(赤十字を描いた錦絵 shokenfund.org より)
「ショーケン・ファンド」と耳で聞くと、投資家ではなくても「証券ファンド」のことだと思ってしまいますよね。はじめて知ったとき、わたしもそう思いました(笑)
「ショーケン・ファンド」の正式名称は 「エンプレス・ショーケン・ファンド」(Empress Shoken Fund)です。
「エンプレス・ショーケン」」(Empress Shoken)とは日本語でいえば昭憲皇太后のこと。明治天皇のお后でした。つい先日のことですが、2014年4月11日で昭憲皇太后が崩御されてから100年になります。明治神宮では昭憲皇太后百年祭が行われたとのことです。
「エンプレス・ショーケン・ファンド」は、国際赤十字が戦時ではなく平時にも活動できるようにと、昭憲皇太后が下賜した基金(ファンド)のことです。
100年以上の歴史を持つ「昭憲皇太后基金」の配分決定-約1,055万円を5カ国に-(日本赤十字社のプレスリリース 2013年4月11日)によれば、以下のようにあります。(*太字ゴチックは引用者=さとう)。
昭憲皇太后基金は、明治45年(1912年)にワシントンにおいて第9回赤十字国際会議が開催された際、昭憲皇太后が赤十字の平時事業を奨励する思し召しをもって国際赤十字に10万円(現在の3億5千万円相当)を寄付され、これを基に創設されました。赤十字が戦時の活動を中心としていた時代、今日の開発援助を先取りする本基金の創設は極めて画期的なことでした。
「平時の活動」(relief work in peacetime)がいかに重要か、言うまでもありませんね。赤十字がクリミア戦争に従軍した英国人ナイチンゲールの活動から始まったように、戦争と切って切れないものであることは現在でも変わりはありませんが、平時の活動の重要性に着目した昭憲皇太后の着眼はさすがとしか言いようがありません。
本年(=2013年)3月31日時点での基金総額は約11億4,600万円(10,732,486スイスフラン)で、この基金から生じる利子を配分します。大正10年の第1回配分から今回までの同基金による配分額は、合計で約13億4,100万円(12,554,965スイスフラン)、これまでに配分を受けた国は158の国と地域に上ります。
「昭憲皇太后基金」については、Empress Shoken Fund(英語)にくわしく説明されています。もしかすると「エンプレス・ショーケン」(Empress Shoken)の存在は、日本国内よりも、国際社会においてのほうが知名度が高いのかもしれません。
この英文による説明を読むと、国際社会における日本、その象徴である皇室の役割についてダイレクトに知ることができといっていいでしょう。皇室が率先して「近代化」=「西欧化」を推進した明治時代という時代と、昭憲皇太后についても。
「近代日本」を推進した皇室と国是としての国際協調路線、近代西欧の価値観である国際赤十字(・・現在ではイスラーム圏の赤新月社と一緒にして国際赤十字赤新月社となっています)、ファンドの運用方針についてなどさまざまなことを知ることができます。
面白いのは原資として下賜された金額が a capital sum of 100,000 gold yen と表記されていること。金本位制下の金額表示が "gold yen" となっているわけです。金(ゴールド)の裏付けのある日本円というわけです。現在の基金については、スイスフラン表示となっています。
昭憲皇太后の下賜金を原資にして、その後も歴代の皇后陛下、日本赤十字社、明治神宮が基金に追加を行っており、また日本国民による献金も加えられてきました。
原資にはいっさい手をつけてはいけないこと、運用益のみを使用することで「エンプレス・ショーケン」(Empress Shoken)の名前が永遠に残るよう設定されているわけです。運用はきわめて保守的に行われてますが、ファンド(基金)が設定されているスイスのインフレ率以上になるようにされている、と。
現在では「社会責任投資」分野にも基金から投資が振り向けられているようです。
日本が国際社会で生きていくために国際貢献は欠かせません。その原点の一つに「昭憲皇太后基金」(エンプレス・ショーケン・ファンド)があることはぜひ知っておきたいものです。
「エンプレス・ショーケン・ファンド」がますます世界のために役立ち、日本の国際的地位向上に資するよう願わずにはいられません。
最後に、昭憲皇太后の御歌を引いておきましょう。Empress Shôken during the Meiji period に掲載されているものです。
"May benevolence be the cornerstone of the solidarity of people's hearts." (Translation of poem by Empress Shôken) (私訳: 慈悲の心が人びとの心を連帯させる礎(いしずえ)となりますよう!)
日本語の元歌がわからないのが残念でありますが。
PS 「ショーケン・ファンド」については、『明治日本のナイチンゲールたち-世界を救い続ける赤十字「昭憲皇太后基金」の100年-』(今泉宜子、扶桑社、2014)という本が出版されて、「ショーケン・ファンド」の活用の報告が紹介されている。
上掲書の「プロローグ」には、昭憲皇太后の御歌が紹介されている。「ほどほどにたすけあひつつよもの海みなはらからとしる世なりけり」。この歌が、"May benevolence be the cornerstone of the solidarity of people's hearts." の元歌の一つなのであろう。(2018年5月4日 記す)
The 102nd Empress Shôken Fund awards supports innovation in local action (International Federation of Red Cross and Red Crescent Societies 11 April 2014)
・・国際赤十字赤新月社連盟(略称 IFRC)の「エンプレス・ショーケン・ファンド」にかんする広報記事)2014年4月11日)
昭憲皇太后と「ショーケン・ファンド」について(英文)
昭憲皇太后百年祭(明治神宮)
〔類題謹解〕昭憲皇太后御集
(「昭憲皇太后基金」は現在でも献金募集中)
<ブログ内関連記事>
「聖徳記念絵画館」(東京・神宮外苑)にはじめていってみた(2013年9月12日)
・・昭憲皇太后と国際赤十字の深い関係は、このときはじめて深く認識した
新緑の風に誘われて明治神宮を参拝
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・・昭憲皇太后(当時は明治天皇の皇后)は米国に旅立つ「女子留学生たち」を激励して送り出した
書評 『日本近代史の総括-日本人とユダヤ人、民族の地政学と精神分析-』(湯浅赳男、新評論、2000)-日本と日本人は近代世界をどう生きてきたか、生きていくべきか?
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