民主党の有志の議員たちが、戸籍制度廃止にむけての研究会を始めたらしい。以下のような短い報道がされていた。マスコミでの取り上げは小さいが、きわめて重要である。
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戸籍制度見直しへ議連 民主有志
日経Net 2009年9月20日
戸籍制度の廃止をめざす議員連盟が、民主党の有志議員約30人により10月に発足することがわかった。名称は「戸籍法を考える議員連盟(仮称)」で、呼びかけ人は川上義博氏、松本龍氏ら。個人を単位とした登録制度をつくるため、戸籍法の廃止も含む見直しを提案している。(20日 10:17)
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たいへんよい動きである。
なぜなら、戸籍制度こそ差別問題発生の温床、諸悪の根源であることは、日本企業で人事総務関連の仕事にかかわったことがある人なら理解できるはずだ。
採用実務にかかわった人間なら一度は目にしているはずのパンフレットに、たしか『採用』という名前だっと思う、A4版の小冊子がある。一般にみることはないだろうが、かならずどの自治体でも発行しているパンフレットで、戸籍制度と差別にかんする、簡潔にして要を得た記載があるはずである。
そこに書かれているのは、明治4年に作成された「壬申戸籍」の問題である。「壬申戸籍」については、詳しくは、wikipedia の説明を読んでほしい。江戸時代まで続いていた身分制度を打破し、四民平等を謳ったはずの明治維新政府は、しかしながら明治4年(壬申)に作成された「壬申戸籍」において、身分制度を温存することとなる。
"新平民"という記述のある文書そのものは見たことがない。いまは亡き私の祖父の「軍隊手帳」には、"××県士族"と明記してあったことからも、新平民と戸籍に記載された者が存在することは類推可能である。祖父が出征したのは明治時代ではなく、なんと大正時代の「シベリア出兵」である。
戸籍に記載された住所で、出身地がわかってしまうのである。戸籍記載事項のロンダリングでも行わない限り、出身地情報を抹消してしまうことは難しい、というわけなのだ。「壬申戸籍」そのものは現在では閲覧が禁止されて封印され、情報公開も拒否しているが、いつまたどこでコピーがでまわるかわからない。
こういう事情があるので、採用時における差別を撤廃し、人権を守るために、これまでもさまざまな形で啓蒙活動が行われてきた。
しかし、被差別部落の問題だけでなくない。雇用における差別については、男女差別だけでなく、正社員の非正社員への差別、親会社の子会社プロパー社員への差別的取り扱いなど、日本企業のかかえる人権問題はいっこうに改善される見込みがない。こういう問題を抱えているので、海外展開した際に日本からの出向社員と現地採用者への差別的取り扱いがいっこうになくならず、時には訴訟沙汰に発展するのである。
日本を代表する企業の米国現地法人で、日本人トップが秘書の女性に現地法で訴えられるという件が以前に発生しているが、この場合は、性差別にパワーハラスメント、それにレイシズム(=人種差別)もからんだ複雑なハラスメントとなる。
日本企業の組織では、セクハラ、パワハラといった、地位を利用した上位者による下位者へのハラスメントがなくなる気配がない。これに「世間」や「空気」という問題がからみ、人間集団である組織での息苦しさを生んでいるのである。
米国にはアファーマティブ・アクション(Affirmative Action、以下AAと略す)というものがあり、とくに職場におけるマイノリティ保護のための措置がある。affirmative は positive と言い換えても良いが、これについては賛否両論が激しく対抗しているのが現状である。
M.B.A.留学しているときに、人的資源管理(HRM:Human Resource Management、最近では human capital と表現することが多い)の授業でAAについてディベートさせられることになり、働きながら学ぶ黒人学生と組んで、AA肯定サイド、つまり Pro / Con の Pro 側からの議論をすることとなった。
AAも行き過ぎると逆差別をもたらすことは、じっくり考えればわかることだが、ディベートである以上、このアクションの存在によって、黒人もM.B.A.取得の道が開かれたことを強調すべし、という論点で押し通すこととした。
とはいえ、いったん定着した差別是正措置も、いざ廃止するとなると既得権という問題が発生しているのできわめて難しい。達成目標と期限を区切った施行が必要となるだろう。
戸籍制度廃止研究についてだが、民主党の有志議員たちがどこまで考えているのか知らない。また研究会で議論がどこまで進むのか分からないが、議論の主目的がただ単に、単身世帯が増大して、戸単位での生計が減少していることが理由だとしても、戸籍制度廃止に向けた研究をはじめたというメッセージは大きな意味をもつ。
なによりも"個人の自立"を制度面からも保証するものとなるからだ。
この動きにかんしては、私が読み込み過ぎているのかもしれないが、"意図せざる効果"を期待したいものだ。マスコミには、きちんと報道でフォローしていってもらいたい。
そしてまた、超党派で(bipartisan)で議論を深めてもらいたいものである。