ふだんは小説は読まないが、この年末年始にはひさびさに小説を読んだ。そのなかに1冊が、ネットで話題になっていた『ボクたちはみんな大人になれなかった』(燃え殻、新潮文庫、2018)だ。この本はおすすめだ。
単行本から1年で文庫化。文庫化されなかったら読んでなかっただろう。1973年生まれ(・・つまり「就職氷河期」のまっただなかの世代)の男性が書いた「純文学」で「私小説」といっていいのだろうか。 「好きだった人の名前をSNSで検索したことはありますかーーー?」というコピーの文句。男性なら(女性でも?)きっとあるに違いない経験ではないだろうか・・。
だが、この小説は距離の取り方が絶妙で、共感というよりも、あたかも自分のことのように読むことができるだろう。とくに男性なら。女性もまた? たとえ世代が違っていても。
舞台は1995年の東京。この年は、阪神大震災があってオウム真理教によるサリン事件があった年なのだが、そういった外部の出来事はいっさい語られない。あくまでも自分を中心とした人間関係だけが語られる。
自分を好きな以上に好きだった唯一の存在であった「彼女」、そして「彼女」も含めて自分にかかわる人びとだけが登場する濃密な時間の記憶の回想。 遅れてやってきたバブル経済のなかの青春。ディテールの描写が、やけに印象に残る。
読めば、なにか感じるものがあるだろう。とはいえ、あえて批評めいたコトバにする必要はないと思う。語らないことで自分の心のなかで反芻したい。余韻を残しておきたい。
<関連サイト>
男はみんな「元カノの成分」でできている 43歳男性が忘れられない人を思い出すとき(燃え殻、東洋経済オンライン、2017年7月22日)
(項目新設 2019年12月8日)
<ブログ内関連記事>
書評 『仕事漂流-就職氷河期世代の「働き方」-』(稲泉 連、文春文庫、2013 初版単行本 2010)-「キャリア構築は自分で行うという価値観」への転換期の若者たちを描いた中身の濃いノンフィクション
書評 『1995年』(速水健朗、ちくま新書、2013)-いまから18年前の1995年、「終わりの始まり」の年のことをあなたは細かく覚えてますか?
(2017年5月18日発売の拙著です)
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