7月に入ると、梅雨明けとともに夏山シーズンとなる。シーズンが始まる前に、異色の「山の本」を紹介しておこう。『ぐうたら神父の山日誌』(伊藤淳、女子パウロ会、2023)という本である。
「ぐうたら・・」でピンと来た人がいるかもしれない。狐狸庵先生と名乗ってネスカフェのCMにも出演していたこともある、作家の遠藤周作のエッセイ集のタイトルに使用されているものだ。シリーズ化されたエッセイは、読んだ人も少なくないだろう。
遠藤周作はカトリック作家として、映画化もされた『沈黙』などシリアスな小説もたくさん書いている。ユーモア作家とカトリック作家、遠藤周作のこの2つの側面が、この異色の「山の本」には関係してくる。
本書『ぐうたら神父の山日誌』は、高校時代に山に憧れて山歩きを生涯の趣味とし、大学時代には演劇をつうじて遠藤周作とかかわりをもったカトリック神父が、多忙な日々の合間をぬって訪れた国内外の山をめぐる17編のエッセイで構成された「山の本」なのである。
■誰もが知っている山、おそらく誰もいったことのないであろう山
この「山の本」のなかには、富士山など誰もが知っている山だけでなく、アルプスやヒマラヤ、そしてカトリック国のアイルランドや、聖書の大地であるイスラエルの山々も含まれる。
富士山のように、誰もが知っている山について読むのは面白い。「一度も登らぬ馬鹿、二度登る馬鹿」というフレーズは、本書ではじめて知った。4回も5回も登っているだけでなく、8合目の山小屋で30日近く働いたこともあるわたしなど、さてさて馬鹿を通り越して何になるのかしらん?
この本で紹介されている山々のうち、最後の1/3は「聖地巡礼」として巡ったイスラエル紀行(というよりも珍道中!?)になっている。イスラエルを旅したこともあり、ネパールではアンナプルナのトレッキング体験のあるわたしは、これらの海外の山々は、たいへん興味深く読んだ。
もちろん、自分が登ったことにない山について読むのも興味深い。いずれのエッセイも、話にはかならずオチがついていて、タイトルにある「ぐうたら神父」をけっして裏切らない。著者の人柄のにじみでた、ユーモアあふれるエッセイ集である。
■キリスト教徒でなくても「山は神に出会う場所」
著者は「はじめに」の冒頭を、「聖書では、山は神に出会う場所とされています」という一文で始めている。
「山は神に出会う場所」というフレーズは、キリスト教徒ではなくても、日本人なら刺さるものがあるのではないだろうか。
日本では、もともと山は山岳宗教の対象であり、富士山でも、白装束で金剛杖をつきながら登る山伏姿の巡礼者を目にすることもあるだろう。関西なら熊野、東北なら出羽三山などもまたそうだ。
意識するしないにかかわらず、日本人にとって山は聖なる存在であり続けてきたのだ。
山は制覇する対象ではなく、山はカラダ全体をつうじて、五感で「それ」を感じとる場所なのである。「それ」がなにであるかは、その人の立ち位置によって異なるだけだ。「神」をキリスト教に限定して考える必要はない。
『ぐうたら神父の山日誌』は、そんな日本人としての感性を根底にもっていて、社会人経験も豊富なカトリック司祭が書いた異色の「山の本」である。肩肘張らずに読めるエッセイ集として、薦めたいと思う。
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目 次はじめに富士山 ― 一度も登らぬ馬鹿、二度登る馬鹿丹沢 ― ドイツから来た天狗槍ヶ岳 ― わが青春に悔いあり御岳山(みたけさん)― 招きの声入笠山(にゅうかさやま)― 野外ミサに聖霊の風が吹く鬼怒沼山(きぬぬまやま)― 露天風呂と洗礼マッターホルン ― 三位一体をこの目で見た吾妻山 ― 指ロザリオ物語クロー・パトリック ― アイルランドの守護聖人は厳しい蒼山(ツァンシャン)― 老司祭はロバに乗ってチベットへスケリッグ・マイケル ― ケルト魂が宿る孤島の修道院マチャプチャレ ― ネパールに大木神父を訪ねてシナイ山 ― 圧倒的な拒絶感祝福の山 ― ガリラヤの風かおる丘でタボル山 ― カラスに教わったことオリーブ山 ― バスの窓からゴルゴタの丘 ― 先にいる者が後になるおわりに
著者プロフィール伊藤淳(いとう・あつし)1961年神戸生まれ。横浜育ち。みずがめ座。B型。ひまわり幼稚園、東戸塚小学校、栄光学園中学高等学校、一橋大学、日本カトリック神学院卒。一般企業社員、カトリック学校教諭、無職を経て、2010年よりカトリック東京教区司祭。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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