「1日で巡るお遍路さん in 丸の内」というイベントに参加してみた。四国八十八ヶ所を一日、いや一時間くらいで一気に回ってしまおうというお気軽イベントである。
いまは亡き祖父が徳島生まれで四国にも少なからぬ「縁」のあるわたしは、20歳代の頃からぜひやってみたいと思いながら、またなんども計画をつくってみたものの、歩き遍路では最短でも40日以上はかかるため現在に至るまで断行しないで終わってしまっている。
このままでは生きているうちに一度もお遍路できずに終わってしまうかもしれないと思うと、まあこういうインスタントなお遍路でもいいのかなと思って参加してみた次第だ。
インスタントすぎてそれではお遍路したことにならないという反論もあるだろうが、チベットでもマニ車を回せばお経を読んだことになるというプラクティスもあるので、それほどおかしなことでもあるまい。
主催者のJTBによる案内文を以下に掲載しておこう。旅行会社が聖地巡礼をテーマにはじまったのは洋の東西を問わず共通である。
「77年ぶりに88か所本尊出開帳」 今日、老若男女を問わず静かなブームとなっている四国八十八ヶ所巡り。弘法大師"空海"の足跡を訪ね、寺院を巡るお遍路の旅がこの度、東京・丸の内の新ランドマーク JPタワーにやってきます。本展では、なんと77年ぶりに88体のご本尊(日本を代表する仏師松本明慶作の出開帳本尊)を一堂に出開帳。つまり東京・丸の内にて、1日で四国八十八ヶ所を巡ることと同様の体験をしていただけます。その他にも巡礼用品や四国物産の販売も併催予定。何度も巡礼の旅に出ていらっしゃる方はもちろん、巡礼の旅に出たくてもなかなか出られないという方も、この春、丸の内で貴重なお遍路体験をしませんか?
「77年ぶりに88か所本尊出開帳」、ですか! 77年前というと 1936年(昭和11年)か。そんなこともあったのかという気持ちになる。「日本を代表する仏師松本明慶作の出開帳本尊」ということは、それ以降につくられたあたらしい仏像ということだ。
「四国霊場開創1200年記念催事」ということだが、その数字がピタっと正確なのかどうかわたしにはわからない。でも1200年というのは、弘法大師空海の時代であるからそのとおりなのだろう。
まずは、「開催概要」について掲載しておこう。「同行二人」(どうぎょう・ににん)である。弘法大師と二人で巡礼する。
■名 称: 四国霊場開創1200年記念催事 「1日で巡るお遍路さんin丸の内」
http://www.jtb.co.jp/chiikikoryu/regional/ohenro/index.asp■主 催: 株式会社JTB中部、四国八十八ヶ所霊場会
■協 力: 東日本先達会
■協 賛: 四国ツーリズム創造機構
■会 期: 2013年4月18日 (木) ~ 25日 (木) 会期8日間■時 間: 9:00 ~ 21:00 ※時間指定制(3時間観覧)第1部 09:00-12:00 第2部 12:00-15:00
第3部 15:00-18:00 第4部 18:00-21:00
※各部定員700名様限定
■会 場: JPタワー【 ホール & カンファレンス (4Fフロア) & 東京シティアイ (B1フロア) 】 東京都千代田区丸の内二丁目7番2号
■入 場 料: 有料制 ※中学生以下無料
前売券(1名様) ¥2,000(税込)
当日券(1名様) ¥2,300(税込)
■チケット:販売方法
1.インターネット販売<JTBエンタメチケット/チケットぴあ>
2.チケット専用コールセンターでの電話販売<JTBエンタメチケット/チケットぴあ>
3.JTB店頭・JTB総合提携店での販売
4.チケットぴあ店頭での販売
5.コンビニエンス・ストアでの販売
「出開帳」というのは江戸時代にはよく行われていたそうで、成田山新勝寺の出開帳が・・・で何度も開かれていたそうだが、門外不出の秘仏を出張展示するといったものである。
写真撮影禁止ということなので一枚も撮影していないので、どんな感じかは千代田区観光協会の関連サイトをご覧いただきたい。
簡単に回れるというのだが、88体の仏像に手をあわせて真言を唱える(・・仏像にそばに書いてあるのを読むだけだが)、それでもかなりの量がある。やはりマニ車を回して終わりというようなインスタントなものではない。
(完了者に授与される「結願之証」 ただし無記名)
会場を一巡すると、出口の外で「四国八十八ヶ所霊場 お砂踏み 結願之証」という証書をもらったが、にもかかわらず、その瞬間のことだが、やはり歩いて回らなければダメだなという気持ちがわき上がってきた。つまり精神的にも肉体的にも物足りないということだ。
狭いスペースであるからよけいそう感じるのだろうが、自分のペースで歩けないのももどかしい。
体力のあるうちに、やはり一部分でもいいから歩くべきだなと痛感。もうちょっと会場が広ければ、違う感想をもったかもしれないが・・・
会場に展示されていた写真パネルにもあったが、外人さん(!)でもお遍路しておるのだから、いわんや日本人をや、である。
じつはお遍路をしてみたいとつよく思ったのは、いまから20年くらい前、アメリカに留学していたときのことだ。一緒にプロジェクトをやっていたエンジニアの白人系アメリカ人から、彼の弟が四国アイランドで巡礼(pilgrim)しているという話を聞いた。その頃はもちろん、お遍路というコトバは知っていたが、じっさいに歩いている人の話を聞いたのは初めだった。外地ではじめて日本を知るという事例でもある。
会場で「お遍路」をはじめる前に、僧侶から説明とお清めがある。お清めは塗るお香と聖水のふりかけの二つだが、その塗るお香のことを「塗香」(ずこう)というのだそうだ。その粉末のお香を左手の手のひらに受けて両手ですり合わせ、手の甲や手首に刷り込み、両手のひらを開いて全身を清めたことにする。密教系ならではのようだが、はじめて体験した。
ところがこのお香の匂いにはその後、閉口することになる。カレー粉のような匂いがこびりついて取れず、終日つきまとっていたのだ。そのまま帰宅したのであれば問題はなかったかもしれないが・・・
いろいろ感想を書いてみたが、やはり四国八十八か所は歩き遍路すべきという気持ちになっただけでも、このイベントに参加した意味はあったかもしれない。
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閑話休題(=それはさておき)、イベントの会場の改築なったJPタワー(旧東京郵便局)がまたすごいものであった(下の写真)。
(JPタワー内部 吹き抜け型の商業ゾーン)
こんなにつぎからつぎへと東京では再開発で商業施設が建設されているが、はたして採算とれるのだろうかとも思ってしまう。まあ、東京駅舎の再建とあわせての丸の内再開発計画の一環だろうから勝算はあるのだろう。
むかし百貨店や商業施設の需要調査と採算計画(・・いわゆるFS:フィージビリティ・スタディのこと)の仕事をさんざんやったのでそんなことを思ってしまうのだが、「供給が需要をつくりだす」という、いわゆるセーの法則というものもある。あらたな需要を世界規模でつくりだすということを意図しているのであろう。なんといっても世界を代表する国際都市東京の表玄関が丸の内である。
JPタワーには東京大学総合博物館の常設展示「インターメディアテク」もできていた。特別展示として、古生物時代の標本や化石が展示されていた。標本や化石はすでに生命はないが、かつて生命をもっていた物体の残存物である。
八十八ヶ所の霊場をもつ四国は、それゆえに「死国」ともいわれることがある。JPタワーには、商業施設という「生」と霊場という「死」の世界の同居したわけだ。現世における欲望、来世における欲望。エロスとタナトス。
生と死はつねに隣り合わせにあるということを体感するには、いいイベントであったというべきかもしれない。
<関連サイト>
1日で巡るお遍路さんin丸の内(JTB)
四国八十八ヶ所霊場 公式サイト
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(2012年7月3日発売の拙著です)
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