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2020年8月7日金曜日

書評『感染症は存在しない』(岩田健太郎、集英社インターナショナル新書、2020)ー 病気は「モノ」ではない。「コト」である!


 先月のことだが、『感染症は存在しない』(岩田健太郎、集英社インターナショナル新書、2020)を読んだ。

著者の岩田健太郎氏は、神戸大学医学研究科感染症内科教授。というよりも、新型コロナの感染者が大量発生したクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号がらみで有名になった、目立ちたがり屋でお騒がせ医師といったイメージが強く印象に残っている人。

個人的には、正直いってあまりいいイメージをもっていなかったのだが、挑発的なタイトルのこの本を読んでみて、言っていることはまともだなと感じた次第。感染症と病気の本質についての認識を改めることを意図して書かれたものだ。

もともとは、『感染症は実在しない-構造構成的感染症学』(北大路書房、2008)として出版されたものの新書版再刊。 専門出版社から出ていた本だ。「構造構成的感染学」と副題にあるが、こういう小難しいことは読む際に忘れても構わない。

「感染症は存在しない」というのはどういうことか?

著者が言いたいのは、「感染症」は「現象」として「認識」されて初めて感染症となる、ということだ。つまり認識されない限り感染症ではないということ。感染症を病気と言い換えてもおなじこと。

病気だと思うから病気なのであって、病気だと思わなければ病気ではないのである。つまり、病気であるという「認識」は、あくまでも「主観的」なものであり、著者の表現をつかえば「関心相関的」なものとなる。腰痛もちなら、この意味はよくわかるのではないかな? 自分は腰痛に苦しんでいるという認識をもっているのだが、いくら医師の診断を受けても原因が「見える化」されないというもどかしさ。

「実在」と「現象」など、やや小難しい哲学用語がつかわれているが、日本語の日常語で言い換えれば「モノ」と「コト」となる。感染症や病気は、あくまでも「モノ」ではなく、「コト」なのである。

「モノ」ではなく「コト」である以上、特定の病原菌やウイルスだけが病気の原因ではないこと、つまり原因と結果は一対一対応というには限界があるだけでなく、そもそも無理な話であることもわかる。




実際、今回の新型コロナウイルスでも、新型コロナウイルス感染症が既往症を悪化させて重症化させるケースが多いことでも、それはわかる。著名人でいえば、志村けんさんはタバコ吸い過ぎで肺をやられていたこと、岡江久美子さんは乳がんの治療で免疫力が低下していたのである。新型コロナウイルスそのものが唯一の死因ではない。ウイルスは、あくまでもトリガーになったに過ぎないのである。

著者自身はつかっていないが、特定の病原菌やウイルスに原因を求める「要素還元主義」の誤りを主張しているのだろうと私は受け止めた。全体を見ることなく、部分のみを見ることに起因する誤りである。

漢方の話も出てくるが、漢方の思想とは、「全体」の関連のなかで「部分」である病気を考えるというものだ。著者の立ち位置は、基本的に西洋医学だが、東洋医学にも目配りを欠かさないというものであるようだ。岩田氏は、現在では漢方専門医を取得して漢方外来もやっているという。

医者は、それぞれの専門分野での専門家ということになっているが、専門家の言うことは人ぞれぞれで大幅に見解が異なっている。これは、医師であるコメンテーター諸氏のTV番組での発言を見聞きしていると実感されるものだ。専門家だから、一義的に正しいというわけではない

この本は読んでいて、なるほどと思って面白かった。いっけん挑発的なタイトルだが、言っていることはきわめて真っ当であり、むしろ本来そうあるべき考え方といっていいであろう。医療関係以外(たとえば経営関連)でも応用可能な考え方だと思いながら読んでいた。

だが、岩田氏の著書の評価と、岩田氏の専門家としての評価はイコールではない。医療専門家としての評価は、あくまでも治療実績そのもので判断したいと思う。その点についてはよく知らないので、ここでは保留しておきます。






目 次 
第1章 感染症は実在するか 
第2章 病院の検査は完璧か 
第3章 感染症という現象 
第4章 なぜ治療するのか 
第5章 新型インフルエンザも実在しない 
第6章 他の感染症も実施しない 
第7章 メタボ、がん…感染症じゃない病気も実在しない 
第8章 関心相関的に考える 
第9章 科学的に、本当に科学的に考えてみる 
第10章 医者は総じて恣意的な存在 
第11章 価値交換としての医療の価値 
第12章 病気という現象を見据えて、しなやかに生きていくために




著者プロフィール 
岩田健太郎(いわた・けんたろう) 

医師。神戸大学医学研究科感染症内科教授。1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学)卒業。沖縄県立中部病院研修医、セントルークス・ルーズベルト病院内科研修医を経て、ベス・イスラエル・メディカルセンター感染症フェローとなる。2003年に中国へ渡り北京インターナショナルSOSクリニックで勤務。2004年、帰国。2008年より神戸大学。著書多数。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)





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