ミッドタウンのサントリー美術館に行った帰りに乃木坂駅に向かって歩いていたら、「旧乃木邸」と黒字で書かれた大きな提灯がつり下げられていることが目に入った。前回訪問したときには提灯などなかったはずなのだが・・・
気になって門をくぐってみると、「令和七年度 旧乃木邸一般公開」という立て看板がある。
旧乃木邸は外から眺めたことはあるが、なかに入ったことはない。「入場無料」とあるので入って見ることに。 30分ごとに20名限定で20分間なかを見学できるということで、14時からの「第14部入場券」を手に入れることができた。
たまたまその前を通りかかったからこそ、はじめて一般公開のことを知ったのだが、案内役の老婦人によれば、乃木大将夫妻が自刃した命日の9月13日と、11月1日から3日まで毎年一般公開されているのだそうだ。
来年また来たらいいかかと思って、そう告げたが、せっかくの機会なのだからぜひ訪問してほしいと言われた。考えてみればたしかにそうだなと思ったので、説得に応じることにした次第。そして、それは正解だった。来年のことなど、誰にもわからないから。
入場までの待ち時間が30分ほどあったので、まずは外観が赤レンガの乃木大将の馬小屋の内部を見る。厩舎である。だが、いまは馬はいない。
(馬小屋の外観)
そのあと、旧乃木邸の裏にある坂をくだって乃木神社を参拝。雅楽の響きが流れてくるが、なんだろうかと思ったら、なかでは神前結婚が行われていた。 ああ、乃木神社でも結婚式が行われているのだな、と。
こじんまりとした「宝物館」(入場無料)では、今回もまた乃木大将の遺品などを拝観。日本人にとっての乃木大将の意味、死して神となった乃木大将のことを考えながら旧乃木邸に戻る。そういえば、むかし司馬遼太郎の『殉死』という作品を読んだことがあったな、と。
(東郷平八郎による「純誠剛毅」渋沢栄一による「忠勇義烈」)
さて、入場時間の14時が近づいてきたので、受付で資料と絵はがき(4枚入り)をいただき、なかに入る。最初の入場者に近かったので、じっくり内部を見学できたのは幸いだった。
内部が撮影禁止なのは残念だが、乃木大将夫妻が自刃された部屋をみると、それは当然のことだと思う。乃木大将自刃の部屋は2階にあり、廊下をはさんでおなじく自刃した刀自の部屋に対面している。わたしは、この部屋と遺品にひとりで対面した。
すでに100年以上のことであり、乾燥してカサカサになっているとはいえ、自刃当日に着用していた軍服と血染めの下着が遺品として残されている。厳粛な空間なのだ。まさにこの部屋で介錯なしで殉死されたのかと思うと、じつに感慨深いものがある。
見学を終えて外に出て、乃木坂駅に向かって下っていったら、レンガ作りの馬小屋の先に、「乃木神社」と書かれた石柱があった。
よくよく見ると、石柱の左に「東郷平八郎書」とあった。明治という時代、そして日露戦争をそれぞれ陸海で戦った二人の軍人、 乃木大将と東郷元帥。
たまたまその前を通りかかったから、一般公開がされていることを知ったのだが、よくよく考えてみたら、旧乃木邸は乃木坂駅に向かう途中にあるわけではないのだ。駅に向かう道を行きすぎてしまったからこそ遭遇したのである。
「目に見えないなにか」に導かれるような体験だったといえるかもしれない。「見えないなにか」とは、死してのち神となった乃木大将だったのかもしれない。いずれにせよ、まさに一期一会といえるだろう。
こういうこともあるのだな、と思った。世の中には、思いがけないことが充ち満ちている。
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<ブログ内関連記事>
・・同書には乃木大将による「壮烈」という書が掲載されている
・・自刃ののち介錯人に斬首させた三島由紀夫。「憂国忌」には乃木神社から神主がきて魂鎮めの儀式をおこなっていた。
「昭和の三島由紀夫割腹自決による諫死は、大正初年度の乃木大将夫妻の自決による殉死に匹敵するインパクトをもった事件であることはいうまでもない。(・・・中略・・・)
学習院院長としての乃木大将から大いなる薫陶を受けたのが昭和天皇であり、一方、二・二六事件を鎮圧を命じ、敗戦後は人間宣言を行った昭和天皇を呪詛してやまなかったのは、同じく学習院出身の三島由紀夫である。
学習院を優等で卒業した三島由紀夫は、昭和天皇から恩師の銀時計を手ずからいただいている。乃木大将を媒介にしたこの二者の関係は、きわめて複雑で一筋縄ではいかない関係にあるように思うのは私だけではないのではないか。」
・・高山彦九郎は介錯人なしで自刃
・・大原幽学も介錯人なしで自刃
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