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2012年2月1日水曜日

書評『伝説の灘校教師が教える一生役立つ学ぶ力』(橋本 武、日本実業出版社、2012)-「すぐ役立つことは、すぐ役立たなくなる」!


「すぐ役立つことは、すぐ役立たなくなる」! だからこそ、「一生役立つ学ぶ力」を身につけよう!

小説『銀の匙(さじ)』を3年間かけて読みこむ「スロー・リーディング」という「奇跡の授業」を実践してきた伝説の灘校教師・橋本武の初の語り下ろし。

さすが100歳も生きてきた教師の言うことは、ひとつひとつが納得です。

「まなび」=「あそび」、まさにこれですね!「遊ぶように学ぶ」ことができれば、おのずから知識は血肉となる。疑問をもって自分で調べるクセがつけば、考えるチカラがつく

「スロー・リーディング」で有名になった「奇跡の授業」ですが、同時並行的に一ヶ月に一冊の課題図書があったことも明かされています。つまるところは「熟読×多読」なわけですね。

そして、書くというアウトプットによって身につくのが、「判断力」、「構成力」、「集中力」。そして重要なのは「横道にそれる」こと!

たんなる国語教育法のワクを超えて、生き方の本になっているといっていいでしょう。しかも教訓じみたところがまったくないのは驚きです。すんなりとアタマとココロに沁みてくる内容です。この本を読めば、ほんとうの「まなび」の意味がわかるでしょう。

ああ、こんな先生に教わってみたかった!


<初出情報>

■bk1書評「「すぐ役立つことは、すぐ役立たなくなる」! だからこそ、「一生役立つ学ぶ力」を身につけよう!」投稿掲載(2012年1月31日)
■amazon書評「 「すぐ役立つことは、すぐ役立たなくなる」! だからこそ、「一生役立つ学ぶ力」を身につけよう!」投稿掲載(2012年1月31日)



目 次

はじめに 人は何歳でも学び続けることができる
第1章 「学ぶ」ことは遊ぶこと、「遊ぶ」ことは学ぶこと-再び生徒と向き合って感じた学びの基本
第2章 生きる力、学ぶ楽しさのもととなる国語力-「読む」と「書く」のバランスが肝心
第3章 教えることで見える学びの本質-個性を引き出す子どもたちとのぶつかり合い
第4章 日常にあふれる「学び」「気づき」への横道-未来の大人たちに知っておいてほしいこと
第5章 つまり人生とは学びの連続-100年間積み重ねてきた生きる力の軌跡
特別付録 対談 遠藤周作×橋本武

著者プロフィール  
 
橋本武(はしもと・たけし)  

1912(明治45)年京都府生まれ。2012年に100歳を迎える。1934(昭和9)年に東京高等師範学校(後の筑波大学)を卒業、旧制灘中学校の国語教師となる。小説『銀の匙』を中学3年間かけて読み込むという前代未聞の授業を行い、公立校のすべり止めに過ぎなかった灘校を名門進学校に導く。1984年に退職。退職後は文筆活動を続けながら、いまも地元のカルチャーセンターなどで現役講師として活躍する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの。



<書評への付記>

昨日(2012年1月31日)、この本を読んだことをフェイスブックに投稿したところ、ひじょうに多くの方々からコメントが寄せられた。

とくに子どもをもつ主婦の方々や教育にかかわっている方々が反応してくださった。なんといっても子ども教育問題ほど関心の高い分野はほかにはないだろう。

国語(=日本語)教育の教材としての『銀の匙』を選択したのは、本書によると、日本の敗戦によって教科書が黒く塗りつぶされて使い物にならなくなったので、いっそのことあたらしい教材をつかって実験してみようというのが動機だったらしい。いわゆる民主化教育とは関係ないようだ。

中高一貫で、いったん教科担任がきまると6年間ずっと変わらないという灘校の教育方針が、ある意味では英国のパブリックスクールのような教育を可能としたのであろう。その結果が、東大合格率ナンバーワンという実績を生み出したのであって、受験校だからというって詰込み教育をおこなっているわけではない。

むしろ、そもそもが潜在能力の高い生徒が入学してくるのだから、内発的動機に火をつけさえできれば、やれと命令しなくても自分たちが主体的に取り組むようになるわけだ。

そして、読んで書くという国語力(=日本語力)がつけば、数学でも理科でも問題を分析し、問題を解決するチカラは自ずからついてくる。英語力もまた同じだ。きわめてまっとうな論理である。

これが「一生役立つ学ぶチカラ」の基礎だというわけなのだ。これを身につけているからこそ、灘校出身者は東大などのトップ大学に進学するだけでなく、東大卒業後もそれぞれユニークな道を歩いて行くことになる。

まさに、「自分で考え、自分で行動し、世界中どこでも通用する人材」の基礎は、じっくりと精読する「スロー・リーディング」と多読とのかけ算にあることがわかる。

巻末に灘校出身の遠藤周作との1974年の対談が再録されているが、橋本先生の人柄がよく引き出された面白い読み物になっている。遠藤周作在学当時の灘校は、自由な校風は変わりないが、けっして進学校ではなかったことは、『落第坊主の履歴書』と題した日本経済新聞の名物連載「私の履歴書」にも書かれていた。

あたらしい取り組みが実を結ぶには、なにごとであれ軌道に乗るには時間がかかるということだ。「スロー・リーディング」の実践もまた、自由な校風であたらしい取り組みがゆるされる環境があってこそのものだったのである。

ちなみに『銀の匙』(中 勘助、岩波文庫、1999改版 単行本初版は岩波書店 1926)は、岩波文庫の緑帯のロングセラーである。「岩波文庫解説」から、簡にして要を得た紹介文を引用させていただこう。

なかなか開かなかった茶箪笥の抽匣(ひきだし)からみつけた銀の匙。伯母さんの無限の愛情に包まれて過ごした日々。少年時代の思い出を中勘助(1885~1965)が自伝風に綴ったこの作品には、子ども自身の感情世界が、子どもが感じ体験したままに素直に描き出されている。漱石が未曾有の秀作として絶賛した名作。改版。(解説=和辻哲郎)

みなさんもぜひ、『銀の匙』を味読していただきたいと思う。







<関連サイト>

・・紀伊国屋梅田本店(大阪)にて開催予定


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(2012年7月3日発売の拙著です)








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