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2021年6月25日金曜日

「元祖・知の巨人」立花隆氏の代表作『宇宙からの帰還』(1983年)にインスパイアされた日本人宇宙飛行士12人へのインタビュー『宇宙から帰ってきた日本人』(稲泉連、文藝春秋、2019)-2021年4月に亡くなった立花隆氏を悼む



「元祖・知の巨人」であった立花隆氏が亡くなったというニュースを知った。今年(2021年)4月30日に急性冠症候群でお亡くなりになったという。6月下旬になってようやく情報公開されるに至ったようだ。

すでにガンを患っており、そのこと自体をテーマとしてNHKの番組や書籍をつうじて知的に探求していた立花隆氏だが、知的好奇心の塊のような本人にとって、享年80歳はあまりにも短すぎたというべきだろう。ご冥福をお祈りします。合掌。

現在の日本は「知の巨人」がインフレ状態だが、これはもっぱら出版関係者のマーケティング戦略によって仕立て上げられたものに過ぎない。

とはいえ、文理の垣根を越えて旺盛な知識欲をフル回転させていた立花隆氏は別格であったというべきだろう。

晩年には「知の虚人」という揶揄や批判もあったが、それだけ巨大な存在だった証(あかし)である。


■立花隆氏の傑作ノンフィクション『宇宙からの帰還』

私は、立花隆のノンフィクション作品をすべて読んだわけではないが、個人的には『宇宙からの帰還』が立花隆の最高傑作であると思っている。

宇宙開発というきわめつきの理系のテーマでありながら、宇宙飛行士として宇宙から地球を見た草創期の人たちの精神の内面やライフストーリーに迫ったノンフィクション作品だ。

米国人宇宙飛行士12人へのインタビュー集であり、初版の単行本は1983年に出版されている。すでに40年近く前のことになる。




社会人になってからのことだが、この本を絶賛していた1年先輩にあたる同僚の話を聞いて興味を抱き、さっそく文庫版で読んでみた。そしてその内容に大いに感心したことがつよく記憶に残っている。この本はスゴイ、と。

中公文庫版(新版)の内容紹介を引用しておこう(*太字ゴチックは引用者=さとうによるもの)

宇宙から地球を見る。この極めて特異な体験をした人間の内面には、いかなる変化がもたらされるのか。十二名の宇宙飛行士の衝撃に満ちた内的体験を、卓越したインタビューにより鮮やかに描き出した著者の代表作。宇宙とは、地球とは、神とは、人間とは――。知的興奮と感動を呼ぶ、壮大な精神のドラマ。


このテーマの延長線上に『臨死体験』など、さまざまな人間の「内面世界」への探求がつづいていく。

いわゆる「宇宙」が「アウター・スペース」(=外的宇宙)であれば、精神世界は「インナー・スペース」(=内的宇宙)である。科学ジャーナリストでもあった立花氏の知的好奇心の対象として、精神科学の要素は最初から大きなものであった。

意外と知られてないが、むしろインナースペースである精神世界への関心のほうが立花氏の本質に近いのではないだろうか?

『田中角栄研究』でメジャーデビューしたためそればかりが強調されるが、文藝春秋社を2年で辞めて東大文学部に学士入学して哲学を学び直した立花氏、「神秘哲学」への関心の深い人であった。これは『神秘哲学』の著者でもあった『井筒俊彦全集』の月報でも語っていた。



『宇宙から帰ってきた日本人』は『宇宙からの帰還』へのオマージュ

さて、立花隆氏の『宇宙からの帰還』へのオマージュとして行われたのが、ジャーナリストの稲泉連氏による『宇宙から帰ってきた日本人-日本人宇宙飛行士全12人の証言』である。

『宇宙から帰ってきた日本人』に登場する日本人宇宙飛行士たちの多くが、『宇宙からの帰還』を読んでインスパイアされたと語っている。それほど『宇宙からの帰還』は後世への影響力の大きなノンフィクションだったのだ。そしていまなお読み継がれているロングセラーでもある。

『宇宙から帰ってきた日本人』を読んだのは2019年の年末に出版されてからすぐのことだが、翌年に始まったコロナ騒ぎのなかで大きな話題にならなかったのは残念なことだ。立花隆氏の逝去を機会に取り上げてみたいと思う。

稲泉氏が12人の日本人宇宙飛行士と語った内容については「目次」をみるとよい。

1. この宇宙で最も美しい夜明け―秋山豊寛の見た「危機に瀕する地球」 
2. 圧倒的な断絶―向井千秋の「重力文化圏」、金井宣茂と古川聡の「新世代」宇宙体験
3. 地球は生きている―山崎直子と毛利衛が語る全地球という惑星観
4. 地球上空400キロメートル―大西卓哉と「90分・地球一周の旅」 
5. 「国民国家」から「惑星地球」へ―油井亀美也が考える「人類が地球へ行く意味」 
6. EVA:船外活動体験―星出彰彦と野口聡一の見た「底のない闇」 
7. 宇宙・生命・無限―土井隆雄の「有人宇宙学」 
エピローグ 宇宙に4度行った男・若田光一かく語りき


日本人としてはじめて地球の外に出たのは、当時TBS記者の秋山豊寛氏であった。冷戦崩壊前のソ連時代のことである。1989年から1990年にかけてのことであった。

すでに4度も宇宙に滞在し、日本人としては最長の宇宙滞在記録をもつJAXA(宇宙航空研究開発機構)所属の若田光一氏まで、日本人宇宙飛行士の体験と知識の蓄積はかなり進んでいる。


『宇宙からの帰還』の米国人宇宙飛行士たちとの違い

『宇宙からの帰還』に話を戻してみよう。

いまでも記憶につよく残っているのは、地球を出てから宇宙から株式投資を続けていた宇宙飛行士のことだ。いかにもアメリカ人らしいな、と思ったものだ。

だが、もっとも強い印象を受けたのは、宇宙からの帰還後に宗教意識が覚醒してキリスト教の伝道師になった元宇宙飛行士の話だ。

だが、『宇宙から帰ってきた日本人』を読む限りでは、日本では宇宙体験をしてから「伝道師」になったケースはないようだ。

真珠湾攻撃に参加した総隊長の淵田美津雄氏が、敗戦後にキリスト教に入信して伝道師として戦勝国・米国を回った話はあるが、日本人宇宙飛行士にはその手の事例はないようだ。伝道師は伝道師でも、「科学の伝道師」として活躍されている方は毛利衛氏を筆頭に多いのだが・・。

キリスト教という一神教と日本の多神教世界との違いだろうか。「近代科学」がキリスト教の内側から生み出されたものであることが、日本人には常識となっていないためか。

いずれにせよ、宇宙開発の草創期の米国人宇宙飛行士たちの体験と、それからすでに半世紀以上もたつ現在の日本人宇宙飛行士たちとのあいだ知識の蓄積は、想像以上に大きいと考えるべきなのだろう。


■宇宙旅行が宇宙飛行士以外にも開かれる時代の意識

一度は宇宙から地球を眺めてみたいという気持ちは、だれもが一度はもったことがあるはずだ。「地球は青かった」というソ連時代の宇宙飛行士ガガーリンの述懐が、いまなお語られるのはそのためだ。

だが、現在でもそれを実現できる人はほんの一握りに過ぎない。きわめて強い意志と重力に耐えられる健康状態と体力、そしてチャンスをものにできた幸運な人にだけ開かれた「狭き門」である。

とはいえ、すでに米国ではNASAではなく、民間ハイテク企業が宇宙開発の大きな役割を果たすようになってきている。

この7月にはブルーオリジン社で宇宙に飛び出そうとしているアマゾン創業経営者のジェフ・ベゾス氏を先頭に、その後のはスペースXのイーロン・マスク氏(テスラモーターズの創業経営者でもある)、英国のリチャード・ブランソン氏のバージン・ギャラクティック社がそれに続くことになる。(*2021年7月2日現在の情報では、ベゾス氏の7月20日に先駆けてリチャード・ブランソン氏が7月11日に宇宙に出るようだ。男の子的競争心かな(笑))

もちろん、純粋な知的好奇心以外の要素も働いていることは否定できないが、億単位のカネを出せば宇宙に出ることは可能になってきた時代なのだ。

きわめて高度な専門レベルの教育を受けた科学者たちとは違う一般人たちが、宇宙に飛び出そうとしているのである。あらたな時代が始まろうとしているのである。

こうした一般人の「宇宙体験」と「意識の変容」については、今後つぎつぎと語られることになっていくことであろう。まだまだ現時点では、宇宙への旅が当たり前とはなっていない状況だから、面白い話が聞けるのではないかと期待している。




<関連サイト>

・・生前に親交のあった方々からのお別れのメッセージ





(2021年7月22日 情報追加)


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2021年4月23日金曜日

『オリバー・ストーン オン プーチン』(2017年、米国)を視聴(2021年4月21日)-真剣勝負のインタビューで知るプーチンの素顔

 
『オリバー・ストーン オン プーチン』(2017年、米国)エピソード1からエピソード4まで4話を3日間かけて視聴した。原題は、Oliver Stone's Putin Interviews である。  

『プラトーン』や『ウォール街』などの傑作で知られる、米国の左派リベラル派の映画監督オリバー・ストーンによる記録映画である。2015年から2017年にかけて、ロシアの大統領プーチンに対して行った数回のインタビュー記録を、それぞれ1時間弱のTV用番組として編集したものだ。合計4時間弱となる。 

かつてNHK・BSで深夜に放送されたが、そのときは見逃してしまった。こうして amazon prime video で無料で視聴できるのは、たいへんありがたい。 

プーチンというロシアの政治指導者を複眼的に見ることに成功している中身の濃いインタビュー記録である。じつに見応えのある充実した内容であった。 

2014年にウクライナ危機以降、2016年の米国大統領選への介入などによって、米国は明らかにプーチンのロシアを敵視している。 

だが、この合計約4時間に及ぶインタビュー記録を視聴していると、まともにやりあってプーチンに勝てる政治家は、日本にいないのは当然のこととして、世界中を見渡してもそう多くはないだろうという感想を持たざるを得ない。


このインタビュー記録が面白いのは、日本でいうインタビューとは違って、予定調和的なものではまったくなくインタビューする側もされる側も真剣勝負で向かい合っていることだ。しかも、公開を前提にした映像記録であることだ。 

米国人オリバー・ストーンによる、ありとあらゆるテーマにからんだ、歯に衣着せぬ突っ込んだ忖度なしのホンネの質問。対するプーチン大統領による、資料を見ることもない当意即妙の切り返しと理路整然とした反論

もちろん、反論の内容の是非については判断のしようがないので脇に置いておくが、プーチンのロシア語による発言内容と声、発言する際の顔の表情とその動きを注視していると、じつに手強い人物だということがよくわかる。

それにしても、よくこんなインタビューに応じたものだなという感想をもつ。本人に自信があるからこそ応じたのであろうが、トップダウンでなければできない意志決定だ。

ここまでさらけ出しながら、発言内容まで徹底的にセルフコントロールできる政治家もあまりいないだろう。クレムリンの大統領執務室での執務まで見せている。これは驚きだ。 

反プーチンの姿勢を鮮明にしたドキュメンタリー映画もあるが、この中身の濃いインタビュー番組には遠く及ばない真剣勝負のインタビューのもつ迫力と醍醐味があるからだ。こういう作品こそエンタテインメントと呼ぶのにふさわしい。 




<ブログ内関連記事>

■オリバー・ストーン監督作品



■反プーチン派による






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2012年7月1日日曜日

『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』の出版前の2012年4月に受けたインタビューを再録します


出版にあたってインタビューを受けました。
以下に、その全文を転載いたします。
     
なお、インタビューが行われたのは、ことし2012年4月のことですので、現時点の最新情報とはズレがある箇所もありますので、あらかじめご了承ください。


(Q1) 佐藤さんのプロフィールに、「ミッションは、「自分で考え、自分で行動し、地球上どこでもやっていける「個」としての日本人を一人でも多く創り出すこと」。」 とあります。 「個」としての日本人が増えると、たとえば私たちの身近な場面では、どんな良い影響があるのでしょうか?

(A) マスコミ報道やウワサに左右されずに、自分で判断できる人が増えると、日本もいまよりか、はるかにいい国になると思います。

日本人は見えない「世間」という縛りのなかで生きているので、ついつい他人に同調していまいがちですよね。「空気」を読むことは必要ですが、過剰にあわせるとストレスもたまるし、あまりいいことはありません。周りにあわせる協調性は大事ですが、自分のなかに確かなものをもっていれば、まわりに流されることもないし、精神的にもラクに過ごせるようになると思います。
 
また、「個」として生きることは孤立の「孤」ではなく、「個」と「個」をつないだネットワークのなかで生きることでもあるので、本当の信頼関係をつくることもできるようになります。「3-11」で「安全神話」が完全に崩壊してしまいましたが、「安心」というものがいかにもろいものであることか多くの人が実感したことでしょう。

とはいえ、自分や自分の家族の生命財産は自分で守るという姿勢がでてきたのはいいことですし、とくに子育て真っ最中の女性を中心に放射能について「自分で考えて行動する」という動きがでてきたことは、草の根で日本が変わっていくためのキッカケになったと考えています。



(Q2) また、「個人を育てる」という意味において、現在の教育業界に「物申したい!」というようなことはありませんか?
    
(A) 高校や大学の授業でも、また社会人向けのセミナーでも、テレビ放送のような一方通行のレクチャーが多すぎて、「対話」するチカラが鍛えられていません。生徒や学生のひとりひとりとキチンと向き合うったワークショップ型の教育が必要でしょう。

「ハーバード白熱教室」のサンデル教授が注目されたのは、授業内容もさることながら、「対話」重視の姿勢が日本人には新鮮に映ったためではないかと考えています。

また、受験科目にないという理由で、理科や社会が選択されないのは大きな問題だと考えています。
 
昨年2011年の最大の驚きは、学校で放射能の授業がなくなってから、なんと30年もたっていたということ。理科のリテラシーを高めることは、自分の自分にかかわる人たちの生命を守ることにもなるので、取り組みを真剣に行ってほしいとつよく思います。
 
そのためには、「学びは遊び」、「好きだからやる」という子どもの姿勢を持ち続けることができるような教育を目指してほしいものです



(Q3) フェイスブックでは猫の投稿が多く見られます。あまりに表情豊かな猫の写真に「プロが撮ったものでは?」と思うこともあります。佐藤さん・・・もしや猫と会話できる能力をお持ちではありませんか?(笑)
     
(A) いえいえ(笑) さすがにネコと会話はできませんが、ネコが何を考えているのだろうか、感じているのだろうかは、なんとなくわかります。もともと動植物が好きで、とくに魚がすきでしたので、「さかな君」になるはずだった人です(笑)
   
ネコの習性をよく観察していると、何を考えているかは読み取れるようになるのですよ。観察の際に重要なのは、「なぜ?」という素朴な疑問と自然科学者のような「仮説と検証」です。

また、過剰な思い入れや思い込みなしに観察することですね。わたしの場合は観察対象がノラネコたちですので、「うちの子」ではありません(笑) だから、過剰な思い入れがないのだと思います。



(Q4)アジアの国々の事情にたいへんお詳しい佐藤さん。今一番注目していらっしゃるのはどの国ですか? また、その理由は?
   
(A) それはなんといってもミャンマーですね! 「民主化」が急展開で進んでいることや、「最後のフロンティア」といったビジネス的な意味についてはニュースでも報道されているのでご存じの方も多いと思います。
       
ミャンマーは親日の仏教国。タイは日本人にも人気の高い観光地ですが、ミャンマーもじつに魅力的ですよ。また、ミャンマー人のほうが、はるかに日本人に近いと思います。顔立ちも性格もよく似ていますし。ミャンマー料理は、タイ料理とはぜんぜん違いますが、美味しいですよ!ぜひ一度ミャンマー料理店で食べてみてください。カレーも麺もすごく美味しいです。




(Q5) 出版を数ヵ月後にひかえ、みなさんにメッセージをお願いします。
                 
(A) まだ正式なタイトルは決まっていませんが、「アタマの引き出しの増やし方」(仮題)として、今年の7月に こう書房 から出版される予定です(・・インタビュー時点の発言です)。

この本は、「守備範囲の広い人」、「引き出しの多い人」などという評価をいただいてきた私が、自分自身のこれまでの経験をもとに、「雑学」を身につけて「引き出し」を増やしたい願うビジネスパーソンのために書いたものです。

とくに20歳代から30歳代前半のビジネスパーソンをターゲットにしたビジネス書ですが、「引き出し」をもっと増やせと部下にはアドバイスしながらも、その方法論をキチンと説明するのに困難を感じているマネージャーの方々、従業員には「引き出し」の多い人になって、豊かな発想をもとにビジネスを創り出してほしいと願っている経営者の方々、参加者のさまざまな意見をさばく必要のあるファシリテーター、また教育関係者などさまざまな方々に読んでいただけるものになっていると思います。

「引き出し」の増やし方と活性方法について、ぜひ参考にしていただければと考えています。この本を読んで、ぜひ雑学豊富でイノベーティブな人を目指してほしいと思います。乞うご期待!

(出典):T嬢のコンセプトワークス備忘録
http://ameblo.jp/cw-kitasandou/entry-11231327881.html
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<関連サイト>

株式会社ケン・マネジメント 公式サイト
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こう書房の『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』のサイト
http://www.kou-shobo.co.jp/book/b102659.html
⇒ このサイトから「はじめに」「目次」「序章」「第1章一部」が読める立読み版PDF(無料)がダウンロードできます。

人生を変えるアタマの引き出しの増やし方(本についての facebookページを開設しました)
http://www.facebook.com/atamanohikidashi



<新聞の書評欄で取り上げられました>


⇒ 日刊工業新聞(2012年11月22日付け)で『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』(佐藤けんいち、こう書房、2012)が紹介されました!



⇒ 「サンケイビジネスアイ」(SankeiBiz)に『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』(佐藤けんいち、こう書房、2012)の紹介が掲載されました。 (2012年10月24日)



<ブログ内関連記事>

書評 『「空気」と「世間」』(鴻上尚史、講談社現代新書、2009)

コロンビア大学ビジネススクールの心理学者シーナ・アイエンガー教授の「白熱教室」(NHK・Eテレ)が始まりました

NHK・Eテレ 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第8回放送(最終回)-最終課題のプレゼンテーションと全体のまとめ

「ハーバード白熱教室」(NHK ETV)・・・自分のアタマでものを考えさせるための授業とは

ダイアローグ(=対話)を重視した「ソクラテス・メソッド」の本質は、一対一の対話経験を集団のなかで学びを共有するファシリテーションにある

「理科のリテラシー」はサバイバルツール-まずは高校の「地学」からはじめよう!





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2009年10月25日日曜日

書評 『変人 埴谷雄高の肖像』(木村俊介、文春文庫、2009 単行本初版 1999)-人の話を聞く、ということもまたクリエイティブな行為なのだ




人の話を聞く、ということもまたクリエイティブな行為なのだ

 単行本のタイトルは 『奇抜の人』 だったという。

 文庫版のタイトルは 『変人』。これは実にインパクトがある。

 立花隆が東大教養学部でゼミをもったあと、『東大生はバカになったか』(文藝春秋)なんてタイトルの本を出したが、この著者の木村俊介氏はまったくの例外というか、立花隆も折り紙付きの出来であった学生らしい。

 この本を読む限り、インタビューにかんしては、むしろ立花隆よりはるかに上なんじゃないのかな、という気さえするのである。よくここまで相手の心を開かせて、これだけの内容を聴き取ったものだ、と。

 文庫版の著者あとがきによれば、『変人』というタイトルへの変更は、出版社というよりも著者自身の思いが反映しているようだ。
 「・・企画を始めて感じた「うわ、こんな人がいたのか」という印象を前面に出してみたい、と文庫化にあたって題名を『変人』にさせていただいた」、と。

 この本は、埴谷雄高(ハニヤ・ユタカ)という作家について、身近に接していた近所の人から始まって、交友関係のあった作家や芸術家、そしてその子供たち、熱烈な読者だった現役の作家やミュージッシャンなど総勢27人に行った、ロング・インタビューを一書にまとめあげたものである。
 一人あたり数時間、あるいは何回にもわけてインタビューが行われただけでなく、実際にインタビューを行った数はさらに多いという。やむなく27人に限定した、という。

 私は、埴谷雄高をハニヤ・ユタカと読む変わった名前の作家だ、ということぐらいは知っていたが、正直いって彼が生涯にわたって書き続けて、しかも未完に終わっている 『死霊』 という長編小説も読んだこともないし、おそらく今後も読むこともないと思う。
 また、世代からいっても、左翼の立場にたった彼の政治論文をまったく読んだこともない。つまり、この本を読むまで埴谷雄高という人が、何をしてきた人なのかほとんど何も知らなかったのである。つまり何の思い入れもないのだ。

 しかし、この『変人』というタイトルに惹かれて読み出したら、やめられなくなってしまった。
 埴谷雄高という人が、あまりにも「変な人」だったからだ。でもこれは、むしろ最大のほめコトバとして使っている。面白すぎるのだ。
 多くの人に愛され、しかし誰も愛していなかった人、そういう印象が読後感として残っている。

 著者がなぜ埴谷雄高という人について、関係者インタビューを始めたのか明確に語っていないのでよくわからないが、インタビューを続けるうちに、もっともいろんな人に話を聞かねばならない、と思ったらしい。
 その結果が、このポリフォニー(多声音楽)ともいうべき作品に仕上がっている。インタビュー対象となった27人が、それぞれの視点で埴谷雄高という人について語る。これは文字通りの"複眼"である。
 埴谷雄高のような著名人に限らず、ふつうに生きている人であっても、つきあう人たちによって異なる見方をされ、語られているのだろうなあ、ということを思うのである。

 また、直接の目的でないが、著者が意識して聴き取り書き抜いた、インタビュー対象の文学者や芸術家たちの、彼ら自身の創造の苦しみと喜びが肉声で語られている。これらを読むことができたのも、著者のおかげであるといえるだろう。
 人の話を聞く、ということもまたクリエイティブな行為なのだ、と実感する。


■bk1書評「人の話を聞く、ということもまたクリエイティブな行為なのだ」投稿掲載(2009年10月23日)





<書評への付記>

 書評本文にも書いたが、私は埴谷雄高(はにや・ゆたか)には何の思い入れもないし、その作品はおろか、文章の一節すら読んだことがない。本名が般若豊(はんにゃ・ゆたか)というのも本書で始めて知ったくらいである。こちらが本名だというほうがもっと不思議な感じだ。

 直接会ったこともないし、作品も読んだことのない私が、埴谷雄高というのはどういう人だったのか、と聞かれれば、有名だが一部の熱狂的な読者を除けば、あまり読まれるのことのない作家で、「誰からも愛され、誰も愛していなかった人だったのだろう」、と答えるしかないと思う。

 結局のところ、戦前に非合法活動で逮捕され、獄中を独房で過ごした経験があるとはいえ、彼の人生は基本的に"金持ちのお坊ちゃん"のものであった、といっても言い過ぎではないだろう。

 これは悪い意味でいっているのではない。経済条件は人間存在を規定するからだ。金持ちの家に生まれて、甘やかされて育ち、親から受け継いだ遺産を生きている打ちに使い切ったことは、見事といえば実に見事である。それも贅沢に費やしたというのではなく、自分に関わる人たちと飲み食いで楽しい時間を過ごし、若い人たちを励ましてきた生涯。太宰治と同様、金持ちの家に生まれたから、観念的に左翼運動に走ったのだろうし、金持ちの家に育ったから、日々の暮らしに汲々とすることなく、生涯ただ一つの長編小説『死霊』を書き続けることも出来たのだろう。

 これが明治時代だったら、夏目漱石の小説の主人公たちではないが、"高等遊民"とよばれた存在と何ら変わりない。"高等遊民"とは、金持ちの家に生まれたインテリにのみ可能な、人生の過ごし方であった。

 経済状態が人間の生き方そのものを規定する、という点にかんしては、経済が下部構造として意識のあり方を規定するという、まさにマルクス主義そのものである。

 ただし、金持ちの家に生まれて何不自由のない暮らしが保証されれば、埴谷雄高のような人ができるわけでもないだろう。本人に、志(こころざし)と持続する意志のチカラがあったことは間違いない。

 カネがあろうがなかろうが、自分で稼いだカネであろうがなかろうが、卑しくない人生を送りたいものである。人から変人と呼ばれようが、凡人と呼ばれようが。これはつまるところカネの使い方の問題であり、そしてその積み重ねが人生の軌跡となる。

 「カネは汚く稼いでキレイに使え」といった人もいる。どこで読んだのか正確には覚えていないが、日本で活動する、あるカトリック修道院の初代院長であった西欧人のコトバだったと思う。

 重要なのはカネの使い方であり、使用目的である。もちろんキレイに稼ぐ方がいいに決まってはいるが、金儲けそのものを否定しない点に、この発言をした神父には好感がもてる。

 一見すると散財としか見えないカネの使い方であっても、長い目で見れば意味をもってくることもありうる。極端に金儲けにこだわるのも、極端に金儲けを批判するのも正しいあり方ではない。人生にとってカネは重要だが、カネにこだわりすぎている点にかんしては、両極端にみえる見解も、実は同じコインのウラオモテに過ぎない。

 何事も、要はバランスである。そして中庸の道であろう。

                      

 
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