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2019年1月6日日曜日

書評『本音化するヨーロッパ-裏切られた統合の理想』(三好範英、幻冬舎新書、2018)ー いまヨーロッパで進行中の状況を理解するヒント


昨年(2018年)の11月から始まり、年を越してもいまなお完全に終息することなくつづいているフランスの「黄色いベスト」運動。デモが暴動になり、マクロン政権を揺さぶっているが、私はこの動きは、「転落した中間層」による「中央集権国家の一握りのエリート」への「反乱」だと捉えている。

フランスを扱った本ではないが、いまヨーロッパで進行中の状況を理解するヒントになる本がある。それは、『本音化するヨーロッパ-裏切られた統合の理想』(三好範英、幻冬舎新書、2018)という本だ。

著者は読売新聞の解説委員。難民問題とユーロ問題という、外在的な危機と内在的な危機の両面から問題を捉えようとしたアプローチだ。そのため、できるだけ「現場」に近い一般人のホンネをすくい上げようと試みている。

外在的な危機とは、「難民問題」と「ロシア」内在的な危機とは、「ユーロ問題」から発生したヨーロッパ域内の分裂状況。著者の専門のドイツを中心に、ことしの9月にギリシア、バルト三国の取材を行っている。

帯のコピーがすべてを表現しているといえよう。「エリートの建前は、もう聞き飽きた」、「溜まり続ける怒りのマグマ」。つまりホンネが噴出している、ということだ。

もともとエリートと一般人が乖離しているのがヨーロッパだが、危機が深まるにつれて、一般人のエリートへの怒りが「ポピュリズム」という形で表面化しつつある。そう考えれば、フランスの状況は、その端的な表れと見るべきだろう。「ポピュリズム」という表現にネガティブなものだけを見るのはやめたほうがいい。

誰だって生活が脅かされたら、理念よりも現実のほうが大事だと思うのは当然だろう。マズローの欲求段階説を持ち出すまでもなく、本能的な防衛反応といっていい。経済的な余裕がなくなれば、精神的な余裕もなくなる

どの国も余裕がないのだ。みな「●●ファースト」だと内心では思っているのではないか? その意味では、ヨーロッパの状況は、けっして対岸の火事ではないはずだ。日本人は、自分の身の上に読み替えてみたらいい。





目 次
序章 過ぎ去らない危機 
第Ⅰ部 難民とロシア 二つの最前線 
 第1章 レスボス島のEU旗 
 第2章 泥濘のリトアニア 軍演習場へ 
第Ⅱ部 右傾化と分断 内在化する脅威 
 第1章 難民受け入れの現場から 
 第2章 ポピュリズムの実相 
 第3章 ユーロが生む貧困と格差 
 第4章 漂流するヨーロッパ 
あとがき


著者プロフィール 
三好範英(みよし・のりひで) 
1959年、東京都生まれ。東京大学教養学部相関社会科学分科卒。1982年、読売新聞入社。1990~93年、バンコク、プノンペン特派員。1997~2001年、2006~08年、2009~13年、ベルリン特派員。現在、編集委員。著書に『特派員報告カンボジアPKO 地域紛争解決と国連』『戦後の「タブー」を清算するドイツ』(ともに亜紀書房)、『蘇る「国家」と「歴史」 ポスト冷戦20年の欧州』(芙蓉書房出版)、『メルケルと右傾化するドイツ』(光文社新書)。『ドイツリスク 「夢見る政治」が引き起こす混乱』(光文社新書)で第25回山本七平賞特別賞を受賞。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


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JBPress連載コラム第41回目は、「デモと暴動の国、露わになったフランスの本質-国を動かすのは「一握りのエリート」」(2018年12月18日)

中流社会が崩壊に向かい格差社会が進行している現代ドイツの状況を知る3冊-『そしてドイツは理想を失った』『メルケルと右傾化するドイツ』『ドイツ帝国の正体ーユーロ圏最悪の格差社会-』

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書評 『ブーメラン-欧州から恐慌が返ってくる-』(マイケル・ルイス、東江一紀訳、文藝春秋社、2012)-欧州「メルトダウン・ツアー」で知る「欧州比較国民性論」とその教訓


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