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2024年4月19日金曜日

書評『正しく生きる ケーズデンキ創業者・加藤馨の生涯』(立石泰則、岩波書店、2023)ー「正しく生きる」ことを人生哲学とした経営者による「がんばらない経営」に感じるすがすがしさ

 

 『正しく生きる ケーズデンキ創業者・加藤馨の生涯』(立石泰則、岩波書店、2023)を読了。小さな活字で400ページを超える単行本、しかもビジネスものでありながら版元が岩波書店というのは珍しい。  

ケーズデンキといえば、「ちびまる子ちゃん」をつかった TV・CM が耳に残っているが、じつは一度も店舗を訪れたことはない。仕事でかかわったことがないし、これまで住んできた地域には店舗がなかったからだ。 

しかも、家電量販店業界の覇者であるヤマダ電機でもなく、かつては破竹の勢いのあったコジマ電機でもない。ケーズデンキにかんする本はおろか、経済記事もあまり読んだ記憶がない。知名度が高い割には、店舗展開をしている地域以外では「知られざる優良企業」なのかもしれない。 

そんなケーズデンキと、その創業者である加藤馨氏の生涯を描いた評伝である。しかも、著者はビジネスものノンフィクションで有名な立石泰則氏によるものだ。 

代表作である『勝者の誤算 ー 日米コンピュータ戦争の40年』や、『復讐する神話 ー 松下幸之助の昭和史』などを読んだ記憶が残っている。いずれも読ませる力作であった。



■創業者・加藤馨の「人生哲学」と「経営哲学」 

この本を読んで、ケーズデンキについても、創業者である加藤馨氏についても、はじめて知ったことが大半だ。じつに興味深く、納得のいく内容であった。 

「正しく生きる」というのは、加藤馨氏の「人生哲学」であり、「がんばらない経営」というのは「経営哲学」である。 

顧客中心の経営は、まず従業員を大事にすることが前提となる。従業員を大切にしない会社が、顧客を重視できるはずがない。

目に見える形で従業員に報いるのでなくては、定着率が高まることはない。 そのために取られた施策が「従業員持ち株制度」であった。最後まで勤め上げれば、ひと財産が残るという制度。この制度の導入で定着率が向上し、株式上場によって実現することになった。 資本主義とうまく折り合いをつけているのである。

「がんばらない経営」とは、「ムリをしない経営」と言い換えたらいいだろう。

業界ナンバーワンなど目指さない。従業員に過剰な負荷をかけないために、積極的にシステム投資を行ってローコスト・オペレーションを実行。そして、強靱な経営体力をつくりだすことに成功する。 

北関東の「YKK戦争」と呼ばれた戦いで敗れ去ることなく自主路線を貫き、その後は「チェーンストア理論」にもとづき、FC展開やM&Aによるグループ化によって、国内市場だけに限定しながら、確固たる地位を築くに至っている。 

創業者の経営理念には忠実に、しかしながら外部環境の変化には柔軟に対応してきた二代目経営者による成果であり、創業家がバックに退いたのちも、サステイナブルな企業として現在に至る。 

まさに有言実行の記録である。「正しく生きる」ことを人生哲学とした経営者による「がんばらない経営」は、その人生をかけて実践され、その理念が生き続けている。 



■創業者・加藤馨の生涯

そんな会社をつくりあげた加藤馨氏は、山梨県の農村に生まれ、父親が早く亡くなったため苦労を重ね、職業軍人としての道を選ぶことになる。 

過酷な戦地を体験しながらも、紙一重の差で戦死することなく生き延びることができたが、通信将校としての特技を活かして、戦後はラジオ修理から人生を再スタートさせる。 

「戦後史」と併走した、零細企業から一部上場企業へというサクセス・ストーリーではあるが、その原体験が「戦争に翻弄された人生」であったことは記憶しておかなくてはならないだろう。 

職業軍人でありながら、人命をあまりにも軽く扱う軍隊に対して抱いていた怒りが、その後の経営者としての従業員重視につながっているのである。けっして「先見の明」だけではないのである。 

全体が三部構成で「Ⅰ 戦争に翻弄された人生」「Ⅱ 正しい生き方」「Ⅲ 新しい道」となっている。

起業前史と起業から上場に至るまで、そして引退後の人生である。 晩節を汚すことなく、65歳で現役を引退してから100歳で亡くなまでの記述は、ちょっと長いのではないかという感想がなくもない。 

だが、けっして目立つことなく、みずからの信念にもとづいて「正しい生き方」を貫いた経営者の生涯には、すがすがしいものを感じるのである。 



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著者プロフィール
立石泰則(たていし・やすのり)
1950年北九州市生まれ。ノンフィクション作家、ジャーナリスト。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。経済誌編集者、週刊誌記者等を経て、1988年に独立。『覇者の誤算 日米コンピュータ戦争の40年』(日本経済新聞社)により第15回講談社ノンフィクション賞を受賞。『魔術師 三原脩と西鉄ライオンズ』(文藝春秋)により第10回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


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2024年2月24日土曜日

書評『命知と天理 ― 青年実業家・松下幸之助は何を見たのか?』(住原則也、道友社、2020)―「青年実業家」は急成長する宗教組織から貪欲に学んでいた

 

『命知と天理 ー 青年実業家・松下幸之助は何を見たのか?』(住原則也、道友社、2020)という本を読んだ。期待どおり、松下幸之助にかんする長年の疑問に答えてくれる本であった。


■創業から14年後に「真の使命」を知った松下幸之助

松下幸之助は、1932年(昭和7年)5月5日をもって「命知元年」としている。会社創業の14年後のことである。

「命知」とは、「使命を知る」という意味でつかわれている。漢字熟語なら本来は「知命」とすべきであろう。とはいえ、松下幸之助は「命知」という表現で松下電器製作所(現在のパナソニック)がその「使命」を知り、その真の誕生であるとした。

そして、いわゆる「水道哲学」を前面に打ち出したのである。「水道哲学」とは、蛇口をひねれば水がでるように、適正価格で製品を大量に供給することで、世の中から貧困をなくしていこうという経営哲学のことである。現在でいえば限りなくNPO的な経営理念といえる。

そのきっかけが、取引先の知人に熱心に誘われて奈良県の天理教本部を見学したこと、そして大いに思うことがあり、目が開かれたことであった。ここまでは、比較的知られている話であろう。


■「青年実業家」は天理教本部で何を見たのか?

32歳の松下幸之助は1932年3月某日(・・正確な日付は不明)、なんと10時間(!)にわたって天理教の本部を知人の説明を聞きながらくまなく見学したのだという。大阪から片道1時間とはいえ、約半日を天理教本部の見学に費やしたのである。

そのとき松下幸之助は、天理教信者たちの熱心なはたらきに何を見たのか? 何を感じたのか? 何を学んだのか?  

本書は、その詳細について、天理教の「内側」から考察を行ったものだ。出版元の道友社は天理教の出版社である。

著者の住原氏は、天理大学教授で経営人類学を専門とし、経営理念などの研究を行っている研究者である。天理教の信者であるかどうかは分からない。

戦前の松下電器と天理教組織の類似点と相違点を詳細に分析している。この内容が、わたしの長年の疑問に答えてくれるものであった。とはいえ、なにぶんにも当時の関係者はすべて物故しており、資料の制約があり、推論に頼ることが多いとしている。 あくまでも、そういう前提のもとに読むべきであろう。

当時の松下電器は、数々の危機を乗り越えて発展途上にあったとはいえ、従業員規模は1,200人あまり。これに対して、急成長のさなかにあった天理教は信者が300万人(!)という大組織であった。 

信者たちは、どうしてみな嬉々として無料奉仕ではたらいているのか? どうやったらそんな巨大な組織を動かすことができるのか? それはもう、青年実業家にとっては驚きの連続であったことだろう。 


■天理教本部の見学後、松下幸之助は独立採算の「事業部制」を構築した

とはいえ、そこから先が、当時36歳の松下幸之助が並の経営者とは違うところであったのだ。

貪欲にも異分野である宗教組織のあり方から学び、それを大胆にも企業経営に取り入れて応用したのである。

天理教が独立採算の組織形態をとっていることをヒントに(・・ただし、これはあくまで推測)、独立採算の「事業部制」を構築したのである。そして、組織としてのベクトル統一を図るための求心力となりうる「使命」の明確化を行っている。

90年前の当時は、現在のように「経営学」は理論化も体系化もされておらず(・・ドラッカーがマネジメントを体系化したのは第2次大戦後のことだ)、経営にかんする有用な知識もメディアをつうじて流通していなかったのである。

松下幸之助は、みずからの体験をもとに実践的な経営知を確立したのである。「経営の神様」の原点がそこにある。 

もともと身体が弱く、宗教的な感受性の強い人だったようだが、松下幸之助は、まさに希有な資質の持ち主であったというべきだろう。

以上、ざっと簡単に本書の内容について見てきたが、じつに面白い本であった。長年の疑問が大いに氷解する内容であった。


■できる経営者は異分野からも貪欲に学ぶ

わたしもそうだが、松下電器(=パナソニック)にとっても、天理教にとっても「外側の人」である人は、読むと得るものが少なくないはずだ。

企業経営におけるミッション(=使命)とパーパス(=志)、組織論について考えるうえでも、参考になる点が少なくない。 

本書は天理教の出版社からでた本だが、天理教について詳しくない人にも理解できるよう、一般書としてくどいほど丁寧に解説している。 

松下幸之助と天理教に関心のある人は、食わず嫌いすることなく読むことを薦めたい。 


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目 次
はじめに 
第1章 天理教と松下電器の「類似」 
第2章 起業から昭和7年までの松下電器 ―「通念」に基づく経営の時代 
第3章 初めて親里(おやさと)を歩く(午前) 
第4章 教祖中山みきの足跡と初期教団の歩み 
第5章 初めて親里を歩く(午後) 
第6章 戦後の展開に見る「類似性」 
第7章 松下電器の経営理念の独自性を考える 
おわりに

著者プロフィール
住原則也(すみはら・のりや)
1957年生まれ。神戸大学文学部卒業。ニューヨーク大学大学院博士課程修了(文化人類学博士、Ph.D)。天理大学国際学部教授。国立民族学博物館共同研究員、Anthropology of Japan in Japan学会長(2012~2018)、公益財団法人松下社会科学振興財団理事(2010~2019)など歴任。著書に、『グローバル化のなかの宗教』(編著、世界思想社)、『経営理念』(共編著、PHP)、『経営と宗教』(編著、東方出版)など。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。




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2014年5月15日木曜日

書評『「利他」― 人は人のために生きる』(瀬戸内寂聴/稲盛和夫、小学館文庫、2014 単行本 2012)― 智慧に充ち満ちた二人のエルダーによる対談型法話



「利他」とは「人のために」ということ、「利己的」の「利己」の反対語である。

瀬戸内寂聴師は作家で天台宗の僧侶、稲盛和夫氏は京セラの創業経営者で臨済宗の僧籍をもつ仏教者。

寂聴師が僧侶でありながら俗世間にも通じた方であれば、稲盛和夫氏は俗の俗たるビジネス界に身を置きながらも「人の道」を説いておられる方。

年齢的には現在92歳の寂聴師と、82歳の稲盛氏はちょうど10歳年が離れているが、ともに超多忙でフル回転の日々を送っておられる。この対談が行われたのは2011年の「3-11」後のことであったが、スケジュールを調整するのはきわめて困難な課題であったという。

まさにお二人とも長老のなかの長老。英語でいえば智慧に充ち満ちたエルダーどうしである。人生智に満ちた二人のエルダーによる、対談という形の法話である。

しかし、ぜんぜん抹香臭くない。仏教を専門家の狭いサークルのものではなく、まさに大乗仏教の根本である大乗精神の持ち主として実践し、みずからの体験をもとに一般衆生(しゅじょう)にむけての語っておられるからであろう。


■日本航空(JAL)再建における「利他」の実践

「利他」については、寂聴師は天台宗の「忘己利他」(もうこ・りた)というコトバを紹介されている。日本天台宗の宗祖・伝教大師最澄は、「好事は他に与え、悪事は己に向かえ、己を忘れて他を利するは慈悲の極みなり」という教えを説いているのだという。味わい深いフレーズだ。

稲盛和夫氏は、会社は法律的には株主のものだが、従業員とその家族を物心両面において幸せにするために経営すべきだと説いておられる。顧客も含めて「人のために」という心がけで経営すれば、回り回って株主も、その他関係者もみな幸せになるのである、と。「急がば回れ」の「心の経営」である。「利他」の実践である。

この対談が行われたのは、ちょうど稲盛氏が深く関与した日本航空(JAL)の再建がようやく峠を越した頃だ。「第5章 人はなぜ「働く」のか-誰かのために尽くすことが心を高める-(利他の実践)」では、JALの再建が「意識改革」によって実現し、持続可能なものとなっていること、稲盛氏の考えが提携先のアメリカン航空(AA)にも伝播していることが、稲盛氏自身の肉声によって語られている。

この章は、とくに経営者をはじめとするビジネスパーソンなら興味深く読むことができるはずだ。「損得」で判断するのは経営者としては当たり前のことだが、「善悪」を判断軸にするという稲盛氏の世界的に見ても希有な経営哲学が具体的に語られている。自分自身の体験をベースに考え抜かれたものだけに説得力はきわめて強い。

もちろん、われわれ「凡夫」(ぼんぷ)には実践はなかなか難しいのではあるが・・。


■「無常」とは、つねに変化するということ

仏教の教えは多岐にわたるが、もっとも根本的な考えは「無常」ということだろう。これはそもそも日本的な「無常観」というわびさびなどとはいっさい関係ない話で、世の中はつねに瞬間瞬間に変化しているという「真理」を表現したものだ。

だから、いいことも続かないし、悪いことも続かない、世の中すべては変化の相のもとにある。これは人生においても、ビジネスにおいても、深く心に刻みつけるべき教えではあるまいか。お二人ともに「希望」については一言も語っていない。語っているのは「勇気」である。「気持ち」の持ち方についてである。これが重要なのだ。

「無常」につらぬかれた「有限の生」をいかに意味あるものとして生き抜くか。そのためには将来を思い煩うよりも、「いま、ここ」で燃焼しきることが大事なのだ。しかも、「人のために」という「利他の精神」で!

このきわめてシンプルで、しかし力強い教えをやさしく説いたこの対談は、肩の力を抜いて気楽に読める漫談のようでもある。楽しみながら、みずからのうちに「勇気」がわいてくる「法話」である。




目 次

まえがき 稲盛和夫
第1章 [震災を経験して] 今こそ、勇気を-「千年に一度」の悲しみを乗り越える法
第2章 [逆説の人生観] なぜ、いい人ほど不幸になるのか-どんな悪い世の中もいずれ変わる
第3章 [震災後の生き方] 「利他」のすすめ-人は“誰かの幸せ”のために生きている
第4章 [新・日本人論] 日本を変えよう、今-「小欲知足」と「慈悲」を忘れた日本人へ
第5章 [「利他」の実践] 人はなぜ「働く」のか-"誰かのために尽くす" ことが心を高める
第6章 [生と死のあいだ] 「天寿」と「あの世」の話-「生老病死」の四苦とどう付き合うか
あとがき 瀬戸内寂聴
解説 阿川佐和子


著者プロフィール

瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)
1922年徳島県生まれ。作家・僧侶。57年『女子大生・曲愛玲』で新潮社同人雑誌賞。61年『田村俊子』で田村俊子賞。63年『夏の終り』で女流文学賞。73年に岩手・中尊寺で得度。87年より天台寺住職に就任し、無料の青空説法を始める(2005年以降、名誉住職)。92年『花に問え』で谷崎潤一郎賞。96年『白道』で芸術選奨文部大臣賞。98年『現代語訳源氏物語』を完成。2001年『場所』で野間文芸賞。06年に文化勲章、国際ノニーノ賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

稲盛和夫(いなもり・かずお)
1932年鹿児島県生まれ。経営者。59年に京都セラミック(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年より名誉会長を務める。84年に第二電電(現・KDDI)を設立し、会長に就任。2001年より最高顧問。2010年に日本航空(JAL)会長に就任。このほか、84年に稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった人々を顕彰している。また、経営塾「盛和塾」の塾長として経営者の育成に心血を注いでいる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

私の履歴書 京セラ名誉会長 稲盛和夫(30)最終回 「得度-托鉢・修行、信仰深まる 百円のお布施、万感の思い」(日経スタイル)
・・「1997年(平成9年)9月7日、私は京都・八幡の円福寺で得度、「大和(だいわ)」という法名をいただいた。師はこの臨済宗妙心寺派の円福寺の西片擔雪老師である。・・中略・・ 65歳となり、これ以上延ばすわけにはいかないと思い、老師に相談すると、「それは結構なことです。剃髪(ていはつ)し、得度されたらいい。しかし、その後は実社会に戻り、社会に貢献するのがあなたにとっての仏の道でしょう」といわれた。」

(2016年7月22日 項目新設)

"新・経営の神様" 稲盛和夫が明かす「日本企業、大復活のカギ」 日本を「幸せに導く」方法とは(現代ビジネス、2016年8月24日)

(2016年8月27日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

自分のアタマで考え抜いて、自分のコトバで語るということ-『エリック・ホッファー自伝-構想された真実-』(中本義彦訳、作品社、2002)
・・大事なのは「勇気」! 希望ではなく勇気!

■大乗仏教の「法話」

『僕の死に方-エンディングダイアリー500日』(金子哲雄、小学館文庫、2014 単行本初版 2012)は、「死に方」はイコール「生き方」であることを身をもって示してくれた流通ジャーナリスト最後の著書
・・下手な仏教書よりはるかに心を打つ内容の本

書評 『ああ正負の法則』(美輪明宏、PARCO出版、2002)-「正負の法則」は地球の法則である
・・美輪明宏氏は熱心な「法華経」信者

「如水会講演会 元一橋大学学長 「上原専禄先生の死生観」(若松英輔氏)」を聴いてきた(2013年7月11日)
・・上原専禄氏は熱心な「法華経」信者。若松英輔氏は、『魂にふれる-大震災と、生きている死者-』(トランスビュー、2012)の著者。パートナーを看取った若松氏の体験記と共通するものを感じる

鎮魂・吉田昌郎所長-『死の淵を見た男-吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日-』(門田隆将、PHP、2012)で「現場」での闘いを共にする
・・仏教で精神修行をしていた故・吉田昌郎氏

書評 『法然・愚に還る喜び-死を超えて生きる-』(町田宗鳳、NHKブックス、2010)
・・浄土系思想の根幹にある「浄土」と「お迎え」

鎮魂!「日航機墜落事故」から26年 (2011年8月12日)-関連本三冊であらためて振り返る
・・大量死の社会的インパクトは大きいが、遺された遺族にとっては、かけがえなのない一人一人の死である


■稲盛和夫氏と「稲盛哲学」関連

「稲盛哲学」 は 「拝金社会主義中国」を変えることができるか?
・・中国では民間企業の経営者のあいだだけではなく、一般読者にも浸透しつつある稲盛和夫氏の教え

書評 『稲盛和夫流・意識改革 心は変えられる-自分、人、会社-全員で成し遂げた「JAL再生」40のフィロソフィー』(原 英次郎、ダイヤモンド社、2013)-メンバーの一人ひとりが「当事者意識」を持つことができれば組織は変わる
・・JAL再建についてのドキュメント

書評 『全員で稼ぐ組織-JALを再生させた「アメーバ経営」の教科書-』(森田直行、日経BP、2014)-世界に広がり始めた「日本発の経営管理システム」を仕組みを確立した本人が解説
・・稲盛哲学と経営管理の仕組みが合体した「アメーバ経営」とは?

『週刊ダイヤモンド』の「特集 稲盛経営解剖」(2013年6月22日号)-これは要保存版の濃い内容の特集

書評 『道なき道を行け』(藤田浩之、小学館、2013)-アメリカで「仁義と理念」で研究開発型製造業を経営する骨太の経営者からの熱いメッセージ
・・稲盛哲学信奉者によるアメリカでの経営実践の最新報告

(2014年6月12日 情報追加)


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2014年1月29日水曜日

「稲盛哲学」 は 「拝金社会主義中国」を変えることができるか?

(稲盛和夫氏の著作の中文簡体字版 amazonチャイナより)


「稲盛哲学」は「拝金社会主義・中国」を変えることができるか? こんな「問い」をしてみたくなった。

今週月曜日(2014年1月27日)のことだが、テレビ東京系列の『未来世紀ジパング』という番組で「驚きの"拝金主義"中国を変える!ニッポン式"こころの経営"」と題して、中国の経営者のあいだで「稲盛哲学」が熱狂的に受け入れられていることが、特集番組として放送されていたからだ。


■稲盛和夫氏の「経営哲学」

「稲盛哲学」といっても哲学者の哲学ではない。京セラの創業者でJAL再建に大きな手腕を発揮した経営者・稲盛和夫氏の「経営哲学」のことである。

哲学というと西洋哲学のことを想起する人も多いだろうが、稲盛氏の経営哲学は「人間として何が正しいのかという一点で物事を判断する」というきわめてシンプルなものだ。道徳性や倫理性を重視したその哲学は、あえて西洋哲学のカテゴリーであれば、近代哲学よりもむしろ古代ギリシアの哲人たちの思索内容に近い。

むかし幸之助、いま稲盛さん、といった感じだろうか。江戸時代の近江商人の「三方よし」や石田梅岩の「石門心学」など「商人道」が説かれてきた日本だが、近代に入ってからも、日本資本主義の父であった渋沢栄一が『論語と算盤(そろばん)』を提唱して以来、倫理や道徳をベースにおいた経営道が追求されてきた。

ともすれば欲望に流されがちな人間を戒めるその経営哲学は、長期的に繁栄をつづけるための知恵といってもいいだろう。


(『生き方』の中文簡体字版は100万部を超えるベストセラー)


その「稲盛哲学」が中国で大フィーバーだということは、日本でもベストセラーの稲盛氏の著書 『生き方』が中国では『活法』として翻訳され、なんと100万部を超えるベストセラーになっている(!)ことからうかがうことができる。

この本はすでに日本でも100万部を超えているのだが、稲盛氏の著作の中文版は総計350万部を超えるのだそうだ。まさに驚異的としかいいようがない。人口13億人の中国とはいえ、100万部は破格のベストセラーである。



■「拝金社会主義中国」という病理

「改革開放」をすすめる社会主義中国が、「社会主義資本経済」に舵を切ったのは、鄧小平時代の1992年。天安門事件後の中国人の目を政治から経済に向けさせることを狙った政策であった。

その結果、多くの中国人カネ儲けに活路を見出したのであるが、ここらへんの事情は 書評 『拝金社会主義中国』(遠藤 誉、ちくま新書、2010)-ひたすらゼニに向かって驀進する欲望全開時代の中国人 で取り上げてある。「向前看」(カンチェンカン)時代にひたすら前進することをたたき込まれた中国人は、「向銭看」(カンチェンカン)の合言葉のもと、ひたすらゼニに向かって驀進してきたのである。

しかし、経済発展は成功したものの、政治的閉塞感の代償として社会全体に「拝金主義」が蔓延して、中国社会には大きなひずみが生じていることは周知のとおりである。「唯物主義」を原理原則としてきた社会主義中国である。「拝金主義」は無神論を根幹にすえた「唯物主義」が生みだした「鬼子」の最たるものといえるだろう。

貧富の格差が拡大し、精神的にもストレスが増大し、心のなかには空虚感が拡がっている。この状況は日本の「高度成長時代」の比ではない、あまりにもひどい環境汚染や偽装食品なども、問題の根っこには「拝金主義」にあるのだ。

そんな状況だからこそ、いま中国の経営者のあいだで「心の哲学」を説いた「稲盛哲学」が大フィーバーになっているというわけだ。

あまりにもひどい状況なので、正直をベースにした商売が逆に目立つのである。日本に限らず中国でも、正直をベースにした王道の経営が顧客の大きな信頼を獲得するのである。そしてその結果、ビジネスも順調にいくというわけなのだ。ようやく中国人も目覚めてきたということだろうか。

「目先の利益にとらわれない「利他」の精神にもとづいた企業経営」が大事だという認識が広がりつつあるわけなのだ。理念経営である。


「“吾等定此血盟不为私利私欲,但求团结一致,为社会、为世人成就事业。特此聚合诸位同志,血印为誓。”」(稲盛和夫)


私利私欲を排し、世のため人のためになる仕事をすること、きわめてシンプルだが力強いコトバである。



(心の経営 Soul Management)




■「個人主義」社会中国で会社に求心力をもたせることは可能か

「宗族」(そうぞく)を社会構成の基本原理とする中国人は、自分と家族と宗族(=一族)以外はいっさい関心がない。西洋型とは異なるが「個人主義」が社会の根本にある。

そんな個人主義社会で、従業員を「家族」として扱う「稲盛哲学」が受け入れられているのを見ると、なんだか不思議な感覚を覚える。人間関係を中心に動くことは日本人と同じだが、中国人のロイヤルティは基本的に会社には向かないのである。つまり会社への所属意識はないということだ。その点でドライである。

「経営家族主義」というのは、「昭和時代」に生まれ育ってその「空気」を知っているわたしのような日本人にはかならずしも奇異には映らないが、平成生まれの日本人や、中国人にとっては信じられないものかもしれない。

しかし、『未来世紀ジパング』でも紹介されていたように、成都の不動産会社の従業員大集会は実際に開催されたものであり、熱狂的な稲盛ファンが増殖中であることも否定できない事実なのだ。アイドルのコンサートのようだというコメントも可能だが、なんだか「文化大革命」時代の紅衛兵の大集会を想起させるものもある。


(「稲迷」とは稲盛ファンの意味。不動産会社の大集会 番組サイトより)


番組で取り上げられていたのは、不動産業やエステ・チェーンといったサービス業のオーナー企業であった。顧客との直接の接点が多い、こういった業種から中国企業が変わっていくのだろう。顧客からのレスポンスがダイレクトなだけに、いったん好循環が形成されれば、さらにクチコミで評判が拡がっていくことが期待されるわけだ。

「稲盛哲学」は「拝金社会主義中国」を変えることができるか? という問いを立てた。

もちろん中国企業から中国社会を変えていくことに期待されるが、日本でもそうであるように「稲盛哲学」は中堅中小企業を中心とするオーナー企業に限定されるのではないかと考えられる。

中国には国有企業というきわめて強固な岩盤が存在する以上、意識変革はそう簡単にいくものではないだろう。また、かつて中国で広く学ばれた松下幸之助流の日本型経営は、グローバル経営のもとアメリカ流の資本主義経営に取って変わられていることも事実である。

だが、変化というものは、「域値」を超えると爆発的になる。「稲盛哲学」が「拝金主義に染まった中国企業」を変えていけば、中国社会を変えることにもつながる可能性はある。大いに期待したいものである。

グローバル化は海外から国内に押し寄せてくる津波のように感じている日本人が多いと思うが、「稲盛哲学」のように日本から海外に拡がっていくのもまたグローバル化だということを知るべきであろう。「鑑真は日本に漢文を教え、稲盛は中国に哲学を教える」というコトバが成都の不動産会社の大集会の垂れ幕にあった。

日中関係が悪化しようがしましが、それとこれとは関係ないということ。よいものはよいよいものは受け入れるという中国人の姿勢は、ある意味ではプラグマティズムそのものだ。おおいに結構なことではないか!



■なぜ中文版の『活法』は日本語版よりも売れているのか?

ビジネス関係のブログであれば以上で終わりにしても良かったかもしれない。あるいはまた、京セラで実践されてきた「アメーバ経営」についても触れておいたほうがよかったかもしれない。

だが、こちらのブログは、「"思索するビジネスマン" が惜しみなく披露する「引き出し」の数々。ビジネスを広い文脈のなかに位置づけて、重層的かつ複眼的に考える」といううたい文句を標榜している。より広い側面から「稲盛哲学」について考えてみたい。

なぜ「稲盛哲学」が中国で熱狂的に受け入れられているのか?

このテーマを考えるには「稲盛哲学」が「経営哲学」に収まりきらないものをもっていることに触れておかねばならない。


(わたしが購入して読んだ2013年6月発行の第88刷)


稲盛和夫氏の『生き方  ―  人間として一番大切なこと』(サンマーク出版、2004)を読んだ方は納得していただけると思うが、稲盛哲学は道徳性や倫理性のきわめてつよい「経営哲学」であるだけでなく、宗教的というかスピリチュアルな印象のつよい「心の哲学」である。「魂の哲学」と言ってもいいだろう。

稲盛氏じしんが「魂を磨くいていくことが、この世を生きる意味」だと説いておられる。ちなみに中文では「人生的意义在于修炼灵魂」となっており、「魂」の文字がそのままつかわれている。

稲盛氏の私塾である「盛和塾」の塾生である中小企業の経営者たちにむけた『経営者とは  ―  稲盛和夫とその門下生たち』(日経トップリーダー編、2013)のなかで、稲盛氏は孫引きではあるが哲学者・井筒俊彦の発言を読んで大いに感じるものがあったと語っている。イスラーム哲学の研究者として世界的権威であった井筒俊彦だが、みずからをプラトニストと規定していた「魂の哲学」を追求した人 でもあった。

日本でも刊行以来10年で100万部を突破している『生き方』は、企業経営者のワクを超えて一般人にも読まれている。その理由は有限の人生のなかで自分が「存在」する意味と何をなすべきかについて、実践活動をつうじた思索をわかりやすいコトバで語っているからだろう。

『生き方』はあくまでも日本人向けに書かれた本なので、登場する事例や歴史上の人物もみな日本人である。

だが、中文版の『活法』はオリジナルの『生き方』より先に100万部を突破しているのである。中国の読者に熱狂的に受け入れられているのは、日本人読者が感じる以上のものがそこにあるからはないだろうか。


■中国人の「精神的空虚」と「精神的飢餓」状態

昨年(2013年)10月にNHKで放送された2つの特集番組が、その理由の一端を与えてくれると思う。

NHKスペシャル 中国激動 "さまよえる"人民のこころ (2013年10月13日放送)と 中国で拡大するキリスト教 (NHKワールドWAVEまるごと 2013年10月21日)である。

番組紹介文の一部をここに掲載しておこう。(*太字ゴチックは引用者=さとう)

NHKスペシャル 中国激動 "さまよえる"人民のこころ (2013年10月13日放送)

経済的な成功に代わる新たな“心のより所”を模索し始めた中国の人々の内面に迫る。
今、人々の間で急速に求心力が高まっているのが、2500年の伝統を誇る中国生まれの“儒教”だ。「他人を思いやる」、「利得にとらわれない」ことを重要視する儒教にこそ、中国人の心の原点があるとして、儒教学校の設立や、儒教の教えを経営方針に掲げる企業が続出。現代風にアレンジした新興グループまで登場し、中国全土に儒教ブームが広がろうとしている。国も、かつては弾圧の対象でもあった儒教を認め、支援することで人々の心を掌握しようとしている。拝金主義の夢から覚め、「心の平安」を求める人々――。次なる時代へと向かおうとする中国の姿

中国で拡大するキリスト教 (NHKワールドWAVEまるごと 2013年10月21日)

高尾 「習近平体制発足から1年。これまでのような高い経済成長が難しくなる中、中国は今、“宗教”という新たな課題に向き合わざるをえなくなっています」。 黒木 「物質的に豊かになる一方で、激しい競争社会に疲れ、宗教に心のよりどころを求める人々が増えています。最も信者を増やしているのが、キリスト教です。中国には、以前から政府の管理下にある公認の教会がありましたが、今、急増しているのは、政府の公認を受けない"家庭教会" と呼ばれる教会です。現地で取材しました」 (参考) YouTubeに動画あり(いつ削除されるかわからない)。


プライドが高いがゆえに傷つきやすく、脆弱な性格をもっていることも指摘される中国人が、欧米や日本という先進国に対する精神的劣等感の裏返しとして「反日」に走るのは、捌け口を外部に求めたものである。だが、それ以上に拡がっている精神的飢餓状況にこそ注目しなければならない。

アメリカ型の弱肉強食の競争社会のなかでストレスをため、心が折れそうになっている中国人は、いったいなにを心の支えとしたらよいのか。その答えが儒教回帰であり、キリスト教への入信ということなのだろう。

民衆支配の学としての儒教が社会の安定を上から行うものであるとすれば、個人の精神的安定を下からもたらすものは基督教(=キリスト教)であるといってよい。

儒教が中国で生まれた伝統的な教えであるとすれば、キリスト教はアメリカ映画などで親しんできた都会的で近代的なイメージをもった宗教であるともいえる。

儒教があくまでも「集団のなかの個」の生き方であるのに対し、キリスト教、なかでもプロテスタントは「個」そのものの生き方を問うものである。


(NHKの番組ウェブサイトより)


とくに注目すべきは、形式性を重視し「外面」の行動を規制する儒教よりも、「内面」をより重視するキリスト教が拡っている事実である。「精神的飢餓」状態はスピリチュアルな飢餓状態と言い換えていいかもしれない。

現実政治ではチベットを弾圧している中国だが、一般民衆のなかにはチベット仏教(・・いわゆるラマ教)を含め大乗仏教に熱心に帰依する者も少なくない。もともと現世志向のきわめてつよい中国人であるが、仏教の場合は日本と同様に現世利益を求めてのものも少なくないだろう。

とくに都市部ではキリスト教が精神的飢餓状態を癒してくれるのであろう。そのなかでもプロテスタント系のキリスト教が急速に勢力を伸ばしているようだ。そもそも戦前からアメリカのプロテスタント教会にとって、アジアにおける主要な宣教は中国を対象としたものであった。「英語・アメリカ・キリスト教」である。

現世に不満を抱く民衆が新興宗教によって一大勢力となり、ときの政権を大きく揺るがすのは、白蓮教徒や義和団さらには20世紀後半の法輪功など中国史には断続的に出現する現象だが、19世紀の「太平天国」がキリスト教系の新興宗教であったことは想起しておいたほうがいいかもしれない。



■「稲盛哲学」は中国人の精神的飢餓に応えている?

「稲盛哲学」の流行も、中国人が精神的飢餓状態にあるという文脈のなかで捉える必要もありそうだ。

さきにも触れたように、稲盛氏の「魂の哲学」は、けっして奇をてらったものではない。人として、あたりまえのことをあたりまえにおこなうべきだという内容である。儒教や仏教など伝統的な教えをベースに、実践のなかで考え抜かれた思索をまとめあげたものである。

ある意味では稲盛氏自身も引用している江戸時代中期の「石門心学」の提唱者・石田梅岩の平成版といっていいかもしれない。石門心学は儒教・仏教・道教の三教を総合した、商人を中心とした一般庶民向けの実践倫理思想である。

「稲盛哲学」の儒教的な根底には、西郷隆盛の「精神」と福澤諭吉の「実学」がある。この二人は互いにリスペクトしあっていたといわれるが、その根底には日本的に解釈された朱子学と陽明学がある。

儒教が復活しつつある中国で「稲盛哲学」が受け入れやすいのは、ある意味では当然なことなのだろう。稲盛氏の教えは中国にとっては「外来」のものでありながら、もともとの思想が中国で生まれたものであるという点において「外来」ではないからだ。

稲盛氏自身もよく引き合いに出す西郷隆盛のキャッチフレーズ「敬天愛人」は、いっけん儒教の文言のように見えるが、じつは『自助論』で有名な中村正直が、キリスト教思想を参考にしながら「敬天」と「愛人」の二つを合成してつくった造語らしい。儒者として身を立てた旧幕臣の中村正直は、英国留学を経てキリスト教徒となった啓蒙主義者である。

日本でも明治時代にキリスト教を受け入れたのが、「維新の負け組」となった旧武士階級が多かったことを考えると、いま中国で「拝金主義社会」のなかでストレスをためて心が折れそうになっている中国人が、心のよりどころをキリスト教に求めているのは不思議ではない。

しかも、もともと儒教が社会の根底にある中国や韓国にキリスト教を受容する土壌があることから考えると、「敬天愛人」というフレーズは、儒教でもキリスト教でも受け入れやすいということになる。

企業単位での学びと個人単位での学びをつうじて、「稲盛哲学」が草の根レベルで下から中国人のあいだに浸透していくならば、中国にとっても日本にとっても良いことだ。「日中友好」というフレーズは好きではないが、ビジネスマンであるわたしは、お互いにいがみ合うのは無意味であると考えるからだ。



■経営を担うのは人。真の人間理解なくして経営はわからない

とかく日本でもインテリは、宗教的であるとして「稲盛哲学」を敬遠しがちの傾向があるが、なぜ「稲盛哲学」が日本だけでなく中国でも受け入れられているか、考えてみる必要があるのではないだろうか。

またそういう理解があってこそ、キリスト教圏やイスラーム圏、ユダヤ教世界や仏教世界におけるマネジメントの意味について類推して考えることができるはずだ。宗教の理解は絶対に必要である。

マネジメントとは、「人をつうじて事を成就する術」(the art of "getting things done through people")と定義したのは、ドラッカーの先行者であるアメリカの実践思想家メアリー・パーカー・フォレットである。

この定義をわたし的に深読みすれば、経営は人間と切り離せないということだけでなく、人間を人間たらしめている魂とは切っても切り離せないものであることまでつながっていく。マネジメントは人間哲学であるのはもちろん、ひいては「魂の哲学」にもつながるものがあるのだ。

マネジメント概念の生みの親ドラッカーは、『論語と算盤』を書いた渋沢栄一をきわめて高く評価していた。『マネジメント』で取り上げて論じている。

稲盛和夫の「稲盛哲学」はもまた、食わず嫌いしないほうがいい。できれば本を読むだけでなく、その謦咳に触れてみることも必要だろう。わたしも一度だけだが講演会で稲盛和夫氏の話を聞いたことがある。

かぶりつきの最前列の席で拝聴したのだが、話の内容はさておき、その腰の低さに驚いたことがつよく印象に残っている。まさに「実るほどこうべを垂れる稲穂かな」そのものであった。



<関連サイト>

『活法』(稻盛和夫(作者)、曹岫云(译者)、东方出版社 第1版 2012)     
・・『生き方』の中文簡体字版。amazon.co.cn(アマゾン・チャイナ)

戦後初の閣僚級会議で「新章」に入った中台関係-結末は悲劇か、ハッピーエンドか (福島香織、日経ビジネスオンライン 2014年2月19日)
・・「台湾アイデンティティーは、日本統治時代に高等教育を受けた李登輝世代のエリートたちが国民党に抵抗する民主化運動の過程で確立された部分が大きく、その根幹には「日本精神(リップチェンシン)と呼ばれる日本的倫理観や精神的価値観(清潔、公正、勤勉、責任感、正直、規律遵守など)が刷り込まれている」  「稲盛哲学」もまた「日本精神」そのものだろう。はたして大陸中国は台湾のように「日本」化できるのかどうか?

いま中国企業で何が? ~日本式経営学ブームの陰で~(NHKクローズアップ現代、2014年7月21日放送)
・・「京セラ名誉会長の稲盛和夫氏。その経営哲学に一部の中国企業家たちが熱烈な関心を寄せているのだ。背景にあるのは、中国経済の「変調」。成長に陰りがみえる中、かつて成功の方程式だった“もうけるには手段を選ばず”というやり方に限界を感じ、儒学にも通じる稲盛流の思想に経営のヒントを見つけ出そうと懸命の模索を始めている」(番組案内から)。 動画あり

中国期限切れ食肉事件と「稲盛和夫人気」はコインの裏と表 アリババのジャック・マー氏も尊敬するその理由 (日経ビジネスオンライン、2014年7月24日)
・・「腐敗がはびこり、社会が良くなったという実感がない。だからこそ稲盛氏が説く利他の教えに多くの人が共感する」

"新・経営の神様" 稲盛和夫が明かす「日本企業、大復活のカギ」 日本を「幸せに導く」方法とは(現代ビジネス、2016年8月24日)


神秘宗教の台頭は王朝末期の印?-マヤ暦の世界終末の日に花束を売る女の子 (福島香織、日経ビジンスオンライン、2012年12月27日)

中国でなぜ「カルト」がはびこるのか-「5.28山東省マクドナルドの惨劇」の裏側  (福島香織、日経ビジンスオンライン、2014年6月4日)
・・「土地が広い、自然が厳しい、人口が多い、不条理に虐げられる貧しい人々が奇跡の救いを求めている…。いろいろ理由はあろうが、中国ほど民間に広がった神秘宗教が反体制結社化し大衆運動を起こして、王朝が倒れるトリガーの役割を果たす歴史を繰り返した国があるだろうか。太平道、白蓮教、羅教、太平天国…。近代は宗教の流を組む秘密結社が革命を推進した。こうなると、時代の変わり目に反体制的宗教結社が登場するというのは中国のお国柄としか思えない」

中国、2030年には「世界最大のキリスト教国」に? (ハフィントンポスト、2014年4月25日)
・・「パデュー大学で社会学を研究するフェンガン・ヤン(楊鳳岡)教授は、中国のキリスト教信者数は将来アメリカを抜き、世界最大のキリスト教人口を抱える国になると推測している。・・(中略)・・中国のキリスト教人口は、2025年までに1億6000万人、2030年までには2億4700万人に拡大し、アメリカを抜いて世界最多のキリスト教徒を抱える国になると予測」

2030年には中国が世界最大のクリスチャン国に (クリスチャン・トゥディ、2014年4月24日)
・・「楊教授は「潜在的な脅威」を指摘。当局がキリスト教を抑圧しようとして、今後「より強烈な」闘争に入る可能性を懸念。「教会をコントロールしようとする政府関係者たちがいて、最後の試みをしている」と語る」

中国政府、キリスト教会への迫害を開始? 温州市の三江教会が取り壊される (クリスチャン・トゥディ、2014年4月29日)

温州三江教会強制撤去事件の真相-宗教台頭が王朝交代招く歴史は繰り返すか (福島香織、日経ビジネスオンライン、2014年5月20日)
・・「近年の中国でキリスト教の弾圧が激化していると聞く。その象徴的な事件が、4月の浙江省温州市での三江教会の強制撤去事件だった・・(中略)・・キリスト教徒の数は2012年末当時で全国1億人以上という推計もあり、共産党員8500万人を上回る勢力・・(中略)・・実際、中国の地方都市・農村を旅すると、確かにキリスト教徒が多いと実感する。貧困地域や環境汚染のひどいところほど、熱心な信者が集っている・・(中略)・・公認非公認含めた中国のキリスト教は、この10年余りほどで、こういった中国の体制の矛盾に苦しむ人たちの心をとらえて急拡大」

香港の民主化運動の底流にあるキリスト教価値観 (ウォールストリートジャーナル日本版、NED LEVIN、2014年10月3日)
・・香港に根を下ろしているカトリックと増加中のプロテスタント。9月末からつづく学生主体の抗議運動の背景を理解するための重要な内容の記事

Religion in China  Cracks in the atheist edifice The rapid spread of Christianity is forcing an official rethink on religion (The Economist, Nov 1st 2014 | WENZHOU | From the print edition)
・・温州は中国のエルサレムと呼ばれているほど中国におけるキリスト教の中心地となっている。Yang Fenggang of Purdue University, in Indiana, says the Christian church in China has grown by an average of 10% a year since 1980. He reckons that on current trends there will be 250m Christians by around 2030, making China’s Christian population the largest in the world. Mr Yang says this speed of growth is similar to that seen in fourth-century Rome just before the conversion of Constantine, which paved the way for Christianity to become the religion of his empire.(・・中国におけるキリスト教信者の増加は4世紀のローマにも匹敵する)

「中国はよくなっている!」  信号待ちで思わず涙した私(中島 恵、日経ビジネスオンライン、2015年3月20日)
・・上海の一部だが交通法規など社会ルールを守る中国人が生まれて生きていることに社会変化(or 狂乱の経済成長鈍化?)の兆候をみる

なぜ今大学で「稲盛和夫」を学ぶのか?(ダイヤモンドオンライン、2016年2月16日)
・・「京セラ名誉会長・稲盛和夫氏。世界的にも著名な現役経営者である稲盛和夫氏の経営哲学についての多様な分野での学術研究を推進し、あわせて教育プログラムを開発する「稲盛経営哲学研究センター」が、昨年(2015年)立命館大学に創設された」

中国人経営者が日本の経営者に心惹かれる意外な理由 (中島恵、WEDGE、2017年11月24日)

中国人に刺さる京セラ・稲盛和夫さんの哲学「価値観変わった」 没後も塾生が増え続ける理由(京都新聞、2023年8月24日)

(2014年7月24日、10月31日、2015年3月20日、2016年2月17日、8月27日、2017年11月24日、2023年8月24日 最新情報追加)




PS2 2018年に創刊された Bitter Winter (2019年5月10日記す)

Bitter Winter 中国における信教の自由の迫害 と人権に関する雑誌(2018年5月創刊)
・・「Bitter Winterは、中国の 信教の自由 と 人権 について報道するオンライン雑誌として2018年5月に創刊されました。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(Center for Studies on New Religions、略称CESNUR)が、毎日8言語でニュースを発信しています。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えています。 Bitter Winterの特徴は、中国全土にいる数百人の記者ネットワークにより生の声を届けていることです。記者たちは逮捕されるなどの危険を顧みず、中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信しています。 Bitter Winterの編集長を務めるマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は、宗教研究の領域で著名な学者です。(以下略)」




<ブログ内関連記事>

■中国関連一般

書評 『拝金社会主義中国』(遠藤 誉、ちくま新書、2010)-ひたすらゼニに向かって驀進する欲望全開時代の中国人

書評 『語られざる中国の結末』(宮家邦彦、PHP新書、2013)-実務家出身の論客が考え抜いた悲観論でも希望的観測でもない複眼的な「ものの見方」


■中国人の「個人主義」

「個人と組織」の関係-「西欧型個人主義」 ではない 「アジア型個人主義」 をまずは理解することが重要!

ひさびさに宋文洲さんの話をライブで聞いてきた!-中国人の「個人主義」について考えてみる
・・さらに加えて、孫文の『三民主義』や『小室直樹の中国論』をてがかりに中国人の個人主義について考えてみた

書評 『新・通訳捜査官-実録 北京語刑事 vs. 中国人犯罪者8年闘争-』(坂東忠信、経済界新書、2012)-学者や研究者、エリートたちが語る中国人とはかなり異なる「素の中国人」像

書評 『中国市場で成功する人材マネジメント-広汽ホンダとカネボウ化粧品中国に学ぶ -』(町田秀樹、ダイヤモンド社、2010)-グローバル・マネジメントにおける人材マネジメントについて


■稲盛和夫と「稲盛哲学」、「魂の哲学」

書評『稲盛和夫の哲学』(稲盛和夫、PHP、2001)-「生と死」をテーマにした「人生哲学」は哲学の王道である

書評 『「利他」-人は人のために生きる-』(瀬戸内寂聴・稲盛和夫、小学館文庫、2014 単行本 2012)-智慧に充ち満ちた二人のエルダーによる対談型法話
・・JAL再建について稲盛氏自身が「利他の実践」として語っている

書評 『全員で稼ぐ組織-JALを再生させた「アメーバ経営」の教科書-』(森田直行、日経BP、2014)-世界に広がり始めた「日本発の経営管理システム」を仕組みを確立した本人が解説
・・稲盛哲学と経営管理の仕組みが合体した「アメーバ経営」とは?

書評 『稲盛和夫流・意識改革 心は変えられる-自分、人、会社-全員で成し遂げた「JAL再生」40のフィロソフィー』(原 英次郎、ダイヤモンド社、2013)-メンバーの一人ひとりが「当事者意識」を持つことができれば組織は変わる

『週刊ダイヤモンド』の「特集 稲盛経営解剖」(2013年6月22日号)-これは要保存版の濃い内容の特集

書評 『西郷隆盛と明治維新』(坂野潤治、講談社現代新書、2013)-「革命家」西郷隆盛の「実像」を求めて描いたオマージュ

「幾たびか辛酸を歴て志始めて堅し」(西郷南洲) 
・・稲盛氏が好きな「敬天愛人」以外にも名文句あり

書評 『井筒俊彦-叡知の哲学-』(若松英輔、慶應義塾大学出版会、2011)-魂の哲学者・井筒俊彦の全体像に迫るはじめての本格的評伝

「如水会講演会 元一橋大学学長 「上原専禄先生の死生観」(若松英輔氏)」を聴いてきた(2013年7月11日)

書評 『ユダヤ人エグゼクティブ「魂の朝礼」-たった5分で生き方が変わる!-』(アラン・ルーリー、峯村利哉訳、徳間書店、2010)
・・ビジネスをつううじて、仕事をつうじて魂を磨く! 基本的な哲学は共通

書評 『道なき道を行け』(藤田浩之、小学館、2013)-アメリカで「仁義と理念」で研究開発型製造業を経営する骨太の経営者からの熱いメッセージ
・・「稲盛哲学」をアメリカで実践する日本人経営者。アメリカにも広がる稲盛哲学

Where there's a Will, there's a Way. 意思あるところ道あり


■中国とキリスト教の関係、儒教とキリスト教の親和性

書評 『日本人は爆発しなければならない-復刻増補 日本列島文化論-』(対話 岡本太郎・泉 靖一、ミュゼ、2000)
・・「中国と朝鮮では、朱子学が村落レベルまで浸透しました。朱子学の発想には二元論的発想がととのえられています。だから、中国と朝鮮のキリスト教化のために、朱子学が論理的地ならしをしたと、皮肉ることもできます(泉靖一)」

書評 『聖書を読んだサムライたち-もうひとつの幕末維新史-』(守部喜雄、いのちのことば社、2010)-精神のよりどころを求めていた旧武士階級にとってキリスト教は「干天の慈雨」であった
・・儒教倫理によって涵養され、しかも明治維新によって「負け組」となった旧武士階級は、精神的飢餓感を癒すためキリスト教に飛びついた者が少なくない

書評 『韓国とキリスト教-いかにして "国家的宗教" になりえたか-』(浅見雅一・安廷苑、中公新書、2012)- なぜ韓国はキリスト教国となったのか? なぜいま韓国でカトリックが増加中なのか?
・・現世利益のプロテスタントでは精神的飢餓感を癒されない韓国人がカトリックに改宗


■価値観と経営

書評 『7大企業を動かす宗教哲学-名経営者、戦略の源-』(島田裕巳、角川ONEテーマ21、2013)-宗教や倫理が事業発展の原動力であった戦前派経営者たちの原点とは?
・・内容的には物足りないが参考にはなろう。ただし、稲盛和夫氏はなぜか取り上げられていない

『論語と算盤』(渋沢栄一、角川ソフィア文庫、2008 初版単行本 1916)は、タイトルに引きずられずに虚心坦懐に読んでみよう!

松下幸之助の 「理念経営」 の原点- 「使命」を知った日のこと

書評 『戦前のラジオ放送と松下幸之助-宗教系ラジオ知識人と日本の実業思想を繫ぐもの-』(坂本慎一、PHP研究所、2011)-仏教系ラジオ知識人の「声の思想」が松下幸之助を形成した!


(2014年5月21日、8月19日、2016年8月27日、2023年8月24日 情報追加)



PS この記事の執筆後、「アメーバ経営」について姉妹編のビジネスブログに記事を書いたのでご参照いただけると幸いである。

書評 『全員で稼ぐ組織-JALを再生させた「アメーバ経営」の教科書-』(森田直行、日経BP、2014)-世界に広がり始めた「日本発の経営管理システム」を仕組みを確立した本人が解説

経営哲学と仕組みの両輪がかけ算となっている「アメーバ経営」という経営管理システム。同書によれば、これまで中国企業を成功に導いてきた成果主義が機能不全に陥り、「アメーバ経営」を導入する企業が増えつつあることについても一章を割いて書かれている。

このブログ記事では、個々の中国人の精神的危機について多く触れたが、健全な精神の持ち主である企業経営者に稲盛哲学が広がり、アメーバ経営が導入されていくことは、広い意味での「戦争抑止」につながるのではないかと期待したい。

(2014年6月12日 記す)


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(2021年11月19日発売の拙著です 画像をクリック!)

(2021年10月22日発売の拙著です 画像をクリック!)

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