年末にヒマができたので『裕次郎』(本村凌二、講談社、2017)を読んだ。ヘアカットの順番待ちしているあいだに一気読み。
著者の本村凌二氏は東京大学名誉教授で専門は古代ローマ史。「裕次郎」とは、言うまでもなく石原裕次郎のこと。本村氏は、裕次郎の曲ならカラオケで100曲は歌えるという大ファンらしい。
石原裕次郎は、すでに亡くなってから30年になるが、まさに戦後の「昭和30年代」そのものといってもよい存在であった。だからこの本は、古代ローマ史の専門家が書いた激動の「戦後現代史」の本といえる。といっても、古代ローマの話はいっさいでてこない。
著者の独断と偏見でセレクトした石原裕次郎主演の映画10本について、著者自身の「自分史」とかさねあわせた現代史エッセイともいうべき内容だ。
石原裕次郎といえば、私の世代にとっては、すでに映画の人ではなくTVドラマの「太陽に吠えろ」や「西部警察」のボスであったが、うちの母親が熱烈なファンだったこともあって、私も裕次郎の曲ならいくつか空(そら)で歌えるまで覚えてしまった(笑) 読み終わったこの本は、母親にあげることにした。ちなみに母親は戦中派だ。
だが、歌は知っていても、その歌が主題歌とされた映画の内容までは知らなかったので、同時代体験をしていない私にとっても興味深い内容だった。
本村凌二氏は、大学の先輩にあたる人だ。裕次郎は慶応出身だが、兄の慎太郎もまた大学の大先輩。1947年生まれの団塊世代の著者の「自分史」としては中学時代が中心で、大学時代の回想がほとんどないのがちょっと残念ではある。
敗戦後の日本が高度成長をとげるまでは、こんな時代だったのだということを知るには、こういうアプローチがあってもいい。著者も、「歴史はまず現代史から学ぶのがいい」と「あとがき」で書いている。
著者プロフィール
本村凌二(もとむら・りょうじ)
早稲田大学国際教養学部特任教授、東京大学名誉教授。博士(文学)。1947年、熊本県に生まれる。1973年、一橋大学社会学部卒業。1980年、東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学教養学部教授、同大学院総合文化研究科教授を経て、現職。専門は古代ローマ史。『薄闇のローマ世界』でサントリー学芸賞、『馬の世界史』でJRA賞馬事文化賞、一連の業績にて地中海学会賞を受賞。近著に、『ローマ帝国人物列伝』、『愛欲のローマ史』、『競馬の世界史』、『教養としての「世界史」の読み方』、『英語で読む高校世界史』(翻訳監修)などがある。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
目 次
はじめに
第1章 兄弟が贈った日本版ヌーベルバーグ-『狂った果実』
第2章 夜霧にむせぶ哀愁の叙情詩-『俺は待ってるぜ』
第3章 すれ違う母と子の物語-『嵐を呼ぶ男』
第4章 やってはならないこと-『赤い波止場』
第5章 死によって打ち砕かれるもの-『世界を賭ける恋』
第6章 「性の自由」なる風潮へのアンチテーゼ-『憎いあンちくしょう』
第7章 必死に耐えながらも傷ついてゆく男の宿命-『太陽への脱出』
第8章 恐ろしいほどの時代の感受性-『赤いハンカチ』
第9章 ミステリアスな叙情詩の最高傑作-『帰らざる波止場』
第10章 揺れ動く現実世界に巻き込まれた男と女の悲哀-『夜霧よ今夜も有難う』
エピローグ
<ブログ内関連記事>
書評 『高度成長-日本を変えた6000日-』(吉川洋、中公文庫、2012 初版単行本 1997)-1960年代の「高度成長」を境に日本は根底から変化した
沢木耕太郎の傑作ノンフィクション 『テロルの決算』 と 『危機の宰相』 で「1960年」という転換点を読む
書評 『「夢の超特急」、走る!-新幹線を作った男たち-』(碇 義朗、文春文庫、2007 単行本初版 1993)-新幹線開発という巨大プロジェクトの全体像を人物中心に描いた傑作ノンフィクション
(2017年5月18日発売の拙著です)
ケン・マネジメントのウェブサイトは
ご意見・ご感想・ご質問は ken@kensatoken.com にどうぞ。
お手数ですが、クリック&ペーストでお願いします。
禁無断転載!
end