「歴史修正主義」とか「真実」なんてコトバが表題にあるだけで胡散臭い感じがプンプンして敬遠したくなるのが正直なところだが、虚心坦懐にこの本を読んでみると、意外と(?)きわめて真っ当な内容であることに気づく。
著者のいう「歴史修正主義」とは、世間一般で使用されている否定的ニュアンスのものとは違う。「米英両国の外交に過ちはなかったのか、あったとすれば何が問題だったのか、それを真摯に探ろうとする歴史観」のことだ。
具体的には、第二次世界大戦の米英を中心とした「連合国」の立場を正当化するために、事実関係を都合良く取捨選択してつくられたストーリーに異議申し立てをする立場のことだ。端的にいえば、日本を戦争に追いやった日本嫌いで中国好きのフランクリン・D・ルーズベルト(FDR)の真相を明らかにし、日米戦争が本来は不必要な戦いであったことを明らかにすることにある。
著者は、けっして 「枢軸国」のドイツや日本が正しかったのだと主張しているわけではない。ヒトラーやスターリンが正しかったのだなどと主張しているわけではない。あくまでも虚心坦懐に事実関係を検証していく立場である。この点は強調しておく必要がある。
帯のオモテには、「チャーチルとルーズベルトがいなければ第二次世界大戦は起こらなかった!」とある。 この本を読むと、とくにフランクリン・D・ルーズベルト(略してFDR)が諸悪の根源であったことが納得される。ニューディール政策の失敗を糊塗するため戦争による景気刺激を欲しており、欧州の戦争への介入機会を探っていたことは、日本人の常識とすべきだろう。
欧州問題にはかかわらないというワシントン以来の国是である「孤立主義」から逸脱し、「介入主義」を推進した張本人がFDRであり、そしてその先行者がおなじく民主党の第一次世界大戦への米国の介入を推進したウッドロウ・ウィルソンであることがよくわかる。 日本では理想主義者として礼賛されがちな二人だが、ともにプロテスタント牧師の子ども、善悪で白黒をつけたがる独善的思想の持ち主で、ともに人種差別主義者であった。
チャーチルについては、つい最近も2017年に英国で製作された『ウィンストン・チャーチル』という映画が日本公開されており、関心が再び高まっているものと思う。大恐慌(1929年)で大きな借金を抱えることになったことは映画にも出てくるが、ナチスが台頭したことが、反ナチス・反ドイツを主張していたチャーチルを政治の表舞台に「復活」させたことも事実である。チャーチルもまたFDRと同様、「好戦的」であったことは否定できない事実だ。
日本で使用されている「世界史の教科書」で教えられてきた「米国政府の基本見解に基づく公式見解」とは違うかもしれないが、あくまでもドイツのポーランド侵攻(1938年)の時点で、第二次世界大戦の根本原因が何であったかを探った内容の本である。じっさい読んでみての感想は、かなりの程度、納得のいくものであった。
世の中の出来事というものは、後付けの理屈で整理されるほど簡単な図式で割り切れるものではない。複雑な要素がからみあっているのであり、その時、その時の指導者たちの思惑が、意志決定の正しさや間違いも含めて複雑にからみあって、「流れ」が出来上がっていくものだ。
この本が出版されたのは2017年1月で、その当時のわたくしは拙著『ビジネスパーソンのための近現代史の読み方』の執筆に専念しており、この本を読むヒマはなかった。 だが、本書で展開されている基本的な見解にかんしては著者の渡辺氏とは共有しているものが多々あることがわかって、大いに心強い思いをしている。(上掲の写真の、帯のウラに記された箇条書きの文言を参照)。
単行本のようにボリュームも内容もある本だが、関心のある人にはぜひ読むことを勧めたい。
目 次
はじめに
第1章 第一次世界大戦の真実
第2章 第一次世界大戦後の歴史解釈に勝利した歴史修正主義
第3章 ドイツ再建とアメリカ国際法務事務所の台頭
第4章 ルーズベルト政権の誕生と対ソ宥和外交の始まり
第5章 イギリスの思惑とヒトラー
第6章 ヒトラーの攻勢とルーズベルト、チェンバレン、そしてチャーチル
第7章 ヒトラーのギャンブル
おわりに
人名索引
著者プロフィール
渡辺惣樹(わたなべ・そうき)
日米近現代史研究家。1954年生まれ。静岡県下田市出身。東京大学経済学部卒業。カナダ・バンクーバー在住。英米史料をもとに開国以降の日米関係を新たな視点から研究。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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