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2024年2月17日土曜日

書評『トヨタ 中国の怪人 ― 豊田章男を社長にした男』(児玉博、文藝春秋、2024)― トヨタの中国ビジネスを軌道に乗せた男の壮絶な前半生とビジネスマンとしての生き様

 
 
『トヨタ 中国の怪人 ー 豊田章男を社長にした男』(児玉博、文藝春秋、2024)が面白いので一気読み。ことし2月にでたばかりのビジネス・ノンフィクションだ。  

「中国の怪人」こと遠藤悦雄、それが本書の主人公である。トヨタ中国事務所総代表として、ホンダや日産などのライバル企業に遅れに遅れた中国ビジネスを起死回生の秘策で軌道に乗せた男。 

そして、その結果として、御曹司の豊田章男を社長に押し上げた最大の功績者だが、公式の記録からは見えない存在にされてしまった男。 

そうか、そんな男がいたのか、そんなことが内部で進行していたのか・・・。リアルタイムの企業内部ものではないが、そんな驚きを歴史もののビジネス・ノンフィクションとして堪能できる。 

だが、それだけではない。なんといっても、この遠藤氏の前半生があまりにもすさまじいのである。想像を絶しているといっていい。 




満洲に赴任した技術者の父のもと、日本統治下の満洲で生まれた遠藤氏は、日本の敗戦後に父が中国共産党に「留用」されたため一家は中国に残留を余儀なくされ、中共統治下で凄絶なまでの人生を送っている。

日本に「帰国」できたのは、なんと27歳になってから、しかも1970年のことであった。大坂で万博が開催された年である。高度成長期の絶頂にあった日本は、同時期の中国とは雲泥の差があった。まさに別世界といってもよい状態であった。日中国交回復は1972年のことである。

中国で育ち、中国人とおなじ苦難の日々を送り、しかも日本人であるがゆえに、中国人以上の辛酸をなめている。中国と中国人を知り尽くしているといってもいいのである。

そんな遠藤氏が「中国人の本質」だとして著者に示したのが「好 死 不 如 懶 活」という漢字6文字の中国語。意味は、「きれいに死ぬよりも、惨めに生きたほうがまし」。

まさに遠藤氏の生き様そのものである。中共統治下の過酷な時代を生き抜いた日本人の口から発せられることばの重みが違う。 潔さに美学を見いだす日本人とはまったく違うのである。 

そんな個性的クセの強い遠藤氏の能力を見抜き、使いこなした数少ない人物が、トヨタ中興の祖ともいうべきサラリーマン社長の奥田碩氏であり、世襲で経営者となった豊田章男氏であった。ともに遠藤氏のネイティブとしての中国語能力と豊富な人脈をフルに使い切っている。 

トヨタとは直接関係ないわたしだが、大学の後輩(ただし、学部も部活も違う)として、一部上場企業の世襲を阻止しようとする奥田氏には大いに共感を感じていたものだ。残念ながら、豊田ファミリーへの「大政奉還」が実現して現在に至る。その影にいたのが遠藤氏だったのか・・・。 


今回の『トヨタ 中国の怪人』もまた、日本企業にとっては異質なバックグラウンドをもちながら、日本のビジネス社会で孤軍奮闘しながらも、最後は刀折れ矢尽きていった男の人生を描いている。

時代と運命に翻弄されただけでなく、晩年にいたっても、日本人でも中国人でもないようなアイデンティティの揺らぎを抱き続ける人生。

それほど数奇で濃厚な人生を送った、そんなひとりの「日本人」の聞き書きをもとにした作品である。 読ませるノンフィクションである。それだけでなく、事例としてさまざまな教訓を導きだすことも可能だろう。


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目 次
序章 中国人の本質
第1章 豊田章一郎の裏切り
第2章 日本の子鬼
第3章 毛沢東の狂気
第4章 零下20度の掘っ建て小屋
第5章 文化大革命の嵐
第6章 悲願の帰国
第7章 日米自動車摩擦の代償
第8章 豊田英二の危惧
第9章 はめられたトヨタ
第10章 起死回生の秘策
第11章 豊田章男の社長室
主要参考文献・映像作品

著者プロフィール  
児玉博(こだま・ひろし)
1959年生まれ。早稲田大学卒業後、フリーランスとして取材、執筆活動を行う。月刊「文藝春秋」や「日経ビジネス」で企業のインサイドレポートを発表。著書に大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)の受賞作を単行本化した『堤清二 罪と業 最後の「告白」』など。(本データは2017年の『テヘランから来た男』が刊行された当時に掲載されていたもの)


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2019年11月24日日曜日

現代中国を考えるために読んだ5冊(2019年11月24日)ー『幸福な監視国家・中国』・『スッキリ中国論』・『習近平のデジタル革命』・『戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊』・『食いつめものブルース』



週末の土日で中国関連本を5冊読了。いずれも読みたかったが、積ん読状態だったもの。1冊読むと関連する本を読みたくなる。「チェーン・リーディング」というやつですかね。


●『幸福な監視国家・中国』(梶谷懐/高口康太、NHK新書、2019)
●『スッキリ中国論-スジの日本、量の中国』(田中信彦、日経BP社、2018)
●『習近平のデジタル革命-24時間を監視され全人生を支配される中国人の悲劇』(川島博之、講談社+α新書、2018) 
●『戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊』(川島博之、講談社+α新書、2017)
●『食いつめものブルース-3億人の中国農民工』(山田泰司、日経BP社、2017)


そもそもは、中国においてデジタル監視テクノロジーが急速に進歩し、精緻化する状況について考えるために『幸福な監視国家・中国』を読んでみた。テクノロジーそのものにイデオロギーはないのであり、功利主義的パターナリズムという観点において、先進諸国も変わりはないというということ、ただし、中国の場合は、儒教的支配とネット管理システムの親和性が高いことを確認。

『スッキリ中国論-スジの日本、量の中国』は、ビジネス書。上海を拠点に中国で人材ビジネスを起こっている著者が、長年の経験と観察をもとにまとめた、ある種のビジネス文化論。スジ(=べき論)vs 量(=現実)の対比は、やや類型化しすぎるかなという傾向がなきにしもあらずだが、内容はとても面白い。しかも実践的である。

『習近平のデジタル革命』は、中国共産党の行方についてはネガティブな見解。ただし、著者が強調するように、中国13億人は「都市戸籍」の所有者である4億人が、「農村戸籍」の所有者である9億人を搾取する構造にあるとする、いわば身分が固定化した江戸時代のような社会体制であることが議論の前提にある。そのため、著者の前著である『戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊』とあわせて読むと、より理解が深まることになる。著者は、開発経済学と環境経済学が専門で理系の人。農業と人口問題の観点から中国を分析し、その他のアジア各国との比較に説得力がある。

「農民工」は、「農村戸籍」の所有者のうち北京や上海、広州などの大都市で働くワーカーのこと。工場労働者だけでなく、建設労働者、さらに低賃金のサービス産業従事者である。『食いつめものブルース-3億人の中国農民工』は、上海をベースに農民工たちとの交流をつうじて、その実態に迫った内容。いわば「下から見た中国」である。おなじ上海をベースにしているといっても、『スッキリ中国論』とは対極的な内容だ。立ち位置が違うだけではない。ビジネス処世術と社会分析との違いといってもいいだろう。

川島博之氏が整理しているように、中国13億人は一体ではない沿海部の「都市戸籍」の4億人と「農村戸籍」9億人(そのうち6億人が農民工)に厳然と区別されている「非民主主義国家」である。この点は、現代の日本人には感覚的に理解不能な点だ。しかも、人口規模がおなじのインドとも根本的に違う。インドにはカースト制が存在するが、世界最大の民主主義国家である。とはいえ、中国が「民主化」したら崩壊してしまう。そういう脆弱性を抱えている。

「都市戸籍」の4億人が支持する限り、中国共産党は安泰だが、はたして現体制はかれらの支持を受け続けることができるか。景気減速が常態化した「新状態」(ニューノーマル)のもと、現在のところネット革命、とくにスマホ革命がもたらした恩恵を享受しているため、国家が個人情報を完全に握っている現状に不平を表明することはあまりないが、さて今後はどうなっていくのだろうか。高度成長時代は、中国においてもすでに終わっているのである。

中国を理解するのは容易ではないが、理解しようとする意志は持ち続けなくてはならないと思う次第。以上、雑感として。













<ブログ内関連記事>

書評 『中国貧困絶望工場-「世界の工場」のカラクリ-』(アレクサンドラ・ハーニー、漆嶋 稔訳、日経BP社、2008)-中国がなぜ「世界の工場」となったか、そして今後どうなっていくかのヒントを得ることができる本

書評 『中国絶望工場の若者たち-「ポスト女工哀史」世代の夢と現実-』(福島香織、PHP研究所、2013)-「第二代農民工」の実態に迫るルポと考察

映画 『苦い銭』(2016年、フランス・香港合作)をイメージフォーラムで見てきた(2018年2月12日)-生きるために飯を食う、そのためにカネを稼ぐのが人生

書評 『蟻族-高学歴ワーキングプアたちの群れ-』(廉 思=編、関根 謙=監訳、 勉誠出版、2010)-「大卒低所得群居集団」たちの「下から目線」による中国現代社会論

書評 『中国台頭の終焉』(津上俊哉、日経プレミアムシリーズ、2013)-中国における企業経営のリアリティを熟知しているエコノミストによるきわめてまっとうな論

書評 『現代中国の産業-勃興する中国企業の強さと脆さ-』(丸山知雄、中公新書、2008)-「オープン・アーキテクチャー」時代に生き残るためには

書評 『三体』(劉慈欣、大森望/光吉さくら/ワン・チャイ訳、立原透耶=監修、早川書房、2019)-このSFはたしかにすごい!


 
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2013年7月25日木曜日

書評『誰も書かない中国進出企業の非情なる実態』(青木直人、祥伝社新書、2013)-「中国ビジネス」をただしく報道してこなかった日本の大マスコミの大罪


中国経済の減速はもはや誰の目にも明らかになっている。すでに英語圏においては「中国経済の奇跡」は終焉したという論調が支配的だ。ことしの経済成長率予測は 7.4% と ついに 8%を下回ったが、じっさいには 5%台ではないか、という予測すらでているくらいだ。

まさにこのタイミングにあわせるかのように痛快な本が出版された。『誰も書かない中国進出企業の非情なる実態』(青木直人、祥伝社新書、2013)である。中国問題の取材では定評のあるジャーナリストによる最新刊だ。

日中関係には 「井戸を掘った人を大事にする」というフレーズがある。なにごとであれ、最初に貢献してくれた人の恩はずっと忘れないという内容だが、じっさいは「美辞麗句」に過ぎなかったようだ。

昨年(2012年)夏に爆破した「反日暴動」で青島(チンタオ)のパナソニックの工場も襲撃されたが、パナソニックは "井戸を掘った" 松下幸之助が創業した会社であっただけに、日本サイドの衝撃は大きかったのだ。

1972年の日中国交回復を実現した田中角栄と周恩来にまつわるえエピソードとして、"井戸を掘った" 角栄の娘の田中真紀子が中国を訪問するたびにマスコミに撒き散らしてきたものであるが、もはやこのフレーズは中国サイドでは完全に死語となっているようだ。いやむしろ、日本サイドはこの美辞麗句に象徴される甘い認識に付け込まれてきたようだ。

本書には、パナソニックのほか、おなじく "井戸を掘った"全日空、上海に建設した「世界一」の森ビル、王子製紙の巨大プロジェクト、「中国最強商社」伊藤忠の実態、労働争議の標的とされる日系自動車企業などについての事実が取り上げられている。

本書に取り上げられた事項はすべてが本邦初公開というわけではない。著者自身がさまざまな媒体に記事として書いてきたし、部分的には大新聞以外のネットもふくめさまざまなメディアで取り上げられてきたものでもある。中国ビジネスにかかわる者であれば、直接間接を問わず耳にしてきたはずだ。

だが、こうして2013年現在の事実を一冊にまとまった形で読みとおすと、暗澹たる気持ちにならざるをえない。著者も強調しているように、大口広告主に気兼ねした日本の大マスコミが書いてこなかったことこそが大きな問題なのだ。だから、中国ビジネスを知らない人はある意味では騙されてきたのである。

とくに丹羽某なる元中国大使のひどさについては、よくぞ書いていただいたという気持ちでいっぱいだ。過去の経緯もさることながら、丹羽元大使の出身企業においては、経営をあずかる立場にある社長が「反日暴動」が勃発する一年前の 2011年8月8日時点で、事実上の中国撤退論を、なんと日本経済新聞(!)のインタビューで述べていたという事実はアタマのなかにいれておいたほうがいい。

この記事はその当時の丹羽大使との主張の違いが話題になったものだが、総合商社という情報ビジネスの経営者の立場としては、きわめてまっとうなものであるというべきだろう。インテリジェンスを重視してきた元大本営参謀・瀬島龍三の影響のよい側面であろう。

著者は「中国から撤退せよ」と主張しているが、じっさいに中国から撤退するのはかならずしも容易ではない。もし撤退するにしても、中国への投資は放棄することも覚悟しなくてはなるまい。

かつてソ連時代のロシアへの投資に際しては、共産主義という異なる政治体制でのビジネスであり、撤退する際には工場も爆破するという覚悟をもった日本人経営者もいたものだ。だが、中国に対してはなぜ催眠状態に陥ってしまったのか・・・。これもまた日本人の悪癖である「希望的観測」(wishful thinking)のあらわれか。

ただ思うのは、中国から脱出したとしても、東南アジアにおいても中国と同様の事例は存在することを忘れてはならないということだ。「親日」や「反日」だけでものごとを判断するのはきわめて危険である。

「アウェイ」における海外ビジネスというものが「ホーム」である日本国内のビジネスとはいかに異なるものかを認識するとともに、中国ビジネスの失敗はきちんと検証しておくことが今後のためにも絶対に不可欠なことだろう。必要なのは『失敗の研究』である。

どうも日本人は一般的に過去の失敗をきちんと整理検証しないまま、つぎの戦線に「転進」してしまう悪癖があるようだ。ビジネスパーソンは、とくに心しなくてはならない。






目 次

序説 本当は恐ろしい中国ビジネス
 なぜ、日本からの中国投資だけが突出しているのか
 二〇一二年と二〇〇六年との、三つの違い
 中国人労働者の高まる権利意識
 習近平指導部は、「紅衛兵内閣」
 大手メディアが決して報じない怖い話
 操作される経営の実態
第1章 全日空-「井戸を掘った人」が受けた仕打ち
 日中経済交流のパイオニア、岡崎嘉平太氏
 「北京新世紀飯店」の中国人社長は、なぜ突然姿を消したのか
  「いまの中国人は、水道水を飲んでいます」
 松下幸之助に対する忘恩の仕打ち
第2章 王子製紙-ストップした工事の行方
 投資額二〇〇〇億円、巨大プロジェクトの突然中止の衝撃
 進出企業が合弁事業を嫌がる理由
 なぜ、工事が止まったのか
 ある日突然、順法が違法に変わる恐ろしさ
 環境問題に関する中国国内の対立
 中国進出企業が一様に抱いた幻想
第3章 森ビル-上海に建てた「世界一」の高層ビル
 日本の資本援助でできた上海の近代化
 「日の丸プロジェクト」と浮かれ立つ日本のメディア
 一年で六センチ以上、地盤沈下する土地
 なぜ、絶対に中止することが許されないのか
 一夜にして巨大な富を手に入れる地元の政治家
 度重なる中国からの無茶な追加要求
 失われた景観、笑うしかない仕打ち
第4章 労働争議に立ち向かう自動車メーカー
 ある中小部品メーカーの倒産
 破綻したマイカー・バブル、迫りくる過剰在庫
 中国に全国レベルの市場は存在しない
 「地方主義」がもたらす大きな落とし穴
 人件費の高騰、人員整理、労働争議の止まらぬ悪循環
 ホンダを襲った広州の大規模ストライキ
 トヨタと胡錦濤、GMと江沢民
 宋慶齢基金会に対するトヨタの巨額献金
 なぜトヨタ・バッシングが起こったのか
第5章 伊藤忠-人脈ビジネスの破綻
 中国における伊藤忠の大きな存在感
 伊藤忠が他社を出し抜いた理由
 誰もが断れない政治献金
 鄧小平の息子たちに群がる海外企業
 日本の円借款だけが持つ特異な性格
 伊藤忠・室伏社長と、江沢民との会談
 王震と伊藤忠を結ぶ黒い糸
 元伊藤忠・中国総代表の開き直り発言
 日経新聞に載った岡藤社長発言の大いなる波紋
 「利益は中国現地に寝かせずに、日本に持って帰れ」
 一党独裁国家における人脈ビジネスの末路
第6章 伊藤忠の代理人、丹羽「中国大使」の退場
 なぜ、一企業のトップが中国大使になれたのか
 対中ODAの継続を主張した丹羽大使
 尖閣諸島問題に関しての妄言
 ビジネスのことしか頭にない中国大使
 あまりに軽率なチベット訪問
 なぜ丹羽大使は石をもて追われたか
終章 中国をつけ上がらせた歴代中国大使の「大罪」
 なぜ、歴代の中国大使は中国に迎合するのか
 中国大使退職後の天下り先一覧


著者プロフィール  

青木直人(あおき・なおと)
ジャーナリスト。ネット紙「ニューズレター・チャイナ」編集長。1953年、島根県生まれ。中央大学卒。中国問題に関する緻密な取材力と情報収集力に定評があり、中国・東アジア関連の著作多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

「中国経済のリスク インフレ抑制難しく」(日本経済新聞 2011年8月8日)

Recognizing the End of the Chinese Economic Miracle Geopolitical Weekly TUESDAY, JULY 23, 2013 ・・米国の民間インテリジェンス分析機関ストラットフォー主筆ジョージ・フリードマン氏の論考「中国経済の奇跡の終焉を認識する」。英語圏のビジネスが中国経済を見るまなざしに変化。潮目は急速に変化(sea change)しつつある。変わり身の早い英米の投資家マインド。

周到に準備された防空識別圏-日本は2016年まで孤立状態が続く (イアン・ブレマー、インタビュアー=石黒千賀子、日経ビジネスオンライン 2013年12月20日)
・・「ブレマー氏: 今回、日本に滞在している間に会った2人の日本企業のCEO(最高経営責任者)が、今後の中国への投資は欧州の関係会社や子会社を通じて行うことにしたと明かしてくれました。賢明な判断だと思います。 日本企業による中国投資は今後リスクが増すでしょう。欧州、特に経済の強いドイツにおける子会社や合弁会社を使って投資するのは1つの選択肢と考えられます・・(中略)・・中国に投資するリスクについては今まで以上に警戒する必要があります。中国市場は極めて危うく、中国事業は赤字に陥るリスクさえあると認識すべきです」

「俺は中国から脱出する!」ある中小企業経営者の中国撤退ゲリラ戦記 (ダイヤモンドオンライン、2014年7月4日)
・・「風林火山」はもともと孫子の兵法の一説であり、現代中国のビジネス社会でも有効な戦術。A社長は無意識のままにこれを実践」 ⇒読む価値ある好記事!

(2014年7月4日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

書評 『中国ビジネスの崩壊-未曾有のチャイナリスクに襲われる日本企業-』(青木直人、宝島社、2012)-はじめて海外進出する中堅中小企業は東南アジアを目指せ!

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書評 『誰も語らなかったアジアの見えないリスク-痛い目に遭う前に読む本-』(越 純一郎=編著、日刊工業新聞、2012)-「アウェイ」でのビジネスはチャンスも大きいがリスクも高い


書評 『中国貧困絶望工場-「世界の工場」のカラクリ-』(アレクサンドラ・ハーニー、漆嶋 稔訳、日経BP社、2008)-中国がなぜ「世界の工場」となったか、そして今後どうなっていくかのヒントを得ることができる本

書評 『新・通訳捜査官-実録 北京語刑事 vs. 中国人犯罪者8年闘争-』(坂東忠信、経済界新書、2012)-学者や研究者、エリートたちが語る中国人とはかなり異なる「素の中国人」像

書評 『官報複合体-権力と一体化する新聞の大罪-』(牧野 洋、講談社、2012)-「官報複合体」とは読んで字の如く「官報」そのものだ!

『大本営参謀の情報戦記-情報なき国家の悲劇-』(堀 栄三、文藝春秋社、1989 文春文庫版 1996)で原爆投下「情報」について確認してみる

「希望的観測」-「希望」 より 「勇気」 が重要な理由


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2013年4月5日金曜日

書評 『「科学技術大国」中国の真実』(伊佐進一、講談社現代新書、2010)-中国の科学技術を国家レベルと企業レベルで概観する好レポート



読みやすい報告書といった感じの新書である。理科系の著者らしく、理路整然と論を進める書き方が心地よい。ただし、「真実」というコトバよりも、「真相」あるいは「事実」と題したほうがよかったと思う。タイトルは出版社がつけたのだろうが。

本書で明らかにされているのは、大量に資源を投入するタイプの技術分野では中国の優位性はきわめて高いという「事実」である。

「第3章 宇宙開発大国・中国」、「第4章 猛追する中国のライフサイエンス」を読めば、その実態には圧倒されるばかりだ。とくに軍事と結びついた宇宙開発に中国がチカラを入れてきたことは、中国現代史からいって十分に納得のいくことだ。だが、本書では軍事予算をバックにした研究開発についての言及が薄いのが残念だ。

国家が関与する分野での強さに対し、民間レベルでの技術開発力の弱さが、「第5章 中国の「ハイテク」企業事情」でくわしく述べられている。たしかに、ハイテク分野での著名な中国企業は想像以上に少ない。

これにはさまざまな要因が存在するが、「第6章 発展への阻害要因」で触れられているように、「産官学がすべて国有であった歴史の弊害」や、科学や技術が成立する「風土」の影響も大きいようだ。3年間にわたってフィールドワークを行った著者ならではの結論でもある。

中国人民の根強く存在する「ヒーロー礼讃」傾向が宇宙開発など見えやすい開発に傾斜しがちな傾向を生む一方、古来からの面子(メンツ)重視が失敗を恐れる風土を生んでいると。前者については、同じ大陸国である旧ソ連や米国にも共通するものだ。

学問研究や科学的探求に不可欠な自由闊達な意見表明を行いにくい中国共産党統治下の政治風土にまで踏み込んで言及しているのは、著者が外国人であることのメリットだろう。科学(サイエンス)と技術(テクノロジーおよび工学 エンジニアリング)の違いがそこにはある。

現在の中国では「創新」が強調されているが、世界を変えるようなほんとうの意味でのイノベーションは不可能である。なぜなら、体制の安定を揺るがすような価値観変容をもたらす「恐れ」があるから、どうしても委縮しがちだ。しかも、不正監視機能の弱さという問題も存在する。

しかし、重要なことは、科学技術分野における中国と米国との関係、中国と欧州との関係の緊密さである。オープンイノベーション時代、中国は欧米にとって不足している膨大な研究人材をもっているので、パートナーとして補完関係が成立しているということである。

中国の科学技術分野における豊富な人材、あふれる国家予算は、縮小する日本の研究予算という現状からみれば、まさに垂涎(すいぜん)のまとというべきものがある。そのために日本は中国と組んで「戦略的互恵関係」をつくれというのが著者の主張だ。

企業戦略の世界では「競争と協調」はきわめて重要である。競争関係にありながら協調行動も行うという関係。こうした大人の関係が日本と中国のあいだで活発になるべきだという著者の主張には基本的に賛成である。

昨年翻訳されて話題になった『リバース・イノベーション』の時代でもある。中国発開発が先進国に逆流してくることもでてくる時代だ。だからこそ、競争しながらも協調する必要があるのである。あとは個別企業の問題であろう。

中国の科学技術のすぐれた側面をとりあげただけでなく、弱点や問題点も容赦なく解明していく姿勢は大いに評価したい。終章では現状分析にもとづいた対策まで踏み込んでいるが、ここでの見解については著者とは同じではない人もいるだろう。だが、現状分析は読みごたえがあるのでぜひ読むべきだ。




目 次

第1章 あふれる中国人材
第2章 カネ余りの研究開発現場
第3章 宇宙開発大国・中国
第4章 猛追する中国のライフサイエンス
第5章 中国の「ハイテク」企業事情
第6章 発展への阻害要因
第7章 巨大市場を開拓せよ
第8章 中国と拓く新時代のイノベーション
終 章 科学技術の戦略的互恵関係

著者プロフィール  

伊佐進一(いさ・しんいち)
1974年、大阪府で生まれる。 1997年、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業後、科学技術庁入庁。 科学技術政策や、原子力の危機管理等に携る。 2003年、ジョンズホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)において、中国研究及び国際経済の修士号を取得。 帰国後、宇宙開発政策や、知的財産分野(著作権)における自由貿易協定や条約交渉に携った。2007七年より在中国日本国大使館一等書記官(科学技術アタッシェ)。2010年に帰国後、文部科学省大臣官房総務課課長補佐。 著書に、“Japanese Copyright Law”,Max Planck Institute,2005(共著)がある。





<関連サイト>

中国を巻き込むか? オバマ政権の有人宇宙探査方針 ISSは運用延長、運用経費と日本の対応はどうなる (松浦晋也 日経ビジンスオンライン 2014年1月17日)
・・「第3章 宇宙開発大国・中国」の内容の延長線上にある動き

着実に実力を蓄える中国の宇宙開発(その1) 一部は米国を抜いた新世代ロケットの技術水準(松浦晋也、日経コンピュータ、2015年12月21日)

日本を抜いた中国の科学技術力~その知られざる実像 (科学技術振興機構中国総合研究交流センター上席フェロー 馬場錬成、読売新聞、2016年4月18日)

(2015年12月21日、2016年4月19日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

書評 『現代中国の産業-勃興する中国企業の強さと脆さ-』(丸山知雄、中公新書、2008)-「オープン・アーキテクチャー」時代に生き残るためには

書評 『中国台頭の終焉』(津上俊哉、日経プレミアムシリーズ、2013)-中国における企業経営のリアリティを熟知しているエコノミストによるきわめてまっとうな論

書評 『挑む力-世界一を獲った富士通の流儀-』(片瀬京子/ 田島篤、野中郁次郎=解説、日経BP社、2012)-日本人の底力ここにあり!
・・スパコン分野ではふたたび日本勢が首位を奪還。しかし競争がきわめて激しいこの分野

書評 『インドの科学者-頭脳大国への道-(岩波科学ライブラリー)』(三上喜貴、岩波書店、2009)-インド人科学者はなぜ優秀なのか?-歴史的経緯とその理由をさぐる
・・中国とおなじく大国のインドには共通点と相違点がある。英語圏という強みがインドにはあるといってよいか

書評 『韓国のグローバル人材育成力-超競争社会の真実-』(岩渕秀樹、講談社現代新書、2013)-キャチアップ型人材育成が中心の韓国は「反面教師」として捉えるべきだ
・・あくまでも反面教師として見るべき韓国

書評 『ヨーロッパ思想を読み解く-何が近代科学を生んだか-』(古田博司、ちくま新書、2014)-「向こう側の哲学」という「新哲学」
・・ヨーロッパと日本の「科学思想」、中国・韓国と日本との違いを知る

(2014年5月10日、8月29日 情報追加)




(2012年7月3日発売の拙著です)





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2013年4月4日木曜日

書評『中国絶望工場の若者たち ―「ポスト女工哀史」世代の夢と現実』(福島香織、PHP研究所、2013)―「第二代農民工」の実態に迫るルポと考察




本書は、2010年代中国の「第二代農民工」の実態に迫るルポと考察である。

『中国絶望工場の若者たち-「ポスト女工哀史」世代の夢と現実-』というタイトルは、「中国絶望工場」と「女工哀史」という、先行する2つのルポルタージュ作品を踏まえたものだ。

『中国絶望工場』とは、2008年に出版された、アメリカの女性ジャーナリストのアレクサンドラ・ハーニーの著書のタイトル。中国がなぜ「世界の工場」となったか、そして今後どうなっていくかのヒントを得ることができる本だ。

『女工哀史』とは、1925年(大正14年)に出版された、細井和喜蔵による繊維工場のルポ。劣悪な工場労働の現実についての詳細なルポルタージュである。

たしかに、アップルの iPad などの製品の組み立てを請け負っているフォックスコン(富士康)での連続自殺事件のニュースを耳にしていると、「女工哀史」、あるいは「絶望工場」かという気にさせられる。だがもちろん若い女性だけではない。若い男性も働いている。

「絶望工場」で働いているのは、エリートでも富裕層でもないフツーの中国人。新しい都市住民として台頭する「第二代農民工」である。トータルで約1~1.5億人いるといわれる彼らは、われわれの大半がふだん接することのない中国のマジョリティである。フォックスコン(富士康)での連続自殺事件だけでなく、反日デモで暴れまわったのも彼らの一部である。

その意味では、第1章から第3章までのルポが興味深い。突撃型の取材精神には脱帽である。その現場で働いている、あるは働いていた個々人の中国人のナマの声を拾い上げているからだ。「日系企業に対する愛憎」(・・そう愛と憎しみは両立する)や「将来の夢」などを聞くと等身大の「第二代農民工」たちを人間として知ることができる。

時間の関係から十分にルポが行えなかったと著者は語っているが、逆に第4章では分析と考察がなされているので書籍としては充実したものとなったようである。中国社会の現実にかんする著者の見識は、取材経験の蓄積の裏付けがあり説得力がある。

「農民戸籍」という身分差別を前提にした中国の「内国アパルトヘイト」、「内国植民地状態」はアタマでは知っていても、本書で語られる内容であらためてそのナマナマしい実態を知ることになる。根強くのこる都市戸籍者たちの農村戸籍者たちへの恐怖と差別意識。

一方、農村部では意外と守られていないのが「一人っ子政策」だ。男の子が生まれるまで何人も女の子を生むという実態。もちろん罰金を払っての上だが。しかし、そのため末っ子である男の子が甘やかされる構造ができあがるわけでもある。それが自殺者が多いという現象につながっているのかもしれない。

マズローの欲求段階説にしたがえば、「第一代農民工」が生存欲求と安全欲求をすでに満たしたとすれば、すでに生活の最低レベルはクリアした状態で育ってきた「第二代農民工」は、自己実現とまではいかなくても承認欲求の段階まで来ているのではないだろうか。

都市部で働く「第二代農民工」は、いわゆる「蟻族」(イーズー:ありぞく)とかさなる側面もある。「蟻族」とは、「大学はでたけれど・・・」という若者たちのことだ。大半が大学には進学していない「第二代農民工」たちもまた、先の全人代で国家主席に就任した習金平が連呼した「チャイナドリーム」には程遠い現実を生きなければならない点においては共通したものをかかえている。

反日暴動の主役となったのは「第二代農民工」であるが、一方では一人ひとりの所得は低いとはいえ、1億から1.5億人というマスを形成しているかれらは消費者としても存在感がある。

かれらの実態を知ることなく、中国ビジネスを行なうことはできないだろう。ビジネスにかかわっていなくても、隣国の社会についてある程度知っておくことは重要だ。

なんせ1億人強もいるのである。日本の総人口とほぼ同じ規模の大集団なのである。






目 次
まえがき
第1章 山東省の日本出稼ぎ村
第2章 ストライキはなぜ起きるか
第3章 フォックスコンの光と影
第4章 第二代農民工が抱える潜在的リスク
第5章 意識の高い農民工の登場
第6章 新しい農民工と日中関係-「希望工場」をつくるのはだれか
長いあとがき

著者プロフィール   

福島香織(ふくしま・かおり)
奈良県生まれ。大阪大学文学部を卒業後、1991年、産経新聞社大阪本社に入社。1998年に上海・復旦大学に1年間、語学留学。2001年に香港支局長、2002年より2008年まで中国総局記者として北京に駐在。2009年に退社後、フリー記者として取材、執筆を開始(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

中国新聞趣聞~チャイナ・ゴシップス(日経ビジネスオンラインに連載中の福島香織氏による記事)


<ブログ内関連記事>

書評 『中国貧困絶望工場-「世界の工場」のカラクリ-』(アレクサンドラ・ハーニー、漆嶋 稔訳、日経BP社、2008)-中国がなぜ「世界の工場」となったか、そして今後どうなっていくかのヒントを得ることができる本

『中国美女の正体』(宮脇淳子・福島香織、フォレスト出版、2012)-中国に派遣する前にかならず日本人駐在人に読ませておきたい本

書評 『蟻族-高学歴ワーキングプアたちの群れ-』(廉 思=編、関根 謙=監訳、 勉誠出版、2010)-「大卒低所得群居集団」たちの「下から目線」による中国現代社会論

書評 『新・通訳捜査官-実録 北京語刑事 vs. 中国人犯罪者8年闘争-』(坂東忠信、経済界新書、2012)-学者や研究者、エリートたちが語る中国人とはかなり異なる「素の中国人」像

書評 『中国台頭の終焉』(津上俊哉、日経プレミアムシリーズ、2013)-中国における企業経営のリアリティを熟知しているエコノミストによるきわめてまっとうな論

書評 『中国動漫新人類-日本のアニメと漫画が中国を動かす-』(遠藤 誉、日経BP社、2008)

書評 『拝金社会主義中国』(遠藤 誉、ちくま新書、2010)-ひたすらゼニに向かって驀進する欲望全開時代の中国人

書評 『ネット大国 中国-言論をめぐる攻防-』(遠藤 誉、岩波新書、2011)-「網民」の大半を占める80后、90后が変える中国

グンゼ株式会社の創業者・波多野鶴吉について-キリスト教の理念によって創業したソーシャル・ビジネスがその原点にあった!
・・中国には、波多野鶴吉はいないのだろうか? 『女工哀史』の時代に先進的経営を実践した経営者について

「マズローの法則」 (きょうのコトバ)


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