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2026年1月23日金曜日

書評『イラン現代史 ― イスラーム革命から核問題、対イスラエル戦争まで』(黒田賢治、中公新書、2025)― イランのイスラーム体制は存続できるのか?

 

 昨年(2025年)末から始まり、先週にかけて国際ニュースに躍り出たイランの民衆デモ。 

経済状況の悪化に耐えきれなくなった民衆のデモは、地方から始まり首都テヘランを含め全土に拡大した。日本メディアの取り上げは小さかったが、体制崩壊の瀬戸際まで迫るものであったのだ。 

トランプ大統領による軍事介入発言などに危機感をつのらせたイランの現体制は、ネット回線を遮断して情報統制したうえで数千人(・・一節によれば1万人近く*)を虐殺し、今回の大規模デモは沈静化された。人命のあまりの軽さに慄然する思いを抱かざるをえない。 

3万人以上が虐殺されたという情報もある(2026年1月27日 記す)


そのイラン情勢を深く理解するために、先週のことだが『イラン現代史  ―  イスラーム革命から核問題、対イスラエル戦争まで』(黒田賢治、中公新書、2025)を読んだ。昨年11月に出版されたばかりの新刊である。  

本書で取り扱われているのは、1979年の「イスラーム革命」で誕生した「イスラーム共和国」の約半世紀におよぶ歴史である。前提としての革命前史から始まって、米国による経済制裁とイスラエルとの戦争まで扱っている。 

「目次」を示しておこう。「イスラーム革命」後のイラン現代史のおおまかな流れをつかむことができるだろう。 

序章 近代国家建設と東西冷戦構造 
第1章 ホメイニー体制と革命勢力の角逐 
第2章 イラン・イラク戦争とイスラーム共和体制 
第3章 ハーメネイー体制と政治的自由 
第4章 新保守派の台頭と「緑の運動」 
第5章 防衛戦略と核問題 
終章 暗雲垂れ込めるイスラーム共和体制の未来 


「イラン・イスラーム革命」はリアルタイムで知っているものの、専門家ではないわたしは、イランにかんしてはもっぱら中東情勢と国際関係という外的な側面からしか見てこなかった。 

本書によって、国内政治を中心とした経済と社会の状況を知ることができたのはありがたい。いわば内政を軸にみたイラン・イスラーム体制の歴史的推移である。 

ほぼ時系列に沿って記述されて本書を通読することで浮かび上がってくるのは、現代イランの際だった特徴である。イスラーム体制についての意外な側面も記述されているが、それ以外に重要なことを列挙しておこう。 

まずは、イランは「多民族国家」であること。ペルシア民族は全体の6割に過ぎず、その他トルコ系やクルド系、アルメニア系などの多民族によって構成されている。つまり体制が弱体化するとクルド人などの分離活動を誘発する可能性がある。 

人口爆発により10代から20代にかけての「若年層が団塊」を形成していること。これがデモの中心になっていることは言うまでもない。

テヘランなど都市部の若者たちが考えていることは、イラン在住の日本人(仮名)によるイランの地下世界』(若宮聰、角川新書、2024)を読むと手に取るようにわかるので、ぜひ一読されたい。

革命以前の王政時代から存在する「国軍」を牽制するために創設された「革命防衛隊」が、イスラーム共和国の体制維持のために大きな役割を果たしているだけでなく、関連事業をつうじてGDPの約4割を握っていること。雇用も含めるとその影響範囲はきわめて広い。 

したがって、イランの現体制が崩壊するかどうかは、この革命防衛隊の動向にかかっていると考えるべきだろう。 

「変化しないためには、変化しなくてはならない」という有名なセリフがある。イランにおいても体制を維持するために、現体制は変化すべきところは変化させてきた柔軟性をもっていることは、本書によって知ることができる。 

とはいえ、ポピュリスト政権による財政悪化、米国による経済制裁のダメージは臨界点に近づいているようだ。イスラーム体制が生き延びるかどうかは、イデオロギーよりも経済が問題なのである。軍事介入をちらつかせている米国とイスラエルという、外部要因の動向からも目を離すことができない。体制崩壊は近いのか? 体制転換の準備は米国にあるのか?

そのためにも、タイミングよく出版された本書は、揺れ動くイラン情勢をより深く理解するために読むべき本である。 各章ごとに挿入された「コラム」が、現代イランを理解するためのスパイスになっている。


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著者プロフィール
黒田賢治(くろだ・けんじ)
1982年奈良県生まれ。2005年北海道大学文学部卒業。2011年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了。博士(地域研究)。2017年国立民族学博物館特任助教、2022年同博物館助教、2025年より同博物館グローバル現象研究部准教授。専門は中東地域研究、文化人類学、イスラーム研究。著書『戦争の記憶と国家―帰還兵が見た殉教と忘却の現代イラン』(2011年、世界思想社、国際宗教研究所賞奨励賞受賞)、ほか。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)



PS 米国とイスラエルの共同軍事作戦によってハメネイ師が殺害された(2026年2月28日)

ついに攻撃が実行に移された。米国とイスラエルの共同軍事作戦によってハメネイ師が殺害されたのだ。最高指導者のハメネイ師が執務室を攻撃され殺害されたことが、イラン国営放送によって確認された。

革命後のイランの47年間で、ホメイニ師亡き後の大部分に最高指導者であったハメネイ師の死が意味するものは? すでに86歳であったとはいえ、最高指導者が殺害されたのである。

イランの「体制転換」(レジーム・チェンジ)は実現するのか? そもそも新体制を率いる人物が存在するのか、現れてくるのか?

戦争は短期に終結できるのか、それとも長期化するのか? 

限定戦争のつもりで始めた戦争も、想定と異なり長期化することが多いのは、歴史を振り返れば、それこそ多い。イラン情勢から目が離せない。

(2026年3月1日 記す)



<関連記事>

・・「イラン・イスラム共和国体制は、内圧と外圧の致命的収斂により、緩慢であれ急速であれ、崩壊の過程をたどらざるを得ない状況に追い込まれつつあるということだ。」


・・「正確な死者数は依然として不明だが、今回の事態は、イランで抗議デモに参加した市民に対して振るわれた組織的暴力の中でも史上最悪の結果のひとつに数えられるのは既にして明らかだ。」


・・書評『イランの地下世界』(若宮聰、角川新書、2024)の著者による記事

・・「(イランのIRGC(革命防衛隊)が経済の隅々まで支配している軍産複合体経済の)構造を戦前の日本と対比させると興味深い示唆が得られよう。
戦前の日本のいわゆる「皇軍体制」において、軍部は財閥を取り込み、統制することで、軍事のみならず重工業・金融・貿易という経済支配を一体化させた。三菱や住友といった財閥は軍需生産と不可分に結び付いた。広島および長崎への原爆投下をはじめとして、1945年のポツダム宣言受諾と天皇の玉音放送による降伏宣言がなければ、米軍による大規模空爆をもってしても日本の戦争継続能力とその体制を打破することは不可能だったとされる所以である。イランのIRGCは、まさにこの構図を現代のイランにおいて、より大規模かつ複雑に再現している。」

(2026年1月29日、2月20日、27日 情報追加)

 
<ブログ内関連記事>


■日本とイランの関係









■人口爆発と団塊化している若年層、ネット環境



・・イランはアラブ民族の国ではないが、中東湾岸諸国として共通するものがある


■イランと米国の関係

(2026年1月26日 情報追加)


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