「英国のEU離脱(Brexit)」が世界経済に混乱をもたらしているが、この「事件」でわたしが想起する歴史的事件の一つに「日本の国際連盟脱退」(1933年)がある。
国際連盟(league of Nations)は、第二次大戦後、戦勝国が主導する「国際連合」(United Nations: 連合国)の誕生によって発展的解消された国際組織だが、第一次世界大戦後に米国のウィルソン大統領の提唱で誕生したこの組織において、日本はなんと常任理事国だったことは忘れられているようだ。提唱国の米国は議会で否決されて参加していない。
日本が「国際連盟」から「脱退」したのは、1933年3月8日。昭和8年のことである。「満州事変」(1931年)の2年後、日本の傀儡国家である「満州国」誕生の翌年のことである。
「脱退」したのは、満州における利権を批判した英国のリットン調査団の報告書が、常任理事国あった日本の反対を押し切って国際連盟で採択されたからである。採決の結果は42対1、棄権1。日本の完敗である。日本代表が退場したのは、開き直りのようなものであった。
翌朝の日本の新聞は、日本代表・松岡洋右の行動を「連盟よさらば! 我が代表堂々退場す」と見出しをつけて報道した。アタマで考えればバカな話なのだが、その当時の日本人の多くが喝采をおくったのである。正直なところ、わたくしも心情的に理解できないわけではない。あたかも歌舞伎役者が見得を切ったようだからだ。日本的美学である。
上掲の写真は、大学受験では定番の教科書『詳説 山川日本史』からとったもの。高校の授業で日本史が必修でなくなった(残念!)ので、知らない人がいるかもしれないが、国際連盟脱退がなにをもたらしたか、考えてみることも必要だろう。なお、「脱退」を宣言したのちも、猶予期間の2年間にわたって日本は分担金を支払いつづけたことは記しておくべきだろう。
俗なたとえだが、「離脱」や「脱退」というのは、ヤクザの「足抜け」のようなもので、流血沙汰になることが多い。江戸時代の遊女の足抜けもそうだが、経済的な利害がからむ性格をもっている。離脱とは離縁である。縁切りである。金銭問題で済むのなら処理も難しくないが、愛憎という心情面がからむと、そう簡単に解決はできなくなる。落とし前が必要となる。
アメリカ南部が「離脱」した際の南北戦争、ソ「連邦」崩壊やユーゴスラビア「連邦」崩壊なども似たようなものだ。「離脱」と独立を宣言したメンバーが出現したことによって、それが引き金となって激しい戦闘に発展する。アメリカ合州国は分裂を回避し連邦国家としてサバイバルできたが、ソ連もユーゴも消滅した。その他もろもろの帝国崩壊も同様の事例である。
もちろん、「英国のEU離脱(Brexit)」は、日本の国際連盟脱退とは違って、ただちに国際的孤立を招くものではない。また、EU崩壊につながるかは現時点ではなんともいえない。だが、似ている事例について歴史を振り返って確認し、その本質を正確に理解しておくことが必要である。類似点と相違点、である。
歴史に学ぶとは、そういうことである。
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