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2014年5月3日土曜日

書評『憲法改正のオモテとウラ』(舛添要一、講談社現代新書、2014)-「立憲主義」の立場から復古主義者たちによる「第二次自民党憲法案」を斬る



基本的に「憲法改正」の立場から書かれた本である。しかも、「憲法改正の最重要課題は9条2項である」という考えの持ち主であり、基本的にわたしも同じ立場である。

ただし、最新の「自民党憲法草案」(=「第二次」草案)を斬り捨てる姿勢を明確に示している。この点に、わたしは大いに共感を感じるのである。

舛添氏は自民党の参議院議員時代、小泉政権のもとで「新憲法起草委員会」事務局次長として「第一次草案」とりまとめで汗をかいた人である。本書はその「第一次草案」(2005年)の舞台裏をドキュメントとして再現したものだ。政治家としての発言の背後に政治学者としての現状認識が垣間見られるのが興味深い。

強すぎる参議院からの圧力、省庁の縄張り争いと族議員、個人的道徳観や価値観を持ち込もうとする人たち、問題解決を憲法改正で行おうという浅はかな発想、思いつき程度の発言で憲法を論じる代議士たち・・・。

「憲法改正とは「政治」そのものである」という著者の発言にリアリティがある。著者は、憲法改正を実現するためには一定以上の国民の支持が必要だという「現実派」の立場に立つのだが、それは政治の世界に入る前にテレビというマスコミの世界を体験していること、政治の世界でもまれたことも大きく与っているようだ。

(日本国憲法の原本 国立公文書館にて筆者撮影 2014年4月)


「天賦人権説」を否定する「復古主義者」たちとは対極の立ち位置

そもそも舛添氏による本書にはとくに関心はなかったのだが、たまたま書店の店頭で手にとって「はじめに」を読んだことで、よんでみておおいに納得するものがあったのだ。

「はじめに」に著者の憲法観が集約されているが、その最初で「立憲主義」のなんたるかを強調し、「第二次自民党草案」で「天賦人権論」を西欧起源の思想だからという理由で否定した東大法学部卒の自民党議員を徹底批判している。

おそらくK女史もその一人なのであろうが(笑)、「立憲主義」を否定するこの元官僚の女性議員の言動は言語同断であり、舛添氏の発言には大いに意を強くした。思うところはいろいろあるだろうが、個人的怨恨(?)とは関係ないと捉えるべきだろう。

(土佐出身の民権運動家・馬場辰猪による「天賦人権論」 国会図書館蔵)


舛添氏の著書を読むのはほぼ四半世紀ぶりである。フランスに留学して、ミッテラン社会党政権のことを書いた本だったと思うが、新進気鋭の政治学者として颯爽としていた。政治学者を廃業後の舛添氏はもっぱらTVのコメンテーターとしてのみ認識していたが著書を読むことはなかった。

舛添氏に対しては、個人的な好き嫌いの感情、とくに女性の立場からは絶対に許せないという意見も少なくないだろう。だが、そういった個人的感情は「それはそれ、これはこれ」として脇に置き、その主張には虚心坦懐に耳を傾ける意味があるのではないかと思うのである。

わたしは舛添氏は好きでも嫌いでもないし、東京都民ではないが、東京が「一国の首都」である以上、その発言には重みがある。今後も自民党の「復古主義者」には大いに異議申し立ては行っていただきたいものであり、都民だけでなく国民は彼の言動を注視する必要がある。

本書は、都知事選が行われる直前に出版された本だ。都知事選は前知事の猪瀬直樹氏が政治資金問題で辞職をしたあとをうけて急遽行われることになったので、舛添要一氏もまさか都知事になれるとは想定外であっただろう。なりたいという気持ちはあったにせよ、実際になれるかどうかは別である。

だから本書の内容は、都知事になることを前提にしたものではない都知事選に不利になる可能性もありながら躊躇せず出版した点は評価に値する。

自民党を離党した身でありながら、都知事選にあたって自民党の協力をあおいだ舛添氏だが、「価値観多様化という現実」を認めたがらない自民党の「偏狭な復古主義者」たちとは一線を画すことが本書に明言されている。政治家である以前に、自らの信念であることが読み取れるのである。


憲法に価値観や道徳は不要

「家族のことは憲法に書くのではなく、個人の自由にまかせればよい」という舛添氏の発言は、彼自身のライフスタイルを反映したものでもあろう。

だが、一部の「復古主義者」を除けば、おそらく国民の大多数の考えではないだろうか。「基本的人権」はふだんは意識することはなくても、それが侵害されたとき、人ははじめてその意味と価値について目覚めるものだ。

国家からいかに基本的人権を守るかが「立憲主義」である。憲法とは、国民が権力が恣意的になるのを抑制するために制定するものだというのが「立憲主義」である。

国権と民権はバランスが必要だが、民権のほうがはるかに重要である。「人権」は「自然権」であり、たとえその起源が近代西欧であるにしても、すでに人類の普遍的な価値として世界中で共有されているものだ。

「憲法改正」といってもなにをどう改正するのかという点では幅は広い。ただし改正案がいかあなるものであれ、「立憲主義」に立脚したものでなければならないのである。

主権者はあくまでも国民であり、国民主権(=主権在民)の立場は絶対に譲ることはあってはならない。





目 次

はじめに
第1章 参議院への配慮と自民党内の政治力学
 1. 1982年の自民党憲法調査会報告
 2. 2003~2004年の憲法改正プロジェクトチーム
 3. 2004年の憲法改正案起草委員会
 4. 2005年の新憲法起草委員会発足
第2章 どうすれば国民に支持されるかを考える
 1. 前文:歴史観や思想を書き込むのか
 2. 天皇:「お考え」を忖度しながら議論すべき
 3. 安全保障及び非常事態:世界が注目する9条改正
 4. 国民の権利及び義務:「立憲主義」を知らない議員たち
 5. 統治機構:二院制を維持するか一院制にするか
 6. 財政、地方自治、改正:既得権益を巡る省庁・族議員の熾烈な争い
第3章 政治の荒波に翻弄された条文化作業
 1. 独りよがりの案を作っても相手にされない
 2. 憲法改正より政局を優先させた人たち
 3. そして大勲位の私案は却下された
おわりに
現行日本国憲法および自民党「第1次」「第2次」草案対照

著者プロフィール

舛添要一(ますぞえ・よういち)
第19代東京都知事 1948年福岡県北九州市生まれ。1971年東京大学法学部政治学科卒業。東京大学法学部助手、パリ大学現代国際関係史研究所客員研究員、ジュネーブ高等国際政治研究所客員研究員、東京大学教養学部政治学助教授などを経て、1989年舛添政治経済研究所を設立。2001年参議院議員(自民党)に初当選し、厚生労働大臣(安倍内閣、福田内閣、麻生内閣)等を歴任。年金問題、薬害C型肝炎問題などの解決に奔走する。2010年~2013年新党改革代表を務める。2014年2月、東京都知事選で211万票を獲得し、都知事に就任。 著書に『憲法改正のオモテとウラ』『日本政府のメルトダウン』『よくわかる政治』(以上、講談社)、『孫文』(角川書店)、『厚生労働省戦記』(中央公論新社)、『舛添メモ』(小学館)など多数。



PS 舛添都知事がついに辞職(2016年6月15日)
 
「週刊文春」でとりあげられた政治資金問題で火がついた舛添都知事。都議会での不誠実な答弁を繰り返した末、全党一致の不信任案を提出される前に、ついにみずから辞職願を提出し受理された。2016年6月15日のことだ。2ヶ月にわたる騒動がついに収束した。

まことにもってお粗末な話である。政治資金を個人流用した件について、たとえそれが法律違反ではないとしても有権者(=納税者)の神経を逆なでするものであることが、最後の最後まで理解できなかったのだろう。法律エリート特有の現実感覚のなさを露呈したというべきか。

憲法観については賛同できる主張をしているのに、政治観としてはまことにもってお粗末な存在であったというべきことだ。もし都知事に選出されなかったら、憲法問題で名をあげることも不可能ではなかったのに・・・。

だが、それもまた身から出た錆。まっとうな主張であっても、それを主張する人物がまっとうでなかれば、説得力はない。

舛添氏は、政治家を引退し、まっとうな憲法論で身を立て直すべきである。それが、最後のご奉公であるというべきだろう。

(2016年6月15日 記す)



<関連サイト>

《発言全文》 安保法案「違憲」とバッサリ、与党推薦の長谷部教授が語った「立憲主義」 (弁護士ドットコム、2015年6月5日)
・・「国会で「安保法制」の審議が行われている最中の6月4日に開かれた衆議院の「憲法審査会」で、自民党、公明党が推薦した憲法学者の長谷部恭男・早稲田大大学院法務研究科教授が、与党の安保法制に「違憲」の評価を突きつける、異例の事態が起きた」(記事冒頭の一文)

(2015年6月6日 項目新設)


日本国憲法(日本語全文) (法務省)

THE CONSTITUTION OF JAPAN (首相官邸)



<ブログ内関連記事>

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・・「赤ペン先生」による「自民党草案」(第二次草案)の徹底添削!

『足尾から来た女』(2014年1月)のようなドラマは、今後も NHK で製作可能なのだろうか?
・・主権在民の民権運動の歴史は明治時代以降の日本人の歴史でもある

「是々非々」(ぜぜひひ)という態度は是(ぜ)か非(ひ)か?-「それとこれとは別問題だ」という冷静な態度をもつ「勇気」が必要だ
・・価値観多様化は「是々非々」の政治的選択を生む


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