2020年の東京オリンピック開催が決定されたのは、いまから約2年前の2013年9月のことだ。
開催決定がきまった瞬間は喜びに満ちあふれていた日本だが、その当時から東京圏以外の地方は冷めた対応をしていたのではないかと思う。そもそも東京オリンピックによる経済効果が、はたして地方経済にも波及するのかどうか、と。
東京じたいも、建設ラッシュが景気回復につながると大歓迎されたのであったが、オリンピック開催の2020年が、さまざまな意味でターニングポイントであることが指摘されるようになって、手放しの礼賛ムードは、かなり冷めているような気もする。
「祭りのあと」という表現が日本語にはある。オリンピックという「祭り」のあとがこわいのだ。「祭り」が華やかであればあるほど、祭りが終わったあとの脱力感、そして突きつけられる現実の姿に目が覚めることになる。
『東京劣化-地方以上に劇的な首都の人口問題-』(松谷明彦、PHP新書、2015)という本が出版されている。経済学の立場から人口問題を研究してきた研究者による、キャッチーなタイトルに、直視すべき暗い展望が描かれた本だ。
ぐだぐだ書くよりも「目次」を見れば、2020年以降の東京の姿が明らかとなるだろう。一部を抜粋しておこう。とくに序章の最後と、第1章と第2章が「東京劣化」の未来像を描いている。
序章
国のタブー その1~その3
地方のタブー その1~その3
首都東京の劣化 首都東京のスラム化
文化や情報の発信力が弱まる
生活環境の悪化
「中流都市への劣化」
第1章 東京これからの現実
東京では高齢者が30年間で143.8万人増える
貧しくなる東京
老人ホームはそう簡単には建てられない
インフラが維持できない-スラム化する東京
GRPの低下-民間資本による再開発も困難に
オリンピックの狂躁の後に残るもの
第2章 東京劣化現象への誤解
東京の現在の人口構成は維持できない
出生率2.07は絶対に達成できない-未婚率に注目すべき
東京は世界の情報が集まらない「田舎の都市」
日本の経済成長率が世界最低になることは確実
第3章 これからの東京の経済
第4章 なぜ政府は間違えるのか-人口政策の歴史が教えてくれること
第5章 東京劣化への対処 今できること
著者は人口問題研究の第一人者。政策研究大学名誉教授。人口ほど確実に未来を示しているものはほかにない。大学での講義録を活字化したものだが、「言われてみればそのとおりな内容。
人口動態からいえば、、次回の東京オリンピックの2020年は右肩下がりの下降曲線となる。しかも全国的な少子化で東京への流入人口が減るだけでなく、巣でに流入した人間は確実に年を取る。その結果、高齢者比率が増大するだけでなく、高齢者の絶対数が増大するのだ。
「東京劣化」とタイトルにあるが、東京だけの話ではない。神奈川・千葉・埼玉を含んだ「東京圏」全体の問題なのだ。
本書には大規模災害の想定については扱われていない。それでも、これだけ「劣化」することが予想されるのである。人口の変化が安定するのは、2060年台以降のことだという。それまでは、たとえ平時であっても厳しい時代が続くのである。
東京オリンピック後がこわい東京。「東京脱出」を考えるべきなのかもしれない。
Population Decline and the Great Economic Reversal (George Friedman, Geopolitical Weekly STRATFOR, FEBRUARY 17, 2015)
・・先進国における「人口減少問題」は、500年つづいた「近代」の終焉とその後を示している。人口減少スピードの早い先進国では資本よりも労働力のほうが希少財となる
東京圏の高齢者は地方へ移住する? 政府主導で進む日本版CCRC (日経BPセレクト、2015年6月22日)
・・米国政府が推進する CCRC(Continuing Care Retirement Community)の日本版。現代の「乳母捨て山」と言っては言い過ぎだが、東京圏で高齢者をケアするのは限界に達しつつあることは明らかだ
「終の棲家」がない「待機老人」が急増していく 下向きの人口動態がもたらす悲惨な未来 (上野泰也、日経ビジネスオンライン、2015年6月30日)
・・「東京五輪が起爆剤になって日本経済が新たな成長ステージに入る」といったバラ色のストーリーとはまったく異なる深刻な現実が日本でいま着実に広がっていることは、日本人のみならず、海外の投資家なども知っておくべきことではないだろうか。」
(2015年6月24日、30日 情報追加)
<ブログ内関連記事>
「東京オリンピック」(2020年)が、56年前の「東京オリンピック」(1964年)と根本的に異なること
書評 『自爆する若者たち-人口学が警告する驚愕の未来-』(グナル・ハインゾーン、猪俣和夫訳、新潮選書、2008)-25歳以下の過剰な男子が生み出す「ユース・バルジ」問題で世界を読み解く
・・日本にとって、東京にとって、「人口爆発」は過去の話
『移住・移民の世界地図』(ラッセル・キング、竹沢尚一郎・稲葉奈々子・高畑幸共訳、丸善出版,2011)で、グローバルな「人口移動」を空間的に把握する
・・2020年以降の東京は、人口流入よりも人口流出か?
書評 『なぜローカル経済から日本は甦るのか-GとLの経済成長戦略-』(冨山和彦、PHP新書、2014)-重要なのはグローバルではなくローカルだ!
(2012年7月3日発売の拙著です)
ツイート
ケン・マネジメントのウェブサイトは
http://kensatoken.com です。
ご意見・ご感想・ご質問は ken@kensatoken.com にどうぞ。
お手数ですが、クリック&ペーストでお願いします。
禁無断転載!
end