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2011年5月31日火曜日

書評 『ことばの哲学 関口存男のこと』(池内紀、青土社、2010)-言語哲学の迷路に踏み込んでしまったドイツ語文法学者


言語哲学の迷路に踏み込んでしまったドイツ語文法学者を描いた「第二列の人生」番外編

 関口存男(せきぐち・つぎお)という名前にピンとくる人は、果たしていまどれだけいるのだろうか?

 いまから30年くらい前に大学でドイツ語を第三外国語として選択した私は、関口存男の『関口・新ドイツ語の基礎』(三修社、1981)(写真右下)を参考書に勉強した。

 数年前にドイツ語を復習した際に、この本を改めて読み直してみた。1945年発行の原本『新ドイツ語大講座』の戦前のよき伝統を残しつつ、敗戦後の日本社会復興という時代の息吹も感じられる名著である。

 ドイツ語との対比で英語がでてくるだけでなく、ギリシア語、ラテン語、ロシア語も何のことわりもなしにぼんぼん出てくる。また、例文が面白いだけでなく、哲学やドイツ思想にかかわる背景説明も詳しいので読んで楽しい。語り口の面白さでは、最近の教科書や参考書でも、そう滅多にお目にかからないものだ。

 この関口存男を、大学でドイツ語の先生もやっていた池内紀が取り上げるのは当然だろうなと思って読み始めたのだが、姫路生まれという共通点もあるのにかかわらず、池内氏の関口存男に対する関心はそういった共通の基盤から来るものではなさそうだ、ということが読んでいてわかってくる。おなじくドイツ語にかかわる仕事でも、ドイツ語学とドイツ文学とでは、まったくフィールドが異なるのだという。言われてみればそのとおりだ。

 池内紀には『二列目の人生-隠れた異才たち-』(晶文社、2003)という、評伝エッセイ集があるが、関口存男もある意味では池内氏ごのみの「二列目の人生」にふさわしい人物だ。

 陸軍士官学校卒業の関口存男は「軍人失格」なので「一列目の人生」を歩いた人ではない。士官学校時代に独自の語学勉強法を編み出してドイツ語をものにした関口存男の語学学習法は、奇しくもかのシュリーマンと同じようなものであったが、そっくりそのまま万人に適用できる方法ではない。

 ドイツ語の教師としても、学歴の点からいったら帝大出ではないので「二列目」だ。しかも、20歳台は陸士時代の反動であるかのように、東京でどっぷりと演劇の世界に浸かった青春時代を送っている。モリエールの『人間嫌ひ』の翻訳も草創期の岩波文庫から出していた。モリエールの原文はフランス語である。


 ベストセラーのドイツ語の語学教科書と参考書の著者だったが、出版のあてもなく骨身を削って取り組んだライフワークはあと少しを残して未完成。死後ようやく刊行されたその著者はドイツ語がぎっしり詰まった2千ページを超える大著、果たしていったい誰が読むのやら。

 戦時中のドイツ文学者たちが日独伊三国同盟という世相のもと、時局に便乗して、降って湧いたナチスドイツブームに乗っかったものの、敗戦後はその事実にほっかむりしてトマス・マンなどを持ち上げて民主主義者の旗をふっていたことは、『文学部をめぐる病い-教養主義・ナチス・旧制高校-』(高田里惠子、ちくま文庫、2006、単行本松頼社2001)で徹底的に暴かれた事実だが、この点にかんしては元演劇青年・関口存男は彼らとは微妙な関係で距離を置いていたようだ。

 士官学校卒業という学歴がたたって、戦後は公職追放のため大学教授の職に復帰することはなかった。生活費稼ぎの予備校教師以外はライフワークに専念した晩年。けっして群れない「狼」としての生き方

 関口存男という人物は、まあざっとこんな感じだ。言語哲学者ヴィトゲンシュタインを引き合いに出しているものの、本書は言語哲学を論じた本ではない。「第一列」に並ぶような高名な人物ではないが、かつては一世を風靡しながらも、文法にとりつかれて生涯をその探求に捧げてしまった人物を描いた作品だ。

 『二列目の人生-隠れた異才たち-』『モーツァルトの息子-史実に埋もれた愛すべき人たち』といった池内紀の作品が気に入っている人は、ぜひ手にとってもらいたい。読んで得になるわけではないが、人生とはこんなものだという一つのケーススタディとして読んでみるのも面白いのではないかな、と思う。


<初出情報>

■bk1書評「言語哲学の迷路に踏み込んでしまったドイツ語文法学者を描いた「第二列の人生」番外編」投稿掲載(2011年2月13日)
■amazon書評「言語哲学の迷路に踏み込んでしまったドイツ語文法学者を描いた「第二列の人生」番外編」投稿掲載(2011年2月13日)





目 次

1. 大尉の息子
2. 陸軍幼年学校生
3. 軍人失格
4. 言語演技
5. 文例集の周辺
6. 幕合喜劇
7. 教程の行方
8. 文化村の日々
9. 妻篭(つまごめ)にて
10. 文法の本
11. 狼暮らし
12. 死の前後

あとがき
参考文献


著者プロフィール

池内紀(いけうち・おさむ)

1940年、兵庫県姫路市生まれ。ドイツ文学者、エッセイスト。主な著訳書に、『海山のあいだ』(講談社エッセイ賞)、『ゲーテさん、こんばんは』(桑原武夫学芸賞)ほか(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



<書評への付記>

 関口存男(せきぐち・つぎお 1894~1958)は、陸軍士官学校卒業だが軍務に服したことがない「軍人失格」だったかもしれないが、士官学校で身につけた「規律」は生涯もちつづけたという。これは、在野の研究者として長かった人生においては、非常に大きな意味をもったことだろう。

 法政大学においては、夏目漱石の弟子で有名な内田百閒(うちだ・ひゃっけん)先生とは、ドイツ語の同僚であったらしいが、犬猿の仲であったらしい。正統的なアカデミックなコース出身者ではない関口存男に対する、内田百閒の男の嫉妬だったのかもしれない。

 ドイツ語の学習法は、池内紀氏が言うのは「変則的だが正攻法」であった、と。ドストエフスキーのドイツ語訳のレクラム文庫版を、読書百遍とばかりに来る日も来る日も、意味もわからず読んでいたら、あるときスラスラ意味がわかるようになって読めてしまった、という。

 これは、奇しくも「シュリーマン式」とよく似ている。

 シュリーマンとは言わずもがな、古代ギリシアのトロイの遺跡を発掘したドイツの実業家でアマチュア考古学者である。自伝である『古代への情熱』に記された語学勉強法とは、『テレマックの冒険』というフランス語の原書を、全部丸暗記してしまうもの。

 この勉強法をつぎからつぎへとその他の外国語で実施、その際のテキストは『テレマックの冒険』の各国誤訳を使用したという。話のあらすじはすでにわかっているので、あとは単語と言い回しさえ覚えてしまえば、どんな外国語だって実用のものとしてモノにできる。

 シュリーマンは自分が編み出したメソッドでロシア語もものにし、ロシアがらみの商売で一大財産をなしたのであった、と『古代への情熱』には書いてある。財産をつくったあと、することがなくなってミッドライフクライシスに陥ったシュリーマンが意味を見いだしたのが、古代ギリシアの遺跡発掘であった、とするのがシュリーマンの評伝を書いたロバート・ペインの見立てである。

 士官学校出身であるがゆえに「公職追放」となった関口存男、人生とはほんとうに自分の思うようにはならないものである。しかし、それくらいでめげるような人ではなかったようだ。

 言語哲学や、言語と意味の関係、言語と意味の中間領域である意味形態にとりつかれた一人の男の生涯。Ces't la vie. (人生とはこんなもの)と、フランス語でつぶやいてみたくもなる。



<ブログ内関連記事>

「生命と食」という切り口から、ルドルフ・シュタイナーについて考えてみる
・・冒頭で関口存男(せきぐち・つぎお)の『関口・新ドイツ語の基礎』(三修社、1981)から引用

書評 『富の王国 ロスチャイルド』(池内 紀、東洋経済新報社、2008)
・・いっけん池内紀らしくないテーマを池内紀らしく料理。ポイントはフランクフルトのユダヤ人コミュニティーから飛び出したロスチャイルドのその後




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