映画『ルルドの泉で』(2009年、オーストリア/フランス/ドイツ)をDVDで視聴。原題はシンプルに Loirdes、99分。
「ルルド」はフランスにあるカトリックの聖地。難病の治癒を願って、カトリック信徒たちが藁をもすがる思いで巡礼で訪れる土地である。
19世紀後半、この地で「マリア出現」を体験した少女ベルナデット(のちに聖女として列聖される)から聖地になった。
いまから30年以上前のことであるが、ノーベル医学賞を受賞したアレクシス・カレルの『ルルドへの旅』(稲垣良典訳、エンデルレ書店、1964)を強く薦められて読み、一読大いに感銘して以来、仏教徒のわたしもルルドには大いに関心を抱いてきた。
『ルルドへの旅』は、自然科学者の目の前で起こった「奇蹟」の意味を考察した著書だ。難病の少女が奇跡的に全快するさまを目撃したのである。自然科学では説明できない現象に対する、科学者としてのあるべき態度がそこに示されている。
最近、このルルドとカレルについて、とある日本人カトリック司祭と対話を続けていたので、せっかくの機会なので視聴することにした次第だ。
巡礼団に参加した、難病の多発性硬化症で手足を動かせず、介護者つきの車いすの生活を強いられてい30歳台と思われる若い女性クリスティーヌ。演じているのはフランス人女優のシルヴィー・テステゥ(Sylvie Testud)。そんな彼女に起こった「奇蹟」が引き起こすさまざまな反応。
若い女性としての「普通の生活」を取り戻し、「生きる喜び」」をかみしめるクリスティーヌ。
とはいえ、巡礼団の参加者たちのなかには、巡礼団に参加することで孤独感や虚無感を癒やすことのできた老人たちだけでなく、「なぜ彼女にだけ奇蹟が?」という疑問を発し、嫉妬や羨望の感情を引き起こす人たちもいる。
映画のなかで、黒服のカトリック司祭は、身体の癒しより心の癒しが大事だと説く
だが、身体の癒しと心の癒しは、密接にかかわっている。「奇蹟」が起こる前の、告解の場でのクリスティーヌの真情の吐露にあるように、心の癒しだけでは充たされないものがあるのだ。
西洋世界においても、もはや心身二元論が成り立たないことが、目の前で実際に示されることになるわけだ。身体と精神は、相関関係にある。
全編つうじて静謐な進行の映画で、ときおりバッハがBGMとなるこの映画だが、ラストの巡礼団のお別れ会で歌われるデュエット曲「フェリチタ」(Felicità)がじつにいい。幸せを意味するイタリア語がタイトルの軽快なデュエット曲だ。
日本で流行したかどうか記憶にないが、人生賛歌ともいうべき1980年代にヨーロッパを中心に大ヒットしたイタリアン・ポップスである。アル・バーノとロミナ・パワーというカップルのデュオが歌う。
「奇蹟」をもたらしたものがなにであれ、たしかに「奇蹟」は起こったのであり、その「奇蹟」を起こったことを感謝し、その意味を深く考えながら、その後の人生を生き抜くことが大事なことなのだ。この態度は仏教的でもあるといってもいいかもしれない。
この映画は、21世紀に生きる現代人にとっての「奇蹟」の意味を考えるという意味でも、視聴する価値のある映画だと思う。
この映画をみて、ルルドの巡礼地で介護のボランティア活動をしているのが、マルタ騎士団(騎士修道会)の若い男女の会員たちであることを知った。この映画は、その意味では老若男女が登場する青春映画でもある。
PS フランスにおけるカトリックは現在なお白人の世界
現代フランスを描いた映画だが、白人以外は登場しない。
フランスのカトリックが地方を中心とした白人層であることは当然として、ムスリムが登場しないのは当然として、アジア人もでてこないのは、現代フランスを描いていながら、ある意味では不思議な印象を感じないわけではない。
それが、現在フランスのカトリックが置かれている現状と考えるべきなのだろうか?
ルルドのベルナデットといえば、ジェニファー・ウォーンズ(Jeniffer Warnes)の Song of Bernadette をげておきたい。
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