テスラでは電気自動車のスポーツカー、スペースX では火星移住など、とてつもない大胆なフロンティア開発の夢をぶちあげて、米国の製造業を牽引している起業家イーロン・マスク。
「デジタル時代のものづくり」の星ともいうべき存在は、すでにスティーブン・ジョブズを越えているといっていいだろう。
ことし2022年に入ってからも、ウクライナへのスターリンク供与でウクライナ戦争に貢献したと思っていたら、今度は twitter を買収して、またまた物議をかもしている。相変わらずのお騒がせぶりである。
だが、イーロン・マスクのなにがすごいのか、礼賛記事からだけでは見えてこない。 なにかいい本はないかと探していたら、目についたのが『イーロン・マスクの世紀』(兼松雄一郎、日本経済新聞出版社、2018)という本だった。
日本経済新聞社のシリコンバレー支局特派員を、2013年から2018年まで5年間つとめた記者によるもの。地の利を活かした取材と考察のたまものというべき一冊だ。
イーロン・マスクの評伝ではない。礼賛でも否定でもない。イーロン・マスクというたぐいまれなビジョナリー起業家が、米国においてもつ意味とインパクトを、その人脈とエコシステム全般をカバーすることで押さえることで、浮かび上がらせあげようと試みたものだ。じつに面白い本だった。
イーロン・マスクがメインにしているのは、自動車や宇宙産業だが、さらに拡げて交通やエネルギーなどインフラ、都市開発全体、さらには政治にまで影響力を及ぼしている。 多岐にわたった取り組みの本質はなにか?
著者による考察には、大いに納得いくものがあった。それは、以下のようなものだ。
マスクがやっているのは、すでに存在しているがビジネスとしては開花していない技術を集め、巨額の量産投資により、価格破壊までの期間を大幅に短縮することだ。(・・中略・・)一部の投資家は、そこに単に高リスク事業を超えた実験価値を見いだす。それこそがマスクの錬金術を読み解くカギだ。(P.213)
なるほど、主に公共部門が担ってきた「規制業界」に民間企業として風穴をあけるのが、イーロン・マスクの真骨頂なわけだ。その意味では、航空業界に新規参入した英国のヴァージングループの総帥リチャード・ブランソンとも共通性があるわけだな。
日本には、なぜ GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル) が生まれないのかという危機感をあおる人が多いが、あまり意味のない話だろう。ビジネス風土があまりにも違うからだ。
だが、「デジタル時代のものづくり」という点にかんしてはイーロン・マスクに学ぶべきものはじつに多い。
イーロン・マスクがやってきたことは、いっけん突拍子もないように見えながら、さすが物理学専攻の人だけあって、物理法則に反したことをしているわけではない。
夢はとてつもなくでかいが、取り組みはかなり現実的だ。超長期の時間軸で思考し、実現までの時間を短縮する。やや無茶ぶりが目立つのではあるが、後者にかんしては日本企業もやってきたことではないか。
「デジタル時代のものづくり」という観点から、イーロン・マスクについては、今後どう進化していくのかを含めて、まだまだ研究する必要がありそうだ。
地球上のフロンティア消滅したとしても、宇宙には広大なフロンティアが拡がっているではないか!
目 次まえがきマスクの人脈図イーロン・マスク年表CHAPTER 1 さらばアップル-米国製造業の革命CHAPTER 2 ロボットと愛-トヨタをあざ笑うCHAPTER 3 解けるエジソンの呪い-電力の未来CHAPTER 4 「ザッカーバーグは分かってない」-AI終末論CHAPTER 5 トランプとの伴走-近似形の二人CHAPTER 6 マルキシズム2.0-シリコンバレーの不安CHAPTER 7 アキレスと2匹の亀-異端投資の生態系CHAPTER 8 米都市の生と死-蝸牛とブガッティCHAPTER 9 アイアンマンのダークサイド-殺人マーケティングCHAPTER 10 起業家の建国神話-物語が育むアメリカCHAPTER 11 方舟と民主主義-紅いディストピアCHAPTER 12 トム少佐の退屈-マスクがまだ語っていないことあとがき主な登場組織・企業の解説参考文献
著者プロフィール兼松雄一郎(かねまつ・ゆういちろう)日本経済新聞記者。1979年兵庫県生まれ。東京大学文学部卒。2005年、日本経済新聞社入社。財務省、素材、エネルギー、建設・不動産、電機・ゲーム、医薬、自動車、通信などの業界を担当。2013年10月から2018年3月までシリコンバレー支局特派員。東京本社編集局企業報道部記者。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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