『僕の死に方-エンディングダイアリー500日』(金子哲雄、小学館文庫、2014)を読みました。
「10万人に1人」という肺カルチノイドという難病で、2012年に、なんと41歳の若さで亡くなった流通ジャーナリストの故・金子哲雄氏の最後の著書です。
お会いしたことはありませんが、「ああ、あの人か」と思い出すほど、テレビにはよく出演している人でした。
単行本が出ていたことは知ってましたが、たまたま書店の店頭で文庫版を手にとってみて、この本はすぐにでも読みたいと思って、買ってその日に通読しました。
最後の最期まで意識をクリアに保ていたいという強い意志のもと、可能な限り仕事を入れていた金子氏。「人の役に立ちたい」、「人を楽しませたい」という強い思いが、生きる原動力になっていたことがわかります。
しかし、それにしても、脂に乗り切っていた40歳で不治の病で治る見込みはないという宣告を受けるとは・・・。なぜ、よりによって自分が死ななくてはならないのか・・・。青天の霹靂、人生の不条理・・・。
しかし、自分ことは自分で「始末」するという身の処し方で、自分の葬式までプロデュースしてから逝った金子氏の「死に方=生き方」には、読者一人一人にそれぞれに、さまざまな感想のあることでしょう。人は最後の最期の瞬間まで、この世で生きているのです。
この本は、死にゆく本人が最期の力を振り絞って書いた本です。ジャーナリスト魂を最期まで貫いたのでありました。
似たような本はこれまでも何冊も読んできましたが、そのなかでも、乳がんで亡くなったジャーナリストの千葉敦子氏の『死への準備日記』(文春文庫、1991)と共通しているものがあります。
おなじく不治の病との闘病記であるということ、当事者でありながら自分をある意味では突き放して観察しながら、自分の体験を克明に記録しようというジャーナリスト精神、死も含んだ自分の人生を完全にコントロールしたいという近代精神、自分の病気を体験記を同じような病をもつ人の役に立てたいという使命感です。
千葉敦子氏は最期まで弱みを見せなかったスーパーウーマンのような印象がありますが、金子氏はごくごくふつうの日本人として「お迎え」についても書いてます。
「お迎え」が来たにもかかわらず一命を取り留めた体験は、金子氏自身はそういう表現は使っていませんが「臨死体験」といってもいいでしょう。そのときのことを、在宅で介護にあたっていたパートナーの金子稚子氏も書いていますが、魂は存在する、死んですべてがなくなってしまうわけではないということを実感させてくれる内容です。
金子氏は、死ぬことがわかってから、高野山大学の大学院通信課程で勉強しようとしたそうです。生き甲斐でもある仕事が忙しいので途中で断念、最期は大学の同窓生という「縁」もあった浄土宗の僧侶のはからいで東京タワーの下の墓地に眠っているとのこと。
文庫版の解説を書いておられる浄土宗の僧侶がその方なのですが、真摯に研鑽している仏教者をも感動させる「死に方」=「生き方」の本なのです。
41歳で死ぬという経験は誰にでもできるものではありません。その年より生き延びた人も読めば、いろんなことを考え感じる本です。
「死生観」を語り尽くしたこの本は、どんな仏教書よりも深い感動を与えてくれるといっていいと思います。 合掌
目 次
読んでくださる皆様に (金子稚子)
プロローグ 突然の宣告
第1章 流通ジャーナリストと名乗って
第2章 昼も夜も時間が足りない
第3章 発病。あふれてしまう涙
第4章 最後の仕事は死の準備
エピローグ 生涯無休
あとがき 「これは、金子が用意した“スタート”です」-夫と併走した500日(金子稚子)
会葬礼状 (金子哲雄)
文庫版追補
金子さんとの思い出
文庫版あとがき (浄土宗心光院住職 戸松義晴)
著者プロフィール
金子哲雄(かねこ・てつお)
1971年千葉県生まれ。慶應義塾大学卒。(株)ジャパンエナジー勤務後、流通ジャーナリストに。徹底した現場リサーチをもとにした分析とお得情報を発信し、幅広く活躍した。2012年10月2日、背カルチノイドのため死去。享年41(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
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