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2022年12月13日火曜日

書評『ネアンデルタール人は私たちと交配していた』(野中香方子訳、文藝春秋、2015)ー ネアンデルタール人のゲノム解析から見えてきたものとは?

 
昨日(12月10日*)はノーベル賞授賞式だったが、ことしは日本人の受賞者がいなかったためか、現金なのもので日本での報道は少なかったような気がする。 

*この文章は2022年12月11日に執筆したのでそうなっている。以下同様

「絶滅したヒト科動物のゲノムと人類の進化に関する発見」でノーベル生理学・医学賞を受賞したのがスヴァンテ・ペーボ博士。ドイツのライプツィヒにあるマックス・プランク人類学研究所を立ち上げた研究者だ。 

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の客員教授で、しかも広島の禅寺にこもるという(・・この本はその間に執筆されたらしい)、日本にも縁の深いこのスウェーデン人の科学者の自叙伝が『ネアンデルタール人は私たちと交配していた』(野中香方子訳、文藝春秋、2015)。  

ノーベル賞受賞が発表された10月4日にこの本のことを書いて、「いま忙しいので読めないが、12月のノーベル賞受賞式までには読むぞ!」と記したものの、残念ながら12月10日までには読めなかったが、本日読了した。1日くらいなら許容範囲と考えよう。  

原題が Neanderthal Man: In Search Of Lost Genome, 2014 なので、直訳すれば「ネアンデルタール人ー失われたゲノムを求めて」ということになろう。 


エジプト考古学と分子生物学という、相異なる知的関心から生まれたのがこの研究だ。医学部に進学しながらも臨床ではなく研究の道に進み、ネアンデルタール人のゲノム解析という前人未踏の分野を開拓し、30年来の夢を実現させた科学者の半生。 

自分にとっては、まったく専門外の分野の本なので、最初は遺伝子学の専門用語にややとまどい、最新の高校の生物学の教科書をチラ見してながら読み進めたが、だんだん読み慣れてくると、がぜん面白くなってきて、後半は一気読みした。 

まったくの未踏の分野を開拓し、現生人類(=ヒト)のDNAには絶滅したネアンデルタール人のDNAが受け継がれていることを実証したのである。 

最初この本に目がいったのは、『ネアンデルタール人は私たちと交配していた』という日本語訳タイトルだったが、「交配」という単語から連想されるナマナマしい(?)話ではなく、あくまでも遺伝子解析によって解明される話なのであった。 

科学的探求の動機、研究生活、研究チームの運営、ライバルとの熾烈な争い、学術専門誌の投稿など、自然科学の研究にまつわる話にパーソナルライフの話がからまりながら、現代において科学者として生きるとはどういうことかについてのドキュメントになっている。 

人類の起源や進化について関心のある人なら、読んで面白い本だと思う。 


■「PCR法」こそ、ペーボ博士たちの研究チームに大いに貢献

ところで、コロナによって一般化した「PCR検査」、PCR法(=ポリメラーゼ連鎖反応法)によるDNA大量複製方法にもとづく検査であるが、この「PCR法」こそ、ペーボ博士たちの研究チームに大いに貢献しているのだ。 


先に「最新の高校の生物学の教科書をチラ見してながら読み進めた」と書いたが、「PCR法」が高校の生物学の教科書に掲載されていることに今回はじめて気がついた(写真下)。


40数年前の生物学とは比較しようのないほど、驚くほどこの分野のスピードが早いのだ。 あらためて高校の生物学くらいは勉強し直しておかなくてはな、という気にさせられた。そのためには、高校の授業でつかう教科書が最適だろう。



目 次 
序文 
第1章 よみがえるネアンデルタール人
第2章 ミイラのDNAからすべてがはじまった
第3章 古代の遺伝子に人生を賭ける
第4章 「恐竜のDNA」なんてありえない!
第5章 そうだ、ネアンデルタール人を調べよう
第6章 2番目の解読で先を越される
第7章 最高の新天地 
第8章 アフリカ発祥か、多地域進化か
第9章 立ちはだかる困難「核DNA」
第10章 救世主、現れる
第11章 500万ドルを手に入れろ
第12章 骨が足りない!
第13章 忍び込んでくる「現代」との戦い
第14章 ゲノムの姿を組み立てなおす
第15章 間一髪で大舞台へ
第16章 衝撃的な分析
第17章 交配は本当に起こっていたのか?
第18章 ネアンデルタール人は私たちの中に生きている
第19章 そのDNAはどこで取り込まれたのか
第20章 運命を分けた遺伝子を探る
第21章 革命的な論文を発表
第22章 「デニソワ人」を発見する
第23章 30年の苦闘は報われた
あとがき 古代ゲノムに隠された謎の探究は続く
注釈
解説 「ズル」をしないで大逆転した男の一代記(更科功)
訳者あとがき(野中香方子)
 

著者プロフィール
スヴァンテ・ペーボ(Svante Pääbo)
1955年4月20日生まれ。エストニア系スウェーデン人の遺伝学者で、進化遺伝学の分野を専門としている。古遺伝学の創始者の一人であり、ネアンデルタール人のゲノムの研究に大きく貢献した。1997年より、ドイツ・ライプチヒのマックス・プランク進化人類学研究所の遺伝学部門の創設責任者を務めている。2022年、「絶滅したヒト科動物のゲノムと人類の進化に関する発見」でノーベル生理学・医学賞を受賞。(Wikipedia日本語版より) 

訳者プロフィール
野中香方子(のなか・きょうこ)
翻訳家。お茶の水女子大学卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


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