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2013年7月28日日曜日

映画 『最後のマイ・ウェイ』(2011年、フランス)をみてきた-いまここによみがえるフランスの国民歌手クロード・フランソワ


映画 『最後のマイ・ウェイ』(2011年 フランス)をみてきた。オリジナルのタイトルは Cloclo: la fabuleuse histoire de Claude François(クロクロ-クロード・フランソワの驚くべき物語)。

フランク・シナトラが英語で歌い世界的に爆発的ヒットとなった『マイ・ウェイ』は、じつはフランス語のポップスがオリジナルであった。その曲をつくり歌ってフランスでヒットさせたクロクロことクロード・フランソワ(1939~1978)のヒューマン・ドラマを描いた伝記的映画がこの作品である。

"The Voice" といわれていた美声の米国人エンターテイナーであったシナトラにあこがれていたフランスの歌手クロード・フランソワ。その彼がみずからつくりフランスでヒットさせた曲をシナトラがとりあげ、英語の『マイ・ウェイ』として歌い世界的なヒット曲となる。

フランス語のオリジナルは、『コム・ダビチュード』(Comme d'habitude)(1967年)という曲だ。日本語だと「いつものように」。男女のすれ違いの恋愛を描いたものだ。

この曲にポール・アンカがシナトラのために英語の歌詞を書いた「マイ・ウェイ」は、「わが人生に悔いなし」というテーマになっている。フランス語のサビである comme d'habitude (いつものように)は、英語歌詞では  And did it my way (オレはオレ流で生きた)となる。


フレンチポップスといえばシルヴィー・ヴァルタン、セルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキンなどが思い浮かぶ。シャンソンがいまでもインテリ好みのものだとすれば、フレンチポップスは戦後アメリカのジャズやポップスの影響を受けたエンターテインメント性のつよいフランスの大衆音楽である。

日本でもそのむかし奇抜なファッションで有名であったミシェル・ポルナレフが人気があった。『シェリーに口づけ』の歌手かと思い出す人も少なくないだろう。だが愛称クロクロことクロード・フランソワは日本ではそれほど有名ではなかったのではないかと思う。すくなくとも大衆レベルでの知名度は日本ではなかったと思う。

「マイ・ウェイ」(1969年)のオリジナルが、フレンチ・ポップスで歌手がクロード・フランソワによるものだとわたしが知ったのは、いまから20年くらい前のことだ。

Un homme et la femme: Les plus grandes chansons d'amour (男と女-よりすぎりのフランス語の愛の歌) というフランスから輸入されたCDに収録されていてのを聴いてはじめて知ったのであった。このCDはたしかいまは亡き新宿のヴァージン・メガストアで購入したのだと記憶している。

だからこそ、クロード・フランソワの人生が映画化されて日本で公開されることを知って、上映が待ち遠しい思いであった。




クロード・フランソワの人生

1960年代から1970年代にかけて、浮き沈みの激しい芸能界で18年のキャリアを、つねに全力疾走によって走り抜けたスーパースター

自分が歌いたい曲だけでなく、マーケティングの観点からその時代のアメリカの最先端の流行、たとえばブラックミュージックやディスコなどを果敢に取り入れ、歌手以外にもさまざまな関連ビジネスに手を出し、作詞、作曲、音楽プロデューサー、出版などつごからつぎへと事業を拡大していく。

1939年生まれで裕福な生活を送っていたエジプト時代への郷愁、1956年のスエズ運河国有化によってエジプトから脱出した一家は困窮した生活に、人生を変えるため音楽の道に賭けるも最初の曲は鳴かず飛ばず、しかしあきらめずに努力しついにスターダムへ、そして父親との葛藤と死後の和解。

エジプトというフランスにとっては植民地ではない海外で生まれ育ったこともあり、余計にフランス人意識がつよいのだろう。ジョニーなどといったアメリカ風の芸名にすることは断固拒否している。いかにもフランス的なクロードという名前で押し通したからこそ、フランスの国民歌手としてフランス人に受け入れられのだろう。

しかし、これからフランス語圏というローカルマーケットから、音楽の分野では英語圏が支配している世界マーケットへむけて飛翔しようとしたまさにその矢先、1978年に不慮の事故で39歳で急死する波乱万丈で悲劇的な人生。

フランス映画の黄金時代はすでに過ぎ去った過去のことだが、この2011年制作の映画はパワフルでエモーショナルなヒューマン・ドラマである。フランス映画の再生も始まったといっていいのだろうか。

大きすぎる野心とエゴイズム、その裏腹につきまとう不安と孤独、ときに襲ってくる自信喪失、トラブルつづきの私生活とつかの間の安息。アイドル歌手フランス・ギャルとの恋愛。まさにドラマのてんこ盛りのような人生である。その伝記映画が面白くないわけがないのだ。

だから日本公開タイトルに「マイ・ウェイ」の文字が入るのはまことにもって適切だ。クロード・フランソワの人生は「マイ・ウェイ」の英語歌詞そのものだといっても言い過ぎではないからだ。

この映画は、なによりもエンターテインメント作品としてこの波乱万丈のヒューマン・ドラマを楽しむことができるし、クロード・フランソワというフランスの国民歌手とフランスのサブカルチャー、そしてかれが活躍した1960年代から1970年代のフランス社会を知ることもできる作品になっている。




クロード・フランソワとエルヴィス・プレスリー

たしかにそれほどハンサムというわけでもないし、背も高くないのだが、独特のオーラがあったことは、上記のビデオを見ていただければ理解していただけると思う。

この映画で主人公を演じたジェレミー・レニエがクロード・フランソワに瓜二つなのはほんとうに驚きだ。

映画のラストに近い場面に、オペラ劇場であるロンドンのアルバートホールで「マイウェイ」を英語で熱唱するシーンがある。英語の「マイ・ウェイ」の歌詞の内容がクロード・フランソワの人生とシンクロすることを感じながら聴いていると、見ているわたしも胸にじーんとくるものがきた。

映画の場面ではなく、クロード・フランソワが英語で歌う「マイ・ウェイ」の映像を紹介しておこう。 Claude François - My way (En anglais) + Paroles それほどうまい英語ではないが、味のある歌いぶりである。

「マイ・ウェイ」は大御所フランク・シナトラが歌って世界的なヒットになったが、わたしはエルヴィス・プレスリーによるカバーが大好きだ。エルヴィス自身も自分が大好きな歌の一つだといっているのが「マイ・ウェイ」だ。

人生を演劇にたとえた英語の歌詞は大御所フランク・シナトラのためにポール・アンカが書いたもだが、人生の終わりに近い時期に自分の人生を振り返って感慨にふける内容の英語歌詞は、まだ40歳前後であったクロード・フランソワやエルヴィスが歌うと、また異なる感慨を聴いていて抱くのである。

調べてみてわかったが、1977年にエルヴィスが42歳の若さで去ったあとを追うかのように、1978年にクロード・フランソワも39歳で去っている。クロード・フランソワ(1939~1978)と同様、エルヴィス(1935~1977)もまた、短い人生を全力疾走で駆け抜け、若くして世を去ったのである。

映画ではエルヴィスについてはいっさい言及されないが、同時代のこの二人のスーパースターの人生を重ね合わせてみるのは決して間違いではないと思うのだ。ブラック・ミュージックの大きな影響を受けていた点も二人に共通することである。

「神々に愛されし者は短命に終わる」という格言が西欧にある。現代の神々は一般大衆というファンであるとすれば、そのとおりなのかもしれない。








<関連サイト>

『最後のマイウェイ』 公式サイト
・・日本語版ネレーションの海老蔵は声はいのだが、やや耳に付くことも否定できない

Cloclo: la fabuleuse histoire de Claude François
フランス版トレーラーはシンプルに『コム・ダビチュード』の歌声のみ

Cloclo Movie US Trailer アメリカ版トレーラー(英語字幕つき)

Cloclo (film 2012) wikipediaフランス語版

Cloclo - Le film (フランス版 facebookページ)


「いつものように」(コム・ダビチュード)
Claude François - Comme d'habitude (My way)


マイウェイ英語バージョン
 エルヴィス Elvis Presley - My Way
 フランク・シナトラ Frank Sinatra, My Way

 クロード・フランソワ Claude François - My way (En anglais) + Paroles 

elvis-cloclo my way sous titres (フランス人が作成したらしい映像 エルヴィスとクロクロの夢の顔合わせコンピレーション フランス語字幕つき)


1997年の出版で内容的には古いがフレンチ・ポップスについてまとまった文献といえば、ペヨトル書房から出版された『Ur (ウル)12号 特集:フレンチ・ポップス』(1997年)が参考になるだろう。このほかの情報はネット情報を検索していただきたい。





<参考> Comme d'habitudeの 英語版 My Way とフランス語版の歌詞
My Way

Songwriters: JACQUES REVAUX, CLAUDE FRANCOIS, GILLES THIBAUT, PAUL ANKA

And now the end is near
So I face the final curtain
My friend, I'll say it clear
I'll state my case of which I'm certain

I've lived a life that's full
I've traveled each and every byway
And more, much more than this
I did it my way

Regrets, I've had a few
But then again, too few to mention
I did what I had to do
And saw it through without exemption

I planned each charted course
Each careful step along the byway
Oh, and more, much more than this
I did it my way

Yes, there were times, I'm sure you knew
When I bit off more than I could chew
But through it all when there was doubt
I ate it up and spit it out
I faced it all and I stood tall
And did it my way

I've loved, I've laughed and cried
I've had my fails, my share of losing
And now as tears subside
I find it all so amusing
To think I did all that
And may I say, not in a shy way
No, oh no not me,
I did it my way

For what is a man, what has he got
If not himself, then he has not
To say the words he truly feels
And not the words he would reveal
The record shows I took the blows
And did it my way 
The record shows I took the blows
And did it my way

(出典: http://www.lexilogos.com/claude_francois/my_way.htm



Comme d'habitude

Je me lève
Et je te bouscule
Tu n'te réveilles pas
Comme d'habitude

Sur toi
Je remonte le drap
J'ai peur que tu aies froid
Comme d'habitude

Ma main
Caresse tes cheveux
Presque malgré moi
Comme d'habitude

Mais toi
Tu me tournes le dos
Comme d'habitude

Alors
Je m'habille très vite
Je sors de la chambre
Comme d'habitude

Tout seul
Je bois mon café
Je suis en retard
Comme d'habitude

Sans bruit
Je quitte la maison
Tout est gris dehors
Comme d'habitude

J'ai froid
Je relève mon col
Comme d'habitude

Comme d'habitude
Toute la journée
Je vais jouer
A faire semblant
Comme d'habitude
Je vais sourire
Comme d'habitude
Je vais même rire
Comme d'habitude
Enfin je vais vivre
Comme d'habitude

Et puis
Le jour s'en ira
Moi je reviendrai
Comme d'habitude

Toi
Tu seras sortie
Pas encore rentrée
Comme d'habitude

Tout seul
J'irai me coucher
Dans ce grand lit froid
Comme d'habitude

Mes larmes
Je les cacherai
Comme d'habitude

Mais comme d'habitude
Même la nuit
Je vais jouer
A faire semblant
Comme d'habitude
Tu rentreras
Comme d'habitude
Je t'attendrai
Comme d'habitude
Tu me souriras
Comme d'habitude

Comme d'habitude
Tu te déshabilleras
Oui comme d'habitude
Tu te coucheras
Oui comme d'habitude
On s'embrassera
Comme d'habitude

Comme d'habitude
On fera semblant
Comme d'habitude
On fera l'amour
Oui comme d'habitude
On fera semblant
Comme d'habitude

(出典: http://www.lexilogos.com/claude_francois/my_way.htm )




<ブログ内関連記事>

映画 『シスタースマイル ドミニクの歌』 Soeur Sourire を見てきた
・・フランス語圏のベルギーで修道女が歌って大ヒットとなった「ドミニクの歌」(1963年)にまつわる秘話。このレコードもクロード・フランソワのデビュー曲と同様にフィリップスから

「特攻」について書いているうちに、話はフランスの otaku へと流れゆく・・・

書評 『東京裁判 フランス人判事の無罪論』(大岡優一郎、文春新書、2012)-パル判事の陰に隠れて忘れられていたアンリ・ベルナール判事とカトリック自然法を背景にした大陸法と英米法との闘い

月刊誌「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2011年1月号 特集 「低成長でも「これほど豊か」-フランス人はなぜ幸せなのか」を読む

『恋する理由-私が好きなパリジェンヌの生き方-』(滝川クリステル、講談社、2011)で読むフランス型ライフスタイル

Vietnam - Tahiti - Paris (ベトナム - タヒチ - パリ)

由紀さおり世界デビューをどう捉えるか?-「偶然」を活かしきった「意図せざる海外進出」の事例として


(2021年3月5日 情報追加)


 
 (2020年12月18日発売の拙著です)


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2013年7月27日土曜日

映画『終戦のエンペラー』(2012年、アメリカ)をみてきた ー 日米合作ではないアメリカの「オリエンタリズム映画」であるのがじつに残念


『終戦のエンペラー』を初日に見てきた。このテーマの映画であれば気になる存在だからだ。

『終戦のエンペラー』(原題: Emperor)は、2012年度製作のアメリカ映画である。日米合作ではなく、アメリカ資本で製作された映画である。これはこの映画をみるうえで重要なポイントだ。

舞台は敗戦によってアメリカを中心とする連合国の占領下におかれた日本、とくに東京と静岡が舞台である。登場人物はアメリカ側は連合国最高司令官のマッカーサー元帥とその副官であるフェラーズ准将。日本側はフェラーズ准将の運転手兼通訳の日本人、そしてA級戦犯とされた日本人たち(・・東条英機、近衛文麿、木戸孝一)、そして昭和天皇。

映画『終戦のエンペラー』のキャスティング・ディレクターとして日本側配役の選定と推薦を担当した奈良橋陽子氏は、ハリウッドは”日本ネタ”を求めているハリウッドと日本の”橋渡し役”奈良橋陽子氏に聞く (東洋経済オンライン 2013年7月26日)というインタビューのなかで以下のように語っている。ちょっと長いがそのまま引用させていただこう。

――ハリウッドの映画が日本を描くと、「それは日本じゃない」と言いたくなるようなシーンもあります。そのことについてどう考えていますか?

監督のタイプも大まかに言うと2つあると思います。ひとつは、日本のことをすごく尊重している人。そういう方はこちらが「ここは間違っている」と指摘すると、「じゃあ直そう」と受け入れてくれます。

そしてもうひとつは、自分の世界を持っていて、本当は(日本の描写は)こうだと知っているけれども、あえて違う描写でやってしまう人。美的感覚が違うのでしょうね。ただ、私がキャスティングした日本人の俳優さんに関しては、きちんとこちらの意向を説明して、衣装などにも意見を取り入れてもらいました。

――今回の『終戦のエンペラー』は、そうした「日本らしくない」という違和感はありませんでした。

今回はキャスティングだけでなく、プロデュースをしましたから。美術やメイクなどもすべてチェックしました。

だが、じっさいに見た感想としては、やはりなにかが違う、というものだった。個々の日本人俳優の演技そのもの大きな違和感はないのだが、どうもなにかが違うのだ。もちろん、1945年当時の日本人というを2012年現在の日本人が演じるにはムリがあるのだが、それは脇においておこう。

この映画はアメリカ人がアメリカ人の視点、つまり占領する側が敗戦国を描いた映画である。この枠組みにはいささかの揺るぎはない。そうでなかったら、アメリカでは受け入れられないだろう。つまり敗戦国の日本人の視点で描かれた物語ではないアメリカ映画である。それも脇においておこう。

もちろんエンターテインメント作品であり、個々の史実を意図的に曲げて描いているシーンがあるのは仕方ない。これは演出の問題だからとやかく言う筋合いはなかろう。

だが、最初から最後まで違和感が残ったのは、メロドラマ的に一つの軸となっているフェラーズと、いかにもアメリカ人からみた "いかにも和風" な日本人女性との悲恋の描かれ方である。

正直いってオリエンタリズム以外のなにものでもないという印象である。アジアを描く際のアメリカ人の無意識の視点がでているという印象がぬぐえないのだ。さすがに1980年の『将軍 SHOGUN』に登場する島田陽子ほどではないが、30年たっても基本的になにも変わっていないという印象だけが残る。

今回のキャスティングに渡辺謙が入ってないのはよかった。といっても、渡辺謙が嫌いなのではなく、あまりにもハリウッド映画に登場しすぎるので食傷気味だということ以外に意味はない。

近衛文麿役の中村雅俊はいい線いってるし、関屋貞三郎役の夏八木勲はじつにいい味を出していた。また、西田敏行が演じる海軍将校の英語がじつに流暢で、それには大いに感心させられた。さすが役者である。

このように個々の日本人俳優はシークエンス単位で好演しているのだが、ぜんたいの枠組みが占領軍の側からみたオリエンタリズム映画なので、見終わった感想としては、日本人としてはイマイチとしかいいようがない。

以上がじっさいに映画をみての正直な感想である。



原作は『陛下をお救いなさいまし』(Save the Emperor)

じつは今回は映画を観るまえに原作を読んでおいた。映画化によって、原作がどこまで再現されているかいないかを見てみたかったからだ。

なぜなら、先にも感想を記したように、この手の映画はよほどのことがないかぎりアメリカ側の一方的な解釈や演出で台無しになっているケースが多いからだ。

たとえば、かつて話題になった『硫黄島からの手紙』(Letters from Iwo Jima 2006年)。クリント・イーストウッド監督はすばらしいのだが、どうぢてもあの映画にはなじめないものを感じたのはわたしだけではないのではないか? なにかが違う、という感じがぬぐえないのである。

同じ監督による二部作のもう一方である『父親たちの星条旗』(Flags of Our Fathers)のほうがはるかにすぐれているのは、アメリカ人の監督がマイノリティの置かれているアメリカの現実を熟知しているからだろう。

日本人からみた違和感をなくすには、かつて真珠湾攻撃を描いた戦争映画『トラ・トラ・トラ』(1970年)のように、アメリカのパートはアメリカ人監督、日本のパートは日本人監督がメガホンをとる以外はムリだろう。そうでないと『パール・ハーバー』のような愚作となるのが落ちだ。

さて、原作のタイトルは『陛下をお救いなさいまし』(岡本嗣郎、集英社、2002)。文庫化にあたっては映画のタイトルを主に、単行本のタイトルが従となった。『終戦のエンペラー-陛下をお救いなさいまし-』(集英社文庫、2013)と変更された。

内容を正確に表現するなら、『陛下をお救いなさいまし-恵泉女学園創設者河井道とマッカーサーの副官フェラーズ准将』とするべき内容で、知られざる歴史を描いた正統派のノンフィクション作品である。

河井道(かわい・みち)という女性は、『BUSHIDO』の著者で教育家の新渡戸稲造の薫陶を受けた日本人キリスト教徒恵泉女学園を創設した教育家でもある。信念が堅固で、ハッキリとモノを言う人だったらしい。

フェラーズ准将という学者肌のアメリカの陸軍軍人は、大学時代にアメリカに留学してきていた日本人女性との交友から日本びいきになり、ラフカディオ・ハーンの全作品を読み込んでいた人。

この二人の日米をまたいだ戦前と戦後の友情が、天皇の戦争責任回避を実現させたのである。これがほんとうの「真相」である。無責任体制とも批判される日本の意思決定構造ゆえに、天皇の戦争責任論に結論をつけるのが困難であったのだが、フェラーズ准将が書いたレポートが最終的にものを言うことになった。

新渡戸稲造もフェラーズもプロテスタントの一派であるクエーカーであり、河井道をふくめた日本のプロテスタント人脈とプロテスタント国アメリカの密接な人的関係が、天皇の戦争責任回避を実現させたというのが原作の内容である。したがって、日米をまたいだ人脈が実現させたヒューマン・ドラマというのがほんとうの物語なのだ。メロドラマ的な要素はじつは皆無である。

もちろん、映画はエンターテインメントであるから、脚色や事実関係の変更、虚構の導入はあってもとくに文句をいう筋合いはない。この映画の脚本もひとつの歴史解釈というべきであり、これと異なる解釈があってもおかしくはない。

だが、原作の内容がなんであれ、メロドラマ的なオリエンタリズム映画となったことはじつに残念以外のなにものでもない。またかよ、といった思いで、正直いって閉口する。

ぜひ日本人監督によって『陛下をお救いなさいまし』を別バージョンとして映画化すべきだろう。そうすれば、歴史観の相違というものがおのずからにじみ出てくるはずだ。

占領する側と占領される側とは、それほど溝が深いのである。おそらく製作者サイドとしては無意識なのだろうが。





<関連サイト>

映画 『終戦のエンペラー』 公式サイト

学校法人恵泉女学園|創立者 河井道 - 恵泉女学園 中学・高等学校

ハーン・マニアの情報将校ボナー・フェラーズ(加藤哲郎、一橋大学政治学 『講座 小泉八雲 1 ハーンの人と周辺』(平川祐弘・牧野陽子編、新曜社、2009)所収)
・・「したがって、「ハーン・マニア」フェラーズを、たんなる親日家・日本理解者とするのは誤解を生じる。その天皇制保持・不訴追工作も、当時の米国心理作戦の一部と見るべきであり、米国有数の有能な情報戦エキスパートであったフェラーズの全生涯との関連で、歴史的に評価されなければならない」



<ブログ内関連記事>

占領下日本(=オキュパイド・ジャパン)

「日本のいちばん長い日」(1945年8月15日)に思ったこと

書評 『アメリカに問う大東亜戦争の責任』(長谷川 煕、朝日新書、2007)-「勝者」すら「歴史の裁き」から逃れることはできない

書評 『ワシントン・ハイツ-GHQが東京に刻んだ戦後-』(秋尾沙戸子、新潮文庫、2011 単行本初版 2009)-「占領下日本」(=オキュパイド・ジャパン)の東京に「戦後日本」の原点をさぐる

書評 『占領史追跡-ニューズウィーク東京支局長パケナム記者の諜報日記-』 (青木冨貴子、新潮文庫、2013 単行本初版 2011)-「占領下日本」で昭和天皇とワシントンの秘密交渉の結節点にいた日本通の英国人の数奇な人生と「影のシナリオ」

書評 『731-石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く-』(青木冨貴子、新潮文庫、2008 単行本初版 2005)-米ソ両大国も絡まった "知られざる激しい情報戦" を解読するノンフィクション


「戦後」の日米関係

「YOKOSUKA軍港めぐり」クルーズに参加(2013年7月18日)-軍港クルーズと徒歩でアメリカを感じる横須賀をプチ旅行

「日米親善ベース歴史ツアー」に参加して米海軍横須賀基地内を見学してきた(2014年6月21日)-旧帝国海軍の「近代化遺産」と「日本におけるアメリカ」をさぐる

「沖縄復帰」から40年-『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』(佐野眞一、集英社、2008)を読むべし!


戦犯裁判

書評 『東京裁判 フランス人判事の無罪論』(大岡優一郎、文春新書、2012)-パル判事の陰に隠れて忘れられていたアンリ・ベルナール判事とカトリック自然法を背景にした大陸法と英米法との闘い

書評 『東條英機 処刑の日-アメリカが天皇明仁に刻んだ「死の暗号」-』(猪瀬直樹、文春文庫、2011 単行本初版 2009)


オリエンタリズム

映画 『アバター』(AVATAR)は、技術面のアカデミー賞3部門受賞だけでいいのだろうか?
・・この映画のような知的な立場とは無縁のオリエンタリズム映画がハリウッドには多すぎる


恵泉女学園創設者の河井道

書評 『新渡戸稲造ものがたり-真の国際人 江戸、明治、大正、昭和をかけぬける-(ジュニア・ノンフィクション)』(柴崎由紀、銀の鈴社、2013)-人のため世の中のために尽くした生涯
・・映画の原作 『陛下をお救いなさいまし』の主人公の一人、恵泉女学園創設者の河井道は新渡戸稲造の弟子であった

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2013年7月26日金曜日

書評『アップル帝国の正体』(五島直義・森川潤、文藝春秋社、2013)ー アップルがつくりあげた最強のビジネスモデルの光と影を「末端」である日本から解明



スマートフォンという概念をつくりだした iPhone の売り上げが鈍ってきているようだ。サムスンなどとの競合も厳しくなってきており、アップルの業績が2四半期連続で悪化していることが昨日(2013年7月25日)ニュースで報道されていた。

ジョブズが死んですでに2年近くたち、アップルの神通力にも陰りが見えてきたのかもしれない。いやスマホというガジェットが普及した結果、市場はすでに飽和状態にあるというのが正確かもしれない。

アップルの業績が上がろうが下がろうが関係ない、ということはないのである。それはアップル製品の熱狂的なファンにとってだけでなく、日本の製造メーカーの多くにとってもそうなのだ。とくに部品製造にかかわる日本の製造業にとってはきわめて大きな問題である。

アップルの各種製品の生産量が減少すると、それはもろに日本のメーカーにはダイレクトにはねかえってくる。アップル製品に日本の部品がじつに多く使用されているだけでなく、生殺与奪まで握られているケースが多いからだ。つまり日本企業はアップルの下請けになっているのが実態なのだ。

いまや時価総額で50兆円を超える巨大メーカーに成長したアップルは、自社だけが高い利益率を確保することができるよう設計された、自社を頂点とする生態学(エコ・システム)を形成してきた

その生態系のなかには日本企業、台湾企業、中国企業などがガッチリと組みこまれており、徹底した在庫管理と販売計画、生産計画の24時間リアルタイム化によってアップルは組立メーカーと部品メーカーを管理している。ジョブズがモデルとしてきたソニーですら、現在のアップルにとってはカメラ用の半導体というキーデバイスの調達先にしか過ぎないのである。

アップルは製造機能をもたないファブレスメーカーであり、受託製造に特化した台湾のフォックスコンなどEMSに大きく依存している。しかも、iPhone や iPad といった少数の品目に絞りこみ、その単品ごとの販売量と生産量がきわめて巨大な「少品種大量生産」モデルとなっている。現在ものづくりの世界では標準となっている「多品種少量生産」モデルの真逆である。

2008年時点ですでに iPhone の累計販売数は1,000万台を突破しており、部品メーカーからみれば膨大な量が販売できるので魅力的だが、一方ではアップルとの「独占供給契約」にしばられて、生産量を自社でコントロールできないというデメリットがある。

まさにアップルという「毒リンゴ」を食べてしまった日本企業の苦悩は深い。それは製造メーカーだけではなく、販売会社や通信会社にとっても同様だ。美しいバラだけでなく、うまそうなリンゴには毒があったわけだ。

本書は、アップル社がつくりあげた最強のビジネスモデルの光と影を日本からみたレポートである。徹底した秘密主義のベールに隠されているアップルの生態系(エコ・システム)を末端からみた内容だといっていい。そう、日本企業はアップルにとっては「末端」なのである。

とくに第1章と第2章をよめば、アップルをアップル帝国たらしめているのはスティーブ・ジョブズという天才肌のビジョナリー経営者がつくりだした神話だけではなく、完璧主義であったジョブズが指示してつくりあげた盤石のビジネスモデルにあることがわかるのである。

アップルの完璧主義は、よくいえばあたかもかつての高度成長期の日本企業のようでもある。完璧や徹底といった基本姿勢は、文字どおりアップルで働く人間にとってはそこで生き抜くためには不可欠のマインドセットとなっているのである。

しかし一方では、悪くいえばアップルは、なんだかいま日本で問題になっている「ブラック企業」そのものようだきわめて過酷な労働環境といっていいだろう。しかも、そのなかで働いている人にとってだけでなく、その生態系(=エコ・システム)にかかわっているすべての人にとってもまたブラックな存在となっているのではないかという気もする。

だが、冒頭に書いたように「アップル帝国」もゆらぎが生じ始めている。「死せるジョブズ」の神通力にも影が見え始めている

普通の会社になりつつあるアップルが今後いかなる状態になっていくか、それはアップルにとってだけではなく、日本企業にとっても関係のない話ではないのである。

ビジンスパーソン以外にもぜひ一読をすすめたいビジネス・ノンフィクションである。





目 次

プロローグ アップル帝国と日本の交叉点
第1章 アップルの「ものづくり」支配
第2章 家電量販店がひざまずくアップル
第3章 iPodは日本の音楽を殺したのか?
第4章 iPhone「依存症」携帯キャリアの桎梏(しっこく)
第5章 アップルが生んだ家電の共食い
第6章 アップル神話は永遠なのか
エピローグ アップルは日本を映し出す鏡


著者プロフィール

後藤直義(ごとう・なおよし)
週刊ダイヤモンド記者。1981年、東京都生まれ。青山学院大学文学部卒業後、毎日新聞社入社。2010年より週刊ダイヤモンド編集部に。家電メーカーなど電機業界を担当。

森川 潤(もりかわ・じゅん)
週刊ダイヤモンド記者。1981年、米ニューヨーク州生まれ。京都大学文学部卒業後、産経新聞社入社。横浜総局、京都総局を経て、2009年より東京本社経済本部。2011年より週刊ダイヤモンド編集部に。エネルギー業界を担当し、東電問題や、シェールガスなどの記事を執筆する
(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



著者の元アップル社員の松井氏がいう「私設帝国」ともいうべき超巨大グローバル企業企業が、ビジネスだけでなく、消費のあり方や労働のあり方を根底から変えていく様子がアップル社での体験を踏まえてよく描かれている(2014年6月20日 記す)。


<関連サイト>

アップルのニッポン植民地経営の深層(1) “リンゴ色”に染まる巨大工場の苦悩(ダイヤモンドオンライン 2013年7月18日)
アップルのニッポン植民地経営の深層(2)キャリアを悩ます“iPhoneブルー”アップル・通信会社支配の裏側(ダイヤモンドオンライン 2013年7月25日)
アップルのニッポン植民地経営の深層(3) クックCEOが抱える時限爆弾 アップルのテレビ開発の深層 


製造を外注しても技術力を失わないアップルの凄み -  欧米モデルを誤解し安易に模倣する日本企業のリスク (ダイヤモンドオンライン 2014年5月7日)


拙著 『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』、iBookstore から「電子書籍化」されました!(2013年10月23日)


<ブログ内関連記事>

書評 『日本式モノづくりの敗戦-なぜ米中企業に勝てなくなったのか-』(野口悠紀雄、東洋経済新報社、2012)-産業転換期の日本が今後どう生きていくべきかについて考えるために

書評 『ものつくり敗戦-「匠の呪縛」が日本を衰退させる-』(木村英紀、日経プレミアシリーズ、2009)-日本の未来を真剣に考えているすべての人に一読をすすめたい「冷静な診断書」。問題は製造業だけではない!

書評 『中古家電からニッポンが見える Vietnam…China…Afganistan…Nigeria…Bolivia…』(小林 茂、亜紀書房、2010)
   
書評 『グローバル製造業の未来-ビジネスの未来②-』(カジ・グリジニック/コンラッド・ウィンクラー/ジェフリー・ロスフェダー、ブーズ・アンド・カンパニー訳、日本経済新聞出版社、2009)-欧米の製造業は製造機能を新興国の製造業に依託して協調する方向へ

書評 『現代中国の産業-勃興する中国企業の強さと脆さ-』(丸山知雄、中公新書、2008)-「オープン・アーキテクチャー」時代に生き残るためには
・・「垂直分裂」というコトバが定着したものかどかはわからないが、きわめて重要な概念である。この考え方が成り立つには、「ものつくり」において、設計上の「オープン・アーキテクチャー」という考え方が前提となる。 「オープン・アーキテクチャー」(Open Architecture)とは、「クローズドな製品アーキテクチャー」の反対概念で、外部に開かれた設計構造のことであり、代表的な例が PC である。(自動車は垂直統合型ゆえクローズドになりやすいが電気自動車はモジュール型)

書評 『中国貧困絶望工場-「世界の工場」のカラクリ-』(アレクサンドラ・ハーニー、漆嶋 稔訳、日経BP社、2008)-中国がなぜ「世界の工場」となったか、そして今後どうなっていくかのヒントを得ることができる本

スティーブ・ジョブズの「読書リスト」-ジョブズの「引き出し」の中身をのぞいてみよう!
グラフィック・ノベル 『スティーブ・ジョブズの座禅』 (The Zen of Steve Jobs) が電子書籍として発売予定

三宅一生に特注したスティーブ・ジョブズのタートルネックはイタリアでは 「甘い生活」(dolce vita)?!

An apple a day keeps the doctor away. (リンゴ一個で医者いらず)

(2014年8月18日 情報追加)



(2022年12月23日発売の拙著です)

(2022年6月24日発売の拙著です)

(2021年11月19日発売の拙著です)


(2021年10月22日発売の拙著です)

 
 (2020年12月18日発売の拙著です)


(2020年5月28日発売の拙著です)


 
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2013年7月25日木曜日

本日(2013年7月25日)は「聖ヤコブの日」-サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼の道(El Camino de Santiago de Compostela)



昨日(2013年7月24日)現地時間の9時に発生したスペインの特急列車脱線事故がたいへん痛ましい。死者が77人、負傷者が100人以上の大事故となっています。(*26日現在では死者80人)。

以前にはマドリードでも通勤列車の爆破テロがありましたが、今回はテロではなかったようです。200km近い高速を出した特急列車が急カーブを曲がり切れずに脱線したと報道されてます。2005年の福知山線の脱線事故を思い出してしまいます・・・
http://www.asahi.com/international/update/0725/TKY201307250014.html

ところで、事故の起こったスペイン北部のサンティアゴ・デ・コンポステーラはカトリックの巡礼地。サンティアゴはスペイン語で聖ヤコブのことだそうで、ちょうど7月25日が聖ヤコブの日なので世界各地から巡礼者が集まってきていた最中の事故だったようです。

「聖ヤコブの日」(毎年7月25日)とは、エジプトで亡くなったイエスの使徒ヤコブの遺骸が、9世紀にスペイン北部で発見されてサンティアゴに移葬された日とされています。

いまから20年以上前の1991年のことですが、わたしもマドリードから列車でサンティアゴ・デ・コンポステーラを往復したことがあります。わたしが乗ったのは深夜にマドリードを出発して現地には早朝に着く列車でした。当時はまだ世界遺産にはなっていなかったと思います。

サンティアゴ・デ・コンポステーラは、9世紀から建築がはじまった美しいロマネスク様式の教会建築が現在まで保存されており、ひじょうに風情のあるところです。本来はフランスから「歩き巡礼」するのが正式なのですが、なかなか時間には恵まれないのでそれは実現していません。

上掲の写真はそのとき現地で購入したスペイン語のガイドブックと巡礼者をかたどった金属製の置物。中世においてはサンティアゴ巡礼者は、貝と瓢箪(ひょうたん)のついた杖をもつのが目印だったそうですね。

日本でいえば四国巡礼の歩き遍路の「同行二人」の笠と杖のようなものですね。中世のサンティアゴ巡礼では、行き倒れてそのまま死ぬ人も少なくなったようです。五体投地で尺取り虫のように進むチベットのカイラス山巡礼よりかは体力的にはラクなはずなのですが・・・。

サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼は近世になってからはすっかり衰退してしまったようで、むかし読んだゲーテの『イタリア紀行』のなかに、乞食のような巡礼者を見かけたシーンがでてきたのを覚えています。18世紀末のことです。

今回の悲惨な大事故をうけて、ことしの「聖ヤコブの日」関連行事はすべて中止になったようです。お亡くなりになられた方のご冥福をお祈りいたします。

サンティアゴ・デ・コンポステーラには、またぜひ行ってみたいです。今度は巡礼の道を歩いてみたい。








<関連サイト>

サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路(wikipedia日本語版)


<ブログ内関連記事>

スペインと近代カトリック

エル・グレコ展(東京都美術館)にいってきた(2013年2月26日)-これほどの規模の回顧展は日本ではしばらく開催されることはないだろう

ひさびさに倉敷の大原美術館でエル・グレコの「受胎告知」に対面(2012年10月31日)


■中世から初期近代のカトリック世界

「祈り、かつ働け」(ora et labora)

「説教と笑い」について

クレド(Credo)とは

本日12月6日は「聖ニコラウスの日」

「マリーアントワネットと東洋の貴婦人-キリスト教文化をつうじた東西の出会い-」(東洋文庫ミュージアム)にいってきた-カトリック殉教劇における細川ガラシャ


現代カトリック世界

書評 『聖母マリア崇拝の謎-「見えない宗教」の人類学-』(山形孝夫、河出ブックス、2010)

書評 『マザー・テレサCEO-驚くべきリーダーシップの原則-』(ルーマ・ボース & ルー・ファウスト、近藤邦雄訳、集英社、2012)-ミッション・ビジョン・バリューが重要だ!

映画 『シスタースマイル ドミニクの歌』 Soeur Sourire を見てきた

書評 『修道院の断食-あなたの人生を豊かにする神秘の7日間-』(ベルンハルト・ミュラー著、ペーター・ゼーヴァルト編、島田道子訳、創元社、2011)


ヒョウタン

「世界のヒョウタン展-人類の原器-」(国立科学博物館)にいってきた(2015年12月2日)-アフリカが起源のヒョウタンは人類の移動とともに世界に拡がった

(2016年4月4日 情報追加)




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書評『誰も書かない中国進出企業の非情なる実態』(青木直人、祥伝社新書、2013)-「中国ビジネス」をただしく報道してこなかった日本の大マスコミの大罪


中国経済の減速はもはや誰の目にも明らかになっている。すでに英語圏においては「中国経済の奇跡」は終焉したという論調が支配的だ。ことしの経済成長率予測は 7.4% と ついに 8%を下回ったが、じっさいには 5%台ではないか、という予測すらでているくらいだ。

まさにこのタイミングにあわせるかのように痛快な本が出版された。『誰も書かない中国進出企業の非情なる実態』(青木直人、祥伝社新書、2013)である。中国問題の取材では定評のあるジャーナリストによる最新刊だ。

日中関係には 「井戸を掘った人を大事にする」というフレーズがある。なにごとであれ、最初に貢献してくれた人の恩はずっと忘れないという内容だが、じっさいは「美辞麗句」に過ぎなかったようだ。

昨年(2012年)夏に爆破した「反日暴動」で青島(チンタオ)のパナソニックの工場も襲撃されたが、パナソニックは "井戸を掘った" 松下幸之助が創業した会社であっただけに、日本サイドの衝撃は大きかったのだ。

1972年の日中国交回復を実現した田中角栄と周恩来にまつわるえエピソードとして、"井戸を掘った" 角栄の娘の田中真紀子が中国を訪問するたびにマスコミに撒き散らしてきたものであるが、もはやこのフレーズは中国サイドでは完全に死語となっているようだ。いやむしろ、日本サイドはこの美辞麗句に象徴される甘い認識に付け込まれてきたようだ。

本書には、パナソニックのほか、おなじく "井戸を掘った"全日空、上海に建設した「世界一」の森ビル、王子製紙の巨大プロジェクト、「中国最強商社」伊藤忠の実態、労働争議の標的とされる日系自動車企業などについての事実が取り上げられている。

本書に取り上げられた事項はすべてが本邦初公開というわけではない。著者自身がさまざまな媒体に記事として書いてきたし、部分的には大新聞以外のネットもふくめさまざまなメディアで取り上げられてきたものでもある。中国ビジネスにかかわる者であれば、直接間接を問わず耳にしてきたはずだ。

だが、こうして2013年現在の事実を一冊にまとまった形で読みとおすと、暗澹たる気持ちにならざるをえない。著者も強調しているように、大口広告主に気兼ねした日本の大マスコミが書いてこなかったことこそが大きな問題なのだ。だから、中国ビジネスを知らない人はある意味では騙されてきたのである。

とくに丹羽某なる元中国大使のひどさについては、よくぞ書いていただいたという気持ちでいっぱいだ。過去の経緯もさることながら、丹羽元大使の出身企業においては、経営をあずかる立場にある社長が「反日暴動」が勃発する一年前の 2011年8月8日時点で、事実上の中国撤退論を、なんと日本経済新聞(!)のインタビューで述べていたという事実はアタマのなかにいれておいたほうがいい。

この記事はその当時の丹羽大使との主張の違いが話題になったものだが、総合商社という情報ビジネスの経営者の立場としては、きわめてまっとうなものであるというべきだろう。インテリジェンスを重視してきた元大本営参謀・瀬島龍三の影響のよい側面であろう。

著者は「中国から撤退せよ」と主張しているが、じっさいに中国から撤退するのはかならずしも容易ではない。もし撤退するにしても、中国への投資は放棄することも覚悟しなくてはなるまい。

かつてソ連時代のロシアへの投資に際しては、共産主義という異なる政治体制でのビジネスであり、撤退する際には工場も爆破するという覚悟をもった日本人経営者もいたものだ。だが、中国に対してはなぜ催眠状態に陥ってしまったのか・・・。これもまた日本人の悪癖である「希望的観測」(wishful thinking)のあらわれか。

ただ思うのは、中国から脱出したとしても、東南アジアにおいても中国と同様の事例は存在することを忘れてはならないということだ。「親日」や「反日」だけでものごとを判断するのはきわめて危険である。

「アウェイ」における海外ビジネスというものが「ホーム」である日本国内のビジネスとはいかに異なるものかを認識するとともに、中国ビジネスの失敗はきちんと検証しておくことが今後のためにも絶対に不可欠なことだろう。必要なのは『失敗の研究』である。

どうも日本人は一般的に過去の失敗をきちんと整理検証しないまま、つぎの戦線に「転進」してしまう悪癖があるようだ。ビジネスパーソンは、とくに心しなくてはならない。






目 次

序説 本当は恐ろしい中国ビジネス
 なぜ、日本からの中国投資だけが突出しているのか
 二〇一二年と二〇〇六年との、三つの違い
 中国人労働者の高まる権利意識
 習近平指導部は、「紅衛兵内閣」
 大手メディアが決して報じない怖い話
 操作される経営の実態
第1章 全日空-「井戸を掘った人」が受けた仕打ち
 日中経済交流のパイオニア、岡崎嘉平太氏
 「北京新世紀飯店」の中国人社長は、なぜ突然姿を消したのか
  「いまの中国人は、水道水を飲んでいます」
 松下幸之助に対する忘恩の仕打ち
第2章 王子製紙-ストップした工事の行方
 投資額二〇〇〇億円、巨大プロジェクトの突然中止の衝撃
 進出企業が合弁事業を嫌がる理由
 なぜ、工事が止まったのか
 ある日突然、順法が違法に変わる恐ろしさ
 環境問題に関する中国国内の対立
 中国進出企業が一様に抱いた幻想
第3章 森ビル-上海に建てた「世界一」の高層ビル
 日本の資本援助でできた上海の近代化
 「日の丸プロジェクト」と浮かれ立つ日本のメディア
 一年で六センチ以上、地盤沈下する土地
 なぜ、絶対に中止することが許されないのか
 一夜にして巨大な富を手に入れる地元の政治家
 度重なる中国からの無茶な追加要求
 失われた景観、笑うしかない仕打ち
第4章 労働争議に立ち向かう自動車メーカー
 ある中小部品メーカーの倒産
 破綻したマイカー・バブル、迫りくる過剰在庫
 中国に全国レベルの市場は存在しない
 「地方主義」がもたらす大きな落とし穴
 人件費の高騰、人員整理、労働争議の止まらぬ悪循環
 ホンダを襲った広州の大規模ストライキ
 トヨタと胡錦濤、GMと江沢民
 宋慶齢基金会に対するトヨタの巨額献金
 なぜトヨタ・バッシングが起こったのか
第5章 伊藤忠-人脈ビジネスの破綻
 中国における伊藤忠の大きな存在感
 伊藤忠が他社を出し抜いた理由
 誰もが断れない政治献金
 鄧小平の息子たちに群がる海外企業
 日本の円借款だけが持つ特異な性格
 伊藤忠・室伏社長と、江沢民との会談
 王震と伊藤忠を結ぶ黒い糸
 元伊藤忠・中国総代表の開き直り発言
 日経新聞に載った岡藤社長発言の大いなる波紋
 「利益は中国現地に寝かせずに、日本に持って帰れ」
 一党独裁国家における人脈ビジネスの末路
第6章 伊藤忠の代理人、丹羽「中国大使」の退場
 なぜ、一企業のトップが中国大使になれたのか
 対中ODAの継続を主張した丹羽大使
 尖閣諸島問題に関しての妄言
 ビジネスのことしか頭にない中国大使
 あまりに軽率なチベット訪問
 なぜ丹羽大使は石をもて追われたか
終章 中国をつけ上がらせた歴代中国大使の「大罪」
 なぜ、歴代の中国大使は中国に迎合するのか
 中国大使退職後の天下り先一覧


著者プロフィール  

青木直人(あおき・なおと)
ジャーナリスト。ネット紙「ニューズレター・チャイナ」編集長。1953年、島根県生まれ。中央大学卒。中国問題に関する緻密な取材力と情報収集力に定評があり、中国・東アジア関連の著作多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

「中国経済のリスク インフレ抑制難しく」(日本経済新聞 2011年8月8日)

Recognizing the End of the Chinese Economic Miracle Geopolitical Weekly TUESDAY, JULY 23, 2013 ・・米国の民間インテリジェンス分析機関ストラットフォー主筆ジョージ・フリードマン氏の論考「中国経済の奇跡の終焉を認識する」。英語圏のビジネスが中国経済を見るまなざしに変化。潮目は急速に変化(sea change)しつつある。変わり身の早い英米の投資家マインド。

周到に準備された防空識別圏-日本は2016年まで孤立状態が続く (イアン・ブレマー、インタビュアー=石黒千賀子、日経ビジネスオンライン 2013年12月20日)
・・「ブレマー氏: 今回、日本に滞在している間に会った2人の日本企業のCEO(最高経営責任者)が、今後の中国への投資は欧州の関係会社や子会社を通じて行うことにしたと明かしてくれました。賢明な判断だと思います。 日本企業による中国投資は今後リスクが増すでしょう。欧州、特に経済の強いドイツにおける子会社や合弁会社を使って投資するのは1つの選択肢と考えられます・・(中略)・・中国に投資するリスクについては今まで以上に警戒する必要があります。中国市場は極めて危うく、中国事業は赤字に陥るリスクさえあると認識すべきです」

「俺は中国から脱出する!」ある中小企業経営者の中国撤退ゲリラ戦記 (ダイヤモンドオンライン、2014年7月4日)
・・「風林火山」はもともと孫子の兵法の一説であり、現代中国のビジネス社会でも有効な戦術。A社長は無意識のままにこれを実践」 ⇒読む価値ある好記事!

(2014年7月4日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

書評 『中国ビジネスの崩壊-未曾有のチャイナリスクに襲われる日本企業-』(青木直人、宝島社、2012)-はじめて海外進出する中堅中小企業は東南アジアを目指せ!

書評 『中国台頭の終焉』(津上俊哉、日経プレミアムシリーズ、2013)-中国における企業経営のリアリティを熟知しているエコノミストによるきわめてまっとうな論

書評 『誰も語らなかったアジアの見えないリスク-痛い目に遭う前に読む本-』(越 純一郎=編著、日刊工業新聞、2012)-「アウェイ」でのビジネスはチャンスも大きいがリスクも高い


書評 『中国貧困絶望工場-「世界の工場」のカラクリ-』(アレクサンドラ・ハーニー、漆嶋 稔訳、日経BP社、2008)-中国がなぜ「世界の工場」となったか、そして今後どうなっていくかのヒントを得ることができる本

書評 『新・通訳捜査官-実録 北京語刑事 vs. 中国人犯罪者8年闘争-』(坂東忠信、経済界新書、2012)-学者や研究者、エリートたちが語る中国人とはかなり異なる「素の中国人」像

書評 『官報複合体-権力と一体化する新聞の大罪-』(牧野 洋、講談社、2012)-「官報複合体」とは読んで字の如く「官報」そのものだ!

『大本営参謀の情報戦記-情報なき国家の悲劇-』(堀 栄三、文藝春秋社、1989 文春文庫版 1996)で原爆投下「情報」について確認してみる

「希望的観測」-「希望」 より 「勇気」 が重要な理由


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2013年7月24日水曜日

書評『世界史の中の資本主義 ー エネルギー、食料、国家はどうなるか』(水野和夫+川島博之=編著、東洋経済新報社、2013)ー「常識」を疑い、異端とされている著者たちの発言に耳を傾けることが重要だ



「これから10年、大転換後の大局を読む」と帯のキャッチコピーにあるが、「10年後」までではなく、さらに数十年もつづくであろう「移行期の長い21世紀」について考えるための本である。

「100年デフレ」論者の水野和夫氏の主張を、エネルギーと食料という人間の経済にとっての制約条件であり、かつ人間の生存に不可欠なライフラインの二大分野を具体的に見ていくことで、ビジネスパーソンを中心にした読者も読めば素直にアタマに入ってくるような読みやすい本に仕上がっている。

エネルギーと食料の分野でいま進行しているのは「商品化」と「金融化」というキーワードで表現することができる。

商品化はコモディティ化といいかえてもいいが、これはもともと差別化が難しく大量にバルクで取引される原油取引市場や穀物取引市場においては常識となっていたものだが、こういった分野では季節ごとの需給変動や天変地異などの気候変動などに対応するため先物取引(フューチャーズ)が発達してきた。

2000年代以降は先進国におけるカネ余り現象のなか、アメリカを中心に「経済の金融化」が進展し、エネルギーや食料などの先物取引市場に実物取引のプレイヤーではない、機関投資家やファンドなどの金融プレイヤーたちが大量に参加するようになってきた。これが「金融化」である。

エネルギーや食料が「金融化」したことにより、実需とは関係なく相場が乱高下する事態が観察されるようになったのである。つまり価格変動は実体経済の動きとは関係なくなっているのである。

そもそも先物取引市場は、実需の変動リスクを最小にするために設計され開設されてきたものだが、いまでは実体経済の動きとは関係なく、金融取引として相場が操作されるようになっているのである。つまりガセネタもふくめた「情報」に過敏に反応する状態となっているのだ。

エネルギーはもちろん無限ではないが、そのときどきの経済状況とエネルギー価格、そして掘削テクノロジーによって不思議なことに埋蔵量は増大している。食料は一般人の常識とは異なり、1910年代の空中窒素固定法の発明による化学肥料というテクノロジーによって、むしろ過剰な状態が続いている。だからこそ食料価格が下落しがちなのであり、そのために先進国は補助金によって農家の所得補償を行わざるを得ないのである。

そもそも食料が過剰でなければ地球全体で人口が増加するはずがないという川島氏の主張には説得力がある。川島氏は本書では言及していないが、大飢饉が発生するのはディストリビューション(流通)の問題であるという経済厚生学のアマルティヤ・セン博士の主張はしっておくべきだろう。したがって、世界的には食料は過剰だが、飢饉や食料暴動が単発的かつ局地的に発生することは今後もありうる

このようにエネルギーと食料について具体的に見てくことで、カネ余り現象のなか「経済の金融化」が進行し、行き場を失ったマネーがエネルギー市場や食料市場という商品市場で暴れ回っている現状が理解されるだけでなく、水野和夫氏の「100年デフレ」論が具体的な裏付けで強化されて、さらに説得力が増すものとなったといえよう。現在はつぎの時代に転換するための移行期なのだ。

しかし、これほど説得力のある水野理論が、なぜいまでも「異端」とされているのか? 

それは機関投資家やファンドマネージャーたちが、いわゆる「ポジショントーク」によって相場が自分たちに有利になるような情報操作しているからだろう。投資銀行のゴールドマン・サックスが打ち出した「BRICs」などその最たるものといっていいのではないか。マスコミもまたそれを煽って増幅している。

経済は「金融化」すればするほど、相場は「情報」に敏感に反応するようになる。たとえそれがつくられた恣意的なストーリーであっても、繰り返し耳にすることによって「常識」となってしまうのである。誰もが無知なビジネスパーソンと思われては恥ずかしい思いはしたくないだろう。それはある意味では、洗脳によるマインドコントロールといっていいかもしれない。

本書ではエネルギーと食料について大きく取り上げられている。共通するのは「過剰」というキーワードだ。

この過剰という現実が超長期的なデフレ状態をもたらし、さらには経済全体の停滞をもたらすのだが、本書では言及されていないのが労働力の過剰である。日本をはじめとする先進国では人口減少フェーズにあるが、省力化テクノロジーの発達によって労働力が過剰になっているのである。

労働力も供給過剰になれば、当然のことながら賃金水準は下がっていくことになる。だが、デフレ状態がつづくのであれば低所得でもそれなりの暮らしを送ることは可能となると考えてよいものかどうか・・・

こういった経済と社会をめぐる重要問題を考えるためにも、「常識」を疑い異端とされている著者たちの発言に耳を傾けることが重要だ。

これからどう生きていくか考えるためにも、ぜひ最初からすべて読んだうえで、自分のアタマで考えてほしいと思う。事実を事実として曇りなき眼で冷静に見ることほど難しいものはないのだから。





目 次

はじめに-世界史の中の資源バブル
第1章 【資本主義】-金融バブルが引き起こす世界史の大転換(水野和夫)
第2章 【エネルギー問題】-シェール革命が進むも原油価格の大暴落は起こらない(角和昌浩)
第3章 【食料問題】-これから世界は食料の「過剰な時代」へ突入する(川島正之)
第4章 【世界システム】-金融化した資本主義と第二の近代(山下範久)
終章 近代資本主義の終わりと次なる社会システムについて(水野和夫)
座談会 「長い二一世紀」において、資源、食料、資本主義はどこヘ向かうのか(水野和夫・角和昌浩・川島正之・山下範久) 


編著者プロフィール

水野 和夫(みずの・かずお)
日本大学国際関係学部教授 1953年生まれ。早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了。八千代証券(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)入社。金融市場調査部長、執行役員、理事・チーフエコノミストなどを務める。2010年9月三菱UFJモルガン・スタンレー証券を退社し、内閣府大臣官房審議官、内閣官房内閣審議官。2013年4月より日本大学国際関係学部教授。主な著書に『100年デフレ』(日本経済新聞社、2003年)、『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』(日本経済新聞社、2007年)、『超マクロ展望 世界経済の真実』(共著:集英社、2010年)、『資本主義という謎』(共著:NHK出版、2013年)がある。

川島 博之(かわしま・ひろゆき)

東京大学大学院農学生命科学研究科准教授 1953年生まれ。1977年東京水産大学卒業。1983年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得のうえ退学(工学博士)。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員などを経て、現在、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。主な著書に『世界の食料生産とバイオマスエネルギー』(東京大学出版会、2008年)、『「食糧危機」をあおってはいけない』(文藝春秋、2009年)、『「作りすぎ」が日本の農業をダメにする』(日本経済新聞出版、2011年)、『データで読み解く中国経済』(東洋経済新報社、2012年)

角和昌浩(かくわ・まさひろ)
昭和シェル石油チーフエコノミスト。1953年生まれ。東京大学法学部政治学科卒業。

山下範久(やました・のりひさ)
立命館大学国際関係学部教授。1971年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得、ニューヨーク大学ビンガムトン校社会学部大学院においてI.ウォーラースティンに師事。


<ブログ内関連記事>

書評 『終わりなき危機-君はグローバリゼーションの真実を見たか-』(水野和夫、日本経済新聞出版社、2011)-西欧主導の近代資本主義500年の歴史は終わり、「長い21世紀」を生き抜かねばならない

書評 『超マクロ展望-世界経済の真実』(水野和夫・萱野稔人、集英社新書、2010)-「近代資本主義」という既存の枠組みのなかで設計された金融経済政策はもはや思ったようには機能しない

「500年単位」で歴史を考える-『クアトロ・ラガッツィ』(若桑みどり)を読む

書評 『21世紀の歴史-未来の人類から見た世界-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2008)-12世紀からはじまった資本主義の歴史は終わるのか? 歴史を踏まえ未来から洞察する

書評 『国家債務危機-ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2011)-公的債務問題による欧州金融危機は対岸の火事ではない!

書評 『歴史入門』 (フェルナン・ブローデル、金塚貞文訳、中公文庫、2009)-「知の巨人」ブローデルが示した世界の読み方

「バークレー白熱教室」が面白い!-UCバークレーの物理学者による高校生にもわかるリベラルアーツ教育としてのエネルギー問題入門

書評 『日本は世界5位の農業大国-大噓だらけの食料自給率-』(浅川芳裕、講談社+α新書、2010)-顧客志向の「先進国型ビジネス」としての日本農業論

大飢饉はなぜ発生するのか?-「人間の安全保障」論を展開するアマルティヤ・セン博士はその理由を・・・

書評 『日本式モノづくりの敗戦-なぜ米中企業に勝てなくなったのか-』(野口悠紀雄、東洋経済新報社、2012)-産業転換期の日本が今後どう生きていくべきかについて考えるために

書評 『官報複合体-権力と一体化する新聞の大罪-』(牧野 洋、講談社、2012)-「官報複合体」とは読んで字の如く「官報」そのものだ!

書評 『「空気」と「世間」』(鴻上尚史、講談社現代新書、2009)-日本人を無意識のうちに支配する「見えざる2つのチカラ」。日本人は 「空気」 と 「世間」 にどう対応して生きるべきか?


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