隊は 10倍近い兵力の敵にはまったくかなわなかったということになる。

島田商会は、市街地の中心部の、アムール川に近い場所にある。


じつは、わたしがこの事件のことを知っているのは、祖父が「尼港事件」後に、徴兵されて「シベリア出兵」に参加し、通信兵としてパルチザン掃討戦に参加しているからだ。

「シベリア出兵」や「尼港事件」という固有名詞は祖父のクチから聞いたことはないが、遺品の「軍隊手牒」には「パルチザン掃討戦に参加」と記されている(・・いま手元にないので正確な記述ではない)。(追記:その後、調べたところ、祖父がいたのはウラジオストック周辺で、尼港にはいってなかった 2012年1月5日記す)。

人を撃つのがいやだから通信兵を志願して軍隊内でロシア語を猛勉強したという祖父のことだから、ニコラエスクのことは、あまり思い出したくなかったのかもしれない。

パルチザンとは共産ゲリラのことだが、じっさいには烏合の衆で、虐殺と略奪をほしいままにしたようだ。日本敗戦時の満洲でのソ連兵と同じ振る舞いが、すでに「尼港事件」で見られたということだろう。

島国に生まれて生きている人間には想像を絶することであるが、ユーラシア大陸の東側では有史以来なんども繰り返し行われてきたことだ

だが、その地にビジネスチャンスを見いだし、30年かけて大成功を実現した起業家も、国際情勢や歴史観にはうとかったがゆえの悲劇というべきだろうか。

////////////////////////////////////////////////////////////////////////

本書は、ほぼ全体にわたってフィクションではあるが、「忘れれられた戦争」である「シベリア出兵」に題材をとった希有な経済小説として、読んでみることを勧めたい。

フィクション以外は、じつによく綿密に調べて書かれているので、リアリティが高い出来になっている。





著者プロフィール

熊谷敬太郎(くまがい・けいたろう)   1946年(昭和21)4月生まれ。東京都出身。昭和46年学習院大学経済学部卒。同年、大広(広告代理店)入社。昭和51年ジェーピーシーを設立(雑貨の製造輸入)し、代表取締役に。川越市在住。本書が初の著作(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>


尼港事件 (wikipedia の「シベリア出兵」の項より)
1920年(大正9年)3月から5月にかけて、ロシアのトリャピーチン率い、ロシア人、朝鮮人、中国人4000名から成る、共産パルチザン(遊撃隊)が黒竜江(アムール川)の河口にあるニコライエフスク港(尼港、現在のニコラエフスク・ナ・アムーレ)の日本陸軍守備隊(第14師団歩兵第2連隊第3大隊)および日本人居留民約700名、日本人以外の現地市民6000人を虐殺した上、町を焼き払った。この事件を契機として、日本軍はシベリア出兵後も1925年に日ソが国交を結ぶまで石油産地の北樺太(サガレン州)を保障占領した。

「シベリア出兵」については、『平和の失速-大正時代とシベリア出兵-(全8巻) 』(児島襄、文春文庫、1995 単行本初版  1994)が読み物としてはひじょうに面白かったが、この本も重版未定である。「シベリア出兵は、よほど現在の日本人の関心が低いのであろうか。残念なことだ。




(追記)

『シベリア出兵-近代日本の忘れられた七年戦争-』(麻田雅文、中公新書、2016) という本が2016年9月に出版された。「シベリア出兵」は第一次世界大戦の最中に起きた「ロシア革命」に対する干渉戦争。来年2017年は100年目となる。一冊の新書本でテーマがまるごと取り上げられたのは今回が初めてである。まさに「忘れられた七年戦争」である。「シベリア出兵」が一般読者の常識となるよいキッカケになると思う。たいへん喜ばしい。 (2016年10月7日 記す)





<ブログ内関連記事>

バレンタイン・デーに本の贈り物 『大正十五年のバレンタイン-日本でチョコレートをつくった V.F.モロゾフ物語-』(川又一英、PHP、1984)
・・亡命ロシア人のモロゾフ一家が「無国籍」状態であたため辛苦の人生を送ることになる

映画 「百合子、ダスヴィダーニヤ」(ユーロスペース)をみてきた-ロシア文学者・湯浅芳子という生き方 ・・ソ連誕生後の大正時代の知識人の生態

「石光真清の手記 四部作」 こそ日本人が読むべき必読書だ-「坂の上の雲」についての所感 (4)


(2023年11月25日発売の拙著です 画像をクリック!

(2022年12月23日発売の拙著です 画像をクリック!

(2022年6月24日発売の拙著です 画像をクリック!

(2021年11月19日発売の拙著です 画像をクリック!

(2021年10月22日発売の拙著です 画像をクリック!

 (2020年12月18日発売の拙著です 画像をクリック!

(2020年5月28日発売の拙著です 画像をクリック!

(2019年4月27日発売の拙著です 画像をクリック!

(2017年5月19日発売の拙著です 画像をクリック!

(2012年7月3日発売の拙著です 画像をクリック!


 



ケン・マネジメントのウェブサイトは

ご意見・ご感想・ご質問は  ken@kensatoken.com   にどうぞ。
お手数ですが、クリック&ペーストでお願いします。

禁無断転載!








end

2010年8月23日月曜日

書評『中古家電からニッポンが見える Vietnam…China…Afganistan…Nigeria…Bolivia…』(小林 茂、亜紀書房、2010)― 中古家電からみえるのは発展途上国の現状だけでなく、日本の製造業の未来でもある




中古家電からみえるのは発展途上国の現状だけでなく、日本の製造業の未来でもある

 日本製中古家電を海外に売る商売を長年続けてきた著者が、日本人の一般常識とはまったく異なる現地のホンネを紹介している本。著者は現在23カ国で海外展開しているという。

 なぜ発展途上国ではメイド・イン・ジャパンの家電製品が売れるのか。

 限られた予算のなかから、いいモノを求めて、真剣に選択しているのが、発展途上国の住人たちである。 

 けっして日本ブランドのイメージで買っているわけではないのだ。また同じ企業ブランドでも製品によって評価がかなり異なるらしい。きわめて厳しい目で製品を見ているのである。

 製品を選ぶ基準は、1.長持ち 2.修理しやすい 3.グレードが高い の3点だそうだ。この3点を満たしているのが現在にいたるまで日本製品である、ということが事の真相のようだ。

 発展途上国では、自国の現地通貨の信用が低いので、モノに替えて所有しながら使用もするという生活防衛の側面もある。インフレ対策のためにもつのはゴールド(金)だけではない。

 いざとなったら売って換金することも想定しているので、現地の中古市場での転売価格の低い安物では困るわけだ。品質が高くて資産価値があるものを、なけなしのカネを使って買っているわけだ。

 この指摘には目が開かれた思いをした。

 そして面白いのが、たとえ暑い地域に集中している発展途上国といえども、エアコンよりもまず娯楽機器エアコンよりもまず先に、ラジカセやテレビ、ステレオなどの娯楽用の家電を欲しがるということだ。

 私も発展途上国はいろいろ歩き回ったが、たしかに著者が商売をつうじて得た結論から振り返ってみれば、まさにそのとおりだと納得させられる。

 著者もいうように、この日本でもエアコンが普及したのは最後の最後だったのだ。かつて日本で「三種の神器」と呼ばれた家電製品は、テレビを筆頭に洗濯機、冷蔵庫であった。

 人間の本性というものを考えさせらる。

 著者は、「海外の中古市場で支持を得るのは、高くても品質がいいモノです。日本製品は、そういう開発途上国の人間からすれば相対的に高いモノが多いのですが、それでも長く支持されてきました」といっている。

 新品で日本製品を欲しがる中国の富裕層も、中古で日本製品を欲しがる発展途上国の中間層も、いいモノを選ぶ「目利き」であることにおいては本質的に同じである。

 新興市場あいてに商売しなければ活路が見いだせない日本のメーカーにとって、大いに耳を傾けるコトバではないだろうか。

 低コスト製造を前提にした安売り販売では最終的に疲弊してしまうだけであり、現地市場で「高いけど品質がいいのでぜひ欲しい」と思わせる製品を製造し、販売することが、新品も中古と同様に重要であることを示唆していると受け取るべきだろう。

 中古家電からみえるのは、新興国や発展途上国の現状だけでなく、日本企業の未来でもある。

 一読の価値があるといえよう。



<初出情報>

■bk1書評「中古家電からみえるのは発展途上国の現状だけでなく、日本の製造業の未来でもある」投稿掲載(2010年8月20日)

*再録にあたって、字句の一部を修正と加筆を行った。




目 次

1章 中古家電が飛ぶように売れる
 1. 貧乏だから日本製を買う-途上国で選ばれる3つの条件
 2. 3つの条件で瞬く間に市場ができ上がる
2章 この商売の仕組み、お教えします
 1. 家電を集めるルート
 2. 家電を海外で売る方法)
3章 むかしベトナム、いまナイジェリア
 1. まず娯楽品から売れる
 2. 修理はエンドユーザーの近くでないと成立しない
4章 だれもが“いいモノ”を求めている
 1. 途上国のひとは頑張って、“上”のモノを買おうとする
 2. ニッポンは“いいモノ”づくりを目指せ


著者プロフィール

小林茂(こばやし・しげる)

1954年、生まれ。1972年、川越市立商業高校卒業後、26歳まで京王プラザホテルを初め、数多くの職業を経験する。1980年、金属屑商(小林商店)を創立、1991年に有限会社浜屋設立、1999年に株式会社に変更する。中古家電の輸出企業の草分け的な存在である。全国に13支店を設け、売上高100億円が目の前である。海外展開する国は23カ国以上(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


<関連サイト>

 日本の中古品は中国の新品より売れるインフォーマル製品求めてアフリカ商人が集う中国・広州(ウェッジ、2014年9月11日)
・・アフリカ研究者によるタンザニアのフィールドワーク

(2014年9月13日 項目新設)


<ブログ内関連記事>

書評 『OUT OF AFRICA アフリカの奇跡-世界に誇れる日本人ビジネスマンの物語-』(佐藤芳之、朝日新聞出版社、2012)-規格「外」の日本人が淡々とつづるオリジナルなスゴイ物語

(2014年9月13日 項目新設)




(2012年7月3日発売の拙著です)







Clip to Evernote 


ケン・マネジメントのウェブサイトは
http://kensatoken.com です。

ご意見・ご感想・ご質問は  ken@kensatoken.com   にどうぞ。
お手数ですが、クリック&ペーストでお願いします。

禁無断転載!

 
end            

2010年3月1日月曜日

書評『ブランド王国スイスの秘密』(磯山友幸、日経BP社、2006)ー「欧州の小国スイス」から、「迷走する経済大国・日本」は何を教訓として読み取るべきか



『ブランド王国スイスの秘密』(磯山友幸、日経BP社、2006)は、大企業の現役ビジネスパーソンがその読者の大半である日本経済新聞社の記者が、2002年から2004年まで欧州の金融都市チューリヒ支局長として滞在したスイスについて書いたビジネス書。

2006年当時の日本の読者に向けて、日本経済が抱える問題を打開するために、似たような条件にあるスイスから何を教訓として読み取るか、という観点からまとめた本である。

本書でいっている「ブランド王国」には2つの意味がある。

まず、第一に「国のブランド力」について。これは、スイスの「赤地に白十字の国旗」じたいが、ブランド力のあるロゴであることにもあらわれている。

世界でも有数の強さを誇る通貨スイス・フランをもつスイスは「金融立国」で、低税率と銀行守秘義務を武器に世界中の金持ちからカネを集めてきたことだ。

多言語の連邦国家で地方自治がきわめて強く、結果として連邦政府の国家権力が相対的に弱いスイスは、しかしながら地政学的には山岳国家なので攻めにくい、という相反する二つの条件をクリアしているからだ、という著者の仮説は面白い。

もう一つの「国のブランド力」とはいうまでもなく、風光明媚な国土が観光客を魅了してきたという「観光立国」としての側面である。しかし、この強みも、周囲にユーロ圏が成立したことにより、強い通貨スイス・フランが裏目に出ており、フラッグキャリアのスイス航空破綻にも影響を与えているらしい。

さらに「ブランド王国」には、ネスレスウォッチに代表されるような、スイスに本社を置くグローバル企業が、積極的な買収によって獲得してきた複数のブランドを、ポートフォリオで管理する「ブランドマネジメント先進国」という側面もある。

ただし、この面にかんする記述は、ジャーナリストによるものであり、あくまでも表面的なものにとどまっている。詳しくはブランドマネジメントにかんする経営書をひもとくべきであろう。

この本で著者が読者に訴えたいのは、スイスと日本がほぼ同じ時期にプレーヤーとしてグローバルステージに登場し、同じような軌跡をたどって富強化への道を歩んだことを前提に、日本への教訓を7項目にわたって存在することだ。

基本的に欧州最貧の農業牧畜経済であったスイスは、海外傭兵による外貨収入に大きくたよっていたが、こうした状況から脱するために始まったのが、まずペスタロッチに代表される「教育改革」であり、これに続いた「産業革命」により、勤勉さを武器に精密機械などを中心にした「製造業立国」への道を進むことになった。

本書でも紹介されているように、明治維新政府による「岩倉遣欧使節団」が、小国スイスにモデルの一つを見たのも不思議ではないのだ。



近代日本と同じような軌跡を歩んできた「欧州の小国スイス」から、「迷走する経済大国・日本」は何を教訓として読み取るべきか

さて、著者が提言している、「スイスに学べき7つの知恵」とは以下のとおりである。

1. 高付加価値経済の実現
2. 「強い通貨」
3. プライベートバンク
4. 美しい国土
5. 人的資源を活性化する仕組み、とくに若手を登用する仕組み
6. 外国人の活用
7. 「小さな政府」

IMF統計では人口一人あたりGDPで世界第4位(・・日本は23位)、また本書によれば、人口一人あたり企業価値で世界一というスイスも、さまざまな問題を抱えているが、著者があげている7項目については、いずれも日本は模範とすべきであろう。

とくに「強い通貨」については、日本では輸出依存型の製造業を中心に批判が強いが、国全体で考えればけっして悪い話ではない。強い通貨に見合った経済体制、企業体質と戦略を作り上げていくべきであるという著者の考えには賛成である。

本書で著者は、スウォッチによるスイス時計産業の復活と強化についてなどポジティブな面を中心に書いているが、意外にもスイスが抱える問題点にも目配りをしている。とくにフラッグキャリアであったスイス航空破綻については、著者がスイス勤務中の旬の出来事であったこともあり、本書では数ページにわたってその経緯が詳述されている。

スイス航空の挫折(・・最終的にはドイツのルフトハンザ傘下に入って再生)が、ハブ空港であるチューリヒ空港の前途に暗い影を落としている。チューリヒは、ルフトハンザのハブ空港である、フランクフルトからもミュンヒェンからも近すぎる。

これが観光業だけでなく、金融業を中心としたビジネス全般にも影響がでかねないことなど、同じくフラッグキャリアであった日本航空(JAL)破綻を目撃することになった日本人にとっても、他人事とは思えない。

人口730万人にすぎないスイスは、現在でもEUに加盟せず、欧州共通通貨ユーロの導入にも背を向けていることなど、アジアにおける現在の日本のポジショニングと似ていなくもない。

スイスという国が好きであれ嫌いであれ、一読の価値ある本だといえよう。


<初出情報>

■bk1書評「近代日本と同じような軌跡を歩んできた「欧州の小国スイス」から、「迷走する経済大国・日本」は何を教訓として読み取るべきか」投稿掲載(2010年2月27日)

*再録にあたって字句の一部を修正した。
** 一部の構成を改めて加筆した。(2024年2月17日)


画像をクリック!



<書評への付記>

出版されてから4年たっている本を書評として取り上げたのは、やっと読む機会が訪れて目を通してみたら、意外と内容が面白かったからである。

内容については、必ずしも全面的に賛成するわけではないが、ビジネスの観点からスイスを考えるという視点は、日本経済新聞社ならではといっていいだろう。

スイス関連本は、これから何冊か書評として紹介することにするが、スイスという存在は、毀誉褒貶(きよほうへん)あいなかばして、実像を掴むのが非常に難しい。

一方では「閉鎖的」だと批判され、他方では「国際的」だと賞賛される。欧州のグローバル企業の多くがスイスに本社機能を置いていることは国際性の一つの現れであるといってもいいだろう。

スイスの国としての「ブランド力」は、まだまだ強いといえる。さまざまな問題が発生しており、反スイス的な言説も多く流布しているが、揺らいでいるとまではいいにくい。一方、日本のブランド力はその根幹にあったはずの高い品質というブランドが、トヨタ問題に顕著に表れているように、揺らいでいることは否定できない。

「強い通貨」であるスイス・フランについては、現在でも国際決済通貨(ハードカレンシー)として根強い人気があることは特筆に値する。米ドル、ユーロ、日本円、英国ポンドにつぐポジションを保持しており、スイスがEU加盟はおろか、欧州共通通貨ユーロに背を向けている理由は明らかである。

社会主義圏は、スイス・フランを国際決済通貨として使用してきた歴史があり、たとえば北京発モスクワ行きの「シベリア鉄道」のチケットは、私が乗った1999年時点ではスイス・フランによって正価が表示されていた。 

スイスのプライベートバンクが絶大な信用をもっているのは、銀行守秘義務のためだけではない。

なお、書評で「ブランドマネジメント」については経営書を参照のこと、と書いているが、あらためて探してみるとグローバル食品関連企業グループであるネスレ(Nestlé)については、日本語で読める書籍がないことに気がついた。

マーケティング革新の時代 (3) ブランド構築』(嶋口充輝/片平秀貴/竹内弘高/石井淳蔵=編、有斐閣、1999)というマーケティングの専門書に、ネスレの製品ブランド管理について書いているが、残念なことに、どうやらすでに絶版のようだ。

以前、日本経済新聞社にネスレ会長(当時)が「私の履歴書」シリーズに登場していたので愛読していたが、いまだに単行本化されていないようである。

実は私は、就職活動(・・今風にいえば就活)を行っていたときに、ネスレ(・・当時はまだネッスルと英語読みしていた)を企業訪問し、強く入社を誘われたことがある。

ネスレは阪神大震災後も神戸から本社を動かさず、非常に地域貢献を行っている会社である。ネスレに入社していれば、今頃ネスレ風のブランドマネジメントの専門家になってスイスにいたかもしれない、などとブランド・マネジメントにかかわっていた、10年くらい前に思ったことがあった。

まあ人生なんて、自分にもよくわからないものだから、必ずそうなっていたという保証も何もないのだが・・


<関連サイト>

◆ネスレ
ネスレ日本 
The global website of Nestlé SA
◆スウォッチ
Official Swatch Website スウォッチ
Swatch Group 高級ウォッチ・ブランド管理会社としてのスウォッチ・グループ
スウォッチグループジャパン公式サイト


円高を活かせない日本の金融業-スイスに習う債権国型金融(磯山友幸 Wedge 2011年11月17日) (2011年11月24日 追補) 

地方税制が競うスイス所得税12%から26%まで(磯山友幸 Wedge 2011年12月19日(2011年12月21日 追補) 

P.S.

直接は関係ない話だが、タイ王国のバンコクで仕事をしていた頃、まだサービス・アパートメントに住む前は、私の定宿は、なぜか★5つのスイスホテル・ル・コンコルド(Swissotel Le Concordeであった。資本関係は現在ではスイスとは関係ないようだが、ホテル内に「時計のミュージアム」があるのは、バンコクの知られざる穴場の一つであろう。

現在は節約しているので、バンコクでの定宿は、スイスパークホテル(Swiss Park Hotel)★3つに格下げにしている。ただしこちらは、BTSの駅にも近く利便性は高い。

いずれにせよ、タイのバンコクでも、ホテルを含めた観光産業においては、スイスは依然としてブランド力をもっていることの現れだろう。

ちなみに、タイ王国のプーミポン国王ラーマ9世は、生まれは米国のボストンだが、教育はスイスのフランス語圏ローザンヌで受けた国際人である。

この話は、タイのあれこれ (14) タイのコーヒーとロイヤル・プロジェクトで触れているので参照されたい。タイ北部の山岳地帯ドイトンは、ヒマーラヤ山脈の東端の裾野にあたり、気候も過ごしやすく、風光明媚な土地である。



<ブログ内関連記事>

「急がば回れ」-スイスをよりよく知るためには、地理的条件を踏まえたうえで歴史を知ることが何よりも重要だ
・・欧州の「陸の孤島」とも形容されるスイス、まずは地形を知り、歴史を知るのが「急がば回れ」となる

映画 『アルプス-天空の交響曲-』(2013、ドイツ)を見てきた(2015年5月28日)-360度のパノラマでみる「アルプス地理学」

むかし富士山八号目の山小屋で働いていた (3) お客様からおカネをいただいて料理をつくっていた
・・富士山の山小屋では、スイス製の圧力釜でコメを炊く。

書評 『マネーの公理-スイスの銀行家に学ぶ儲けのルール-』(マックス・ギュンター、マックス・ギュンター、林 康史=監訳、石川由美子訳、日経BP社、2005)
・・「マネーの防衛」というのがスイス流の投機。セキュリティの観点から投資と投機を考える

書評 『民間防衛-あらゆる危険から身をまもる-』(スイス政府編、原書房編集部訳、原書房、1970、新装版1995、新装版2003)
・・スイスといえば、いまでは「国民皆兵」は日本人の常識になったことと思う。スイス人の家庭には、一家に一冊備え付けなのが、この本と銃器一式!

書評 『スイス探訪-したたかなスイス人のしなやかな生き方-』(國松孝次、角川文庫、2006 単行本初版 2003)
・・とはいえ、スイスも曲がり角にきていることが、スイス大使として赴任した國松元警視庁長官のやわらかな筆致で描かれている

1980年代に出版された、日本女性の手になる二冊の「スイス本」・・・犬養道子の『私のスイス』 と 八木あき子の 『二十世紀の迷信 理想国家スイス』・・・を振り返っておこう
・・現在から30年前はまだスイスは観光先としてしか認識されていなかったようだ。そういう現状認識への異議申し立ての内容でもある

ペスタロッチは52歳で「教育」という天命に目覚めた
・・「預言者故郷に容れられず」という格言があるが、理想主義者のペスタロッチの試みは、すくなくとも生前においては故国のスイスでは受け入れられなかった。」

「チューリヒ美術館展-印象派からシュルレアリスムまで-」(国立新美術館)にいってきた(2014年11月26日)-チューリヒ美術館は、もっている!

「フェルディナント・ホドラー展」(国立西洋美術館)にいってきた(2014年11月11日)-知られざる「スイスの国民画家」と「近代舞踊」の関係について知る

(2016年3月7日 項目新設)
(2016年8月11日 情報追加)


(2025年1月24日発売の拙著です 画像をクリック!

(2023年11月25日発売の拙著です 画像をクリック!

(2022年12月23日発売の拙著です 画像をクリック!

(2022年6月24日発売の拙著です 画像をクリック!

(2021年11月19日発売の拙著です 画像をクリック!

(2021年10月22日発売の拙著です 画像をクリック!

 (2020年12月18日発売の拙著です 画像をクリック!

(2020年5月28日発売の拙著です 画像をクリック!

(2019年4月27日発売の拙著です 画像をクリック!

(2017年5月19日発売の拙著です 画像をクリック!

(2012年7月3日発売の拙著です 画像をクリック!


 



ケン・マネジメントのウェブサイトは

ご意見・ご感想・ご質問は  ken@kensatoken.com   にどうぞ。
お手数ですが、クリック&ペーストでお願いします。

禁無断転載!








end