(ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 「デカメロン」 1916年)
「リバプール国立美術館所蔵 英国の夢 ラファエル前派展」(Bunkamura)にいってきた(2015年12月27日)。かつて産業革命の中心地のひとつで隆盛を誇った産業都市リバプールの企業家たちが、同時代の画家たちの作品として収集した「ラファエル前派」の作品の数々である。
港湾都市リバプールといえばビートルズを生み出した町として有名だが、彼らが生まれた頃はすでに衰退過程にあった。だが、産業都市の担い手であった企業家たちは、大きな遺産をこの町に遺したというわけだ。これこそ実業家の地域貢献の最たるものというべきだろう。かつてバブル期の日本で流行語となったメセナを地で行くものというべきだ。
今回の美術展は、リバプールにある3つの美術館の所蔵品から、「ラファエル前派」の全体像がわかるような作品が出品されている。
「ラファエル前派」とは、ちょうどいまから500年前のイタリア・ルネサンスを代表する画家ラファエロの前に戻れ(!)という意味の芸術運動である。
大学時代以来、わたしの好みのひとつである19世紀後半の「ラファエル前派」。わたしの個人的な好みは、年代順にジョン・エヴァレット・ミレイ、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、エドワード・バーン=ジョーンズ、とくに後者の二人となるのだが、今回の美術展はよく目配りのきいたものとなっている。
今回の美術展は4部構成になっている。
Ⅰ. ヴィクトリア朝のロマン主義者たち
Ⅱ. 古代世界を描いた画家たち
Ⅲ. 戸外の情景
Ⅳ. 19世紀後半の象徴主義者たち
ミレイといえば、テート美術館所蔵の「オフィーリア」がその代表作だが、今回の美術展で出品されている「春 林檎の花咲く頃」(1859年)もすばらしい。
(ジョン・エヴァレット・ミレイ 「春 林檎の花咲く頃」 1859年)
イタリア系英国人ダンテ・ガブリエル・ロセッティもまた「ラファエル前派」を代表する画家で詩人だが、古代の女預言者を描いた 「シビラ・パルミフェラ」(1865~1870年)もすばらしい作品だ。
(ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ 「シビラ・パルミフェラ」1865~1870年)
「ラファエル前派」の後期を代表するエドワード・バーン=ジョーンズの作品としては、「レバノンの花嫁」(1891年)という大作、 「フラジオレットを吹く天使」(1878年)がすばらしい。
(エドワード・バーン=ジョーンズ 「レバノンの花嫁」 1891年)
(エドワード・バーン=ジョーンズ 「フラジオレットを吹く天使」1878年)
日本でも最近ふたたび「ラファエル前派」の人気が高まっているが、今回はいわゆる定番の作品ではなく、日本ではまだまだ知られていない作品が多く出品されているのが特色というべきだろう。
なんと挿絵画家として著名なケイト・グリーナウェイの作品も1点展示されていることも付記しておこう。
「ラファエル前派」という19世紀後半の英国に始まった美術運動は、500年前のラファエロに始まる「近代」以前の「中世」に戻れという方向性、すなわち「脱近代」という方向性だけでなく、じつは産業社会が生み出した成果を存分に使用するという性格のものであった。復古ではなく、あらたな創造なのである。
だからこそ、同時代の成功した実業家たちが「ラファエル前派」の画家たちの作品を購入したのではないかと思うのである。「ラファエル前派」は、資本主義の先進国であった英国において、当時の最先端をいくものであったのだ。そんな観点から鑑賞してみるのもいいかもしれない。
<関連サイト>
「リバプール国立美術館所蔵 英国の夢 ラファエル前派展」(Bunkamura)公式サイト
(マイコレクションから D.G. ロセッティによる Be Loved ただし今回の出品ではない)
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・・「ラファエル前派」とはイタリア・ルネサンスを代表する画家ラファエロの前に戻れ(!)という意味の運動である
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