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2011年5月26日木曜日

書評 『HELL <地獄の歩き方> タイランド編』 (都築響一、洋泉社、2010)-極彩色によるタイの「地獄庭園」めぐり写真集


世界初、極彩色によるタイの「地獄庭園」めぐり写真集

 観光ガイドブックには未来永劫にわたって登場することはないであろう、タイの「地獄庭園」の数々。

 いわば立体地獄マンダラともいうべき「地獄庭園」は、まさに極彩色によるB級ムービーのスプラッター・シーンのオンパレード。これでもか、これでもかと、見る人に迫ってくる。

 そう、「地獄庭園」とは教育目的の「目で見る地獄」なのである。一般民衆に善き行いをするように教え諭すために作られた「教育施設」なのである。

 タイガーバームガーデン(・・シンガポールのハウパーヴィラ)と同様、そもそも観光施設ではないのである。タイの「地獄庭園」は、実際のところ、歴史が新しいものが多いようだ。

 本書には、私自身も実際に訪れたものも多少は含まれているが、大半は未見である。ここまで撮影して一冊にした写真集は私も見たことがないし、著者もいうようにおそらく世界初めての試みだろう。この写真集をみながら、タイのテーラヴァーダ仏教(=上座仏教)の地獄と、日本の大乗仏教の地獄を対比させて考えて見るのも面白い。

 二次元の写真で見るのも面白いが、やはり「地獄庭園」は立体像として三次元で直接見てみたいものだ。次回タイにいく際は、本書をガイドブックにしていくつか回ってみようかな、なんて考えてみたくなる横長サイズの写真集である。

 タイ好きな人にも、キッチュ好きな人にも大いに薦めたい。


<初出情報>

■bk1書評「世界初、極彩色によるタイの「地獄庭園」めぐり写真集」投稿掲載(2010年10月29日)
■amazon 書評「世界初、極彩色によるタイの「地獄庭園」めぐり写真集」投稿掲載(2010年10月29日)


目 次 

ワット・パーラックローイ (ナコンラチャシマー)
ワット・パイロンウア (スパンブリ)
ワット・プートウドム (ラムルーカー)
ワット・ムアン (アユタヤ)
ワット・プラローイ (スパンブリ)
ワット・セーンスック (バーンセーン)
ワット・ケーク/ブッダ・パーク (ノーンカイ/ヴィエンチャン=ラオス)
ワット・ルアンポーナーク (ウドーンターニー)
ワット・プラタージョームジェーン (プレー)
ワット・ガイ (アユタヤ)・・・ほか

*ワット(wat)とは、タイ語でお寺のこと


著者プロフィール

都築響一(つづき・きょういち)

1956年、東京生まれ。ポパイ、ブルータス誌の編集を経て、全102巻の現代美術全集『アート・ランダム』(京都書院)を刊行。以来現代美術、建築、写真、デザインなどの分野での執筆活動、書籍編集を続けている。現在も日本および世界のロードサイドを巡る取材を続行中(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



<書評への付記>

 かつて香港にあった、かろうじていまだシンガポールに残る「タイガーバーム・ガーデン」が、ある意味ではこのタイの立体地獄ワンダーランドにもっともコンセプトとして近いかもしれない。

 シンガポールのタイガーバーム・ガーデンは「ハウパー・ヴィラ」という。このブログに書いた 「タイガー・バーム」創業者の「タイガー・カー」(改造車) を参照されたい。ただし、タイガーバームの産みの親である胡文虎兄弟はミャンマー(当時は英領ビルマ)の首都ヤンゴン(当時はラングーン)に生まれ育った客家であり、その地獄図はタイ風ではなく、中国の道教と大乗仏教に、ミャンマーの上座仏教が融合したものであるとわたしは見ている。

 「ハウパー・ヴィラ」の地獄巡り立体パノラマから一枚だけ、比較的おだやか(?)なものを紹介しておこう。



 ちなみに、わたしがタイ北部チェンマイの寺院で撮影した画像もご紹介しておこう。 チェンマイはタイ北部で、もともと19世紀まではラオ系のランナー王国という独立王国であった。この地方の仏教寺院は隣国のミャンマーの影響を受けたものが多い。龍のクチに咬まれた人が何の教訓なのかは、わたしにはよくわからない。



 一般庶民むけの市場(いちば)でも、川魚などアタマを切り落とした状態で、血まみれのまま売られていることも多い。写真は、カンボジア王国の首都プノンペンの中央市場で撮影したもの。



 二次元の画像、モノクロよりもカラー、さらには三次元の立体像が、即物的である。とくにタイは、血まみれのスプラッターまがいの事件写真が現地紙の一面に掲載されることも多く、同じく魚を食べる仏教徒とはいえ、日本人とは感覚の違いが大きい

 「血の不浄」などといって、血を見ることを忌み嫌う日本人とは、上座仏教の東南アジア人は、かなり異なる感覚をもっているようだ。そしてこの違いはかなり大きい。ものの見方も異なるということだ。

 まだ本格的な夏まで時間があるが、「節電生活」の一環として、納涼のために恐怖を感じるのも悪くないだろうか。まあ、こんな趣味の悪い写真をのせるなんて品格がありません、とT大卒で元官僚の「品格おばさん」や「品格ある日本人」数学者からは叱られるだろうが(笑)。



<関連サイト>

タイの変なお寺に行ってきました!(Tagged with " 地獄寺")
・・インド関連グッズ通販の「老舗」的存在のティラキタのスタッフによるブログ記事。タイの地獄寺にじっさいに行ってきた報告レポートは写真入りで読ませる内容で実用性も高い。必見!

(2014年1月10日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

「タイガー・バーム」創業者の「タイガー・カー」(改造車)
・・シンガポールのハウパーヴィラのごく一部に言及 

タイのあれこれ (16) ワットはアミューズメントパーク
・・観光寺ではない、タイの一般庶民がかようワット(お寺)はコミュニティーセンターで遊園地

今年も参加した「ウェーサーカ祭・釈尊祝祭日 2010」-アジアの上座仏教圏で仕事をする人は・・

書評 『怪奇映画天国アジア』(四方田犬彦、白水社、2009)-タイのあれこれ 番外編-


P.S. この記事をもって、通算700本目となる。カメの歩みであろうと、1,000本目へ向けて進んでいく都t理にかわりなし。




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