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2019年4月27日土曜日

中国映画『芳華-Youth-』(2017年)を見てきた(2019年4月27日)-「中越戦争」(1979年)を境に激変した中国社会に翻弄された若者たちの人生


「10連休」初日の昨日(4月27日)のことだが、映画『芳華 Youth』(中国、2017)を見てきた。有楽町のヒューマントラストシネマにて。

激動の1970年代を生きた中国の若者たちの人生を描いたヒューマンドラマ。それは青春映画であり、「中越戦争」(1979年)を境に激変した環境と、激変する社会に翻弄された若者たちの、その後の長い、長い人生の軌跡でもある。

タイトルの「芳華」とは、芳(かぐわ)しい華(はな)のこと。美しい青春を意味している。 中国人民解放軍に所属する「文工団」(=文芸工作団)に集まってきた若い男女の青春群像だ。まずは映画が始まってから、しばらくすると現れるシーンで、バレエを練習する若い少女たちのよく伸びた長い美脚に目が釘付けにされる。椅子に座る生活の中国人のなかでも、とびきりスタイルのいい女性ばかりが選抜されているのだ。

「革命バレエ」を演じるための厳しい訓練の日々。そして、各地に展開する人民解放軍の演習や駐屯地で披露する慰問公演。かれらの身分は、あくまでも人民解放軍の兵士なのである。

時代背景は、「文化大革命」(1966~1976年)の末期から始まる。1976年には周恩来、毛沢東と立て続けに指導者が死去、その後、江青女史を含めた「四人組」が追放される(・・映画では説明はないが、「革命バレエ」を推進したのは紅青女史だ。だから、追放後に文工団解散へとつながっていく)。

そして対岸の台湾から、香港経由でカセットテープでひそかに入ってきたテレサ・テンの甘い恋の歌(・・テレサ・テンの歌声は「天安門事件」のときも大きな意味をもった)。革命中国だが、時代は転換期にあったのだ。



甘く切なく辛くもある青春の日々は、「中越戦争」(1979年)を境に暗転することになる。主人公の女性は、やっと自分の「居場所」が見つかったと思った「文工団」には、ついになじめず、野戦病院の看護婦に転属することになる。彼女が密かに思いを寄せていた「模範兵」であった男性は、腰を痛めたあとも「文工団」に所属していたのだが、とある事件がきっかけで譴責され、地方の部隊に転属されることにある。

「中越戦争」は、中国がベトナムを「膺懲」(ようちょう)、つまり、懲らしめるために仕掛けた戦争だ。対米戦争で勝利を収めベトナムが、中国が支援していたポルポト政権打倒のためカンボジアに侵攻したことがその理由である。中国側の視点に立つこの映画では描かれないが、ベトナムからみたら「侵略戦争」以外のなにものでもなかった

映画のなかでは、主人公の女性は、あまりにも過酷な戦場で精神に異常をきたしてしまう。彼女がひそかに慕っていた男性も、前線にかり出されて従軍中、ベトナム軍との交戦で右腕を失う重傷を負うことになる。

中国が始めたこの戦争は、当時は世界最強であったベトナム軍の頑強な抵抗にあい、最終的に撤退することになる。大量の死傷者を出して、中国が大敗したのだ。

大敗に終わった「中越戦争」について語ることは、中国ではタブー視されていたらしい。その意味もあって、検閲ギリギリの線で「中越戦争」を描いたこの映画は、中国国内の公開には難航したが、公開されたら、すぐに大ヒットしたのだという。中国人の心の琴線に触れるものがあるためだろう。

中国の内側から「中越戦争」を描いたこの映画は、それだけでも見る意味はある。戦争はどちらが始めたものであっても、傷つくのは兵士であることには変わりない。そしてそれは、名前のある一人一人の人生なのである。

個人的には、小学生時代に体験した「日中国交回復」(1972年)以来、「中華人民共和国」という存在をリルタイムで意識しながら生きてきた世代である私にとっては、この映画が描いているのは、不思議なことに、なぜか遠い世界の話だという気はしなかった。

ラストシーンを見終わって、静かな感動のなか、頬をつつーっと涙が伝わり落ちるのを感じた。日本人とか中国人とか関係なく、人間として涙するのは、普遍的なテーマを扱っているからだろう。

中国映画を見て感動する。そんな体験も、たまにはいいかもしれない。








PS 「中越戦争」後の人民解放軍と中国社会の変貌

「中越戦争」は陸戦であった。この戦争後、鄧小平による改革が断行され、陸軍を大規模に縮小することになる。人民解放軍の「近代化」を推進するとともに、海軍力と空軍力を強化する方向に向かう。

余談であるが、いま「米中経済戦争」で大きなトピックとなっている「5G」で世界の先頭を切る通信メーカーの Huawai は、軍縮のため解雇された兵士の一人が創業した企業である。

鄧小平による「南巡講和」は1992年のことだ。それ以降、中国は「先富論」のもと、「向前銭」(=拝金主義)への道へと邁進していった中国社会だが、欲望社会が生んだひずみは、満たされない心を宗教に向かわせている。


<関連サイト>

『芳華』公式サイト(日本語版)

中国映画『芳華』が伝える中越戦争と中国人の心の傷(野嶋 剛、ウェッジ、2019年4月11日)


<ブログ内関連記事>

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