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2023年10月2日月曜日

書評『プーチンの敗戦 ー 戦略なき戦術家の落日』(池田元博、日本経済新聞出版、2023)ー タイトルにすべてが言い尽くされている

 
先々月末のことになるが、『プーチンの敗戦 ー 戦略なき戦術家の落日』(池田元博、日本経済新聞出版、2023)を読了した。 内容は、タイトルにすべてが言い尽くされている

自分が執筆した新聞記事を利用して、再構成して単行本にまとめたものだ。

連載ものを加筆修正しただけで単行本化することの多いのが、日経にかぎらず新聞社系に多いが、そういったものとは違って、この本は読んでいて違和感はない。執筆記事がすべて自分自身によるものだから可能なのだろう。

「現在」を理解するために、即座に「過去」にさかぼる。このパターンの繰り返しが最初から最後までつづく。

現在と過去を行ったり来たりするこの手法は、うっとおしいと思う読者もいるだろう。だがわたしは意外と面白いなと思った。そのつど過去を検証することが可能になるからだ。人間は近過去のことでも、あっという間に忘れてしまう存在である。ましてや20年前のことなど遠い記憶ですらない。

全体の流れを見るだけでなく、プーチン本人とは関係のない勝手な「期待感」と、大きく期待するがゆえの「失望感」。この「失望感」はだんだんと大きなものへと変化していく。

「裏切られ感」とさえいっていいような失望感が閾値(いきち)を超えたとき、それはプーチンにとってだけでなく、その他の世界にとっても「ポイント・オブ・ノーリターン」を超えてしまったことが見えてくるからだ。

プーチンが大統領代行に就任した1999年からほぼ四半世紀がたつ。この間の著者による観察と考察を読んでいると思うのは、以下のようなことだ。

プーチンの思考は、最初から戦略的なものではなかったのだ。柔道家としての戦術家的なリアクション的反応に過ぎないのである。技をかけられたら、それに反応するだけである。相手のリアクションをその場で判断して技をかけるだけ。

2022年2月に始まったウクライナ侵攻は、技をかけたのはプーチンの側であったが、その後の状況をみていると、まさにそうとしか言いようがない。

大国ロシアの復活という「野望」は、プーチンにとっては「願望」に過ぎず、その「ビジョン」は「戦略」をともなったものではない。戦略を欠いたそのビジョンは、まさに文字通りの「幻影」でしかないのだ。

エリツィンに見いだされなかったなら、中堅のFSB官僚で終わったであろう人物がプーチンである。独裁者スターリンもそれを支える官僚群がいなかったら成り立たなかった存在だ。プーチンもまた然り。

ロシアの行く末について語るのはまだ時期尚早とはいえ、プーチンの落日がロシアの衰退の道に、そのまま直結していることは言うまでもない

日経新聞の連載をもとにしたものなので、もうすこし経済関連の記述が多いと「期待」していたのだが、ちょっと「失望」を感じている。

というのは、おなじ日経記者による『帝国自滅-プーチン vs 新興財閥-』(石川陽平、日本経済新聞出版社、2016)は、経済を中心に描いていたので、よけいにそう思うからだ。

もちろん、純粋に経済のみで語ることができないのがロシアという存在であり、現在の世界情勢が政治経済学と軍事をふくめた安全保障という枠組みで考えなければならない以上、当然といえば当然ではあるのだが・・・




目 次 
プロローグ
第1章 未来への希望 
第2章 協調から敵対へ 
第3章 大国主義と国家統制 
第4章 強権統治と命の重さ 
第5章 裸の王様 
第6章 しぼむ大国 
第7章 日ロ関係への視座
エピローグ
あとがき
プーチン関連年表
【主要な参考文献】
【注】


著者プロフィール
池田元博(いけだ・もとひろ)
日本経済新聞編集委員。1982年東京外国語大学ロシア語科卒、同年日本経済新聞社入社。東京編集局産業部、国際部、証券部などに在籍するとともにモスクワ特派員、モスクワ支局長、ソウル支局長を歴任。帰国後は論説委員会で長年、ロシア・旧ソ連や朝鮮半島情勢を中心に国際問題を担当。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


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2017年9月3日日曜日

書評『戦争にチャンスを与えよ』(エドワード・ルトワック、奥山真司訳、文春新書、2017)― 戦略の「逆説的論理」によって「意図せざる結果」がもたらされる



『戦争にチャンスを与えよ』(エドワード・ルトワック、奥山真司訳、文春新書、2017)を読んだ。この本は、じつに刺激的だ。知的に刺激され活性化することは間違いなし。

 「戦争にチャンスを与えよ」という1999年に発表された英語論文から全体のタイトルが取られている。本書はこの論文の自己解説と、編訳者が著者に行った関連インタビューを一冊にまとめたもの。

 「戦争にチャンスを与えよ」という耳慣れないタイトルについてだが、本書には説明はないが、英語の Give PEACE a chance. の PEACE を WAR に入れ替えたものだろう。Give PEACE a chance.は言うまでもなくジョン・レノンの曲名。

著者の主張は、真の平和を欲するのであれば、戦争の当事者が不完全燃焼にならないように下手な介入はするな、というものだ。介入するなら、戦争相手国が敗戦したあとの戦後復興まで含めてフルコミットせよ、と。

戦争に負けた側は、敗戦後はまずは復興にチカラを注ぐから結果として平和になる。中途半端な停戦となると、お互いが再戦のために準備を注ぐため平和は訪れない。しかし平和がつづくと不感症になり、大丈夫だろうという根拠なき慢心が戦争を誘発する危険を高める。

これが著者のいう戦略の「パラドクシカル・ロジック」(=逆説的論理)というやつだ。戦争が平和をもたらし、平和が戦争をつくりだす。パレスチナ難民のように、難民キャンプでの支援が難民の存在を永続化させてしまうこともある。

この逆説的なロジックは、「意図せざる結果」と言い換えてもいいだろう。良かれと思った行為が、意図と反して逆の結果をもたらすことは、日常でもよく観察されるところだ。

このほか、戦略家の著者による「巨大で不安定な大国である中国」への対応、北朝鮮論への対応策、徳川家康を絶賛した戦国武将論、英国論など、いずれも刺激的で面白い。徳川家康も後期の大英帝国も、その巧みな同盟つくりによって成功したという指摘は重要だ。著者は、同盟は不快で苦痛を伴うものだという指摘も忘れない。日米同盟も同様であろう。

とくに著者の長年の研究テーマであるビザンツ帝国(=東ローマ帝国)の軍事戦略分析から得られる7つの教訓は、もっとも成功した戦略の実例として興味深い。ビザンツ帝国は千年続いた世界最長の帝国である。

全体的にインタビューで構成されているので読みやすいと思う。だが、ここで述べられている発想と思想は、いわゆる「平和愛好家」の神経を逆なでするものであろう。

こんなこと活字にしてしまっていのか(?)といった、現在74歳の著者自身による武闘派的エピソードも披露されているが、著者は象牙の塔のなかの研究者ではなく、つねに実戦的なフィールドに身を置いてきた人である。

おなじ編訳者による『中国4.0-暴発する中華帝国-』(文春新書、2016)とあわせ読むことを薦めたい。





<関連サイト>

Edward Luttwak (Wikipedia英語版)
・・こちらは情報量が多いので、ルトワック氏のプロファイルと業績について知るには、英語版を見ておくことが重要




<ブログ内関連記事>

書評 『中国4.0-暴発する中華帝国-』(エドワード・ルトワック、奥山真司訳、文春新書、2016)-中国は「リーマンショック」後の2009年に「3つの間違い」を犯した

「意図せざる結果」という認識をつねに考慮に入れておくことが必要だ
・・どうも中国は、自分の行為がいかなる結果を引き起こすかについての想像力を著しく欠いているようだ。つまり、ルトワック氏のいう「パラドクシカル・ロジック」(=逆説的論理)が分かっ5ていないということ意味している

書評 『知的複眼思考法-誰でも持っている創造力のスイッチ-』(苅谷剛彦、講談社+α文庫、2002 単行本初版 1996) 
・・第4章で「意図せざる結果」についての重要な指摘がある。この本は必読書。

「ストライサンド効果」 (きょうのコトバ) 
・・「インターネット上に公開された情報を、個人や企業が封じ込めようとすればするほど、かえってその情報が拡散してしまうという、「行為の意図せざる結果」がもたらされてしまう現象のこと」

アダム・スミスの 「見えざる手」 は 「神の手」 ではない!-それは 「意図せざる結果」の説明として導入されたものだ


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2016年7月14日木曜日

書評『中国4.0 ― 暴発する中華帝国』(エドワード・ルトワック、奥山真司訳、文春新書、2016)― 中国は「リーマンショック」後の2009年に「3つの間違い」を犯した



一昨日(2016年7月12日)、国際仲裁裁判から「中国の南シナ海領有に法的根拠なし」という審判が下された。

たいへん結構なことである。 だが、中国はそもそもなぜ、そのような無法なことをゴリ押ししてきたのか?

その理由を知りたければ、『中国4.0-暴発する中華帝国-』(エドワード・ルトワック、奥山真司訳、文春新書、2016)を読むとその事情がよくわかる。

著者は、在野の軍事戦略の大家。軍歴もある実践派である。本書は、その立場から中国の動きを独自の視線で分析したものだ。「中国4.0」とは、中国の対外戦略の推移を4段階で読み解いたものである。

「中国1.0」で「平和的台頭」を行ってきた中国は、そのままその路線を続けていれば経済大国として世界中から歓迎されたはずだった。だが、暴走を初めてしまったのだ。「中国2.0-対外強硬路線」、さらには「中国3.0-選択的攻撃」へと、わずが15年のあいだに3度も対外方針を変更している。15年間で3度も方針を変更していては、外側からみたらあまりにも不安定に映るのは当然だ。しかも、その糸について疑惑さえ招きかねない。

どうやら、中国は「リーマンショック」(2008年)の翌年に大きな勘違いをしてしまったようなのだ。世界金融危機にまで至りかねない状況のなか、米国は経済的に「衰退」し、リーマンショック後に財政出動によって世界経済を「牽引」したのが中国であった。問題は、その際に中国は、「中国の時代」が前倒しに実現可能になったと勘違いし、舞い上がってしまったのである。「米中G2論」などという褒め殺しにも気がつかなかったのだ。

著者が指摘する「中国の戦略的誤り」は次の3点だ。①カネとチカラの混同、②線的(リニア)な予測の錯誤、③二国間関係の錯誤。以下、わたし流に解説しておこう。

①は、小国を「札束で引っぱたいて言うことを聞かせる」ということ。露骨だが効果的な方法である。中国が、とくにアフリカで独裁者をカネで買収してきたことは周知のとおりだ。かつて英国も米国も行ってきたことではある。だが、経済力と影響力はイコールではない。経済力が縮小しながらも、いまだ英国は影響力をもっている。このような例は歴史的に多数ある。いまの中国はカネがあるが魅力はない。

②は、右肩上がりで成長し続けるという幻想のこと。バブル期とその後にわたって日本人も致命的な間違いを犯したことを想起すべきだろう。中国もその同じワナに捕らわれてしまったのだ。バブル期を知っているわたしのような人間からみれば、中国の勘違いによる傲慢さはじつに甚だしく、しかもじつに危うい。

①と②はわかりやすいが、③の「二国間関係の錯誤」は、ややわかりにくいかもしれない。著者独自の「逆説的論理」(paradoxical logic:パラドクシカル・ロジック)が適用されるものだ。「ある国が大きくなって、しかもそれが「平和的台頭」でなければ、台頭して強くなったおかげでかえって立場が弱くなること」を意味している。実際の世界には多数の国があり、二国間だけの純粋な関係というものは存在しないのである。合従連衡が発生するのがつねである。これはビジネス世界との大きな違いだ。

ある国が大国化すると周辺諸国に脅威を感じさせることになり、劣勢にある国を支援しようとする動きが必ず発生する。それが軍事同盟である。日露戦争前の日本もそうであった。当時の「小国」日本は日英同盟と米国の支援のおかげでロシアとの戦争に辛くも勝利できたのであった。だが、1930年代には「大国」化への途上にあった日本は大きな間違いを犯してしまう。英米を敵に回してしまったのだ。

南シナ海を「核心的利益」とする現在の中国共産党は、満蒙(=満洲+蒙古)を「帝国の生命線」とした大日本帝国と酷似している。「大陸国家の海洋進出」と、「海洋国家の大陸進出」は真逆の関係にあるが、身の程知らずという点において共通している。前者は中国、後者は日本のことである。2010年現在の中国は、1930年代の日本と同じ失敗をする可能性が高い。

このほか、本書には、ルトワック戦略論のエッセンスがふんだんにちりばめられている。たとえば「潜伏的効果」(latent effect)。民主主義国の米国が米国として存在しているが故に、民主主義政体をとらない中国には破壊的工作を行っているに等しいという。ルトワックは、戦略論の世界では意外なほど効果を発揮していると説くが、これはジョゼフ・ナイのいう「ソフトパワー」のことでもあろう。

中国人は、たとえどんな僻地に住んでいようが、米国大統領選のことを知っている。それに対して、政治的リ-ダーは自分たちが選んだわけではない。そこが、同じく強権政治を行っていながらも中国の習近平とロシアのプーチンとの大きな違いである。まがりなりにも、プーチンは自分たちが選んだリーダーだという意識がロシア人にはある。ソ連時代とは根本的に異なるのだ。その意味では、共産党独裁体制の中国は、いまだソ連段階なのである。

そして、「海洋パワー」(maritime power)と「シーパワー」(sea power)の違い。地政学でいう「シーパワー」は「ランドパワー」と対になる概念で、軍事力というハードパワーを想定している。これに対して、ルトワックのいう「海洋パワー」とは、「シーパワー」の上位概念で、自国以外の関係性で生まれるという。これもまた、「ソフトパワー」を含んだ概念であろう。「海洋パワー」は米国にはあるが、中国にはない。そう短時日に形成できるものではないからだ。

軍事戦略は、経営戦略とはイコールではないが、この本はじつに面白い。日本語版オリジナルの語り下ろしなので読みやすい。アタマの整理のために、ぜひ読むことを薦めたい。





目 次

日本の読者へ
序章 中国1.0-平和的台頭
第1章 中国2.0-対外強硬路線
第2章 中国3.0-選択的攻撃
第3章 なぜ国家は戦略を誤るのか?-G2論の破綻
第4章 独裁者、習近平の真実-パラメータと変数
第5章 中国軍が尖閣に上陸したら?-封じ込め政策
第6章 ルトワック戦略論のキーワード(奥山真司)


著者プロフィール

エドワード・ルトワック(Edward N. Lutwak)
ワシントンにある大手シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の上級顧問。戦略家、歴史家、経済学者、国防アドバイザー。1942年、ルーマニアのトランシルヴァニア地方のアラド生まれのユダヤ系。イタリアやイギリス(英軍)で教育を受け、ロンドン大学(LSE)で経済学で学位を取った後、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で1975年に博士号を取得。同年国防省長官府に任用される。専門は軍事史、軍事戦略研究、安全保障論。国防省の官僚や軍のアドバイザー、ホワイトハウスの国家安全保障会議のメンバーも歴任。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)

訳者プロフィール

奥山真司(おくやま・しんじ)
1972年生まれ。カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学卒業。英国レディング大学大学院博士課程修了。戦略学博士(Ph.D)。国際地政学研究所上席研究員。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


<関連サイト>

「世界的戦略家が“大国中国”を斬る」-著者は語る(週刊文春WEB 2016.05.18)



<ブログ内関連記事>

書評 『パックス・チャイナ-中華帝国の野望-』(近藤大介、講談社現代新書、2016)-2012年に始まった「習近平時代」を時系列で振り返るとクリアに見えてくるもの

朗報! 国際仲裁裁判所が「中国の南シナ海支配にNO」の審判を下した(2016年7月12日)

「連盟よさらば! 我が代表堂々退場す」(1933年)-いかなる「離脱」も戦争の引き金とならないことを願う

「意図せざる結果」という認識をつねに考慮に入れておくことが必要だ
・・どうも中国は、自分の行為がいかなる結果を引き起こすかについての想像力を著しく欠いているようだ

書評 『それでも戦争できない中国-中国共産党が恐れているもの-』(鳥居民、草思社、2013)-中国共産党はとにかく「穏定圧倒一切」。戦争をすれば・・・
・・「戦争になったら、間違いなく中国共産党は滅びる。中国共産党=中華人民共和国である以上、「亡党亡国」となるのは必定なのである。」

書評 『語られざる中国の結末』(宮家邦彦、PHP新書、2013)-実務家出身の論客が考え抜いた悲観論でも希望的観測でもない複眼的な「ものの見方」
・・この記事に掲載した各種資料を参照

書評 『なぜ中国は覇権の妄想をやめられないのか-中華秩序の本質を知れば「歴史の法則」がわかる-』(石平、PHP新書、2015)-首尾一貫した論旨を理路整然と明快に説く
・・「中華秩序」を破壊したのが近代日本であったという事実。これはしっかりとアタマのなかに入れておかねばならない。琉球処分と日清戦争における日本の勝利によって、「中華秩序」は破壊された。だからこそ、中国の指導者は絶対に日本を許せないのである。」

書評 『中国外交の大失敗-来るべき「第二ラウンド」に日本は備えよ-』(中西輝政、PHP新書、2015)-日本が東アジア世界で生き残るためには嫌中でも媚中でもない冷徹なリアリズムが必要だ

書評 『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』(遠藤誉、WAC、2013)-中国と中国共産党を熟知しているからこそ書ける中国の外交戦略の原理原則

書評 『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力-自衛隊はいかに立ち向かうか-』(川村純彦 小学館101新書、2012)-軍事戦略の観点から尖閣問題を考える

書評 『平成海防論-国難は海からやってくる-』(富坂聰、新潮社、2009)-「平成の林子平」による警世の書
・・海上保安庁巡視艇と北朝鮮不審船との激しい銃撃戦についても言及。海上保安官は命を張って国を守っている!

書評 『海洋国家日本の構想』(高坂正堯、中公クラシックス、2008)-国家ビジョンが不透明ないまこそ読むべき「現実主義者」による日本外交論
・・海は日本の生命線!

(2016年7月20日・21日・24日・25日 情報追加)


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2016年7月13日水曜日

朗報! 国際仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)が「中国の南シナ海支配にNO」の審判を下した!(2016年7月12日)」


まさに朗報! この審判を待っていたのだ。産経新聞が「号外」を出していることを知ったので、ここに掲載しておこう。【産経新聞号外】 中国の南シナ海支配認めず 仲裁裁判所判決(2016年7月12日)  である。

内容は、中国共産党が主張する「九段線」は認められないというものだ。ちょうど牛タンのような下達をした九段線の内側、つまり南シナ海のほぼ全域を対象に管轄権を主張し、人工島を造成するなど実効支配を強めている中国の主張には歴史的根拠はなく、いっさい認められないという審判内容だ。

中国共産党の主張に国際法上の法的根拠なし! 歴史的根拠なし! 「天網恢々(てんもうかいかい)疎(そ)にして漏らさず」。このフレースを中国に差し上げようではないか!

発表を受けてフィリピン政府は歓迎の声明、米国政府も審判内容に法的拘束力あり、としている。



このニュースの意味は日本人が想像する以上に大きい。この画像は、シンガポールの Channel NewsAsia のLIVEニュースからキャプチャしたもの(2016年7月12日)。フィリピン、ベトナム、インドネシア、マレーシアが直接かかわってくる問題だ。

たしかに東シナ海は、日本にとっての直接的な脅威であるが、南シナ海もまた、日本の生存と密接な関係がある。南シナ海は東シナ海とつながってからだが、それだけではない。

南シナ海は、日本のシーレーンであり、この海域を通過する日本の船舶にとって最重要な海域の一つである。日本の輸出入の7割は海上輸送に頼っており、とくに石油という戦略物資はタンカーによってこのルートを通るのである。原発依存が急減している現在、発電用燃料としての石油依存が高止まりしている現在の日本にとって、南シナ海の平和は、まさに死活的な問題である。

もしこの海域で大規模な武力衝突が発生すれば、輸入物資の高騰が日本人の生活を苦しめることにもなるのである。

(中国が勝手に線引きしている「第一列島線」と「第二列島線」 wikipedia より)

しかし、中国共産党は、審判内容を紙くずだといって強弁している。よほど衝撃が大きいのだろう。犬の遠吠えというやつである。

中国共産党は、南シナ海を「核心的利益」としている。まことにもって勝手な話である。戦前の日本は、満蒙(=満洲と蒙古)を「帝国の生命線」としていた。

そう考えると、2010年代の中国にとって南シナ海は、戦前の1930年代の日本にとっっての満洲と同等の価値と意味をもつことになる。中国にとっての南シナ海は、ある意味では「海の満洲」というべきか。これは単なるアナロジーとして考えるには、あまりにも危険だ。

「連盟よさらば! 我が代表堂々退場す」(1933年)-いかなる「離脱」も戦争の引き金とならないことを願う にも書いたが、国際連盟の常任理事国であったは日本は、満州における利権を批判した英国のリットン調査団の報告書が、常任理事国あった日本の反対を押し切って国際連盟で採択されたため、国際連盟を脱退した。1933年のことだ。

国際連合(=国連)の常任理事国である中国は、2016年に下された 国際仲裁裁判所が「中国の南シナ海支配に法的根拠なし」の審判を拒否して、国際海洋法(?)を離脱することがありえるか?

冷静に思考すれば、そんなことはあり得ないというのが大方の見方であろう。しかし、何度も述べているように、戦前の日本という歴史上の実例がある以上、荒唐無稽な妄論として排除できるだろうか?? たかだか83年前のことである。もちろん当時の生き証人はいないとはいえ、歴史を振り返れば、日本人の多くはこの教訓は身にしみて痛感しているが、中国には通用しない話かもしれない。

日本は、硬軟両面で、中国に国際ルールを守らせることが重要である。おかしな妥協は敗北主義への道である。英国の首相チェンバレンがヒトラーに対して宥和主義で臨んだ「ミュンヘン会談」の轍を踏まないことが重要だ。後悔先に立たず、である。

中国が無法者であることが国際的に明らかになったわけだが、とはいえ、あまり追い詰めすぎると、国際的に孤立した中国が暴発する可能性もある。追い詰めすぎずに国際ルールを学ばせることが求められる。中国にとって面子(メンツ)をつぶさずに妥協できる落としどころを見つける必要があるのだが、難しい課題であることは否定できない。

日本人は、すでに「戦争前夜」であり、「準戦時状態」という覚悟をもたなければならない。いつ戦争になってもおかしくないし、もしかすると自制心を失った中国は、軍事的に敗北するまで目覚めないかもしれないからだ。







<関連サイト>

南シナ海めぐる対立-基礎知識-(NHK)

フィリピンからのメッセージ 「中国に立ち向かいますので応援お願いします」 ついに始まった国家総出の「法律戦」 (松本太、JBPress、2014年4月9日)

中国が渇望する「南シナ海有事」に備えよ 日中外相会談、4時間20分の「先」を読む (福島香織、日経ビジネスオンライン、2016年5月4日)
習近平が局地的な軍事衝突を望んでいるのではないか、と想像するのは、鄧小平の先例に倣おうというのではないか、という見方だ。・・中略・・ 文革終了によって復活した鄧小平は、文革で混乱した軍の整理に着手するが、その過程で自分が信頼する第二野戦軍出身の将校を重用、その人事の正当性を戦争に勝利するという形で認めさせることが軍権掌握の早道であった。・・中略・・ 今の南シナ海は非常に危機的な状況であると認識すべきである。キューバ危機のように、ぎりぎりのところで回避されるかもしれないし、中越戦争のように本当に局地戦が起きるかもしれない。だが具体的なことを少しは想像しておくことだ。

南シナ海問題、裁定を「紙くず」と切り捨てる中国 「アメリカ黒幕説」を展開する理由 (石平、ウェッジ、2016年7月14)
・・「一連の批判の中で、中国政府や国営メデイアは裁定を口々に「茶番」や「紙くず」だと切り捨てている。しかし裁定が単なる「茶番」や「紙くず」なら、中国政府と国営メディアはそこまで猛烈な反撃に出る必要はないだろう。中国側がそれほど神経質になって総掛かりの反撃キャンペーンを展開していること自体、裁定の結果が中国政府にとっての深刻なボディブローとなって効いていることの証拠である。中国政府は当初から、裁定の結果を一切拒否する方針であった。しかしここまでくると、騒げば騒ぐほどいわば「無法国家」としてのイメージを国際社会に定着させていくだけで、中国の国際社会からの孤立はますます進むだろう。」

中国、南シナ海領有権否定判決で日米がとるべき姿勢 (田岡俊次・軍事ジャーナリスト、ダイヤモンドオンライン、2016年7月14日)
・・米中対立は日本には不利。米中の落としどころはどこかを探る

仲裁裁判所の南シナ海判決尊重を フィリピンが中国に呼びかけ (BBCジャパン、2016年7月14日)

「全面敗北」皮肉な結果を生んだ強国路線のツケ 南シナ海仲裁判決を絶対受け入れない習近平の危機感 (城山英巳、ウェッジ、2016年7月16日)
・・「中国は西側諸国から圧力が加えられればより意固地になり、独自の道を歩む。習近平指導部は「宣伝戦」「外交戦」「軍事戦」を駆使し、伝統的な「統一戦線」と「持久戦」で危機を乗り切る戦略を展開するだろう。」

南シナ海仲裁判決、中国の「次の一手」に備えよ 「判決無視」を許せば、世界は暴走を止める術を失う (福島香織、日経ビジネスオンライン、 2016年7月20日)
・・「中国側は、南シナ海判決については、世界60か国近くが中国側を支持し、日本の平和主義的元首相も判決がアンフェアだと見ていることなどを根拠に、正義は中国にあり、国際常識・国際秩序のルールメーカーは中国であるとの立場を国内で喧伝しているわけである。これは従来の国連主導、米国主導の国際秩序、国際常識に対するある種の“宣戦布告”ともいえる。・・中略・・ 現在の国際ルールは、すでに無力化し、強大な軍事力と経済力を持つ国が粗暴な恫喝と懐柔で、新たなルールメーカーになろうとしている。南シナ海における今の中国の動きは、そういう意味もあるのだと想像する。」

どう動くのか中国、南シナ海の判決受け (中国問題研究家・遠藤誉が斬る、2016年7月13日)
・・「ここまで明確に、しかも断定的に言い切る判決が出たことは、世界にとっても「爽快な驚き」をもたらすものだが、南シナ海の領有権を軸の一つとして世界への覇権を主張することによって国内における求心力を高めようとしてきた習近平政権にとっては、計り知れない打撃だ。一党支配体制を揺るがしかねない。常設仲裁裁判所は、国際司法裁判所と違って、国連の管轄下ではない。そのため、異議があった時に国連安保理理事会に申し立てることはできないし、また国連加盟国であるが故の拘束力は持ちえない。さらに国際司法裁判所なら提訴されたときに「受けない」と拒否できるが、常設仲裁裁判所の場合は、裁判所に判断が委ねられるために拒否できないのだ。今般のフィリピンの提訴は、二つの点において実に賢明であった。・・中略・・ アメリカはレーガン大統領当時、国連海洋法条約に反対だった。アメリカの安全保障と商業的な利益に損害を与えるというのが理由だった。だから最初は加盟していたのに脱退している。オバマ大統領は加盟(批准)に積極的だが、上院下院の保守派の抵抗勢力の賛同を得られないまま、こんにちに至っている。その意味でアメリカは、実は中国を責められる立場にはなく、中国はその弱点をしっかりつかんで、アメリカの真似をしようと虎視眈々と「なし崩し」を狙っているのである。」

(2016年7月17日・20日・24日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

書評 『中国4.0-暴発する中華帝国-』(エドワード・ルトワック、奥山真司訳、文春新書、2016)-中国は「リーマンショック」後の2009年に「3つの間違い」を犯した

「連盟よさらば! 我が代表堂々退場す」(1933年)-いかなる「離脱」も戦争の引き金とならないことを願う

「意図せざる結果」という認識をつねに考慮に入れておくことが必要だ
・・どうも中国は、自分の行為がいかなる結果を引き起こすかについての想像力を著しく欠いているようだ

書評 『それでも戦争できない中国-中国共産党が恐れているもの-』(鳥居民、草思社、2013)-中国共産党はとにかく「穏定圧倒一切」。戦争をすれば・・・
・・「戦争になったら、間違いなく中国共産党は滅びる。中国共産党=中華人民共和国である以上、「亡党亡国」となるのは必定なのである。」

書評 『語られざる中国の結末』(宮家邦彦、PHP新書、2013)-実務家出身の論客が考え抜いた悲観論でも希望的観測でもない複眼的な「ものの見方」
・・この記事に掲載した各種資料を参照

書評 『なぜ中国は覇権の妄想をやめられないのか-中華秩序の本質を知れば「歴史の法則」がわかる-』(石平、PHP新書、2015)-首尾一貫した論旨を理路整然と明快に説く
・・「中華秩序」を破壊したのが近代日本であったという事実。これはしっかりとアタマのなかに入れておかねばならない。琉球処分と日清戦争における日本の勝利によって、「中華秩序」は破壊された。だからこそ、中国の指導者は絶対に日本を許せないのである。」

書評 『中国外交の大失敗-来るべき「第二ラウンド」に日本は備えよ-』(中西輝政、PHP新書、2015)-日本が東アジア世界で生き残るためには嫌中でも媚中でもない冷徹なリアリズムが必要だ

書評 『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力-自衛隊はいかに立ち向かうか-』(川村純彦 小学館101新書、2012)-軍事戦略の観点から尖閣問題を考える

書評 『平成海防論-国難は海からやってくる-』(富坂聰、新潮社、2009)-「平成の林子平」による警世の書
・・海上保安庁巡視艇と北朝鮮不審船との激しい銃撃戦についても言及。海上保安官は命を張って国を守っている!

書評 『海洋国家日本の構想』(高坂正堯、中公クラシックス、2008)-国家ビジョンが不透明ないまこそ読むべき「現実主義者」による日本外交論
・・海は日本の生命線!

(2016年7月20日・21日 情報追加)




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2016年6月6日月曜日

書評『続・100年予測』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、ハヤカワ文庫、2014 単行本初版 2011)-2011年時点の「10年予測」を折り返し点の2016年に読む


『続・100年予測』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、ハヤカワ文庫、2014)という本の凄さに感嘆している。

オバマ政権の外交政策である「オバマ・ドクトリン」が明らかになってきたいま、2011年に出版された「10年予測」(The Next Decade:次の10年)を目的にした本書の内容の正しさが、つぎつぎと実証されつつあることに戦慄さえを覚えるのだ。

2011年の原書出版後、『激動予測-「影のCIA」が明かす近未来パワーバランス-』というタイトルイで早川書房から出版されたものを、タイトルを『続・100年予測』と変更して2014年に文庫化されたものだ。販売戦略として、ベストセラーとなった『100年予測』を意識したものだ。

ただし、100年という超長期の予測と、10年という長期の予測では本質が異なる。地政学的要因でほぼすべてが説明可能な「100年単位」の話と、そのときの政治指導者の個性や行動がおおいに影響を与える「10年単位」の話では性質が大きく異なるのだ。

この本を読むと、オバマ政権末期の外交軍事戦略がよく見えてくる。多くの読者もそう思うことだろう。

オバマ政権2期目の末期近くになって実現したのが、宿敵イランとの「核問題の包括的解決」、キューバとの国交正常化など、つぎからつぎへと事態が進展しているが、本書で説かれている内容を後追いしているかのような印象さえ受けるのだ。このほか、復活したロシア、蜜月であったはずのイスラエルとのあいだで拡がる距離感などなど。

オバマ政権は就任当初から核廃絶など理想主義的な姿勢で出発したが、結局は現実主義の観点に至ったというべきだろうか。いや理想は掲げつつ、現実的に実行するという姿勢に落ち着いたというべきか。

その現実的な対応の背景にあるのが、米国が「意図せざる帝国」になっているという著者のスタンスと、世界のいたるところにコミットせざるをえない米国のとるべきスタンスが勢力均衡策(=バランス・オブ・パワー)である。いわゆる価値観外交ではなく、古典的な外交軍事戦略である。

本書は、「意図せざる帝国」となった米国がとるべき戦略について、なぜそのような戦略をとるべきかというロジックを説得力ある議論として展開している。それが本書の読みどころである。


「意図せざる帝国」(Unintented Empire)とは、じつにうまい表現だ。もはやそう簡単には孤立主義をとれないほどの巨大な存在となっている米国は、世界の隅々にまでコミットせざるをえない帝国という「現実」と、共和国という「理念」のコンフリクトに揺れる存在である。

「共和制」であり、「連邦制」である、というのが独立以来の米国の建国理念であり、この基本を守り抜くために南北戦争という内乱や、海外の戦闘で多くの血を流してきたのである。つまり米国は理念国家としての性格がつよい。

理念を守り抜くためには現実的にならざるを得ない。現実的な策を実行するためにはパワーの裏付けが不可欠だ。ただしパワーには限界があり、効果的な資源配分を行う必要がある。

そのためには戦略的に重要なポイントと、かならずしもそうではないポイントを区分し、同盟関係をつうじた合従連衡も行う。そして、この合従連衡は、環境の変化に応じて柔軟に組み直すことが必要となる。

そしてまた、戦略的に重要な地域で強力なパワーが発生して米国の国益を脅かさないように、競合関係にある勢力を互いに牽制させるという勢力均衡策という古典的な手法をとることも必要となる。

ブッシュ・ジュニア政権でテロに直面した米国は、国民の不安感情を抑えるためにテロ対策にのめり込み、戦略の常道から逸脱してしまう。思わずクチにしてしまった「十字軍」という表現が、価値観の戦争であることを無意識に示してしまった。

イラクへの介入がイラクじたいの弱体化を招き、中近東におけるイラクとイランによる勢力均衡を破綻させてしまったのである。アフガニスタンへの介入もまた、インドとパキスタンとの勢力均衡にはマイナス要因として働く。

そのツケをオバマ政権が負うことになったわけだが、オバマ政権もまた理想肌ゆえに対話を重視したものの、結局は勢力均衡策という現実的な対応をとらざるを得なくなったわけだ。

本書で特筆すべきなのは以下の諸章である。じつに読み応えがある。

第6章 方針の見直し-イスラエルの場合
第7章 戦略転換-アメリカ、イラン、そして中東 
第8章 ロシアの復活
第9章 ヨーロッパ-歴史への帰還
 EUの危機とドイツの再浮上 ロシアとの相互補完
第10章 西太平洋地域に向き合う
 日中のパワーバランス
第13章 技術と人口の不均衡


東アジア情勢にかんしては、不安定化を避けながらも日中を競合させる勢力均衡策を米国がとっっている理由もよく理解できるが、韓国を過大評価している印象が残る。これは多くの日本人読者が抱く感想ではなかろうか。オバマ政権も末期になればなるほど、米国と韓国の距離は拡がる一方だ。この点で、フリードマン氏の予測は外れている。


オバマ政権の2期目の末期となった2016年後半のいま、レイムダック視される状態にもかかわらずオバマ政権がじつは戦略の常道を進んでいる。出版後すでに5年を経過した現在は「次の10年」の折り返し点にあるわけだが、予測の正しさがこの時点で実証されたといえるのである。

だが、トランプ大統領誕生となったら、米国はどうなるのか? 米国の圧倒的影響圏にある日本はどうなるのか?

『カミング・ウォー・ウィズ・ジャパン-「第二次太平洋戦争」は不可避だ-』(徳間書店、1991)などの著書をもち、日本に対してシビアな姿勢を崩さないジョージ・フリードマン氏であるが、その見解を欧州情勢だけでなく、日米中の三角関係を中心にみたアジア情勢としてまとめていただきたいものである。的確で厳しい視点こそ日本には必要だからだ。





目 次

日本版刊行によせて-地震型社会、日本(ジョージ・フリードマン)
まえがき
序章 アメリカの均衡をとり戻す
第1章 意図せざる帝国
 アメリカの皇帝
 帝国の現実に対処する
 アメリカの地域戦略
第2章 共和国、帝国、そしてマキャヴェリ流の大統領
第3章 金融危機とよみがえった国家
第4章 勢力均衡を探る
 イラクの賭け
 イランの複雑性
第5章 テロの罠
 テロはどれほど深刻な脅威か
 テロと大量破壊兵器
第6章 方針の見直し-イスラエルの場合
第7章 戦略転換-アメリカ、イラン、そして中東 地域の心臓部-イランとイラク
第8章 ロシアの復活
 ロシアの恐れ
 ロシアの再浮上 アメリカの戦略
 ロシアをどう扱うか
第9章 ヨーロッパ-歴史への帰還
 EUの危機
 ドイツの再浮上 アメリカの戦略
第10章 西太平洋地域に向き合う
 中国、日本、そして西太平洋
 中国と日本 日中のパワーバランス アメリカの戦略-時間稼ぎ
 インド、アジアのゲーム
第11章 安泰なアメリカ大陸
 対ブラジル、アルゼンチン戦略
 メキシコ
 アメリカの対メキシコ戦略
第12章 アフリカ-放っておくべき場所
第13章 技術と人口の不均衡
第14章 帝国、共和国、そしてこれからの10年
謝辞
訳者あとがき
解説 「帝王」への忠言にして、帝国の統治構造の暴露の書(池内恵)



<関連サイト>

The Obama Doctrine The U.S. president talks through his hardest decisions about America’s role in the world. (By JEFFREY GOLDBERG The Atlantic APRIL 2016 ISSUE)

Coming to Terms With the American Empire Geopolitical Weekly APRIL 14, 2015
・・帝国は意図してなるものではない。共和制ローマも、アメリカもまた?

A Net Assessment of Europe Geopolitical Weekly MAY 26, 2015

A Net Assessment of the World Geopolitical Weekly MAY 19, 2015

World War II and the Origins of American Unease Geopolitical Weekly MAY 12, 2015
・・大恐慌とパールハーバーに不意打ちされたアメリカ。核戦争への備えを用意したマインドセット・・・
China's New Investment Bank: A Premature Prophecy Global Affairs APRIL 22, 2015


<ブログ内関連記事>

書評 『100年予測-世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、早川書房、2009)-地政学で考える
・・「地理的・環境的制約条件という人間が変えることのできない絶対的制約条件からみたら、個々の政治指導者の行動など、長期的にみれば重視する必要はない、というのが地政学の立場に立った著者の基本姿勢である。経済学が個々のプレイヤーに注意を払わないのと同じだ、と。
 1492年のコロンブスの大航海に始まって1991年のソ連崩壊までの500年にわたって続いた、大西洋世界を中心とした西欧による「世界システム」が終わり、大西洋と太平洋の制海権をともに支配する地理的条件にめぐまれ、世界最大かつ最強の海軍力をもつにいたった米国に「世界システム」が始まったという認識
 安価で大量輸送が可能な海上交通を保護するには、海軍力による制海権がモノをいうからである。1980年代に、太平洋貿易が大西洋貿易を上回ったことが、覇権交代を象徴的に物語っている。著者の認識を一言でいえば、「アメリカは衰退寸前であるどころか、上げ潮に乗り始めたばかり」(P.374)ということで
 ユーラシア大陸とは異なり、南北戦争という内乱を例外として、建国以来200年以上にわたって本格的な侵略を受けたことがないという地政学的条件から考えると(・・「9-11」は攻撃だが、侵略ではない)、次の500年続くかどうかはわからないが、少なくとも今後100年は米国の覇権が続くと考えたほうがいいのかもしれない。」

書評 『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる-日本人への警告-』(エマニュエル・トッド、堀茂樹訳、文春新書、2015)-歴史人口学者が大胆な表現と切り口で欧州情勢を斬る
・・「リーマンショック」後のユーロ危機のなかから浮上したのは強国ドイツ

書評 『ドイツリスク-「夢見る政治」が引き起こす混乱-』(三好範英、光文社新書、2015)-ドイツの国民性であるロマン派的傾向がもたらす問題を日本人の視点で深堀りする
・・ドイツとロシアの相互補完関係

書評 『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』(遠藤誉、WAC、2013)-中国と中国共産党を熟知しているからこそ書ける中国の外交戦略の原理原則
・・「本書の特徴は、とかく日中関係という二国関係だけでものをみがちな日本人に、米中関係という人きわめて強い人的関係をベースにした二国関係の視点を提供してくれている点にある。中国問題は、すくなくとも日米中の三カ国関係でみなければ見えてこない。「大型大国間関係」という、G2=米中二国間関係にちらつくキッシンジャーと習近平の親密な関係、アメリカの世論にきわめて大きな影響力をもつ在米華人華僑の存在、アメリカの中国重視政策と日米同盟のズレなど、米国の中国政策を前提にしないと日中関係も見えてこない。」


■未来予測を事後に検証する

『2010年中流階級消失』(田中勝博、講談社、1998) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その1)

『次の10年に何が起こるか-夢の実現か、悪夢の到来か-』(Foresight編集部=編、新潮社、2000) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その2)



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2016年6月5日日曜日

書評『仮面の日米同盟 ― 米外交機密文書が明らかにする真実』(春名幹男、文春新書、2015)― 地政学にもとづいた米国の外交軍事戦略はペリー提督の黒船以来一貫している



 『仮面の日米同盟-米外交機密文書が明らかにする真実』(春名幹男、文春新書、2015)という本は、かならず読んでおくべき本だ。

昨年11月に出版されてからすぐに購入したが、「積ん読」となっていた。しかし、「日米同盟」について辛辣なビジネスライクのトランプ大統領誕生が絵空事ではなくなりつつある状況のなか、「日米同盟」についてキチンと認識しておくことは不可欠だ。そう思って、このたび読んでみることとした。


この本のメッセージは一言で要約してしまえば以下のようになる。

●「米軍は日本本土防衛のため駐留せず」 

これは前々から指摘はされていたが、本書の著者である春名氏によって、はじめて米国側の機密文書の裏付けをもって示されたことになる。

ではなぜ、米軍は日本に、とくに沖縄に駐留しつづけているのか?

それは、もっぱら日本列島のもつ地政学的な優位性、ことにロジスティクス(・・軍事用語でいえば兵站)にあるのだ。これは、ペリー提督の「黒船来航」以来、一貫した米国の戦略的視点である。 いわゆる「開国」は、米国の捕鯨船の補給問題と日本市場開放が目的であった。

日本の敗戦後、「安保条約」にもとづいて日本に駐留する米軍にとって、日本列島は水や食料と燃料の補給基地であり、艦船の補修基地でもある。これは朝鮮戦争においても、ベトナム戦争においてもそうだっただけでなく、中近東における戦闘においても継続している。

そもそも第二次世界大戦において、米軍は戦略的優位性をもつ沖縄を獲得したかったからこそ、硫黄島を制圧したあとにそのまま北上せず、沖縄上陸作戦を敢行したのである。日本の敗戦後もそのまま米軍による軍政を敷いたのは、基地として沖縄を絶対に確保したかったからなのだ。

そして、基地を返還したくないからこそ、妥協策として「沖縄返還」に応じたのである。

米国は沖縄基地を死守するために、沖縄返還に応じたのだ、という事実をしれば、米国が沖縄から撤退したがらない理由が理解できる。

もちろん、沖縄本島に米軍将兵が多数駐留していることじたいが抑止力になるが、「米軍は日本本土防衛のため駐留せず」 なのである。尖閣で問題が発生しても、はたして米軍は動けるのか、おおいに疑問だ。中国に対しては、キッシンジャー以来、いわゆる「瓶のフタ」論という詭弁で在日米軍の存在を自己正当化してきたことも忘れるべきではない。日本が暴発しないよう、米軍が駐留しているという論である。

「沖縄返還」交渉の当事者であった佐藤栄作首相とニクソン大統領の認識のズレと、平行して行われていた日米繊維交渉におけるニクソンの怒りは、読ませる内容になっている。これが本書の中核として第3章から第5章まで詳述される。

沖縄返還交渉と日米繊維交渉はほんらいは別個のものであったが、佐藤栄作が大見得をきったにもかかわらず繊維交渉が決着しなかったことが、日本の頭越しの「米中交渉」開始や貿易摩擦解消のための「ドル防衛」など、いわゆる「ニクソン・ショック」となって炸裂したのだ。この歴史的事実は、あらためて振り返っておく必要が強い。

先日も沖縄の軍属による殺人事件が発生して、沖縄のみならず日本全体で怒りの声があがっている。米軍にとっての、米国政府にとっての沖縄の基地、日米同盟の意味について、冷静な観点から押さえ置く必要があることを痛感させられる。


■「米軍は日本本土防衛のため駐留せず」

著者の取材によれば、自衛隊もまた在日米軍が防衛型ではなく攻撃型のものであると認識していることが指摘されている。兵站基地である日本列島から、攻撃のために米軍は出撃するのだ。

 「米軍は日本本土防衛のため駐留せず」という事実を直視しなければ、日本は危うい。


(画像をクリック!)


目 次

はじめに-アメリカは頼れる同盟国か?-逃げるアメリカ、前のめりの日本
第1章 アメリカは日本を守ってくれるか
  「集団自衛権」を行使する理由
  安部の「美しい」誤解
 1. 新ガイドライン翻訳の仕掛け
 2. 作為的翻訳で米軍関与の印象強化
 3. 米防衛公約の後退
第2章 米機密文書は語る
 1. 「米軍は日本本土防衛のため駐留せず」
 2. 沖縄返還が転機に
 3. 防衛力増強の要求
 4. どうなる日本の抑止力
第3章 アメリカ依存を誘導する戦略
 1. 日本を操る米国の地政学的策略
 2. 在日米軍撤退を阻む策略
第4章 裏切りの沖縄返還
   だれも知らない沖縄返還の理由
 1. 親米の佐藤だから
 2. 秘密主義、盗聴、そして罠
 3. 沖縄返還交渉の罠
 4. 世紀のドタバタ外交
 5. 日本への不満を残した米軍部
第5章 「繊維」の欺きと報復の「ニクソン・ショック」
 1. 沖縄返還を人質にした繊維交渉
 2. 煮と米関係が暗転した理由
 3. 報復としてのニクソン・ショック
 4. 対日政策の見直し
第6章 米中の狭間で翻弄される日本
 1. ニクソンの狙い
 2. カードは「瓶のふた論」
 3. 日本をないがしろにした外交
 4. 見えない米中コネクション
第7章 尖閣諸島問題におけるアメリカの本音
 1. 有事への懸念と異常事態
 2. 沖縄返還協定前のサプライズ
 3. 台湾への融和策
 4. 沖縄返還協定の秘密
 5. 米国内で強まる「巻き込まれ論」
 6. 日米中首脳の微妙な関係
結論に代えて-同盟の疲労
  日米両政府はどう説明するのか?
略称一覧
参考文献



<ブログ内関連記事>


■日米関係

書評 『戦争・天皇・国家-近代化150年を問い直す-』(猪瀬直樹・田原総一郎、角川新書、2015)-「日米関係150年」の歴史で考えなければ日本という国を理解することはできない

書評 『黒船の世紀 上下-あの頃、アメリカは仮想敵国だった-』 (猪瀬直樹、中公文庫、2011 単行本初版 1993)-日露戦争を制した日本を待っていたのはバラ色の未来ではなかった・・・

書評 『マンガ 最終戦争論-石原莞爾と宮沢賢治-』 (江川達也、PHPコミックス、2012)-元数学教師のマンガ家が描く二人の日蓮主義者の東北人を主人公にした日本近代史

「神やぶれたまふ」-日米戦争の本質は「宗教戦争」でもあったとする敗戦後の折口信夫の深い反省を考えてみる

書評 『「普天間」交渉秘録』(守屋武昌、新潮文庫、2012 単行本初版 2010)-政治家たちのエゴに翻弄され、もてあそばれる国家的イシューの真相を当事者が語る

書評 『日米同盟 v.s. 中国・北朝鮮-アーミテージ・ナイ緊急提言-』(リチャード・アーミテージ / ジョゼフ・ナイ / 春原 剛、文春新書、2010)

書評 『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』(遠藤誉、WAC、2013)-中国と中国共産党を熟知しているからこそ書ける中国の外交戦略の原理原則
・・「本書の特徴は、とかく日中関係という二国関係だけでものをみがちな日本人に、米中関係という人きわめて強い人的関係をベースにした二国関係の視点を提供してくれている点にある。中国問題は、すくなくとも日米中の三カ国関係でみなければ見えてこない。「大型大国間関係」という、G2=米中二国間関係にちらつくキッシンジャーと習近平の親密な関係、アメリカの世論にきわめて大きな影響力をもつ在米華人華僑の存在、アメリカの中国重視政策と日米同盟のズレなど、米国の中国政策を前提にしないと日中関係も見えてこない。」

書評 『田中角栄 封じられた資源戦略-石油、ウラン、そしてアメリカとの闘い-』(山岡淳一郎、草思社、2009)-「エネルギー自主独立路線」を貫こうとして敗れた田中角栄の闘い

『愛と暴力の戦後とその後』 (赤坂真理、講談社現代新書、2014)を読んで、歴史の「断絶」と「連続」について考えてみる


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