「ルーヴル美術館展 日常を描く-風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄-」(国立新美術館)に行ってきた(2015年5月6
ゴールデンウィーク最終日の本日(2015年5月6日)は快晴でお出かけ日和、午前10時の開園にあわせていったのだが、さすがにすでに混雑していたのは、「ルーヴル展」というタイトルゆえだろうか。
美術展のテーマは「ヨーロッパの風俗画」。いずれも小品が多く、著名な画家の作品がまんべんなく展示されている。16世紀のティツィアーノ、16世紀から17世紀のブリューゲルやルーベンスといった大御所から、風俗画の名手であったホガース、18世紀ロココ時代のヴァトーや19世紀のコローまで、まんべんなく取り上げられている。
展示の構成は以下のようになっている。テーマ別構成になっており、時代横断型である。
プロローグⅠ 「すでに、古代において・・・」 風俗画の起源
プロローグⅡ 絵画のジャンル
第Ⅰ章 「労働と日々」-商人、働く人々、農民
第Ⅱ章 日常生活の寓意-風俗描写を超えて
第Ⅲ章 雅なる情景-日常生活における恋愛遊戯
第Ⅳ章 日常生活における自然-田園的・牧歌的風景と風俗的情景
第Ⅴ章 室内の女性-日常生活における女性
第Ⅵ章 アトリエの芸術家
今回の美術展の目玉はフェルメールの「天文学者」(1668年)である(・・上掲のチラシのオモテ面)。初来日だという。正直いってわたしもこの絵を見るためだけに「ルーヴル展」に行ったといっても言い過ぎではない。
とりたててフェルメール好きというわけではないのだが、それでも日本で見れる限りのフェルメールは見てきた。「天文学者」はもちろん見るのははじめてだが、この絵のモデルは同時代オランダの哲学者スピノザという説もあり、とりわけ見たかったということはある。じっさいに見たら、やはり 51cm × 45cm という、じつに小さな絵であった。
(ティツィアーノ 「鏡の前の女」 チラシのウラ面)
このほかに見るべき作品は、ヴェネツィアを代表する大画家ティツィアーノの「鏡の前の女」(1515年頃)だろう。この絵は、なんといっても色彩豊かで、しかもモデルが肉感的なので目に飛び込んでくる。ルーヴル美術館の所蔵とは知らなかった。
そのほか、これは個人的な関心からだが、フランドルの画家クエンティン・マサイスの「両替商とその妻」(1514年)の実物を見ることができたのは幸いだった。
(クエンティン・マサイス 「両替商とその妻」)
この絵そのものは複製やデジタル画像で見たことはあっても、作者のことを考えたことはない。マサイスは、『痴愚神礼賛』の作者で人文主義者のエラスムスの同時代人で友人関係にあり、その肖像画も書いているということだ(・・有名なのはホルバインによるもの)。
宗教改革のなか、カルヴァンによって利子が完全に是認されるにはいまだ至っていなかった時代、すなわちキリスト教の教えと金融業の矛盾がいまだ解決されていなかった時代の作品だが、マサイスの「両替商とその妻」(1514年)とティツィアーノの「鏡の前の女」(1515年頃)が、ヨーロッパの北と南でほぼ同時に制作されたものであるのは興味深い。
そのほかの作品は、「風俗画」という性格もあって、その当時の風俗をうかがうには適したものだが、とりたててじっくり鑑賞するようなものだとは思わない。自分の関心にしたがって、じっくり見るべきものは見て、それ以外は見ずにとばしても問題ないだろう。
東京の新国立美術館では、2015年2月21日から6月1日まで、京都では京都市美術館にて6月16日から9月27日まで開催される。販売されているマグネットは、期待通りフェルメールの「天文学者」であった(650円)。
PS 「風俗画」というジャンルとエドゥアルト・フックスの名著『風俗の歴史』
「風俗画」という分野にかんしては、今回の美術展ではまったく言及されていないが、20世紀ドイツの社会主義者で収集家であったエドゥアルト・フックスによる『風俗の歴史』を想起すべきだろう。
日本では社会主義者の医師・安田徳太郎氏の訳によって光文社から出版され、その後に角川文庫から全9巻で出版されて一世を風靡したこの『風俗の歴史』は、まさに今回の美術展がテーマとしている、16世紀から19世紀にかけてのヨーロッパ風俗史を豊富な図版を掲載して記述したものだ。
20世紀ドイツの批評家ヴァルター・ベンヤミンなど少数を除いて、本職の歴史家からは正当な扱いを受けていないフックスだが、本来ならこの美術展を機会に復刊されてしかるべき名著である。参考のために付記しておく。
日本では社会主義者の医師・安田徳太郎氏の訳によって光文社から出版され、その後に角川文庫から全9巻で出版されて一世を風靡したこの『風俗の歴史』は、まさに今回の美術展がテーマとしている、16世紀から19世紀にかけてのヨーロッパ風俗史を豊富な図版を掲載して記述したものだ。
20世紀ドイツの批評家ヴァルター・ベンヤミンなど少数を除いて、本職の歴史家からは正当な扱いを受けていないフックスだが、本来ならこの美術展を機会に復刊されてしかるべき名著である。参考のために付記しておく。
ルーヴル美術館展公式サイト (新国立美術館)
ルーヴル美術館展公式サイト (日本テレビ)
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(2012年7月3日発売の拙著です)
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