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2025年7月29日火曜日

書評『「イスラエル人」の世界観』(大治朋子、毎日新聞出版、2025)ー 「10・7」で激変したイスラエルの「いま」を「光と闇の対比」であぶり出し、ユダヤ系イスラエル人の世界観をさぐる試み

 

イスラエルはなぜ、こうもかたくなに国際世論を無視して、独りよがりなまでにガザ地区を報復攻撃し、一般市民を巻き添えにして大きな被害をだしつづけるのか? 

誰もが抱く疑問だろう。 そんなふつうの日本人が抱く疑問に、正面から答えようと試みたのが本書『「イスラエル人」の世界観』(大治朋子、毎日新聞出版、2025)だ。ことし6月に出版されたばかりの新刊である。  

カッコつきで「イスラエル人」とあるのは、人口の7割強を占めるユダヤ系市民に限定しているからだ。ユダヤ民族がマジョリティだが、アラブ系のパレスチナ人や、少数派の遊牧民などの「イスラエル国民」もいる。 

著者は、毎日新聞編集委員。エルサレム特派員生活の4年に加えて、その後休職して2年半イスラエルに滞在(2013年から2019年まで)、「テロ対策」や「危機・トラウマ学」を大学院で研究している。合計6年半におよぶ豊富な取材経験と現地の空気を肌感覚で熟知しているジャーナリストである。 

どうやら、2023年10月7日のイスラム組織ハマスによるサプライズ・アタックで大混乱に陥ってから、イスラエル社会は激変してしまったようだ。「第2のホロコースト」にもたとえられるほど、「イスラエル人」に衝撃をあたえ、その心理的衝撃とトラウマはいまなおつづいている。人質もすべて解放されたわけではない。 

とはいえ、「ホロコースト」で大きな犠牲をだした人びとの子孫である「イスラエル人」が、なぜこんな非道なことをつづけているのか? そう簡単に答えがでるものではない。 

著者は、「なぜイスラエルはガザ地区を報復攻撃し続けるのか?」という疑問に対して、前提知識なしでも理解できるように、じつに巧みな構成で説明を試みている。

「目次」を紹介しておこう。 この目次の順番が重要なのだ。


第1章 ハマスの攻撃で壊れたイスラエル 
第2章 ユダヤの歴史 
第3章 「光」のイスラエル 
第4章 「闇」のイスラエル 
第5章 変貌するイスラエルの世界観 
第6章 紛争解決に向けた草の根の取り組み 


「10・7」のサプライズ・アタックの心理的ダメージが一般市民にあたえた影響は、不安心理と恐怖心を恒常的なものとしてしまった。 戦争状態が長引くにつれて、国家財政だけでなく、日常のビジネスや市民生活にもマイナスの影響をあたえている。心にトラブルを抱えていても、専門家不足で十分に対応できない状態なのだ。 

さらに、予備役としての召集を拒否する者が多くて兵員充足状況にないこと、見切りをつけて国外脱出する者も後を絶たない状況である、という。 

問題状況は、「10・7」のサプライズ・アッタク以前から存在していたこともわかる。著者は、「光」のイスラエル、「闇」のイスラエルという対比で、その状況をあざやかに描き出している。 

ユダヤ教がベースになったユダヤ系イスラエル人の日常生活が「光」であれば、精神を内側から蝕むような兵役生活(・・18歳からの国民皆兵で、男子は約3年、女子は2年)が「闇」である。「光」から「闇」へ、そしてまた「光」に戻ることになるのだが・・・ 

とくに、イスラエルが実効支配しているヨルダン川西岸に配属されている一般兵士たちの「闇」は深い。命令されてパレスチナ人に銃を向ける日々を送っているが、兵役が解除されて日常生活に戻ってからも、スムーズに再適応できない者も少なくないのだという。 

パレスチナ人がどんな状況であろうが、「関心領域」*の外にあるものごとだとして、無関心を決め込むのが一般市民の心理状態だからだ。トラウマを抱えていても、そんなことがないかのように振る舞うことが求められる一般市民の生活。どう考えても、精神的に健全とはいいかねるものがある。 

*「関心領域」にかんしては、映画『関心領域』についた「PS」の文章を参照のこと。


中東では突出した民主主義国家でありながら、人口の7割ユダヤ民族を中核とするネーション・ステート(=民族国家)であることの矛盾が顕在化しているのである。ユダヤ系市民以外の3割を占める国民が、十分に包摂されていない状態が生み出している問題である。 

はたしてイスラエル社会は、このまま22世紀も生き残ることができるのか? そんな疑問を感じないわけではない。本書を読んでいて、あらためてそう感じてしまう。 

軍事技術的には中東では圧倒的な強さをほこるイスラエルであるが、人口動態の面からみても、社会的安定の観点からみても、国際世論を無視した、独りよがりの極端な方向が行き着く先には、なにがあるのか? 

イスラエルについて知らない人こそ、この本を読んで自分なりに考えることが必要だ。ナショナリズムとネーション・ステートについて考えるケーススタディとして、イスラエルについて考えることは重要だ。 


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著者プロフィール
大治朋子(おおじ・ともこ)
毎日新聞編集委員。1989年に入社し、阪神、横浜など各支局、サンデー毎日、社会部、外信部を経て現職。社会部時代の防衛庁(当時)による個人情報不正使用に関する調査報道で2002、2003年度の新聞協会賞を2年連続受賞。ワシントン特派員時代の米国による「対テロ戦争」の暗部をえぐる調査報道で2010年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。英オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所元客員研究員。テルアビブ大学大学院(危機・トラウマ学)などを修了。専修大学文学部ジャーナリズム学科などで客員教授を務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)




PS 映画『関心領域』(2024年、英/米/ポーランド)


本書を読了後、重要なキーワードになっている「関心領域」(the zone of interest)について理解を深めるため、映画『関心領域』(2024年、英/米/ポーランド)を視聴することにした。amazon prime video で視聴できる。

同名の小説を原作にした映画化である。第96回アカデミー賞を2部門受賞している。




アウシュヴィッツ強制収容所の所長をつとめるルドルフ・ヘスとその家族(・・ナチス党の副総裁をつとめたルドルフ・ヘスとは別人)。

「壁の向こう側」は、強制収容所で、実質的に火葬場であり、死体を焼く煙がつねにただよっている。
 
「壁のこちら側」は、ヘスとその家族が平和に暮らす空間。自然豊かな田舎暮らしにあこがれていた妻にとっては理想の空間であり、4年間かけて丹精込めてつくりあげた庭と家庭。映像はあまりにも美しく、1945年当時の「東方世界」であるポーランドに暮らすドイツ人家庭が再現されている。
 
この2つの日常が、まるで異世界のように隣り合っている状態。これがアウシュヴィッツの現実であり、自分たちの「関心領域」をひたすら狭くすることによって、「関心領域」の外の世界にはいっさい心を閉ざすマインドセットができあがっている。
 
ところが、壁の向こう側の世界の責任者であるヘス自身は、その壁の内側の「現実」だけが「現実」ではないことを知っている。彼にとっての「関心領域」は、壁の内側の家庭に限定されていないのだ。彼の精神状態は、けっして妻には共有されていない。




『「イスラエル人」の世界観』(大治朋子、毎日新聞出版、2025)にひきつけいえば、現在のイスラエルにおいては、ナチス時代の状況とは真逆になっていることがわかる。ユダヤ人は、壁の向こう側ではなく、壁のこちら側の住人となっているのだ。

分離壁が建設されたことによって、壁の内側に暮らす一般市民の「関心領域」からパレスチナ人の存在は消え、兵役によってはじめて壁の向こう側の世界を知ることになる。

「関心領域」を狭く限定することによって、心の平静を保つことの意味。見て見ぬ振りをすることは、心の平静をもたすが、はたしてそれは正しいことなのか? なにも感じないのか?

ところが、壁の向こう側の世界をいったん知ってしまうと・・・。どう見るかは視聴者の自由だが、ある意味では人間というものの恐ろしさ、おぞましさえを描いた映画である。


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