ニュースキャスターの滝川クリステルさんが、30歳台の日本女性向けに書いたエッセイ集です。
最近ではモデルとしても活躍する彼女は、CMなどをつうじても露出の機会が増えたので、知名度もひじょうに向上していますね。
夜のニュース番組で、局側の要請によって「斜め45度」という無理で不自然な姿勢を強いられていた状態から解放されて、だいぶ本来のナチュラルさを取り戻せたのではないかと思います。
事実婚、パクス(PAKS)、結婚。フランス女性のライフスタイルには3つの選択肢があるようです。
このなかでもパクスとはフランス独特のもの。wikipedia によれば、1999年にフランスの民法改正により認められることになった「同性または異性の成人2名による、共同生活を結ぶために締結される契約」である(フランス民法第515-1条)のことで、直訳すれば「民事連帯契約」となるようです。
フランスでは離婚が手続きが面倒なので、事実婚やパクスを選択するカップルが多いようです。もちろん、カトリックの影響のまだまだつよく残る地方では状況は異なるでしょうが、すくなくともパリという国際都市では、状況が大きく変化しているようですね。
本書にでてくるキーワードを羅列するとこんな感じでしょうか。
多様化、個性的、個人主義、マイペース、自分が自分のボス、人生をオーガナイズする、自由意思、まわりと違う、己を知る、自分に自信をもつ、欠点ではなく長所を伸ばす、姿勢の良さ、オーガニック、マクロビオティク・・・。
いずれもポシティブな響きをもったコトバで、わたしも個人的にはたいへん好ましいと思っているものばかりです。わたし自身は男性ですが、こういう生き方を貫いているつもりです。
とはいえ、こういったコトバで日本で生きるのはじつに難しいのも確かなこと。本書にも1回だけでてきますが、「世間体」のなかで生きているかどうかが、フランス人と日本人を大きく分けているのは明かですね。
「世間体」や「世間」とは、目に見えないが日本人の言動を大きくしばっている社会的コードのようなもの。「空気」ともかなり近い存在です。
「世間」を意識せずに生きることのできるフランス人、じつにうらやましいものがあります。もちろん、フランス社会にも、日本人には見えない社会的コードがあるでしょうから、ある意味ではフランス人が意識的に壊してきた歴史的成果といえるのかもしれません。
じつは、フランス人のライフスタイルには、オーガニックやマクロビオティクのように、知らず知らずのうちに日本をはじめとするアジア的なるものが浸透しています。
だから、フランスと日本と二項対立的に語っているように見えながら、フランスじたい滝川クリステルさんのような、ハイブリッドな存在になりつつあるということがいえるかもしれません。
ほとんど対極に位置するようなフランスと日本ですが、お互いからまだまだ貪欲に学ぶべきものがあるようですね。
もちろん、フランス人はフランス人、日本人は日本人。日本人は日本国内にいるかぎり声高に自己主張する必要はありませんが、個性的であることは自分の人生を生きることですから、コトバではなく生き方として示せばいいのです。自分らしく、しかもさりげなく。
Amazon のレビューでは、内容にガッカリしたなどの評価がいくつかなされていますが、過剰な期待をするから裏切られ感をつよく感じるのでしょう。学者でも研究者でもない著者に、過剰な期待をもつことは、ある意味では「甘え」そのものです。日本人は、こういうマインドセットを捨てていく必要があります。
ただ、フランス的生き方が原発による電力に大きく依存していることは、この本には書かれていませんが、アタマに片隅には入れておいた方がいいでしょうね。電気を節約するライフスタイルのフランス人ではありますが、そんなフランスの原発依存比率は7割超になっています。
女性の生き方は、裏返せば男性の生き方でもありますね。その意味では、女性向けに書かれた本ですが、男性も目を通す意味はあるでしょう。
<初出情報>
ブログのオリジナル記事です。
目 次
はじめに
1. 選択肢がある生き方
2. フランス的生き方
3. おしゃれ哲学
4. 美の定義
5. 仕事は「心のエネルギー」
6. サステナ美人を目指して
おわりに
日本とフランス 女性解放運動の歴史
カラー48ページ
著者プロフィール
滝川クリステル(たきがわ・くりすてる)
1977年フランス生まれ。父はフランス人、母は日本人。青山学院大学文学部仏文学科卒。フジテレビ「Mr.サンデー」MC、J-Wave「Saude! Saudade ...」パーソナリティ、NHK BS1「プロジェクトWISDOM」MC、WOWOW 「BBC EARTH」プレゼンターなど、メディアで幅広く活躍中。地球いきもの応援団(環境省)に携わりながら、動物愛護の分野でも積極的に活動している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<関連書読書案内>
『フランスはなぜ恋愛スキャンダルがないのか』(棚沢直子/草野いづみ、角川文庫、1999)
『日仏カップル事情』(夏目幸子、光文社新書、2005)
『パリの女は産んでいる-"恋愛大国フランス" に子供が増えた理由-』 (中島さおり、ポプラ文庫、2008)
『なぜフランスでは子どもが増えるのか-』(中島さおり、講談社現代新書、2010)
『フランスの子育てが、日本よりも10倍楽な理由』(横田増生、洋泉社、2009)
『フランス父親事情』(浅野素女、築地書館、2007)
<ブログ内関連記事>
滝川クリステルがフランス語でプレゼンした理由
・・「2020年オリンピック」の東京招致に成功した理由の一つ(2013年)
月刊誌「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2011年1月号 特集 「低成長でも「これほど豊か」-フランス人はなぜ幸せなのか」を読む
「特攻」について書いているうちに、話はフランスの otaku へと流れゆく・・・
・・日本とフランスの関係をサブカルチャーから考えてみる。フランスと日本は、知らず知らずのうちにお互い影響を与え合っている
Vietnam - Tahiti - Paris (ベトナム - タヒチ - パリ)
書評 『マイ・ビジネス・ノート』(今北純一、文春文庫、2009)
・・フランス企業で活躍してきた著者によるビジネス書。論理志向のつよいフランス社会が実感的に理解できる
書評 『言葉にして伝える技術-ソムリエの表現力-』(田崎真也、祥伝社新書、2010)
書評 『わたしはコンシェルジュ-けっして NO とは言えない職業-』(阿部 佳、講談社文庫、2010 単行本初版 2001)
・・ソムリエもコンシェルジュもともにきわめてフランス的な職業
書評 『「空気」と「世間」』(鴻上尚史、講談社現代新書、2009)
・・日本には濃厚な「世間」と「空気」、フランスとの違いを考えるうえで、世間と空気を認識することが重要だ
映画 『最後のマイ・ウェイ』(2011年、フランス)をみてきた-いまここによみがえるフランスの国民歌手クロード・フランソワ
映画 『ノーコメント by ゲンスブール』(2011年、フランス)をみてきた-ゲンズブールの一生と全体像をみずからが語った記録映画
(2014年2月10日 情報追加)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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