どんな仕事であれ、なんらかの「専門」がなければ、人の役に立つこともできないのが世の中というものです。これは人間だけではなく、ミツバチなど集団を形成している昆虫でも同じことですね。「分業」というかたちで、それぞれの社会を効率的かつ効果的に運営しています。
とはいえ、「専門」が細分化されて、「専門」を別にする人にはまったくわけがわからなくなっているのも現代という時代。同じ会社のなかでも、部門が違うと仕事の中身がわからないだけでなく、極端な話、同じ部署でも話がつうじないということにもなりかねない。
「専門」を異にする人とコミュニケーションするためには「雑学」が必要なわけですが、「雑学」だけではたんなる「知識」や「情報」の段階にとどまっていて、幅広くかつ深く考えるための材料としては不足しています。
また、「専門」にかんても、小手先のテクニックやノウハウには限界がある、こう感じている人も少なくないのではないでしょうか。あまりにも世の中が複雑化しているだけでなく、ちょっと先も予測しがたい状況になっているから。
「教養」が必要な理由の一つはそこにあるわけですね。自分の「専門」を極めようと思うと、どうしても幅広くかつ深く学ぶ必要になってくるわけです。「全体」を把握しなければ、「部分」もほんとうに理解することにはなりません。「全体」のなかに位置づけてこそ、「部分」の意味もわかってくる。それがひいては「知恵」となるのです。
『キーワードで学ぶ 知の連環-リベラルアーツ入門-』(玉川大学リベラルアーツ学部編、玉川大学出版会、2007)は、いま大学で教育される「リベラルアーツ」(教養)はどんなものかを知るにはよい手引きとなるかもしれません。
イデオロギー、記憶、脳、ロボティクス、ナショナリズム、グローバル化・・・といった66のキーワードで、現代を理解するための基礎的な教養を身につけるための手引きを意図したものです。
重要なことは、「リベラルアーツ」(教養)においては、「理系と文系」といったナンセンスな区分は行っていないことです。「理系と文系」という区分は日本だけです。人間を類型化するこの区分は、人間を「全体」として捉えることを阻害しています。
「全体」を把握するといっても、もちろんすべてを知りつくすことなど誰にできませんし、その必要もありません。しかし、マスコミの報道に疑問をもち、専門家の発言に疑問をもつことも必要。そのためには、「常識」として「教養」をもっていることが必要といってよいでしょう。
まずは、「知識」としての「教養」がカバーする範囲がどのようなものであることを知り、そのそれぞれについて相互関係を意識しながら身につけ、リアルライフのなかでなんどもその知識をつかいこなしていくことが、現代人にとっての「知恵」になっていくのです。
毎年改訂されているロングセラーにかの有名な 『現代用語の基礎知識』(自由国民社)がありますが、あまりにも分厚い。また、ウェブ上の wikipedia もハイパーリンク構造になっていますが、どうしても断片的な「知識」を得るだけに終わってしまいがちです。
『キーワードで学ぶ 知の連環-リベラルアーツ入門-』に収録されている66項目くらい、アタマのなかに入れておきたいものです。そういう使い方もできる、大学学部向けのテキストです。174ページしかありませんので、「全体」を把握するには好都合でしょう。
ただし、本書にみられるスペシャリスト(専門家)に対する否定的な態度はよろしくありません。冒頭に書いたように、なんらかの「専門」がなければ、人の役に立つこともできないのが世の中だからです。ですから、現代に必要なのは、高度な専門性をもったジェネラリストとでもいうべきではないか、と。
また、リベラルアーツでありながら数学や自然科学が欠如しているのも問題ではないでしょうか。辞典という性格上、コトバによる説明しかできないという限界はありますが、現代人にとってリベラルアーツに数学的思考が欠かせないことは、このブログでも何度も強調していることです。
「知識社会」で生き抜くためには、「知識」を身につけるだけではなく、「知識」を判断しつかいこなすための「知恵」が必要なのです。
目 次
はじめに
アメリカ文化/アメリカ文学/イデオロギー/英語の歴史/エートス/意味/韻文・散文/ウェルネス/形・音/記憶/気づき/技法/儀礼/近代化/近代文学/クオリティー オブ ライフ/クリティカルシンキング/グローバル化/芸術/言語獲得/語彙/公害/好奇心/公共性(圏)/国際言語としての英語/古典文学/コンテクスト/サイボーグ/CG/システム/自然/シミュレーション/市民活動/社会階層/樹木/情報/シンボル/神話/時間・空間/生命/責任/相互行為/デジタル・アナログ/伝説/ナショナリズム/日本語/認知科学/認知発達/脳/博物館/表現/風土/武士/ブリティッシュ/文化/文体/文法/邦楽/メッセージ/母子相互作用/様式/リテラシー/歴史/レクリエーション/ロボティクス/ ほか総計66項目
著者プロフィール
玉川大学リベラルアーツ学部
リベラルアーツ学科は、4年間を3期に分けて学習を発展させていく学習システムを導入。「広さと深さ」を同時に追究し、急速な変化にも対応できる基礎知識力を養います。またPlan(構想力)・Practice(実践力)・Promote(推進力)の体験・実践教育により、教育・企業・公共事業・国際交流など多方面のコミュニティで、行動力のある、調和のとれた人材を育成します。「世界がわかる、自分がかわる」それがリベラルアーツ学科です(玉川大学公式サイトより)
<関連サイト>
玉川大学リベラルアーツ学部 公式サイト
Famous Graduates of Liberal Arts College (Montgomery Eductional Consulting)
・・アメリカの「リベラルアーツカレッジ」卒業生のリスト。アメリカでは4年生のリベラルアーツカレッジでみっちりと教養分野を学習したうえで大学院(グラジュエートスクール)で専門分野を勉強するケースが多い。日本でいえば国際基督教大学(ICU)がアメリカ型のリベラルアーツカレッジだが、玉川大学もその一例であるが、リベラルアーツ学部は、総合大学のなかのリベラルアーツカレッジを設置する試みといってよいだろう
<ブログ内関連記事>
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月刊誌 「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2013年11月号の 「特集 そして、「理系」が世界を支配する。」は必読!-数学を中心とした「文理融合」の時代なのだ
"try to know something about everything, everything about something" に学ぶべきこと
・・19世紀英国の思想家ミルのコトバ。
書評 『教養の力-東大駒場で学ぶこと-』(斎藤兆史、集英社新書、2013)-新時代に必要な「教養」を情報リテラシーにおける「センス・オブ・プローポーション」(バランス感覚)に見る
・・英国型「教養」
書評 『私が「白熱教室」で学んだこと-ボーディングスクールからハーバード・ビジネススクールまで-』(石角友愛、阪急コミュニケーションズ、2012)-「ハウツー」よりも「自分で考えるチカラ」こそ重要だ!
・・米国型「リベラルアーツ」
ビジネスパーソンに「教養」は絶対に不可欠!-歴史・哲学・宗教の素養は自分でものを考えるための基礎の基礎
【セミナー開催のお知らせ】 「生きるチカラとしての教養」(2013年6月27日)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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